第28回血液部門卒後研修会 長崎
症例7
熊本赤十字病院エスアールエル検査室 津田 勉 平成29年2月18日(土)
• 【年齢・性別】78歳・男性 • 【主訴】 特になし • 【現病歴】HCC(肝細胞癌)加療後、フォロー中のPt。近医にて予定さ れていたCTと採血で受診時、白血球・血小板・LDH増加を認める。又、 画像上脾腫を認めた為、当院血液腫瘍内科にて精査目的で紹介と なる。 • 【既往歴】HCC(肝細胞癌) • 【臨床症状】自覚症状なし
【生化学・その他検査】
TP 7.8g/dl Na 137mEq/l ALB 4.0g/dl K 4.6mEq/l T-Bil 0.5mg/dl Cl 102mEq/l AST 25IU/L Ca 8.8mg/dl ALT 14IU/L CRP定量 0.83mg/dl LD 339IU/L IgG 2487mg/dl ALP 147IU/L IgA 158mg/dl CHE 198IU/L IgM 188mg/dl CK 64U/L Glu 107mg/dl BUN 31.8mg/dl フェリチン 145.9ng/ml CRE 1.82mg/dl AMY 137IU/L Fe 35μg/dl UIBC 188μg/dl LD/ALT=24.2>15 血液腫瘍の可能性大 BUN/CRE=17.5>10 消化管出血・脱水?【血液検査】
WBC 12.42×103/μl Stab 12.0% RBC 4.11×106/μl Seg 43.5% Hb 10.8g/dl Eo 1.0% Ht 32.2% Baso 1.5% MCV 78.3fl Lympho 6.0% MCH 26.3pg Mono 24.5% MCHC 33.5% Meta 8.5% PLT 770×103/μl Myelo 2.5% Ret 2.25% Blast様 0.5% RPI 1.07 RBC所見 大小、破砕 ※偽ペルゲル核異常末梢血液像MG染色(1000倍) ①芽球様細胞 0.5% ②単球 24.5%、好塩基球 1.5% ③好中球形態異常 ④血小板増加
①
②
③
【検査所見】 • 血液検査 WBC・PLTの増加、貧血 • 生化学 LDH・BUN・CRE・AMY・IgG・CRP高値 CHE・Fe低値 • 凝固 未検査 【血液像所見】 • 白血球系 幼若細胞出現(芽球0.5%) Mono・Baso高値、偽ペルゲル核異常 • 赤血球系 大小不同、破砕赤血球 • 血小板系 所見なし 【予測される診断】 ・骨髄増殖性腫瘍、骨髄異形成症候群、癌の再発・転移 【必要な検査】 骨髄検査 ・骨髄像(MG染色・特殊染色) ・病理検査 ・細胞表面マーカー ・染色体検査等
データから推測される疾患と追加検査
【骨髄検査】
E r y t h r o p o i e s i s Proerythroblast 0.0 Promono 1.0 M.baso 0.0 Mono 14.4 M.poly 0.4 Lympho 2.0 M.ortho 0.0 Plasma 0.2 N.baso 1.4 Histiocyte 0.2 N.poly 9.8 Phagocytes 0.0 N.ortho 1.0 M/E比 5.52 E Total 12.6 有核細胞数 280,500/μl G r a n u l o p o i e s i s Myeloblast 2.0 巨核球数 343/μl Promyelo 1.6 Myelo 10.2 所見 Meta 13.0 【赤芽球系】 【顆粒球系】 Stab 20.6 所見なし 偽ペルゲル核異常 Seg 19.8 低顆粒好中球 Immature Eo 0.4 【巨核球系】 環状核好中球 Eo 0.6 微小巨核球、小型巨核球 Immature Baso 0.2 過分葉巨核球、分離多核巨核球 Baso 1.2 M Total 69.6小型、多核、過分葉、有尾状等異型 を伴い、又、血小板を多数産生している 巨核球の増生が目立つ。
骨髄像MG染色(1000倍) ①過形成,・巨核球増加、脂肪滴減少 ② M/E比5.52⇒顆粒球系過形成 ③単球系細胞増加 ④形態異常 【顆粒球系】 偽ペルゲル核異常、低顆粒好中球、 低顆粒幼若顆粒球、環状核好中球 【巨核球系】 微小巨核球、小型巨核球、 過分葉巨核球、分離多核巨核球 ⑤巨核球血小板産生像多数 単球増加 低顆粒幼若顆粒球 偽ペルゲル核異常 低顆粒・環状好中球 過分葉巨核球
①顆粒球過形成・形態異常、芽球増加なし、単球増加、巨核球増加、 Baso軽度増加 ②骨髄球系に異形成を伴う無効造血を認めると同時 に、異形成を有する有効造血を巨核球系に認める ①特殊染色(PO・エステラーゼ(ブチレート・アセテート・二重)・ALP) ⇒形態診断の補助 ②血清・尿中リゾチーム⇒単球系白血病の証明 ③染色体検査G-band法⇒CML否定とその他の異常の有無検索 ④BCR-ABL1(FISH)⇒CML否定(又は肯定) ⑤JAK2・CALR遺伝子変異解析⇒遺伝子異常の有無検索
骨髄像から推測される疾患と追加検査
⇒CMML、aCML、(CML) ⇒MDS/MPN,U 異常クロマチン凝集特殊染色を駆使して細胞を鑑別する!!
1.MPO染色・・・・①AMLとALLの鑑別に必須。 ②染色態度の違いにより細胞系統を鑑別。 2.EST染色・・・・・①単球系と顆粒球系細胞の鑑別。 (EST-W) ②α-NAEでM6(‐~++)、M7(+) 3.PAS染色・・・ ①芽球の陽性染色態度の違いによる白血病細胞の鑑別。 ②腫瘍性赤芽球が陽性に染まる事によるAML (M6)と巨赤芽球性貧血との鑑別。 ③MDSでの異形成の有無。 ④腺癌等の腫瘍細胞の骨髄転移の確認。 4.ACP染色・・・ ①HCLで例外もあるが反応が強く、酒石酸抵抗性。 ②リンパ球のsubpopulation(T,B細胞)における染色性の違い。 5.Fe染色・・・・・・MDS(RARS)における環状鉄芽球の比率。 6.ALP染色・・・・・CML、PNH、t(8;21)、MDS等で低値を示す。少しでも疑問に思ったら必ず特殊染色!!!
【MG染色】 形態だけでは判断出来ない細胞 【細胞化学的検査(特殊染色)】細胞を形態と機能の両面から観察!!!
MG染色【形態】+細胞化学的検査(特殊染色)【機能】PO染色陽性と偽陽性判定ポイント
陽性細胞に隣接し陰性細胞の細胞質の 一部が陽性に見える 背景に顆粒が残り、陰性細胞が背景と 同様の染色性を示す。 DAB法(ベンチジン誘導体) FDA法(フルオレン誘導体) 末梢血PO染色PO染色弱陽性を見極めるポイント
後染色を変える①ベンチジン誘導体
ベンチジン誘導体の時は後染色をギムザ で行うと核の形態観察に適する ベンチジン誘導体の時に後染色を ヘマトキシリンで行うと顆粒の観察に適する 顆粒が見やすく弱陽性 の判定がし易い 末梢血PO染色PO染色弱陽性を見極めるポイント
後染色を変える②フルオレン誘導体
フルオレン誘導体は顆粒が青緑色で核 も青紫色を呈し同系色の為、見にくい時が ある フルオレン誘導体の時に後染色をサフラニン で行うとコントラストがはっきりして陽性顆粒 が観察し易い(核が赤系、顆粒が青系に染ま る) 顆粒が見やすく 弱陽性の判定が し易い 末梢血PO染色ブチレート法
骨髄像EST染色1000倍
NaF阻害
組織球
特殊染色所見
PO染色 EST染色 ALP染色(PB)
顆粒球系:陽性 αNB・αNA染色 陽性率(60.5~99.55) 単球系:陰性~弱陽性 単球系:陽性(NaF阻害(+)) 陽性指数(170~335) ASDCA染色 顆粒球系:陽性 この症例は… • PO染色:陰性20%、弱陽性23%、中等度24%、強陽性33% • αNB染色:陽性31%(NaF阻害(+))・・・好中球含む(一部好中球もNaF阻害有り) • αNA染色:陽性22%(NaF阻害(+)) • EST-W:ASDCA57%陽性、αNB25%陽性 • ALP染色(PB):陽性率43.0%(60.5~99.5%)、陽性指数91(170~335) • PB芽球(前単球を含む)0.5%(<5%)、BM芽球(前単球を含む)3.0%(<10%)より • 【形態診断】 FAB分類 MDS CMML
追加検査(病理、表面マーカー、染色体検査等)
• 【生化学的検査】 血清リゾチーム166.5μg/mL(5.0~10.2μg/mL) • 【病理検査】 骨髄実質は80%でhypercellular marrow。M:E比>5、Megakaryocyteは最大10個/HPFと著明 に増加し、大小不同と核異形を認める。CD3、CD20でリンパ腫を示唆する所見はなく、CD34陽 性芽球の優位な増加は認められない。MPNが疑われます。 • 【表面マーカー(LLACD45ゲーティング)】 CD13(55.6%),CD14(23.4%),CD33(72.4%),CD34(31.8%),CD56(29.8%),HLA-DR(82.3%) • 【染色体検査(G-band)】 46,XY,del(13)(q12q14)[20] • 【染色体検査(BCR‐ABL(FISH))】 100細胞中、融合シグナル0% • 【JAK2V617F(GTC→TTC)遺伝子変異解析】 判定(-) 【確定診断】 WHO分類 MDS/MPN CMML-1 FAB分類 MDS CMML ⇒CMML ⇒MPN ⇒骨髄・単球系のマーカー発現(CMML) ⇒MDS、ET等で見られる異常 ⇒CML否定 ⇒JAK2V617F変異なし(CALR未検索)慢性骨髄単球性白血病(CMML)の定義
(骨髄異形成症候群的から骨髄増殖性腫瘍的性質のものまで病像は多彩。) JAK2V617F変異は稀 • 骨髄増殖性腫瘍(MPN)と骨髄異形成症候群(MDS)の特徴を 併せ持った、単クローン性の骨髄腫瘍である。 ①持続する単球の増加(末梢血において>1×109/L) ②フィラデルフィア染色体とBCR-ABL1融合遺伝子がない ③PDGFRA、PDGFRB遺伝子の再構成がない(Eo増加例では特に除外が必要) ④末梢血、骨髄で芽球が20%未満。(前単球は芽球として扱う) ⑤1系統以上の血球に異形成がある。 • 異形成がない場合 ①骨髄細胞に後天性のクローン性染色体異常や遺伝子異常がある。 ②3ヵ月以上の単球増加が続いており、単球増加の原因(悪性腫瘍、感染、 炎症など)がないこと慢性骨髄単球性白血病(CMML)
【疫学・病因】 男女比1.5~3:1で男性に多く、診断は65~75歳に多いとされる。病因は明ら かではない。一部の症例では環境の発癌物質や放射線が原因の可能性あり と示唆されている。 【病変部位】 末梢血と骨髄は常に異常細胞があり、その他に脾臓、肝臓、皮膚とリンパ節 が髄外病変として頻度が高い。 【臨床像】 ほとんどの患者で診断時に白血球は増加し、骨髄増殖性腫瘍に類似している が、一部には様々な程度の好中球減少を伴って白血球数が、正常又はやや 減少している例があり、MDSに似た病態をとる。末梢血・骨髄の芽球割合に よってCMMLは2つに分けられる。 CMML-1:芽球(前単球を含む)が末梢血で5%未満かつ骨髄で10%未満。 CMML-2:芽球(前単球を含む)が末梢血で5~19%、または骨髄で10~19%、 或いは芽球+前単球の数にかかわらず芽球にアウエル小体がみられる場合。CMML 【異常単球】
【異常単球の形態】 一般に成熟し、形態的に著変ないものの、顆粒分布、核分葉や 核クロマチンパターンの異常をとり得る。⇒異常単球 ※芽球と前単球を併せて20%を超えるとCMMLではなく、AMLの 診断となるので正確なカウントが重要である。 末梢血液像MG染色(1000倍)異常単球と前単球の鑑別
骨髄像MG染色(1000倍) 前単球 前単球 異常単球 異常単球 【異常単球の形態】 • やや幼若な単球を指すが芽球や前単球と比べるとより成熟しており、クロマチン の濃染、核の巻き込みとそれに伴うひだ形成、灰色がかった細胞質を持つ。 【前単球の形態】 • 単芽球と比べると核に切れ込み等、核形不整がみられ、核網やや繊細緻密。核 小体は名残がみられ、細胞質の好塩基性は薄れ、微細なアズール顆粒を有する。CMML 【好中球の異形成】
低顆粒好中球 偽ペルゲル核異常 環状核好中球 【好中球の異形成】 白血球減少例や正常例と比べて今回の症例のような増加例では異形成は目立たない。 一部の症例では顆粒の減少した好中球と異形成のある単球を区別しづらい。 骨髄像MG染色(1000倍)骨髄像EST染色1000倍
エステラーゼ染色(ブチレート法)陽性好中球
ブチレート法 【好中球の異形成】 ブチレート法で異形を伴う成熟好中球が一部、弱陽性を示した。又、一部はNaF阻害(+)。 α-NB陽性好中球の出現は異常クローン由来の可能性が示唆される。 NaF阻害 組織球骨髄像MG染色(1000倍)
顆粒球(顆粒減少)と異常単球の鑑別
異常単球 好中球桿状核球 後骨髄球 異常単球 異常単球 異常単球 後骨髄球 骨髄球 異常単球CMML
【巨核球(血小板)の増加】
しばしば中等度の血小板減少 がある。 異形成のある巨大血小板が 観察されることがある。 今回の症例は血小板の著明な 増加を伴っており、形態診断に 迷った部分。 骨髄像MG染色(1000倍) ※JAK2V617F変異は稀だが見られる事有り免疫学的形質
• CD13,CD33,CD14,CD68,CD64を発現している。(末梢血、骨髄 の増加単球は2つ以上の異常な形質(異常な免疫学的形質)を 発現している。) • CD2の異所性発現,CD56の過剰発現。 • CD14発現低下(単球の相対的な未成熟性(幼若単球)を反映) • HLA-DR,CD13,CD15,CD64,CD36の発現低下。 • 成熟過程の顆粒球系細胞にも形質異常がある。 • CD34陽性細胞の増加や異常な免疫形質を持つ芽球集団の出 現は急性転化を早期に起こす可能性がある。 • 免疫組織化学で最も信頼できるマーカーはCD68R,CD163。遺伝学
• 20~40%にクローン性の染色体異常が見られ、+8,-7/del(7q),12p 異常の頻度が高いが特異的なものはない。 • 40%でRASの点突然変異が陽性である。「単独isochromosome17 q異常を伴う血液腫瘍」の一部はCMMLの定義に一致するが、多 くはMDS/MPN,Uとする方がより適切であろう。 • CMMLにおいて11q23異常は稀で、これはCMMLよりAMLを示唆 する。 • 染色体転座t(5;12)(q31-33;p12)/ETV6-PDGFRB融合遺伝子 が陽性で、好酸球増加を伴うMDS/MPN例は、以前はCMMLとさ れていたが、現在は別のカテゴリーに分類されている。 • CMMLに類似してもp190BCR-ABL1を発現する例はCMLとされる べきである。WHO分類2016改定版MDS/MPN CMML
• 【MDS/MPN】CMML 遺伝子変異に関しては高率に検出されている。 CMMLにおいて最も共通して認められる遺伝子異常SRSF2、TET2さらに、 (あるいは)ASXLで80%以上の症例で認められる。 その他、低頻度に認められるものにSETBP1、NRAS/KRAS、RUNX1、CBL、 EZH2がある。それらの遺伝子異常は、通常、正常核型を示すCMMLの診 断の一助となるが、単独の異常では疾患を証明するものとは言えない。 なぜならそれらの遺伝子異常は健常な高齢者にも認められ、clonalhematopoiesis of indeterminate potential(CHIP)とも呼ばれている。ASKL1 変異はCMMLにおいてアグレッシブな病勢を示唆するため予後スコアリン グシステムに取り入れられている。注目すべきは、NPM1変異がCMMLの3 ~5%の症例に見られ、よりアグレッシブな臨床経過の前触れと言えそうだ。
• 分子学的異常と臨床経過の関係における新たな発見によりCMMLは白血 球数13,000/μl以上の“proliferation type”と13,000/μl未満の“dysplastic” のサブタイプにわけることの意義が明確となった。とりわけRAS/MAPK経 路が両者で異なっていることが分かっている。 又、それに加えて芽球比率が予後と重要な関連があることは3版で示唆さ れ、4版で明確になっている。最近のエビデンスでは芽球比率に基づいて3 つのグループに分けることがより予後を決定する上で意味があることが示 されている。従って以下の3つのサブタイプに分類する。 • CMML0:PB芽球2%未満、BM芽球5%未満 • CMML1:PB芽球2~4%、BM芽球5~9% • CMML2:PB芽球5~19%、BM芽球10~19%又はAuer rodが認められる。 • 前単球(芽球と同様に扱われる)と成熟単球を鑑別することの重要性、す なわち形態学的評価が必須であることと同時に、フローサイトメトリーによ る適切な免疫表現型に関する情報や細胞遺伝学的検査、分子遺伝学的 検査が必須である。
WHO分類2016改定版MDS/MPN CMML
【まとめ】 • 芽球と前単球を併せて20%を超えるとCMMLではなく、AMLの診断 となるので、前単球と異常単球の鑑別が重要。 • 異常単球と低顆粒好中球~幼若顆粒球等の鑑別が困難な場合、 特殊染色と併せて判定していく。(α-NB陽性好中球に注意する) • CMMLにおいてJAK2V617Fの変異は稀だが認められる事は有り、 今回の症例では認められなかったが、CALR等他の遺伝子検査に ついても実施する必要がある。 • WHO分類2016改定版においてCMMLの遺伝子変異に関しては高率 に検出されている。しかし、まず、形態学的評価が必須であり、同時 に、従来同様フローサイトメトリーによる適切な免疫表現型に関する 情報や細胞遺伝学的検査、分子遺伝学的検査で補完していく。