アトムプローブ法による ナノ構造体の組成分析
平成
25年度
三重大学大学院 工学研究科 博士前期課程 電気電子工学専攻
量子エレクトロニクス研究室
長縄 陽介
三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 2
目次
1章 序論...4
1-1 はじめに...4
1-2 電界誘起酸素エッチングエミッタ...4
1-3 酸化亜鉛...5
1-4 本論の構成...6
2章 理論...7
2-1 ナノ構造体の分析手法...7
2-1-1 電界放射顕微鏡法...7
2-1-2 電界イオン顕微鏡法...11
2-1-3 アトムプローブ法...17
2-2 電界電離ガスイオン源の理想形状...21
2-2-1 先端形状が与える放出イオン電流への影響...21
2-2-2 電界誘起酸素エッチング法...22
2-2-2-1 電界誘起酸素エッチング法の原理... 22
2-2-2-3 表面組成がイオン電流に及ぼす影響... 26
2-3 酸化物エレクトロニクスのナノ構造体...28
2-3-1 酸化亜鉛(ZnO)ナノロッド...28
3章 実験装置...31
3-1装置の構成...31
3-2 FEM、FIMとアトムプローブの詳細...33
3-2-1 電界放射顕微鏡(FEM)及び電界イオン顕微鏡(FIM)の詳細...33
3-2-2 アトムプローブの詳細...33
3-3 アトムプローブ測定結果の校正...36
4章 電界誘起酸素エッチングエミッタの組成分析...41
4-1 電界誘起酸素エッチング試料の作製...41
4-1-1 電解研磨による試料の作製...41
4-1-2 電界誘起酸素エッチング法の手順とエミッタ先端の表面形状...42
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4-2 大気暴露の影響...44
4-3 電界誘起酸素エッチングエミッタの組成分析...47
4-3-1 電界誘起酸素エミッタ組成及びエッチング条件による組成への影響...47
4-4 ナノ突起直下及びベース部のW酸化物組成...55
4-5 ベース部でのくびれ形状の形成...60
4-6 まとめ...63
5章 酸化亜鉛ナノロッドの組成分析...64
5-1 Ga-dope ZnOナノロッドの作製...64
5-1-1 水熱合成法によるZnOナノロッドの作製...64
5-1-2 支持W tipの作製...66
5-1-3 分析用試料の作製...66
5-2 Ga-dope ZnOの組成分析...67
5-3 検出深さ方向の検出レート...69
5-4 ドーパントGaの取り込み量...72
5-5 まとめ...73
6章 結論...74
参考文献...75
謝辞...77
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1章 序論
1-1 はじめに
原子の種類は 100 種程であるが、原子配列、構造をナノメートルオーダーで 組織化すると、量子効果やサイズ効果、表面効果など大きな塊では顕著に現れ ない現象を観測することができる。このように物質を原子、分子レベルで操作、
制御しナノサイズの特性を利用して、新しい機能や優れた性質を持つものを作 り上げる技術をナノテクノロジーと呼び、近年では、小型で高速、更にはエネ ルギー消費が少ない情報処理デバイスなどにこの技術が大きな役割を担ってい る。現在、ナノ構造を構築する技術としてリソグラフィや成膜、エッチングな どの微細加工技術、原子や分子から構築する技術が進められているが、今後、
さらなるデバイスの微細化や高性能、高速化を進めていくために、これらの技 術の進歩は重要である。デバイスに応用するためには、作製された構造をナノ スケール、原子スケールで分析する技術も必要不可欠であり、デバイスの発展 に合わせ分析技術にも高い性能が求められている。
上述のナノスケールでの分析に対し、試料表面を原子レベルで観察する手法 として電界イオン顕微鏡(Field Ion Microscopy: FIM)が1955年、Müllerによって 開発された[1]。FIMでは、正の高電界が印加された固体試料に気体分子が分極し 近づく。試料表面の突出した原子上で気体分子内の電子が電界により低減した ポテンシャル障壁をトンネリングし、正イオンとなる。このイオンが対向のス クリーンに衝突することで、固体試料表面の個々の原子を反映した像を観察す する事ができる。さらにMüllerは、FIMに飛行時間(Time of Flight : ToF)型質量 分析器を取り付けたアトムプローブ電界イオン顕微鏡を開発した[2]。アトムプロ ーブ法は FIMで表面原子の観察を行い、電界蒸発現象を利用することで個々の 試料原子をイオン化させ、ToFによるイオン飛行時間測定からイオン質量を算出 することで組成原子を同定できる非常に優れた分析手段である。近年のアトム プローブ法では、バルク試料の組成分析に焦点を合わせており、高速に多量の データを収集する仕様が主流と成っている。本研究ではデータ収集を低速で行 い、表面の情報をより正確に得る仕様で分析を行っている。
1-2 電界誘起酸素エッチングエミッタ
走査イオン顕微鏡法による表面観察、スパッタリングによる超微細加工、ナ ノメートルオーダーでの成膜が可能と複数の機能を有することから、半導体の
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配線変更やマスクリペアー、透過型電子顕微鏡の試料作製などの超微細加工装 置として幅広い分野で用いられている集束イオンビーム(Focused Ion Beam: FIB) 装置では、その探針として液体金属イオン源(Liquid Metal Ion Source: LMIS)が一 般的に搭載されている[3]。その中でも低融点・低蒸気圧、Siのドーパント元素で もあることからGaが多くのLMISに採用されている。しかしながら、FIBの加 工機能に関して、照射Gaイオンによる試料表面及び内部の汚染などの問題があ る。試料汚染問題などを解決するためGa-LMISに替わる次世代FIB探針として、
電界電離型ガスイオン源(Gas Field Ion Source: GFIS)の搭載が求められている。
しかしGFISにおいてビームの開き角が数10°と大きく、更に放出イオン電流は 1原子あたり10-16 Aと非常に小さいという問題点が存在する。問題に関して、
エミッタ形状を制御する事で放出電流の増大を計る研究が行われてきた。電子 源エミッタとして、Gomer は半球状エミッタ上の先端部に微小な突起が静電レ ンズ効果を引き起こし、ビームが集束され増加することを報告した[4]。この効果 をイオン源エミッタに応用し、Kalbitzer らはエミッタ先端上に微小突起を形成
させた Super-tip と呼ばれる理想形状から、電流電圧特性および最適動作条件な
どを報告した[5]。当研究室の Sugiura らは、Rezeq らやMizuno らが報告した[6,7]
電界誘起酸素エッチング法の条件を改良することで、前述の理想形状に近いエ ミッタ作製に成功した[8]。電界誘起ガスエッチング法は、ガスと金属を化学反応 させることでエッチングを行う技術であり、エミッタの組成が変化する事が懸 念される。GFISとして動作させた時、ガス原子は分極し、エミッタに引き寄せ られた後、ホッピング運動をすることでガス原子の熱エネルギーが緩和され、
イオン化確率の高い領域に達した時、イオン化する。表面組成は、1回のバウン ドにより緩和される効率、熱収容効率に影響する事が報告されている。イオン ビームとなるガス原子イオン化領域に達してイオン化される確率は捕獲確率と 定義され、Southonによって熱収容率を含む半経験的な公式で提案されている[8]。 従って、エミッタ開発においてエミッタの表面組成を知る事は、上記の点で重 要である。本研究では、探針の表面組成はエミッタのビーム特性に影響するた め作製されたナノ突起部の組成さらにはベース部の組成調査を明らかにした。
1-3 酸化亜鉛
近年盛んに研究が行われている酸化物エレクトロニクス分野において、酸化
亜鉛(ZnO)は毒性の心配が無く比較的豊富且つ安価で、資源環境的問題がないた
め、 亜鉛華(亜鉛白)と呼ばれ工業的に広範な用途に大量に使用されている材料 である。エレクトロニクス分野では古くから電子写真用感光体、ガスセンサー、
蛍光体、圧電素子及び透明導電膜等が研究開発され、多くは現在でも広く実用
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されている。これらの用途で利用されるZnOの形態は、粉末、焼結体セラミッ クスもしくは薄膜であり、全て多結晶である。一方、高品質結晶(単結晶) ZnO を用いる半導体レーザーや発光ダイオード等の発光デバイスや音響光学デバイ ス等の実現を目指した研究も報告されている。このようにZnOは半導体材料と して注目すべき新規な研究開発が展開されている。このZnOをデバイス応用す るために、AlやGa、InなどのⅢ族元素が陽イオンドーパントとして用いられて おり、ドープ種などに対する特性評価やZnOの特性を効率よく利用するため、
ナノウォールやナノワイヤーなどのナノ構造体合成に関する研究も盛んに行わ
れている[9-11]。優れた圧電特性を利用し、センサーへ応用をするため、ナノサイ
ズのロッド形状は微細な力を検出可能であるため、高感度フォースセンサーと しての応用研究が行われている。Ichikawaらは水熱合成法により高密度で配向性 に優れたZnOナノロッドの合成に成功した。しかしながら、作製されたZnOナ ノロッドの化学組成やナノロッド内のドーパントの取り込み量、分布に関する 知見は得られていない。そこで本研究では水熱合成法によって合成された
Ga-dope ZnOナノロッドの組成分析、ドーパントの取り込み量や濃度分布調査を
明らかにした。
1-4 本論の構成
本論文は 6 章から構成されており、第 2 章では本研究の分析手法に用いた電 界放射顕微鏡法、電界イオン顕微鏡法、アトムプローブ法について、また電界 誘起酸素エッチング法および酸化亜鉛ナノロッドに関する理論について述べる。
第 3 章では本実験で使用した装置、システム構成、装置改良による校正結果に ついて述べる。第 4 章では電界誘起酸素エッチング法で作製されたエミッタの 作製法および組成分析結果、第 5 章では、ZnO ナノロッド試料の作製法および 組成分析結果、最後6章に、本研究の結論について述べる。
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2章 理論
本章では、本研究を遂行する基となる理論について述べる。2-1節ではナノ構 造体分析手法に用いた電界放射顕微鏡、電界イオン顕微鏡法、アトムプローブ 法での組成を同定する原理である飛行時間型質量分析について述べる。2-2節で は GFIS 理想形状について、GFIS 先端形状が与える放出イオン電流への影響、
電界誘起酸素エッチング法、エミッタ先端の曲率半径の算出について述べ、GFIS 表面組成がイオンビームに与える影響についても述べる。3-3節ではZnOナノロ ッドについて述べ、合成法に用いた水熱法の原理について述べる。
2-1 ナノ構造体の分析手法
本節では、ナノ構造体分析手法として使用する電界放射顕微鏡法、電界イオ ン顕微鏡法、アトムプローブ法について述べる。
2-1-1 電界放射顕微鏡法
電界放出は、量子力学的なトンネル効果によって電子がポテンシャル障壁を 透過し、真空中へ放出される現象である。この電界放出現象の理論は、1928 年 にR.H.FowlerとL.Nordheimによって確立された。Müllerは、FowlerとNordheim により示された電界放射に求められる電界強度を実現するために極めて鋭いタ ングステンの針を作製し、単一の突起からの電界放射像を観察するためにタン グステンの針を作成し、針の前方にスクリーンを設置した。針を 1000℃以上に 加熱する事により針先の放射面を清浄化し, タングステンの(110)面を中心とす る電界放射像の観察に成功し、1936年電界放射顕微鏡(Field Emission Microscope:
FEM)を開発した。本研究では、分析位置調整のため、FEMにより分析位置を決 した。
2-1-1-1 電界放出の理論[12,13]
粒子のド・ブロイ波長λは
€
λ =h pで与えられるが、その波長が空間的にゆっ くり変化し、の条件が満たされる場合には、Wentzel-Kramers-Brillouina(WKB)近 似法が用いられる。これは波長λが短く、エネルギーが高い場合に相当し、
€
€
ϕ(x)=exp(iσ/) (2.1) とおいて、σを
€
のベキ級数に展開して近似を進める方法である。任意の形のポ
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テンシャル障壁に対し、回帰点では波長が無限大となりWKB近似は使用できな い。従ってこの回帰点での波動関数の連続性に関する境界条件をWKBはジェフ リーズの方法に従って、次式の様な透過率を求めた
€
D =exp(−2K) (2.2)
€
K = k(x)dx
a b
∫ (2.3)
€
k(x)={2m V(x)[ −E]}1 2
(2.4) ここで、a、bは回帰点である。この式はトンネル現象の解析によく使用される。
金属表面の電界強度を3~7 V/nm 程度にすると、室温においても電子放出が起 こる。これを電界放出という。FowlerとNordheimは、図2-1に示された強電界 が印加されたときのような電界放出時のポテンシャル図を展開した。鏡像力に 基づくポテンシャルエネルギー
€
−e2 4xと、表面に印加された電界 F に基づくポ テンシャルエネルギー
€
−eFx が合成されたポテンシャルエネルギーによって、
€
V(x)は次式のように表される。
€
V(x)=−e2
4x −eFx (2.5) 電界強度 F を大きくすると電位障壁の厚さが薄くなる。十分に厚さが薄くな ると、フェルミ準位近傍の電子はトンネル効果により障壁を透過して真空中に 放射される。鏡像力を無視して、エネルギーEn を持つ電子のポテンシャル障壁 を透過するトンネル確率は
€
D E( n) ∝exp −8π 2m
3heF
⎡
⎣
⎢
⎢
⎤
⎦
⎥
⎥ En 3 2 (2.6) が得られる。ここではhはプランク定数、
€
Φは仕事関数であり、金属内の自由電 子はフェルミエネルギーEf=
€
Φである。EnとEn+dEnの間のエネルギーの範囲で金 属表面から放出される電子の数N(En)はフェルミ分布に従い次式で与えられる。
€
N E( n) = 4πmkT
h3 ln 1+exp −En−Ef kT
⎛
⎝ ⎜ ⎞
⎠ ⎟
⎧ ⎨
⎩
⎫ ⎬
⎭ exp −8π 2m 3he En3 2
⎧ ⎨
⎩
⎫ ⎬
⎭
0
∞
∫ dEn (2.7)
積分内の第1項はEnがEfより大きいときにほぼ 0となり、第2項はEnがEfよ り小さくなると急激に小さくなる関数であるため、有効な積分範囲はEnがEfよ り小さく狭い範囲となる。つまり、電界放出電子は、フェルミ準位より低く極 狭いエネルギーを持つ電子が優先的に放出される。 (2.7)式の積分を行うと、電 流密度Jは次式のようになる。
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€
j = e3F2
8πhΦexp −4 2m 3heF Φ3 2
⎡
⎣ ⎢
⎤
⎦ ⎥ (2.8) Jを[A/cm2]、Fを[V/cm]、仕事関数を
€
Φ [eV]で表せば、
€
j=1.54×10−6F2
Φ exp −6.83×107Φ3 2 F
⎡
⎣ ⎢ ⎤
⎦ ⎥ (2.9)
この式は ln(j/F2)対 1/F の曲線が直線となることを示しており、実験事実とよく
一致し、電界放射陰極の特性評価に用いられる。
図2-1 負の電圧を印加した場合の電子に対する金属表面ポテンシャル
2-1-1-2 電界放射顕微鏡の原理[12,13]
電界放出には、3〜7×107 V/cm程度の強電界が必要であり、平面においてその 強電界を得るのは困難である。実際には、電解研磨等で先端を針状に尖鋭化し た細線をエミッタとして用いることで表面の電界を増強している。先端曲率半 径 r のエミッタに電圧 V を印加したときのエミッタ表面の電界は次式で与えら れる。
€
F = V
kr (2.10) ここで、
€
V/rはエミッタ形状が球であるときの表面電界である。kは形状因子と
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呼ばれ、実際のエミッタに存在するシャンクのための補正因子であり、一般的 なエミッタ先端においてk 5 である。この式は、先端曲率半径が数100 nmの エミッタに数 kV の電圧を印加することで電界放出に要する電界が得られるこ とを示している。
エミッタに対向する陽極に蛍光板を用いることで、エミッタ先端の電子放出サ イトの拡大像を得る方法が電界放射顕微鏡法(Field Emission Microscopy: FEM)で ある。この原理を図2-2に示す。もしエミッタ先端と蛍光板が同心球であれば、
電気力線はエミッタ表面から放射状に広がっていく。陰極表面から放出された 電子の運動エネルギーは十分小さいので、電子はその電気力線に沿って放射状 に加速される。蛍光板に電子が衝突すると、半球状のエミッタなら各結晶面の 仕事関数の差による放出電子の密度分布を反映した明暗をもつ拡大像が得られ る。陰極先端球面の中心から蛍光板までの距離をRとすると、この像の倍率はR / rとなる。陰極のシャンクは、陰極先端の電界を減少させるだけでなく、電気 力線を陰極の軸方向に圧縮し、レンズ作用を及ぼす。そのため倍率は次式で与 えられる。
€
M = R
ρr (2.11) ここで、ρ は電気力線の圧縮因子(compression factor)と呼ばれ、一般的な陰極に おいてはρ≈1.5である。
図2-2 FEMの模式図
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2-1-2 電界イオン顕微鏡法
電界イオン顕微鏡(Field Ion Microscope: FIM)は1928年にOppenheimerにより1 nm あたり、20数ボルトという高電界中では、 水素原子内の電子はトンネル現 象により放出され、 陽イオン化する電界イオン化が起こると示された。Müller は FEM の試料に正電圧を印加し, 鏡体内に水素ガスを導入すると, 針先の表面 原子に吸着した水素原子が、針先に発生した強電界により陽イオン化し、 針に 印加された正電位により反発力を受けてスクリーンへ入射する考えから始まる。
この投影顕微鏡は金属表面原子の一個一個が観察できるため、金属学の研究に 非常に役立つ事が認められた。本研究ではタングステン試料エミッタ先端の表 面構造の観察及び、ナノ構造体の形成の確認のために用いた。
2-1-2-1 電界電離現象(Field Ionization)[12,14]
強い電界中に置かれた原子や分子が電子を失ってイオン化する現象は、電界 電離現象として知られている。図2-3に示すように金属表面に強電界が印加され ている場合を例として考える。電界によって引き寄せられた分子が金属表面近 傍に存在すると、分子中の電子は外部電界とイオン核により作られたポテンシ ャル障壁をトンネルして真空中に飛び出してゆく。金属表面と分子間の距離に よっては、電子は金属中の許された状態にトンネルして移動する場合の確率の 方が大きくなる。分子が金属に近づくほど、分子のイオン化確率は大きくなる が、ある距離以上近づくと分子内の電子が金属電子に占有されているフェルミ 準位以下となり、パウリの禁制則によりトンネルしなくなるためイオン化は起 こらなくなる。この臨界距離 X = ZCは分子のイオン化エネルギーをIとすると、
ほぼ ZC = (I−
€
Φ)/eF で与えられる、ZCにおいて電子が金属中に透過する確率は WKB近似により求めると、
€
D(Zc)=exp −4.55×107(I − ΔV)1 2(I − Φ) F
⎧ ⎨
⎩
⎫ ⎬
⎭ (2.12) となる。ここで
€
ΔVはショットキー効果によるポテンシャル障壁の降下量であり、
€
ΔV =2(e3F)1 2と表せる。分子のイオン化に対する寿命τは電子が障壁に衝突する 回数νと障壁を通過する確率Dの積で与えられる。
この電界電離現象を利用して原子の配列を直接蛍光面に投影する方法が電界 イオン顕微鏡法(Field Ion Microscopy : FIM)であり、次節で述べる。
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図2-3 正電界の作用する金属表面に入射したガス原子が 電界電離する場合のポテンシャル
2-1-2-2 電界イオン顕微鏡の原理[12,14]
2-1-2-1で述べたように正の強電界(20〜45 V/nm)を印加した時、そこに入射し
たガス原子は電界の強い金属表面近傍で電離し、陽イオンとなって電気力線に 沿って放射される。この現象を利用して針状金属エミッタ先端の原子配列の拡 大像を得る方法が FIM である。その機構を図2-4 に示す。正の強電界がかかっ ているエミッタ表面原子のうち、突出原子の外側には、最も強い電界が存在す る。そのため、結像ガスに用いられるHeなどの希ガスは突出原子上に分極され た形で電界吸着する。突出原子の約5 Å離れたところにはイオン化確率の最も高 い領域があり、小円盤状をしているのでイオン化ディスクと呼ばれている。エ ミッタ先端に接近する希ガス原子は常温での熱エネルギーと電界中の分極エネ ルギーの和の運動エネルギーをもってエミッタ表面に衝突する。衝突したガス 原子は一旦跳ね返るが、また強電界に引き付けられて衝突する。このようなホ ッピングと呼ばれるバウンドを何回も繰り返す。エミッタは冷却されているの で、He原子は衝突毎にその運動エネルギーを失い、次第にホッピングの高さは 低くなる。その後、このイオン化ディスクでの滞在時間がイオン化の寿命程度 になると電界イオン化し、自身は正イオンとなり、正の高電圧が印加されてい るエミッタに反発されて対向電極の蛍光スクリーンに向けて放出される。放出 されたイオンは十分冷却されているので、熱エネルギー由来の初速度の横成分 が小さく、電気力線に沿って加速される。さらに、電界イオン化は表面原子の
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直上の限られた領域で選択的に起こるので蛍光面にはエミッタ先端の原子配列 を示す分解能の高い像が拡大投影される。種々の結像ガスのイオン化電界強度 は表2-1に示す。先端曲率半径rのエミッタの平均電界強度Fは、次式で表わさ れる電界増強因子
€
β
€
β = 1
kr (2.13) を用いて、
€
F =βV = V
kr (2.14) で与えられる。ここでkは形状因子(geometric factor)と呼ばれ、実際のエミッタ に存在するシャンクのための補正因子であり、V は蛍光面と試料間に印加され た電圧である。k は先端において
€
k≈5であり、導電性の良くない半導体エミッ タの結像ガスのイオン化電界強度は約 40〜50%低くなるが、その原因の 1 つは 電界が半導体内部に浸透することによるものと考えられている。
図2-4 電界イオン顕微鏡の機構
表2-1 結像気体の電離電界強度
結像気体 イオン化電界強度(V/nm)
He 45
Ne 38
Ar 22
H2 22
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2-1-2-3 電界イオン顕微鏡の倍率と分解能[14]
FIM の倍率は FEM の倍率と同様に M=R/ρr である。また FIM の分解能は FEM に比べて高いため、識別可能な隣接する原子間距離で与えられる。図 2-5 に示すように試料エミッタ上の1点から出発したイオンが蛍光面で拡がる範囲 Δysを試料表面上に換算した値、Δy/Mを理論的に計算した結果を整理すると分解 能は次式で与えられる。
€
δ =δ0 + 4 ρ2rh2 2αemF
⎛
⎝ ⎜ ⎞
⎠ ⎟
1 2
+16 ρ2rkT αem
⎛
⎝ ⎜ ⎞
⎠ ⎟
⎧
⎨ ⎪
⎩ ⎪
⎫
⎬ ⎪
⎭ ⎪
1 2
(2.15)
ここで、αはα~5 の定数、イオンの質量m、ボルツマン定数k、素電荷e、イオ ン化直前の結像気体の温度T、結像気体分子の直径δ0によって決まる項である。
分解能は理論的に上式の主な 3 項からなり、{ }内第 1 項はハイゼンベルグの 不確定性原理による速度のばらつきによる項、第 2 項は電離直前の結像ガスの 温度によって決まる運動に基づく項で、エミッタ温度まで十分下がっている場 合は第1項に比べて無視できる。実験的にエミッタ半径 r 及びエミッタ温度を かえてδ の変化を求めると式(2.15)によく一致する。しかし、δ0の実験値は結像 気体原子の直径によって決まる項であるが電界によって多少変化し、結晶面に よっても異なる。FIMの分解能は高く、例えば60 Kでr~50 nmのタングステン
(112)面の再近接原子間隔0.247 nmで隣接する原子を分解することができる。
図2-5 エミッタから放出されたイオンの軌道
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2-1-2-4 FIM像からのエミッタ先端曲率半径の算出法[12,13,15]
試料エミッタの先端は巨視的には半球面に近いため、FIM により各結晶面の 原子配列を示す像が対向電極の蛍光面に投射される。図2-6と2-7はタングステ ンFIM像の一例と<011>結晶面のステレオ投影図である。
各結晶面のミラー指数はそれぞれの面を中心とする回転対称性および主要結 晶面の間の角度の比較、各結晶面の原子配列等から決定される。なお立方晶系 の各結晶面間の角度θは各々の面指数を(h1 k1 l1)、(h2 k2 l2)とすれば、
€
cosθ = h1h2 +k1k2+l1l2
(h12 +k12+l12)1 2(h22 +k22+l22)1 2 (2.16) で与えられる。
FIM像における主要結晶面(h1 k1 l1)の周囲の円形ステップ数がその周辺の結晶 面(h2 k2 l2)の中心まで数え、その値をnとすれば、結晶面(h1 k1 l1)の近傍の曲率半 径 r は図2-8に示すように
€
r = nS
1−cosθ (2.17) で与えられる。ここでSは結晶面(h1 k1 l1)のステップ高さである。例えばタング ステンの場合、中心の結晶(011)面から{112}面の中心までの円形のステップの数 をn とすればエミッタの平均曲率半径ra は、
€
ra = N
1−cos 30°• a
2 2 (2.18) で与えられる。ここで、aは格子定数である。
この理論より電界誘起酸素エッチングによって作製されるナノ突起構造の曲 率半径を算出することが可能である。
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図2-6 [011]晶帯軸のステレオ投影図 図2-7 タングステン[011]のFIM像
図2-8 エミッタ先端のモデル図
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2-1-3 アトムプローブ法
FIMに飛行時間(Time of Flight : ToF)型質量分析器を取り付けたアトムプロ ーブ電界イオン顕微鏡は、電界蒸発現象を利用することで個々の試料原子をイ オン化させ、ToF によるイオン飛行時間測定からイオン質量を算出することで 組成原子を同定できる非常に優れた分析手段である。アトムプローブ法は原子 もしくは分子 1 個ずつ組成分析を行えるため微小領域の分析に有効であり、本 研究は、このアトムプローブ法によりナノ構造体の組成分析を行った。
2-1-3-1 電界蒸発現象(Field Evaporation) [12]
エミッタ先端の電界が十分に高いと、物質表面上の原子の電子が物質内部に 移って電界イオン化し、そのまま正イオンとして空間中に飛び出す。飛び出し たイオンが物質を構成していた原子である場合と表面に吸着した異種原子であ った場合、これらをそれぞれ電界蒸発および電界脱離と呼ぶ。
初期の電界蒸発の理論は、FIMが発明された際に Müllerが鏡像ポテンシャル
モデル(Image-hump model)を用いて説明が試みられた。ここで鏡像ポテンシャル
モデルを示す。
図2-9は表面原子が電界蒸発するときの様子を示したポテンシャル図である。
図の中性状態曲線とは表面原子Aと基体Mとの間のポテンシャルを示しており、
この曲線はAの半径RAの位置で最も深く、その位置のポテンシャルの値はA-M 間の結合エネルギーΛに等しい。イオン状態曲線はA のn 価のイオンAn+とM との間のポテンシャルを示している。この曲線は中性状態曲線より∑
€
In −nΦの値 だけ高くなっている。ここで、∑
€
InはAをn価のイオンとして電離するための必 要なエネルギーであり、
€
nΦはAから仕事関数
€
ΦのMへn個の電子が遷移すると きに放出されるエネルギーである。
表面に電界Fが印加されると、イオン状態曲線は、Fによる力neFxだけ押し 下げられ、図2-9のように中性状態曲線と交差する。このとき、表面原子Aがn 価の陽イオンAn+となって蒸発するために必要な活性化エネルギーQnは、図から、
€
Qn =Λ+ In−nΦ −n2e2
4xc −neFxc
∑ (2.19) となる。ここで、xcは図の2つの曲線が交差する位置を表しており、上式の第四 項はAn+とM内のAの鏡像An-との間の鏡像ポテンシャルである。ただしここで は
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原子が表面に近づいたときのエネルギー準位の移動や拡がり
電界がエミッタ内部に浸入することによるポテンシャル曲線の変化
強電界Fにある原子やイオンの分極による効果
などは無視されている。したがって、印加電界Fが大きくなると、xc=RAと近似 できるのでQn=Qとなる。そうすると、Aは電離してAn+となってより低いポテ ンシャルに移る。このときの電界FnをAの蒸発電界と呼び、式(2.19)より、
€
Fn =(Λ+∑In−nΦ)
nRA −3.6n2
RA2 (2.20) で与えられる。表2-2に種々金属の蒸発電界を示す。蒸発したイオンAn+はある 基体Mより反発力を受けて表面より離れ、電界電離された結像ガスイオンと同 様に電気力線に沿ってスクリーンに向かって飛行する。しかし、理論と実験と は定量的にもまだかなり食い違いが多い。また半導体のように電気抵抗の大き い物質では表面近傍に侵入する電界が無視できなくなるので更に考慮が必要と なる。
図2-9 電界Fが作用する表面近傍にある原子及びイオンの ポテンシャルエネルギー
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表2-2 種々の金属の蒸発電界強度(主に21K)
金属 蒸発電界強度 [V/nm] 金属 蒸発電界強度 [V/nm]
Be 34 Mo 46
Al 22 Ru 45
Si 30 Rh 46
Ti 25 Ag 22
Fe 35 Ta 47
Co 36 W 57
Ni 35 Re 48
Cu 30 Ir 53
Zr 35 Pt 48
Nb 35 Au 35
2-1-3-2 飛行時間型(Time of Flight)質量分析の原理[15,16]
2-1-3-1 節で述べたように試料に高電圧を印加し、試料先端の電界が十分に高く
なると試料表面上の原子は電子が試料内部に移ることで電界イオン化し、正イ オンとして空間中に飛び出す。イオン化された試料原子は試料に印加された高 電圧により加速され検出器に到達する。このような原子の電界蒸発を定常電圧 に高電圧パルスを重畳することで、原子がイオン化される瞬間からこれが加速 され検出器に到達するまでの時間を測定することができる。その模式図を図
2-10に示す。
電界蒸発したイオンの持つエネルギーはイオンの価数 n と試料に印加した電 圧から
€
Q =neV (2.21) となる。ここで、V は定常電圧 VDCと高電圧パルス Vpulseを重畳したもの、e は 電気素量である。また、加速されたイオンの持つ運動エネルギーKは
€
K =1 2m L
t
⎛
⎝ ⎜ ⎞
⎠ ⎟
2
(2.22) となる。mはイオンの質量、Lとtはそれぞれイオンの飛行する経路の長さとイ オンの飛行時間である。したがって、L/tはイオンの飛行速度を表す。また、(2.21)
と式(2.22)から力学的エネルギーに保存則より
€
neV =1 2m L
t
⎛
⎝ ⎜ ⎞
⎠ ⎟
2
(2.23) となり、
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€
m
n = 2et2V
L2 (2.24)
€
t = m
2neVL (2.25) を得る。よって、この式から飛行時間を計測することで質量電荷比を算出する ことが出来る。
図2-10 アトムプローブ法ToFの原理図
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2-2 電界電離ガスイオン源の理想形状
KalbitzerはGFISエミッタの理想形状として大きな曲率半径を持つエミッタ先
端中央部にナノ突起構造体をもつ形状を提唱している[5]。この形状を再現するた
め、SugiuraらはRezeq、Mizunoらが報告した電界誘起酸素エッチング法の条件
に改良を加えることで理想形状を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)によってその 形状を確認している。本節では、先端形状が与える放出イオン電流への影響に ついて述べ、次にGFIS理想形状を作製する電界誘起酸素エッチングについて述 べる。さらにエミッタ表面の組成が与えるイオンビームへの影響について述べ る。
2-2-1 先端形状が与える放出イオン電流への影響
GFISエミッタの先端理想形状として、Kalbitzerは図に示されるようなモデル を提唱している[5,18]。図2-11(a)は GFIS技術の初期の研究で用いられた標準的エ ミッタ先端形状のモデルであり、先端の直径は~100 nmである。それに対し、図
2-11(b)は標準的なエミッタ形状の先端に直径~1 nmのsupertipと呼ばれるナノ突
起構造体を持つ形状である。これがGFISエミッタの理想形状で、標準的エミッ タ形状と比較し、イオンビームの開き半角は30°から1°に集束される。ここで、
放射角電流密度dI/dΩは、放出イオン電流Iとイオンビームの立体角Ψを用いて 以下の式で与えられる。
€
dI dΩ = I
Ψ (2.26) Kalbitzerは、Heイオンの場合、標準的なGFISのdI/dΩは0.1 µA/srであるのに 対し、理想形状を持つGFISでは、LMISのdI/dΩと同程度である20 µA/srまで 向上させることができると報告している。
図2-11 GFISエミッタの形状モデル ((a)標準的なエミッタ形状, (b)理想形状[5].)
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2-2-2 電界誘起酸素エッチング法
エミッタ先端上にナノ突起構造体を作製するための電界誘起酸素エッチング の原理及び、進行過程モデルについて述べる。
電界誘起ガスエッチング法は、Rezeqらによって2006年に報告されており[6]、 FIM像の観察中にN2を導入することでエミッタ先端を先鋭化し突起構造を形成 することができる手法である。また電子源の作製法として、Mizunoらはエッチ ングガスに N2ではなく O2を用いて、エミッタ先端を先鋭化する電界誘起酸素 エッチング法の報告をしている[7]。本研究では、条件改良を行った電界誘起酸素 エッチング法[8]をイオン源エミッタの作製に適用している。
2-2-2-1 電界誘起酸素エッチング法の原理
電界誘起酸素エッチングの原理について図2-12の電界誘起酸素エッチング進 行過程モデルを用いて説明する。電界誘起酸素エッチングは、He、O2雰囲気中 において、100 Kに冷却したエミッタに数kVの正電圧を印加する。この状態で、
He と O2は、高電界により分極し、エミッタ先端に引き寄せられる。ここで表 2-3にHeとO2のイオン化電界を示す。HeとO2のイオン化電界の違いから、イ オン化電界の大きなHeは電界の高いエミッタ先端付近でイオン化する。一方イ オン化電界の低いO2は、先端表面付近までは近付けず途中でイオン化する、も しくは、電界の低いエミッタのシャンク部分に電界吸着する。図(a)で示される ように電界吸着したO2は、下地のW原子と反応しW酸化物を形成する。W酸 化物はWよりも蒸発電界が低いため、電界蒸発によりシャンク部分から選択的 にエッチングされ、図(b)に示されるようなオーバーハング形状が形成されると 考えられている。そして、形成されたオーバーハング部分では局所的な電界増 強が発生し、その部分から図(c)で示されるようにピュアなWの電界蒸発が起こ る。また、シャンク部分に吸着しているO2分子はシャンクに沿って、エミッタ の先端方向へ移動し、その領域においてもW酸化物が形成される。このように
図(b)-(d)の過程が繰り返されることで、エミッタ先端まで先鋭化される。Mizuno
らのエッチング条件は、先端原子を電界蒸発から温存するために、O2 導入圧力 及び、先鋭化に伴い増加する先端電界強度をHeの最良像電界(Best Image Field:
BIF)(44 V/nm)で一定になるように逐次制御するものである。これに対して我々
は、エッチング終了直前まで、印加電圧、O2 導入圧力共に固定しておく。その
ため、図 2-12(e)で示されるように先鋭化されたエミッタ先端の電界強度は増大
し、やがてWの蒸発電界(57 V/nm)に達するので先端においてもWの電界蒸発 が生じる。このようにシャンク部分のW酸化物とオーバーハング部分及び、先
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端のW原子の電界蒸発が断続的に起こることで、最終的に図2-12(f)のようにエ ミッタ先端中央部にナノ突起構造体が形成される。なお、このエミッタ形状に ついては本研究室のSugiuraらによってTEMで観察されており[8]、そのTEM像 を図2-13に示す。
表2-3 He、O2のイオン化電界強度 ガス種 イオン化電界強度 [V/nm]
He 44.0
O2 14.5
図2-12 電界誘起酸素エッチングの進行過程モデル
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図2-13 電界誘起酸素エッチングを施したエミッタ先端のTEM像[8]
(a)低倍率像, (b)高倍率像.
2-2-2-2 エミッタシャンクがイオン電流に与える影響
エミッタのシャンク形状が放出イオン電流に与える影響について述べる。ま
たSugiyamaらはシミュレーションを用いてエミッタ先端近傍のガス捕獲領域の
計算を行い、図2-14に示すテーパー角θが小さいほどガス捕獲領域[17]が広がり、
放出イオン電流が増加することを報告している[18]。図2-15にガス捕獲領域の模 式図を示し、以下にその理論を示す。
一般に、電界 F 中のガス分子は分極ポテンシャルエネルギーUPPEを持ってお り、次式で表される。
€
UPPE =−1 2αF2
(2.27) ここで、αは、ガス分子の分極率である。種々のガス分子の分極率は表2-4に示 す。また温度Tでのガス分子は、熱平衡エネルギーUPEEを持っており、1自由度 あたり次式で与えられる。
€
UPEE =1
2kT (2.28) ガス分子捕獲領域は、
€
UPPE > UPEE (2.29) の条件を満たす領域である。一度この領域に入射したガス分子は、エミッタに 引き寄せられこの領域から出ることはできない。捕獲されたガス分子は、ホッ ピングを繰り返し最終的に電界電離され放出されるため、放出イオン電流は、
ガス分子捕獲領域の大きさに依存している。またエミッタ先端からシャンクに かけての電界の減衰はエミッタシャンクの形状に大きく依存するため、エミッ
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タシャンクの形状は放出イオン電流を決定する重要な要因である。
図2-14 エミッタのテーパー角と曲率半径
図2-15 GFISガス捕獲領域