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Excelで解く配管とポンプの流れ

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Academic year: 2021

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本書は、工業調査会から発行されていた『Excel で解く配管とポンプの流れ』 (ISBN978-4-7693-4219-9、2008 年 9 月発行)の内容に一部修正を加えて再発行 するものとなります。 本書を発行するにあたって、内容に誤りのないようできる限りの注意を払いました が、本書の内容を適用した結果生じたこと、また、適用できなかった結果について、 著者、出版社とも一切の責任を負いませんのでご了承ください。

Excel は米国 Microsoft Corporation の米国およびその他の国における登録商標で す。その他、本書に掲載されている会社名・製品名は一般に各社の登録商標または 商標です。 本書は、「著作権法」によって、著作権等の権利が保護されている著作物です。本 書の複製権・翻訳権・上映権・譲渡権・公衆送信権(送信可能化権を含む)は著作 権者が保有しています。本書の全部または一部につき、無断で転載、複写複製、電 子的装置への入力等をされると、著作権等の権利侵害となる場合があります。また、 代行業者等の第三者によるスキャンやデジタル化は、たとえ個人や家庭内での利用 であっても著作権法上認められておりませんので、ご注意ください。 本書の無断複写は、著作権法上の制限事項を除き、禁じられています。本書の複写 複製を希望される場合は、そのつど事前に下記へ連絡して許諾を得てください。 オーム社開発部「<書名を記載>」係宛、 E-mail(kaihatu@ohmsha.co.jp)または書状、FAX(03-3293-2825)にて

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は じ め に

管路とポンプの流れ計算は,機械・化学・建築・土木工学など広い分野を横断する基礎 的なテーマである。そこで用いられるベルヌーイの定理は18世紀中ごろ発見され,比較 的新しい管路網流れ計算法であるハーディ・クロス法も創案されてからすでに約70年を 経ている,学問としては歴史のあるテーマである。 一方,これまで管路設備といえば工場部門が主流であったが,最近では民生部門のビル や施設が高層・大型化して,それに付帯する空気調和・衛生用の管路設備が大きな発展を 見せている。さらに,地球温暖化対策の観点から設備の省エネルギー性が重視され,管路 要素の代表格であるポンプの省エネルギーが盛んに行われるようになった。ポンプの省エ ネルギーを確実・効果的に実施するためには,管路流れを精度良く計算することが不可欠 である。このように,管路流れ計算は実用面で重要性を増している新しいテーマでもある。 さて,管路流れ計算は,ベルヌーイの定理と連続の式を連立方程式にして,各管路要素 に流れる流量や発生する圧力損失などを求めるのがその中身である。基本式は単純である が,ベルヌーイの定理には速度の自乗項が入っているので非線形であり,方程式は容易に 解けない場合が多い。これに加えて,流れ計算の対象となる工場・ビルの管路は複雑に入 り組んでおり,この複雑さが計算をさらに難しいものにしている。このような事情で,こ れまでは数値計算やプログラミングの知識,あるいは専用解析ソフトを持たなければ,基 本式から先へは進めなかったのである。 本書では,このような状況を克服するために考案された現場技術者のための新しい管路 流れ計算法を紹介する。この計算法は,パソコン汎用ソフトの標準機能だけを使って複雑 な管路流れを解くことができる。数値計算やプログラミングの知識は不要である。本計算 法は「総管路損失動力最小化の原理」と,マイクロソフト社製表計算ソフト Excel の分析 機能「ソルバー」とを二本柱としている。前者は,「管路系には固有の流れ汎関数があり, 汎関数が最小になるように各管路要素に流れる流量が決まる」という変分原理である。後 者は,オペレーションズ・リサーチ分野の最適化問題を解くために用意された機能である。 複数のポンプが管路網に配置された複雑な管路の流れでも,Excel ワークシート上に所定 の流れ計算表を組み立てそこに汎関数を入力しさえすれば,後は Excel ソルバーが数値計 算機能を駆使してその最小条件を探索計算し,その結果をわれわれに示してくれる。 本書では,内容を大きく基礎・構築・実践・応用編の4段階に分け,1段1段しっかり と積み上げるように新しい計算法を説明した。基礎編の第1章では管路流れの基本事項を, 第2章では流れのエネルギーを説明した。分岐流れの検討では,エネルギー流束を使って その諸性質を明らかにした。構築編の第3章を新しい計算法の理論的根拠の説明に充てた。 この核心部分はささやかな「思考のジャンプ」である。読者諸兄も論理や数式をフォロー /エクセルで解く配管とポンプの流れ(下訂)/はじめに/はじめに 2011.01.25 14.52.22 Page 3

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して,計算法を創作する醍醐味を味わっていただきたい。第4章では前章の結果を基にし た管路要素の特性やその部分汎関数を説明した。部分汎関数は見慣れない関数であるが, 計算をやりやすくするための「計算用パーツ」と考えていただければよい。実践編の第5 章では,Excel ワークシート上で管路流れ計算をするための基本的な約束事を解説した。 第6章は「ゴールシーク」と「グラフ・近似式機能」について説明した。これらの機能は 本計算法のサブツールとして欠かせないものである。第7章では簡単なものから複雑なも のへと例題を並べ,詳細な説明を加えた。最後の応用編の第8章では,気体流れへの適用 について解説した。尚,Excel は執筆時点での最新バージョンである Excel2007を用いた。 著者は,財団法人省エネルギーセンター主催の技術講座「Excel で解く配管流れ」の講 師を十数回経験した。この経験を踏まえて本書の構成を工夫し,読者が理解し難い箇所は 詳しく説明した。内容については十分チェックをしたつもりではあるが思わぬ思い違いが 残っているとも限らない。万一,そのような箇所にお気づきの場合は,ぜひご指摘いただ ければと考えている。なお,本書の執筆には,巻末に掲げた参考文献や他の多くの関連書 籍を参考にさせていただいた。ここに各著者に感謝の意を表する次第である。 最後に,著者は約30年間工場勤務を経験した技術者である。7年前の雑誌「化学装置」 への投稿がきっかけとなりこの計算法が生まれ,そして念願の専門書を書くチャンスをい ただいた。特に,工業調査会の一色取締役には,この計算法の誕生から本書出版までのす べての場面で有益な助言やご指導を頂いた。ここに記して深い感謝の意を表したい。 2008年5月 板東 修

オーム社からの再発行にあたって

この本は工業調査会の業務停止に伴い,世に出て2年足らずで絶版となりましたが,オ ーム社のご厚意で再発行の運びとなりました。人間でいうと生き返った訳で,こんな小さ な書物にも波瀾万丈の一生があるのかと感じ入った次第です。再発行を機に,これまで気 になっていた字句・図の訂正を行いました。 最後に,このような幸運な機会を与えていただいた読者の皆様,建築設備フォーラム管 理人野呂田様,オーム社開発部の方々,そして,いつも私を支えてくれている家族に感謝 したいと思います。 2011年2月 板東 修 /エクセルで解く配管とポンプの流れ(下訂)/はじめに/はじめに 2011.01.25 14.52.22 Page 4

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は じ め に……… 3

[基礎編]

第1章

管路流れの基本

……… 9 1.1 流体の性質 ……… 9 1.2 層流と乱流 ……… 11 1.3 連 続 の 式 ……… 15 1.4 ベルヌーイの定理とその実用式 ……… 17

第2章

管路流れとエネルギー

………21 2.1 管路の損失水頭 ……… 21 2.2 流れが運ぶエネルギーと動力収支 ……… 23 2.3 ポンプと管路流れ ……… 27 2.4 全水頭の一意性 ……… 33

[構築編]

第3章

新しい管路流れ計算法の概要

……… 35 3.1 管路流れの一般的な解法 ……… 35 3.2 総管路損失動力最小化の原理と汎関数 ……… 38 3.3 一般管路系の流れ汎関数導入 ……… 41 3.4 汎関数の修正と部分汎関数 ……… 44 3.5 Excel ソルバーと新しい管路流れ計算法 ……… 47

第4章

管路要素特性とその部分汎関数

……… 51 4.1 支 流 ……… 51 4.1.1 直管(ダルシー・ワイスバッハの式)……… 51

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4.1.2 直管(ヘーゼン・ウイリアムスの式)……… 54 4.1.3 局部管 ……… 55 4.2 流出・流入 ……… 59 4.2.1 自然流出入と固定流出入 ……… 59 4.2.2 自然流入 ……… 60 4.2.3 自然流出 ……… 62 4.2.4 固定流出入 ……… 63 4.3 ポ ン プ ……… 63

[実践編]

第5章

新しい計算法と Excel

……… 69 5.1 新しい計算法の流れ ……… 69 5.2 計算用管路図と記号 ……… 69 5.3 流れ計算表 ……… 72 5.4 ソルバー操作…【例題1.0】固定流出入のある2ループ管路 ……… 73 5.4.1 管路図と計算表 ……… 74 5.4.2 ソルバー実行 ……… 76 5.4.3 計算結果の検討 ……… 80 5.5 新しい計算法と管路図 ……… 82

第6章

Excel の便利な計算機能

……… 85 6.1 ゴールシーク ……… 85 6.2 グラフ・近似曲線機能 ……… 88 6.3 最小二乗法とソルバー ……… 93

第7章

液体管路流れ例題

……… 97 7.1 【例題1.1】自然流出入のある2ループ管路 ……… 97 7.2 【例題1.2】自然流出入のある3ループ管路 ……… 101 7.3 【例題1.3】管路網(ダルシー・ワイスバッハの式)……… 104 7.4 【例題1.4】管路網(へーゼン・ウイリアムスの式)……… 110 7.5 【例題1.5】ポンプのある管路 ……… 114 7.6 【例題1.6】ポンプと分岐のある管路 ……… 116 7.7 【例題1.7】ポンプと分岐のある管路(速度水頭を考慮)……… 120 /エクセルで解く配管とポンプの流れ(下訂)/目次/目次 2011.01.25 11.42.52 Page 6

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7.8 【例題1.8】並列運転ポンプと管路網 ……… 123 7.9 【例題1.9】直列運転ポンプと管路網 ……… 127

[応用編]

第8章

気体の管路流れ

……… 133 8.1 常圧気体の管路流れ ……… 133 8.1.1 常圧気体の流れと汎関数 ……… 133 8.1.2 【例題2.1】空気調和用ループダクトの流れ ……… 138 8.2 一般的な気体管路流れ ……… 141 8.2.1 気体管路流れの基本式 ……… 141 8.2.2 気体管路流れの汎関数 ……… 144 8.2.3 【例題2.2】圧縮空気管路流れ ……… 145 補足:Excel2003以前のバージョンを使っている読者のために ……… 152 参考文献 ……… 155 索引 ……… 157

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本書で取り上げた Excel のワークシート類は,オーム社の Web ページよりダウンロー ドできます。 http://www.ohmsha.co.jp/ の「書籍連動/ダウンロードサービス」の『Excel で解く配管とポンプの流れ』ページ からダウンロードしてください。 ※ダウンロードサービスは,やむを得ない事情により,予告なく中断・中止する場合が あります。 /エクセルで解く配管とポンプの流れ(下訂)/目次/目次 2011.01.25 11.42.52 Page 8

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軸力 p 受圧面上 液体自重 自由表面 噴流 (a)自重による圧力 (b)ピストンによる圧力 (c)流れによる圧力 平板

[基礎編]

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管路流れの基本

最初の章では管路流れの基本事項について述べる。先ず,流体の性質や層流・乱流に触 れたあと,連続の式,ベルヌーイの定理について述べる。単位はすべて国際単位系(SI 単位)を用いる。

流体の性質

流体の性質に入る前に,常に流体に伴う圧力について触れておこう。圧力はさまざまな 形で流体内に発生する。例えば,図1.1の(a)のように自由表面を持つ静止した液体内で はその上部にある液体の自重による圧力が,(b)のピストン内の流体では軸力 F による圧 力が発生する。ピストン内の圧力はどの向きの作用面に対しても垂直に働く。(c)の噴流 に向き合う平板表面では,流れの向きを変える力の反力としての圧力が発生する。圧力は 作用面単位面積当たり垂直に作用する力の大きさで表す。圧力の SI 単位はパスカル Pa 図1.1 圧力の種類

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圧力 せん断応力 運動 固体 せん断応力 流動 流体速度 作用面 固体 (a)固体摩擦 (b)流体摩擦 (c)圧力とせん断応力の方向 圧力 容器 流体 圧力 [=N/m2]である。圧力には絶対圧力とゲージ圧力の2通りの表し方がある。絶対圧力は 絶対真空を,ゲージ圧力は大気圧(=0.1013MPa)を基準とした圧力で,ふたつの圧力 表示の間には, (ゲージ圧力)=(絶対圧力)−(大気圧) の関係がある。この定義によって,ゲージ圧力表示では大気圧より高い圧力は正,大気圧 より低い圧力は負の値をとる。絶対圧力とゲージ圧力を区別する時には,それぞれの圧力 単位の後に絶対(absolute)の abs,ゲージ(gage)の g を付ける。 さて,物体には固体,液体,気体の3形態があり,その内の液体と気体を総称して流体 という。固体とは違い,流体は決まった形を持たない。例えば図1.2では,容器の中の液 体は容器から圧力を受け容器と同じ形に成形される。容器に接していない液体面は重力に よって水平・平滑に保たれる。気体はもっと自由度があり,容器に完全密封しないと四方 八方に拡散してしまう。また,気体と液体とでは圧縮性も違う。圧力をかけると気体の体 積は小さくなるが,液体の体積はほとんど変わらない。つまり,圧力上昇で気体の密度は 大きくなるが,液体の密度はほとんど変わらない。例えば水の場合,圧力が0.1MPa か ら100MPa に上昇しても密度は5% 弱しか増えない。この意味で気体を圧縮性流体,液 体を非圧縮性流体という。 図1.3(a)のように固体どうしをすり合わせると,すり合わせ面に摩擦力が働く。流れ ている流体も同様で,(b)のように流体と固体,あるいは速度の異なる流体どうしの間に せん断応力の形の流体摩擦力が働く。また,流体はどんなに小さいせん断応力に対しても 図1.2 流体を成形する圧力 図1.3 摩擦とせん断応力

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△y τ v V0 V0 上面固体 流体 τ 下面固体

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連続的に変形する。この性質を粘性という。せん断応力の単位は圧力と同じ[Pa]であ るが,(c)のように作用面に対して平行に働く。粘性は自然のあらゆるところで見ること ができる。例えば水溜りを小枝でかき混ぜると小さな流れができる。しかし,かき混ぜる のを止めてしばらくすると元の静止した水溜りに戻る。これは,水が流れに逆らう粘性を 持っている証拠である。粘性を持つ流体を粘性流体,持たない流体を非粘性流体という。 図1.4では互いに平行で間隔Δy[m]の固体面の間に流体があり,上面(固体)がゆ っくりと速度 V0[m/s]で右に動いている。流体は上面の運動に引きずられて流動し,そ の速度は下面の0から上面の V0まで直線的に変化するとしよう。このとき,上下面およ び流体内で発生する粘性せん断応力τは次式で表される。 τ=μ V0 Δy (1.1) 粘性せん断応力τが速度こう配[=V0/Δy]に比例するこの関係をニュートンの粘性則, 比例定数μ[Pa・s]を粘性係数という。そして,この粘性則に従う水や空気などをニュー トン流体,そうでない高分子溶液などを非ニュートン流体という。液体の粘性係数は温度 が上がれば低下するが,気体の粘性係数は逆に増加する。

層流と乱流

管内を流れる粘性流体の流れの状態は大きく2種類に分類される。これに関する有名な 実験として,上流に色素を添加しガラス管を通る流れの様子を観察するレイノルズの実験 がある(図1.5)。管内速度が小さいあいだは,添加口から出た色素は管軸に平行に流れ 明瞭な線を作る。層状の整然とした流れを形成しているので層流という。速度がある値を 超えると色素の線は途中で乱れ管全体に拡散する。この状態を乱流という。流れが層流と なるか乱流となるかを判断する無次元数がレイノルズ数 Re[―]で,円管路流れの場合 は次式で定義される。 1.2 層流と乱流 図1.4 粘性によるせん断応力

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色素添加口 (a)層流 流れ 管 管 (b)乱流 平均速度 粗い管 滑らかな管 流れ 層流 乱流 ReVd ν (1.2) ここで,V :管内平均速度[m/s] d:円管内径[m] ν:動粘性係数(=μ/ρ)[m2/s] ρ:密度[kg/m3 Reが約2,000以下では層流,約4,000以上が乱流とされている。2,000∼4,000は層流 から乱流,または乱流から層流に変わる遷移領域である。 層流と乱流とでは,管内の速度分布が違う。管内速度分布を図1.6に示した。層流,乱 流ともに管壁で静止(速度=0)し,管中心付近で最大速度を持つが以下の点で異なって いる。層流では管内全域がニュートンの粘性則に支配され放物線状の速度分布を持つ。こ の流れはハーゲン・ポアズイユ流れと呼ばれる。速度分布は管表面粗さに影響されず,平 均速度は最大速度の1/2になる。乱流では管壁近くで速度が急激に増加し管中心付近で平 坦になる。速度分布は管表面粗さの影響を受け,滑らかな管は粗い管よりも中央付近が平 坦になる。平均速度は最大速度の約0.75∼0.85倍になる。 図1.5 レイノルズの実験 図1.6 管内速度分布

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管中心 レイノルズ応力 粘性せん断応力 (a)層流 (b)乱流 粘性底層 τ τ τ 瞬間速度 管軸方向 時間的平均速度 半径方向 時間的平均速度 時間 速度変動 速度変動 V Vr 0 流体の混合作用 一方,管内せん断応力分布は層流,乱流ともに管中心がゼロの直線分布をとる(図1.7)。 層流の場合は速度分布が放物線状になることから,ニュートンの粘性則に従ってせん断応 力が直線分布になることは理解できる。しかし,乱流のせん断応力は速度分布と粘性則だ けでは説明できない分布である。これは流れの中で起きている不規則な流体の混合によっ て説明される。図1.6では乱流の速度分布を滑らかな曲線で表しているが,これは時間的 平均速度をつないだ線であって,短い時間間隔で観察すると流体のどの部分も微小な空間 的時間的不規則速度変動をしている。図1.8はある点での管軸方向(流れ方向)と半径方 向の速度変動の模式図である。乱れはすべての方向にあり,隣り合う流体どうしは激しく 混ざり合っている。乱流混合作用の結果として,粘性せん断応力とは別のせん断応力が発 生している。これをレイノルズ応力といい,その大きさは流体密度や速度変動の大きさに 比例している。もう一度図1.7の乱流のせん断応力分布に戻ると,管壁近くの速度がゼロ から直線的に増加する粘性底層では粘性せん断応力が主となるが,その他の領域ではレイ ノルズ応力が主となる。この2種類のせん断応力の合計が図に示した直線分布になってい る。また,粘性底層の厚さは0.1mm のオーダーできわめて薄い。このため管内表面が粗 い管では粘性底層は存在せず,すべての領域でレイノルズ応力が支配的となる。このよう に,管内せん断応力分布は層流・乱流ともに同じ形をしているがその中身はまったく異な っている。 1.2 層流と乱流 図1.7 管内せん断応力分布 図1.8 乱流における速度変動と混合作用

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整流板 TOTOマニュアル1) 整流網 (a)古い蛇口 (b)最近の蛇口 ここで,25A 管(d =0.0276m)内を温度20℃,圧力0.4MPa の水が流れているとし て,レイノルズ数 Re の大きさを確認してみよう。通常,水の慣用管内平均速度は,0.5 ∼3.0m/s の範囲に設計されるが,ここでは下限値の0.5m/s としよう。動粘性係数は1.00 ×10−6m/s であり, Re=Vd /ν=0.5×0.0276/(1.00×10−6=13,0>4, となる。管径を細く,速度も小さく設定したにもかかわらず乱流になっている。このこと から,通常の水の管内流れは乱流と考えてよい。 一般的に流れの状態(速度,圧力など)は時間とともに変化する非定常流であるが,す べての点の流れの状態が時間とともに変化しない流れを定常流という。乱流であっても, 流れの状態の時間的平均値に変化がなければ定常流とみなされる。本書では定常流を扱う。 最近は層流や乱流をうまく利用している設備も多い。層流の特性を利用した身近な例で は蛇口がある。一昔前まで,ビジネスホテルの浴室で蛇口を開けて浴槽に湯を入れる時, 大きな音がしていた。図1.9(a)のように蛇口から出る湯は乱流状態で,周りの空気を巻 き込んで白くなり,それが浴槽本体やその中の湯と衝突して大きな音を出していた。とこ ろが,最近は蛇口を開けてもこの騒音がほとんど出ない。(b)のように蛇口から流れ出た 湯はきれいな透明で,浴槽の湯と一体になったかのようにつながる。湯面の乱れも少ない。 蛇口流れに手を当ててもほとんど圧力を感じない。蛇口の構造図を見ると,出口に整流板 と整流網が装着されている。湯は蛇口を出る直前で整流されかつ速度を極力小さく抑えら れている。その結果として見事な層流を実現している。 乱流の特性を逆に利用したものとして,流動抵抗低減剤(DR 剤)がある。水に適量の DR剤を注入すると,水中で DR 剤の棒状ミセルが形成され,これが前述の乱流混合作用 を抑制してレイノルズ応力を小さくする。DR 剤は空気調和用循環水管路等に活用され, 大きなポンプ省エネ効果を上げている。 図1.9 蛇口出口の流れ

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ρ1Q1=ρ2Q2 (a)流体一般 断面1 断面2 ρ1Q1 ρ2Q2 Q1=Q2 (b)液体 断面1 断面2 Q1 Q2

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連 続 の 式

管路流れでは,流れの大きさを流体の平均速度 V [m/s]だけでなく,流量 Q [m/s] でも表す。流量は単位時間に管路断面を通って流れる流体の体積である。流体を必要とす る負荷設備は,流体の速度ではなくその体積(または質量)を要求する場合がほとんどで ある。例えば,熱交換器に冷却水を供給する場合,入口の流速ではなく流量を指定される。 流量が少なすぎると伝熱面の熱伝達率が低下したり,冷却水出口温度が高くなったりして 熱交換器の伝熱性能が落ちるからである。管路内断面積を A[m]とすれば流量 Q は, Q=AV (1.3) となる。この式は平均速度の定義式でもある。管路を管径 d の円管とすれば下式となる。 Qπd 2 4 V (1.3a) 流体工学では,質量保存則を連続の式で表す。質量保存則とは,考えている物体や系内 にある物質の質量の総和が不変であることをいう。質量がエネルギーに変わる核分裂がな ければ質量保存則は守られる。図1.10(a)は単管路の流れである。管路を断面1から2の 方向に流体が流れているとしよう。定常な流れでは断面1と2に挟まれた管路内の流体の 質量は時間とともに変化することはないから,単位時間に断面1から入る流体の質量と断 面2から出る流体の質量は等しくなければならない。このことを式で表すと, ρ1Q1=ρ2Q2 (1.4) ここで,ρi:断面 i における密度[kg/m3] Qi:断面 i における流量[m3/s] となる。式(1.4)を連続の式という。液体の場合はρ1=ρ2であり,図1.10(b)のように, 1.3 連 続 の 式 図1.10 単管路の連続の式

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断面1 断面2 V1 A1 V2 A2 管路 節点 ρ3Q3 ρ4Q4 ρ1Q1 ρ2Q2 管路 Q=Q2 (1.5) となる。1本の管路では,どの断面においても流量は等しい。この式を液体管路流れの連 続の式という。これはまた,式(1.3)の表現を用いると, AV=AV2 (1.5a) となる。管断面積と速度は反比例の関係になり,管断面積が小さくなると速度は大きくな る(図1.11)図1.12は4本の管路が1点で接合している流れである。この接合点を節点と呼ぶ。節 点での質量保存を考える。定常な流れでは節点において流体が蓄積することはないから, 節点における質量保存式は, ρ1Q1+ρ2Q2=ρ3Q3+ρ4Q4 (1.6) となる。左辺が節点への流入質量,右辺が節点からの流出質量であり,定常流れでは両辺 は等しくなる。流体を液体とすると, Q+Q=Q+Q4 (1.7) となる。流量保存式と呼びたいところであるが,これも連続の式である。 速度と同じように流量も方向を持っている。ある方向の流量を正と決めればその逆方向 は負になる。図1.12では矢印方向の流れを正としているので Q∼Q4はすべて正である。 式における流れの向きの表現は,前式の右辺を左辺に移項した式にするとよく判る。 Q+Q−Q−Q4=0 (1.7a) この式では Q,Q2を正としているから,すべての流れを節点への流入と捉えている。 しかし,Qと Q4は流出であり,向きが逆であるから負符号が付く。 図1.11 液体流れの平均速度と管断面積 図1.12 複数管路の流れ

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流線 V p Z 基準高さ p ρ V2 +gZ+ e= 12

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ベルヌーイの定理とその実用式

図1.13のような定常な流れがあるとしよう。図中の曲線は,その接線がその点におけ る流れの方向と一致する線であり,これを流線という。さて,管路流れで重要な働きをす るベルヌーイの定理を考えてみよう。この定理は粘性のない非圧縮性流体の定常流れにつ いて,ふたつのことをいっていると解釈できる。 一つ目は,流れている流体が単位質量当たり持つエネルギー(比エネルギー)e[J/kg] は次式で表すことができるとしている。 e=1 2V+gZ + p ρ (1.8) ここで, V:流体速度[m/s] g:重力加速度[m/s2 Z:流体の位置高さ[m] p:流体の圧力[Pa] 右辺第1項が運動エネルギー,第2項が位置エネルギー,第3項が圧力エネルギーを表 す。位置高さの基準はどこをとってもよい。また圧力は絶対圧力,ゲージ圧力のいずれを 用いてもよい。運動する質点の持つエネルギーは運動エネルギーと位置エネルギーの2種 類であったが,流体にはこれに圧力エネルギーがプラスされている。圧力エネルギーは流 体(連続体)特有のエネルギー表現である(2.2節参照)。 二つ目は,流れにおけるエネルギー保存則で,外部とのエネルギーのやりとりのない流 1.4 ベルヌーイの定理とその実用式 図1.13 流線と比エネルギー

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運動エネルギー 圧力エネルギー 位置エネルギー e 断面1 断面2 流線 Z:中心高さ 基準高さ V:平均速度 p:中心圧力 d 中心線=管軸座標 れでは,流線に沿って比エネルギーは一定であるとしている。周囲の条件によって流体の 持つ3種類のエネルギーの大きさが変化することはあってもその総和は変わらない。図 1.14の中心位置高さが変わらない流路の中心を通る流線を考える。断面1,2での流れを 比較すると,流路が狭くなった断面2では速度が速くなり,運動エネルギーが大きくなる。 しかし,運動エネルギーが増えた分だけ圧力エネルギーが小さくなり,比エネルギーに変 化はない。 ベルヌーイの定理は,実際の管路内流れにも適用できる。その場合は図1.15のように Vとして管内断面平均速度,Z および p として管断面中心における値を用いる。比エネ ルギー e は, e=1 2αV+gZ + p ρ (1.9) となる。αは図1.6で示したような管内速度分布を考慮するための運動エネルギー補正係 図1.14 エネルギーの内訳 図1.15 管路流れの速度,位置高さ,圧力

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数で,乱流の場合は1.01∼1.10,層流の場合は2となる。前述のように通常の管路流れ は乱流であるから,本書ではα≒1とする。したがって式(1.9)は式(1.8)と同じ形にな る。このように流れの状態(速度,位置高さ,圧力)を管軸座標との関係だけで表す流れ を一次元流れという。 液体の管路流れ計算では,比エネルギー e ではなく,e を g で割った水頭(ヘッド)表 現が使われる。 he gV2g +Z + p ρg =hV+Z +hp (1.10) ここで, hVV2g (1.10a) hpp ρg (1.10b) 水頭はポンプの揚程と同じ長さの単位を持つ。式(1.10)の右辺第1項を速度水頭 hV,第 2項を位置水頭 Z ,第3項を圧力水頭 hp,その合計を全水頭 h という。水頭は単位重量 当たりのエネルギーといういい方もされる。 ここで速度水頭 hVの大きさを確認してみよう。流れる水の管内平均速度を慣用速度 0.5∼3.0m/s の上限値3.0m/s とすると, hV=V2/(2g)=(3.0)2/(2×9.8)=0.46m となる。通常,水系の管路内の圧力水頭は10m(≒0.1MPa)以上あるから,特別に圧力 が低い場合を除けば,速度水頭は無視してよい大きさになる。 気体の管路流れ計算では,e にρをかけた圧力表現が使われる。 pT=ρe= ρV2 2 +p (1.11) 気体は密度が小さいので位置エネルギーは省略している。ρV/2を動圧,p を静圧 p T を全圧[Pa]という。全圧は送風機の性能特性を表す際に用いられる。ただし,この関 係式は気体の圧力変化が3% 以内の非圧縮性流体とみなせる場合にだけ成り立つことに留 意する必要がある(8.1節参照)。 実際の管路流れでは,図1.16のように流体が流れる間に粘性や流れの乱れによってエ ネルギーを失う。失うエネルギーを水頭で表したものを損失水頭Δhという。逆に,ポン プなどからエネルギーを与えられる場合もある。ポンプから与えられるエネルギーを水頭 で表したものをポンプ全揚程 H という。全水頭を使って図1.16の管路流れのエネルギー 保存則を式で表すと,点1から点2まで流れる間に H を与えられΔhを失うから, 1.4 ベルヌーイの定理とその実用式

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ポンプ ポンプによって与えられる 全水頭(ポンプ全揚程):H 粘性や流れの乱れによって 失う損失水頭: hΔ h1 1 h2 2 h=h+H −Δh (1.12) ここで,h1,h2:点1,2における流れの全水頭[m] H:ポンプ全揚程[m] (=吐出口全水頭 hD−吸込み口全水頭 hS) Δh:管路損失水頭[m] となる。これが管路流れに関するベルヌーイの定理の実用式になる。簡単な式ではあるが, この式からさまざまな結論を導くことができるので流体工学では重要な式である。 図1.16 管路流れの全水頭変化

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拡大管 エルボ 弁 直管 局部管

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管路流れとエネルギー

この章では Excel を使った新しい管路流れ計算法を創り出すために必要な基本事項や動 力面からの検討,そして,計算結果から管路節点全水頭,圧力,ポンプ軸動力などの値を 導き出すために不可欠な関係式について説明する。 まずベルヌーイの定理の実用式を実際の液体管路流れに適用するため,管路の損失水頭 について説明する。次に管路系のエネルギー・動力収支を全水頭とエネルギー流束を用い て表し,それをポンプやループ管路流れに適用する。最後に,管路流れの基本的な性質の ひとつである全水頭の一意性を確認する。

管路の損失水頭

本書では図2.1のように,管を管径が一定でまっすぐな直管と,それ以外の管(以下 “局部管”という)に分ける。局部管には,曲り管,拡大・縮小管,弁,オリフィスなど が含まれる。 図2.1 直管と局部管

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V1 V1>V2 V2 V1 2 2g h=ζ Δ V2 d L 2g h=λ Δ V d L 図2.2の管径 d の円形直管内を平均流速 V で流体が流れるとき,管長 L[m]の間で 失う損失水頭Δhは主に流体摩擦によるものであり,ダルシー・ワイスバッハの式 Δh=λL d V2g (2.1) で表される。直管の損失水頭は速度水頭と管長に比例し,管径に反比例する。比例定数λ [−]を管摩擦係数という。λはレイノルズ数 Re[−]と,管径 d [m]と管内表面粗さ ε[m]の比ε/d (=相対粗さ)で決まる(4.1節参照)。 局部管では流体摩擦損失の他に,管断面形状・寸法や流れ方向の変化に起因する渦や2 次流れによる損失水頭が発生する。通常,局部管の損失水頭は次式で表される。V は局 部管端部における平均流速である。 Δh=ζ V2g (2.2) 局部管の損失水頭も速度水頭に比例し,比例定数ζ[−]を損失係数という。図2.3に 拡大管の損失水頭式を示した。拡大管のように両端の流速が異なる場合には,大きい方の 流速を用いる。また,長い局部管の場合はその摩擦損失を無視できない。そこで,管路流 れの実務計算では局部管の管路中心線に沿う長さを直管長さに含める策がとられる場合が 多い。 実際の管路系では,図2.4のように1本の管路は直管と局部管とで構成されている。各 部分の流れの相互作用が無視できれば,1本の管路全体の損失水頭は各部分の損失水頭の 和になる。 図2.2 直管の損失水頭 図2.3 拡大管の損失水頭

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4 Q Q

Σ

i=1 拡大管 h2Δ 直管Δh1 エルボ h3Δ 直管 h4Δ

h

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Δ

h

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Δhiλi Li di Vi2gj ζj Vj2g (2.3) 1本のつながった管路では,直管・局部管の区別なくそこに流れる流量 Q は同じであ るから,損失水頭は,支流損失水頭係数 K [s/m]を使って次のようにまとめることが できる。 Δh=KQ(2.4) ここで,K =KS+KL (2.5) KS:直管の損失水頭係数[s2/m5] KL:局部管の損失水頭係数[s2/m5] KSi 8λiLi gπ2d i5 (2.6) KLi 8ζi gπ2d i4 (2.7) ここでは管の損失水頭の概要を述べた。詳しい説明は第4章で行う。

流れが運ぶエネルギーと動力収支

流れる流体はエネルギーを運ぶ媒体でもある。例えば,峡谷のダムに蓄えられた水は水 車に供給されると発電機を介して電力を発生する。図2.5で流れる流体が運ぶエネルギー について考える。ある管断面を通って流体が単位時間に運ぶエネルギー F は,これまで に出てきた用語を組み合わせて,[単位質量の流体が持つエネルギー]と[単位時間に通 過する流体質量]の積として表すことができる。積の前項は比エネルギー e(=gh),後項 はρQ になる。したがって F は, F=eρQ =ρgQh (2.8) と書ける。F をエネルギー流束といい,動力[J/s=W]の単位を持つ。 2.2 流れが運ぶエネルギーと動力収支 図2.4 組み合わせ管路の損失水頭

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ある断面を通って 流体が単位時間に 運ぶエネルギー 単位質量の流体が 持つエネルギー 単位時間に通過する 流体質量 エネルギー流束 F gh ρQ F 管路断面 断面 1 断面 2 エネルギー流束 管路 ρQ 1 2 p ρ V2+gZ+ 1 Σ 1 2V 2+gZ ρQ 1 2 p ρ V2+gZ+ 2 厳密なエネルギー流束は,運動方程式,連続の式,そして熱力学の関係式から導き出さ なければならないが,非粘性流体で内部エネルギーを考慮しなければ,結論はここに示し た関係式(2.8)と同じになる。この視点に立てば,ρgVh はエネルギー流束密度と解釈で きる。1.4節では,ベルヌーイの定理に現れた3種類の項を「流れる流体が単位質量あた り持つエネルギー」と説明した。運動エネルギーと位置エネルギーに関しては正しいが, 圧力エネルギーに関しては正しくない。これらの項を,エネルギー流束の視点から「流れ る流体が単位質量あたり運ぶエネルギー」と解するのが正しい。ただし,これは理論的な 解釈の話であり,本書の範囲では,この解釈の差が計算結果に反映することはない。管路 流れにおける比エネルギー(単位質量の流体が持つエネルギー)とエネルギー流束との関 係を図2.6に示した。 記号は断面1・断面2に囲まれた空間にある流体の持つエネル ギーの総和をとるという意味である。 エネルギー流束 F を使うと,管路流れのエネルギー・動力収支を明瞭に表現できる。 簡単な例から始めよう。図2.7では,流体が管路の断面1から断面2に流れ,その間で損 失水頭Δhが発生しているとする。(a)は全水頭表現で,断面1,2での全水頭を h,h2 とすると,両断面間での損失水頭Δhは定義から h−h2となる。これをエネルギー流束 Fで表すと(b)のようになる。断面1,2でのエネルギー流束を F,F2とした。定常流れ では両断面間における損失動力(=損失水頭によって失う動力)W1―2は,エネルギー保存 則と式(2.8)から, 図2.5 エネルギー流束 図2.6 比エネルギーとエネルギー流束

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1 3 h1 h3 h2 分岐点Y 支流1 Q1 支流2 Q2 支流3 Q3 1 2 3 F1 F3 F2 分岐点Y Q1 Q2 Q3 (a) (b) 2 1 2 (a) (b) 1 2 h1 h2 F1 F2 h=h1−h2 Δ W1−2=F1−F2 Q W1―2=F−F=ρgQh−ρgQh=ρgQ(h−h2)=ρgQΔh (2.9) と表すことができる。 次に図2.8の分岐流れを考える。支流1が,分岐点 Y で支流2と支流3に分岐してい る。(a)は全水頭表現,(b)はエネルギー流束表現である。断面1∼3での全水頭を h∼h3, エネルギー流束を F∼F3とした。簡単のため,分岐による損失や各支流での損失はない とすると,三つの断面に囲まれた部分のエネルギー保存則は(b)をもとに, F=F+F3 (2.10) となる。左辺は断面1から入る動力,右辺第1,2項は断面2,3から出て行く動力である。 定常流れであるから,両辺は等しくなる。上式を全水頭の関係式として表すと,式(2.8) の関係を用いて, ρgQh=ρgQh+ρgQh3 (2.11a) となる。これと同時に連続の式 Q=Q+Q3 (2.11b) も成り立っている。式(2.11a)と式(2.11b)から次式が導き出される。 h=h=h3 (2.12) 分岐による損失がなければ,分岐前後の支流全水頭はすべて等しくなる。あるいは支流の 全水頭は分岐によって変化しないと言ってもよい。この結果はエネルギー保存則に反する と思うかも知れないが,そうではない。全水頭は流れている流体が単位質量あたり運ぶエ 2.2 流れが運ぶエネルギーと動力収支 図2.7 管路流れの損失水頭と損失動力 図2.8 分岐流れ

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流線 h 1 2 3 h h 分岐点Y h 1 2 3 1 2 3 管軸座標 (b) (a) 分 岐 点 Y Δh2 Δh1 h1 Δh3 支流1 Q1 Δh1 支流3 Q3 Δh3 支流2 Q2 Δh2 h2 h1 h3 ネルギーに対応する量であり,運ぶエネルギーの総量に対応していない。このことは,図 2.9のように管路の流れを,同じ全水頭を持つ複数の流線の束と考えれば理解できる。分 岐は流線の束分けのようなものであり,流れの損失や外部とのエネルギーのやり取りがな ければ,1本の流線の全水頭は一定であるというベルヌーイの定理はここでも成り立って いる。これは2.4節で説明する全水頭の一意性につながる性質である。この分岐流れの全 水頭の性質は理由も確認せずに受け入れがちであるが,よく検討してみるとなるほどと思 う性質である。このように,分岐のある管路流れは全水頭とエネルギー流束の両方から捉 えると理解しやすい。 最後に図2.10の支流損失のある分岐流れを考える。支流1∼3で損失水頭Δh1∼Δh3を 失うとする。(a)は全水頭表現で,断面2,3における全水頭 h,h3は, h=h1−Δh1−Δh2 (2.13a) h=h1−Δh1−Δh3 (2.13b) となる。この関係は管軸座標と各支流損失水頭の関係を示した(b)で確認できる。 (a)をもとに動力収支は, ρgQh=ρgQh+ρgQh3+ 3 i=1ρgQiΔ hi (2.14) となる。式(2.14)は概念的にとらえやすい形をしている。その詳細は次節で検討する。 図2.9 分岐は流線の束分け 図2.10 支流損失のある分岐流れ

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(a) (b) ポンプ Q hS hD ポンプ全揚程:H=hD−hS S D S D ポンプ ポンプ理論動力:Wt FS FD

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ポンプと管路流れ

ポンプは羽根車やピストンの回転・往復運動によってそこを通る流体にエネルギーを与 える。図2.11のポンプ流れについて考える。(a)は全水頭表現,(b)はエネルギー流束表 現である。前述のようにポンプ全揚程 H は, H=hD−hS (2.15) である。ポンプ理論動力 Wtは,ポンプが管路内1次元流れに与えた目に見える形でのエ ネルギー増加であり, Wt=FD−FS=ρgQhD−ρgQhS=ρgQ(hD−hS=ρgQH (2.16) となる。 次に図2.12で分岐管路にポンプを組み込んだ管路系を考える。(a)は全水頭とエネルギ ー流束の両方を書き込んだ。ポンプは支流1の中間にある。断面1の全水頭を h1,ポン プ全揚程を H ,支流1∼3での損失水頭をΔh1∼Δh3とすると,分岐点 Y,断面2,3にお ける全水頭 hY,h,h3は, hY=h1−Δh+H (2.17a) h=h1−Δh+H −Δh2 (2.17b) h=h1−Δh+H −Δh3 (2.17c) となる。この全水頭の関係を(b)に示した。この管路系の動力収支は,これまでの検討結 果から, F+ρgQH=F+F3+ 3 i=1ρgQiΔ hi (2.18) と書ける。左辺はこの管路系に入る動力で,第1項は流入によるもの,第2項はポンプに よるものである。右辺は管路系から出る動力で,第1,2項は流出口2,3から流出に伴っ て出て行く動力,第3項は支流1∼3での損失水頭によるものである。前式をポンプ理論 動力(=ρgQH)を中心にした形に書き換えると, 2.3 ポンプと管路流れ 図2.11 ポンプ流れ

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F1 F2 Y 1 2 ポンプ F3 3 支流1 Q1  h1Δ 支流3Q3  h3Δ 分 岐 点 全水頭 h (a) 1 2 3 Y H (b) 管軸座標 支流2 Q2  h2Δ H− h1 h1 Δ  h2 Δ  h3Δ ρgQH=ρgQh+ρgQh3+ 3 i=1ρgQiΔhi−ρgQh1 (2.19) となる。左辺はポンプ理論動力であり,ポンプが流体に与える有効な動力である。右辺は 管路系内の流れによって消費される動力のさまざまな形態を示している。右辺第1,2項 には流出全水頭が入っているから流体を持ち上げ・加圧・増速して点2,3から外部に流 出することによって消費される動力を示している。これを流出消費動力と呼ぶ。第3項は 流体が支流1∼3を流れる際に摩擦損失等によって消費される動力で,支流消費動力と呼 ぶ。右辺最後の項は点1から流入する流れが流体に与える動力で,ポンプを助ける動力に なる。図2.13に示したように,左辺のポンプが流体に与える有効な動力と,右辺の流れ る流体が消費する動力とが一致する点が,ポンプの運転状態を示す運転点(Q,H )に なる。 式(2.19)からポンプ省エネルギーの基本的な対策を導くことができる。ポンプ省エネ ルギーは主にポンプ理論動力を小さくすることであるから, i)流出消費動力漓を減らす……右辺第 1,2 項 ii)支流消費動力滷を減らす……右辺第3項 等の対策が考えられる。漓はポンプに課せられた機能に基づくものであり,工夫して減ら すことはできるが,なくすことはできない。滷は無駄な消費動力であり極力減らしたい。 どちらの対策が効果的かは,漓,滷の全体に占める割合によって決まる。 図2.12 分岐とポンプのある管路流れ

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ポンプ ポンプ (a)高低差の大きな管路 (b)水平に広がった管路 ρgQ1H ρgQ1H Y 1 3 支流1 支流2 支流3 ρgQ1h1 ρgQ1h1 ポンプ 2 ρgQ2h2 ρgQ2h2 ρgQ3h3 ρgQ3h3 ρgQ2 h2Δ ρgQ2 h2Δ ρgQ3 h3Δ ρgQ3 h3Δ ρgQ1 h1Δ ρgQ1 h1Δ 式(2.19)に支流の損失水頭式を代入すると Wt=ρgQH=ρgQh+ρgQh3+ 3 i=1ρgKi Qi−ρgQh1 (2.20) となる。この式をもとに代表的な2種類の管路系の流れを考えてみよう。まず,空気調和 設備の冷温水管路系に見られる図2.14のような密閉循環管路系である。この系には,名 前が示す通り外部との流出入がないから,動力の中身は支流損失動力項だけになり, Wti ρgKiQi3 (2.20a) となる。この式を解釈すれば,密閉循環系では一見奇妙なことであるが,流体を高所に揚 げるという動作が見かけ上は動力を要しないものになり,ポンプ理論動力は管路の支流損 失水頭だけに費やされることになる。図2.14(a)高低差の大きな管路でも,(b)横に広が った管路でも,密閉循環系であれば管路の高低差に関係なくこの性質を持つ。これは次の 2.3 ポンプと管路流れ 図2.13 分岐とポンプのある管路流れの動力収支 図2.14 密閉循環管路系

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揚水タンク ポンプ GL Q Q ポンプ 給水タンク ボイラ (b)揚水ポンプ (a)ボイラ給水ポンプ ように考えるとよい。仮にポンプで流体を高所に揚げたとしても,揚げた流体を外部に出 すことがなければエネルギーが系外に出ることはない。密閉循環系では,高所に揚げられ た流体はエネルギーを持ったまま復路を通ってポンプに戻ってくる。したがって,ポンプ は流体が管路を流れる際に失う損失エネルギーだけを補給してやれば,流れは絶えず循環 することができる。もちろん,この式はポンプが定常運転をしているときの動力式であり, 定常運転に入る前の管路を流体で満たすための運転や起動の際の動力は対象外であること は言うまでもない。この管路系ではポンプ理論動力のすべてを支流消費動力として費やさ れ,それは式(2.20a)で示されているように厳密に流量の3乗に比例する。空調用冷温水 などの密閉循環管路系において,流量削減が大きなポンプ省エネ効果を生む理由がここに ある。 次に,図2.15で(a)ボイラ給水ポンプ,(b)揚水ポンプの管路系を考える。これらの系 では相対的に支流損失動力は小さいので,流出消費動力が支配的な管路系と考えてよい。 したがって,Wtは下式で近似できる。 Wt ρgQhout=ρgQ

V2gp ρg +Z

(2.20b) 括弧内は流出流れの全水頭を表している。流出流れ全水頭の内,速度水頭は他の水頭に比 べて小さく無視できる場合が多い。よって,ボイラ給水ポンプでは圧力水頭,揚水ポンプ では位置水頭が支配的となる。流量によって括弧内はほとんど変化しないから,Wtは流 量に比例する。これらのポンプにインバータを付加し減速運転するとどうなるだろうか。 減速すると流量が下がり,その分だけポンプ理論動力も下がる。しかしこのような系では 輸送しなければならない流体の総量は決まっているから,流量を減らした分だけ運転時間 を長くしなければならない。結果として減速の前後でポンプに投入するエネルギーの総和 は変わらない。正確に言えば,減速時はインバータの損失分だけ逆に増えることになる。 図2.15 流出消費動力が支配的な管路系

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