博 士 ( 医 学 ) 蒲 池 浩 文
学 位 論 文 題 名
リ コ ン ビ ナ ン ト ヒ ト 肝 細 胞 増 殖 因 子 の ラ ッ ト 初 代 培 養 肝 細 胞 機 能 に 及 ぽ す 効 果
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
肝 再 生 を 促 す 液 性 因 子 の な か で 肝 細 胞 増 殖 因 子 (Hepatocyte Growth Factor 以 下HGF)は最 も 強 カ な肝 再 生 促進 作 用 を有 し 、 その 構 造 、分 子 生 物学 的 作 用機 序が 解明 されつ っある。 一方、 リコンピ ナントヒ トHGF (rhHGF)が生産され、HGFの生理学的 機能 の研究 が進めら れてお り、HGFは肝再生 のみな らず、他 の上皮 系細胞の 増殖を 促進 し、 ある種 の癌細胞 の増殖 を抑制す ることが 判明し ている。また、細胞運動促進作用、
器官 形成作 用など多 様な機 能も有す ることが 明らか になった 。
しか しHGFの 肝 細 胞機 能 に 対す る 影 響と し て は、 肝細胞 が特異 的に産生 する蛋 白の ひ と つで あ る アル プ ミ ンの合 成能促進 作用が 解明され ている のみであ り、他の 肝細胞 代謝 機能に ついての 検討は ない。そ こで今回 、ラツ 卜初代培 養肝細 胞を用い 、HGFが肝 細胞 の糖新 生能、尿 素合成 能に及ば す効果、 ならび に培養形 態、細 胞内ATP量の変 化を 検討 した。
材料と方法
1)ラット肝細胞の分離、精製
体重200〜250g (6〜7週齢) の雄性SpragueーDawleyラ ットを用いた。ネンプタール麻 酔下に 開腹、 門脈にカ ニュレ ーションし、in situで37℃、0.5ruNI EGTA添加Ca2+free HANKS−HEPES bufferで脱血し、0.05%コラゲナーゼ溶液にて濯流した。肝臓を摘出後、
十分に 細切し 、濾過後 得られ た粗分散 細胞浮遊 液に、50 Xgの遠 心操作 を4〜5回繰 り返 し 、単 離 肝 実質 細 胞 を精 製 した。ト リパンプ ルー排 泄試験よ り、生 存率85%以 上の肝 細胞を実験に用いた。
2)肝細胞培養方法
単離さ れた肝 実質細胞 は、10% ウシ胎児血清、インスリン(10‑8M)、デキサメサゾン
(10‑。M)、を加えたWilliams E(WE)培地に分散し、O.03%I型コラーゲンでコーテイン グ した プ ラ ステ イ ク ディ シ ュ 上 に2X l05 cells/0.2ml/cmzの 細胞密度 で播種 した。
37℃ 、20%02、5%C02の 条 件 下に2時 間培 養 し 、肝 細 胞が接 着後、培 地をイン スリン
(10‑。M)、デキサメサゾン(10‑。M)、グルカゴン(10‑8M)を含み、増殖因子として、それ
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ぞれ、thHGFを1、5、10ng/ml、ヒト上皮性増殖因子(hEGF) 10ng/ml添加したWE培地に交 換 し た 。 以 上 の 培 地 は 培 養1、3日 後 に 交 換 し 、 培 養 を5日 聞 継 続 し た 。 増殖因子濃度の条件で以 下の4群に分けた。
Iヨ≠: HGFlOng/ml添加ヨ≠(n 7) n君≠:HGF5ng/ml添加君≠(n 7) III君≠:HGFlng/ml添加ヨ≠(n 7) 1群:EGFlOng/ml添加群(n 7)
検討項目
1) 培養 肝細 胞の 形態 学的 変化 :各 群の 培養 肝細 胞の 細胞 形 態の 維持 、脱落細胞の有 無等を位相差頭 微鏡下.にて連日、観察、比較した。
2) 総蛋 白質 量: 各デ ィシ ュに1N水 酸化 ナ卜 リウ ムをO.5ml加え 、細 胞を溶解し総蛋 白質量を測定し た。
3) 糖新 生能 :Hanks液に2mMア ラニ ンと2utld乳酸を 添加した溶液中で90分間肝細胞を 培養し、肝細胞 で合成された糖量を測定した。
4) 尿素 合成 能:Hanks液 に5mM塩化 ナト リウ ムを 添加 した 溶 液中 で90分間肝細胞を培 養し、肝細胞で 合成された尿素量を測定した。
5) 細胞 内ATP量 :各 ディ シュ に3%過 塩素 酸をIml加え 、セ ル スク レ― パーにて回収、
ポルテックス処 理後、細胞内ATP量を測定し た。
2、 3、4、5) は 培 養 1、 2、3、5日 後 に 測 定 し 、3、4、5) の 結 果 は 単 位 蛋白質量あたり の量で示した。
実 験 の 結 果 はmean士SDで 表 し 、 検 定 は 、 各群 間の 比較 にはone―factor ANOVAと Scheffe s―F.Pairedtーtestを、群内の比較にはWilcoxon Singed Rank testを用いて 行なった。危険 率5%以下(p<0.05)を有意差ありと判定した。
結 果
1) 培 養 肝 細 胞 の 形 態 学 的 変 化 : 各 群 とも 培 養3日後 まで は安 定し た単 層 を形 成し た が 、5日 後に は細 胞の 変性 、脱 落等 を認 めた 。そ の傾 向はI、H、m群 に顕著であった。
2) 総 蛋 白 質量 : 培養1日 後にI、H、m群 はO.376土0.092,O.354土O.115,O.367 土0.102 (mg/dish)で3日後まで維持されたが、5日後にはO.238土O.057,0.235土0.065, O.238土0.061と 有意に(P<O.05)に低下した。またW群は1日後に0.412土O.078、5日後 に0.377土0.092と5日間 維持 され 、I、u、m群よ り高 い傾 向を 示し 、5日 後に は有 意 に高値を示した。
3)糖 新 生能 :培養1日後にI、II、m群は32.621土4.162,33.822土10.329,31.968 土7.321(mg/90min/mg protein)であったが、1V群は17.95土4.95であり、W群に比ペ 有 意に 高値 を示 した。2日後にはI、矼、m、1V群は11.122土3.801,11.363士4.57, 11. 519土 6. 429, 9. 15土 2. 413と 1日 後 に 比 ペ 有 意 に 低 値 を 示 し た 。 4)尿 素 合成 能:IV群は培養1日後に6.523土3.735 (ng/90min/mg proteln)、5日後に 5.784土1.307と培 養中 維持 され た 。I、n、m群 は1日 後に7.655土2.763,7.876土
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5.705,7.359土3.549で あったが、5日後に3.595土1.116,4.682土2.981,4.603土3.173 と有意に低下した。
5) 細 胞 内ATP量 :W群 は 培 養1日 後 に2631. 75土797.3(CPM/mg protein) 、2、5日 後に は3218. 57土1216. 23,3409. 38土1362. 06と1日後 に比 ベ 有意 に上昇した。I、II、皿 群は1日後に2622. 43土913. 42,2740. 71土938. 25,2656. 57土875. 17であった が、5日後に 1773. 71土449. 88,1966. 86土443. 33,1986. 43土486. 26と有意に低下した。また1V群の5日 後に比較して有意に低値を 示した。
考 察
EGFは 肝 細 胞 増 殖 作 用 の ほ か 、 糖 新 生 、 グ リ コ ー ゲ ン 合 成 の 促 進 、 ア ミ ノ 酸 代 謝 な ど 肝 代 謝 に も 関 与 す る と さ れ て い る 。HGFは 尿 素 合 成 能 に 影 響 を 与 え な か っ た が 、 培 養 早 期 に 糖 新 生 を 促 進 す る こ と が 判 明 し 、 そ の 作 用 は 濃 度 に 影 響 さ れ な か っ た 。 EGFの 糖 新 生 促 進 作 用 は 細 胞 内Ca2+上 昇 に よ る と さ れ る が 、HGFに も 細 胞 内Caz+流 入 作 用 が 報 告 さ れ て お り 、 同 様 の 作 用 機 序 が 関 与 し て い る こ と が 推 察 さ れ た 。 HGFに は 細 胞 運 動 促 進 作 用 が あ る が 、 今 回 の 検 討 で も 総 蛋 白 質 量 は 、EGF群 に 比 ペ 培 養 早 期 か ら 低 値 を 示 す 傾 向 が あ り 、HGFは 培 養 肝 細 胞 の 接 着 に は 抑 制 的 に 働 く と 考 え ら れ た 。 ま た 、 培 養5日 後 に はHGF群 の 総 蛋 白 質 量 はEGFに 比 ペ 有 意 に 低 値 を 示 し 、 位 相 差 頭 微 鏡 で の 観 察 で も HGF群 で は 細 胞 の 変 性 、 脱 落 が 著 明 で あ っ た 。 こ れ と 時 期 を 同 じ く し て 、HGF群 で は 細 胞 内ATP量 の 減 少 を 認 め た 。 こ れ は 、HGFの 長 期 暴 露 は 、 肝 細 胞 のATPの 産 生 と 消 費 の 均 衡 を 崩 し 、ATPの 減 少 と 細 胞 死 を 誘 発 す る 可 能 性 を 示 唆 し て い る と 考 え ら れ た 。 従 っ て 、 細 胞 長 期 培 養 で はHGFは 有 利 に 作 用 し な い と 考 え ら れ た 。
著 者 ら は 培 養 肝 細 胞 を 利 用 し た 人 工 肝 臓 を 開 発 、 研 究 し て い る が 、 劇 症 肝 炎 患 者 の 血 清HGF値 は 高 値 を 示 す こ と が 多 く 、 培 養 肝 細 胞 の 維 持 に つ い て 臨 床 応 用 上 検 討 が 必 要 で あ る と 考 え ら れ た 。
結 語
HGF存 在 下 で 、 ラ ッ ト 肝 細 胞 培 養 を 行 い 、 そ の 機 能 を 検 討 し た 結 果 以 下 の こ と が 判 明 し た 。
1: 糖 新 生 能 は 培 養 早 期 に 促 進 さ れ 、HGF濃 度 に は 影 響 さ れ な か っ た 。 2: 尿 素 合 成 能 はHGFに よ り 促 進 さ れ な か っ た 。
3:HGFは 細 胞 接 着 を 若 干 抑 制 し 、 長 期 培 養 で 培 養 肝 細 胞 の 死 と 、 そ れ に 時 期 を 同 じ く す る 細 胞 内ATP量 の 低 下 が 観 察 さ れ た 。
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学位論文審査の要旨
主査 教授 内野純一 副査 教授 安田慶秀 副査 教授 加藤紘之
学 位 論 文 題 名