原 著 〔東女医大誌 第60巻 第1号頁37∼49平成2年1月〕
ダウン症候群に合併した先天性心疾患とくに左右短絡疾患の検討
東京女子医科大学 小児科学教室(主任:福山幸夫教授) 東京女子医科大学 第二病院小児科(部・長:村田光範教授) カズ マ数 間
切 夫
ノリ 日 (受付 平成元年9月4ロ)Co取genital Heart Disease Associated with Down Syndrome:
AStudy on Left・to・right Shunt Disease
Norio KAZUMA
Department of Pediatrics(Director:Prof. Yukio FUKUYAMA)
Tokyo Women’s Medical College
Department of Pediatrics(Director:Prof. Mitsunori MURATA)
Tokyo Women’s Medical College Daini Hospital
One hundred and thirty−six patients with congenital heart disease(CHD)and Down syndrome
were studied for clinlcal signs before and after surgery. Of these patients,134 underwent cardiac catheterization. Acyanotic heart disease was present in 120 patients and cyanotic heart disease in l4 patients. Ventricular septal defect(VSD)was present in 65(48,5%)patients.
With regard to the morphological features of the defect in VSD, perimembranous inlet extension defect was present in 26 patients and this was the most specific finding in VSD associated with Down
syndrome. Patent ductus arteriosus was present in 35(34.0%)of 103 patients with Down syndrome
and those with left−to−right shunt disease(ventricular septal defect, endocardial cushion defect or
atrial septal defect).
Nineteen patients with Down syndrome and VSD, and 40 patients with VSD and pulmonary hypertension(PH)without this syndrome underwent cardiac catheterization, and a comparison was
made of the decreases in PH between these patient groups after surgery.
Many of the patients wlth DowH syndrome tended to show improvement,but slight PH remained
after surgery:the pulmonary−to−systemic pressure ratio(Pp/Ps)was O.46±0.1(SD).
Upon comparison of these 2 grQups after surgery according to obesity index, many patients showed normal development. Obesity in Down syndrome was not related to PH remaining after
surgery. Therefore, obesity may not be a causative factor of PH.
Sixteen patients(11.8%)died,9due to surgical operation. The cause of death was mainiy low cardiac output, acute renal failure or infection. Two patients suffered sudden death:one before, and
the other after stlrgery.
Down syndrome with left−to−right shunt disease invariably has a tendency to cause early damage to the pulmonary vascular bed.
It is recommended that the diagnosis of CHD and decision to perform cardiac surgery be made early before complications render the condition inoperable.
はじめに
ダウン症候群が先天性心疾患を高頻度に合併す
ることはよく知られたことであり,それらに関す
る報告はこれまでに多数みられる1)耐.しかし,先
天性心疾患の形態や病態を,染色体に異常のない 群と比較した報告は少ない6). ダウン症候群に合併する先天性心疾患のうち肺 高血圧を伴う左右短絡疾愚について染色体異常の ない群と病態を比較し,さらに心室中隔欠損症で は欠損孔の位置による形態の相違を検討した. 左右短絡を示す疾患の手術施行例で,術後の心 臓カテーテル検査を施行することができた症例で は,肺血管抵抗の改善の程度を検討した, ダウン症候群に合併する肺高血圧の成因に,身 体的特徴が関与しているか,また,術後の成長発 育をみるため,肥満度について検討した, また,ダウン症候群に合併した肺高血圧を伴う 左右短絡性心疾患の臨床像の特徴や心臓病学的検 査から,手術適応および予後について考察を加え た, 対象と方法 対象は,1977年10,月から1988年5月の約10年間 に榊原記念病院に入院したダウン症候群に合併し た先天性心疾患136例である.これらの症例は,心 臓カテーテル検査を含む心臓病学的検査や手術, また死亡例では剖検により診断を確定した,136例 中,134例に心臓カテーテル検査を施行した. 初回の心臓カテーテル検査施行時の年齢は生後 15日から17歳まで(平均年齢3歳)であった.と くに,左右短絡疾患は1歳までに47例(39.2%), 2歳までに66例(55.0%)が心臓カテーテル検査 を施行した. 図1にダウン症候群に合併した先天性心疾患の 疾患別の症例数を示した.図2には初回心臓カ テーテル検査施行時の年齢分布を疾患別に示し た.男児61例,女児73例であり,性比はほぼ1: 1であった.非チアノーゼ性心疾患は120例,チア ノーゼ性心疾患は14例であった. 心臓カテーテル検査を受けた134例中,105例に 対し手術を施行した.表1に疾患別の手術術式と その年数を示した. 左右短絡疾患では心室中隔欠損症52例,心房中 隔欠損症10例,心内膜床欠損症16例に心内修復術 を,単独の動脈管愚存症15例に結紮術を施行した. 右左短絡疾患では,ファロー四徴症7例中3例は 10 20 30 40 例 心室中隅欠損症 138} +動脈管關存 (2の +心房中隔欠損 {動脈管開存+心房中隔欠損 ω♪ iD 小計 65{動 心房中隔欠損症 いD} +動脈管開存 〔4} 14 心内膜床欠損症 (17〕 +動脈管開存 け} 24 動脈管開存症 (の 17 フアロー四徽症 @+動脈管開存 @+心内膜床欠損 @+心房中隔欠損 (4} k1〕 @〔3) i2〕 10 両大血管右室起始症 (2} 2 嶺 心 室 (2〕 2 ()1例数 鱒原記念病院 図1 テーテル検査症例一1977,10∼1988.5 暫凄1捌 120例 14例 ダウン症候群に合併した先天性心疾患一心臓力 n=134 単 心室 脳(1) (1) [] 両大血管 @ 右室起始症 (D 〔1) ファロー四徴症 q) (D (1)(D (1×1)(1) OX1) (D 動脈管開存症 (2×2×2〕 (2) (2)@ (D(D ω (D (1)(1) (1) 心房中隔欠損症 (2)(2) (2) kD ω ω (i) (1) ω 〔1) ω 心内膜床欠損症 (3)〔3〕 (3} @ (2)(2) i1} (1) q)(1)(IXD (1)〔1) (D (1) (1) 心室中隔欠損症 (4x4x導) i3} @ω c 6 ⑥i5〕 @ (の @ (3♪ (S♪ @ (2)(2)ω (2> 〔2} (2×2) @ 〔1) (1) (1)〔D (1) ω 年齢D − i l 3 3 5 6 1∼ 1 2 2 一 ヨ 3 − 1 屯 一 5 } 6 6 − 1 7 巳 8 − 9 9 −1C L口f :婁 ヵ ま 月 ():例数 図2 心臓カテーテル検査施行時の疾患別,年齢分布 n=134 Blalock−Taussig短絡術後に心内修復術を施行 し,他の4例には,Blalock−Taussig短絡手術のみ を,また単心室兼肺高血圧の1例に肺動脈絞施術 を施行した.現在,心内修復術の時期および適応 を決定するべく,外来で経過を観察中である. ダウン症候群に合併した左右短絡疾患の肺高血 圧の程度と心起因の症状の出現時期について検討 するため,疾患別に心臓カテーテル検査の施行時 の年齢と肺血管抵抗を求めた. 心内修復術後,心臓カテーテル検査の施行でき たのは,心室中隔欠損症19例,心内膜床欠損症3 例,心房中隔欠損症4例の合計26例であった.術 前後に心臓カテーテル検査を施行し,肺血管抵抗 の改善の程度をみた.この結果から,肺高血圧を 伴うダウン症候群の左右短絡疾患の手術適応およ 38一
表1 ダウン症に合併した先天性心疾患に対する手術施行例の術式 fタ1数 105イ 吐 二期的根治術 姑息 手術 一期的 計 根治術 (1) (2) (3) 〔4) 小計 ① (2) (3) (4) 心室中隔欠損症 31 3 2 36 +動脈管開存 11 ]」 1 52 1 1 /5 +心房中隔欠損 2 2 +動脈管開存+心房中隔欠損 1 1 心房中隔欠損症 8 8 10 +動脈管開存 1 1 1 3 心内打田欠損症 11 1 12 16 +勤脈管開存 2 1 1 1 5 動脈管開存症 15 15 15 ファロー四徴症 1 1 2 +動脈管開存 ]L 1 3 +心内厚床欠損 1 1 2 +心房中隔欠損 1 1 2 両大血管右室起始症 0 単 心 室 1 1 計 82 6 4 1 3 3 1 1 4 1G5 (1):動脈管結紮術 (2):肺動脈置月術 (3):(1).ト(2) (4):鎖骨下動脈一肺動脈吻合術 びその時期について検討した. 心内修復術の前後に心臓カテーテル検査を施行 したダウン症候群に合併した心室中隔欠損症19例 と,同様に心臓カテーテル検査を術前後に施行し た染色体異常がない40例を対象に,肺血管抵抗の 改善の程度を比較した.手術時の年齢は,ダウン 症候群4歳1ヵ月±4歳10ヵ月,対照とした染色
体異常のない群1歳7ヵ月±1歳5ヵ月で,統計
上は有意差がなかった. 肺血管抵抗は,体表面積が1.Om2以下の症例に CaylerとRudolphの表7)を1.Om2以上には, LaFargeら8>の年齢別による表の酸素消費量を利 用し,Fickの法則に基づいて計算した.対照とし た染色体異常のない心室中隔欠損症兼言高血圧40 例の術前の心臓カテーテル検査時の年齢と肺血管 抵抗を図3に示した.年齢は生後1ヵ月から5歳 (平均年齢1歳4ヵ月)であった. また,ダウン症候群と染色体異常のない群で肺 高血圧の進行する時期の相違をみるために,2歳 以下の肺体血圧比(Pp/Ps)≧0.75で他に合併奇形 のない心室中隔欠損症を対象とし,その条件に 10 Rp 5 o訴ll
謡・・ 象
。 0−11−33−66−121・22・33・44−55−66−77−88・99−1010<年齢 力 歳 月 図3 染色体異常を伴わない心室中隔欠損症40例の術 前の肺血管抵抗(Rp)n二40 あったダウン症候群17例,染色体異常のない群18 例について肺血管抵抗を調べた. 心室中隔欠損症の欠損孔の位置および形態をダ ゥソ症候群47例(3ヵ月∼17歳)と,図3に示し た染色体異常のない群40例(1ヵ月∼7歳)とを 比較した.欠損孔の位置および形態は,心.血管造 影所見や心エコー図検査所見から診断し,すべて 手術時に確認できた. 39心内修復術前後の肥満度を比較し,その変化か ら心内修復前後の成長をみた.さらに,残存する 肺高血圧が,ダウン症候群の身体的特徴のひとつ である肥満と関係しているか,肥満度を利用して 検討した. 肥満度には村田らの年齢別・身長別標準体重9) を用いた. 以上,検討した症例の統計学的数値は,平均値± 標準偏差で示した.2群間の有意差検定は,Wil− coxonのT検定に従って行い, p〈0.01を有意と した. 結 果 1.ダウン症候群に合併する先天性心疾患 (図!,2) ダウン症候群に合併する先天性心疾患を疾患別 に図1に示した.非チアノーゼ性心疾患が120例 (89.5%),チアノーゼ性心疾患は14例(10.5%) であった. 心室中隔欠損症が65例(48.5%)と最も多く, 続いて心内点床欠損症24例(17.9%),単独の動脈 管開存症17例(12.7%),心房中隔欠損症14例 (10.4%),ファロー四徴症10例(7.5%)などであっ た. 左右短絡疾患の例では動脈管開存の合併が多く みられた.その頻度は,心室中隔欠損症65例中24 例(36。9%),心房中隔欠損症14例中4例(28.6%), 心内膜床欠損症24例中7例(29.2%)であった. これら左右短絡疾患を伴う3疾患の合計103例の うち35例,34.0%に動脈管開存がみられた. 心室中隔欠損症の2例,心房中隔欠損症,心内 膜床欠損症の各1例の肺高血圧は酸素および薬物 負荷試験でも反応がなく肺血管床の病変は不可逆 的であった.いずれの例も動脈管割前を合併して おり,心室中隔欠損症の1例に動脈管結紮術兼肺 動脈絞拒止を,他の3例に動脈管結紮術を施行し た.心内修復術の適応を決定するため,同時に心 内膜床欠損症兼動脈管開存症の1例に肺生検を合 せて施行した.Heath−Edwards(以下, H−Eと略) 分類IV度であっため心内修復術不適応と診断し た. 他にダウン症候群に合併した先天性心疾患の特 異な所見としては,ファロー四冷症10例のうち3 例(30.0%)に心内膜床欠損症を合併していた. また,ダウン症候群には心位憎憎症は合併しな いとの報告があるが10)1n,この対象の中にも存在 しなかった. なお,心臓カテーテル検査が施行でぎなかった 2例は,心室中隔欠損症と心内膜床欠損症の児で あった.ともに入院時,重症の呼吸器感染と心不 全を合併しており,全身状態が悪く検査を行う前 に治療の効果もなく死亡した. 2.ダウン症候群に合併した左右短絡疾患の肺 血管抵抗 ダウン症候群に合併した各左右短絡疾患の術前 の肺血管抵抗(Rp)を,図4,5,6に示した. 心室中隔欠損症の65例は,外来での診察の結果 Rp〔単位・m2〕 25 20 15 1G 5 o
.滋§1 .
1・J・.
含 十 § ● ● 8 : 。 :Q 。:手術〔+) o:手術(一) ム:姑息術 r:手術後死亡一40一
0・11−33−66・i21−22−33−44・55−66−77−88−99−1010<年齢 力 歳 月 図4 ダウン症候群に合併した心室中隔欠損症 術前の肺血管抵抗(Rp)n=65 Rp〔単位・mつ 2D 10 G:手術(+〕 歳 月 旦5 ダウン症候群に合併した心内長田欠損症 術前の肺血管抵抗(Rp)n=24Rp(単位▼mつ 10 :手術(+〉 0−11−33・66・121−22−33−44−55−66−77−88−99・1010く年齢 力 歳 月 図6 ダウン症候群に合併した心房中隔欠損症 術前の肺血管抵抗(Rp)n=14 および日常生活での症状から,外科的治療の適応 を考慮しなけれぽならない時期に一致して心臓カ テーテル検査が施行された.年齢を横軸に,肺血 管抵抗を縦軸とし,その分布をみた(図4).1歳 未満で肺血管抵抗が3.0単位・m2を越えているも のは19例で,全体の29.2%にあたる. ダウン症候群に合併した心室中隔欠損症65例の うち,肺血管病変が不可逆的と判断し心内修復術 の適応のない7例,短絡量が少なく肺高血圧も伴 わない4例の計11例には手術を施行しなかった. 動脈管賦存を合併していた2例の1例には動脈管 結紮術のみを,他の1例には動脈管結紮術に肺動 脈絞拒術を同時に施行した.この13例を除く52例 に心内修復術を施行した. 3∼6ヵ月の中で,12単位・m2を示している例 は,酸素負荷にて肺動脈圧の低下があったため生 後4ヵ月に心内修復術が施行されたが,術後も肺 高血圧が残存し,酸素からの離脱が困難で,現在 は在宅酸素療法を行っている. 心内膜床欠損症も同様に,1歳未満に肺血管抵
抗が3単位・m2以上の症例が8例あり,全体の
33.3%であった.その中の6例は6ヵ月未満の症 例であった(図5).24例中17例に手術を施行した. 7例が術後死亡しており,心内膜床欠損症の手術 成績は不良であった.手術により死亡した心内膜 床欠損症の症例は,いずれも完全型心内膜床欠損 症で,4例は術前の肺血管抵抗が6単位・m2以上 の肺高血圧を示していた.手術施行年齢は,1歳 9ヵ月の女児例を除き6例は7ヵ月以下の低年齢 であった.術後低心拍出,調律障害,腎不全,感 染性心内膜炎など手術後の合併症により死亡し た.自然死の1例は術前に呼吸器感染を併発し死 亡している. 図6に心房中隔欠損症の術前の肺血管抵抗を示 した.肺血管抵抗が3単位・m2以上の例は6例で, 全体の42.8%にみられた.いずれも3歳以下の例 であった.日常遭遇する染色体異常がない群にみ る心房中隔欠損症は,乳幼児期に肺高血圧を伴う ことは稀であり,報告も少ない12).ダウン症候群に 合併した心房中隔欠損症では肺高血圧が生後3カ 月の早期から出現していた.10例に心内修復術を 施行し,手術死はなかった. 動脈管開脚症単独の17例でも,肺血管抵抗が3 単位・1n2以上の例が8例(47.1%)あった(図7). その中の1例は,1歳6ヵ月の検査で肺血管抵抗 が17.1単位・m2を示し,心血管造影で動脈管の直 径が2mmと極めて細く,左右短絡量の増加に伴 う肺高血圧は考え難く,手術適応はないと判断し た.15例(88.2%)に動脈管の結紮術を施行した. 外科治療の適応の有無を検討した120例中,10例 (8.3%)は,肺血管抵抗10.0単位・m2以上であり, 左右短絡量の減少および右左短絡量の増加,酸素 および薬物負荷試験に無反応な:どから,手術適応 がないと判断した. ダウン症候群に伴う左右短絡疾患では,肺血管 抵抗が多くの例で月齢の早い時期に高値を示して Rp(単位・m2) 10 5 : o 婁11’D § ・ o 8 ・ O o O Q o :韓亡; 一41 0−11・33−66−121・22−33−44−55−66−77−88・910<年齢 力 歳 月 図7 ダウン症候群に合併した動脈管開存症 術前の肺血管抵抗(Rp)n=17おり,左右短絡疾患の肺高血圧合併例の肺血管の 閉塞性病変は,乳幼児期の早期に進行し完成する 例が多いと考えられた. 3.左右短絡疾患の心内修復術後の肺血管抵抗 の推移 ダウン症候群に合併した左右短絡疾患の26例 に,心内修復術前後に反復して心臓カテーテル検 査を施行した.心臓カテーテル検査は,術後6カ 月から5年8ヵ月(1年7ヵ月±1年2カ.月)に 施行した.図8にダウン症候群に合併した26例の 術前後での肺血管抵抗の変化を示した. 心室中隔欠損症19例では,術前の肺血管抵抗が 5.2±1.9単位・m2であったものが,術後3.9±2.2 単位・m2と統計学上有意に低下した.しかし,19 例のうち6例は術後も肺血管抵抗は5単位・m2以 上であり,その中の3例は逆に術後に上昇してい た. 心内膜床欠損症では,17例の手術例中,手術死 亡が7例と多く比較にはならないが,術後心臓カ テーテル検査ができた3例のうち,1例に肺血管 抵抗の上昇をみた.心房中隔欠損症の4例中2例 に改善がみられたが,他の2例は術後に肺血管抵 抗は上昇した. 術後に肺血管抵抗が上昇した症例のうち,心室 中隔欠損症2例と心房中隔欠損症1例の3例は, 術後心不全,呼吸器感染を反復するなど術前の状 態の改善が見られず,引き続き強心剤,利尿剤の Rp(単位・mり 15 10 5 n=19 n=3 Pく0.05
/
\
/ /1 /王\
術前 術後 術前 術後 術前 術後 心室中隔欠損症 心内膜床欠損症 心房中隔欠損症 図8 ダウン症候群に合併した心室中隔欠損症・心内 膜床欠損症・心房中隔欠損症 心内修復術前後の肺血管抵抗(Rp)の変化 服用を必要とした.なかでも心房中隔欠損症の1 例ぱ,術後の肺血管抵抗が16単位・m2と異常に上 昇し,術後も心拡大,肝腫大が残存している. これら3例はいずれも1歳未満に心内修復術を 施行している.先天性心疾患の診断,心内修復術 も比較的早期であること,術後短絡が消失したに もかかわらず肺高血圧が残存していることから, 肺血管床の早期に起きる閉塞性病変は,左右短絡 による肺血流量増加以外の因子によって起きてい る可能性が示唆された。 4.術前後の心臓カテーテル検査による染色体 異常のない心室中隔欠損症と肺血管抵抗の比較 心室中隔欠損症の心内修復術前後の肺血管抵抗 を,ダウン症候群と染色体異常のない群で比較し た(図9). 両群とも肺血管抵抗は,ダウン症候群では術前 5.2±1.9単位・m2が術後3.9±2.2単位・m2,染色 体異常のない群では術前3.0±!.3単位・rn2が術後 2.0±1.0単位・m2となり,双方とも多くの例で有 意な低下をみている.しかし,ダウン症候群に伴 う例の5例(26.3%)は,術後も肺血管抵抗は高 値を示しており,その中の3例は,術後に上昇が みられ,肺血管抵抗は5単位・rn2以上であった。 ダウン症候群が染色体異常のない群と比較して 早期に肺高血圧が進行するかを2歳以下のPp/ Ps≧0.75の症例で検討した結果(図10),肺血管抵 抗は,ダウン症候群で4.9±1.7単位・rn2であり, 染色体異常のない群3.4±1.2単位・m2と比較して 有意に高く,低年齢での肺高血圧の進行が示唆さ ダウン症候群 Rp(単位’m∼) n=19 10 5 \={
Pく005 染色体異常のない群 n=40i
\ * Pく0.0「 干 術前 術後 術前 術後 *Resldual Shunt 図9 心室中隔欠損症の心内修復術前後の肺血管抵抗 (Rp) 42Rp陣位・m2) 10 5 o 8 … =’ ● ・ ● ぎ 。 :『 ● ::鑓講織℃㍊.1,、 ● : 馨。 ・§ ! Pく0.0「 0−1 1−3 3・6 3−12 1−2 年齢 首 田 図10 肺血管抵抗(Rp)と年齢分布.肺体血圧比(Pp! Ps)≧0.75の心室中隔欠損症について れた. 5.ダウン症候群に合併した心室中隔欠損症の 位置およびその形態学的特徴 図11にダウン症候群に合併した心室中隔欠損症 の欠損孔の位置分類を,手術施行時の年齢別に示 した.心室中隔欠損症の欠損孔の位置を肺動脈弁 下部欠損,室上磁心欠損,膜性部周辺欠損,筋性 部欠損に分類した13)14).さらに,膜性部周辺欠損は 欠損孔の伸展の方向により流出部伸展型,流入部 伸展型,肉柱部伸展型,周辺欠損に分類した15),ダ ウン症候群の47例中46例(97.9%)が膜性部周辺 を中心とした欠損であった.なかでも膜性部周辺 欠損流入部伸展型が26例と多く,全体の55.4%を 占めていた.室上稜部欠損が1例あり,肺動脈弁 下部欠損はなかった. ダウン症候群の心室中隔欠損症は,今回の症例 では1例を除き,他は膜性部周辺型欠損であった. 口:男(國死亡) Q:女(0死亡) 肺動脈 下部欠損 (n=G) \ 田上曲部欠損 (n=1) 口 \ 膜四部周辺欠損 流出部伸展型 in=5) □Q口 口 巳 \ 膜性部周辺欠損 (n=13) □ □ 口 冝B日 ○□ ○ O O口 \ n 口 膜性部周辺欠損 ャ入部伸展型 口□ 器 ○ ’ (n=26) Q o□ n□O□Q oonQ口 口 o 8 ○ 膜性部周辺欠損 肉注部伸展型 槽 (n=2) o o 門脈 右心室 中 隔 縁 柱 O−11−33−66−121−22−8呂一4↓一51−6巨一71−B二一99−1010< か 歳 月 図11 ダウン症候群に合併した心室中隔欠損症。欠損孔の位置分類と手術時年齢別分布。 n=47 肺動脈弁下部欠損 (n=3) O□Q \ 室上稜部欠損 (n≡3> 口 [コQ \ 膜性部周辺欠損 流出部伸展型 @(F6) o O口B[コ 口 \ ○ 膜性部周辺欠損 in=24) 口ロロ OOO Ooo o □ \ □○□O[コO□O o 口 口 □ 膜性部周辺欠損 流入部伸展型 (n=3) □ o o 膜性部周辺欠損 肉柱部伸展型 (n二1) o k −肺動脈 中 隔 縁 柱 右心室 0−1 1−3 3−6 δ一12 1−2 2一呂 3−4 4−5 う一6 6−1 7−8 B−9 9−10 10く ヵ 歳 月 図12 染色体異常のない心室中隔欠損症.欠損孔の位置分類と手術時年齢別分布, n=40 43
欠損孔が流出部,流入部,肉柱部へ伸展する例で も,肺高血圧の程度やその発現する時期に特徴的 な所見はなかった.呼吸不全や心不全などの臨床 症状の重症度や発現時期も,欠損孔の位置および その形態の違いによる差はなかった. 6.染色体異常のない心室中隔欠損症との欠損 孔の位置および形態の比較 染色体異常がない心室中隔欠損症40例で,術前, 肺高血圧を示し,術後反復して心臓カテーテル検 査が施行できた症例を対照とした.図12にそれら の心室中隔欠損症の欠損孔の位置分類を,手術施 行例の年齢別に示した. 表2にダウン症候群と対照とした染色体異常の ない群の心室中隔欠損症の症例を,欠損孔の位置 により各々の症例数および頻度を示した. 膜性部周辺欠損流入部伸展型がダウン症候群で は26例(55.4%)と多かったが,染色体異常のな い群ではわずかに3例(7.5%)であった.膜砿山 周辺欠損が染色体異常のない群では24例(60.0%) で,ダウン症候群の13例(27.7%)に比較して頻 度が高かった.肺動脈弁下部欠損,室上蔀部欠損 は,ダウン症候群では双方あわせても1例と少な かったが,染色体異常のない群では6例(15.0%) にみられた.今回検討した症例には,ダウン症候 群と染色体異常のない群の両群に筋性部欠損はな かった. これらの所見は術前心エコー図検査および心臓 カテーテル検査でも診断されていた. ダウン症候群の心室中隔欠損症の52例の術後死 亡例は3例(5.8%)であり,一般に行われている 心室中隔欠損症の手術死亡率16>と有意の差はな く,また欠損孔の位置と手術成績にも相違がみら れなかった. 7.ダウン症候群と染色体異常のない群の心室 中隔欠損症の術前後における肥満度の比較および ダウン症候群の肥満度と肺高血庄の関係 図13は,心室中隔欠損症の症例で心内修復術後 に成長発育が改善しているかをみるために,年齢 別身長別の肥満度の変化を手術前後で示した.ダ ウン症候群で術後残存する肺高血圧の一因とし て,肥満が関与しているか否かを検討した. ダウン症候群では,術前には肥満度20%以上の “肥満”が3例(15.8%),+10%以上∼+20%未満 の“ふとりぎみ”が2例(10.5%),一10%∼+10% の“正常”が5例(26.3%),一10%以下∼一20% 未満の“やせぎみ”が5例(26.3%),一20%以下 の極端な“やせ”(るいそう)が4例(21.1%)と 肥満度に一定の傾向はなかった.術前に+20%以 上の肥満であった3例は,術後も肥満にとどまっ た.12例が術後一10%から+20%であり,術後に ダウン症候群も成長発育に伴った体重増加を示し た例が多かった.術前一30%以下であった1例は 術後も一10%以下であり,“やせ”にとどまってい た. 染色体異常のない群では,術前の肥満度が20% 以上の“肥満”は存在しなかった.一方,術前は 肥満度が一10%以下の“やせぎみ”∼“やせ”のも 表2 心室中隔欠損症の欠損孔の位置分類の比較 欠損孔の位置 釜薦(・一47) 離膿常(・一・・) 肺動脈弁下部欠損 0(0 %) 3(7.5%) 室上三部欠損 1(2.1%) 3(7,5%) 膜性部周辺欠損 ャ出部伸展型 !3(10.6%) 6(15.0%) 膜工部周辺欠損 13(27.7%) 24(60,0%) 膜性部周辺欠損 ャ入部伸展型 26(55.4%) 3(7.5%) 膜性部周辺欠損 柱部伸展型 2(4.2%) 1(2.5%) 数値:症例数
一44一
聯
30 20 10 一10 一2G 染色体異常のない群 n=36ノ
く/
一30 ノ,〈Q.。1 −40 術前 術後 術前 術後 図13 心室中隔欠損症の心内修復術前後の肥満度Rp(噂位Lm卍コ 15 一40 −30 −20 −10 40 月巴満度〔ラ5〕 図14 ダウン症候群に合併した心室中隔欠損症の心内 修復術前後の肥満度と肺血管抵抗(Rp)の関係 のが28例(78.0%)と大多数を占め,その中の25 例は術後は肥満度一10%以上と手術を契機に正常 に復していた. 図14にダウン症に合併した心室中隔欠損症の術 前後の肥満度と肺血管抵抗の関係を示した. 術後に肥満度+20%以上であった3例はいずれ もほとんど肺血管抵抗に変化がなかった.肺血管
抵抗が術後上昇し5単位・m2以上であった3例
は,肥満度は各々一16.9%,6.7%と7.3%を示し, “肥満”ではなかった.これらの6例をみる限りで は,ダウン症候群で心内修復術後に残存する肺高 血圧と術後の肥満度とは関係がないと考えられ た. 8.先天性心疾患を伴うダウン症候群の死亡例 の検討 ダウン症候群児136例の中で死亡した男児7例, 女児9例の合計16例を表3に示した.死亡率はダ ウン症候群に先天性心疾患を合併した全症例の 11.8%にあたり,手術例11例(8.1%),非手術例 5例(3.7%)であった.死亡時,最小年齢2ヵ月, 最高年齢は23歳であった.1歳未満に12例が死亡 しており,全死亡例の75.0%を占めていた. 非手術例の5盃中3例が感染症(2例が肺炎, 1例は脳腫瘍)により死亡し,2例が心不全状態 から呼吸不全を合併し死亡した. 手術後の死亡は11例であったが,心内修復術後 に死亡した9例はすべて手術後の合併症と考えら れるものであった.低心拍出,腎不全,術後感染 がその主な原因であった. 7例が心内寒食欠損症であり,とくに心内膜床 欠損症の外科手術の成績は悪かった.その理由と して,今回の心内膜床欠損症はいずれも完全野心 内膜床欠損症であり,肺高血圧合併の程度も高く, 重症例が対象となっていたため,手術成績が不良 であったと考えられる. 2例に突然死がみられた.1例は心室中隔欠損 表3 先天性心疾患を合併したダウン症候群の死亡例 16例(男:7例 女:9例) 性 診 断 手術 手術年齢 死亡年齢 死 因 1 女 VSD十MR 有 7歳9ヵ月 7歳10ヵ月 低心拍出状態 術後21日目 2 女 VSD十PDA 有 7ヵ月 8ヵ月 ?→腸間膜出血 術後24日目 3 男 VSD十PDA (有) 3ヵ月 5ヵ月 自宅で突然死 4 女 VSD十PDA 無 2ヵ月 哺乳後に除脈 5 男 ECD 有 7ヵ月 7ヵ月 高カリウム血症 術後5日目 6 男 ECD 有 6ヵ月 6ヵ月 房室ブロック 術後2日目 7 女 ECD 有 7ヵ月 7ヵ月 低心拍出状態 術後1日目 8 女 ECD 有 1歳9ヵ月 1歳9カ月 低心拍出状態 術後8日目 9 女 ECD 無 4ヵ月 肺 炎 10 女 ECD十PS 有 3ヵ月 4ヵ月 細菌性心内膜炎 術後38日目 11 女 ECD十PDA 有 7ヵ月 8ヵ月 腎不全 術後10日目 12 男 ECD十PDA 有 5ヵ月 5ヵ月 術後低酸素状態 術後1日目 13 男 ECD十PDA 無 3ヵ月 呼吸不全 14 女 TOF十ECD (有) 1歳6ヵ月 23歳 肺 炎 15 男 DORV十ECD十PS 無 2歳2ヵ月 脳革茸 16 男 DORV十PDA十ASD 無 6ヵ月 肺 炎 手術( ):姑息手術例一45一
症兼動脈管開音症の生後5ヵ月の男児で,動脈管 結紮母堂肺動脈絞掘術後,順調に経過していたが, 2ヵ月目の朝に自宅で死亡した.死亡する数日前 から感冒症状が出現していたが,直接の死因は不 明であった.他の1例は心室中隔欠損症兼動脈管 開心症の生後2ヵ月の女児で,生後1ヵ月時に肺 炎と心不全の診断のもとに入院し,内科的治療に より状態は安定していた.入院中であり心電図を モニターしていたが,哺乳後に突然徐脈となり死 亡した. 考 察 ダウン症候群は,先天性心疾患を26∼56%と高 頻度に合併すると報告されている1)∼6). Sondheimerら17)は,小児科医の診察で先天性 心疾患がないとされていた71例の5カ,月から15歳 のダウン症候群を,循環器専門医が心臓病学的な 診察を行うと7例(10%)が先天性心疾患と診断 されたと述べている.Sondheimerらの報告した ダウン症候群に合併した先天性心疾患には,生後 9ヵ月ですでに不可逆性の肺血管病変を呈した肺 高血圧が存在した例が含まれている.ダウン症候 群では,このように先天性心疾患を合併する率が 高く,早期に循環器専門医による先天性心疾患の 有無の診断を受ける必要を強調している.また, Feingoldら18)も生後9ヵ月以前で既に不可逆性 の肺血管病変を呈する肺高血圧を伴う心内膜床欠 損症を報告している.この例のように,とくに高 度の肺高血圧を合併したものは心雑音が聴取され ない例もみられるため,すべてのダウン症候群に 生後1ヵ月以内で心臓病学的な診察をしておくべ ぎであると述べている.前述したように,ダウン 症候群では先天性心疾患を合併しやすいこと,と くに左右短絡疾患でぱ肺高血圧の進行が早期に起 きていること,呼吸器感染を合併し重症化しやす いことがあり,手術の時期および適応を決定する ためにも先天性心疾患の診断は早い方がよい. 肺高血圧の進行した例では,心雑音も聴取され ず臨床症状も安定している例がみられる.ダウン 症候群と診断された時点で先天性心疾患の合併の 有無を聴診所見だけでなく,胸部X線,心電図さ らに心エコー図検査も含めた補助診断を駆使し, 早期に診断するのがよい. ダウン症候群に合併する先天性心疾患の疾患別 の頻度を見ると,報告により様々である.心室中
隔欠損症28.7∼41.1%,心内膜床欠損症
16.1∼60.0%,心房中隔欠損症2.6∼20.1%,動脈管開心症3.0∼10.7%,ファロー山塞症
1.0∼19.0%,などの報告がみられる1)∼4)19)∼2’).こ れらの諸報告の多くはpopulation baseの調査に 基づいたものであり,本報告の対象は,手術ない し心精査目的で紹介の選択された症例であるた め,母集団に相違があり,比較は難しいが,疾患 別の頻度(図1)を見ると心室中隔欠損症が全体 の48.5%と最も高く,染色体異常がない患児での 心室中隔欠損症の頻度と同程度であった22). ダウン症候群に合併する左右短絡疾患に動脈管 開存が多いと報告されているが21)23),本報告でも 左右短絡疾患103例のうち35例(34.0%)と,高頻 度に合併していた.これは,臨床診断あるいは外 科治療の上で重要な所見であった. ダウン症候群に合併した左右短絡疾患では肺高 血圧が乳児期早期に見られ,左右短絡量の増加に よるもの以外に,既に肺血管抵抗の上昇を示して いる例が多く存在した. 乳児期に肺血管抵抗が高値である状態は,染色 体異常のない例と比較し,肺血管の閉塞性病変24) の進行が早いためな:のか,あるいは先天的な肺血 管異常25)26)が存在しており,出生時の肺血管抵抗 が高値のままで低下しない可能性が考えられる. しかし,同一症例での術前の経時的な肺血管抵抗 の推移や肺血管病変の組織学的な検索がなされて いないため結論はできない. 先天性心疾患を合併したダウン症候群の肺高血 圧の成因は,左右短絡量の増加が肺血管の変化を 起こす因子となるが23),術後左右短絡が消失した にもかかわらず肺血管抵抗が上昇した例があるこ とから,左右短絡量増加以外の因子が関わってい ることは明らかである.たとえぽ,慢性の上気道 閉塞や,先天性の肺低形成27)という呼吸器系の因 子が関与する可能性がある.染色体異常,先天性 心疾患のない児でも,アデノイド増殖による肺高 血圧の報告がある28).同様に,ダウン症候群の先天 一46・性心疾患のない例で,慢性の上気道閉塞による肺 胞低換気が低酸素症,高二酸化炭素血症をきたし 肺血管抵抗が上昇するとの報告がある29).ダウン 症候群では扁桃肥大,アデノイド増殖,巨大舌な どの口腔咽頭の構造上の問題など,身体的特徴か ら上気道閉塞を起こしやすく,肺高血圧の一つの 成因になっている可能性も高い.しかし,今回の 検討で明らかなように,ダウン症候群に特徴的で あるとされる肥満を,肥満度を指標に肺高血圧と の関係を見た場合は相関がなかった.単に肥満で あるというだけでは肺高血圧の因子とはならず, 換気障害を引き起こす肥満や高血圧症を合併して いる肥満を対象とした症例での肺高血圧の検討が 必要である. また,ダウン症候群には易感染性の問題30)があ り,肺炎などの呼吸器感染に罹患しやすく,重症 化することも多い.心臓カテーテル検査を呼吸器 感染罹患のない時期を選んで施行するとはいえ, 感染を繰り返している例では呼吸器系の良好な状 態で施行される場合が少ない可能性がある.また, 心臓カテーテル検査の際,睡眠中の舌根沈下が, 気道閉塞を増強させるため換気不全を起こし,肺 血管抵抗が過大評価されると指摘する報告もあ る23). 肺血管抵抗は,本検討では酸素消費量を実測で
はなく,Cayler&RudolphおよびLaFargeの表
からの推定値を用いているため,対象のような高 度の肺高血圧とくに肺血管抵抗が高い例の酸素消 費量としては適切でない可能性がある.肺高血圧 および肺血管抵抗の上昇と酸素消費量の増加には 正の相関があるとの報告31)があり,実際の酸素消 費量は,推定値よりも高く,それにより算出した 肺血流量は多くなるので,今回検討している値よ りも肺血管抵抗は低くなる.また,ダウン症候群 の酸素消費量を染色体異常のない群と同じと考え て使用できるものかも問題である. ダウン症候群に合併した左右短絡疾患の手術に 際しては,前述の肺血管抵抗が高値を示す場合は, 手術適応の決定が困難な例に遭遇する. 染色体異常のない左右短絡疾患とくに肺高血圧 を伴う心室中隔欠損症で肺血管閉塞性病変の進行 の可能性のある場合は,外科技術の進歩により, 乳幼児期でも手術の安全性ぱ一定し,2歳までに 心内修復術を施行するという報告がある32). ダウン症候群に合併した左右短絡疾患の肺高血 圧を伴う例では,染色体異常のない例よりも肺血 管病変の進行は低年齢で起きていること33)から, 肺血管病変が可逆的と判定された例では,手術を 早;期に行うのがよい, 当施設では,術前の心臓カテーテル検査で肺体 血圧比がほぼ1.0に近く肺血管抵抗が高い例でも, 酸素負荷や薬物負荷により肺血管抵抗の低下した 例には手術適応があると判断し,心内修復を行っ た.術後経過は良好で術後の心臓カテーテル検査 は施行していない例でも,臨床検査および心エ コー}検査から肺動脈圧の低下が見られている. ただし,心室中隔欠損症で4ヵ月時に12単位・In2 を示した例は,術後に一度,肺動脈圧の低下をみ ているが数ヵ月後の呼吸器感染をきっかけに,酸 素からの離脱が困難となり,現在は在宅酸素を続 けている.手術適応決定に苦慮する症例の中に, 薬物負荷や酸素負荷により肺動脈圧が低下せず, 左右短絡量は多く存在するが,既に右左短絡もわ ずかにある例がある.このような症例で動脈管開 存を伴う例は,動脈管結紮あるいはこれに加えて 肺動脈絞擁術を施行する際に,肺生検をし,肺病 変の状態により心内修復術を施行する,また,動 脈管開存を合併しない例でも,積極的に開胸下に 肺生検を行い,肺血管の病理学的検索をして適応 を決めるのがよいと考える.肺生検で肺血管病変 がH−E分類II度以下の症例には心内修復術を施 行し良好な結果を得ている. 先天性心疾患を合併したダウン症候群の予後に 関しては,報告は未だ少ない.ダウン症候群に先 天性心疾患を合併した例の自然歴と手術施行例で の遠隔予後については,症例を増し手術の適応や 時期および意義を検討する必要がある. 136例のうち16例(11.8%)が死亡,手術施行105 例のうち,術後の症例の死亡は11例(10.5%)で あった.その中の9例が手術による合併症が直接 の原因で死亡している. 感染症による死亡は,非手術例を含めると呼吸一47一
器感染や創部感染によるものが5例で,死亡例全 体の31.3%にあたる.ダウン症候群のもつ易感染 性の問題30)は手術予後も左右すると考える. Bairedら34>は,!952年から1981年までの30年間 のデータをもとに,ダウン症候群の先天性心疾患 の合併例と非合併例との30年生存率を比較してい る.先天性心疾患合併例の30年生存率ば49.91%, 非合併例は79.17%と両者には有意差がみられ,先 天性心疾患を合併した例は予後が悪いという結果 であった.さらに,ダウン症候群の生命予後につ いて,先天性心疾患を合併しないダウン症候群と 染色体異常も先天性心疾患もない精神発達遅滞の 群を対照として30年生存率を比較している.この 報告では,先天性心疾患のないダウン症候群の30 年生存率79.17%,精神発達遅滞の群92.20%であ り,有意にダウン症候群の生存率が低値であった と述べている.これは,ダウン症候群それ自体が 先天性心疾患の合併の有無にかかわらず,染色体 異常のない群に比較すれが短命であるという1つ のデータとなっている. この理由から,先天性心疾患を合併しているダ ウン症候群に,心内修復術を施行し延命をはかる ことは意味がないという意見があるかも知れな い. しかし,積極的に心内修復術など外科治療を行 い,心不全や易感染性などの症状が消失あるいは 改善し,病院への入院や通院の機会が減り,また 日常生活の活動の範囲が広がれば,生活の質 (quallty of life)の向上をはかることができると 考える. 近年,ダウン症候群の早期療育の必要性と有用 性が述べられている3‘)36).先天性心疾患を合併し ているために早期療育の機会が失なわれることの ないよう,ダウン症候群に合併する心疾患も外科 的治療を積極的に施行し,術後に円滑な発達訓練 が受けられるような方針をとるべきであると考え る. ま と め !.ダウン症候群に合併する先天性心疾患136藩 中,心室中隔欠損症が65例と全体の48.5%であっ た.心室中隔欠損孔の位置分類では膜性部周辺欠 損流入部伸展型が26例(55.4%)であった.染色 体異常のない心室中隔欠損症では,膜性部周辺欠 損流入部伸展型ほ40例中3例(7.5%)であり,有 意の差がみられた. 2.ダウン症候群に合併する左右短絡性心疾患 103例中35例(34.0%)に動脈管開存を合併してい た, 3.2歳以下の解剖学的に同程度の大きさの欠 損孔をもつ心室中隔欠損症の症例で,染色体異常 のない群と比較すると,ダウン症候群では肺血管 抵抗は有意に高く,早期に肺高血圧が進行してい た. 4。ダウン症候群に合併した心室中隔欠損症で 心内修復術前後の肺血管抵抗は,多くの例で改善 傾向ぱ見られたが,術後も肺血管抵抗が上昇した 例があった. 5.肺高血圧が高度である症例の外科治療の適 応は,心臓カテーテル検査中に酸素負荷や薬物負 荷を行い判断した.肺血管抵抗が高値であり,わ ずかに左右短絡がある例には,肺生検による肺血 管病変の進行の程度を検索し参考としている, 6,術後の肺血管抵抗と肥満度とにぱ一定の傾 向はなく,肥満が術後残存する肺高血圧の因子で はなかった. 稿を終るにあたり,御校閲を賜わりました福山幸夫 教授,村田光範教授,草川三治名誉教授に深謝いたし ます.また,長年にわたり研修をさせていただき,直 接の御指導,御助言を賜りました榊原記念病院循環器 小児科の森 克彦先生はじめ村上保夫先生,三森重和 先生,同院外科の龍野勝彦先生,菊池利夫先生に心よ り感謝し,御礼申し上げます. 文 献 1)永沼万寿喜:ダウン症候群に合併する先天心疾患 の診断と管理.「小児科MOOK No,38ダウン症 候群」(黒木良和編),pp123−149,金原出版,東京 (1985)
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