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博 士 ( 理 学 ) 岩 井 俊 治

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 岩 井 俊 治

    

学 位 論文 題名

Molecular and Cellular Biological Analyses of the     Chromosomal Behavior in Meiosis

Using Medaka Fish as an ExperlmentalMOdel

(メダカを用いた減数分裂における染色体動態の分子細胞生物学的解析)

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  減数分裂は、有性生殖を行う生物にとって自らの遺伝情報を子孫に伝えるこ とで、生命の連続性を維持するために必須の機構であるぱかりか、次世代に多 様性をもたらすためにも重要な仕組みである。減数分裂は一回のDNA複製と二 回の細胞分裂からなり、体細胞分裂とは大きく異なった機構や分子によって制 御されているro特に、第一減数分裂前期における相同染色体の対合は、組み換 えや中期における紡錘体赤道面への正確な染色体の配置などに関わる重要な機 構である。相同染色体の対合には減数分裂に特異的な多くの分子が関わってい ることが知られており、近年その研究は飛躍的に進んでいる。酵母や哺乳類な どのモデル生物を用いた研究により、減数分裂時の染色体動態の制御機構に生 物種間で大きな違いがあることが示された。脊椎動物における研究は哺乳類に 限られており、下等脊椎動物では全くなされていない。従って、減数分裂時の 染色体動態の制御機構において、酵母から哺乳類までの全ての真核生物で共通 の部分と、それぞれの種において異なる部分を明確にするためには、より多く の生物種で研究を進めなくてはならない。

  そこで、申請者は、下等脊椎動物のモデル生物として、近年、遺伝学的、発 生生物学的な情報が集積しつっあるメダカを用いて、減数分裂時の染色体動態 の制御機構の分子細胞生物学的解析を行った。

第1章

  コヒーシンは、酵母から哺乳類まで良く保存された姉妹染色体の結合に関わ るタンパク質複合体である。減数分裂における染色体動態は体細胞分裂と大き く異なり、減数分裂に特異的なコヒーシンタンパク質がその制御を担っている。

実際、酵母では減数分裂特異的コヒーシンタンパク質としてRec8が、哺乳類で はこれに加えてSMcipとSI、AG3が減数分裂時の特徴的な染色体動態を制御し ている。しかし、脊椎動物では哺乳類以外の報告がなく、その機構が脊椎動物 で共通なのかどうかは不明である。そこで、申請者は、下等脊椎動物のメダカ を用いて、コヒーシンタンバク質の減数分裂時における動態を観察した。まず、

コ ヒ ー シ ン サ プ ュ ニ ッ ト のSMClQSMClpSMC3Rad21CDNAを 単離 し、その特異的抗体を作製し、局在を観察した。SMClDはこれまで哺乳類での

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み存在が確認されていたが、今回の研究から哺乳類だけではなく脊椎動物に一 般的に存在することが示された。さらに精巣での発現を観察した結果、SMClt3 は哺乳類では減数分裂特異的であるが、メダカでは生殖細胞特異的であること が明らかになった。また、メダカのSMClpは第一減数分裂中期において染色体 全体に局在し、セントロメア部分にのみ局在する哺乳類のSMClf3とは大きく異 な ること、体 細胞分裂型 コヒーシン サプュニッ トであるSMClaとRad21は哺 乳類では減数分裂にも関与することが示唆されているが、ヌダカでは減数分裂 時には発現しておらず、減数分裂には関与しないことなどを明らかにした。申 請者が明らかにしたコヒーシンサプュニットの挙動が脊椎動物内でも種により 異なるという事実は、減数分裂に特異的な染色体分配を制御する仕組みが、全 生物に共通の部分のみで成り立っているのではなく、種特異的な部分も多く存 在することを示す。

第2章

  減数分裂時には、体細胞分裂時には観察されない特異的な構造が存在する。

それは、パキテン期に完成し、組み換えや相同染色体の対合に関わる梯子状の 構造のシナプトネマ複合体である。シナプトネマ複合体は、全生物の減数分裂 時に観察される構造であるが、その構成夕ンパク質は種によって大きく異なり、

アミノ酸レベルでの相同性はほとんどない。メダカを含む魚類でもシナプトネ マ複合体は形態学的に観察されているが、その構成夕ンパク質に関する報告は ない。そこで、申請者は、シナプトネマ複合体の構成要素であるSCP1とSCP3 のメダカホモログをクローニングし、特異的抗体を作製し、それらの局在を観 察した。発現時期は哺乳類での報告と同様であったが、前述のSMClf3の染色体 上での局在と同様、メダカSCP3の局在は哺乳類と異なっていたふこれらの結果 からも、減数分裂時の染色体動態の制御機構は種によって大きく異なることが 示唆された。

第3章

  メダカには近縁種が多数存在し、様々な組み合わせの雑種が報告されている。

ニホンメダカとハイナンヌダカの雑種では、雌雄ともに減数分裂時に相同染色 体の対合に異常をきたし、減数分裂が停止する。申請者は、この異常にコヒー シンとシナプトネマ複合体が関与する可能性を、本雑種におけるこれらタンパ ク質の発現と局在を調べることで検証した。その結果、雑種ではシナプトネマ 複合体の中心要素の構成要素であるSCP1の発現量が低下し、不完全なシナプト ネマ複合体を形成することが分かった。雑種での配偶子形成異常は多くの生物 で観察される現象であるが、その原因分子を明らかにした例はほとんどなく、

少 な く と も 脊 椎 動 物 で は 本 研 究 が 初 め て の 成 果 と 考 え ら れ る 。   以上、本研究はこれまで減数分裂時の染色体動態の研究に使用されることの なかったメダカを材料に、減数分裂の制御機構の共通性と種特異性を明らかに することを目的としたもので、独創性に富んだ研究である。本研究成果は、有 性生殖を行う生物にとって重要な減数分裂の分子細胞レベルでの制御機構の理 解に資するのみならず、この機構の進化を考察する上でも重要な基盤となるも のである。

(3)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査

  

教 授

  

山 下 正 兼 副 査

  

教 授

  

高 橋 孝 行 副 査

  

助 教授

  

若 原正 己 副 査

  

助 教授

  

木 村   敦

    

学位論文題名

Molecular and Cellular Biological Anal.yses of the     Chromosomal Behavior in Meiosis

Using Medaka Fish as an ExperlmentalMOdel

( メ ダ カ を 用 い た 減 数 分 裂 に お け る 染 色 体 動 態 の 分 子 細 胞 生 物 学 的 解 析 )

  有性 生殖 を行 う生物にとって、減数分裂は自らの遺伝 情報を子孫に伝えることで、生命の連続性 を 維持 する ため に必須の機構であるばかりか、次世代に 多様性をもたらす重要な仕組みでもある。

減 数分 裂は 体細 胞分裂とは異なる機構で制御されており 、関与する分子も大きく異なる。さらに、

酵 母や 哺乳 類な どのモデル生物を用いた研究から、減数 分裂時の染色体動態の制御機構には種によ り 異な る部 分が あることが示されている。これまで、脊 椎動物における研究は哺乳類に限定され、

下 等脊 椎動 物で はなされていない。減数分裂時の染色体 動態の制御機構において、酵母から哺乳類 ま での 全て の真 核生物で共通な部分と種特異的な部分を 明確にするためには、より多くの生物種で の 研究 が必 要で ある 。そ こで 本研 究は 、 下等 脊椎 動物 のモ デル 動物 であるニホンヌダカ〇ryzぬs ぬ ロpesを 用 い て 、 減 数 分 裂 に お け る 染 色 体 動 態 の 制 御 機 構 の 解 明 を 目 的 に 行 わ れ た 。   学位 論文 は3章 から なる 。第1章 では 、 分裂 期に おい て姉 妹染 色分 体を結合するコヒーシンタン パ ク質 複合 体の 各サブュニットをヌダカでクローニング し、それらの抗体を作製して精巣における 局 在を 観察 した 。その結果、哺乳類との相違点と共通点 を明らかにすることができた。特に、第一 減 数分 裂中 期に おけ る染 色体 上で の減 数 分裂 特異 的コ ヒー シン サブ ュニ ット であ るSMClpの 局在 の 相違 は、 哺乳 類とメダカで減数分裂における染色体の 分離・分配機構に違いがあることを示す重 要な発見である。

  第2章で は 、減 数分 裂特 異的 なタ ンパ ク質複合体で相 同染色体の対合に直接関わるシナプトネマ 複 合体 の構 成夕 ンバク質の局在を観察した。シナプトネ マ複合体は有性生殖を行う生物に共通に観 察される構造であるが、その構成夕ンパク質には・アミノ酸レベルで相同性が見られない。そのため、

シ ナプ トネ マ複 合体を構成する複数のタンバク質の個々 の役割は、種によって異なることが示唆さ れ てい る。 しか し、脊椎動物では哺乳類以外にはシナプ トネマ複合体の構成夕ンバク質に関する情 報 は乏 しく 、ヌ ダカを含む魚類における報告は、これま で皆無であった。そこで本研究では、ヌダ カ シナ プト ネマ 複合 体の 構成 夕ン パク 質 (SCP1SCP3)を 認識 する 抗体を作製し、それらの局在 を 詳し く観 察し た。 その 結果 、メ ダカ で の発 現時 期は 哺乳 類で のそ れと同様であったが、SCP3 染 色体 上に おけ る局 在に 違い が見 られ た 。第1章で得ら れた結果と合わせると、減数分裂時の染色 体 動 態 の 制 御 機 構 は 、 ヌ ダ カ と 哺 乳 類 で 大 き く 異 な る こ と が 示 唆 さ れ た 。   第3章では、二ホンヌダカの近縁種であるハイ ナンメダカ〇,c!znなn〇fusとニホンメダカとをか

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け合わせた雑種を用いた解析を行った。形態学的観察から、本雑種では雌雄ともに相同染色体の対 合不全が起こり、減数分裂が異常になることが知られている。この異常にコヒーシンとシナプトネ マ複合体が関わる可能性を検討するため、これら構成夕ンバク質の発現と局在を調べた。その結果、

雑種ではSCP1の発現量が低下し、その局在が異常であることが分かった。これは、一般的に知ら れる雑種での減数分裂異常に関して、分子レベルでの原因を明らかにした初めての成果である。

  以上をまとめると、著者は、従来ほとんど研究が行われてこなかった下等脊椎動物であるメダカ を用いて、減数分裂における染色体動態制御の分子細胞生物学的な解析を行った。その結果、いく っかの重要なタンパク質の動態解析に成功し、減数分裂時の染色体動態制御において普遍的な部分 と種により異なる部分を明らかにすることができた。以上の成果は、有性生殖の基盤である減数分 裂 時 の 染 色 体 動 態 制 御 機 構 の 理 解 に 貢 献 す る と こ ろ 大 な る も の が あ る 。   よ っ て 著者 は 、北 海 道 大学 博 士 (理 学 )の 学位を 授与され る資格あ るものと認 める。

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