災害道徳の教育 : 「防災道徳」授業の実践と哲学 教育への可能性 (第三六回大会シンポジウム : 災 害の哲学と倫理)
著者 藤井 基貴
雑誌名 文化と哲学
巻 31
ページ 21‑40
発行年 2014‑08‑28
出版者 静岡大学哲学会
URL http://doi.org/10.14945/00008060
災 害 道 徳
の 教
﹁防
育
災 道 徳
﹂授 業 の実 践 と哲 学 教 育 のへ 可 能 基 性
は じ め に 東
本日 大震 災 にお け る
﹁想定
﹂外 と言 われ た巨 大 地な 震 や津 波 のな かで も︑
﹁釜 石 の奇 跡
﹂ 代に 表 され るよ う に︑ 学 校 にお け 地る 道 な防 災教 育 の取 り組 みに よ てっ 救 われ た多 く の命 あが る︒ 大震 災 以降 防︑ 災 教育 の要 学が 校教 育 あに る こと もま た社 会 の共 通認 識 とし て広 りが つつ あ る︒ こう たし な か で防 災研 者究 から 従は 来 の
﹁おは もし
﹂式 避 難訓 練だ け では 大規 模災 害 を生 き残 れな いと うい 指 摘 相が 次 いで いる
︒ 二〇 一二 年七 月 出に され た
﹁東 本日 大震 災 受を たけ 防 災教 育
・防 災管 理等 関に す る有 識 者会
﹂議 最 終報 告
︵以下
︑ 終﹃最 報 告し では
﹁現︑ 在 の学 校教 育 にお てい は︑ 災防 含を めた 安全 教育 の時 間数 は限 られ てお り︑ 主体 的 に行 動 す る 態度 育の 成 には 不十 分 あで り︑ 各学 校 にお てい 関︑ 連 す 教る 科等 ので 指導 の時 間 確が 保 でき よる う検 討 す る必 要 あが
﹂る
︵傍 点
¨筆 者
︶ とし て︑ 災防 関に す る知 識 や災 害時 にと る べき 動行 に つい て 一方 的 伝に 達 す るだ け でな く︑ 児童 生 徒 主が 体的 判に 断
・行 動 す るた め の防 災 安・ 全 育教 プ ログ ラ ム の開 発 を求 てめ いる
︒
一一 一
園
井貴
一一 二
我が国における防災教育の取り組みにおいては︑これまでにも優れた教材が開発されてきた︒なかでも︑阪神大震 災を契機に開発された﹁クロスロード﹂や﹁災害図上訓練∪Hの﹂などが広く知られている︒これらの教材は︑災害時 における複雑かつ多義的な状況を擬似体験させ︑よりよい判断力や行動力を育てることをねらいとしている︒加えて︑ 参加型の学習スタイルを取り入れることによって︑行政や災害の専門家に依存した防災管理体制および防災教育の在 り方に再考を促し︑行政・専門家・市民の一体化を目指す取り組みとしても注目を集めている︒これからの防災教育 は行政や専門家が主導する﹁専門知に基づく教育﹂型のアプローチだけでなく︑関係するそれぞれの主体間での情報 交換・合意形成を促す﹁リスクコミュニケーション﹂型のアプローチの両輪によって推進されていくこととなろう︒ 私の研究室では︑二〇一一年四月より︑こうした先行教材の成果や知見に学びつつ︑年間三十五授業時間が確保さ れている﹁道徳の時間﹂を活用した防災教育︵以下︑﹁防災道徳しの授業およびカリキュラム開発を学生たちと進め てきた︒そのねらいは災害時における自律的な判断力および行動力の育成︑防災市民意識の形成︑持続可能な実践の 構築にある︒本論文では︑授業の基本構想︑これまでの取り組み︑二〇一三年度に実施した﹁防災道徳﹂授業実践を 紹介し︑取り組みの成果と課題について検討するとともに︑哲学教育との接続可能性についても言及してみたい︒ 一﹁防災道徳﹂授業の開発プロジェクト
一︱一 防災教育と道徳教育の連携
現在︑中央教育審議会では﹁防災・安全﹂の教科化が検討されている︒同教科が設置されたとしても一授業時間枠 にとどまることのない教育課程全体を通じた防災教育の設計は必要となる︒本研究室では﹁防災道徳﹂授業も含めて︑
各教 科 特︑ 別活 動 総︑ 合 的な 学 習 の時 間 と い たっ 全 教育 課程 と の横 断的 体で 系的 な連 携 をと り︑
﹁防
﹂災 を ーキ ーワ ド と たし
﹁ク スロ カリ キ ラュ
﹂ム の設 計 を目 指 し てき た︒ もそ もそ 日本 の小
・中 学校 の教 育 課程 は基 本的 に
﹁各教
﹂科︑
﹁道徳
﹂︑﹁特 別活 動﹂︑ 合﹁総 的な 学 習 の時
﹂間 の四 つに 区分 され て いる 現︒ 行 の小 学 校 の学 習指 導 要領 を みる と︑ 防 災 に関 す る内 容 は
﹁第 二章 各 教科
﹂ の
﹁社会
﹂ およ び
﹁理
﹂科 等 に含 ま れ る︒ かし しな が ら︑ 教 科 の授 業 のな か 児で 童 生徒 防が 災 関に す る 一定 知の 識 学を ぶ とこ は きで て も︑ 災害 時 にお け 主る 体的
︒自 律的 判な 断力 形を 成 す るた め の授 業 を行 う こと は実 質的 に難 くし
︑ そ のこ とは
﹃最 終 癬埜 こ にお いて も指 摘 され て いる 通 り であ る︒ そ たの め昨 今 では 抜 き打 ち の避 難訓 練 や避 難所 生活 を体 験す る防 災 キ ャ ンプ な ど
﹁考 え る防 災教
﹂育 と呼 ば れ る取 り組 みが 各地 で進 めら れ て いる
︒
﹁考 え る防 災教 育﹂ と うい 観点 おに いて 重要 とな る のは 学︑ 校 児が 童生 徒 に主 体的 な判 力断 や行 動 力 習を 得 させ るた め の教 育内 容 を いか に開 発
・提 案 し︑ そ たの め の時 枠間 を ど のよ う 確に 保 す るか と いう こと にあ る︒ 村越
︵二
〇 一三 年
︶ 指が 摘 す ると おり 災︑ 害時 には 日常 的 な判 断 を超 えた 慣﹁超 習的
﹂ 判な 断 や行 動 求が めら れ る場 合 あが る︒ 児童 生徒 基が 本的 な防 災上 の知 識
︵防 災 リテ ラ シー
︶を 備 えた 上 で︑
﹁想定
﹂外 に対 てし も柔 軟 に対 応 きで 資る 質 育を 成 す る こと 学が 校 にお け る防 災教 育 必に 要 と され て いる
︒ うこ たし 背景 か ら︑ 防災 教育 のカ リ キ ラュ ム
・デ ザ イ ンを 検 討 す るな か 学で 生 たち から
﹁道 徳 の時
﹂間 に防 災教 育 を取 り 入 れ る とこ 発が 案 され
︑ これ 受を け て授 業 くづ り が スタ ー トし た︒
一一 三
二 四
︱二 防災道徳の授業構想
︱一TI¨ 道徳教育における﹁伝続主義的アプローチ﹂と﹁進歩主義的アプローチ﹂ 防災教育を道徳教育のなかに位置づけることは﹁道徳の時間﹂の在り方自体を見直す作業を伴う︒現行の学習指導 要領において道徳教育の目標は﹁道徳的な心情﹂︑﹁判断力﹂ ︑﹁実践意欲と態度﹂の三つの道徳性を養うことと記されて いる︒これまでの道徳授業においては﹁読み物資料﹂や﹁視聴覚教材﹂を活用して︑登場人物の気持ちを読み取らせ ながら︑﹁道徳的な心情﹂を育む﹁伝統主義的アプローチ﹂が主流をなしてきた︒防災教育に関連づけられた道徳教材 についても︑過去の災害における逸話や美談を﹁読み物資料﹂としてまとめて︑資料の読み取りを通して登場人物の 勇敢さや社会奉仕の精神を学ぼせようとするものが多い︒その一方で︑災害時に求められる判断力や行動力の育成に 資する道徳教材や授業案についてはほとんど見当たらないのが実情である︒﹁読み物資料﹂を用いた授業は︑日本では もっとも広く普及している授業スタイルであり︑調査によれば︑小学校では九六%︑中学校では八八・四%の教員が﹁読み物資料﹂を﹁道徳の時間﹂において﹁よく使う﹂ ︑﹁時々使う﹂資料として挙げている︵姫野ら︑二〇〇六年︶︒そ
の一方で︑﹁読み物資料﹂による授業は︑物語の登場人物の心情の読み取りを通して︑資料に内在する道徳的価値を伝 達するだけの﹁価値注入型﹂授業に陥りやすいことが指摘されてきた︵宇佐美︑ 一九八九年
スタイ加えて授業ル︶ ︒︑ が次第に固定化・硬直化し︑魅力ある教材や多様な指導法が生まれにくい状況に陥りやすい︒道徳教育研究者の水田 繁雄はその傾向を道徳教育の﹁あり地獄﹂と評している︵永田︑二〇一一年
︶ ︒ これに対して︑一部の研究者が一九八〇年代後半から﹁進歩主義的アプローチ﹂と呼ばれる﹁モラルジレンマ授業
﹂ ︑
﹁構成的グループエンカウンター﹂︑﹁アイベート﹂といった児童生徒の主体性および﹁道徳的価値の創造﹂を重視した 授業研究を開始した︒なかでも大学発の道徳教育の授業実践として注目を集めてきたのがモラルジレンマ授業である︒
モラ ルジ レン マ授 業 では 道︑ 徳 的価 値 の葛 藤 を含 んだ 資料 児が 童 生徒 示に され 討︑ 議 展が 開 され る︒ 授業 中 は多 く の 時間 が話 合し い活 動 にあ てら れ てお り︑ 締 めく くり に際 し ても 教師 が正 答 をま と め るよ う な こと はし な い
︱︱︵ オ ープ ン エン 方ド 式︶︒
教師 には 基本 的な 知識 や設 定 を説 明す 力る 量だ けで な く︑ 児童 生徒 の積 極的 な発 言 引を き出 すた め の 発間 の工 夫 求が めら るれ
︒ モラ ルジ レン マ授 業 は 一九
〇九 年 代後 半 か ら日 本 の学 校 に導 入 され て いる
︒ ただ し︑ 二〇
〇八 年 に静 岡 県浜 松市 の 全 小学 校教 員 を対 象 に行 たっ 調査 では
︑ モラ ルジ レン マ授 業 実を 践 たし とこ のあ る教 員 は四 割程 度 にと まど てつ おり
︑ 員教 間 では まだ まだ 馴染 みが 薄 く︑ 指 導法 も十 分 浸に 透 し て いな い
︵藤 井
・加 藤
︑ 二〇
〇八 年︶︒ 価値 の葛 藤 に焦 点を あ て思 考力 や判 断力 育を てる モラ ルジ レン マ授 業 は本 授業 の構 想 に適 う も ので あり
︑ 既存 の モラ ルジ レ マン 授業 の理 論 よお 実び 践 研の 究 を重 ね て︑
﹁防災 道
﹂徳 の教 材 お よび 授業 の開 発を 進 め てき た︒ 以下 では
﹁防 災道 徳
﹂ の授 業開 発 と モラ ルジ レ ン マ授 業 の理 論 と 関の 係 に つい て整 理し てお うこ
︒ 一︱
ニー ニ モラ ルジ ンレ マ授 業 の理 論 モラ ルジ レ ン マ授 業 は︑ メア カリ の心 理 学者 コー バル ーグ
︵r
﹂o● 8 ス0 こげ 9 おミ 8銘
︶ 提が 案 たし 認知 的道 徳性発達理論に基礎を置いている︒コールバーグは︑病気の妻のために薬屋に泥棒に入ることは許されるかという﹁ハ イ ンツ のジ レ マン
﹂ の事 例 用を いて 世界 各 国 で道 徳性 の発 達 段階 を検 証 たし
︒ 検 証 の結 果
︑ コー ルバ ーグ は道 徳性 には 世界 共通 し て六 段階 に区 分 され る発 達段 階 あが ると 結論 づけ る︒ 六段 階 と は
﹁前 慣習 的 段階
﹂ と され る①
﹁懲 罰志 向
﹂︑②
﹁快楽 志向
﹂ の段 階
﹁慣︑ 習 的段 階
﹂ と され る③
﹁よ い子 志
﹂向︑
④
﹁法 と秩 序志 向﹂ の段 階
﹁超︑ 慣 習的 段階
﹂と され る⑤
﹁社会 契約 志向
﹂︑
⑥ 霊日遍 的 な倫 理的 原理 志工型
の段 階 であ る︒ 二五