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称賛・叱責の随伴性認知と学業成績

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

称賛・叱責の随伴性認知と学業成績

著者 玉瀬 耕治

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 22

ページ 59‑66

発行年 1986‑03‑23

その他のタイトル Perceived Contingency of Parent' s Praise and Reproof and Academic Achievement

URL http://hdl.handle.net/10105/6619

(2)

称賛・叱責の随伴性認知と学業成績*

玉瀬耕治榊

 (心理学教室)

 称賛・叱責の影響を検討する方法は、大別して2つあるといえる。1つは実験的方法である。

統制された実験条件のもとで、さまざまな称賛・叱責の与え方を比較するやワ方である。その中 でも、実験室で、特別に考案された課題を使って画一的に称賛・叱責を与える方法(Buss,B胞d−

en,O㎎el,&Buss,1956;Ham11to皿,1969)と、たとえば教室場面で、実際の教材を使って、

比較的自由に称賛・叱責を与える方法(Dweck,1975;Schmk,1981・1983)があ声といえ私 刑な表現をすれば、ある実験的研究は、きわめて実験的色彩の濃い研究から応用的実践的な研究 までの連続体上(Hi吃ard&Bower,1966,p574−575)のどこかに位置づけられるといえる。よ

ワ厳密に統制されれぱされるほど、特定の結論を得やすく検証可能性も大きいが、逆に、実際場 面にはあてはまワにくいものとなる。この種の研究の目的は、称賛・叱責とそれに影響される要 因との因果関係を直接的に調べることにある。

 もう1つの方法は調査的方法である。この種の研究は、実際場面で作用しているさまざまな要 因の中から、称賛・叱責の要因と、それによる影響があると想定される他の要因をとリ出して、

両者の相関的関係を調べるものである。調査的研究の目的は、相関的関係を調べることによりて、

間接的に因果関係を推測することにあるといえる。実際場面では、1つの要因が他の要因に一方 的に影響を及ぼすことはほとんど考えられず、つねに相互決定的(Bandura,1978)である。た とえば、教師が生徒をほめる場合、生徒の行いがよいからほめ、またほめられたことによって、

生徒の行いはさらに改善される。この場合、両者の関係は相互決定的であワ、どちらかが一方的 に他に影響したものでほなv㌔

 本研究は調査的研究であワ、児童による親の称賛・叱責の受けとめ方と、学業成績および知能 との関係を調べようとしたものである。実際場面では、どれだけの称賛・叱責を与え準かという ことよりも、むしろそれを与えられた子どもたちが、それをどう受けとったかということが、彼 らの行動を決定づけるより重要な要因になると考えられる。本研究では、日頃親たちが、子ども の学業成績に対して与えている称賛・叱責を、子どもたちがどう受けとっているかを随伴性認知 の問題と関連づけて検討している。ここでいう随伴性認知とは、どのような行為に対して称賛・

叱責が与えられていると思っているかということである。より具体的に言うと、自分がよい成績 を得てきたことに対してほめてくれたと思っているのか(随伴)、成績とは無関係に、たまたま

*   PemBived Conti㎎e11cy of Pa祀nt s Pm㎏a皿d Repmof and Acad㎝ic A曲ievem㎝t キ*  Koji Tamase(Depa市me皿t of Psychology,Nara U㎡ve困ity of Edu㎝tio皿,Nara630,

   Japan)

(3)

親の機嫌がよい時にほめてくれたと思っているのか(非随伴)ということである。

 最近の実験的研究は、このような随伴性認知の問題が、課題遂行を規定する重要な要因である ことを示している。称賛に関するものとしては、剥奪飽和理論(Gewi由&Baer,1958)の流 れに治りた認知論的解釈(Ba㎞d,1972.1973;Moore,Baron&Byme,1980;Perry&Gaπow,

1975)があり、叱責に関するものとしてほ、学習性無力感理論(Hiroto&SeIigman,

1975)における認知諭的解釈がある。これらの諸研究は、事前に受けた称賛または叱責を、被 験者が自分の行動の結果として受けとるか(随伴)、自分の行動とは無関係なものとして受けと

るか(非随伴)で、後の課題における成績が異なってくることを実証している。

 本研究の第1の目的は、親の称賛・叱責を学業式債に対して随伴的であると受けとりている子 どもと、非随伴的であると受けとっている子どもとでは、学業成績、および知能に差がみられる かどラかを検討することでありた。ところで、このような随伴性認知の問題は、称賛・叱責の量

(回数)によっても異なる可能性がある。Ba㎞d and Wei82(1977)の実験によれば、称賛が わずかに与えられた場合と多量に与えられた場合では、随伴性認知の影響が異なることが示唆さ れている。与えられる称賛・叱責の回数が少ない場合の方が、それの多い場合よりもより効果的 であるように思われる。本研究の第2の目的は、親が よく 称賛・叱責を与えると受けとって いるか、 時々 与えると受けとっているかを調べ、随伴性認知の問題と絡めあわせて学業式療 および知能との関係を検討することであった。

方    法

調査対象  奈良県識城郡川西町の小学校2,4,6年生の児童396名が調査対象として用い られた。妻1ほ調査対象の内訳を示したものである・

      表1 調査対象の内訳

学       年 2     4     6 合計 男 児  59    70

女 児  56   69

72     201 70     195

合計 115 139 142 396

調査内容  (1麻賛・叱責の調査 図1は用いられた調査用紙を示したものである。ここで よくある 、 ときどきある は称賛・叱責の回数を調べたものであり、 きげんがよいとき

(わるいとき) 、 せいせきがよいとき(わるいとき) は、随伴性の認知を調べたものであ る。前者は非随伴、後者は随伴とみなされる。各項目とも、いずれか一方を選択させた。

(21学業式債  1学期末の4教科(国語、社会、算数、理科)の成績(素点)が用いられた。

13〕知能検査  東大A−S知能検査の偏差値が用いられた。

実施  称賛・叱責の調査および知能検査は、昭和60年10月に行われた。

(4)

  ねん,  くみ,なまえ

1 あなたは おとうさんに しゅくだいや学校  のせいせきのことで ほめられることが あ   ワますか。

よくある    ときどきある それはどんなときですか。

(1)おとうさんのきげんのよいとき ω わたしのせいせきがよいとき 2 あなたは おとうさんに しゅくだいや学校   のせいせきのことで.しかられることが あ   ワますか。

よくある    ときどきある それはどんなときですか。

(1〕おとうさんのきげんがわるいとき

(2iわたしのせいせきがわるいとき

3 あなたは おかあさんに しゅくだいや学校  のせいせきのことで ほめられることが あ   ワますか。

よくある    ときどきある それほどんなときですか。

(1〕おかあさんのきげんのよいとき ω わたしのせいせきがよいとき 4 あなたは おかあさんに しゅくだいや学校  のせいせきのことで しかられることがあ   ワますか。

よくある     ときどきある それほどんなときですか。

(1)おかあさんのきげんがわるいとき

(2、わたしのせいせきがわるいとき 図1 称賛・叱責の調査用紙

結 果 と 考 察

称資・叱貫の受けとめ方  表2は、称賛・叱責調査の結果を示したものである。称賛・叱責 を与えられることが よくある と答えた場合を 多0とし、 ときどきある,と答えた場合を

少 とした。

      表2 称賛・叱責の受けとめ方の割合(人数と%)

回.数        多

随伴性    非随伴    随 伴

     少

       合計 非随伴    随 伴

      2手F    5(4.3)

父・一ヨ…める  4角三  4(2,9)

      6年  1(07)

27(23.5)

22(16.2)

13(9.4)

13(11.3)   70(60.9)

20(14.7)    90(66.2)

27(19.6)   97(70.3)

136 115 138

      2年  1(0.9)

父・しかる 4年  O(0.0)

      6年  3(2.2)

9(7.8)

16(11.8)

15(1O.9)

26(22.6)   79(68.7)

20(14,7)  100(73.5)

25(18.1)    95(68.8)

115 136 138

      2年  4(3.5)

母・ほめる 4年  6(4.3)

      6年  1(0.7)

63(54.8)

57(41.3)

40(28.6)

1O( 8.7)   38(33.0)

12( 8.7)    63(45,7)

19(13.6)   80(57.1)

115 138 140

      2年  0(0.0)

母・しかる 4年  3(2,2)

      6年  8(5.8)

14(12.3)

24(17.4)

20(14.4)

18(15.8)    82(71.9)

20(14.5)    91(65.9)

16(11.5)   95(68.3)

114 138

139

(5)

この表から明らかなように、全体的に少一随伴がもっとも多くなっておワ、称賛・叱責は随伴的 にときどき与えられる場合が多いといえる。例外的に、2年生では母親がほめる場合、多一随伴 が毛つとも多くなっている。これは母親が随伴的によくほめてくれると受けとっている者が多い

ごとを示している。また、全体的に多一非随伴は非常に少ないので、親が自分の機嫌次第で称賛・

叱責を与えることはまれであると考えられる。

 称賛・叱責の受けとめ方と学業式錆 妻2からわかるように、非随伴群の人数が少ないので、

学年ごとの分析では 多 と 少 をこみにして、非随伴群と随伴群の差を調べた。表3は、各 教科別学年別に非随伴群と随伴群の学業成績を示したものである。表中の*印は、非随伴群と随 伴群の差の后検定を行うた結果が有意であったものを示している。この表で明らかなように、差 が有意になったところは、すべて随伴群の方が学業成績がよくなっている。すなわち、成績に随 伴して称賛・叱責が与えられていると受けとっている者の方が、成績とは無関係に、親の機嫌で 称賛・叱責が与えられていると受けとっている者よワも学業成績がよいといえる。この傾向は、

称賛に関して2年生でもっとも著しく、父親の場合も母親の場合もともに認められる。叱責に関 して有意な差が認められたところはわずかであった。教科別では、国語においてもっとも差がよ くあらわれているといえる。

妻3 称賛1叱責の受けとめ方と学業成績および知能偏差値

国語 社会    算数 理科   知能偏差値

ヲ髄伸一随伴  非随伴一随伴  ヲ髄伸一随伴  ヲ髄伸一随伴  ヨ髄伸一随伴      2年 74.0**83,786,0 88,579.4**87,9 85.9* 90.7 5511 52.4 父・ほめる 4年 75.1* 81,863.8*71,168,2 74,4 65,9 73,549.5* 53.4      6年 77.5**85,9 66,4**76,6 81,6 85,7 80.6* 85,8 53,1 54.9

     2年79.1*83,985,2 89,383,8 87,487,9 90,653,8 53.4 父・しかる 4年 79.4 8018 68,7 70,5 70,8 73,8 73,5 73,8 52,8 52,7      6年 83,7 84,4 71,8 75,2 86,2 84,5 84,4 84,8 54,6 54.6      2年 70.8**83,981.3* 89,0 79.3* 86,9 84.4**90,8 54,5 52.7

母・ほめる4年81,0 80,669,7 70,669,5 73,969,7 74,450,8 52.9      6年 80,3 84,369,9 75,583,9 85,2 83,2 85,2 52,7 54.8

     2年 76.3*83,484.8 881583,7 86,586,5 89,454,4 52.6 母・しかる 4年 83,3 80,173,6 70,074,4 73,178,7 74,6 54,1 52.4      6年84,0 84,474,5 74,887,8 84,486.0 841554,7 54.6

*は非随伴対随伴の差の有意牲を示す。 *ρ<.05    **ρ<.01

 図2は4教科の平均点について非随伴群と随伴群の成績を示したものである。このうち、 父

・ほめる では、2年生でC(113)=2.66となワ1%水準の有意差が認められ、4年生では

(134)=2.23,6年生ではf(136)=2.53でそれぞれ5%水準の有意差が認められた。また、

母・ほめる では2年生でC(113)=2.38となり5%水準の有意差が認められた。それ以外

の群では、いずれも有意な差は認められなかった。 母・しかる の4年生と6年生では、みか

(6)

90

甲80

仰70

、点

 60

尖・ほりる

2年    4年    6年

90

平80

得70

、点

 60

2年

    [コ非雌.

偲・ほある

     □融砕

4年    6年

 即 平 均

続70

,点

 60

史・し少る

2年    4年    6年

平80

田70

、点

90

母・しかる

80

70

60

2年    鑑   6年 2年   4年   6年

図2 称賛・叱責の受けとめ方と学業成績(4教科の平均点)一その1

(7)

均 得 点

   題多・非艀    □多・固伴

父.ほめる 少・棚伴

□少・随伴

90

平  80

均 得  70

60

母・ほめる

90

平80

得70

 60

文・しかる

{.::・

、㍗.

平80

得70

90 固・しかる

80 蟻

70

60

、..,・

E{:

Y柵..一

図3 称賛・叱責の受けとめ方と学業成績(4教科の平均点)一その2

(8)

け上非随伴群の方が随伴群よワも成績がよくなりているが、個人差が大きいので一貫した傾向が あるとはいえない。

 図3は、学年をこみにして、一称賛・叱責の回数が多い場合と少ない場合について、それぞれ非 随伴群と随伴群g学業成績(4牽科の平均点)を示したものであ飢それぞれの4群について2

(多・少)×2(随伴・非随伴)の分散分析を行りたところ、 父・ほめる では、随伴性の主 効果が.グ(1・385);7・04.≒なリ1%水準で有意であった。これはすでにみてきたように・随伴 群の方が非随伴群よりも成績がよいことを示している。また、 父・しかる では、多・小の主 効果拒F(1,385)=1O.14となワ1%水準で有意でありた。これほ随伴性のいかんにかかわらず、

叱責の回数が一少ない場合の方が多い場合よワも成演がよいことを示している。図3では 父・し かる に関して交互作用が期待されるが、多・非随伴群の人数が少ないために有意な値が得られ なかったものと思われる(F二1.24)白その他の要因は、いずれも有意にはならなかった。

 以上のような結果から、称賛・叱責が随伴的に与えられていると受けとっている子どもの方が 非随伴的であると受けとりている子どもよりも学業成績がよいとみなしてよいであろう。称賛に 関しては、実験的研究で得られている強化の随伴性認知の効果(Ba㎞d,1972」,1973)と一致し

ておワ、叱責に関しては罰の非随伴性の認知による学習性無力感の効果(.Hiroto&Se1igman,

1975)と一致しているといえる。実験的研究では因果関係が明確であるが、本研究の場合はあ くまでも相関的関係を示すものである点に注意.しなければならない。一般に、称賛・叱責を与え る場合は、ど.ういうことに対してほめたのか・あるいは吃りたのかが子どもにわかるように与え なければならないとはよく言われること.であるが、本研究の結果はこのような考え方と。も一致し ているといえよ㌔父親が叱責する場合・随伴性よワも叱責の回数が重要であるという点も興味 深い。叱責回数が少ない場合の方が多い場合よワも学業式縁がよいのである。

 称資・叱責の受けとめ方と知能  表3の右端の欄ほ非随伴群と随伴群の知能偏差値を比較し たものである。これらの値からわかるように、有意差があったのは・父・ほめる の4年生だけ で、その他の場合はいずれも有意ではなかった。すなわち、.称賛・叱責の随伴性の認知と知能と はほとんど関係がないといえる。このことから、非随伴群と随伴群の間で得られた学業式縁の差 は、知能水準の差にもとづくものではないことが推察される。

要      約

 小学校2,4,6年生396名を対象にして、随伴性認知の観点から、彼らが親の称賛・叱責を どのように受けとっているかを調べた。称賛・叱責の回数が多い場合( よくある )と少ない 場合( ときどきある,)が区別され、それぞれについて、随伴的( せいせきがよいとき、わ

るいとき,)と受けとっているか、非随伴的(親の きげんがよいとき、わるいとき )と受け

とっているかが調べられた。これらの郡ごとに4教科の学業成績と知能偏差値が算出された。そ

の結果、全体的に随伴群の方が非随伴群よワも学業成績がよかった。すなわち、成績に応じて称

賛・叱責が与えられていると受けとっている者の方が、成績とは無関係に、親の機嫌で称賛・叱

責が与えられている一と受けとっている者よワも学業式縁がよかった。このような関係は、知能偏

(9)

差値についてほほとんど認められなかった。

引  用  文   献

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 <附記> 本研究は心理学専攻生木村鑑廣君の発案によって行われた。資料の分析には石坂栄

啓、井筒千野、後藤誠司、前河桜、宮谷かおワの皆さんのご協力を得た。また、実施にさいして

は、杉村健教授ならびに結崎小学校のご協力を得た。記して深く感謝の意を表します。

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