奈良教育大学学術リポジトリNEAR
知能の因子と学業成績の関係
著者 杉村 健, 吉田 毅
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 22
ページ 33‑42
発行年 1986‑03‑23
その他のタイトル Relationships between factors of intelligence and academic performances.
URL http://hdl.handle.net/10105/6617
知能の因子と学業成績の関係*
杉村健淋
(心理学教室)吉 田毅淋*
(生駒市)
知能と学業式債の関係については、これまでに多くの研究が行われておワ、その結果は次のよ うにまとめられている(上田・杉村・北尾、1977)。①知能と学業式債の間には正の相関が認 められるが、その程度は教科によってかなり異なる。国語、社会、算数・数学、理科、英語とい 一った、いわゆる知的教科でほかなリ高い相関(r=O.5〜O.7)があるが、図工・美術、音楽、
技術家庭、体育といった、いわゆる技能教科ではあまり高くない(ア=O,1〜O.3)。②同じ教 科であっても学年によって相関の程度が異なる。一般的にいって、小学校低学年でほやや低く、
中学年から中学校め間は高いが、高校では低くなる。
以上は、全般的な知能と学業成績の関係についての結論であるが、周知のように知能はいくつ かの因子からなっているので、単に全般的なIQや知能偏差値と学業式縁の関係をみるよワも、
知能の因子別に学業成績との関係を調べた方が、より役に立つ情報が得られるであろう。知能の 因子と学業式債との関係についてほ、これまでに以下のことが見出されている。
知能の多国予説で有名なTbmtoneによれば、教科によるちがいはあるが、学業式債との相関 は言語因子が最も高く、次いで推理因子であワ、空間因子と知覚因子は低い(田中、1953によ る)。わが国においては、榊原・平沼・阿部が中学生を用いて、知的教科との相関は言語性知能 を測定するA式検査の方が非言語性知能を測定するB式検査よりも高いことを示した(上武・辰 野、1968による)。A式検査にはThu誠的neのいラ言語因子と推理因子が含まれ、B式検査 には空間因子と知覚因子が含まれているので、榊原らの結果は Thu胴toneと類似したものであ るといえる。牛島(1960)は中学2年生について、記憶、言語、数量、空間の4つの知能の因 子と知的教科の相関を求めた。教科をこみにすると、相関は言語因子(r=O.68)と数量因子
( :0.68)が記憶因子(ア:O.58)と空間因子(7:0.54)よりも高く、個々にみると、
国語は記憶因子(f:0.65)と数学は空間因子(ア=O.60)と最も高い相関があった。大阪 学芸大学心理学教室(1966)の研究では、言語因子が非言語因子よワも、思考(推理)因子が 記憶因子よりも学業成績との関係があることが報告されている。
本研究は、知能の因子と学業式馳こ関する2つの研究からなっている。研究Iは、京大NX知 能検査の下位テストであるr日常記憶」の成績と知的教科の成績との関係を調べた大数研究であ
る。研究皿は、復習ノート(杉村・吉田、1984)を中心とした個別指導における数学の成績と、
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一33一
京大NX知能検査における数因子および空間因子の得点との関係を調べた事例研究である。
研究 I
記憶力は知能の構成因子として多くの研究者によって認められているが、記憶ということばが 丸暗記とかつめ込みといった否定的な印象を与えるためか、記憶力と学業成績の関係を調べた研 究はあまワ見あたらない。とはいうものの、記憶力や記憶の働きがない眼ワ、1日たりとも生活 できないであろうし、また、学校におけるテストのほとんどが記憶力を査定しているといっても 過言ではない。
子どもの記憶力は、数、単語、短文、短かい物語など、さまざまな材料を用、、て査定されるが
(杉村、1985)、マジカーシー知能発達検査の作成者であるMcCarthyによると、これらのうち で、特に短かい物語についての記臆力が大切であるという(小田ほか、1981)。McCa舳yに よると、物語の記憶力は、学業成;漬の向上に必要な能力であるばかりでなく、教師が話すことを 理解したワ、教師の口頭の指示に従ったり、宿題の内容を覚えたりするといった、学校における 毎日の生活にも必要である。
これと関連してS㎏vemonら(1976)ほ、5歳のときに測定された諸能力のうちで、小学校 1〜3年生の学業成演が予測できるものとして、次の4つを挙げている。①口頭で伝達されるメ ッセージの内容を記憶する能力、②数と単語の系列を記憶する能力、③視覚的に提示された形の 類似・差異を抽象する能力および④刺激をカテゴリーにまとめる能力。最初の2つは明らかに記 憶力であり、小学校低学年の学業成績が幼児期の記憶力によって規定されていることがわかる。
本研究では物語の記憶力を査定するために、京大NX知能検査のr日常記憶」を用い、この成 績が上位の者と下位の者について、国語、社会、算数、理科の成績を比較する。r日常記憶」で は、日常生活に必要な記憶力や注意力が査定されると同時に、素直さ、真面目さ、落着きなどの 生活態度もみられるとされている。このテストで用いられている物語は、2年生用ほ40文字X15 行、4,6年生用は40文字X1桁からなっている。テストの方法は、まず物語を覚えるように教 示し、受検者に黙読させながら検査者が2分間で物語を音読する。そのあとで別の下位テストを 行ってから、物語の主要部分について思い出させ、答えさせる。
方法
調査対象 調査対象は小学校2年生144名(男77名、女67名)、4年生144名(男74名、女 70名)、6年生115名(男62名、女53名)であり、この中から、r日常記憶」の成績に基づ いて、学年ごとに上位群18名、下位群18名を選び出した。
調査内容 (1)知能検査一2年生には京大NXτ_g知能検査(梅本ほか、1971)を実施 した。この検査は8つの下位テストからなり、それらは言語因子(反対語、日常記憶、異質発見、
単語完成)、空間因子(同図形発見、図形構成)および数因子(数計算、数系列)の3つにまと められている。4年生キ6年生に実施した京大NX8_12知能検査(苧阪ほか、1972)は9つ の下位テストからなり、言語因子(反対語、日常記憶、異質発見、単語完成、単語マトリックス)、
空間因子(同図形発見、点図形)および数因子(数交換、数計算)にまとめられている。
2年生と4年生は昭和55年10月14目に、6年生ほ1O月13目に杉村と奈良教育大学心理学専攻生 によって、手引に従って午前中に教室で実施した。
ω学業式縁一国語、社会、算数、理科の4教科について、1学期末の成績(素点)を用いた。
結果と考察
上位群と下位群の構成 r日常記憶」の偏差値に基づいて、各学年とも学級をこみにして高 い方から18名、低い方から18名を選び出し、それぞれ上位群、下位群とした。2年生の上位 群は男児9名、女児9名、下位群は男児11名、女児7名、4年生の上位群は男児7名、女児11
名、下位群は男児11名、女児7名、6年生の上位群は男児7名、女児11名、丁寧群は男児12 名、女児6名であった。以上のように、全体的にみて上位群に女児が多く下位群にほ男児が多い。
表1は、各群のr日常記憶」の偏差値を示したものである。当然のことながら、上位群と下位 群の平均には著しい差があワ、上位群の最低点と下位群の最高点の間には20〜30点の開きが
あるので、上位群と下位群の記憶力には著しい差があるといえる。標準偏差(㎜)と範囲をみ ると、上位群が下位群よワも小さいので、上位群の方がより同質な子どもからなっているといえ
る。
妻1 r日常記憶」の得点(偏差値)
学 宇
2
4
6平均 64,3 67.7 61.4 土
位 棚 2.0 3.5 2.O
群
範囲
62−69
63−73 59−66平均 33.7 27.2 3011 下
位 棚 5.0 3.4 6,0
群
範囲 22−40 21−33 18−38
記策カと学業式錆 表2は、記憶力の上位群と下位群について、国語、社会、算数、理科の 成績(素点)の平均と標準偏差(6の)、群差(上位群マイナス下位群)とそのホ検定の結果を 示したものである。
この表からわかるように、どの学年でも4教科のすぺてにおいて、記憶力の高い者が低い者と 比べて有意によい成績を示している。4教科の平均をみると、両群の差は4年生が最も大きくて
2年生は小さいが、これは、対象児を含めた全員の成績の分散が異なることによるのかもしれな い。教科ごとに両群の差をみると、2年生では差が大きい方から算数、社会、理科、国語の順で
一.35一
あ9,4年生と6年生では国語、算数、社会、理科の順であった。各教科で測定されている学力 の内容が学年によって異なるので厳密な比較はできないが、記憶力と教科の成績の関係が学年に
よって異なることが示唆される。教科別に上位群と下位群の差を比べてみると、国語は2年生が 最も小さく、4,6年生が最も大きいので、2年生よりも4,6年生の方が記憶力と国語の成績 の間に強い関係があるといえる。
妻2 上位群と下位群の学業成績(素点)の平均(㎜)
教科 記 憶 能 力
学年
上位群 下位群
差 ( =36)国語 88.2(8.3) 80.9(12.3) 7.3 2.03*
社会 91.6(8.2) 79.7(12.5) 11.9 3.28**
2 算数 90.4(6.3) 7711(15.0) 13.3 3.39**
理科 91.0(5.6) 81.7(ユ3,4) 9,3 2,63*
平均 90,3 79.9 1O,4
国語 83.6(7.6) 62,7(15.7) 2019 4.92**
社会 85.5(9.4) 69,4(且2.9) 16、ユ 4.15**
4 算数 85,3(7.3) 66.O(19.7) 19.3 3.80**
理科 85.8(8.6) 73,2(13.8) 12.6 3.21**
平均 85.1 67.8 17.3
国語 89.6(5.2) 70.5(15.8) 19.1 4173**
社会 87.2(6,5) 72.6(17.7) 1416 3.21**
6 算数 87.9(8.O) 69.6(17.4) 18.3 3.95**
理科 93.1(4.6) 80.6(16.3) 1215 3.05**
平均 89.5 73,3 16.2
*ρ<.05 **ρく=.O1
標準偏差(5の)は成績のばらつきを示すものであるが、教科をこみにして学年ごとの平均を 算出してみると、2年生の上位群は7,1、下位群は13.3,4年生では同じ順に8,2と1515,6 年生では6.1と16.8であった。どの学年も下位群は止位群に比べて著しく大きく、2年生と4年 生はともに1.9倍、6年生では2.6倍にもなっている。このような結果は、記憶力が高い者ほ全体 として学業成績がよいが、記憶力が低い者の中には成績が比較的よい者とわるい者が混入してい ることを示している。したがって、記憶力が高い者については高い学業成績を予測することがで きるが、記憶力が低い者についてほ学業成績が予測しにくいことが示唆される。後者の場合には、
記憶力以外の何らかの要因によって学業成績が左右されるといえる。
表1に示したように、記憶力の標準偏差もまた、2年生と6年生では下位群が上位群よワも著 しく大きい。2年生は2,5倍、6年生では3.0倍である。このことは学業成績における標準偏差
のちカミいに影響しているかもしれないが、4年生でほ記憶力の標準偏差は上位群と下位群がほぼ 同じであるのに、学業成績の標準偏差は著しく異なっているので、記憶力の標準偏差のちがいと 学業成漬の標準偏差のちがいを対応づけることはできない。
本研究で用いたr日常記憶」は知能検査の中の1つの下位テストであるので、この成績がよい 者ほ全体の知能偏差値も高いことが予想される。そこで、学年ごとに知能偏差値の平均を算出し てみると、2年生の上位群は61.8、下位群ほ47.1(差14,7)・4年生は同じ順に61.8と40.3
(差21.5)、6年生でほ59.6と38.6(差21.0)てあり、いずれも上位群の方が1%水準で有意 に高かった。したがつて、表2にみられる学業成績の群差は単に記憶能力の差によるのではなく、
知能全般の差によるという可能性もある。しかし、表1に示した記憶力の偏差値の群差をみると、
2年生は30.5,4年生は40.5,6年生は3L3であり、知能偏差値の群差よりもは手かに大きい ので、学業成績の群差は記憶力に負うところが大きいといえる。
いずれにしても、r日常記憶」で査定された記憶力と4教科の聞にほ、各学年ともにかなワ強 い関係があることは明らかである。今後は本研究をさらに発展させて、種々な課題で査定された 記憶力と各教科の観点別の成績の関係といったような、もっときめの細かな研究が必要であろう。
研究 皿
先の研究(杉村・吉田、1984)でほ、復習ノートによって教科書の内容を撤底的に理解させ ようという基本方針の下に、子どもの実践を的確に把握した上で個人ごとの指導方針を立て、算 数・数学の個別指導を行った4名の事例について考察した。その結果、成績向上の要因として、
①基本方針および復習ノートによる勉強法を完全に受入れ、実行したこと、②復習ノートによる 勉強法に慣れたころに、学校のテストでよい点が取れ、達成感や満足感が得られたこと、③母親 が指導方針に協力し、守ったことの3つが見出された。
本研究では、京大NXg_15知能検査(苧阪・梅本、1973)で測定される3つの因子のうち、
特に数学の成績と関係があると考えられる数因子と空間因子を取り上げ、その得点が学習塾にお ける数学の成績とどのような関係があるか、また、1回目(小6)と2回目(中3)の知能検査 の結果にどのような変化がみられるかを調べることにした。数因子は四則計算、数字三角、符号 交換の3つの下位テストからなワ、計算能力や計算速度といった理数科の基礎学習能力、数関係 の理解力や推理力が査定され、空間因子は図形分割、折紙パンチ、重合板の3つの下位テストか らなワ、直観的な想像力、表象空間の論理的判断や直観力、視覚的な弁別能力や注意力が査定さ れるといわれている。両因子ともに理数的知能に属しているが、数因子は学習努力知能、空間因 子は素質面の強い知能とされている。
ここで報告する事例は、小学5年生またほ6年生で入塾し、中学3年まで適塾した者のうち、
数因子の偏差値の平均と空間因子の偏差値の平均の差が5点以上の者3名(すべて女生徒)てあ り、うち2名は数因子>空間因子、1名は数因子く空間因子であった。知能検査は小学6年生と 中学3年に実施したものであワ、数学のテストは中学1年生と2年生の間に学習塾で随時実施し たものである。なお、入塾時には新学習適応性検査(辰野、1977)と性格診断検査(松原、
一37一
1978)を実施している。
事例S.Y.
実態把握 (1〕入塾動機 中学へ入ると今までのような勉強の仕方では不安である。学校の 成績はよい方であるが、よりよい勉強の方法を教えてほしい(小学6年3月入塾)。
(2涼犬NX知能検査一知能偏差値55(IQ110)、数因子56、空間因子49、言語因子53。
下位検査では乱文構成(69)、四則計算(64)、符号交換(61)が高く、重合板(43)が低い。
(3噺学習適応性検査_適応性偏差値ほ66,5段階評定で学習態度4、学習技術4、学習環 境4、精神身体の健康4ですべて良好な状態である。
14)性格診断検査_きまじめ慎重型、内向性。几帳面でこつこつとねぱワ強い。細かいところ に気がつき神経質、気が弱い。
指導方針 ①身体・健康面に注意する。 ②自分は出来るのだという自信をもつ。 ③家庭 学習では週間時間割を作る。 ④復習はその目にする。 ⑥筆記しながら勉強する。
指導経過 (1)中学1年の4,5月は復習ノートづくりが遅れがちであった。1学期の中間テ ストで数学89点、英語100点を取ったが、その後、家庭学習にムラがあワ伸び悩んだ。3学 期になって家庭学習の大切さを説き、時間割づくワをしなおし、復習ノートの指導とチェヲクを 厳重にした。目標づくりの指導も合わせて行なった。
12i2年生の4月に、不得意科目である社会と理科の勉強の仕方について質問があったので、予 習、復習、授業の受け方、ノートの取ワ方について詳し<指導した。2学期の成績は1学期に比 べて、5教科の平均点が7.2点上昇した。rこの頃は勉強するのが楽しい」と言ったワ、友達に r先生の指導の適ワに勉強したら、みんな成績が上がった・何か信じられへん」と話している。
12月末に実施した学習適応性検査の結果は全偏差値64、学習態度5、学習技術4、学習環境4、
精神身体の健康4であった・
(3)3年生の9月に実施した京大NX知能検査の結果は、知能偏差値60(IQ119)、数因子63、
空間因子53、言語因子62であり、重合板(48)と折紙バンチ(48)が他の下位検査と比べて低 かった。
事例4.H.
実態把握 (1)入塾動機_頭は悪くないようだが成績はあまりよくない。もっと出来るはず だが勉強の仕方が悪いのではないか。もっときびしい勉強に耐えられるように、勉強の仕方を教
えてほしい(小学5年9月入塾)o
(2涼大N X知能検査一知能偏差値57(IQ113)、数因子57、空間因子52、言語因子57。
下位検査では重合板(37)が特に低い。
13噺学習適応性検査_適応性偏差値67、学習態度4、学習技術3、学習環境5、精神身体 の健康4.
14)性格診断検査_まじめ型、外向性。明かるく話し好きで、取越苦労をしない。叱られても
くよくよしない。自律性が強く計画性があるが、そそっかしく長時間の集中力に欠ける。
指導方針 ①新聞や本を読んでじっくワ考える習慣をつける。 ②家庭学習の時間割をつく る。 ⑧40分ほど勉強して10分の休憩を入れ、1目2時間程度の勉強をする。 ④筆記しな がら勉強する。
指導経過 (1)復習ノートは2〜3か月で定着したが、家庭学習の時間割を実行できな<、数 か月ほ定着しなかりた。その後、成績が次第によくなワ意欲が高まってきた。6年2学期の一後半 から、復習ノートをいかにきれいに、上手に書くかということで、塾の友達と競争するようにな った。12月末に実施した新学習適応性検査の偏差値74、学習態度5、学習技術5、学習環境 5、精神身体の健康4で、前回よワ著しくよくなった・
12沖学生になりて、家庭学習、復習ノートの作成など、すべて順調であった。1年1学期の5 教科の成績は社会以外はすべて上位でありた。2年生になるとき、目標きめの話をし、目標を立 てさせ、社会と理科の勉強方法を指導し、実行させた。2学期の成績ほ1学期と比べて、5教科 の平均で10.9点上昇した。偲親はr毎日、自分のべ一スでこつこつ勉強している」と言っていた。
(3j3年生の9月に実施した京大NX知能検査の結果は、知能偏差値60(IQ119)、数因子63、
空間因子63、言語因子54てあり、下位検査での7ソパラ:/スはみられなへ
事例Y.Y.
実態把握 (1〕入塾動機_根気がなく落着いて勉強できない。家庭で自主的な勉強ができな い。根気強く、持続的な勉強ができるようになワたい(小学5年3月入塾)。
12涼大NX知能検査一知能偏差値56(I Q112)、数因子53、空間困子58、言語因子 58。下位検査では日常記憶(43)が他と比べて特に低い。
13噺学習適応性検査_適応性偏差値62、学習態度4、学習技術4、学習環境4、精神身体 の健康4で、すべて良い状態にある。下位検査で1つだけ神経質が2で、その徴候がある。
(4)性格診断検査 社交型、外向性。明るく朗らかで行動は積極的だが、気分屋で集中力がな く、長時間の勉強がにが手である。
指導方針 ①家庭学習の週間時間割をつくる。 ②学校で習りたことほその目に復習する。
⑧家庭学習は30分勉強し1O分休憩する。 ④勉強しやすい雰囲気をつくるよう母親に心掛けて
もらう。
指導経過 (1〕6年生の4月当初は、塾の宿題を毎週提出させ、チェックして返した。その際、
勉強の仕方について指導したが、復習ノートづくワはまだ不安定である。問題文の読みまちがい が多いので、あわてないでゆっくリと読んでから、式を作るように指導する。5月頃から家庭学 習が軌道にのり、復習ノートもまとまってきた。6月頃から塾のテストの成縁がよくなワ、基礎 的な力がついてきたが、難しい問題になると、あがってしまって解けなくなる。3月頃から文章 の読みがしっかワしてきて、早とちワがだいぶ減りてきた。それでもち上つとした間違い、約分 わすれ、写しちがいなどがある。r他の人よリ遅くても、それが全部合りていれぱ、それでよい のだ。早くすることがよいことではない」ということをくり返し指導した。
一強一
12沖学生になって意欲的に取ワ組むようになった。友人に負けたくないという目標を立てて頑 張っているが、ついうっかワ間違いはなかなか治らない。テストの時に気をつけるポイントとし
て、①計算を正確にする、②つぷやきながら記入する、③答えが出たらもう一度確かめるの3つ を強調した。2年生になって成績が徐々に向上し、学習意欲が高まってきたが、問題が分からな いと思うと頭にカッときてしまりて、余計に思い出せなくなってしまうクセは治らない。
(3j3年生の9月に実施した京大NX知能検査の結果は、知能偏差値60(IQ119)、数国子 52、空間因子57、言語因子63であり、下位検査では図形分割(69)が特に高く、符号交換
(46)が低かった。
数因子、空間因子と数学の成績
以上に紹介した3つの事例について、小学校6年と中学3年のときに実施した京大NX g_15 知能検査の結果をまとめたものが表3である。この表から明らかなように、小学6年のときはS.
Y.とA.H.はともに数因子の方 妻3 京大NX知能検査の結果(一偏差値)
が空間因子よりも優れており、Y.
因 子
事例 実施 日 全体
数 空間言語
S.Y. 5812,11(小6)
U0.9,8(中3) 56>49 53
U3〉53 62 55 U0
A.H. 57,8.3(小6)
U0.9.8(中3) 57>52 57 U3=63 54
U057
Y.Y. 57.8−4(小6)
U0,9.8(中3) 53<58 58
T2く57 63 54U0
表4 数学の成績(素点の平均)
Y.は逆に空間因子の方がよい成 績を示している。もし、それぞれ の因子の示す能力が数学の学習に 影響するならば、少なくとも中学 1年生の間くらいは、S.Y.とA.
H.はともに計算を主とするテス トの成績が図形を主とするテスト の成績よりもよく、Y.Y.は逆に 図形を主とするテストの成績 内 容
事例 学年 差
主として計算 主として図形
S.Y.
12 83.4(18回分) 74D(6回分)
W22(15回分) 762(13回分)
9.4 U.7
平均 83,2 75.1 8.1
A.H.
12 784(19回分) 732(6回分)68,3(16回分) 733(13回分) 5.2−5.O
平均 73,4 73.3 0,1
Y.Y.
12 72−4(15回分) 660(5回分)
V3」〕(15回分) 65・5(14回分)
6,4 V.5
平均 727 658 6.9
鱒主として計算は58年4月15日から12月5日(1年生)と 59年4月7日から10月27日(2年生)の間に、主として図 形は59年1月23日から3月2日(ユ年生)と59年1月3日 から60年3月2目(2年生)の間に実施したものである。
がよくなることが予想され乱 表4は、中学1年生と2年 生の間に、学習塾で行った数 学のテストの平均点を示した ものである。この学習塾では 教科書の進度に合わせて復習 ノートを作らせ、テストを行 っているので、表の脚注に示 したように、各学年の前半は 計算を主としたテスト、後半 が図形を主としたテストにな っている。表の差のところに 示したのは計算マイナス図形
の値であるので、プラスの値ほ計算が図形よワも成績がよいことを示し、マイナスの値は図形の 方が優れていることを示す。
1年生の結果をみると、S.Y.の差が最も大きくてY.Y.、A.H.の順になっておワ、どの事 例も計算の方が優れている。表3に示した知能の因子の差と比べてみると、S.Y.とA皿.はと もに数因子と計算が優れているという点で対応しているが、Y.Y.の場合は知能は数国子〈空間 因子であるのに、数学の成績は計算>図形であって、知能因子から予測されたのとは逆の結果に なっている。
次に、2年生の結果をみると、S Y.とY.Y.は1年生と類似しているが、A.H.は1年生の ときとはまったく逆に、計算よワも図形の方がよくなっている。これは、2年生になってA.H.
の図形の成績がよくなったためではなく、計算の成績が著しく下がったことによるものであろラ。
事実、A.H.の計算を除げば、1年生と2年生の成縁の差はせいぜい1〜2点にすぎず、かなワ 安定しているといえる。
これと関連して、表3の中学3年生で実施した知能検査の結果をみると、S.Y.ほ小6と中3 がともに数因子〉空間因子であワ、Y.Y.はともに数因子く空間因子であって、小学6年生から 中学3年まで安定した結果を示しているが、A.H.だけが小6の数因子>空間因子から中3の数 因子=空間因子へと変化している。ここで特に興味があるのはA.H.である。表4をみると、彼 女の数学の成績は中学1年では計算〉図形であったのに、中学2年では逆に計算<図形に変化し ている。このように、数学の成績における計算優位から図形優位への変化が、中学3年の9月に 実施した知能検査に影響して、数因子優位でありたのが数因子と空間因子を同じレベルにしたの であろう。
S.Y.の知能は小6、中3ともに数因子〉空間因子であワ、両者の偏差値の差ほ小6が7点、
中3が1O点であった。数学の成績も中1、中2ともに計算>図形であるので、知能の因子と数学 の成績は完全に対応しているといえる。これに対してY.Y.の知能は小6、中3ともに数因子<
空間因子であるのに、数学の成績は中1、中2ともに計算>図形であって、両者は逆の関係を示 している。常識的にはS.Y,のように、知能の因子と成績の内容が対応すると考えられるが、Y.
Y.のような逆の関係も存在することからみて、知能の因子がそのまま学習に反映されない場合 もあることがわかる。A.H.とY.Y.は小学6年生の知能検査では2つの因子の偏差値の差はと もに5点であってS.Y.の差よワも小さいことからみて、2つの因子の能力差があまり大きくな い場合には、A.H.のように、2回の知能検査において因子の偏差値の関係が変化したワ、YY.
のように、知能の因子と数学の成績の関係が対応しないのでほないかと考えられる。
要 約
研究Iでは、小学2,4,6年生を用いて、京大NX知能検査の下位テストであるr日常記憶」
の得点が高い者は低い者に比べて、国語、社会、算数、理科の4教科すべての成績がよく、記憶 力が学業成績の重要な規定因であることを示した。記憶力と成績の関係は学年と教科によって若 干異なっておワ、例えば、国語と記憶力の関係は2年生よりも4,6年生で強いことが示唆され
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た。記憶力が高い者の学業成績の標準偏差は小さく、記憶力が低い者の標準偏差が大きいことか らみて、記憶力が高い場合は高い学業成績を予測できるが、低い者については学業成績が予測し にくいといえる。
研究]では、数学の学習塾に通っている中学3年生の子どものうちで、小学6年生のときに実 施した京大NX知能検査の数因子よワも空間因子の偏差値が5点以上低い者2名(S.Y.とA.町)
と高い者1名(Y.Y.)を選び出し、その指導過程を紹介するとともに、計算を主とするテスト の成績と図形を主とするテストの成績(いずれも塾で実施)を中学1年と2年のときに比較し、
中学3年のときに再び知能検査を実施した。S.Y.は、小学6年と中学3年の知能検査がともに 数因子〉図形因子であって、数学の成績も1年生、2年生ともに計算〉図形であワ・知能の因子
と数学の成績の間に完全な対応がみられた。事例A.H.は、小学6年では数因子>空間因子であ ワ、中学1年の成漬はそれに対応して計算>図形であったか、中学2年では計算<図形に変わワ、
それに応じて知能の因子は数因子=空間因子となった。事例Y.Y、は、小学6年、中学3年とも に知能検査では数因子<空間因子であったのに、数学の成績は中学1,2年ともに計算〉図形で あって知能の因子との対応はみられなかった。数因子と空間因子の偏差値の差があまワ大きくな い場合には、数学の成績との対応関係があまワ明確ではないことが示唆一された。
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