中国人日本語学習者における『ら抜き言葉」の使用に関する研究 王 恰 欝 1 . はじめに
「これ、拡大したら互主主主よ」と電車の中である 2 0 代男性がスマートフォンを片手 に隣の人と話している。このように本来可能の助動調「ラレル」が接続する一段動詞 とカ変動調に「レル」を接続させ、発生した表現が「ら抜き言葉」と呼ばれる。「ら抜 き言葉」は現代日本語の副はもの代表例として問題にされている(中僚 2 0 0 0 ) 。その具 体的な発生時期は明らかではないが、松下大三郎の『標準日本文法] ( 1 9 2 4 年)での 言及が早いものとされている。
昭和国年に行われた N H K r ことばに関する意識調査」では、「ら抜き言葉」が「変 だ」と「変でない」と答えた人数がほぼ桔抗している。中でも「変だ」と答えた人は 高学歴、高年層の人が多い。それに対して、平成 3 年度に行われた「国語に関する世 論調査」では「ら抜き言葉」が「気にならない」という答えが「気になる」を 18% も 超え、若い世代での使用が目立っている。また平成 2 2 年度の結果を平成 1 7 年度のも のと比べて見ると「食べれない」と「来れない」の選択率がそれぞれ 9% ・ 8% と増加
し、若い世代での「ら抜き言動の使用が進行していることが伺える。
「ら抜き言動は現代日本語の言葉の割れの象徴的存在と言われ、さまざまな面か ら検討されてきた。その発生要因にはいくつかあるとされている。日常生活でよく耳 にする表現であるが、公的な場面では使用が控えられているようである。
2 先行研究と本研究の目的 2 . 1 r ら抜き言葉」の発生
神田(1 9 6 4 )では、「ら抜き言葉」発生の可能性について、主に次の三点を挙げてい る。(1)可能の助動詞「られる」の「ら」が省略されたもの。 (2) 五段活用とサ変 動詞の未然形「さ」に付ける「れる」がそれ以外の動詞にも拡張したもの。 (3)五段 活用からの可能動詞は勢力が強く、五段活用以外の動詞も可能動詞が作れるようにな ったこと。これらの点からみて可能献司の拡張が有力な原因であると主張している。
それに対して杉山 ( 1 9 9 3 )は、「ら抜き言葉」は可能動詞の一種であるとし、これま で五段動詞に限られていた可能動詞が他の段の動閣にも派生してきたと主張てし、る。
また、「ら抜き言葉」は直接「ら」が抜けているわけではないとも述べている。
松田 ( 2 0 1 2 ) は、「可能動詞」が五段動調語幹に可能接辞‑ eが付いて語幹化したも ので、「ら抜き言葉」は五段動調可能形接辞書 1 一段鵬司に転用される現象だが、大局的 にはラ行五段化の一部として考えられると述べ、そこにはまた意味的なメカニズムも 関わっていると指摘している。
2 . 2 r ら抜き言葉』の使用に影響する要因
言語の内的要因と外的要因についての調査に辛 ( 2 0 0 3 ) がある。言語内的要因とし
中国人日本語学習者における「ら抜き言葉」の使用に関する研究
て動調の語幹音節数と相関関係があり、動詞の活用の種類に関して上一段動詞の方が 下一段動詞より「ら抜き」が進んでいるという結果を示している。また、外的要因に 関しては「ら抜き言葉」の使用は儲持場や目上の人との会話など、改まった場合で 控えるように注意している姿由主伺える。
井上 ( 1 9 9 8 ) では、音節数が「ら抜き言動の使用率にとって一番大きな要因であ ると述べている。岡崎(1 9 8 0 )は 、 1 9 7 9 年に東京都内に住む中・高校生 4 1 1 名を対象 に言語使用状況を調査した結果、動詞語幹の音節数が「ら抜き言葉」の使用率に影響 し、語幹が 1音節の時に「ら抜き言動になりやすし、と述べている。その中で上一段 活用動詞の語が優勢で、動調の活用の種類からも影響されると述べている。
加藤(1 9 8 8 )は 1 9 8 7 年に首都圏在住の大学生 2 3 0 名を対象に「ら抜き言葉」の使用 傾向及び語葉による使用率の差異を調査した結果、岡崎 ( 1 9 8 0 ) と同じように、語幹 の音節数と活用の種類に深い関係があると指摘した。しかし、音節数は重要な要因で ある一方、絶対的要因ではないと指摘している。
田中 ( 1 9 8 3 ) は、国立国語研究所の調査データを分析した結果、語幹が l音節で短 いものは「ら抜き言葉」になりやすく、語幹が 2 音節の語糞(食べれる)はむしろ長 い語形のほう(食べられる)が使用されていると述べている。
M a t s u d a ( 1 9 9 3 )は、東京語話者を対象に 2 0 0 時間のインタビューを実施し、自然談 話資料を分析した。結果語幹音節の長さは「ら抜き言葉」の使用率と強い反比例関係 を表した。「ら抜き」現象が語幹 3 音節以下の動詞だけに現れ、上一段動詞が下一段動 詞より使用率が高いと指摘した。
また、木下 ( 1 9 9 5 ) は、漫画とテレビ番組の資料に基づいた統計の結果、終止形 2 音節の動詞が最も可能動詞化しやすいと述べている。その後の調査(木下 1 9 9 7 , 1 9 9 8 ) では、新出語の中で音節の短い語の数が少なく、 1 9 9 6 年のテレビ番組に関する調査で は語幹 1音節の動詞がなかったことから「ら抜き」は語幹が 1音節の動詞ほぼすべて において進行したと主張している。
2 . 3 本研究の目的
日本語母語話者を対象とする数多くの先行研究から、「ら抜き言葉」の使用率が語幹 音節数と活用の種類と関係があることが分かった。また、井上 ( 1 9 9 8 ) などの先行研 究では「ら抜き」になる言葉は日常でよく使われる動詞に多いという指摘がある。
これまで日本語母語話者の「ら抜き言葉」の使用に関して、アンケート調査や自然
談話、コーパスなどさまざまな角度から検討されてきた。しかし、日本語を学んでい
る外国人学習者たちの使用実態が依然判明していなし L 本稿は、中国人日本語学習者
における「ら抜き言葉」の使用実態を語幹音節数・動詞活用の種類・語葉の使用率の
三つの面から検討することを目的とする。
中国人日本語学習者における「ら抜き言葉」の使用に関する研究 3 . 調査
3 . 1 調査問題作成
本研究は、アンケートを通じて中国入学習者の「ら抜き言動の使用と日本語母語 話者の使用を対照的に研究し、その相違について明らかにする。
アンケートは複数回答が可能な三択問題であり、三つの選択肢(① r (ラ)レル」・
②「ら抜き言動・③「コトガデキル J ) の中から普段使う表現を選択してもらう形式 である。
例: r この辺で中国の映画はこの映画館でしか L 一一一一」
①見られない②見れない③見ることができない
岡崎 ( 1 9 8 0 ) 、加藤 ( 1 9 8 8 ) 、田中 ( 1 9 8 3 )などの先行研究で指摘されているように、
動調に「ら抜き」発生の傾向は動詞の音節数と活用の種類に関係がある。よって、本 稿の調査では、音節数及 v 活用の種類別に動詞 2 0 語を調査項目として選択した。なお、
語葉の選択は岡崎(1 9 8 ω で提示している内容を参照する(表 3 .1 を参照)。
表 3 .1 調査語葉の分類
活用の種類 語幹音節数 調査語葉
上一段 1 音節 見る・煮る・射る・着る 動詞 2 音節 起きる・生きる・借りる・降りる
3 音節 信じる
下一段 1 音節 出る・寝る
動詞 2 音節 受ける・食べる・乗せる・逃げる 3 音節 覚える・伝える・忘れる
4 音節 考える
カ変動詞 1 音節 来る
3 . 2 調査期間及び対象
調査は 2 0 1 0 年 9 月に行い、調査対象者は首都圏出身日本語母語話者(以下 J N ) 7 8 名、日本国内大学及び大朝涜に在籍する学習者(以下 α J ) 5 2 名 1 、日本語学校に在籍 する学習者(以下 C J )5 0 名 2 と中国圏内の大学日本語学科に在籍する大学 3 、 4 年生(以 下 α) 3 7 名である。学習者が全員日本語能力試験 1 級合格者である。
3 . 3 調査結果及ぴ分析 3 . 3 . 1 各グループの調査結果
「ら抜き言葉」の使用傾向を見た結果、全榊旬に母語話者の使用率が学習者より高
1 CU のうち縛日期間 3 年未満 1 7 人 、 3‑6 年 2 3 人 、 6 年以上 1 2 人である。
2CJ のうち滞日期間 1 年未満 4 6 人 、 1‑2 年4 人である。
中閏人目本語字唱者におげる『ら事長き曾鶏 J の使用伝聞する研究
い.ー方.個却リの語録に闘して、学膏者のほうが母語罷者の使用皐を上回る場合もあ ることが明らか i となった.等勾 E 者グ β p ープのうち、 α J の使用率"‑‑"僑路署寝静 I と近〈、
仙の学習者グJいープ左差がある. また、固つの被験者グループのうち、 C J 以外に使凋 率 0% の項目があることが明ら浴場となった。むは金ての帽実に関して『ら扱き言葉 』 の使用が見られ h
表 3. 3 ‑ l J N の使用車順位 変乱歩合 α の使用申明廃位
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J N の『ら抜き盲動使用皐よ位 2 位の批慣がそれぞれ「射る J • r ,着る」ー「煮る』で.
すべて語幹 1 音官邸同上ー段‑であること治掛かる. 椅韓脅鑑賞 k と活用哨闘を合わ 守てみる k 全体的に『ら旗き言葉 J の使用車怯 k ・ 1 、カ窓上・ 2 、下・ 1 の順に楓 少傾向を示している.この鶴来院院崎(1輔の"一致しており、 3 0 年が経過した現在 でもとの慣句は変わらないようである.
J N と切の結果を比べて見ると、個別の諸般と闘して億趨盛認伸使用率と盆がある
ことが明らかとなった.∞は来日年散が長〈、験科書で取り上げられていなL拘 容 を
J';I!R:からのインプットにより身とつけたもの k 考えられる. しかし.今回の爾査結果
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中国人目薄語学習舶における「ら敏舎曾簿』の使用に聞する事完
抜き雷濁白を使用するようになったものの、使用偏向陪健寝糟晴があまり使めない帳 費回』まて噂たたして丸、ること方ち考古ミる
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中国人日本語学習者における「ら抜き言葉」の使用に関する研究
音節語が上位に位置するにもかカわらず、 2 音節語の使用率が低く、新 1 グループの 語葉の使用率は新 2 グループの約 2 倍である。また、使用率 0% の五つの語葉のうち、
語幹 2音節語が三語であることが分かる。 CN全体の岐用率から分かるように、「ら抜 き言葉」の使用率 10% 以上の語が 8 語のみで、かなり少ない。
母語話者 J N と比べ、三つの学習者グループは共に「ら抜き言葉」を使用しているこ とが明ら制となった。次に、学習者の「ら抜き言葉」の使用に影響する要因は母語話 者と同様かどうかを分析する。
3 . 3 . 2 音節数と「ら抜き言葉」使用傾向の関係
表 3 . 3 ‑ 5 音節数別分散分析の結果
音 グ 平均 標準 F f l 直 有意 音 グ 平均 標 準 F 値 有意 節 ノ レ 値 偏差 確 率 節 ノ レ 値 偏 差 確率
数 一 数 一
プ プ
J N 2 8 . 5 9 2 0 . 8 7 2 8 . 8 1 8 . 0 0 0 J N 9 . 2 3 1 2 . 1 9 6 4 . 8 1 5 . 0 0 3
1 2 音
音 C U 2 8 . 0 8 2 1 . 7 8 7 節 C U 9 . 7 1 1 0 . 6 8 3 節 C J 1 6 . 2 0 1 8 . 2 8 2 C J 7 . 1 0 1 0 . 5 0 2
α 1 2 . 1 6 1 6 . 5 2 2 α 2 . 0 3 5 . 0 6 3
語幹音節数が 1 音節の場合、四つのグループの関係性を証明するために、独立性の 検 定 (x 2 検定)を行った。その結果、検定統計量の実現値 X2= 4 6 . 5 4 1 、 P 値が 0 . 0 0 1
となり、有意水準 0 . 0 1 よりも小さいので、四つのグループは独立し、グループ聞に有 意差が見られた。さらに、グループ聞の有意差の関係性を調べるために、アンケート の回答における「ら抜き言動を選択した場合に 1 0 点を与え、一元首己置分散分析を行 った唱その結果、 F ( 3 , 2 1 3 ト8. 8 1 8 であり、有意水準 1% でグループによる主効果が認 められた。多重比較の結果、 J N は C J 、 α との聞に有意差が見られ、同じ学習者であ る α J は他の二つの学習者グループ C J 、 α との聞に有意差が見られた。また、 J N と印、
C J と α の聞に有意差が見られなかった。そのため、語幹 1 音節の場合、 J N と印、 C J
と α それぞれの聞に「ら抜き言葉」の使用傾向が類似していることが分った。
また、語幹 2 音節語の場合、 χ2=37.035 、 P 値が 0 . 0 4 3 となる。一元祖置分散分析
を行った結果、 F ( 3 , 2 1 3 ) = 4 . 8 1 5 であり、有意水準 1% でグノいープによる主効果が認め
られた。多重比較を行った結果、 α は J N 、切との聞に有意差が見られる一方、 C J と
の聞に有意差が見られなかった。 C J は他の二つのグループ J N 、 α との聞にも有意差
中国人日本語学習者における「ら抜き言葉」の使用に関する研究
が見られなかった。従って、語幹 2 音節動詞の場合、 CN における「ら抜き言葉」の使 用傾向が]N、 c u と異なることが分かった。滞日年数の長い c u の使用傾向が母語話者 ]Nと類似している。一方、滞日年数の短い C ] がどのグループとの聞にも有意差が見
られなかったことから、 C] が「過渡的段階」であり、 c u のように滞日期聞が長くなる につれ、使用傾向が母語話者に近づいていくことが考えられる。
語幹 3 音節語を見ると、 χ2=12.919 、 P 値が 0 . 3 7 5となり、また、 4 音節語の場合、
χ2 検定を行った結果、 χ2=3.153 、P 値が 0 . 3 6 9 となる。いずれもグループ。間に有 意差が見られなかった。本調査の被験者数と問題数が今回の結果に影響するけ醐リし、
今後は調査対象を拡大して調査する予定である。
検定の結果、語幹音節数が l 音節と 2 音節の場合、「ら抜き言葉」の使用と語幹音節 数と関係があり、音節数の少ない語がより「ら抜き言葉」になりやすいと分かった。
また、母語話者]Nと同様、 c u も同じ傾向を示した。 CN における「ら抜き言葉」の使 用数が一番少なかった。また、滞日期間の短い C] は「ら抜き言葉」を使用しているが、
使用傾向と語幹音節数との関係に一定な傾向が見られなかった。
3 . 3 . 3 活用の種類と「ら抜き言葉」使用率の関係
岡崎 ( 1 9 8 0 ) 、辛 ( 2 0 0 3 ) などの先行研究では「ら抜き言葉」と動詞活用の種類との 関係について上一段動詞の使用率が下一段動詞より高いとされている。しかし、それ らの先行研究は母語話者の使用率を調査する内容であり、外国人学習者の使用実態に ついての言及はない。本節では、動詞活用の種類は中国入学習者の「ら抜き言葉」の 使用率に影響するかを検討したい。
三つのグループに分けたデータのうち、 3 グループは選択率が低いため、今回は l 、 2 グ、ルーフ。のみ検討対象とする。データを活用の種類ごとに分けた結果は図 3 . 3 ‑ 6 " " ' 3 . 3 ‑ 9 の通りである。
図 3 .3 ‑ 6 活用の種類別の結果 ( ] N ) 60
50 40 30 20 10
o
図 3 . 3 ‑ 7 活用の種類別の結果 ( c u )
JN
n u
n u
n u
n u
n u
n u
n u
ι U
コ 組
F崎 ︑
3
﹃4
噌Ac u
上 . 1 下 ・ 1 上 . 2 下 ・ 2 上 . 1 下・ 1 上・ 2 下 ・ 2
中国人日本語学習者における「ら抜き言葉」の使用に関する研究
図 3 .3 ‑ 8 活用の種類別の結果 ( C J )
60 50 40 30 20 10 0
。
上 . 1 下 ・ 1 上・ 2 下 ・ 2
図 3.3‑9 活用の種類別の結果 ( C N ) 60
50 40 30 20 10 o
上 ・ 1 下 ・ 1 上 ・ 2 下 ・ 2
(1