日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-61 242
-小学校の担任教師の問題行動に対する認知的評価と対処方略
―教師効力感とバーンアウトとの関連―
○矢萩 楓1)、金澤 潤一郎2) 1 )北海道医療大学大学院心理科学研究科、 2 )北海道医療大学心理科学部 【目的】 教師のストレスは増え続けており,ストレスの原因 として問題行動を示すなどの指導困難な児童の存在が あげられている(原田・大西・出口,1993)。そして, 生徒の問題行動を教師が多く対応することによって教 師効力感が低下し,情緒的消耗感を感じることが明ら かとなっている(Tsouloupas et al., 2010)。情緒的 消耗感は他人とのやり取りや教師のパフォーマンスに 負 の 影 響 を 与 え る た め(Lee & Ashforth, 1993; Sears et al., 2000),児童に影響を与える可能性が 考えられる。そのため,教師の情緒的消耗感の上昇を 予防する必要がある。ストレスについて,Lazarus & Folkman(1984)は, ストレッサーから認知的評価,対処方略,ストレス反 応に到るまでの一連の過程をストレスと想定してお り,ストレッサーの捉え方によってストレスが変化す る可能性を示している。そこで,本研究では児童の問 題行動に対する教師の認知的評価と対処方略,教師効 力感がどのように情緒的消耗感と関連しているかを検 討した。 【方法】 研究協力者 地方小学校の 1 年生から 6 年生・特別支 援学級の担任をしている教師111名を対象とした(回 収率89%)。 調査材料 問題行動についての説明(長澤・関戸・松 岡,2005)を調査用紙の表紙に記載した。( 1 )フェ イスシートで年齢,性別,教職歴,担任している学級, 担当している学級の人数,担当している学級の問題行 動を示す児童の人数について回答を求めた。( 2 )認 知的評価尺度(CARS;鈴木・坂野,1998):影響性の 評価,脅威性の評価,コミットメント,コントロール 可能性の 4 因子 8 項目。( 3 ) 3 次元にもとづく対処 方略尺度(TAC-24;神村・海老原・佐藤・戸ヶ崎・坂 野,1995):情報処理,計画立案,カタルシス,放棄・ 諦め,責任転嫁,回避的思考,肯定的思考,気晴らし の 8 因子24項目。( 4 )教師効力感尺度(植木・藤崎, 1999):見守り効力感,成長促進効力感,受け止め効 力感,影響性効力感の 4 因子21項目。( 5 )日本語版 Maslach’s Burnout Inventory(田尾・久保,1996): 情 緒 的 消 耗 感 の 1 因 子 の み 使 用, 5 項 目。( 2 ) 〜 ( 4 )は児童の問題行動に直面した際を想定して回答 を求めた。 倫理的配慮 本研究は北海道医療大学心理科学部・心 理科学研究科倫理委員会の承認を得た上で行われた (平成29年10月13日受付番号第17021号)。また,書面 にて本研究は無記名で行い個人が特定されることはな いこと,得られたデータは鍵のかかる場所で厳重に保 管すること,研究終了後には研究者が責任を持って データを破棄することを説明し,調査の同意が得られ た研究協力者のみ回答を求めた。 【結果】 記述統計量 研究協力者111名の平均年齢は36.83± 10.23歳,平均教職歴は13.21±9.59年であった。性別 は男性42名,女性67名,不明 2 名であり,担当してい る学級は 1 年生16名, 2 年生14名, 3 年生14名, 4 年 生 9 名, 5 年生12名, 6 年生13名,特別支援学級33名 であった。情緒的消耗感の平均値は14.95であり,こ れは 5 段階の健康度の 1 番低い「大丈夫」にあたり, 情緒的消耗感の傾向は低い(田尾・久保,1996)。 相関分析 各尺度間の相関係数を明らかにするため, Pearsonの積率相関係数を算出した。その結果,情緒 的消耗感は脅威性の評価(r =.39, p <.001),放棄・ 諦め(r =.21, p <.05),責任転嫁(r =.21, p <.05) と 有 意 な 正 の 相 関 係 数 が 得 ら れ, 影 響 性 効 力 感 (r =-.26, p <.001)とコントロール可能性(r =-.20, p <.05)と有意な負の相関係数が得られた。 階層的重回帰分析 情緒的消耗感を従属変数とし,情 緒的消耗感と有意な相関係数が得られた項目と,その 項目と影響性効力感との交互作用得点を独立変数とし て強制投入法を用いて階層的重回帰分析を行った (Table)。Step 1で影響性効力感の合計得点,Step 2 で脅威性の評価,コントロール可能性,放棄・諦め, 責任転嫁の得点,Step 3で影響性効力感と他の項目と の交互作用得点を投入した。その結果,Step 1の影響 性効力感の得点の投入時(R2=.07, p <.01;ΔR2 =.07, p <.01)とStep 2のその他の項目の得点の投 入時(R2 =.25, p <.001;ΔR2 =.18, p <.001)は説 明率が有意であったが,Step 3で影響性効力感とその 他の項目との交互作用得点を投入すると有意な説明率 が得られなかった。Step 3の結果から,情緒的消耗感 は脅威性の評価と有意な正の関連性があることが示さ れた(β=.38,p <.001)。 【考察】 本研究は,教師が児童の問題行動に直面した際の認
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-61 243 -知的評価,対処方略,教師効力感がどのように情緒的 消耗感と関連するかの検討を行った。その結果,影響 性効力感が高いと情緒的消耗感が低下するが,影響性 効力感が高くても脅威性の評価が高いと情緒的消耗感 が上昇することが明らかとなった。この点について, 脅威性の評価はストレス反応に強い影響を及ぼすこと が明らかになっている(鈴木・坂野,1998)。このこ とから,影響性効力感よりも脅威性の評価が情緒的消 耗感に及ぼす影響が強いため,脅威性の評価のみが情 緒的消耗感との関連性が見られたと考えられる。以上 のことから,情緒的消耗感を低下させるためには教師 の影響性効力感を上昇させる介入を行うよりも,認知 的側面へ介入するなどして,児童の問題行動に対する 脅威性の評価を低減させることに焦点を当てる必要が ある。 本研究では対処方略と情緒的消耗感は関連がみられ なかった。その点について,バーンアウトの緩和は, 自分に対する認知面の変容が重要であるとされている ため(松井・野口,2006),関連が見られなかったこ とが考えられる。さらに,問題行動への積極的な対応 を行い,その対応が情緒的消耗感を低減する可能性が ある(Tsouloupas et al., 2010)と言われているこ とから,問題行動をストレッサーとした対処方略では なく,問題行動への直接的な対応との関連を検討する 必要がある。