身長の変化からわかるこどもの病気
名古屋市立大学大学院医学研究科 新生児・小児医学分野水 野 晴 夫
元気に大きくなっていくことは子どもの健康のバロメーターである。正常の身長の伸 びから大きく逸脱する場合には、病気の存在が疑われるが、その判断をするためには 健康な子どもの成長を理解する必要がある。小児期の成長は、4 歳頃までの乳幼児 期、思春期のスパートが始まるまでの前思春期、および思春期に分けられる。約 50 cm で生まれ、その後、年間約 10 cm、8 cm、7 cm と伸び、4 歳で男女とも約 1 m となる。 前思春期では、年間約 5〜6 cm の割合で身長は伸びていく。思春期の成長は、主に 性ホルモンの影響によるもので、精巣の増大や、乳房の腫大など、二次性徴の発現と 密接に関係し、成長の男女差がはっきりする。思春期に入ると、その後しばらくして性 ホルモンが盛んに出始めると身長スパートがかかるが、さらに数年後には、体が完成し てしまうため身長の伸びは止まってしまうことになる。この時期の成長パターンは、個人 差が大きいことを念頭に置かなければならない。すなわち、二次性徴発来、身長スパ ートの時期が早いか遅いかによって、成長パターンに大きな個人差が生じうる。いわゆ る、“おくて”の子は一時的には小柄が目立つが、二次性徴が遅れてでも発来して進 行すれば、標準身長の中に入ってくることになる。 「低身長」とはどの程度の小柄な子を言うのだろうか?(本人の身長 – 同性・同年 齢の標準身長)÷標準身長の標準偏差、を身長 SD スコアと呼び、低身長の程度を表 すのに用いられる。「低身長」とは-2.0 SD 以下の子をいうが、必ずしも病気があるとい うわけではない。低身長になる原因は、1. 骨がのびにくい体質、染色体の問題、胎内 での発育不全など、成長する細胞自体が大きくなりにくい、2. 極端に栄養が悪い、心 臓や腎臓などの疾患、成長ホルモンや甲状腺ホルモンの不足など、成長する細胞の 環境が整わない、3. 体質的な小柄、原因がわからない小柄、に分類されるが、実際 に小柄を心配して病院を訪れる児のうちでは、病気とは言いがたい体質的な小柄の 子が多い。 低身長児のうちの 5 %以下の頻度ではあるが、成長ホルモンの不足があると低身長 になる。重症の場合には、年間の伸び率が明らかに悪くなることが多いため、早くみつ けて検査・治療をすることが望まれる。ただし、成長ホルモンの不足が軽い子、ほぼ正 常に出ているが小柄である子に対しては、成長ホルモン治療を行っても、必ずしも成 人身長を高くする効果はない。また、成長ホルモンの不足が単に低身長のみを起こす病気、ということのみで認識してはならない。成長ホルモンが出る下垂体前葉の甲状 腺や精巣・卵巣、副腎を調節するホルモンの異常を伴っている場合は、低身長以外に も多彩な症状が出てくる。さらに、脳腫瘍などの重い病気が存在して成長ホルモンが 出なくなっている場合もある。 染色体に問題を持つターナー女性も低身長の原因となる比較的よくある体質であ る。年齢とともに小柄の程度が強くなり、さらに卵巣の働きが低下しているため思春期 がこない子がいる。なるべく早く発見し、成長ホルモンを使用して、小柄を改善した後 に女性ホルモンの補充を行う。 腕や足が極端に短くアンバランスな体型をもつ軟骨無形成症や、筋緊張低下、肥 満、発達の遅れ、精巣や卵巣の働きの低下など、年齢に応じて多彩な症状を認める プラダー・ヴィリー症候群も小柄になる体質である。 病気とは言いがたい体質性低身長の中には、在胎週数の割に身長・体重が小さく 生まれ 2-3 歳までに標準の体格に追いつかない子宮内発育遅延性低身長、ご両親の 小柄な体質を受け継いでいる家族性低身長、原因がわからない特発性低身長が含ま れる。このうち、成長ホルモン治療対象となり得るのは子宮内発育遅延性低身長であ るが、成長ホルモンが正常に出ている子にさらに追加して注射し、薬の力を使って身 長を伸ばそうとする治療である。そもそも子宮内で育たなかった理由も様々であるため、 成長ホルモン治療に対する効果も一様ではない。 二次性徴が早くきてしまい、幼い年齢で性ホルモンが出続けるために、一時的には 身長スパートが起きるが、最終的には小柄のうちに体が完成してしまう思春期早発症 も低身長を起こす病気の一つである。まず、原因疾患が存在しないかどうかを調べた 後、成人身長が低くなりすぎないため、幼い年齢で二次性徴が出現することによる心 理的社会的問題が起きることを防ぐために性ホルモンを抑える治療を行う。 成長ホルモンと並んで子どもの成長に重要な働きを持つのが甲状腺ホルモンであ る。生まれながらにして甲状腺が正常に働かないクレチン症は、早期に適切な治療を 行わないと、知能の遅れにつながる。また、自己免疫疾患である慢性甲状腺炎(橋本 病)は、一般的には幼児期以降に甲状腺機能が低下する病気であるが、成長期の子 どもで著しい機能低下が起きた場合には、成長率の急激な悪化が起きるため、速やか な対応が必要である。 健診などでの計測データから成長曲線をつけることで、早期に異常をみつける手 がかりになることがある。低身長の程度の強い子、年間の伸び率が悪い子、あるいは 背の伸びがよすぎて幼い年齢で二次性徴が開始してしまう子、さらに、背が低い以外 の症状を認める子は、時期を逃さず病院にかかることをお勧めしたい。