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齲蝕と歯周病,全身疾患とのかかわり

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〔総説〕

齲蝕と歯周病,全身疾患とのかかわり

Involvement of dental caries and periodontitis in systemic disease

池野谷 肇,石原 和幸

(自衛隊札幌病院 歯科,東京歯科大学 微生物学講座 助教授

Hajime IkenoyaKazuyuki Isihara

要 旨:近年になって,口腔内細菌と全身疾患との関係が明らかにされつつある。本論文では,掌蹠膿疱症,心 冠動脈疾患,糖尿病,誤嚥性肺炎,等の全身疾患の発症に口腔細菌およびそれに対する生体防御反応が どのように関わっているかについて従来の報告を交え考察を加えた。

キーワード:歯周病,掌蹠膿疱症,心冠動脈疾患,糖尿病,誤嚥性肺炎

Abstract:Recent reports suggested involvement of oral microorganisms in systemic diseases.This review discusses the evidence for systemic inflammatory responses to oral organisms and the poten- tial role of systemic diseases such as cardiovascular disease,diabetes and aspiration pneumonia.

Key words:Periodontitis,Pustulosis palmaris et plantaris,Coronary heart disease,Diabetes,Aspiration pneumonia

はじめに

口腔には500種を超える細菌が存在し1),正常細菌 叢として外来微生物の侵入を防ぐ役割を果たしてい る。しかし,これを構成する菌のうち一部は,齲蝕や 歯周病の病原体となりうる。齲蝕は

Mutans strepto- cocci(ミュータンスレンサ球菌群),歯周病は嫌気性

グラム陰性菌群が中心となって発症する口腔の感染症 である。そして,これらの細菌が生息する歯垢(デン タルプラ−ク)1㎎の中には10個/㎎の細菌が存在 する2)と言われている。また,口腔内の細菌が全身の 健康状態に影響を及ぼす可能性については以前から議 論がなされていたが,その証拠が示される事は少な かった。しかし,近年になって数々の臨床データの蓄 積や分子生物学の発展などにより口腔内の細菌と全身 疾患との関係が明らかにされつつある。本稿では,口 腔内細菌が関与すると考えられる全身疾患の中でその 関連性が大きいとされる,掌蹠膿疱症,動脈硬化症,

細菌性心内膜炎,糖尿病,誤嚥性肺炎について述べる。

1 掌蹠膿疱症

以前から掌蹠膿疱症の原因は,扁桃腺炎,歯科疾 患,金属アレルギーの関与が示唆されていた。疾患の 成立には,免疫応答が関わっていると考えられてい る。近年になって,掌蹠膿疱症の原因として細菌の ヒ ー ト シ ョ ッ ク プ ロ テ イ ン(heat shock protein : HSP)に対する免疫応答の関与を指摘する報告がなさ れた3)。HSP は,細胞を通常より数度高い温度にさら すだけで,きわめて短時間に合成されるタンパク質で ある4)。これらのタンパク質は,熱などのストレスが 細胞に加わった時に産生され,ストレスによって変性 した細胞内のタンパクを修復する働きをもつ事が知ら れている。また,HSP は細菌にも存在し,細菌とヒ トの細胞の間でアミノ酸配列が非常に類似している。

そのため,細菌の HSP に対する抗体が宿主であるヒ トの細胞に誤って作用する事がある5)。掌蹠膿疱症の

連絡先:〒062−8610 札幌市豊平区平岸1条12丁目1番32号 自衛隊札幌病院 歯科 池野谷

電話:011−831−0161 FAX:011−831−1015

自衛隊札幌病院研究年報 第46巻 7〜10(2005)

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メカニズムとして,口腔病変から誘導された HSP に 対して抗体が作られ,人の細胞の HSP を細菌由来の HSP と誤認することで局所に免疫反応が起こり,そ の結果として発症することが考えられている。また,

出現部位が手,足に多い理由としては,多くの細菌由 来の HSP は

γδT細胞によって抗原として認識される

こと6),手足などの上皮細胞には

γδT細胞が多いこ

7),などが考えられている。

2 動脈硬化症

動脈硬化症は,高脂血症・高血圧・喫煙などが重要 なリスクファクターである事は知られている。しか し,これらのリスクファクターに該当しないヒトでの 動脈硬化症についてはその理由が不明であった。1980 年台の半ばには肺炎クラミジア(chlamydia pneumonae)

感染による動脈硬化症への関与の可能性についてさま ざまな報告がなされた。1999年には Ross により,動 脈硬化の発生機序として『傷害に対する反応説』が提 案され粥状動脈硬化症は炎症疾患であるという認識が 示唆された8)。Ross の仮説では,炎症による血液中 のマクロファージの増加と炎症の刺激で血管壁に入り 込んだマクロファージの活性化が粥状動脈硬化の進展 に関与しているとされている。

口腔内細菌と動脈硬化症とのかかわりは,慢性歯周 炎の病原体である

Porphyromonas gingivalis

を中心と してその可能性が示唆されている。歯周炎の部位から 血流中に入り込んだ P.gingivalis は,血管内皮細胞に 作用しサイトカインである MCP

!

1産生を誘導しマク ロファージを呼び寄せるとともに血管壁に接着分子で ある VCAM

!

1を発現させ血中のマクロファージの血 管壁への進入を促すことが示されている9,10)。また,

P

gingivalis

の LPS は LDL の存在下でマウス単球か ら泡沫細胞への変化を誘導すること11)が示されてい る。これらの結果は

P

gingivalis

の作用によって血管 壁への脂質の沈着が起こる可能性を示している。さら

P

gingivalis

は血小板を凝集させて血栓を形成する

作用があることが知られている9,12)。これらの知見は,

P

gingivalis

が血管壁に作用して粥状動脈硬化症の形

成にかかわるのみならず,そこでの血栓形成にも関与 する可能性を示している。

3 細菌性心内膜炎

細菌が血流中に入り込む事を菌血症と呼んでいる。

口腔内細菌による一過性の菌血症は,抜歯や歯石除去 などによっても起る事が報告されている13)。また,歯 周炎が進行した場合,歯周ポケットの歯肉溝上皮の面 積は手のひら程度の面積になるといわれている。この 部分の上皮は炎症によって上皮組織の断裂を伴ってい るところもあり,細菌が組織の中に入りやすくなって いる5)。このように組織に入り込んだ細菌は,毛細血 管から血流に入り込んでいくと考えられる。そして,

血流に入り込んだ細菌が心臓の内膜に付着し増殖をす ることで細菌性心内膜炎が発症する。特に,全身の防 御反応に異常がある場合や心臓内の血流が滞りやすい 心疾患や人工弁を装着しているヒトでは発症の危険性 が増加する。

原因菌で最も報告の多いのが口腔レンサ球菌であ 14)。口腔レンサ球菌の中では歯垢の中に最も数の多 い,Streptococcus sanguisによる心内膜炎の報告が一 番多い15)。そして,S

sanguis

には血小板の凝集作用 があると報告16)がされており,この作用も本菌の定着 に関与している可能性があると示唆されている5)。ま た,齲蝕の原因菌である

Streptococcus mutans

も心内 膜炎患者から検出されている17)

4 糖尿病

以前から,糖尿病は易感染性のために歯周炎など口 腔感染症の罹患率の高さは指摘されていた。1997年に

Ⅱ型糖尿病患者の歯周病治療をすることで HbA1c の 値が改善したとの報告がされた18)。この現象は,歯周 病原細菌の産生する内毒素刺激によって産生される TNF

! α

が血中に入り込み,インスリンによる血液中 の糖を細胞に運び込む働きを TNF

! α

が阻害するため に,血糖値の上昇が起きてしまうと考えられている。

つまり,歯周病を治療による血中の TNF

! α

の減少が インスリンの抵抗性改善に寄与すると考えられてい る。しかし,歯周治療によって低下する血中の TNF

! α

量はごく微量でこの程度の血中濃度の低下で末梢の インスリン抵抗性が改善したとは考えにくい19)との報 告もある。この仮説は,インスリン感受性細胞は骨格 筋細胞,脂肪細胞,肝細胞であり,これらは歯周組織 と遠隔に位置する細胞あることから考えられている。

自衛隊札幌病院研究年報

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そして,HbA1c 改善例では CRP 値も低下する事か ら,肝臓におけるクッパ−細胞や周囲の脂肪細胞がそ の供給源ではないかと推測している。すなわち,重症 の歯周炎患者では歯周病原菌抗原が絶えず血中に侵入 しそれらが体内循環を介して肝臓に集積する。その結 果,肝臓での抗原濃度が上昇しクッパ−細胞や脂肪細 胞からの TNF

! α

の産生が亢進する。この TNF

! α

肝細胞や脂肪細胞におけるインスリン抵抗性に関与し ているという説もある。

5 誤嚥性肺炎

高齢者や寝たきりになったヒトは,嚥下機能と気道 内の異物排除機能の低下が起る。そして,粘膜上皮の 繊毛による異物排除機能,肺胞マクロファージの食菌 能や殺菌能も低下をしている20)。このような易感染性 の宿主では,多くの細菌を含んだ唾液などを無意識の うちに誤嚥する不顕性誤嚥による肺炎が起こることが 示唆されている。Shinzato ら21)は,肺炎の病巣から口 腔内細菌が分離されてくる事を報告している。老人性 肺炎と口腔内細菌の関係を調べた報告22)によると,高 齢者の口腔内ではブドウ球菌,カンジダが増加する傾 向にあり,要介護者では,MRSA や緑膿菌の検出頻 度が高くなったと述べている。また,要介護者を対象 としてプロフェッショナルオーラルケアを半年間実施 したところ,有意に口臭と

Candida albicans

菌数の減 少を認め,さらに,要介護者の発熱頻度2年間解析し たところ,プロフェッショナルオーラルケアを実施し た群は明らかな発熱頻度の低下を認めたと報告をして いる。これらの報告は,高齢者や寝たきりになったヒ

トではオーラルケアがより重要になることを示してい る。

おわりに

近年になって口腔内細菌と全身疾患とのかかわりに ついて,さまざまな報告がなされそのメカニズムが解 析されつつある。本稿で述べた以外にも,早産,骨粗 鬆症,肥満なども口腔疾患との関連が明らかにされて いる。これらの疾患を考えるとき,口腔内が細菌の発 育適した環境であることは見逃せないであろう。特に 要介護者や全身の免疫機能が低下したヒトでは,口腔 が全身に影響を与える病原菌のすみかとなる可能性が ある。これを防ぎの口腔内を正常な菌叢に保持するた めのプラ−クコントロールが重要と考えられる。

これらの報告を踏まえ,私達医療関係者は口腔疾患 と全身疾患との関係を考慮しながら日常の診療に臨む べきであろう。

本稿を終えるにあたり,終始御懇篤なる御指導を賜 りました自衛隊札幌病院外来診療科部長 田付二郎先 生,同病院皮膚科部長 荻野智先生,ならびに歯科部 長 鈴木通彦先生に衷心より御礼申し上げますととも に,御指導と御校閲を賜りました東京歯科大学微生物 学講座助教授 石原和幸先生に感謝の念を捧げます。

なお,本論文は第49回北部防衛衛生学会教育講演

(2006年2月,札幌)において発表した内容から要約 し抜粋した。

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!

Yearbook Europe limited,London

第46巻(2005)

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!

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!

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参照

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