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アマリの構造と解釈 大口

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Academic year: 2022

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(1)アマリの構造と解釈 大口 恵理 (西南女学院中学校・高等学校) eri.oguchi@gmail.com キーワード:アマリ、統語意味論. 1. 序章 本論文では、ことばの意味は、語本来が持つ意味、構造に拠って変容した意 味、そして世界知識から補われる意味が組み合わさり、成り立っていると考え る。これまでの日本語学の研究で、多くの言語現象についてさまざまな観察が 行われている。しかしそれらは、ことばの意味というものを明確に区別してい ないために、表現の本質が明らかにされていないことが多い。それぞれの研究 の立場や目標の違いはあるにせよ、やはり、ある表現の本質が何かということ を明らかにすることは意味のあることである。本論文では、アマリを対象とし て分析を行う。そこで、次のように問題提起する。 (1). a. Lexicon には何種類のアマリが登録されており、それぞれどのよ うな指定がされているのか。 b. アマリと他の表現とがどのように組み合わさり、どのような意味 が生じるのか。. この問題を解決するために、本論文では統語意味論と呼ばれるアプローチをと る。次章からの本論文の構成を以下に示す。 2 章では、これまでのアマリの研究について記述する。これまでの研究には、 アマリのさまざまな特徴を、主に否定と呼応するアマリと呼応しないアマリに 大きく分け、その中でそれぞれの構文を細かく記述しているものが多く見られ る。しかしこれらは、アマリという表現の本質を明らかにしようとするもので はない。 3 章では、統語意味論の枠組みを紹介する。本論文では、アマリの本質を明 らかにすることを目標とするため、それを試みる統語意味論のアプローチから.

(2) 分析する。統語意味論のアプローチをとると、アマリの語彙的な意味、構造に 拠る意味、そして世界知識から補われる意味を区別でき、これまでの研究では 統一的に説明できなかったアマリの現象を説明できる。 4 章は、本論文の中心であり、統語意味論を基にアマリの分析を行う。アマ リには Lexicon において二種類の指定があると仮定し、構文ごとにその構造を 考え、意味解釈を明らかにする。 最後に、5 章で全体のまとめと考察を行う。. 2. 先行研究 2.1. 新藤 (1983) 新藤 (1983)は、アマリを英語の negative polarity item (NPI)と関連させて分析 している。新藤 (1983)によると、英語の NPI は、原則として否定要素と同じ節 内にしか生じないより制限が強いものと、 上位の節の否定要素をも範囲とする、 より制限が弱いものとの二種類がある。一方、日本語の NPI は、一般的に制限 の強い NPI である。たとえば、(2)のような NPI は、(3)に入れると非文となる。 (2). 一銭も、少しも、ちっとも、全然、全く、決して、めったに、ほ とんど、ろくに、たいして、少ししか、・・・・・・・・・ [新藤 1983: 101, (7)]. (3). *金が{. }欲しくてやったのではない。 [cf. 新藤 1983: 102, (11)]. そこでアマリを見てみると、新藤 (1983)は、アマリは他の日本語の NPI と違っ て、節の境界をまたいで否定語と結びつくことができることを指摘している。 (4). [妊婦があまり体を動かす]のはよくない。 [新藤 1983: 102, (19)]. そのため一見、アマリは一般的な日本語の NPI とは異なる働きをするように見 えるが、新藤(1983)は、同一節内で否定語と共起しているアマリをアマリ B と 呼び、それを NPI であるとし、同一節内において否定語と共起していないアマ リをアマリ A と呼び、それを NPI ではないと分析している。 新藤 (1983)は、アマリ A には「度を過ぎて」といった否定的なニュアンスが.

(3) あるため、それに続く部分も否定的な意味合いを持っていなければ意味的に矛 盾が生じることがあると述べている。 (5). a. *妊婦があまり体を動かすのはよいことだ。 b. *金をあまり持っている人は大好きだ。 c. *あの人は金をあまり持っているので好感がもてる。 [新藤 1983: 105, (35)-(37)]. しかし、以下の例が示すように、アマリ A は必ずしも文中に否定の意味を表す 語が必要なわけではない。 (6). 教授の話があまり面白かったので、学生は{皆笑いこけていた。 /熱心に聞き入っていた。} [cf. 新藤 1983: 107, (45)]. さらに新藤 (1983)は、アマリ A は、「あまり~だ」というところまでで完結 した命題内容を表すことができにくく、「あまり~だとこれこれだ」という、 その後続する部分が必要なため、主文には生じにくいと述べている。これは、 (7b)のような場合である。 (7). a. 妊婦があまり酒を飲むのはよくない。 b. *あの妊婦はあまり酒を飲んでいる。. [新藤 1983: 107, (47)]. 次に、アマリ A には(8)の制約もあるとしている。 (8). 「あまり A」は、表している内容が事実であるという合意がある 節には生じにくい。. [新藤 1983: 108, (57)]. これは、(9b) (10b)のような場合である。 (9). a. みそ汁をあまり飲むのは血圧によくない。 b. ??今から考えてみれば、みそ汁をあまり飲んだのは血圧によくな かった。. [新藤 1983: 108, (54)].

(4) (10) a. あまり空気が悪い所に住むのは遠慮させていただきたい。 b. ??あまり空気が悪いあの町に住むのは遠慮させていただきたい。 [新藤 1983: 108, (60)] 2.2. 須賀 (1992) 須賀 (1992)は、アマリは程度副詞であるとし、アマリの意味する程度評価と 否定との関わりに注目して、アマリの特性について考察している。この研究に よると、否定と呼応するアマリ~ナイは、「程度が甚だしくないこと」や「一 般の程度を超えるほど」ではないということを表す場合と「ひかえめな否定」 や 「十分には肯定できないということに重点がある」 ことを表す場合とがあり、 前者の場合は程度性に注目しており、後者の場合は肯否判定に注目していると 述べられている。 (11). 「あの店のケーキ、おいしかった?」 「いや、この間食べてみたけれど、あまりおいしくなかった よ。」 [須賀 1992: 35, (1)]. (11)は、程度性に注目した解釈も肯否判定に注目した解釈もできる。一方、(12) では、肯否判定の意味しか生じない。 (12). 私の部屋は木の陰になっていて、あまり日が当らない。 [須賀 1992: 35, (2)]. これは、先行する節が日の当たり方が通常のあり方以下であるということを表 しているため、「程度が甚だしくないこと」や「一般の程度を超えるほど」で はないという意味が許されないからである。 須賀 (1992)によると、アマリはもともと(13)のように否定と呼応せず、評価・ 判定を意味する副詞として機能しており、現代の否定と呼応するアマリは、こ のようなアマリが変化し、通常の程度に達しないという意味を表すものとなっ たと論じている。.

(5) (13) a. 只の恨ではあまり俗である(『草枕』) b. この蓋はあまり安っぽい様だな(『草枕』) [cf. 須賀 1992: 37, (10) (11)] そして以前からの評価・判定だけを表す意味は、現代においてアマリニ(アマ リニモ)が担っているとしている。 (14) a. その内容たるやあまりにも荒唐無稽な代物である。(『月刊 Asahi』 一九八九. 七). [須賀 1992: 39, (14)]. b. ウェートリフティングの世界があまりにドラッグに汚染されてい ることを憂慮し(同). [須賀 1992: 40 (15)]. さらに、須賀 (1992)では、否定と呼応しないアマリについて述べている新藤 (1983)の(8)の制約は必ずしも適用されるわけではないとし、(15)のように述べて いる。 (15). 否定と呼応しない「あまり」は、その事態が事実か否かではなく、 仮定条件や確定条件を表す節の中で、主文で述べる事態の原因・ 理由を表す場合において許されている。. [須賀 1992: 41]. (16) a. この品物は、あまり高いので売れないだろう。 b. *この品物は、あまり高いけれど売れるだろう。 [cf. 須賀 1992: 41, (23)] (17) a. この道は車があまり通るので、すぐに舗装が痛んでしまう。 b. ?この道は車があまり通るので、子供を遊ばせないほうがいい。 [cf. 須賀 1992: 41, (24)] (16a) (17a)は、アマリが主文で述べる事態の原因となっているのに対して、(16b) は原因を表していないために非文となり、(17b)はアマリが原因ではなく主張の 根拠となっているために容認度が低くなっている。 最後に、須賀 (1992)では、アマリをアンマリと比べ、主文における容認度の 違いについても(18)のように考察し、(19)の例を挙げている。 (18). 「あまり」は、主文の中で肯定述語を修飾するために用いること.

(6) はできない。しかし、「あんまり」はそれが通常の範囲を越えて いること、度を越した状態であるということが示されているなら ば、主文において使用しても許容される度合いは高まる。 [須賀 1992: 44] (19) a. ×言うべきでないことまで言ってしまうなんて、太郎はあまり正 直だ。 b. ?言うべきでないことまで言ってしまうなんて、太郎はあんまり 正直だ。. [cf. 須賀 1992: 44 (30)]. 2.3. 服部 (1993) 服部 (1993)では、副詞アマリが「否定と呼応」するものを弱否定型、何らか の程度を超えることを表すものを過度型の用法と呼んでいる。下の(20)は弱否 定型の例であり、(21)は過度型の例である。 (20) a. これはあまり美しくない。 b. あまり上手にできなかった。 (21) a. あまり飲むと体に悪い。 b. あまり面白いので三回も読んだ。. [cf. 服部 1993: 1 (1)] [cf. 服部 1993: 1 (2)] [服部 1993: 2 (5)] [服部 1993: 2 (6)]. そして、弱否定型のアマリには(22)のような条件があるとしている。 (22). 弱否定型のアマリ~ナイは、正方向とみなされる方向に向かって の程度が比較的大きくないことを表す。. [cf. 服部 1993: 9 ]. (23)(24)は、弱否定型のアマリを意味の似ているソウと比べ、アマリが正方向に 向かっての程度が比較的大きくないことを表すものであることを示している。 (23) a. これは{そう・あまり}大きくない。 b. これは{そう・?あまり}小さくない。 (24) a. この犬は{そう・あまり}利口ではない。 b. この犬は{そう・?あまり}馬鹿ではない。. [服部 1993: 6 (29)] [服部 1993: 7 (30)] [服部 1993: 7 (35)] [服部 1993: 7 (36)].

(7) 次の「難しい」と「易しい」では、「難度」とは言えても「易度」とは言えな いように、「難しい」が正方向であると考えられる。しかし、どちらとも「ア マリ P ナイ」の形をとることができる。 (25) a. この問題は{そう・あまり}難しくない。 b. この問題は{そう・あまり}易しくない。 [服部 1993: 7 (37) (38)] 服部(1993) によると、これは、「易しい」という本来負方向の尺度が、望まし さと結びついているからであり、その場合には、臨時に正方向と解釈されるか らである。また、服部 (1993)によると、連体修飾節内や、補文内でも「アマリ P ナイ」という形をとる場合がある。 (26) a. ちょっとどこかに触ったら、ベタッとくっついてしまって、その まま黒焼きが出来そうで、 [あまり気分のいい風呂場風景で] は なかった。(山歩き). [服部 1993: 10, (61)]. b. 私はここでの絵葉書向きなまとまりのいい景色を何度見ても、 [あまり心を動かされた] ことはない。(山歩き) [服部 1993: 10, (63)] 一方、過度型のアマリについては、(27)のような条件があるとしている。 (27) a. 「あまり p」がそれ自体、望ましくなく、除去や回避すべきであ ることを表す文(禁止など)に用いられる。 b. p が過度であることによって、望ましくない、または、通常と異 なる事柄が生じる(生じた)ことを表す場合に用いられる。 (27)について示したものが(28)の例文である。 (28) a. あまり飲むと体に悪い。 b. あまり上手で驚いた。. [服部 1993: 12 (74)] [服部 1993: 14 (101)]. c. しばらくの間、あまり歩き回らないほうが良い。 [服部 1993: 15 (106)] d. ?あまり熱くても大丈夫です。 e. ?あまり面白ければ、熱心に聞きます。. [服部 1993: 13 (88)] [服部 1993: 15 (102)].

(8) f.. ?太郎はあんまり騒ぐ。. [服部 1993: 16 (114)]. そして、アマリは、同じ過度型であるアマリニやアマリニモとも使用条件が異 なっていることを指摘している。 (29) a. これは{?あまり・あまりにも・あまりに}美しい。 b. 何十個も食べた。{?あまり・あまりに・あまりにも}うまかった。 [服部 1993: 17 (119)-(120)] さらに服部 (1993)は、アマリを用いた文が、特定の文脈で弱否定型と過度型 のどちらにも解釈できる場合があると言及している。(30)は、漠然と甘さの度 合いが大きくないのが好きだという解釈も、甘さの度合いが過度ではないのが 好きだという解釈もできる。 (30). あんまり甘くないのが好きだ。. [服部 1993: 3 (11)]. また服部 (1993)は、アマリは過度型から弱否定型へと発展したと述べている。 (31). 本来過度を表す「あまり」が、否定と結び付いた場合に弱化して、 漠然と程度が大きくないことを表す表現として慣習的に用いられ るに至ったものと考えられる。. [服部 1993: 19 ]. 服部 (1993)は、補説として「あまりの N」、「N のあまり」、「V あまり」 についても述べている。「あまりの N」の特徴についてまとめると、(32)のよ うになる。 (32) a. 名詞類を修飾する「あまりの」は、意味的には、ここでいう過度 型に対応する用法のみを持つ。 b. 実例では「あまりの N に+述語」の形がほとんどである。述語は、 ある対象に関しての N(又は N の一性質)の度合が、主体が平常 の状態で対処しうる限度を超えたために自然に生じた特別な反応 を表すものがほとんどである。. [服部 1993: 19 ]. 次に「N のあまり+述語(句)」の特徴については、(33)のようにまとめられ る。.

(9) (33) a. N は述語の主体(通常人間ないしこれに準ずる活動主体)の性情 を表すものに限られる。 b. N の度合が過度であることにより主体が通常と異なる行為や状態 をとるに到ることを示す。実例では、人間の心的・感覚的状態や 「過労」のような身体の状態を表すものが極めて多い。 [服部 1993: 21 ] c. 他に、人間や団体などの活動体の継続的な態度・方針などを表す 名詞の例がある。. [服部 1993: 22 ]. (33a)によって、(34a)(34b)のような違いが生じるとしている。 (34) a. (相手の)あまりの強さに驚いた。 b. ?(相手の)強さのあまり驚いた。. [服部 1993: 21 (139)] [服部 1993: 21 (140)]. (35)は(33b)に関する例文である。 (35). 逮捕された 3 人が今春卒業した中学校の校長は 26 日朝、「驚きの あまり言葉がない。被害者の方に対しておわびのしようがない」 と肩を落とした。(朝日 89.4.26). [服部 1993: 21 (141)]. (36)は(33c)に関する例文である。 (36). かつての思想重視のあまり物質面を抑制しすぎて人びとのやる気 をつぶしたことへの反省から、豊かになるためには、と多少手綱 を緩めたのは確か。(朝日 89.9.27). [服部 1993: 22 (145)]. 最後に、「動詞句(動詞はル形)+あまり~」の特徴についてまとめると(37) のようになり、(38)の例が挙げられる。.

(10) (37) a. 同一主体に関して動詞句の表す事柄が過度であることが後続の動 作や状態をひき起こすことを表すが、後続の動作や状態は望まし くない事柄にほぼ限られるようである。 b. 動詞句は「意志感情を表す動詞であるのが普通」である。 [服部 1993: 22] (38). 時代の流れは物の豊かさを追求するあまり、何か大事なものをわ すれてきてはいないだろうか。(朝日 89.8.6) [服部 1993: 22 (149)]. 2.4. 先行研究のまとめ 以上、新藤 (1983)、須賀 (1992)、服部 (1993)の先行研究を概観した。岸本 (2010)、工藤 (1983)、久野 (1991)、日本語記述文法研究会 (2007)、飛田・浅田 (1994)、益岡・田窪 (2003)、森田 (1992)などの研究においても、細かな点では 違いがあるものの、おおよそ、アマリには否定語と共起するものとしないもの とがあるという点から、アマリの特性を記述している。同時に、特定の文脈で 弱否定型と過度型の二つの解釈が可能となり、結果的にその両者の区別がしに くくなる場合があるということを報告している。アマリの特性は、それを記述 するだけでも容易ではなくかなり複雑であるが、先行研究はアマリの本質を明 らかにしようとするものではない。本論文では、このアマリの特性について統 一的な説明をし、アマリの本質について明らかにすることを試みる。. 3. 本論文のアプローチ 3.1. 本論文の課題 言語研究における一つの立場として、ある言語表現の意味を網羅的に記述す ることを目指す立場がある。ここまで紹介してきた新藤 (1983)、須賀 (1992)、 服部 (1993)はこの研究方針に沿ったものであると言える。別の立場として、あ る言語表現の意味は、人間の心的能力の相互作用の産物であると考え、それら の意味がどのように生み出されたのかを明らかにしようとする立場がある。こ の立場では、心的能力のモデルを構築することが目標となっている。この立場 をとっているのが、本論文のアマリの分析で中心とする、統語意味論と呼ばれ るアプローチである。 本論文は、アマリの多様な意味を生み出すモデルを提示することが目的であ る。これらの先行研究で述べられている一般化が正しくないということを論じ.

(11) るものではい。むしろ彼らの観察や一般化を基にして、統語意味論の枠組みか ら、アマリの多様な意味がどのように生まれるのかということを説明できるモ デルを提示するものである。 3.2. 統語意味論 統語意味論とは、上山(2008a,b,c, 2011, 2013 等)で提案されている考え方であ る。その基本的な前提は、私たちがことばにふれたときに理解する「意味」と いうものは、「ことばそのものが表示する情報部分=(A)」と、「(A)に基づいて 私たちが世界知識から補う部分=(B)」とから成っているということである。(A) (=ことばそのものが表示する情報)の表示は「linguistic SR」と呼び、(B)(= (A)に基づいて私たちが世界知識から補う部分)の表示を「理解後の SR」とし て区別して考える。統語意味論の目標は、linguistic SR の生まれる仕組み、す なわち、各語彙についての指定が、構造によってどのように変容を受けるか、 そのシステムを明らかにすることである。本論文では、この考え方に基づき、 アマリが単独ではどのような意味を表し、それが他の語彙と組み合わされるこ とによって、どのように文全体の意味に関与するかを明らかにしたい。このよ うな文理解の流れを表す図である(39)を上山 (2013)より示す。 (39) 文理解の流れ 知覚された音連鎖. Lexicon. Numeration Formation. Numeration. Computational System. PF. Phonology. 内的に生 成された 音連鎖. LF Information Database. linguistic SR. Working Space. Inference rules. 上山 (2013, (2)).

(12) 3.3. 知識データベース 統語意味論では、個々人の頭の中に、その人の知っているあらゆる人物やも のや出来事などの集合が「知識」として存在し、ことばそのものの意味(linguistic SR)とその「知識」とが相互作用をした結果、最終的な意味理解が生じると仮 定されている。そのため、言語使用者の頭の中には、その「知識データベース」 (=Information Database) が存在していると考える。この知識データベース中にあ るモノやコト一般をオブジェクトと呼ぶこととする。上山(2011 等)にならって、 オブジェクトを「On」とし、そのオブジェクトがモノの場合には「Xn」という 形式で、コトの場合には「En」という形式で区別する。オブジェクトには指標 番号 n が付き、同じオブジェクトであれば同じ指標番号を、異なるオブジェク トであれば異なる指標番号を持つ。そして一つ一つのオブジェクトの特性は、 項目名(attribute)とその値(value)のペアという形で記述されていると考える。(40) は、ある人の知識データベースに存在する、あるオブジェクト X121 である。オ ブジェクトの特性は、左側に項目名、右側にその値という形の列挙で表す。 (40). X121[名称: メアリ; 年齢: 25; 性別: 女; 職業: 高校教師; ...]. ある人の知識データベース中に(40)の X121 というオブジェクトがあるというこ とは、その人が、「名前がメアリで、年齢が 25 歳で、高校教師をしている人」 (X121)が存在すると思っているということである。 (41). E366[類: 落とす ; 対象: X252; 行為者: X121 ; ...]. また、(41)は、ある人の知識データベースに存在する、あるオブジェクト E366 である。(41)の E366 というオブジェクトがあるということは、どこかの時点で X121 というオブジェクト(つまり、そのメアリ)が X252 というオブジェクトに 対して、「落とす」という語で表現可能な行為を行ったと、その人が思ってい るということになる。 3.4. SR 式の三つのタイプ 統語意味論では、一つ一つの語が断片的な情報を持っていると考え、それら の断片的な情報が知識データベースに働きかけて、新しい知識状態を生み出す と考えている。その「断片的な情報」を表すものは「SR 式」と呼ばれている。 つまり、linguistic SR は単一の式ではなく、たとえば、ある文が 10 個の語から 構成されているとすれば原則的に 10 個の SR 式の集合である。そして、それぞ.

(13) れが知識データベースに働きかけ、世界知識から情報を補い最終的な SR を生 み出すと考えている。 SR 式はすべて、 知識データベースと関わることによって、 その役割を果たす。 SR 式には linguistic SR と知識データベースにあるオブジェクトを関連付ける 「指示する(Select)」働きと、知識データベースにある特定のオブジェクトに対 して情報を追加する「記述する(Update)」働きの二種類があると仮定されてい る。そして、SR 式には三つのタイプがあり、それぞれのタイプごとにどのよう な働きを持つかが決まっているとする。SR 式の三つのタイプを以下に示す。知 識データベース中にあるオブジェクトは大文字で表記するが、 SR 式自体はある オブジェクトの断片的な情報を表すものであり、オブジェクトではないため、 x1, x2 のように小文字で表記して区別する。 まず、o 型の言語表現αn とは、特定のオブジェクトを指示する働き(Select 機 能)を持ち、αがその何らかの項目名についての「値」に対応するものである。 o 型の言語表現αn が対応する SR 式は、「on [項目名:α]」という形式になる。 o 型になる語彙には、(42)の「学生 1」や「食べる 2」などがある。 (42) o 型の例: a. 「学生 1」 x1[類: 学生] b. 「食べる 2」. e2[類: 食べる; Theme:. ; Agent:. ]. ここで、「食べる 2」には、「誰かが何かを食べる」といった Theme や Agent が存在すると考えられるため、「食べる 2」の SR 式は、その意味役割までを含 むものとなる。また「食べる 2」だけでは、一見特定のオブジェクトを指示す る働きを持たないように見えるが、ここでは、「食べる 2」という表現で、「食 べる 2」と記述できるイベント/出来事を指示していると仮定する。 次に、v 型の言語表現αn(O)は、あるオブジェクトの何らかの項目名について の値(value)を指示する働き(Select 機能)を持ち、αが「項目名」に対応するもの である。v 型の言語表現αn(O)に対応する SR 式は、「vn =α(O)」という形式に なる。どのオブジェクトについて述べているか、すなわち見出しオブジェクト は、構造的ではなく文脈的に決定される。見出しオブジェクトが文脈的に決定 されるということは、見出しオブジェクトは linguistic SR を派生する際に決定 されるわけではなく、派生された linguistic SR に基づいて、私たちが世界知識 から情報を補う作業によって決定されるということである。そのため、見出し オブジェクトが何かということは、linguistic SR に含まれることではない。よっ て、言語表現αn(O) や「vn =α(O)」の(O)には指標番号はつかず、X(モノ)か.

(14) E(コト)のどちらかが指定されるだけとなる。v 型になる語彙には(43)のよう なものがある。 (43) v 型の例: a. 「年齢 3(X)」. v3 =年齢(X). b. 「住所 4(X)」. v4 =住所(X). c. 「原因 5(E)」. v5 =原因(E). 最後に、p 型の言語表現αUn は、あるオブジェクトについて、その特性を記 述する働き(Update 機能)を持ち、 αが 「値」に対応する。(ある言語表現が Update 機能を持つ場合、指標番号の前に U を付けて表す。)p 型の言語表現αUn に対 応する SR 式は、「[項目名( )=α]Un」という形式になる。どのオブジェクトに ついて述べているか、すなわち、見出しオブジェクトは、構造的に決定される。 見出しオブジェクトが構造的に決定されるということは、linguistic SR を派生す る際に決定されるということである。「[項目名( )=α]Un」のカッコに入るもの が見出しオブジェクトである。これは、linguistic SR が派生された後、文脈的に 見出しオブジェクトが決定される v 型とは異なる点である。この違いについて は、3.5節でさらに説明する。p 型になる語彙には(44)のようなものがある。 (44) p 型の例: a. 「美しい U5」. [. (. )=美しい]U5. b. 「すごい U6」. [. (. )=すごい]U6. それぞれ、どのような項目名(attribute)について、「美しい」「すごい」と記 述されているか(表記の下線部分)は、linguistic SR では示されない。項目名は、 linguistic SR を派生する際に決定されるわけではなく、派生された linguistic SR に基づいて、私たちが世界知識から補う作業によって決定されるからである。 SR 式の働きの一つである Select 機能について、o 型の SR 式を持つ語を例に 挙げ説明する。以下は、o 型の SR 式と知識データベースにあるオブジェクトが o 型の持つ Select 機能によって関連付けられる過程である。まず、ある人の頭 の中に「メアリ 1」という語が入力されたとする。すると、(45)のような o 型の SR 式が派生される。 (45). x1[名称: メアリ].

(15) (45)の SR 式が、ことばそのものが表示する情報部分(linguistic SR)である。 そして、o 型である(45)は指示する(Select)働きを持っているため、その人の知識 データベースから、この SR 式と矛盾しないオブジェクトを探し当てる。たと えば、知識データベース中に(46)のオブジェクトがあるとする。 (46). X121[名称: メアリ; 年齢: 25; 性別: 女; 職業: 高校教師; ...]. すると(46)を探し当て、(45)を(46)と同定する。 (47). x1=X121. このようなオブジェクトを探し当て同定する作業は、linguistic SR を派生する際 に決定されるわけではなく、派生された linguistic SR に基づいて私たちが世界 知識から補う作業によって決定されるものである。その結果が理解後の SR と なる。 3.5. linguistic SR の派生の仕方 どの語彙がどのタイプの SR 式に対応するかは、 Lexicon においても定められ ているが、(39)の Computational System における構造構築の過程で、情報の一部 が補われたり、変化を受けたりする。その Computational System における操作 の一つとして、Merge という統語的な操作がある。語同士が Merge した後、LF において SR 式が読み取られ、linguistic SR が派生される。linguistic SR が派生さ れた後、3.3.節で説明したように、linguistic SR と知識データベース(Information Database)とが相互作用をした結果、最終的な意味理解が生じると仮定してい る。以下では、上山 (2013)等に従い、二つの語が Merge している場合に LF か ら派生される SR 式がどのように変容され、linguistic SR が派生されるかを具体 的に見ていく。 3.5.1. o 型と o 型 たとえば、「ジョン 1」「かばん 2」という語はどちらも本来 o 型の語である。 (48). x1 [名称: ジョン]. (49). x2 [類: かばん]. この二つの語が Merge すると、たとえば(50)のような構造ができる。Merge 後.

(16) の LF における主要部を太線で示すこととする。 (50) a. ジョン 1 のかばん 2 b. LF. この場合の linguistic SR は、次のように仮定されている。 (51). x1 [名称: ジョン] x2 [類: かばん] | x1. この「|」という記号は、その左側にあらわれているオブジェクトが右側にあ らわれているオブジェクトに何らかの意味で関係を持っているということを表 している。つまり、o 型の語同士が Merge しているとき、linguistic SR では、そ の二つの語の関係性は明示されていないと上山(2013)等では仮定されている。 「ジョンのかばん」と言っても、たとえば、「ジョンが所有しているかばん」 としても、「誰かがジョンからもらったかばん」としても解釈でき、幅広い解 釈が可能だということである。もう少し一般的に書くと次のようになる。 (52) αもβも o 型の語彙の場合 a. LF. b. linguistic SR on [---:α] om [---:β]|on 3.5.2. p 型と o 型 たとえば、「かわいい U1」という語は p 型の語であり、「子供 2」という語 は o 型の語である。 (. )= かわいい]U1. (53). [. (54). x2 [類: 子供]. この二つの語が Merge すると、たとえば(55b)のような構造ができる。.

(17) (55) a. かわいい U1 子供 2 b. LF. この場合の linguistic SR は次のように仮定されている。 (56). [. ( x2 )= かわいい]U1. x2 [類: 子供] p 型の語と o 型の語が Merge する場合は、o 型の語同士の Merge の場合とは異 なり、二つの語の関係性は構造的に決まっていると上山(2013)等では仮定され ている。p 型の語には LF において、次のような規則があると考えられる。 (57). p 型の語は、主要部である Merge している相手から見出しオブジ ェクトを探し出し、決定する。. つまり、(55)の場合、(53)の見出しオブジェクトが x2(=子供)に固定されるの である。もう少し一般的に書くと次のようになる。 (58). αが p 型で、βが o 型の語彙の場合 a. LF. b. linguistic SR [. (om ) = α]Un. om [---:β] このように p 型の SR 式では見出しオブジェクトが構造的に決定され、LF にお いて、(59)のような制約が仮定されている。 (59). 見出しオブジェクトが決定していない p 型の SR 式は、不適格 (ill-formed)である。. (58)においては、o 型の語彙が主要部として Merge しているが、逆に、p 型の.

(18) 語彙が主要部として Merge した場合には、(57)の規則が適用できず、p 型の SR 式の見出しオブジェクトを決定することができない。そのため、不適格な SR 式が派生することになる。実際、(60)の表現は容認可能であるが、(61)の語順で は解釈ができない。 (60) a. 特大 U1 の皿 2 b. 突然 U1 の大雨 2 c. 上々U1 の出来 2 d. 木製 U1 の椅子 2 e. フロリダ産 U1 のオレンジ 2. [cf. 上山 2013: 2,2 節]. (61) a. *皿 1 の特大 U2 b. *大雨 1 の突然 U2 c. *出来 1 の上々U2 d. *椅子 1 の木製 U2 e. *オレンジ 1 のフロリダ産 U2. [cf. 上山 2013: 2,2 節]. この例では、形態的には名詞が名詞を修飾しているので、この制限は、形態的 な理由では説明のできないものである。 また(55a)や(60)の構造は、修飾(modification)構造であるが、上山 (2013)等 では、p 型の SR 式の見出しオブジェクトは、叙述(Predication)構造において 決定される場合もあるとしている。これは、次のような例文の場合である。 (62). メアリ1はかわいい U2。. 「メアリはかわいい」というとき、「メアリ1」は o 型、「かわいい. U2」は. p. 型の表現である。しかしこのまま Merge すると、p 型が主要部となるため、(57) の規則が適用されず、 見出しオブジェクトを決定することができない。 そして、 (59)の制限によって不適格となってしまう。そこで、上山(2013)等は、叙述関係 を作る機能範疇が別にあり、(62)の構造は(63)であると考えた。 (63) LF.

(19) 「φ3(U2, 1)」が叙述関係を作る機能範疇である。機能範疇は二つの slot を持っ ており、最初に Merge した相手の指標を1番目の slot に、次に Merge した相 手の指標を二番目の slot に書き込むという指定を持った要素であるとすると 上山 (2013)では仮定している。Predication の SR 式は、3.5.1.節で導入した「|」 という記号を用い、次のように表記できる。 (64). [x1|U2]3. (64)は、x1 というオブジェクトと U2 の SR 式との間に Predication が成り立っ ていることを示している。よって、(63)の LF 表示から(65)のような SR 式に変 換される。ここで、「かわいい U2」の主要部が機能範疇であるため、その機能 範疇自体が見出しオブジェクトにはなれない。そこで、(66)のように、代わり に主語である x1 が「かわいい U2」の SR 式の見出しオブジェクトとなるのであ る。(66)が(63)に対する linguistic SR である。 (65). x1 [名称: メアリ] [_ ( )=かわいい]U2 [x1|U2]3. (66). x1 [名称: メアリ] [_ (x1 )=かわいい]U2 [x1|U2]3. o 型と p 型の語の Predication は次のように一般化できる。 (67) a. LF. b. linguistic SR om [---:β] [. (om ) = α]Un. [om|Un]k.

(20) 3.5.3. o 型と v 型 次に o 型と v 型の場合を見てみる。たとえば、「ジョン」は特定のオブジェ クトを指示する o 型の表現である。一方、「弟」は、特定のオブジェクトを指 示してはいるが、あくまでも、別のオブジェクトを見出しオブジェクトとして 初めて値が決まるものであるから「住所」や「年齢」などの表現と同じように、 v 型の語である。 (68). x1 [名称: ジョン]. (69). v2=弟(X). この二つの語が Merge すると、たとえば(70b)のような構造ができる。 (70) a. ジョン 1 の弟 2(X) b. LF. この場合の linguistic SR は、次のように仮定されている。 (71). x1 [名称: ジョン] v2=弟(X) | x1. v 型の語も、o 型の語と同じく Select 機能を持つものなので、Update 機能を持 つ p 型の場合とは異なり、二つの指示物の間の関係は構造では決定されないと 上山(2013)等では仮定されている。確かに、「ジョンの弟」という表現では、(72) のような解釈が最も普通であるが、(72)は(71)の linguistic SR を解釈した一つの 結果にすぎず、(72)は linguistic SR とは区別する。 (72). x1 [名称: ジョン] v2=弟(x1). これは、「ジョンの弟」という表現は、文脈によっては、「ジョンがある劇中 で演じている弟役」という解釈や、「ジョンが世話係となっている(誰か別の 人の)弟」という解釈も可能だからである。LF と linguistic SR の対応の仕方と いう点では o 型・v 型という違いはあっても、o 型と v 型の Merge における linguistic SR(=(73))は、o 型同士の Merge における linguistic SR(=(52))と本質的に.

(21) は異ならない。 (73) αが o 型、βが v 型の語彙の場合 a. LF. b. linguistic SR on [---:α] vm= β(O) | on (73)では v 型が主要部となっているが、逆に o 型が主要部となっている場合 にも特に違いはない1。たとえば、「サイズ 1(X)」という v 型の語彙と「変更 2」 という o 型の語彙が(76)のように Merge した場合、その linguistic SR は(77)のよ うになる。 (74). v1=サイズ(X). (75). e2 [類: 変更; Theme:. ; Agent:. ]. ; Agent:. ]|v1. (76) a. サイズ 1(X)の変更 2 b. LF. (77) linguistic SR v1=サイズ(X) e2 [類: 変更; Theme:. (77)を解釈した結果、(78)のような SR に至る場合もあるだろうが、これはあく までも linguistic SR ではないとされている。. 1. ただし、「弟のジョン」という表現の場合には、「の」の働きが「ジョンの弟」 の場合とは異なり、同格の機能を持っている。上山(2013)等では、同格の機能を 持つ「の」を「の U」とし、語彙の Select 機能を Update 機能に変容させる働きを 持つと分析されている。この「の」の働きは、本論文の内容と直接の関係を持た ないので、その議論は割愛する。.

(22) (78). e2 [類: 変更; Theme: v1; Agent:. ]. ただし、v 型が主要部とならない場合、一つ制限が存在する。たとえば、v 型の表現を用いた(79a)と、その値を具体的に記述した(79b)の間には、はっきり とした容認性の差が認められる。 (79) a. *ページ数の本 b. 50 ページの本 (80)の例を見ても明らかなように、「ページ数」という v 型の語は、あるオブ ジェクトの「ページ数」の値を指示している。 (80). 僕は空欄にその本のページ数を書き込んだ。 =僕は空欄に 50 ページと書き込んだ。. それにも関わらず、(79)の対立が見られるということは、次のような制約があ ると上山(2013)等は述べている。(76)-(77)の場合には、明らかに(81)には抵触し ていない。 (81). v 型の語彙βn(O)が o 型の語彙αm の領域内にある場合、βn(O)の 見出しオブジェクト(O)を om と同定してはならない。. 3.5.4. p 型と v 型 3.5.3節で、v 型が o 型を修飾する場合には、(81)の制約が適用するということ を述べた。しかし、明らかに(82)の場合には、その制約が働いていないという ことがわかる。 (82). 少ないページ数の本. そこで上山(2013)等は、p 型が v 型を修飾している場合、多少、不規則であるが、 次のように linguistic SR が派生されると考えた。 (83). [. (. )=少ない]U1. (84). v2=ページ数(X).

(23) (85) a. 少ない U1 ページ数 2(X) b. LF. (86) linguistic SR [ ページ数(X)=少ない]U2 通常は、二つの語彙が Merge している場合、SR 式も二つ派生されるが、この 場合に限っては、一つの SR 式しか派生しないのである。これを一般的に書く と次のようになる。 (87) αが p 型、βが v 型の語彙の場合 a. LF. b. linguistic SR [ β(O)=α]Um 指標としては主要部であるβのものを引き継いでいるが、 SR の型式が p 型に変 わっているところが変則的である。. 4. アマリの分析 本論文では、3 章で紹介した統語意味論のアプローチに基づき、先行研究と は異なる分析方法で、これまで明らかにされていなかったアマリの本質につい て説明するモデルを提案する。ここで、もう一度本論文で考察する問題を示し ておく。 (1). a. Lexicon には何種類のアマリが登録されており、それぞれどのよ うな指定がされているのか。 b. アマリと他の表現とがどのように組み合わさり、どのような意味 が生じるのか。. (1)で基盤となっている考え方は、アマリに関わる様々な制限には、まず、 linguistic SR に関わるものと、それ以降の「理解」に関わる部分とがあること、.

(24) そして、linguistic SR に関わる問題には、Lexicon における指定のあり方に帰せ られる部分と Merge などの構造構築に帰せられる部分とがあるということであ る。そこで、アマリが生起する構文ごとに、その特徴をあらためて記述し、そ の説明を提示していきたい。 (88) a. アマリノ P ニ、... b. {アマリニ(モ)/アマリ(アンマリ)}P{ノデ/ト/ナラ…}、... c. P ノアマリ、... d. P アマリ、... e. アマリ P ナイ (88b)については、先行研究では別々に記述をし、それらの相違点を挙げている ものもあるが、本論文ではその意味解釈に共通性があるという点により注目し ているため、以下ではこれらの表現が linguistic SR としては区別がないと仮定 し、分析を進めていく。 4.1. o 型のアマリと p 型のアマリ 本論文では、アマリには Lexicon で二種類の指定があると考えたい。一つは o 型のアマリ、もう一つは p 型のアマリである。以下では、まずこれらの二種 類の指定を持つアマリを含む文が、それぞれどのように解釈されるかを示す。 4.1.1. o 型のアマリ (89a)の文は、o 型のアマリが関わる例である。 (89) a. 重さ 1(X)のあまり 2、思わず体勢を崩しそうになった 3。 b.. (89a)の文では、v 型の語である「重さ 1(X)」と、o 型の語である「あまり 2」と が Merge し、(89b)のような LF になっている。(89a)の「重さ 1(X)」と「あまり 2」は、それぞれ、次のような SR. (90). v1=重さ(X). (91). e2 [類: あまり; Theme:. 式に置き換えられるものである。. ].

(25) これは v 型の語が o 型の語を修飾している場合であるから、(89b)に対して次の ような linguistic SR が派生されることになる。 (92). v1=重さ(X) e2 [類: あまり; Theme:. ] | v1. このように「|」の左に空欄が含まれる場合は、「|」の右の要素が空欄に入 っている次の SR 式によって解決されるのが普通である。 (93). v1=重さ(X) e2 [類: あまり; Theme: v1]. (93)は、あるオブジェクト X の「重さ」が「あまる」(つまり、限度を超える) という出来事が起こったことを意味している。そして、その結果「思わず体勢 を崩しそうになった」という行動につながったわけである。(89a)の文全体を LF で表すと、(94)のような構造になる。o 型のアマリは p 型の語と直接 Merge し ても、適格な SR 式が出てくるので、必ずしも主語を必要としない。 (94). このように、o 型のアマリは、「何かの度合いが話者の基準値を越えた」とい う出来事を指示し、それが次の行動を引き起こす要因となっていることを表し ている2。 4.1.2. p 型のアマリ (95a)の文は、p 型のアマリが関わる例である。. 2. 兼行 (2012: 3) では、「「X のあまり Y」は、X に起因して我慢ができずに Y してしまったというような、衝動性があり、冷静な判断を欠いた状態を表す。意 外性や驚きも内包する。」としている。この分析は本論文の、アマリが o 型のと き、オブジェクト X の何かが限度を超え、その結果次の行動につながる、という 意味解釈と同じ方向性の記述であると考える。.

(26) (95) a. あまり U 1 の豪華さ 2(X)に U3 言葉を失った 4 b.. (95a)の文では、p 型の語である「あまり U1」と、v 型の語である「豪華さ 2(X)」 が Merge し、(95b)のような LF になっている。「あまり U1」と「豪華さ 2(X)」 は、単独ならば、次のような SR 式に置き換えられる語である。 (96). [. (. )=あまり]U1. (97). v2=豪華さ(X). ただし、ここでは p 型の語が v 型の語を修飾している場合であるから、3.5.4. 節で述べたように、次のような一つの SR 式が派生される。 (98). [豪華さ(X)=あまり]U1. このSR式では、何らかのオブジェクトXの「豪華さ」の値が「あまり」という 表現で記述されているが、これは、Xの「豪華さ」の度合いが話者の基準値を 越え、それが基準値を大きく上回っている状態を表していると考える。(95a)で は、それが理由となって「言葉を失った」ということが述べられている。そこ で、(95a)の文全体をLFで表すと、(99)のような構造になる。 (99). 前提として、語彙が p 型のとき、見出しオブジェクトは構造的に決定される。 そのため、 構造上に見出しオブジェクトとなる語が現れていなければならない。.

(27) (95a)にはそれがないため、空範疇φ5 を設ける。しかしこのままでは、「アマ リ U1 の豪華さ 2(X)」の SR 式(=(98))は p 型であり、主要部であるため(57)の規則 が適用せず、見出しオブジェクトを決定できずに不適格となる。そこで 3.5.2. 節で触れたように、機能範疇φ 6 によってφ 5 と(98)の間に、叙述関係 (Predication)が成り立っているとする。この叙述関係に基づいて、φ5 が(98) の見出しオブジェクトに決定され、結果的に、φ5 が「アマリ U1 の豪華さ 2(X)」 である、という意味解釈が成立するのである。「に」という助詞は理由を表す と考え、φ6 の叙述関係全体が「言葉を失った」というコトの理由であると解釈 される。服部(1993)は、この用法のアマリでは「に」を伴うことが圧倒的に多 いが、(100)-(102)のように「に」以外の助詞を伴う場合もあると指摘している。 しかし「に」以外の助詞であっても、解釈の仕方に問題はない。 (100). 日本一のツインビル「ゲートタワー」(高さ 250 メートル)の完 成が、あまりの高層工事のため 1993 年春の開港に間に合わない ことがほぼ確実になった。(朝日 89.9.22)[cf. 服部 1993: 20, (135)]. (101). 別のスナックでは、壁飾りなどが倒れたり、歌っていた客があま りの揺れで、その場に座り込む姿も見られた。(朝日 89.7.7) [cf. 服部 1993: 20, (136)]. (102). 政府・自民党のあまりの横暴さは、首相の交代で帳消しにできる ものではないからである。(朝日 89.5.14) [cf. 服部 1993: 21, (137)]. 4.1.3. まとめ 4.1.1.節、4.1.2.節で見たように、本論文では、Lexicon において、o 型と p 型 の二種類のアマリを指定する。このことによって、アマリの様々な構文の特徴 が統一的に説明できると共に、これまでの先行研究では焦点が当てられていな かったアマリの特性や現象の相違点についても明らかにできることを示す。以 下、(88)の構文ごとに説明していく。 4.2. アマリノ P ニ、... まず、「アマリノ P ニ、...」(=(88a))の構文について、いくつかの例文をもと に、どのような意味解釈ができるかを明らかにする。.

(28) 4.2.1. 現象の観察 「アマリノ P ニ、…」の構文は、次のような場合である。 (103) a. あまりの楽しさに、時間を忘れた。 b. あまりの恐怖に、身震いした。 c. あまりの忙しさに、めまいがした。 4.2.2. 度合いを表す語との Merge ここで、(104a)の例文を考察する。この文は、(95a)と同じ構文であり、アマリ を p 型の SR 式を持つ語と考える。 (104) a. あまり U1 の成績 2(X)に U3、{飛び上がって喜んだ/がっくりと肩 を落とした}4。 b.. (104a)の文では、p 型の語である「あまり U1」と、v 型の語である「成績 2(X)」 が Merge し、(104b)のような LF になっているとする。(104a)の「あまり U1」と 「成績 2(X)」は、単独ならば、次の SR 式に置き換えられる語である。 (105). [. (. )=あまり]U1. (106). v2=成績(X). (104a)は、p 型の語が v 型の語を修飾している場合であるから、次のような一つ の SR 式で、linguistic SR が派生される。 (107). [成績(X)=あまり]U1. この意味解釈を考えると、X の成績が話者の基準値を越え、それが基準値を大 きく上回っているという状態を表している。(104a)を見れば明らかなように、 「あまりの成績」という表現は、その成績が「とても良い」場合にも「ひどく 悪い」場合にも用いることができる。つまり、基準値を大きく上回っている状 態とは、プラス方向だけでなくマイナス方向に対しても言える。その点で、(95a) とは大きく異なっている。(95a)では、「豪華さの程度があまりにも低くて、言 葉を失った」という解釈は許されない。この違いは、「豪華さ」という項目名.

(29) と「成績」という項目名の性質の違いとして考えるべきであろう。つまり、「豪 華さ」という項目名でのスケールは、プラス方向にのみ伸びていくスケールで あるのに対して、「成績」という項目名でのスケールは、プラス方向にもマイ ナス方向にも伸びていくスケールであり、だからこそ、(104a)のような両極端 の用法が可能なのである。 4.2.3. 度合いを表さない語との Merge 続いて、(108)の例文を考察する。 (108) a. あまり U1 の理由 2(X)に U3 あきれた 4。 b.. 「理由」という表現は、何らかの出来事に関する項目名に相当しており、した がって v 型ではある。しかし、「理由」という項目名の値に相当するものは、 「豪華さ」や「成績」、「感激」とは異なり、度合いを表すものではない。し かし、(108a)の意味を考えてみると、「理由」自体は度合いではないものの、 文全体を見ると、その「理由」の長々しさ、分かりにくさ、非情さなどについ て語っていることがわかる。すなわち、(108a)の linguistic SR も同様に考えれば よい。Merge 後、単独ならば次のような SR 式に置き換えられる。 (109). [. (. )=あまり]U1. (110). v2=理由(X). p 型が v 型を修飾しているため、次のような一つの SR 式が派生される。 (111). [理由(X)=あまり]U1. つまり、ある出来事 X に対する理由の長々しさ、分かりにくさ、非情さなどの 度合いが話者の基準値を越え、それが基準値を大きく上回っている状態を表し ている。 4.2.4. SR 式が自明でない語との Merge 次に、(112a)の例文を考察する。.

(30) (112) a. あまり U1 の感激 2(X)に U3、我を忘れた 4。 b.. 「あまり U1」と「感激 2(X)」が Merge し、(112b)の LF となる。単独では、「感 激」がどの型の SR 式に対応するのか自明ではないが、同じ(88a)の構文に生起 できることから、この場合も一種の感激の度合い、つまり、「何かの出来事 X に対する感激度」を表す v 型と考えてよいのではないだろうか。それぞれの語 は、次のような SR 式に置き換えられるものである。 (113). [. (. )=あまり]U1. (114). v2=感激(X). このとき、p 型の語が v 型の語を修飾している場合であるから、(115)の一つの SR 式が派生される。 (115). [感激(X)=あまり]U1. つまり、ある出来事 X に対する感激度が話者の基準値を越え、それが基準値を 大きく上回っていることを表す。 4.2.5. まとめ 以上のように、「アマリノ P ニ、...」の構文では、アマリを p 型として分析 するとすべてうまく説明できる。アマリと Merge する語はどれも v 型の言語表 現であり、その語が度合いを持っている場合については、「P の度合いが話者 の基準値を越え、それが基準値を大きく上回っている」という状態を表す。ま た、その語自体が度合いを持っていなければ、linguistic SR が派生された後、世 界知識からどのような度合いであるかという情報が補われ、「P の何らかの度 合いが話者の基準値を越え、それが基準値を大きく上回っている」という状態 を表すのである。 4.3. {アマリニ(モ)/アマリ(アンマリ)}P{ノデ/ト/ナラ}…、... 次に、「{アマリニ(モ)/アマリ(アンマリ)}P{ノデ/ト/ナラ}…、...」 (=(88b))の場合を考察する。.

(31) 4.3.1. 現象の観察 この構文は以下の例文のように用いられる。 (116) a. あまりに楽しかったので、時間を忘れた。 b. あまりに恐かったので、身震いした。 c. あまりに忙しかったので、めまいがした。 (117) a. あまりにも楽しかったので、時間を忘れた。 b. あまりにも恐かったので、身震いした。 c. あまりにも忙しかったので、めまいがした。 (118) a. あまり楽しかったので、時間を忘れた。 b. あまり恐かったので、身震いした。 c. あまり忙しかったので、めまいがした。 (119) a. あんまり楽しかったので、時間を忘れた。 b. あんまり恐かったので、身震いした。 c. あんまり忙しかったので、めまいがした。 4.3.2. p 型の語との Merge まず、(120a)の例文を考察する。 (120) a. あまり U1 にもおもしろい U2 ので U3、二度も読んだ 4。 b.. (120a)は、アマリが「おもしろい」を修飾しており、(88a)の構文と同じように、 アマリがある語を修飾するという関係になっている。そこで、(120a)のアマリ の SR 式も(88a)と同様に p 型であると考える。 (121). [. (. )=あまり]U1. 次に、「おもしろい」の SR 式を考えてみると、「おもしろい」も、何かの程 度が「おもしろい」と言えることから、p 型である。.

(32) (122). [. (. )=おもしろい]U2. つまり、p 型の語が p 型の語を修飾するという関係になっている。しかし、p 型の語同士の Merge では、(57)の規則が適用できず、不適格となる。このこと は、(59)の LF での制約からも言えるように、syntax として Merge が許されたと しても、それだけでは Merge 後の見出しオブジェクトを決められないからであ る。ここで、(57) (59)をもう一度示しておく。 (57). p 型の語は、主要部である Merge している相手から見出しオブジ ェクトを探し出し、決定する。. (59). 見出しオブジェクトが決定していない p 型の SR 式は、不適格 (ill-formed)である。. そこで p 型である「おもしろい」という語を、(88a)のアマリが修飾する語と同 じ、v 型に変える規則を LF で仮定する。 (123). p 型のアマリと Merge する語が p 型の場合、その語は v 型の SR 式に変換される。. (122)にこの規則が適用し、(124)のように変換される。 (124). v2=おもしろさ(X). すると、次のような linguistic SR が派生される。 (125). [おもしろさ(X)=あまり]U1. つまり、「X のおもしろさが話者の基準値を越え、それが基準値を大きく上回 っている」ために「二度も読んだ」という意味解釈ができる。 次に(126)について考察する。.

(33) (126) a. あまり U1 すごい U2 犬 3 を飼う 4 と U5、目が離せなくなる 6。 b.. (126a)の意味を考えてみると、「あまりすごい」とは、その犬(x3)について、 すごさが「話者の基準値を越え、それが基準値を大きく上回っている」という 特性を述べていると解釈される。従って、この構文のアマリも p 型であると考 えたい。しかし(126a)の「すごい」も p 型であるため、p 型のアマリと Merge しても SR 式がうまく派生されない。 (127). [. (. (128). x3[類: 犬]. (129). [. (. )=あまり]U1 )=すごい]U2. そこで、(123)の規則が適用し、(129)は(130)に変換される。 (130). v2=すごさ(X). そして、最終的に(131)のような linguistic SR が派生される。 (131). x3[類: 犬] [すごさ(X)=あまり]U1 | x3. 4.3.3. まとめ 以上のように、「{アマリニ(モ)/アマリ(アンマリ)}P{ノデ/ト/ナラ} …、...」の構文も、アマリは p 型として分析可能である。ただし、アマリが修 飾する語が p 型のままでは Merge 語の SR 式がうまく派生されず容認されない。 そのため、その語を p 型から v 型に変える規則を仮定し、p 型の語が v 型の語 を修飾する場合と同様に、意味解釈を導くのである。 4.4. P ノアマリ、... 次に「P ノアマリ、...」(=(88c))の構文について考察する。.

(34) 4.4.1. 現象の観察 この構文は(132)のように用いられる。 (132) a. 楽しさのあまり、時間を忘れた。 b. 恐怖のあまり、身震いした。 c. 忙しさのあまり、めまいがした。 ここで、一見アマリと P を入れ替えただけのように見える「アマリノ P ニ、...」 では容認可能なものが、「P ノアマリ、...」では容認できない場合があるとい うことが、これらの構文の大きな特徴である。 (133) a. あまりの楽しさに、時間を忘れた。 b. 楽しさのあまり、時間を忘れた。 (134) a. あまりの恐怖に、身震いした。 b. 恐怖のあまり、身震いした。 (135) a. あまりの忙しさに、めまいがした。 b. 忙しさのあまり、めまいがした。 (136) a. あまりの理由に、あきれた。 b. *理由のあまり、あきれた。 (137) a. あまりの方法に、驚いた。 b. *方法のあまり、驚いた。 (138) a. あまりのサイズに、二度見してしまった。 b. *サイズのあまり、二度見してしまった。 (139) a. あまりの年齢に、耳を疑った。 b. *年齢のあまり、耳を疑った。 (133)-(135)はどちらとも容認可能な例、(136)-(139)は「P ノアマリ、...」では容 認不可能な例である。以下では、Lexicon において二種類のアマリを指定する ことで、このような容認性の違いをうまく説明できることを主張し、その分析.

(35) を提示していく。 4.4.2. 度合いを持たない語との Merge まず、(140a)の例文を見る。(140a)は明らかに容認不可能な例文である。一方、 「あまりの理由に」と言った場合は容認可能であり、不自然さは全くない。一 見、「理由」とアマリを入れ替えただけの構文に見えるが、このような現象か ら、アマリと Merge する語には何らかの制限があると考えられる。 (140) a. *理由 1(X)のあまり 2、あきれた 3。 cf. (108a). ok. あまり U1 の理由 2(X)に U3 あきれた 4。. b.. (140a)の「理由 1(X)」は v 型の表現であるが、度合いは持っていない。「あま り 2」は、(89a)と同様に「何かの度合いが基準値を越えた」という出来事を指 示する o 型の SR 式であると考える。これらは単独では、次のような SR 式で表 される。 (141). v1=理由(X). (142). e2 [類: あまり; Theme:. ]. これまでのように「アマリノ P ニ」のアマリが p 型、「P ノアマリ」のアマリ が o 型であるとすると、度合いを持っていない v 型の表現(= 理由 1(X))は、 p 型のアマリとMerge するとSR 式がうまく派生されるが、 o 型のアマリとMerge すると SR 式がうまく派生されない、と考えれば説明できる。(143)も同様に、 「方法 1(X)」は度合いを持たない v 型の表現であるため、o 型のアマリと Merge しても SR 式がうまく派生されないと考える。 (143). 方法 1(X)のあまり 2、驚いた 3。 cf.. あまり U1 の方法 2(X)に 3、驚いた 4。. アマリを修飾する語が度合いを表さなければ「P ノアマリ、...」の構文が容認 されないということは、その語の SR 式に関わらず言えることである。(144b) の「受賞した 1」と(145b)の「読書した 1」は、度合いを持たない o 型の表現で ある。.

(36) (144) a. *受賞 1(E)のあまり 2、飛び上がって喜んだ 3。 b. *受賞した 1 あまり 2、飛び上がって喜んだ 3。 (145) a. *読書 1(E)のあまり 2、疲れ果てた 3。 b. *読書した 1 あまり 2、疲れ果てた 3。 4.4.3. 両方向に度合いを持つ語との Merge では、(146)はどのように説明できるだろうか。v 型の「成績 1(X)」は度合い を持つ表現であるが、それにも関わらず「P ノアマリ」では容認できない。 (146) a. *成績 1(X)のあまり 2、{飛び上がって喜んだ/がっくりと肩を落 とした}3。 cf. (104a). OK. あまり U1 の成績 2(X)に U3、{飛び上がって喜んだ/がっ. くりと肩を落とした}4。 b.. これについては、(104a)の例文で指摘した、「あまりの成績」が非常に良い成 績でも非常に悪い成績でも指示しうるという観察と関連づけて考えたい。すな わち、度合いを持つ語であっても、o 型のアマリが意味する「あふれて、何か の限界を越える」ためには、その値の変化の方向が一方向に固定されていなけ ればならず、どちらの方向にも解釈できる語との Merge では、SR 式がうまく 派生されず不適格となると考える。一方の p 型のアマリの場合、その必要性は ないのではないだろうか。 (147)の例も同様に、v 型の「サイズ 1(X)」には、大きいサイズの場合も小さ いサイズの場合もあり得る。また、(148)についても、v 型の「年齢 1(X)」には 年齢が高い場合も低い場合もあり得る。どちらの方向からでも解釈が可能であ り、度合いを表す方向が定まっていないからこそ、o 型のアマリとの Merge で は、SR 式が派生されないのである。 (147). *サイズ 1(X)のあまり 2、二度見してしまった 3。 cf.. あまり U1 のサイズ 2(X)に U3、二度見してしまった 4。.

(37) 年齢 1(X)のあまり 2、耳を疑った 3。. (148). cf.. アマリ 1 の年齢 2(X)に 3、耳を疑った 4。. 4.4.4. 容認性に個人差がある語との Merge 最後に、次の例文について考察する。 (149) a. ?{驚愕 1(X)/落胆 1(X)}のあまり 2 言葉が出なかった 3。 b.. (149a)の容認性には個人差があると思われるが、「驚愕」や「落胆」を、度合 いを含む v 型の表現と捉えることができれば、容認できると考えられる。 (150). v1=驚愕(X)/v1=落胆(X). (151). e2 [類: あまり; Theme:. ]. これは v 型の語が o 型のアマリを修飾している場合であるから、次のような linguistic SR が派生される。 (152). v1=驚愕(X)/v1=落胆(X) e2 [類: あまり; Theme:. ] | v1. つまり、必ずしも驚愕した度合いや落胆した度合いが話者の基準値を大きく上 回っているという状態に重点が置かれているわけではなく、ある対象 X の「驚 愕度」や「落胆度」が話し手の中での何かの限度を超え、その結果、「言葉が 出ない」という現象につながったということに重点が置かれているのである。 4.4.5. まとめ 以上のように、「P ノアマリ、...」の構文は、一方向への度合いを持つ v 型 が o 型のアマリを修飾していると考えることによって、 意味解釈を説明できる。 4.5. P アマリ、... 次に「P アマリ、...」(=(88d))の構文について考察する。.

(38) 4.5.1. 現象の観察 この構文は次のように用いられる。P が動詞である場合(=(153))と、形容詞で ある場合(=(154))とがある。 (153) a. 驚いたあまり言葉を失った。 b. 慌てたあまりミスを犯した。 c. 走り過ぎたあまり動けなくなった。 (154) a. 暗いあまり何度もこけそうになった。 b. 服が白いあまりこぼしたスープの色が目立った。 c. 背が低いあまり手が届かない。 4.5.2. o 型の語との Merge まず初めに、次の例文を分析する。 (155) a. 集中する 1 あまり 2、電車を乗り過ごしてしまった 3。 b.. (155a)の例文は、「集中する 1」という o 型の語がアマリを修飾している。ある 語がアマリを修飾するという関係は、(88c)の構文と同じであるから、この場合 のアマリも o 型であると考える。「集中する 1」と「あまり 2」の SR 式は、単 独では次のようになる。 (156). e1 [類: 集中する; Theme:. (157). e2 [類: あまり; Theme:. ; Agent:. ]. ]. そして、これは o 型の語同士の Merge であるから、3.5.1.節で述べたように、次 のような linguistic SR が派生される。 (158). e1 [類: 集中する; Theme: e2 [類: あまり; Theme:. , Agent:. ]. ] | e1. つまり、(155a)の文では、必ずしも集中する度合いが話者の基準値を上回って いるという状態に重点が置かれているわけではなく、ある対象(Theme)に集中す.

(39) る度合いが話し手の中で限度を超え、その結果、思わず「電車を乗り過ごす」 という結果につながったということである。「集中するあまり」は、「電車を 乗り過ごしてしまった。」という用言に対する修飾部として働いているため、 その行動を起こさせる要因として解釈されると考える。 4.5.3. p 型の語との Merge 次に、アマリが p 型の語と Merge する場合について考察する。 (159) a. 暗い U1 あまり 2 何度もこけそうになった 3。 b.. (159a)の「暗い U1」は p 型の表現であり、p 型の語がアマリを修飾している。あ る語がアマリを修飾するという関係から、この場合のアマリも o 型であると考 える。よって、「暗い U1」と「あまり 2」の SR 式は、単独では次のようになる。 (160). [. (. )=暗い]U1. (161). e2 [類: あまり; Theme:. ]. これは、p 型の語が o 型の語を修飾している場合であるから、次のような linguistic SR が派生されるはずである。 (162). [. (e2 )=暗い]U1. (163). e2 [類: あまり; Theme:. ]. しかし、このような派生では、意味解釈が不明である。そこで、p 型の語と o 型のアマリが Merge する場合、何か(=φ4) が「暗い U1」という Predication が、 φ5 という機能範疇によって成り立っていると仮定する。このときの LF を以下 に示す。 (164).

(40) このように仮定すると、φ5 の叙述関係全体が o 型の「あまり 2」と Merge する ため、「φ4 が暗いこと」の程度が、話し手の中で限度を超えたという意味解釈 が可能となる。この Predication を表す linguistic SR が(165)である。 (165). x4 [類: φ] [. ( x4 )=暗い]U1. [ x4 | U1 ]5 次の二つの例文も同じように叙述関係全体が o 型の「あまり 2」と Merge する と考えることで、解釈が可能となる。 (166). 服 1 が白い U2 あまり 3 こぼしたスープの色が目立った 4。. (167). 背 1 が低い U2 あまり 3 手が届かない 4。. 4.5.4. まとめ 以上のように、「P アマリ、...」の構文では、アマリは o 型であると考える。 この構文における p 型の語と o 型のアマリとの Merge では、 linguistic SR がうま く派生されない。そこで、Predication を仮定し、それが o 型のアマリと Merge すると考えることによって、意味解釈ができるのである。「P アマリ、...」の 構文は、「P ノアマリ、...」と同様に o 型であるから、linguistic SR がうまく派 生されるためには、アマリと Merge する語は一方向に度合いを持たなければな らないと考えられる。 4.6. アマリ P ナイ 次に「アマリ P ナイ」(=(88e))の構文について考察する。 4.6.1. 現象の観察 この構文は次のように用いられる。 (168) a. あまりご飯を食べない。 b. あまり学校に来ない。 c. あまり字が濃くない。 d. あまり鮮やかでない。.

(41) 4.6.2. 「アマリ P ナイ」の分析 初めに(169)の例文を分析する。 (169) a. あまり U1 人 2 が来 3 ない。 b.. (169a)の「あまり人が来ない」とは、「来る人数が話者の基準値を上回ってい るわけではない」という意味ではなく、「来る人数が話者の基準値を下回って いる」という意味である。本論文ではここまで、アマリには Lexicon に o 型と p 型の二種類があることを主張してきた。「アマリ P ナイ」の構文では、アマ リを p 型と考える。そして、p 型のアマリが同じ節内に否定語を伴う場合、そ の否定語と Merge し、LF でアマリ~ナイという形になると考えたい3。アマリ と否定語のナイが Merge することで、その意味も「何かの度合いが話者の基準 値を上回っている」状態から、「何かの度合いが話者の目安値を下回っている」 という状態を記述するものとなるとする。そこで、(169a)の LF は、(169b)のよ うになる。o 型である「人 2」と、同じく o 型である「来る 3」という語は、単 独であれば次のような SR 式で表されるものである。 (170). x2[類: 人]. (171). e3[類: 来る; Theme:. ; Agent:. ]. アマリと否定語ナイが Merge し、LF で「アマリ~ナイ」となる。そのため、 単独では次のような SR 式で表すこととする。 (172). 3. [. (. )=あまり~ない]U1. 匿名の査読者から、この条件付けではp型のアマリが同じ節内にあれば必ずアマリ~. ナイという形になるはずだが、「あまりの面白くなさに」という場合には「基準値を 上回っている」という解釈になり、同じ節内に否定があるということから自動的にナ イと結びついた解釈になるわけではないという指摘をいただいた。この点については、 まだ考察が至らず、将来の課題としておきたい。.

(42) まずは、「人 2」と「来 3 る」が Merge した後の SR 式が派生される。o 型が o 型を修飾しているため、次のようになる。 (173). x2[類: 人] e3[類: 来る; Theme:. ; Agent:. ] | x2. 次に、「あまり~ない U1」と「人 2 が来 3 る」が Merge した後の SR 式が派生さ れる。これは、o 型の語が p 型の語の主要部となっている場合であるから、3.5.2. 節で述べたように、次のような linguistic SR となる。 (174). x2[類: 人] e3[類: 来る; Theme: [. ; Agent:. ] | x2. ( e3 )=あまり~ない]U1. つまり、この linguistic SR から「来る人数が話者の基準値を下回っている」と いう意味解釈が得られるのである。 4.6.3. まとめ 以上のように、「アマリ P ナイ」の構文についても、Lexicon で新たに別の アマリを指定する必要性はなく、「アマリノ P ニ、...」や「{アマリニ(モ)/ アマリ(アンマリ)}P{ノデ/ト/ナラ}…、...」と同じように、アマリを p 型 として考えると上手く意味解釈ができる。この点は、「否定と呼応するアマリ としないアマリ」という区別をする先行研究とは大きく異なっている。. 5. まとめと考察 以上、統語意味論のアプローチにより、アマリの分析を行った。本論文では、 (175)のように、 Lexiconにおいて、 アマリには二種類の指定があると仮定した。 そして、Pとして許容される語の特性にはいくつかの条件があるが、(88a) (88b) (88e)のアマリをp型、(88c) (88d)のアマリをo型と仮定することによって、(88) のそれぞれの構文を用いた文の意味解釈を簡潔に説明できることを論じた。こ のLexiconにおけるp型とo型のアマリの区別は、 アクセントパターンにも現れて いる。p型のアマリは無アクセント、もしくは「アマリ↓」であるのに対し、o 型のアマリは「ア↓マリ」である。.

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