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(1)

ジェンダーサミット10(GS10)で議論した内 容は、これまでのジェンダー平等及び男女共同 参画の主たる議論とは異なる観点があった。こ こでの論点は、以下の三つにまとめることがで きる。

一つ目は、アジアの特徴を前面に出して議論 したことである。日本を中心にアジア地域での 問題と特徴に焦点を当てた会議となるように企 画した。これまでわが国の男女共同参画及び女 性活躍に関する議論は、欧米が世界を先導し、

ジェンダーサミット10での 三つの論点

1

これに答えるあるいは追随する形で進められて きた。もちろん、日本の歴史において多くの女 性たちの献身的活動には目を見張るものがあり、

これが基本となっていることは言うまでもない。

図1に示した国内外の男女共同参画及び女性活 躍に関する動向を見ると、国内の動向の多くが 国際的動向に連動していることがわかる。国際 的動向を先導してきたのは主に欧米諸国であり、

欧米の動向が世界に展開する形で男女共同参画 は進められてきた。これは男女共同参画に限定 したものではなく、科学においても同様の傾向 が見られる。しかし、世界中において社会が多 様化し、複雑化する中、欧米の論理だけで世界

渡辺美代子

社会とすべての人々の幸福に不可欠

─ジェンダーサミット10総括としての東京宣言とこれからの行動計画

図1 国際及び国内における男女共同参画の歴史1

1945年

1946年 1948年 1953年

1945年 女性参政権 1947年 労働基準法 制定(男女同一賃金、

女子保護規定明確 化)

1956年 1960年

1960年 1963年

1958年 1960年

1967年

1972年

1965年 1968年 1974年 労働省が国 際婦人年国内連絡会 議開催

1975年

1979年 1980年

1981年

1980年国連女子差別 撤廃条約に著名 1981年婦人関係国内 行動計画目標決定 1983年 1984年 国籍法(父 系優先⇒父母両系主 義)改正、男女雇用機 会均等法制定

1985年

1990年

1995年

1987年 2000年に向け新 国内行動計画を決定、閣議 報告1991年 2000年に向けて の新国内行動計画決定 1993年

1996年 男女共同参画 2000年プラン(国内行動計 画)決定、閣議報告 1997年 男女雇用機会均等 法改正 採用,配属,昇進の 差別が努力義務⇒禁止

1999年

ポジティブ アクションの概念導入 2000年

2001年

2005年

2010年 ポジティブ アクションの5年 2012年 2013年UN Women 日本協会開始 2015年

UN Women 日本事務所開設 2016年 女性活躍 推進法施行 ポジ ティブアクション 実行 2011年 2015年 2000年

国際動向

下線斜体:国内動向 からの影響国際動向

(2)

を統一することが難しいことは明白になりつつ ある。むしろ、多様で複雑な社会を相互に尊重 するアジアの発想を世界に発信し、それを共有 し、他地域の考えと融合することで新たな道が 開けることが期待される。特に豊かな自然を享 受し、他者を尊重する日本だからこそ、その発 信源になることができると考えた。

二つ目の論点は、ジェンダー平等の再定義 である。これまで女性や女子に重点が置かれて きた男女共同参画から男性や男子の問題も含め た課題として捉え、総合的な視点を持ったこと である。従来、「家庭(内)対社会(外)」、「男 性対女性」、「男子対女子」、「先進国対開発途上 国」、「勝者対敗者」という二項対立で物事を考 え議論することが一般的であった。また、男女 共同参画については家庭に男性の関与が少な く、家庭外の社会に女性の関与が少ないという 現状をどう変えていくかという議論が多くなさ れた。これは、家庭外で筋力を必要とする社会 的活動の主体としての男性と、家庭内で必ずし も筋力を必要とせずまた出産の主体として子育 てに責任を持ってきた女性の役割分担の一つの 結果と考えることができる。この問題は、わが 国を含め世界中で今なお重要な課題の一つで あり、国連の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)でも5番目の目標と して掲げられている。しかし、時代と共に家庭 内外での労働形態が変化し、必ずしも従来の性 的役割分担を維持する必要がなくなってきた。

そうなった今だからこそ、ジェンダーを科学技 術の重要な要因と捉えると共に、文化や地域性

等様々な要素と関連づけて考えること、そして すべての人が直接関わるジェンダーの問題を自 分の問題として捉えることが重視される。GS10 では、女性と女子に焦点を当てた従来からの ジェンダー平等をジェンダー平等1.0(Gender Equality 1.0)と定義し、多様性の観点を重視 したすべての人のジェンダーについてはジェン ダー平等2.0(Gender Equality 2.0)と定義した。

三つ目の論点は、多様な関与者が共に企画し、

運営する会議とし、これからの社会に必要とさ れている「共創」を試みたことである。この「共 創」の意味は、より多くの異なる立場の関係者 が共に考えることにより新しい発想を得て、内 容を充実させることであり、またその内容を様々 な社会に展開する際に直接関係者が自分の属す る集団に展開できることでもある。今回のGS10 では、主催と共催で三つの機関、後援が23機関、

パートナーが9機関、協賛が79機関であり、合 計114の機関が協力して会議を作り上げ、運営 にあたった。多くの大学、府省、企業の論理に 加え、日本、アジア、欧米、アフリカ、南米な ど、多様な地域からの意見を議論に反映させた。

立場が異なる人たちの意見は必ずしも一致する ものではない中、共通の問題意識を探し、共に 未来をつくることを求めた。日本とアジアにお ける複雑な状況を重視しながらジェンダーの問 題を考えることに、世界中から多くの賛同を得 ることができた。

渡辺美代子(わたなべ みよこ)

日本学術会議第三部会員・副会長

科学技術振興機構副理事・ダイバーシティ推 進室長・科学コミュニケ-ションセンター長 専門 総合工学

(3)

国連サミットが2015年9月に開かれ、世界の 国連加盟国193か国が「アジェンダ2030」を採 択した。これは、より良き将来を実現するため に2030年までに、すべての人の地球を守るた めの計画で、この計画は「持続可能な開発目標

(Sustainable Development Goals: SDGs)」 と し て2016年1月より開始された。SDGsは、17の 目標と169のターゲットに全世界が取り組むこ とによって『誰一人取り残されない』世界を実 現しようという挑戦である。これより前に、国 連で設定された、2015年までの達成に向けたミ レ ニ ア ム 開 発 目 標(Millennium Development Goals: MDGs)では、その対象を開発途上国、

特に最貧国としていた。しかし、現在の世界に ある課題はより複雑性が増し、広く問題の根本 的原因をすべての人々が関与しながら取り組む 必要があることが明確となった。先進国が開発 途上国のために貢献するという構図には限界が あり、世界のすべての国と地域のためにすべて の人々が貢献するという構図が必要となってき た。従来の欧米中心の考え方を世界中に展開す るという方法ではなく、すべての国と地域のす べての人のために、すべての人が自分の地域の 問題を考え発信し、共に解決策を生み出すとい う方法が必要になってきたと言える。この考え 方がジェンダー平等においても必要となり、女性 や女子だけのためのジェンダー平等ではなく、す べての人のためのジェンダーの課題にすべての 人が取り組むことが必要となってきたのである。

GS東京宣言

2

これらの考え方をもとに、GS10の議論のまと

めとして、「ジェンダーサミット東京宣言:架 け橋(BRIDGE)」を会議の最後に参加者全員で 共有し、世界に発信し、これを今後関係者が責 任を持って展開することとした。「BRIDGE」は

「多様性とジェンダー平等を通してより良い研究 とイノベーションを実現する(Better Research and Innovation through Diversity and Gender Equality)」という英文の頭文字をとったもので あり、同時に英語の「Bridge」が示す「架け橋」

を意味している。

東京宣言の英語原文を図2に示すが、その内 容は以下の通りである。

1)ジェンダー平等は持続可能な社会と人々の 幸福に不可欠な要素であり、科学、技術及び イノベーションが人々の生活をどれくらい良 いものにできるか、その質を左右する。それ は、男女間の機会均等に加え、ジェンダーの 科学的理解とジェンダーの差違が科学技術の 主要因と捉えられ分析されてこそ社会にイノ ベーションをもたらし得る。【ジェンダーと 科学技術イノベーションをつなぐ】

B R I D G E

Bridge Gender and STI

Bridge SDGs

Bridge all People

図2 ジェンダーサミット東京宣言:架け橋の英語原文

(4)

3)SDGsに掲げるジェンダー平等は、社会にお ける多様性、とりわけ、女性や女子、男性や 男子、民族や人種、文化等が果たす意味や役 割を社会がどのように認識して定義している か、その関係性を考慮して進める必要があ る。それはジェンダー平等2.0として、産業 界を含むすべての関係者にとって自らが取り 組む持続的課題のひとつとすべきである。

【すべての人をつなぐ】

ジェンダーサミット東京宣言はこれからより 多くの人々と議論し、その内容を深め、社会に 深く浸透していくことを目指し、実践していく 必要がある。そのために、今後考えられる行動 計画を以下に記す。

まずは、「ジェンダーサミット東京宣言:架け 橋(BRIDGE)」を基点として、これがどのよう に実践されていくか継続的に確認する必要があ る。そのために、科学技術振興機構と日本学術 会議が主体となり、GS10のフォローアップ会議 を毎年5月末に日本で開催することを企画して いる。これまで7つのワーキンググループを中

これからの行動計画

3

毎年フォローアップ会議前にワークショップを 開催し、フォローアップ会議に向けた議論を実 施する予定である。

GS10では、ジェンダー平等が特に工学分野及 び産業界での進展が困難であることが一つの課 題であると認識し、これを取り上げ、その打開 策も議論した。科学技術の成果を産業化する際 に鍵となる特許の経済的価値は、男性だけのチー ムより男女混合チームの方が高いという結果2 が示された。これは男性チームあるいは女性チー ムより男女混合チームの論文がより多くの研究 者に活用されているというドイツの学際研究結 果3と同じ傾向を示している。このような結果を 受け、日本工学アカデミーはジェンダー委員会 を新たに設置し、本委員会が中心となって工学 分野のジェンダー平等を推進することとした。

また、わが国の研究に女性研究者が参加しに くい状況の原因を把握し、その打開策を検討し、

研究費配分に反映させることを科学技術振興機 構が中心となって検討することを計画している。

この問題は、研究評価にも密接に関係している と考えられ、ワーキンググループと様々な評価 実施機関が連携して評価の改革につなげていく ことも計画する。

(5)

参考文献

1)内閣府男女共同参画局、「男女共同参画社会基本法制定のあ ゆみ」、http://www.gender.go.jp/about_danjo/law/kihon/index.

html

2) Y. Mochi, “Greater Female Presence Means Better Corporate Performance ~ How Patents Reveal the Contribution of Diversity to Economic Value~ ”,Gender Summit 10 Program

& Abstracts, p.45 (2017).

3) Elsevier, “Mapping Gender in the German Research Arena”, p.23-24 (2015).

4) M. O. Watanabe and E. Pollitzer, “Gender Summit 10: Advancing Scientific Endeavors for Sustainable Development”, http://

sdg.iisd.org/commentary/guest-articles/gender-summit-10- advancing-scientific-endeavors-for-sustainable-development/

さらに、GS10では研究評価の改善だけでなく、

ジェンダーに関する様々な改善策が提言された。

これらについては、単独で進めるのでなく、同 様の提言との連携も図りながら改善が実行でき るように進める。

国内の普及推進だけではなく、国際的ネット ワークとの連携も必要である。GSの国際ネッ トワークは世界各地域のジェンダー及び科学技 術関連機関とつながっている。Gender InSITE

(Gender in science, innovation, technology and engineering)という国際的ネットワークはGS とも連携しているが、アジアを代表してわが国 の強い関与が期待されており、GS10展開の一 環としてこのネットワークを活用する予定で ある。現在、日本学術会議を通して国際科学 会議(The International Council for Science:

ICSU)やアジア科学アカデミー・科学協会連合

(The Association of Academies and Societies of Sciences in Asia: AASSA)と連携し、東京宣言 の共有も進めている。今年10月に始まった日本 学術会議第24期では、男女共同参画分科会を中 心に東京宣言の共有とさらなる国際展開を予定 している。

以上の実行計画は、すべて国連SDGsに関与す るものであり、実行されれば波及効果は計り知 れないと考えられる。様々な会議での発信、議論、

共有だけでなく、WEBサイトを使用して発信し ていくことも重要である。既に、持続可能な開 発のための国際研究所(International Institute for Sustainable Development: IISD)が運営 するSDG KNOWLEDGE HUBでは、“Gender

Summit 10: Advancing Scientific Endeavors for Sustainable Development”という題目で東京宣 言の内容が掲載されている4

今後、本質的なジェンダー平等をより多くの 人たちと共有して実現し、世界の人々の幸せに つなげていきたい。

参照

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