博 士 ( 農 学 ) 陶 艶
学位論文題名
Studies o:n doxin antioxidant 丶一 ・peroxire
inrice(〇り瑠ロsativaL.)
(イネの抗酸化夕ンパク質(ペルオキシレドキシン)に関する研究)
学位論文内容の要旨
イネ は世 界的に重要な作物であり現在までに様々な品種改良が行われてきた.その 栽 培可 能地 域を更に拡大するためには耐乾燥性や耐塩性の付与も視野に入れる必要が あ る. 一般 に乾燥や塩などの環境ストレスは,細胞内の活性酸素を増加させることに よ り, 細胞 にダメージを与えるが,植物は様々な抗酸化システムを有しストレスを緩 和 する 術を 獲得している.環境ストレス下では植物ホルモンの一種であるアブシジン 酸(ABA)が 増 加し ,そ れが 引き 金と なっ てス トレ ス耐 性が 誘導さ れる こと が知 られ て いる . ABAに応答するタンパク質としてイネ培養細胞から単離されたペルオキシレ ドキシン(OsPer,Oryza sativa peroxiredoxin)はグルタチオンを用いて活性酸素を除去 す る能 カを 持つ抗酸化タンパク質である.本研究はイネ芽生えの乾燥ストレスや塩ス ト レス 下で のOsPerの 組織 局在 性な らぴ にその遺伝子(OsPerl,OsPer2)の発現様式に っいて検討を行った.
1.ABAによって誘導される乾燥耐性におけるOsPerの関与 (1)イネ芽生えの乾燥耐性に及ばすABAの影響
様々な齢のイネ芽生えを,送風により急激に乾燥させて3日間放置し(乾燥処理),
再び 水を 与え て培 養し, その 後の 生育の有無から生存率を求めた.播種後2日目の発 芽種 子を 乾燥 させ た場合 の生 存率 は50%以下であり,3日目の種子では全てが枯死し し て し ま った . し か し 乾 燥 処 理 前 に10‑5M ABAに1日間 浸積 する と(ABA処 理) 乾燥 処 理 後 の 生存 率 は 大 幅 に 増 加 し , 播 種 後3日 目 の 種 子 で も90% 以 上 が 生 存し た.
(2)イネ発芽過程におけるOsPerの変動
上 述 のABAによ る乾 燥耐 性の 付与 とOsPerと の関 連性 につ いて 検討し た. 抗OsPer 抗体 を用 いたELISA法に より 種子 及ぴ 芽生 え中 のOsPer含 量を 測定した.イネ種子に 含ま れるOsPer含量 は発 芽の 進行 に伴 い減 少し た.一 方ABA処 理区では対照区と比較 しOsPer含量の減少は穏やかであった.
(3)イネ芽生え中のOsPerの組織局在性
OsPerの組織局在性を抗OsPer抗体を用いて間接螢光抗体法で調べた.未発芽種子で は 茎 頂 部 と糊 粉層 にOsPerの存 在が 認めら れた が, 播種3日 後に はそれ らのOsPerは 消失 した .し かしABA処 理を 行っ た場合は茎頂部のOsPerは残存していた.このOsPer が乾燥処理後の生存率の向上に寄与した可能性がある.
2.イネ培養細胞を用いたOsPerの解析 (1)イネ培養細胞に含まれるOsPer
10‑5M ABAを含 む培 地で 液体 培養 した イネ 培養 細胞 から得 られ たタンパク質画分を 抗OsPer抗体 を用 いた ウェ スタ ンブ ロッ ト法 に供 した 結果,OsPerは異なる等電点(pI 5.9,pI 6.1)をもつ2種のタンパク質から成ることが示唆された.ゲノムの塩基配列か らアミノ酸配列を予想し,pI 6.1を示すタンパク質をOsPerl,pI 5.9をOsPer2と名付け た .OsPerlとOsPer2のア ミノ酸 配列 の相同性は80.5%であった.またオオムギのベル オ キシ レド キシ ンで あるPerlと は86.3%,シロイヌナズナのAtPerlとは68.5%の相同 性 を 示 し た .様 々な生 物種 のベ ルオ キシ レド キシ ンで は抗 酸化 活性 に関 わるPVCTTE 領 域 が 保 存 さ れ て い る が , こ の 領 域 はOsPerlとOsPer2に お い て も 存 在 し た . 次 ぎ にABA(10‑s M)処理 ある いは 塩(0.2M)や 乾燥 スト レス がOsPerの量に どの よ うに 影響 する かを 検討 した. 乾燥 ストレスは培地に0.4Mマニトールを添加すること に よ り 与 え た,3日問 イネ 細胞 を培 養後 ,抗OsPer抗体 を用 いて ウェ スタ ンブロ ット 法 によ るOsPerの 解析 を行 った .OsPerlは無 処理 区に は認め られ なかったが,各処理 後 には 蓄積 が認 めら れた .これ に対 しOsPer2は無処理区にも見られ,各処理による量 的変化は見られなかった
(2)イネ培養細胞におけるOsPer遺伝子の発現解析
上述 の方 法で 様々 なス トレス がOsPer遺伝 子の 発現 に及ば す影 響を調べた,処理前 の培養細胞では〇,sPerlの発現は観察されなかったが,各処理1時間後には発現が観察 さ れた .一 方OsPer2は処 理前の 培養 細胞でも発現しており,各処理間で大きな変化は 見られなかった.
(3)イネのOsPer遺伝子上流域の解析
OsPerlとOsPer2は ゲ ノ ム 上 で 約lkbp離 れて 同 発 現 方 向 に 並 ん で 配 置 してい た,
OsPerlの 上 流1kbpに はABAに 反 応 す る た め のABRE配 列 が , ま たABAと は 独 立 に 環 境 ス ト レ ス に 反 応 す る た め のDRE配 列 が存 在し た. しか しな がらOsPer2上流 には こ れら の配列は見られなかった,またOsPerlと〇.sPer2には種子形成時に特異的発現 する遺伝子に共通に見られる配列が存在した.
(4)レポーター遺伝子を用いた発現解析
ホタ ルとウミシイタケの2種のルシフェラーゼを用いたデュアルアッセイ法により,
OsPびのプロモーター領域の解析を行った.O.やe′´と〇.やピカのそれぞれのプロモータ ー 領域 (上流約lkbp)の下流にホタルのルシフェラーゼ遺伝子を結合したものと,35S プ ロモ ータ ーの 下流 にウ ミシイ タケ のルシフェラーゼを配置したものの両者をベクタ ー に挿 入し,DNAデリバリー法を用いてイネの培養細胞に遺伝子を導入した.その後,
細 胞 を10.5MABAあ る い は0.2MNaclを 含 む液 体 培 地 で 培 養 し た . ま た 弱い乾 燥条 件 を与 える ため に固 体培 地も用 いた .導 入1日後 のウ ミシイ タケ のルシフェラーゼ活 性 に対 する ホタ ルの ルシ フェラ ーゼ 活性から仭PP′遺伝子プロモーターの発現活性を 相対値として求めた.仇,P|ピ′JプロモーターはABAに反応して6倍以上に活性が増加 し ,ま た乾 燥処 理や 塩ス トレス にも 応答して対照区よりも高い活性を示した,しかし 卿Pカ プ ロ モ ータ ー の 活 性 はABA等 に よ り ほと ん ど 変 化 し な か っ た . ま た無処 理区 で は 〇 , や ¢ カ の プ ロ モ ー タ ー 活 性 は 卿P〃 の 活 性 よ り 約5倍 高 か っ た . 本 研 究 か らOsPerは2種 存在 する こと が明 らかと なっ た.OsPerl遺 伝子 はABAや環 ‑ 1271―
境ストレスに応答して発現するが,OsPer2は種子の胚や糊粉層において恒常的に発現 しているものと思われる.現在までに報告された植物のペルオキシレドキシンはゲノ ム中に1コピー存在するものしか知られていないが,イネにはOsPerJとOsPer2の2 コピー存在することが示された.イネは雨季と乾季に適応して生育する植物であり,
他の植物より活性酸素による酸化ストレスの影響を受けやすいため,進化の過程で2 種の遺伝子を獲得したと考えられる.本研究で得られた成果が今後,イネの環境スト レ ス 耐 性 機 構 を 高 め る た め の 育 種 に 寄 与 で き る こ と を 期 待 し た い .
学位論文審査の要旨 主 査 教授 幸田 泰則 副 査 教授 増田 清 副査 助教授 貴島祐治 副 査 講師 藤野 介延
学位論文題名
Studies on doxin antioxidant L .peroxire
inrice(Oryza sativaL.)
(イネの抗酸化夕ンパク質(ベルオキシレドキシン)に関する研究)
本 論 文は4章か ら なり 、 図38、 表2を 含む118頁 の英 文 論 文で あ り、 別 に参 考論文1編が添え られている 。
イネは世界 的に重要な 作物であり 現在までに 様々な品種改良が行われてき た.その 栽培可能地 域を更に拡 大するため には耐乾燥 性や耐塩性の付与も視野 に入れる 必要がある ,一般に乾 燥や塩など の環境スト レスは,細胞内の活性酸 素を増加 させること により,細 胞にダメー ジを与える が,植物は様々な抗酸化 システム を有しス卜 レスを緩和 する術を獲 得している .環境ストレス下では植 物ホ ル モン の 一 種で あ るア ブ シジ ン 酸(ABA)が 増加 し ,そ れ が引 き 金と な っ てストレ ス耐性が誘 導されることが知られている.ABAに応答するタンノくク質 とし て イネ 培 養 細胞 か ら単 離 され た ペル オ キシレドキ シン(OsPer, Oryza sativa peroxiredoxin)はグルタチオンを用いて活性酸素を除去する能カを持つ 抗酸化タ ンパク質で ある,本研 究はイネ芽 生えの乾燥 ストレスや塩ストレス下 でのOsPerの組織局在 性ならびに その遺伝子 (Osfをr工〇むをrめの発現様式に ついて検 討を行った ,
1.ABAによって誘導される乾燥耐性におけるOsPerの関与
3日間発芽させたイネ芽生えを、乾燥させて3日間放置すると(乾燥処理),
全て の 芽生 え が枯 死 した 。 しか し 乾燥 処理前に10.sM ABAを与えると 、90% 以 上 が 生 存 で き る よ う に な っ た .抗OsPer抗体 を 用い たELISA法 に より 種 子 及び 芽 生え 中 のOsPer含 量を 測 定し た ,イネ種子 に含まれるOsPer含量は 発芽 の 進 行 に 伴 い 減 少 し た . 一 方ABA処 理区 で は対 照 区と 比 較 しOsPer含量 の 減 少は 穏 やかであっ た.OsPerの 組織局在性 を間接螢光 抗体法で調 べた.未発 芽 種子 で は茎 頂 部と 糊 粉層 にOsPerの 存 在が認めら れたが,播 種3日 後にはそれ ら のOsPerは 消 失 し た . し か しABA処 理 を 行 っ た 場 合 は 茎 頂 部のOsPerは残 ー1273ー
存し ていた.こ の残存したOsPerがイネの耐乾燥性向上に寄与した.
2.イネ培養細胞を用いた′OsPerの解析
イネ培養細胞を10・sM ABAを含む培地で培養し、得られたタンノくク質画分を 抗OsPer抗体 を 用い た ウェ ス タン ブ ロッ ト 法に供した 結果,OsPerは異なる等 電 点(pI 5.9,pI 6.1)を もつ2種 のタンパク 質から成る ことが判明した.グノ ム の 塩 基 配 列 か ら ア ミ ノ 酸 配 列 を 予想 し , それ ぞ れをOsPerlお よ びOsPer2 と 名 付け た .OsPerlとOsPer2のア ミ ノ酸 配列 の相同性は80.5% であった. ま た 他 の 植 物 由 来 の ペ ル オ キ シ レ ド キ シ ン と も 高 い 相 同 性 を 示 し た . ABA、NaClお よ び 浸 透 ス ト レ ス に よ る 乾 燥 を 与 え る た め のmannitolをそ れ ぞ れ含 む 培地でイネ 細胞を培養 後,抗OsPer抗体を用い てウェスタ ンブロツ ト 法 によ るOsPerの 解 析を 行 った .OsPerlは 無処 理 区 には 認 めら れ なか った が , 各処 理 後に は 蓄積 が 認 めら れ た. こ れに 対 しOsPerは 恒常 的 に存 在 し、
処 理による量 的変化は見 られなかっ た.それら の遺伝子の発現量にも同様の傾 向が認められ、〇むをrJは各処理による発現誘導が観察されたが、〇sBヨ餾は恒 常的に発現していた.
〇 や 台rJのプ ロ モー タ ー領 域 に はABAに 反 応す るABRE配列 と 環境 ス トレ ス に 反応 す るDRE配列 が 存在 し た. し かし ながら〇9凡r2上流 にはこれら の配 列は見られなかった.デュアルアジセイ法を用いて〇 やむのプロモーター領域 の 活 性解 析 を行 っ た. 〇 む を釘 プ ロモ ー ターはABAに反応して6倍以 上に活性 が 増 加し , また 乾 燥処 理 や 塩ス ト レス に も応答して 活性が増加 した.しか し 仇Pe口 プ ロ モー タ ーの 活 性はABA等 によ り ほ とん ど 変化 し なか っ た, ま た無 処 理 区で は 〇s凡 口 のプ ロ モー タ ー活 性 は仇nrJの 活 性よ り 約5倍 高か っ た,
本 研究 か らイ ネ のペ ル オ キシ レ ドキ シ ン(OsPer)は2種存 在 する ことが明 らか と なっ た ,OsPerl遺伝 子 はABAや環 境 スト レ スに 応 答し て 発現 するが,
OsPel2は 種子の胚や 糊粉層にお いて恒常的 に発現しているものと思われる,現 在ま でに報告 された植物 のペルオキ シレドキシ ンはゲノム 中に1コ ピー存在す る も の し か 知 ら れ て い な い が , イ ネ に はOsPerJとOsPer2の2コ ピ ー存 在 す ることが示 された,イ ネは雨季と 乾季に適応 して生育する植物であり,他の植 物よりも活 性酸素によ る酸化スト レスの影響 を受けやすいため,進化の過程で ニっの遺伝 子を獲得し たと考えら れる.本研 究で得られた成果は今後,イネの 環境 ス トレ ス 耐性 機 構を 高 める た めの育種 に寄与でき るものと期 待される.
よ って 審 査員 ー 同は 、 陶 艶が 博 士(農学) の学位を受 けるに十分 な資格を 有するもの と認めた。
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