博 士 ( 薬 学 ) 山 口 十 四文
学 位論 文題 名
DNA ポリ メラ ーゼ 類に対する光反応性基質 アナログの合成とその利用
学位論文内容の要旨
序諭
真 核 細 胞DNAポ リ メ ラ ー ゼ(Polと 略 す ) は細 胞のDNA複製 を直 接担 う 酵素 であ り、5 分 子種 ( 、p、 ア、 づお よぴc) が知 られ て いる 。こ れら のう ち 、X線 結 晶解 析によっ てPoip酵 素分 子の サプ ドメ イ ン構 造や 活性 中 心の 構造 など が明 ら かに され つつ あるU。 し かし 、 他のPol各分 子種 に関 する情報は無く、 解析可能な結晶が得られない ためであろ うと考 えられる。
構造 に 関す る情 報を 得る た めの 生化 学的 な 手段 とし て、光親和性標識法が 挙げられ、
Pol各 分子 種に 選 択的 な光 親和 性標識試薬の創出 を企画した。一方、レトロウ イルスHIV‑
1由 来 の 逆 転 写 酵 素 (以 下RTと略 す )は 構造 解析2) の進 んで い る酵 素で あり 、Poipと 構造上の共通点を有すること、2 ,3 .ジデオキシヌクレオチドアナログに対する阻害剤感 受 性がPolアと類似し ているなどの点で、真核細胞Polのモデルとなり得ると考 えられる。
本 論文 では、HIV‑1 RTおよひrPol各分子種に対す る光親和性標識試薬の開発を 目指して検 討した 結果について述べる。
1HIV−1RTお よび真核細胞Polに対する選 択的阻害剤の検索
光親和性標 識の効率はりガンド・標的 タンバク質の親和性に大きく 依存すると考えられ る 。 光活 性 基が アリ ル(aryl)基 を有 する こと を 考慮 して 、ア リル 基 を分 子内 に有 す る dTTPアナログ の分子設計、合成およぴ評 価を行った。
HIV‑1 RTの 阻 害 剤 と し て 知ら れる2 ,3 , ジデ オ キシ チミ ジン5 .ト りり ん 酸 (ddTTP)の5位メ チ ル基 を疎 水性 かつ 嵩 だかいスチリ ル基に置換した化合物2 ,3 .ジ デ オキ シ‑E‑5 ‑ス チリ ルウ リジ ン5 . トりりん酸(StddUTP)を合成し、HIV‑1 RTに対す る 阻害 効果 を調 べ たと ころ 、HIV‑1 RTおよびPolア に対してddTTPに匹敵する強 い阻害効 果 を示 した 。StddUTPはHIV‑l RTの 光親 和性 標 識試 薬の ため のり ード化合物と して充分 な性質を有す ることが示された。
2.HIV‐1RTに対する光親和性標識試薬 の合成とその利用
StddUTPを母 核と して 、 その スチ リル 基に ト リフ ルオ ロメ チ ルジアジリニル 基が導入 さ れ た 化 合 物(TDSddUTP)を 合 成 し た 。TDSddUTPのHIV*1 RTに 対 す る 阻 害 定 数 (l) は0.075戸MとAZT.TPやddTTPと同 様に 小 さい 値を 示し 、 期待 通り の親 和性 を 有 することが 確認された。
これ らの 化合 物 を用 いてHIv.lRTの 光親和性標 識実験を行った。方法は、96Pg/mlボ リA/ オリ ゴ(dT冫l6(5:1、w/w)、O.025mMま たは4.OmMMgC12`40ngH【V.lRTお よ ぴO.05PMTDSddUTPを 含 む ト リ ス 緩 衝 液 中 、25℃ で5分ま た は10分間 イン キュ ベ ー ションの後 、0℃で近紫外線を照射して 光標識反応を行い、反応生成 物をSDS.ポリアクリ ル アミ ドゲ ル電 気 泳動 によ って 分 析す ることによ り行った。この光反応時、MC12濃度に 依存して異 なる2種類の生成物を与えた 。
(1)HIV.lRTのヌクレオチド基質結合 部位の標識
0.025 mM MgCI2存在下 、1ア‑32PlTDSddUTPで光標 識反応 を行う と、66 kDaの位置 に放 射 能 が 検 出 さ れ た 。 こ の 反 応 はdTTPの 添 加 に より 阻 害 さ れた 。 こ れ は、TDSddUTPが HIV‑1RTの ヌ ク レオ チ ド 基 質結 合 部位 に反応 したこ とを示 唆し、HIV‑1 RTは51 kDaお よ び ボ リ メラ ーゼ活 性を付 随する66 kDa(各々p51およぴp61)の サプュニ ットか ら構成 さ れ るとぃ う知見 と矛盾 がなかっ た。
(2)HIV‑1RTの プライ マー結 合部位の 標識
4 mM MgC12存在下 、TDSddUTPは 酵素の 基質と なって プライ マー3. 末端に取り込まれ、
生 成 し た 光反 応 性 プ ライ マ ー が 近紫 外 線 照 射に よ っ て 酵素 と反応 した。 反応生 成物を DEAEセ ル ロ ー ス カ ラ ム クロ マ ト グ ラフ イ ー で 分析 し た と ころ 、 先 にRT活 性 を 有す る p66/p51画分 、次いで 活性の ほとん どない76kDa生成物/p51画分が溶出されたことから、
p66サ プ ユ ニ ッ ト に 光 標 識 反 応 が 起 こ り78kDaの 生 成 物 を 与 え る こ と が 示 さ れ た 。 以 上(2)と 同 様 の 実験 をPolpに対 して行 ったと ころ、 光標識 反応は ほとんど 進行し な か っ た の で 、TDSddUTPは ポ リメ ラ ー ゼ 分子 種 選 択 性を 示 す と 考え ら れ る 。一 方 、 StddUTPがPolア に 対し て 強 カ な阻 害 剤 で あっ た こ と を考 える と、本 酵素へ のTDSddUTP の 応用は 興味深 い。
3. 光 反 応 性 オ リ ゴ デ オ キ シ リ ボ ヌ ク レ オ チ ド (ODN) の 合 成 と そ の 利 用 鋳 型存在下 におけ る光反 応性プ ライマ ーアナログによる方法は、Polを含めて核酸と相 互作用をする様々なタンバク質の光親和´I生楞1識に用いることが可能であると考えられる。
著者は、光反応性ODNの直接的合成法の開発を検討した。
まず、2 ,デオキシ‑E‑5 ‑スチリルウリジンのスチリル基バラ位にトリフルオロジアジ リ ニ ル 基を 有 す る 化合 物(TDSdU)を 合成 し 、 ホ スホ ロ ア ミダイ ト試薬 へと誘 導した。
こ れ を用 いてODNの 任意の 残基を 光反応 性ヌク レオチド で置換 するこ とを検 討した 。こ の試薬を用いて光反応性オリゴ(dT)lsアナログ【5 ・d(TTT TTT TTT TTT TTD)‑3 、dTi D (Dは光 反 応 性 残基 を 表 す )の 合 成 を 行っ た と こ ろ、DNA合成 機を用い た常法 による 自 動 合 成が 可能で あり、 十分に実 用的で あるこ とが判 明した 。TDSdUは相 補鎖と のアニ ー リ ン グ条 件下で も十分 な安定陸 を示し 、これ を含むODNは、二 本鎖核 酸とし て様々 な実 験に使用できると考えられる。
ポ リ(A)/dT14Dに よ る ポ リ メ ラ ー ゼ pお よ びHIV‑1 RTの 光 親 和 性 標 識 ボリ(A)を鋳型 としてdT14DによるPoip (p40)の 光親和 陸標識 を行う と45 kDaの位置 に反 応生成物 が得ら れた。HIV‑1 RTに対 して同 様の実 験を行 うと、76 kDaの主生成物が 認め られた。 この76 kDaの生成 物を分 離し、 トリプ シン消化 後のべ プチド マッブバター ン を未 反 応 のp66のバタ ーンと比 較する と、p66のアミノ 酸配列 のN末端 より224−238番 アミ 丿酸残基 の領域 が反応 を受け ている ことが 示され た。こ の結果は 、この領域が活性 中心 の近傍に 存在す ること が示さ れてお り2)、dT14Dがプラ イマー として 機能したこと を示 唆する。
まと め
以 上のよ うに、 光反応 性dNTPアナ ログを 用いる とPol分子 種選択 的な、 一方、 光反応 性ODNを用い るとPol分 子種非 選択的 な光親 和性標識 の可能 性を示 した。今後、光反応基 の導 入位置 等の検 討によ る至適 化を行 うこと によっ て、標識 効率お よび反応位置選択性 のさ らに優 れた試 薬が得 られる であろ う。こ れらの試薬は、Pol各分子種と基質の相互作 用や 構造研 究に有 用であ ると期 待され る。
1. Pelletier, H. et al. (1994) Science, 264, 1891‑1903.
2. Jacobo‑Molina, A.et al (199 3) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 9 0, 63 20‑6 3 24
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
松 田 彰 大 塚 栄 子 周 東 智 井 上 英 夫
゛ 学位 論 文 題名
DNA ポ リ メ ラ ーゼ 類に対す る光反 応性基質 ア ナ ロ グ の 合 成 と そ の 利 用
真 核 細 胞DNAポ リ メ ラ ー ゼ(Polと 略 す ) は 細 胞 のDNA複 製 を 直 接 担 う 酵 素 で あ り 、5分 子 種 (a、 ロ 、 ア 、6お よ びE) が 知 ら れ て い る 。 こ れ ら の う ち 、X線 結 晶 解 析 に よ っ てPolロ 酵 素 分 子 の サ ブ ド メ イ ン 構 造 や 活 性 中 心 の 構 造 な ど が 明 ら か に さ れ つ っ あ る 。 一 方 、 レ ト 口 ウ イ ル スHIV−1由 来 の 逆 転 写 酵 素(RT)は 構 造 解 析 が 進 ん で い る 酵 素 で あ り 、Polロ と 構 造 上 の 共 通点 を有 する こと 、2. ,3.− ジデ オキ シヌ ク レオ チド アナ 口グ に対する阻害 剤 感 受 性 がPolア と 類 似 し て い る な ど の 点 で 、 真 核 細 胞Polの モ デ ル と な り 得 る と 考 え ら れ る 。 本 研 究 で は 、HIV―1RTお よ びPol各 分 子 種 に 対 す る 光 親 和 性標 識試 薬の 開発 を目 指し て検 討し た。
1. I‑nv− 1RTお よ び 真 核 細 胞 Polこ 対 す る 選 択 的 阻 害 剤 の 検 索 光 親 和 性 標 識 の 効 率 は り ガ ン ド 一 標 的 夕 ン パ ク 質 の 親 和 性 に 大 き く 依 存 す る 。 光 活 性 基 が ア リ ル (aryl)基 を 有 す る こ と を 考 慮 し て 、 ア リ ル 基 を 分 子 内 に 有 す る dTTPア ナ ロ グ の 分 子 設 計 、 合 成 お よ び 評 価 を 行 っ た 。 I‑nv−1RTの 阻 害 剤 と し て 知 ら れ る2. ,3:ジ デ オ キ シ チ ミ ジ ン5, − トり り ん 酸(ddTTP)の5位 メ チ ル 基 を 疎 水 性 か つ 嵩 だ か い ス チ リ ル 基 に 置 換 し た2. ,3, 一 ジ デ オ キ シ −E‑5− ス チ リ ル ウ リ ジ ン5, − ト り り ん 酸(StddUTP) を 合 成 し 、HIV−1RTに 対 す る 阻 害 効 果 を 調 べ た と こ ろ 、HIV−1RTお よ び Polア に 対 し てddTTPに 匹 敵 す る 強 い 阻 害 効 果 を 示 し 、HIV―1RTの 光 親 和 性 標 識 試 薬 の た め の り ー ド 化 合 物 と し て 充 分 な性 質を 有す るこ とが 示さ れた 。 2:HIv―1RTに 対す る 光親 和性 標識 試薬 の合 成と その 利用
StddUTPを 母 核 と し て 、 そ の ス チ リ ル 基 に ト リ フ ル オ 口 メ チ ル ジ ア ジ リ ニ ル 基 を 導 入 し たTDSddUTPを 合 成 し た 。 TDSddUTPのHIV― 1RTに 対 す る 阻 害 定 数(Ki)は 0.075ロ Mと AZTTPや ddTTPと 同 様 に 小 さ い 値 を 示 し 、