は じ め に
博 士 ( 薬 学 ) 川 原 裕 之
学 位 論 文 題 名
細胞分裂周期の制御における プロテアソームの機能に関する研究
学位論文内容の要旨
細胞分裂の進行を制御する蛋白質の多くは短寿命であり、例えば、サイクリン、
Mos、p53、Mycな どは 分解 のマ ーカ ーと して ポリユ ピキ チン 鎖の 付加 をう け、
ATP依存 的に 分解 され ると 報告されている。この時、ポリユピキチン化蛋白質を 分 解 す る 組 胞内 プロテ アー ゼと して26Sプロ テアソ ーム が機 能す ると 考え られ ているが、細胞周期の制御機構への関与にっいてはまだ明解ナょ解答が得られてい ない。本論文では、細胞分裂周期の進行の制御におけるプロテアソームの機能を 明らかにする目的で、細胞周期が極めて良く同調した受精卵が多く得られるマボ ヤ卵を実験材料に用いて、卵割期あるいは減数分裂期におけるプロテアソームの 細胞内局在性とプロテアーゼ活性の変化を解析した。その結果、細胞分裂周期の 進行に伴ってプ口テアソームが局在性と活性を変化させること、そして、その変 化 は 、 細 胞 内 情 報 伝 達 シ ス テ ム を 介 す る プ ロテ ア ソ ー ム の20S―26S変 換 に 基づくことを明らかにした。細胞周期の進行とプロテアソームとの連関が本研究 で初めて示された。
マポヤ胚におけるプロテアソ―ムの細胞周期依存的な局在性の変化
最初に、卵割期の胚におけるプロテアソームの局在性を明らかにするために、
マポ ヤ卵20Sプ ロテ アソ ーム に対 するモ ノク ロー ナル 抗体 を作成して免疫細胞 化学を行なった。分裂直後の間期(interphase)の胚では、サイトソルに広く抗 原の分布が認められるー方で、核にも強い特異螢光が観察された。前期(pro―
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phase)では 核内の特異螢光は消失した。前中期(prometaphase)では核膜が崩壊 し、サ イトソル 中に均一に 抗原の分 布が観察されるのみであった。ところが、染 色体が 赤道面上に並び始める屯期(metaphase)では、染色体の周辺に強い特異螢 光の局 在化が観 察された。 その2分後 において は、染色 体周辺ば かりではなく分 裂装置 周辺にも 特異螢光が 観察され た。この時、抗プロテアソーム抗体と抗チュ ブリン 抗体を用 いて2重染色 を行って プロテア ソームと 分裂装置 を構成する微小 管との関係を調べたところ、プロテアソームは染色体領域に局在化するとともに、
分裂装 置の紡錘 体と星状体 周辺にも 分布していることが明らかになった。染色体 が両極 へ移動し 始める後期 (anaphase)では、染色体や分裂装置周辺に観察され ていた プロテア ソームの特 異螢光は ほぼ消失した。ところが、核膜が再構築され る終期 (telophase)では、間期の場合と同様に新しくできた核内にプロテアソー ムの強 い特異螢 光が再び認 められた ふ以上の免疫細胞化学の結果より、プロテア ソーム はマボヤ 卵割期の細 胞分裂の 進行に伴って各分裂ステージに特有な局在性 を示すことが明らかになった。
マ ポヤ 胚 に おけ る26Sプ ロテアソ ームの細 胞周期依 存的な活 性変化
次に、プロテアソームの活性がマボヤ,胚の細胞周期に伴って変化するか否かに っいて 検討した 。第二卵 割期にお いて、同調的に分裂しているマボヤ胚を5分毎 に採取 して超遠心分離によルプロテアソームを含む高分子量蛋白質画分を得た。
その画 分を用いてプロテアーゼ活性を測定した。その結果、プロテアソームの活 性は、 一回の卵 割周期の 前期と中 期において2回上昇すること、その活性変化は ATPに依存的であることが明らかになった。
一 1
プロテ アソーム活性の変化がプロテアソームの量的変化によるものか、あるい はプロ テアソームが有する活性自身の変化によるものかを明らかにするために、
ウエスタンブロッティングを行い、.プロテアソームの量的変化を解析した。その 結果、 プロテアソームの蛋白質量は細胞分裂周期を通じて一定であることが明ら かにな った。この結果は、プロテアソームの活性化が量的変化の結果ではなく質 的な変化によることを示唆している。
次 に 、 プロ テ アソ ーム の細胞周 期依存的 な活性変 化が、20Sプ ロテアソー ム
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と26Sプ ロテ アソ ーム のど ちら に由 来する かを 明ら かに するために、活性化が 検出される前期あるいは中期、および、プロテアソームの活性が低い前中期ある いは後期のそれぞれの胚から調製した高分子量蛋白質画分にっいて、Superose6 に よ る ゲ ル ろ 過 を 行 い 、20Sお よ び26Sプ ロ テ ア ソ ー ム を 相 互 に 分 離し 、そ れ ぞれ の画分 のプ ロテ アー ゼ活 性を 測定 した 。そ の結 果、26Sプロテアソーム の分子量に相当する領域の活性が細胞周期の各ステージで大きく変化することを 見 いだ した。 即ち 、こ れら の結 果は 、主 に26Sプロ テア ソームの活性が細胞周 期の進行に伴って変化していることを示している。
細胞内カルシウムイオン濃度の上昇に伴うプロテアソームの分子形態の変化
第一減数分裂中期で分裂を停止しているマボヤ未受精卵にカルシウムイオノフ ォア(A23187)を添加すると、卵が活性化されて中期から後期への移行が誘起さ れ る 。 この 過程 にお いて も、26Sプ ロテ アソ ーム に由 来す る活 性の 変化が 観察 された。即ち、カルシウムイオノフォア添加直後に活性が上昇し、引き続き減少 し た 。 こ の26Sプ ロ テ ア ソ ーム の 活 性 の 変 化 が26Sプ ロ テア ソ ー ム の 量 的 変 化によるものか否かを明らかにするために、抗プロテアソ ̄、ム抗体によるウエス タ ン プ ロッ ト解 析を 行な った 。そ の結 果、26Sプ ロテ アソ ーム の蛋 白質量 はカ ル シ ウ ムイ オ丿 フォ ア添 加直 後で 増加 し、そ の後 減少 する こと 、一 方、20Sプ ロテアソームの場合は逆に添加後減少し、その後増加することが明らかになった。
こ の26Sプ ロテア ソー ムの 量的 変化 のパ ター ンは プロ テア ーゼ 活性 の変化 のパ タ ー ン と よ く 一 致 し て い る 。 細 胞 内 の20S型 と26S型 と を合 わ せ た プ ロ テ ア ソ―ムの全蛋白質量は細胞周期を通じて一定であるので、これらの結果は、分裂 中 期 か ら 後 期 へ の 移 行 に 伴 っ て プ 口 テ ア ソ ー ム が20S型 か ら26S型 へ 、 さ ら に26S型 か ら20S型 へ と 相 互 変 換 す る こ と を 示 し て い る 。さ ら に 、 減 数 分 裂 の再開を阻害する最小濃度のW―7.(カルモデュリン阻害剤)で未受精卵を前処 理すると、カルシウムイオノフォアの添加で誘起されるこのような変化が阻害さ れる こと が明 らか になっ た。 即ち、プロテアソームの2つの型の相互変換がカル シウ ム・ カル モデ ュリン 系を 介し て誘 起さ れる 可能 性が 示された026Sプロ、テ アソームはユビキチン化された基質蛋白質を分解する本体であると考えられるの
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で、26Sプロテアソームは細胞周期の特定の時期にカルシウムイオンの上昇と いう刺激を介して20Sプロテアソームから再構成され、ユビキチン化された蛋 白質を分解していると考えられる。細胞周期の中期から後期への移行にはサイク リンBの分解が必須であるが、サイクリンBは分裂中期において染色体および分 裂装置上に集積すると報告されている。また、サイクリンの分解はカルシウムシ グナリングを介して誘起されると考えられているが、以上のようなサイクリンの 挙動と、本研究で明らかになったプロテアソームの分裂中期での局在化や活性化 のタイミングがよく一致していることから、プロテアソームは、その機能のーつ として、サイクリン分解を触媒することによって細胞周期を制御していると考え られる。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
横沢 長沢 高橋 沢田
学 位 論 文 題 名
英良 滋治 和彦 均
細胞分裂周期の制御における プ ロテアソームの機能に関する研究
細胞周 期の 進行に は蛋 白質の 分解 が必須 であ る。例 えば 、 M 期 促進因子の調節蛋白質サイクリンが分裂中期で分解されることは、
細 胞が次 の分 裂ステ ージ に進むために必須の現象である。細胞分 裂を調節する蛋白質の多くは短寿命であり、.その機能は合成と分 解の調節の上に規定されているが、それら蛋白質の分解は、多.,く の ユピキ チン 分子に よっ て付加 (ポリユビキチン化)された後 に なされ ると 考えら れて いる。ポリユピキチン化蛋白質を分解す る 細胞内 プロ テアー ゼと して、プロテアソームが有カな候補とし て 考えら れて いるが 、そ の細胞内での生理機能の詳細、特に細胞 周 期 の 制 御 機 構 へ の 関 与 に っ い て は 不 明 な 点 が 多 い 。 本論文 提出 者は、 細胞 周期におけるプロテアソームの役割を解 明 し、そ の調 節機構 を明 らかにする目的で、細胞内局在性、プロ テ アソー ム活 性、お よび プロテアソームの分子状態の変化を指標 に して、 細胞 周期の 制御 におけるプロテアソームの機能に関する 一連の研究を展開し、以下の成果を納めた。
( 1 ) マ ポ ヤ 卵 20S プ ロ テ ア ソ ― ム に 対 す る モ ノ ク ロ ―ナ ル 抗 体を作成し、それを用いた免疫細胞化学的.方法によルマボヤ卵の 卵 割 ( S 期 と M 期 か ら な る 体 細 胞分 裂)の 過程 でのプ ロテ アソ−
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ムの局在性を解析した。その結果、プロテアソームは細胞周期の 進行に伴って核や分裂装置上に一過的に集積すること、特に分裂 中期の染色体周辺に強い局在性を示すことを明らかにし、プロテ アソームの細』胞周期依存的な局在性の変化を初めて報告した。さ らに、細胞周期依存的なプロテアソームの局在性の変化が、卵割 期だけではなく、より発生の進ん だ神経胚ナょどの体細胞分裂にお いても同様に観察されることを明らかにした。
( 2 ) プロテ アソ ームを 迅速 かつ簡易に濃縮する超遠心分離法を 用いて細胞内のプロテアソームの活性を容易に測定する方法を開 発し、それを用いてマボヤ卵内におけるプロテアソームの特徴づ け を行 い 、 卵 内 に 26S プ ロ テ ア ソー ムが 存在す るこ とを明 らか にした。
( 3 )卵割の進行に伴うプ口テア ロテアソームが一回の分裂周期で
ソーム活性の変動を解析し、プ 2 回( 分裂 前期と 分裂中期)活 性 化され るこ とを明 らか にした 。また、活性の変動は細胞内のプ ロ テ ア ソ ー ム ( 20S プ ロ テ ア ソ ー ム と 26 . S プ ロ テ ア ソ ーム ) の 全 蛋 白 質 量 の 変 化 を 伴 わ ず` 分 子 状 態 の 変 化、 即 ち 、 26S プ ロ テ ア ソ ー ム の形 成 に 伴 う 活 性 化に よ ること を明 らかに した 。
( 4 ) カルシ ウム イオノ フエ アで卵 の減 数分裂 を再 開させ 、分 裂 周 期を分 裂中 期から 後期 に移行 させたときに、プロテアソームの 活 性 と 分 子 状 態 が 大 き く 変 化す る こ と 、 そ の 変化 は 20S プ口 テ ア ソー ム− 26S プ ロテア ソ― ムの相 互変 換によ るこ とを明 らか に し た。さ らに 、その プロ テアソ ームの相互変換は、細胞内カルシ ウ ムイオ ン濃 度の変 化と 密接に 関係していることを初めて明らか にした。
これらの結果は、プロテアソームの活性制御が細胞周期の進行 に 密接に 関係 し、そ の細 胞内局 在性および活性が細胞内カルシウ ム シグナ リン グシス テム によっ て厳密に制御されていることを示 している。
以上の新知見およびそれを得るために用いた研究技法は、細胞 周期におけるプロテアソームの活性制御機構の解析にとどまらず、
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細胞の生理状態 の変化に伴う広範な現象の解析に広く利用し得る もの であり、細胞 の生存と増殖に重要な機能を果たしている蛋白 質分 解系の役割を 解明する上で重要な寄与をなすものである。審 査員 一同このこと を高く評価し、本論文提出者が博士(薬学)の 称 号 を 受 け る に ふ さ わ し い も の と 一 致 し て 判 断 し た 。
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