ドイツにおける事前指示書の法制化の内実 : 自律 と依存を両立させる試み (第三七回シンポジウム : 欧州における看取りと自己決定 : 提題一)
著者 浜渦 辰二
雑誌名 文化と哲学
巻 32
ページ 1‑17
発行年 2015‑08‑31
出版者 静岡大学哲学会
URL http://doi.org/10.14945/00009408
ド イ
ツ に お け る 事 前 指 示 書 の 法 制 化 の 内 実
︱ ︱ 自 律 と 依 存 両 を 立 さ せ る 試 み
浜
辰
は じ め に 医
療 化
︵日a
︼8 評 一¨oし と世 俗 化
︵X 8
︻ヽ中ヽ 一︼oこ の進 行 と と も に︑ 欧 州 諸 国 に お いて 看 取 り のあ り方 が変 化 し て いる
︒ そ う し 変た 化 象を 徴 す るも の の 一つ が︑ 終 末 期 医 療 を めぐ る問 題 あで り
︑ も う つ一 が
︑ スピ リ チ アユ ル
・ケ アを め ぐ 問る 題 あで る︒ 本 稿 では
︑ 前 者 焦に 点 当を て︑
ド イ ツ に お け る
﹁事 前 医 療 指 示 書
﹂︵
●一¨8 日一o oLO
●し
の 法 制 化 の動 き に
︑ そ のよ う な 一看取 り のあ り 方 の変 化 を見 る こと に し た い︒ ド イ ツ で は
〇二
〇 九 年 に
﹁事 前 医 療 指 示書
﹂ 法が 制 化 さ れ た が︑ そ の内 実 は︑ 日本 で尊 厳 死 法 を 法 制 化 し よう と す る動 き と はま
たっ く 異 な もる の あで る︒ ド イ ツ の法 制 化 内の 実 を 論 ず る前 に︑ 日 本 の法 制 化 の動 き を 簡 単 紹に 介 し︑ そ れ と の対 比 でド イ ツ の話 入に
てっ 行 く こと に す る︒
渦
二 一 日本 で の法 制 化 の動 き 近
年 に な てっ 終 末 期 医 療 の問 題 を め ぐ る議 論 再が 燃 し
︑ 尊 厳 死 に つ いて の議 論 広が ま る き かっ け に な たっ の は
︑ 二〇
〇 六年 月二
︑ 富 山 県 射の 水 市 民 病 院 で︑ が んな ど の末 期 患 者 七 人 の人 工呼 吸 器 が 外 さ れ た こと が発 表 さ れ た出 来 事 であ る︒ それ きが かっ けに な たっ 議論 で︑ 翌 二〇
〇七 年 らか 厚ヽ 生 労働 省 の
﹁終末 期医 療 の決 定 プ ロセ スに 関 す る イガ ラド イ
﹂ン
︵同年 月五
︶ から 始 ま てっ
︑ さま まざ な機 関
・学 会
・団 体 から さま ざ まな ガ イド イラ ンや 指針 な がど 発 表 さ れた 同︒ イガ ラド イ ンに は︑
﹁終 期末 医療 にお るけ 療医 行為 の開 始
・不 開始 医︑ 療 内容 の変 更︑ 療医 行為 の中 止 等 は︑ 多専 門職 種 の医 療従 事者 か 構ら 成 され る医 療
・ケ アチ ー ムに よ てっ 医︑ 学 妥的 性当 と適 切性 基を 慎に 重 に判 断 す べき であ
﹂る とあ
︐ ︑
要 す るに
︑ そ こで 示 され た よう きに ちん と たし 決定 プ ロセ スを 踏 みさ えす れば 医︑ 療行 為 の不 開始 や中 止 も選 択 肢と てし あり う る︑ と いう 姿 勢 が示 され た こと にな る︒ しか し︑ イガ
ド イラ ンは 必ず もし 法的 拘束 力 もを つも ので はな いた め︑
﹁尊厳 死法 制化
﹂と いう 動 きが 出 て来 た︒
﹁終 末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案︵仮称どの︑﹁不開始﹂を趣旨とする﹁第一案﹂と﹁中止﹂を 趣 旨 とす る
﹁第 二案
﹂合 一〇 一二 年 月六
︶ 発が 表 され た︒ 法律 案 の名 称 は
﹁終 末期 の医 療 にお け る患 者 の意 思 の尊
﹂重 とな てっ は いる が︑ 本文 は︑
﹁患者 の意 思 に基 づ く延 命 措置 の中 止 等 及び これ に係 る免 責
﹂ 趣を 旨 とす るも ので あり
︑ やは り
﹁尊厳 死 の法 制 化﹂ を目 指 すも のと 言 わざ るを えな いだ ろう
︒ そ の際
﹁患︑ 者 が延 命措 置 の中 止等 希を 望 する 旨 の意 思を 面書 そ 他の の厚 生労 働 省令 で定 め る方 法 に より 表 示 てし いる
﹂ とあ り︑ そ の書 面 と てし 何 使が わ るれ のか が 問題 とな るが は︑ た し て︑ のこ 案 を後 押 し てし いる 日本 尊厳 死協 会 の 厳﹁尊 死 の宣 彗呈 日︵リ ビ ング ウ イル と が適 切な も ので あ る のか うど か︑ 疑間 残が る︒
﹁尊厳 死 の宣 言書
︵リ ビ ング
・ウ イ ルと は︑ 二〇 一 一年 に改 訂 され たも のの 基︑ 本的 な スタ スン は変 わ てっ いな い︒ 患者 の自 己決 定権 と いう 考 えが 基 にあ るた め︑
﹁宣
﹂言 と いう 形式 をと り︑ 家族 や代 理人 など と の コミ ニュ ケー シ ョン は前 提 てし おら ず︑ 郵 送 で登 録 され る こと にな る︒ 医師 と の コミ ニュ ケー シ ンョ も前 提 され てお らず 場︑ 合 によ てっ は そ の文 面 に出 て来 る
﹁延命 措置
﹂﹁緩 和医 療
﹂﹁遷 延性 意識 障害
︵持 続的 植物 状態 ご と い たっ 医学 用語 に つい て誤 解 基に づ てい いる 可能 性 もあ り︑ 腸一嬉
﹈が健 全 な状 態
﹂で 書 いた も のと 言 われ ても それ は自 申己 告 でし かな い︒
﹁十分 緩な 和医 療 を お こな てっ くだ さ
﹂い とあ るも のの 基︑ 本的 な スタ スン は主 文 の
﹁延命 措置 おは 断 り まし
﹂す と いう と ころ に焦 点 あが た てっ おり ︑ 一つ の選 択肢 かし 示 され な いで
︑ それ に署 名 す るか どう か と いう 形 式と な てっ いる
︒ 他方 日︑ 本 弁護 士会 中を 心 にそ れに 反対 する 動 きも あ り︑ 延命 治療 の中 止 と いう 問題 は︑ ホ スピ ス
・緩 和 ケ アを 含 めた 終 末期 療医 の充 実 と︑ 患 者 良が 質 の医 療 を受 け 権る 利
︵日本 には
﹁患者 の権 利
﹂法 はな い︶ と いう 文脈 のな かに 位置 づ けら れ る べき あで り︑ この こと 抜 きに それ だ 取け り出 てし 決 める 問題 では な い︑ と主 張 てし るい
︒ ま た︑ 障害 者 団体 を中 心 に反 対 す 動る もき あり 延︑ 命 治療 と捉 えら れ がち な人 工呼 吸器 や人 工栄 養 によ てっ 存生 続を け て いる 難 病 患者 や障 者害 がか なり の数 いる が︑ 尊 厳死 が法 制 化 され れば 終︑ 末 期と いう 呼び 方 が次 第 にす べり 坂を 下 てっ 来 て︑ そ のよ う な補 助手 段 生で き て いる 人た ち の生 存 が脅 かさ れ る こと にな らな いか
︑ と主 張 てし いる
︒ 今年︵二〇一四年︶になって ︑日本医師会第Ⅷ次生命倫理懇談会答申﹁今日の医療をめぐる生命倫理︱︱特に終末 期医 療と 伝遺 子診 断
・治 療 に つい
﹂0 0 一月︶︑
よお び︑ 厚生 労働 省
・終 末期 医療 関に する 意識 調査 検討 会
﹁人生 の最 終段 階に おけ る医 療 に関 する 意識 調査 報告 書﹂ 舎 一月︶ 発が 表 され た︒ 申﹁答
﹂で は︑ 尊厳 死 の法 制化 に つい ての 賛否 両 論 紹が 介 され
﹁報︑ 告書
﹂で は︑ 前述 の厚 生労 働省 のガ イド ライ ンの 周知 と臨 床現 場 の現 状が 報告 され てい る︒ この よう 状な 況 さの なか 筆︑ 者は イド ッに 在滞 する 機会 あが り︑ そこ 得で た情 報を もと に︑ イド ツで 行わ れた 尊厳
三
四 死法 制化 の実 態 確を 認 し︑ それ を 日本 の状 況と 比較 し つつ 考 察 する こと にし た い︒ な お︑ 海 外 くと に ーヨ ロツ パの 様同 動な きと 比較 す る前 に︑ あ らか めじ 注意 を し てお く べき な のは 日︑ 本 では
﹁安 楽 死 口︵o
︐ ヽ●
︐ o︻じ
﹂と 厳﹁尊 死 8︵ヽ 多
■
¨日針 O. と を区 別 てし いる が︑ 者両 を区 別す る国 と区 別 なし い国 があ る こと あで る︒ 日本 では 医︑ 師 患が 者 の意 思 従に てっ 患 者 に致 死量 の薬 を投 与 す る こと 極︵積 的安 楽
︶死 と︑ 同様 に患 者 に致 死量 の薬 処を 方 てし それ を服 用 す るか うど か は患 者 任に せる
︵医師 によ る自 殺稲 助 壇︑ rr 場0 3 o一>F a
●∽● 鮮
︶ を とも に
﹁安楽
﹂死 と呼 び︑ 前述 の厚 生労 働 省 イ﹁ガ ラド イ
﹂ン もで 冒︑ 頭 で︑
﹁生 命 を短 縮 さ せる 意図 を も つ積 極的 安楽 死 は︑ 本 ガ イド イラ ンで は対 象 と しな
﹂い と てし 考︑ 察 対象 外 にし て いる
︒ 日本 では
︑ それ らと 別区 てし
﹁消極 的安 楽死
﹂ とも よば れ る 命﹁延 治療 の中 止﹂ を
﹁尊 厳死
﹂ と呼 ん で いる
︵オ ラ ンダ や︑ 米 国 オ ンゴ ン州 な ど では 署︑ 掃鸞的 安楽 死﹂ も
﹁尊 厳死
﹂ と呼 ぶ ので 注意 を要 す る︶︒
以下 では
︑ 日本 でも っぱ ら問 題 さと れ て るい
﹁延 命 治療 の不 開始
・中
﹂止 と し ての 厳﹁尊 死﹂ に焦 点 を当 てる
︒ ニ
ド イ ツで の法 制化 イド
ツで 二は
〇〇 九年 に︑ 豆冒 削医 療指 示室 こ が法 制化 され 同︑ 年九 月か 施ら 行さ てれ いる 審︒ 菫削 医療 指示
︱書
︱■ H みし
︱病 い︱ 死ぬ こと 私 が決 定能 力を 失 たっ 時︑ んど な医 療が 行わ るれ かを 私︑ はど のよ うに 指示 する のハ
﹄と い う︑ イド ツ法 省務 から 発行 され てい る冊 子は ウ ェプ イサ トか らダ ウ ロン ード する こと がで きる 簡︒ 易版 の書 式は 市︑ 役所 の世 話局 o一︵ω
●●︻8 鶴序
︐ F 計︶ など で︑ 畳 削代 理委 任書
﹂﹁世 話人 指示
﹂書
﹁事前 医療 指示 書﹂ 三が 点セ トッ で ホル ーダ 入に てっ 配布 され てい ぅ︒
︹以下 日︑ 本 の事 情と 対比 させ るの に分 かり やす よい う︑ 話﹁世 o■︵﹈
8c●し
﹂は
すべて﹁︵成年︶後見﹂と訳し︑﹁世話局﹂は﹁成年後見局
﹂る﹂ ︑話人﹂は﹁後見人と訳すことにす﹁世︒︺
この﹁事前医療指示書﹂では︑﹁尊厳死︵延命治療の不開始ないし中止とだけを意思表示するのではなく︑延命治 療をするかしないかも含めて︑意思決定能力を失った時にどんな医療を希望するかをあらかじめ記述式で意思表示で きるようになっている︒前記冊子﹁事前医療指示書﹄は︑①事前医療指示書︵とは何か︑という解説
療指︶ ︑②事前医 示書の構成要素︑③︵二つの︶サンプルという二部から成っており︑ 一つのサンプル︵Loりo︼o一8﹈
o一嗜
︶は︑脳の 損傷によって判断能力・決定能力が不可逆的に失われたり︑自分で自然な仕方で水分・栄養を摂取できなくなったら︑ あらゆる生命維持の措置を中止して欲しい︑というもの︒もう一つのサンプル︵輿ωo一嗜いoしは︑自分の生命を維 持し︑音痛を和らげるために可能なすべての医療措置を望み︑生命が長らえるなら︑人工呼吸も人工的な水分・栄養 補給も望む︑というもの︒つまり︑両極端のサンプルを示し︑その間にさまざまな中間段階があることを示唆して︑ 一方向に誘導しないように配慮している︒ ただし︑構成要素として︑部分的には互いに排除しあうような可能性︵﹁または﹂によつて示された︶を含んでい る︒しかし︑構成要素として挙げられた医療措置に従うことは︑殺人を求めることや︑自殺を助けることを含んでは いない︑とされている︒その点で︑この﹁事前医療指示﹂は︑積極的安楽死や医師による自殺討助を初めから排除し ている︒あくまでも︑あ^o﹂oげ口中一おし︵死の援助︶ではなく︑R3o3︼おむ︵生の援助︶だ︑とも言われる︒﹁事前医療指示室この構成要素としては︑①冒頭の言葉︑②事前医療指示書が有効となるべき状況例︑③特定の医療処置の開始︑その範囲︑その終了の決定
︵そ のなかには︑①延命のための医療措置 ︑②苦痛と症状に対する処置︑③人工栄養補給︑④人工水分補給︑⑤蘇生処置︑⑥人工呼吸︑⑦人工透析︑③抗生物質︑⑨血液について ︑が含まれる︶︑
④医療処置をする場所と立会人︑⑤事前医療指示書の拘束力︑解釈のされ方︑実施のされ方および撤回についての言
五