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バーンアウトの概念変遷: どこから来て、どこへ行こうとしているのか

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バーンアウトの概念変遷:

どこから来て、どこへ行こうとしているのか

北岡 和代

金沢大学医薬保健研究域保健学系

 はじめに

 2016 年はバーンアウト測定のゴールド・スタンダー ドになっている MaslachBurnoutInventory(MBI)が 開発(1981)されて 35 年という節目の年であった。そ れ以前、25 年の節目において、バーンアウトに関して レビューを行っている1)。このたび、機会をいただいた ので、再びレビューしたい。バーンアウト研究はアメ リカの MaslachC、カナダの LeiterMP、オランダの SchaufeliWB の 3 名により強く牽引されてきており、現 在も 3 名ともにその研究活動は退くところがない。25 年 の節目においては、Schaufeli 教授との共同作業でその責 任を果たした。今回は、3 名が共著で出している “Burnout:

35yearsofresearchandpractice”2)を大いに参考にし、

バーンアウトという言葉に魅せられた研究者として、社 会・文化的背景からその概念の変遷についてレビューす る。前回、Schaufeli 教授とレビューした際、参考にした ら良いよとある原稿をくれた。それが実は上述した 3 名 の投稿原稿のオリジナル版であったことを発表後に気づ いた。Schaufeli 教授にはその気前よさに特に感謝しつつ、

3 名のバーンアウト研究の大御所たちの言わんとしてい ることを解釈しながら、読者に伝えたいと思う。

 バーンアウトは 1970 年代に登場し、人々の仕事上の 経験について非常に重大なものを捉えている重要な概念 となった。今日でも、それは変わらない。当時も今も、

バーンアウトは人々に共通する経験にずばりあてはまる と思われる概念である。研究者たちはそれが何であるの か、またどうして起きるのかについて理解を深めようと 駆り立てられた。現場の人たちは、それに対処し、それ を予防する方法を見つけ出すことに躍起になった。この ように、バーンアウトは最初から、研究者たちからも現 場の人たちからも、注目すべき社会的問題であるという 共通認識を得てきた。そして、この認識は発祥の地であ るアメリカを越え、他の多くの国々に広がり、世界的に 注目される重要な現象となったのである。

 現在、バーンアウトは定着した学術テーマであり、こ れに関してすでに何千件もの研究論文が発表され、無 数の学会やシンポジウム等において話題にされている。

バーンアウトに関する書籍、論文、学位論文は 6,000 以 上が発行されていると見積もることができる3−5)。バー ンアウトの概念は、それ以前は注目されることがなかっ た対人サービス専門職者における職業性ストレスとし て、研究され、理論化されるようになった。その後、社 要   旨

 本稿の目的はバーンアウトに関する研究蓄積をレビューすることよりも、むしろバーンア ウトの概念自体に焦点を当て、その変遷を辿ることにある。バーンアウトの概念のルーツ は、この四半世紀に起きた幅広い社会的、経済的、文化的発展に深く根づいており、産業社 会からサービス経済への急速で大規模な転換を伝えているように考えられる。このような社 会的転換に際しては、バーンアウトという言葉で言い換えられる精神的なプレッシャーが伴 う。21 世紀に入ってからは、バーンアウトは前向きであった精神状態の崩壊と見られるよう になっていった。また、バーンアウトはグローバルな現象のように思われるが、その概念の 意味は諸国間で異なっている。本稿により、バーンアウトの概念の正確な意味はその背景(文 脈)とこの用語を用いる人々の意図により異なることを示す。

KEY WORDS

Burnout,MBI(MaslachBurnoutInventory),Jobstress,Socialchange,Medicaldiagnosis

(2)

会保障制度が充実している一部のヨーロッパ諸国、特に スウェーデンとオランダにおいては、バーンアウトは産 業保健分野における医学的診断として確立されている。

 バーンアウトという概念が提唱された当初は、権威あ る学者たちから ‘ ポピュラー心理学 ’ として退けられて しまったにもかかわらず、並はずれて長い年月にわたり 存続していることを説明するものは何なのか。そして、

今後も取り組むべき研究課題でありうるのか。バーンア ウトの概念変遷を中心に考察しながら、紐解いてみる。

 1.バーンアウト:その始まり

 1974 年、Freudenburger6)が ‘Staffburn-out’ と 題 し て論文を発表したことにより、彼がバーンアウト発見の 父と言われていることは多くの研究者が伝えている。し かし、その経緯を詳しく伝えているものは極めて少ない。

さらに、1976 年、Maslach7)も同じ現象に気づき、奇し くも同じ用語を用いて論文を発表したことを知っている 研究者は非常に少ない。ここで、紹介する。

 バーンアウトは心のエネルギーが徐々に尽きていく現 象を示している比喩語である。火はひとたび燃えても、

それに勢いを与える十分なリソースがなければ明るく燃 え続けることはできないということを暗に意味してい る。バーンアウトしている労働者は、時の経過とともに、

組織に影響を及ぼすほどの成果を生むような力一杯貢献 する能力を失う。彼らが働き続けていたとしても、その 成果は燃えているというよりはくすぶっているもの、つ まり、ただ無難で取るに足りないものになってしまう。

彼ら自身または他者の視点から見て、彼らの仕事の達成 度は低い。バーンアウトという比喩語は、仕事に有意義 なインパクトを与えるかたちで熱心に関与し続ける労働 者の能力が消耗していることを表現している。

 バーンアウトという比喩語の成功には、人々の話しぶ りにその概念の源があることが反映されている。心理学 者たちがこの用語を研究に値する現象であると特定する 以前に、人々はある経験について述べるためにこの言葉 を使っていた。Freudenberger はニューヨークのイース トビレッジにある薬物依存やホームレスの人々のための 聖マークス無償クリニックの無給の精神科医であった。

そのような無償のクリニックは、体制に反対する動きか ら生まれたものだった。そこでは、ドラッグにより心身 ともに破滅的な影響を受けている薬物乱用者の末期の姿 を ‘burn-out’ と表現していた。彼は、熱い思いを抱いて そのクリニックに集まってきた若きボランティアたちを 観察した結果、見えてきた徐々に進行する感情的疲弊や 動機の喪失、コミットメントの低下を説明するのに、こ の用語を借用したのである。Freudenberger 自身も 2

度、バーンアウトの犠牲になったようである。しかし、

そのことが逆に、彼がバーンアウトについてのメッセー ジを広めるに際して、より大きな信頼を得るようになっ た。このテーマを取り上げた彼の著作はきわめて自伝的 要素が濃い。しかし、1999 年にボストンで開催されたア メリカ心理学会(AmericanPsychologicalAssociation)

で「 心 理 学 実 践 に お け る 生 涯 功 績 金 賞(TheGold MedalAwardforLifeAchievementinthePracticeof Psychology)」を獲得した事実に、彼の影響力の大きさ が表れている。

 奇しくも、時を同じくして、Maslach らはカリフォル ニアでさまざまな対人サービス職関係の人々に面接して いるときに、この用語に出くわした。社会心理学者であっ た Maslach は、このような労働者が「突き離した関心

(detachedconcern)」などの認知的戦略を用いて、どの ように感情の高揚に対処しているのかに興味を持った。

面接の結果、Maslach はこういった人々はしばしば情緒 的に疲弊していて、顧客や患者についてのネガティブな 認識と感覚を膨らませ、情緒的な動揺の結果として職業 的な能力の危機を経験していることに気がついた。現場 の人たちがこのような現象を ‘burn-out’ と呼んでいるこ とを知り、彼女もまたこの用語を借りて、バーンアウト 現象について発表した7・8)。その後、Maslach らは徹底 した面接と観察を行い、心理測定学的立場からバーンア ウトを単なる疲弊を超えた多次元的な複合概念として定 義し、それを測定する尺度 MaslachBurnoutInventory を開発した9− 11)

 当初、バーンアウトは「人を相手に仕事をする人々に 起こる心身疲弊感、非人間化、個人的達成感の低下とい う症候群である」とされた11・12)。しかし、1980 年代後 半までには、バーンアウトは対人サービス以外の分野で 働く労働者にも、同じ現象が起こることが認識され始め た。そのため、1990 年代に入ると、バーンアウトは「

人が自分がしている仕事の価値を冷ややかに見、仕事を 遂行する自分の能力について疑念を抱いている疲弊した

状態」12・13)という定義へと修正された。その後、バーン

アウトは、燃焼を支えるリソースの枯渇に文字どおり言 及することから、心理学の領域へと移った。

 しかし、そもそもバーンアウトはなぜ、1970 年代半ば にアメリカで突然勢いを得たのだろうか。また、なぜ今 も、よく知られている重要な問題であり続けているのだ ろうか。

 2. バーンアウトと社会的背景: そのとき、どのよ うな社会だったのか

 バーンアウトが 1970 年代に議論され始めたとき、そ

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した。彼らは、そのような ‘ イデオロギー的なコミュニ ティ ’ は社会貢献と共有感覚、集合的全体との接触、強 い価値観の共有によりバーンアウトが起きることを予防 する集合的なアイデンティティを提供すると論じた。こ の観点から見ると、バーンアウトは人助けの仕事を ‘ 天 職 ’ から ‘ 近代的な職業 ’ へと専門化するために支払われ た対価と言える。功利主義の組織的価値観とサービス提 供者の個人的または職業的な価値観との、慣行化した衝 突の蔓延から生まれる失望と幻滅が、さらにバーンアウ トを引き起こす原因となったと考えることができる。

 1960 年代の ‘ 文化革命(culturalrevolution)’ は、特 に医師や看護師、教師、ソーシャルワーカー、警官の職 業的権限を弱めた。こういった専門職者に対して伝統的 に払われていた敬意は、1960 年代以降はもはや明確なも のではなくなった。同時に、社会的な力をつけた受益者 は、以前よりはるかに多くのものを期待した。その結果、

受益者からのケアやサービス、同情、思いやりの要求が 強まった。この 2 つのトレンドが相まって、この専門的 職業に対する技術的、精神的要求が大きく高まった。サー ビス提供者は、たとえ制度化されたサービスの価値を受 け入れて専門職としての理想を諦めても、仕事から充足 感を得られるようには思われなかった。社会的交換とい う観点からは、専門家としての努力とそれが認められ感 謝されることで彼らが受け取る見返りとのギャップが大 きくなっていった。この「相互関係の欠如」はバーンア ウトを醸成するのである16)

 上述した要因は多かれ少なかれ、バーンアウトが最初 に観察された職業グループである対人サービス分野に限 定された場合のものである。しかし、さらなる社会文化 的発展が 1970 年代半ばにおけるバーンアウトの出現と 蔓延に寄与したと思われる。第 2 次世界大戦以降、教会 や近隣地域、家族など従来の社会的コミュニティやネッ トワークは徐々に損なわれていった。Sennett17)によれ ば、これは台頭しつつある ‘ 柔軟な資本主義 ’ の結果で あるという。‘ 柔軟な資本主義 ’ により、均一で柔軟性 に欠ける従来の社会的機関から、不均一で柔軟性があり 且つ常に変化し続ける社会的機関が取って代わった。コ ミュニティからのサポートが減っただけでなく、個人主 義がますます栄えてきた。社会はもはや共有の定義を提 供しなくなり、人々は自身の社会的・職業的役割につい て個人的な定義を生み出していった。それと並行して ‘ 自 己愛的な文化(narcissisticculture)’18)が台頭した。こ れは、報われず、闘争的でさえある束の間の社会的関係 を特徴とし、自己陶酔し、人を操り、自身の欲求が即 座に満たされることを求めるが、いつまでも満足する ことがない人間を創り出す。Farber14)が指摘したよう れは主に医療・保健スタッフ、ソーシャルワーカー、弁

護士、警察官など、対人サービス職に従事している人々 が中心であった。面接や事例報告により、そのような人々 がエネルギーも仕事の価値観も失ってしまうことを経験 する様子がありありと描き出された。仕事の意義の喪失 は、他者を助け、他者に奉仕するという高尚な目的を持 つ職業において、特に心痛を伴うものであった。バーン アウトの議論は対人サービス職の分野において、手ごた えのある始まりかたをした。彼らは感情や価値観、人々 との関係における問題に対して、‘ 声 ’ を上げることが比 較的うまくできたからである。

 1960 年代初頭、ジョン・F・ケネディー大統領は「国 があなたに何をしてくれるかではなく、あなたが国に何 ができるかを考えてほしい」と人々に問いかけ、公共サー ビスという考えに火をつけた。それに続いて、リンドン・

B・ジョンソン大統領は ‘ 貧困撲滅運動 ’ に着手し、これ により、理想に燃える若者たちが大量に対人サービス職 に就くようになった。しかし、貧困の根絶のために格闘 すること 10 年間、若者たちはどんどん幻滅していって いる自身に気がついた。彼らは、貧困を長続きさせてい る組織的な要因が彼らの努力を妨害し、無に帰している ことに気づき始めたのだった。挫かれた理想主義はバー ンアウト体験に特徴的な属性で、これは怒りの激しさを 反映していた。それはこの概念の拡散にとって決定的な ものであった。サービス提供者は、仕事をこなしたり、

サービス受益者に対する思いやりを示したりする能力を 失っている自分に愕然としたのである。バーンアウト体 験は単に不都合であるとか職業上の危機というだけでは なく、職業人としてのアイデンティティを破壊する攻撃 であった。彼らは当時の活発なアメリカ経済にあったそ の他の職業選択を放棄して、人のためというキャリアを 選択していた。自然に疲弊したのであれば、それはさほ ど切迫したものではなかっただろう。献身的な人々は、

高く評価された目標に向かって並々ならぬ努力をするこ とで自身を疲弊させることからさえ、充足感を得ること がある。すっかりバーンアウトした体験に内在する思い やりの欠如と効率性の低下は、彼らのアイデンティティ にはるかに強い破壊的な影響を与えたのだった14)。  1950 年代以降、アメリカのみならずヨーロッパの対人 サービス分野も、国からの影響が大きくなった結果とし て急速に職業化され官僚化された。仕事は天職であると 考えられていた小規模な昔ながらの機関が、大規模な近 代的組織に変身した。Cherniss&Kranz15)はこの点に ついて論じ、仕事は単なる任務というより天職であると 考えている修道院、モンテッソリー学校、宗教団体設置 のケアセンターではバーンアウトは起きないことを観察

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に、個人主義に向かう傾向とナルシズムに向かう傾向の 組み合わせは ‘ バーンアウトの完璧なレシピ ’ を作り出 す。前者がストレスとフラストレーションを生み出す一 方で、後者は人々がそれらに対処する際に必要とするリ ソースを蝕むのである。

 先述の問題の多くを含み、バーンアウトを醸成してき たように思われる包括的な発展は、過去四半世紀のあい だに起きた産業社会からサービス経済への急速で大規模 な変革である。この社会的変革には心理的プレッシャー が伴い、神経衰弱症との著しい類似点が存在する。神 経衰弱症は 19 世紀末、アメリカ社会が農業社会から産 業社会に変貌していったときに観察されたのが最初であ る。さらには、神経衰弱症は新産業時代の象徴的存在、

活躍するビジネスマンに最初に現れた。これは、バーン アウトが同様に、新しいサービス時代の象徴的存在、対 人サービスの専門職者に最初に現れたことに類似してい る。1869 年にこの用語を生み出した GeorgeBeard にとっ て、神経衰弱症は、たとえばテレグラフに見られるよう なテクノロジーの急速な変化の産物であった19)。一方で、

Freudenberger6)と Maslach7)にとって、バーンアウト は社会的関係の急速な変化の産物であった。

 アメリカにおいてこのような政治・社会・文化的発展 が一挙に進んだことがバーンアウトの概念の土台づくり をしたように見えるものの、この 21 世紀において、いっ たい何がバーンアウトの勢いを持続させているのだろう か。

 3.21 世紀の社会の中のバーンアウト

 バーンアウトはもともと、世間知らずで理想主義の若 い専門職業人が、解決困難な問題を抱えていて何をどう しても一向に変わりそうもないクライアントに、冷たく 官僚的な制度のなかでサービスを提供する際に起こる特 有の危機であると見られていた。しかし、それは今や昔 物語である。1960 年代に労働力に参入した若き理想主義 者らは、既に定年退職している。21 世紀初頭の若い専門 職業人は、世間知らずでいられるチャンスが昔に比べて ずっと少ない。テレビドラマが仕事の甘いも酸いもすべ て描いて見せてくれ、新人はその無垢さを失う。インター ネットは誰からも校閲されないまま、裏付けがない情報 を絶え間なく垂れ流し続ける。私たちは実社会について 理想を抱くことができない。にもかかわらず、彼らはバー ンアウトしやすい20・21)。そして、1970 年代から働き続 け、今では社会のことをもっとよくわかっているはずの 団塊世代も同様に脆弱である22)。世間知らずな理想主義 はバーンアウトに対する脆弱性を悪化させるが、これは 重要な必須条件ではないかもしれない。バーンアウトの

決定要因は、21 世紀における仕事生活の質と、そのなか から仕事が生じるところの幅広い文化的背景かもしれな い。

 仕事上で起こる 2 つの顕著な原因が、バーンアウトの 必然性を説明する。第一の原因はリソースと需要の持続 的な不均衡である23・24)。需要が増えれば、すなわち、よ り強い要求を持つより多くのサービス受益者がいれば、

リソースはペースを崩してしまう。需要に見合う人員や 備品、供給品、またはスペースが不足する25)。休みをとっ て、すり減ったエネルギーを再生する機会が十分にない と、需要とリソースの不均衡が生まれ、リソースの枯渇 を導く。

 二つ目の原因はエネルギーよりもむしろ、やる気に関 係している。21 世紀の労働者は組織の使命やビジョン、

価値観を懐疑的に見ている26)。労働者は組織とは異な る個人としての価値観を持っているかもしれない。たと えば、小売販売員は販売目標を達成することよりも顧客 サービスの質に興味があるかもしれない。また別の販売 員は、顧客との親密な関係を築き上げることより個人的 な販売手数料を最大限にすることにだけ価値を置いてい るかもしれない。組織と労働者が互いへのコミットメン トを減らすと、このような価値観が対立する可能性が高 まる。1970 年代におけるサービス専門職者にとって、主 な価値観の対立はカウンターカルチャーと確立された社 会的秩序との間にあった27)。若者は古い世代を信頼して いなかった。彼らは 30 歳以上の誰をも信用せず、自身 が働く機関も信用していなかった。米国における無償ク リニックのムーブメントは、医療への新しいアプローチ を確立しようとして起こったものである。秩序ある組織 のために働くことは、一つのタイプの価値観との対立を 生み出した。カウンターカルチャーの組織のために働く ことは、もう一つのタイプの価値観との対立を生み出し た。なぜなら、ビジネスまたは公共セクターのアカウン タビリティの要件は、カウンターカルチャーの理想とは 概して調和しないからである。21 世紀の労働人口に入っ ていく専門的サービスの提供者またはマネジャーは、彼 らの一世代前の同職者よりはるかに多様なキャリアを期 待している28)。いずれも生涯かけて組織にコミットメン トする心構えはできていない。したがって、労働者は会 社の利益のために個人的な意思を捨てることに、昔ほど 前向きではない。

 もう一つの形態の対立は、発信された組織の価値観と 実際の組織内で横行している価値観との間に生じる29)。 労働者は組織の意図と現実とのギャップを目の当たりに したとき、厳しい判断を下す。彼らは価値観の対立を経 験し、それを組織のせいにする。21 世紀の公共セクター

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る諸国ではバーンアウトを生み出すかもしれない35)。  ここで注意しなければならないことがある。バーンア ウトが世界中で起きているという事実は、この用語の意 味が国や言語にかかわらず同一であるということを必ず しも意味するものではないということである。実際、バー ンアウトという用語はさまざまな言語できわめて異なる 使い方をされていることが明らかになっている。いくつ かの言語には ‘ バーンアウト ’ または ‘ バーンアウトす る ’ と同じ意味を持つ言葉があるが、英語の ‘burnout’ と いう用語が好まれることが多い。他の言語では、英語の

‘burnout’ を多かれ少なかれ意訳した用語が一般大衆に用 いられているが、その一方で、これらの諸国では、専門 家や研究者は ‘ 科学的な ’ 英語の用語を用いている。ま た、‘burnout’ の代わりに ‘ 疲弊 ’ という用語が用いられ ていることもあるが、仕事上での疲弊とされている。非 常に興味深いことには、いくつかの他の言語では英語の

‘burnout’ という用語は、回復するのが不可能な状態、つ まり、精神的な死刑判決のニュアンスがあり、その暗示 的意味は強すぎると考えられている。その理由から、幾 分柔らかな用語として、疲弊を意味する用語が使われて いる。さらに、いくつかの言語では ‘ 疲弊 ’ は比較的穏 やかな様相も含めたバーンアウトのプロセスを意味し、

一方 ‘burnout’ はそのプロセスの最終段階で用いられる。

これは、軽度から重度までのすべての症状をカバーする と考えられていた ‘burnout’ の本来の概念の用い方と食 い違っている。

 このような言語学的な理由に加えて、各国の社会的背 景がバーンアウトをどう見るかが大きな役割を果たす。

いくつかの国では、正式なバーンアウトの診断が下りた 個人には、経済的補償の手配やカウンセリング、心理療 法による治療、リハビリなどの利益を受けられる可能性 が開かれる。他方、その他の諸国では、正式なバーン アウトの診断は認められておらず、バーンアウトした労 働者はどのような種類の補償金や治療も受ける権利がな い。前者の場合、‘burnout’ は正式な医学的診断であり、

特筆すべきは、これはスウェーデンとオランダのケース だということである。これらの国々では、‘バーンアウト ’ は、たとえば糖尿病や高血圧のように、医療相談室の中 で扱われる問題となっている。

 5. バーンアウトの研究的課題:バーンアウトは医学 的診断なのか

 科学的な研究においては、バーンアウトは疲弊とシニ シズム、職務効力感の 3 次元による説明がなされており、

測定尺度である MaslachBurnoutInventory(MBI)が それを示している12)。MBI は発行社 MindGarden が版 の組織は、そのリソースをはるかに超える理念を唱うこ

とが多い30)。住民の要求に見合う十分なリソースを費や すところはほとんどない。リソースへの需要の全体的な 不均衡により、そこで働く人々の疲弊を促進し、職業的 な効力感を低下させる一方で、労働者は組織の価値観か ら心が離れ、仕事やサービス受益者への関与を弱めてし

まう16・31)。同時に、グローバル化に内在する原理が、す

べての情報・サービス組織でバーンアウトを長引かせて しまうのである。現代のグローバル化経済において、経 営者は高慢とも思えるほどの理念を宣言しているが、大 規模組織や企業を維持するために必要な財務や経営戦略 の問題に傾注するうちに、その理念を貫くことを忘れて しまう。労働者は複雑で矛盾があり、ときに厳しい制約 の中で仕事を進めていくことに奮闘しているため、バー ンアウトの定義である疲弊やシニシズム、無効力感の状 態に陥りやすい。

 こうして、バーンアウト現象はある専門職分野に特化 した職業上の危機から、どのような職場においても蔓延 する危機へと拡大してきた。そして、このバーンアウト の原因として明らかに言えるのは、仕事上の需要とリ ソースの不均衡と、価値観の対立(すなわち、個人的な 価値観と組織の価値観の対立や、正式に表明された組織 の価値観と実際に生かされている価値観の対立)である。

 4.グローバル化時代のバーンアウト

 これまで、世界中のほとんどどこでも、バーンアウト は注目を集めてきた。バーンアウトは研究され、それが 北アメリカやヨーロッパ諸国に限られた現象ではないこ とが示されている32−34)。1970 年代のアメリカで最初に提 唱された後、1980 年代になると西ヨーロッパ、特に英国、

オランダ、ベルギー、ドイツ、北欧諸国、そしてイスラ エルや日本にもこの概念は導入された。1990 年代以降 になると、バーンアウトは西ヨーロッパの他の諸国と東 ヨーロッパ、アジア、中東、ラテンアメリカ、オースト ラリア、そしてニュージーランドでも研究された。21 世 紀に入ってからは、アフリカや中国、そしてインドにま で広まった。こう見てくると、バーンアウトへの関心が 広まったと思われる順番が、それぞれの諸国の経済的発 展の順番と一致していることは非常に興味深い。たとえ ば、現在、インドと中国の経済は急成長しているが、バー ンアウトも今、これらの国々で注目を集めているようで ある。グローバル化や民営化、自由化は、職場環境に急 速な変化をもたらす。新しいスキルを習得することへの 厳しい要求や、仕事の質と生産性を高めなくてはならな いというプレッシャー、時間的プレッシャー、多忙な仕 事、これらの変化により、インドのような急成長してい

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権を所有しており、現時点で 36 言語に翻訳されており、

日本語は北岡らによって作成され登録されている11・13・36)。 この MBI はバーンアウト研究の分野を支配しており、研 究論文と学位論文の 93 パーセントを占めている3)。  バーンアウトを測定する尺度は他の研究者も開発して おり、Kristensen ら37)によるコペンハーゲン・バーン アウト・インベントリ、Demerouti ら38)によるオルデ ンブルグ・バーンアウト・インベントリなどがある。し かし、MBI は今もってバーンアウト測定の ‘ ゴールド・

スタンダード ’ の地位に留まっている。バーンアウトの 概念は MBI と同時に生まれ、逆もまた然りというとこ ろであろう。

 バーンアウト:次元性と領域性に関する議論

 MBI がバーンアウト研究分野において主権を握ってい るにもかかわらず、以下に述べる主要な 2 点:次元性と 領域性に関する議論が続いている。

 1 つは、次元性の問題である。一部の研究者はバーン アウトは多次元的な現象というよりは、本質的に疲弊と 同じものであると主張している37・39・40)。彼らも理論的 には、疲弊のさまざまな側面を特定している。Pines&

Aronson39)は身体的・感情的・精神的疲弊、Kristensen ら37)は身体的・心理的疲弊、Shirom&Melamed40)は 身体的・感情的・認知的疲弊というようにである。それ でも、彼らはバーンアウト測定になると、一つだけの決 定的な疲弊感のみを取り出している。バーンアウトは疲 弊にすぎないという見方の擁護者は、MBI のように因子 分析から帰納的に抽出する構成モデルは、理論的枠組み から派生する構成モデルより、概念的に劣っていると論 じている。この批判は、Maslach らが詳細で徹底した面 接を通じて MBI を開発した反復プロセスを顧みていな い8)。さらにこの概念作業により、統計的に確認された 3 次元の構成モデルを反映する項目を選定して開発して いるのである。疲弊をバーンアウトと名づけるという主 張はメタファー(比喩)と言える。実社会で多くの人々 が遭遇する慢性的なそのような疲弊という問題につけら れた正当なラベルである。しかし、身体的なものであり 精神的なものであれ、単に疲弊にだけ言及するのであれ ば、バーンアウトという用語をあえて用いることに科学 的な根拠はない。バーンアウトという幅広い文化的経験 を映し出し、人の心を捉えるメタファーから、降格して 単なる疲弊にすることは、新しいワインを古いボトルに 流し込むようなものである。

 バーンアウトが起こる領域は、職場に限らず、仕事以 外でも起こりうる包括的で文脈自由な現象であると考え る学者もいる。たとえば、Kristensen ら37)は仕事に由 来するバーンアウト、顧客に由来するバーンアウト、個

人に由来するバーンアウトを提案している。バーンアウ トは働いていない人々、つまり、若者や失業者、早期退 職者、年金生活者、そして主婦にも起きるとして、個人 的バーンアウトを挙げているのである。これまでも、バー ンアウトは研究の初期段階からずっと文脈自由な現象で あるという思い込みがされてきた39)。しかし、MBI のよ うな多次元的なアプローチは、その名が示すとおり、文 脈自由なバーンアウトという見解とは相いれない。どの ような文脈(背景)においても、仕事でも仕事以外でも、

人々は疲れ切ったと感じるかもしれない。しかし、シニ シズムと職務効力感の低下は特定の対象に言及するもの である。人は何かについてシニカルであり、何かをする のに無効力であると感じる。退職者や失業者は疲弊して いるかもしれないが、彼らがそれについてシニカルに感 じたり無効力感を抱いていたりするに違いない ‘ 何か ’ を特定することは不可能である。したがって、バーンア ウトが包括的で文脈自由な現象であると論じることは、

疲弊と同義語であるとする限定的なバーンアウトの定義 と、必然的に密接に関連する。このアプローチはこの概 念を簡素化するだけでなく、上述と同様、新しいワイン を古いボトルに流し込むようなものである。

 結論として、バーンアウトの 3 次元的な概念化がおお よその研究者により用いられてはいるが、‘バーンアウト ’ に言及するとき、その全員が同じことを意味しているわ けではなく、留意すべき重要点であると言いたい。

 MBI:連続性と二分法に関する考察

 MBI はバーンアウトを 3 つの下位尺度それぞれにおけ る程度の問題として説明している。また、3 つの相互に 関連した連続性尺度は、共分散構造分析モデルなどの最 新の統計学の発展の中で研究者は上手く扱っている。他 方、現場の実践家の間では、この複雑な連続性尺度はあ まり我慢強く受け入れられなくなっている。心理学的、

精神医学的あるいは医学的治療を行っている臨床家がそ うである。彼らはともかく ‘ バーンアウトしている ’ 人 間と ‘ そうでない ’ 人間を区別したい気持ちが強い。治 療プランを立てたり障害保険の申請をしたりする必要の ある医師は、とりわけ二分法(有るか・無いか)を好む。

誰が治療されるべきか、誰が経済的補償を受けるのかを 見極めたいからである。

 統計的基準、診断的基準のいずれも、MBI のような連 続性の心理測定尺度を二分法に変換するために用いられ てきた。統計学的には、MBI のテストマニュアルで推奨 されているように、カットオフポイントを決めている:

たとえば、3 つの下位尺度の得点分布を 3 分位し、「低い」

「平均」「高い」としている12)。しかし、そのようなカッ トオフポイントは、度数分布に基づいて算出されたもの

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トコルは、バーンアウトを疲弊感へと簡素化するよりも、

3 つの MBI 下位尺度を含むかもしれない多様な情報を統 合し、二分化した診断基準に到達する。

 スウェーデンで ICD-10 によるバーンアウト診断が 1997 年に導入されると、バーンアウトはたちまち、最もよく 下される診断の一つとなり、その数は特に公共セクター で急激に増加した。オランダでは労働衛生とプライマリ 医療におけるストレス関連障害の診断と治療のための実 践ガイドラインが 2000 年、王立オランダ医師会(Royal DutchMedicalAssociation)により発行された46)。この ガイドラインの診断分類では、ストレス関連障害の程度 を 3 つのレベルにより区別している:

(1)苦痛(仕事上の機能に部分的にだけ障害のある比較 的軽度な症状)

(2)神経衰弱(重度の苦痛を伴う症状と職業的役割の一 時的な喪失)

(3)バーンアウト(仕事に関連した神経衰弱と職業的役 割の長期的な喪失)

ここでは ‘ バーンアウト ’ は最終段階と明確に定義して おり、臨床的に有効な MBI のカットオフポイントを診 断ツールとして使用することを推奨している。

 このように、‘ バーンアウト ’ の定義は、その文脈(背 景)と用語を使っている人々の意図によってさまざまで ある。MBI に暗に含まれている 3 次元的な定義が、研究 ではほとんど普遍的に受容されているにもかかわらず、

その用語を単純な疲弊に適用する者もいる。さらに、心 理学の経歴のある専門家はバーンアウトを連続性のある 現象と見る傾向がある一方で、医学の経歴を持つ専門家 はバーンアウトを二分して見る傾向がある。前者にとっ て、バーンアウトはストレスとフラストレーションが非 常に強い仕事環境から生まれる慢性的な苦痛の一形態で あり、一方、後者にとって、それは病状である。

 北米でバーンアウトという用語がよく使われているの は、‘ バーンアウト ’ が精神医学的診断の観点から社会的 にわずかなスティグマしか伴わず、社会的に受け入れら れた分類であるという、まさにその事実によるものであ ると主張されている47)。逆説的に、その反対がヨーロッ パにはあてはまるようである。バーンアウトという用語 は、それが補償請求と治療プログラムのある福祉国家の 扉を開かせる正式な医学的診断であることから、非常に よく使われている。バーンアウトの概念を語る上では、

このような点も知っておかなければならない。

 6.バーンアウトの今後:前向きな未来

 1990 年代半ば、より前向きな見方が出現し、Maslach

&Leiter48)はバーンアウトを前向きな心の状態の崩 であり、外的基準には言及していない。そのため、疲弊

感で言えば 70 パーセンタイルの地点にある得点は比較 的高いが、主観的な苦痛や健康障害、能力不足とは関連 性がないかもしれない。

 診断的な立場からは、別個に確立されたバーンアウト の診断を外的基準として用い、カットオフポイントを確 立する。たとえば、Schaufeli ら41)は重度ストレス反応 が国際疾病分類(ICD-10,1994)で定義されているよう に、重度のバーンアウトの同義語として用いた。ICD-10 によれば、重度のストレス反応の診断(コード:F43.8)

には、以下が求められる。

・わずかな(精神的)努力のあとで強まった持続的な疲 労や脆弱性

・苛立ちやリラックスできないなどの 7 つの苦痛の症状 のうち少なくとも 2 つ

・気分障害や不安障害などの他の障害がない

Schaufeli ら41)は ‘ バーンアウト ’ していると診断される ためには、これらの重度のストレス反応の症状が仕事に 由来していなくてはならないとしている。オランダでは、

バーンアウトと診断された場合、その労働者は専門的な 治療を受けることになっている。また、3 つの MBI 尺度 のそれぞれについて臨床的にも有効なカットオフスコア が確立されている。また、疲弊感+1基準というバーン アウト判定ルールも確立されている。疲弊感得点が ‘ 非 常に悪く ’、残り 2 つのシニシズムと職務効力感得点の いずれかも ‘ 非常に悪い ’ と、その人はバーンアウトし ていると考えている42・43)。この判定ルールにより、実践 家は多次元の連続性尺度である MBI をバーンアウトの 診断に用いることができ、二分法に転換することができ る。Kitaoka ら44・45)はこの疲弊感+ 1 基準を理論的に検 討し、MBI の下位尺度得点に基づいて、重度バーンアウ ト、バーンアウト、疲労、うつ注意、健康の 5 グループ とする改訂分類を発表している。

 この二分法の考え方と方法が出てきたことにより、

バーンアウトは次第に、少なくともオランダやスウェー デンのような一部のヨーロッパ諸国においては、心理学 的な現象から医学的診断へと拡大していった。その結 果、心理学の経歴を持つ実践家が ‘ バーンアウト ’ とい う用語を用いるとき、それは通常、非常に軽いものから 重度のものまでバーンアウトの愁訴全般に言及している 一方で、医学の経歴のある実践家の場合は、これらの診 断基準を満たす重度のバーンアウトの症例に言及してい る。医学的な診断には明確なカテゴリ化が強く求められ るが、実務では複数の情報源を統合し、大量の可能性の ある健康上の問題のなかで識別して診断を下すことが習 慣になっている。このように、バーンアウトの診断プロ

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壊と言い換えるようになり、これをエンゲージメント

(engagement)と名づけた。Maslach&Leiter48)によれ ば、バーンアウトは ‘ エネルギーが疲弊に、没頭がシニ シズムに、効力感が無力さに変わる ’ プロセスであり、

エンゲージメントのすり減りから始まるとしている。し たがって、エンゲージメントをバーンアウトの 3 つの下 位概念と正反対のエネルギー、没頭、効力感として特徴 づけた。

 バーンアウトを仕事へのエンゲージメントの崩壊と言 い換えることで、MBI により、個人を肯定の極(エン ゲージメント)から否定の極(バーンアウト)まで評価 することができるとした。他方、Schaufeli らはエンゲー ジメントをバーンアウトの対極に据えることには同意を 示したが、エンゲージメントそれ自体に定義づけを行っ た49)。そのため、MBI を用いてエンゲージメントの程度 を評価することには反対の意を示し、ユトレヒト・ワー クエンゲージメント尺度(UtrechtWorkEngagement Scale:UWES)を開発した50)。UWES は構成する 3 つの 次元は活力、献身、没頭である。

 上述したバーンアウト研究の焦点が、否定的から肯定 的側面の心理状態からのアプローチへと変化した時期 は、ポジティブ心理学が出てきたそれと一致している。

新世紀の幕開けの 2000 年 1 月、AmericanPsychologist 特別号がポジティブ心理学への興味に火をつけた。当誌 において、ポジティブ心理学の最も著名な提唱者である Seligman&Csikszentmihalyi51)が、ポジティブ心理学 の目的は「人生最悪の物事を修復することだけに没頭 することから、ポジティブな何かを構築することへと、

その焦点を移すことを促進する」ことであると述べた。

それ以降、10 年も経ないうちに、ポジティブ心理学は盛 んになった。エンゲージメントという考え方は、ポジティ ブ心理学の動きが ‘ 正式に ’ 始まる数年前に形成されて はいるが、この動向はワークエンゲージメントへの興味 を確かに強化するものであった。ワークエンゲージメン トの概念はこのポジティブ・トレンドにぴったりフィッ トした。‘ ここが駄目 ’ に焦点を当てていたバーンアウ ト研究から、‘ ここが良い ’ に焦点を当てるワークエン ゲージメント研究へのシフトである。ワークエンゲージ メントに対する科学的興味がますます高まりつつあるこ とは、JournalofOrganizationalBehavior52)や Work&

Stress53)など、一流の学術雑誌が特別号を発刊している ことを見てもわかる。さらに、産業界においてもその関 心が広がっており、研究者たちはバーンアウトをエンゲー ジメントの崩壊と言い換えるポジティブな観点にシフト することが促されている。この点について、Ulrich54)は 自著、HumanResourcesChampions で次のように書い ている:「雇用労働者の貢献はビジネスにとって重要な 問題となる。なぜなら、より少ない労働者の投入でより 多くの結果を出すには、企業は各労働者の身体だけでな く心と魂も引きつける以外、選択の余地がもはやないか らである」。労働者が身体的な病気やバーンアウトを患っ ていないという、従来的な意味での ‘ 健康な ’ 労働力では、

この目的は達成できない。この目的を達成するためには、

やる気があり積極的で責任感が強く、仕事に打ち込む熱 心な労働者が組織には必要である。ただ ‘ 自分の仕事を する ’ だけではなく、‘ もうひと頑張りする ’ ことを期待 する。そのため、今日の組織では、バーンアウトの予防 はワークエンゲージメントの促進に取って代わられる。

バーンアウトの予防だけでは十分ではなく、ワークエン ゲージメントを培うためにさらに先へ進むことが必要な のである。

 まとめ

 バーンアウトのような心理的な概念は、時代の流れと ともに変遷していくものと言える。バーンアウトは労働 者の well-being の連続体におけるネガティブな極であ り、ワークエンゲージメントはその反対のポジティブな 極であると認識することが求められている。また、近年 のポジティブ心理学の出現と労働者のポジティブな組織 行動をよりいっそう注目している組織の存在が、バーン アウト研究のポジティブな転換を促進していると考えら れる。未来に向けた研究の課題は、さまざまな心理的な プロセスがどこまで、バーンアウトやワークエンゲージ メントを生み出す原因となっているのかを明らかにする ことだろう。

 謝辞

 本総説は、平成 26 − 29 年度科学研究費補助金(基盤 研究(B)(一般)課題番号 26293486)の助成を受けた。

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Concept of burnout: Where did it come from? Where will it head?

KazuyoKitaoka

Thispaperdiscusestheconceptofburnoutitself,ratherthanreviewingresearchfindings onburnout.Therootsoftheburnoutconceptseemtobeembeddedwithinbroadsocial, economic,andculturaldevelopmentsthattookplaceoverthelastquarteroftheprevious centuryandsignifytherapidandprofoundtransformationfromanindustrialsocietyintoa serviceeconomy.Thissocialtransformationisaccompaniedbypsychologicalpressuresthat maytranslateintoburnout.Aftertheturnofthecentury,burnouthasincreasinglybeen consideredaserosionofapositivepsychologicalstate.Althoughburnoutseemstobeaglobal phenomenon,themeaningoftheconceptdiffersbetweencountries.Thepaperdocumentsthe variationinexactmeaningoftheconceptofburnoutaccordingtocontextandtheintentions ofthoseusingtheterm.

Abstract

参照

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