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博 士 ( 法 学 ) 下 井 康 史

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Academic year: 2021

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博 士 ( 法 学 ) 下 井 康 史

学 位 論 文 題 名

フ ラ ン ス 公 務 員 法 に お け る 不 利 益 処 分 手 続

一人事記録閲覧手続の形成と発展一

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  本 論文はフラ ンス公務員法にお ける人事記録閲覧(la  communicat ion du dossier) 制 度 の 法 理 を 解 明 し よ う と す る も の で あ る 。   第1章  人 事 記 録 閲 覧 制 度 の 起 源 ; 同 制 度 の 樹 立は 、政 治 的・ 宗 教 的 意 見 を 理 由と する 武 官の 処遇 差 別が 暴露 さ れた こと を 契機 とし て 、 適 正 な 人 事 行 政 確 保 の た め に 制 定 さ れ た1905年4月22日 の法 律第65条で ある。以下のよう に定める。  「あらゆる 文武官吏、

あ ら ゆ る 官 庁 のあ らゆ る 雇員 及ぴ 労 務者 は、 懲 戒処 分も し くは 職権 転 任 の 対 象 と され る前 に 、あ るい は 、勤 続年 数 によ る昇 進 を延 伸さ れ る 前 に 、 勤 務評 定書 や 個人 の特 徴 を示 すカ ー ド及 び人 事 記録 を構 成す る全て の文書の秘密かつ 個人的な閲覧を求め る権利を有する。 」 こ れ は 公 務 員 全般 に共 通 して 適用 さ れる 初め て の身 分保 障 制度 であ り 、 か つ 、 行 政の 透明 性 を確 保す る 先駆 的制 度 とし て著 名 であ る。

し か し 、 そ の 制定 は性 急 であ った た めに 文言 は 暖味 で、 そ の具 体的 運 用 は 判 例 の 展開 に委 ね られ た。 判 例は この 制 度を 裁判 手 続に 範を 得た 告知弁 明手続として活用 する。 っまり、公 務員が人事記録を 閲 覧 す る こ と に より 処分 理 由を 知っ て 防御 手段 を 表明 でき る よう にな る こ と が 制 度 趣 旨 と 解 さ れ た 。 判 例 は65条 を 重 視 す る 。 そ の 瑕 疵 は 処 分 の 結 果 に影 響を 与 えな くて も それ だけ で 取消 事由 と なり 、立 法 が 明 示 的 に 排除 しな い 限り 必ず 適 用さ れる 公 務員 法の 一 般原 則と

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される。以下、65条の適用範囲と手続内容にっき判例を検討する。

  第2章  1905年 法 第 65条 が 適 用 さ れ る 人 の 範 囲 ;65条 が 列挙する概念は当時必ずしも明確ではなかった。判例は文言上可能 な限り広範に解し、正規の官吏のみならず、臨時であれ非常勤であ れ公法上の職員(公務員(agent public))であればすぺて適用する。

また、 公務員 の概念自 体も拡張されるが、その利点として65条の 適用が挙げられている。

  第3章  1905年 法 第65条 が 適 用 さ れ る 処 分 の 範 囲 ; こ の 点 の考察を通じて公務員不利益処分に事前の告知弁明手続が必要とさ れる理論的根拠が模索される。

  今世 紀前半 の判例は65条が列挙する処分に適用を限定するが、

その他の処分でも実質が懲戒であれば(偽装懲戒処分(sanciton di sciplinaire deguisee)適用を認める。偽装の成立要件は当該処分 の処罰性と重大性である。転任については、些細なもの(内部的措 置(mesured ordre interieur))を除き、懲戒処分ではない役務の 利益(interet du service)を理由とするものにも及ぷ。内部的措置 との区別は処罰性と重大性の有無で、懲戒とまではいえないがそれ に準じ た異動 が65条の 適用される転任とされた。しかし、職務能 カを理由とする解雇(licenciement)のようを同じく準懲戒的な処分 でしかも転任よりも重大な処分は、  65条に列挙されていないため に適用外であり、この点で当時の判例法理には重大な間隙があった。

  1940年 代 以 降 の 判 例 は 公 務 員 法 以 外 の 領 域 に も65条 の趣 旨 を生かし、重大な制裁的行政処分一般にっき、たとえ明文の根拠が なくても告知・処分理由開示(記録閲覧までは認められない).弁 明の各手続を経ることを義務付けた。その根拠は、行政懲戒権の発 現である重大な制裁処分は本来裁判所が保有する処罰権の行使であ るから、少訟くとも裁判手続の最低限である告知弁明手続を経なけ

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ればをらないというものである。   このフランス版適正手続というべ き防御権の法理は、憲法が保障する諸自由を守るために憲法が要請 する法の一般原員U とされ、立法が明文で排除しない限りあらゆる行 政 法上の 局面で効カを有する。 65 条は公務員法という限られた領 域に特殊な手続を定めたものではなく、法の一般原員Ij を特に立法者 が この分 野について言明したものと位置付けられることになる。

   その後 の判例は、先にみた判例の間隙を埋めるため、65 条の適 用をその文言を超えて「人的事情を考慮した処分(mesure prise en consideration de la personne )」ー一相手方に固有の事情を考慮 した処分ーー一般に適用を拡張し、防御権の法理もこれに平仄をあ わせる。その結果、わが国の分限免職に当たる解雇や職権退職等に 65 条が及 ぷことになった。しかし、あらゆる不利益処分に及ぷこ とになったわけではない。自動失職のような覊束行為のほか既存の 法的地位を侵害しないもの(任官拒否、更新拒否等)や、警察処分 といわれる非処罰的で予防的な処分には適用が否定されており、結 局、   「人的事情を考慮した処分」の成立要件も処罰性と重大性に求 められる。それゆえ、   「人的事情を考慮した処分」に告知弁明手続 が必要されるのは、その準懲戒性ひいては準裁判性ゆえにこそなの で あり、 判例は一見柔軟な解釈を示しているが 65 条の文言を大き く 逸脱す ることはできなかったのである。学説には、警察処分と

「人的事情を考慮した処分」との区別は微妙であることなどから、

重 大 な 処 分 を 全 て 射 程 に 含 め る ぺ き と す る 傾 向 が 強 い 。    第 4 章    閲覧手続の内容: 65 条は手続の具体的運用方法にっき 何ら言及しておらず、この点はもっぱら判例の展開に委ねら゛れた。

まず、手続の開始は当局側の職権によるのではなく相手方の請求に

よるとされ、その代わり当局には処分予定を告知して相手方を閲覧

請求可能な状態におく義務が課された。但し、明示独立の告知行為

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までは不要で、何.らかの形で当局の意図が伝わり、相手方がそれを 知らないはずがなければ瑕疵をしとされる。相手方から人事記録閲 覧の請求があれば、原則としてあらゆる文書が閲覧されなければな らない。非開示文書記載の事実に依拠した処分は違法となる。もっ とも、.処分に何ら影響のないものや閲覧された文書の内容と大差を いものの欠如は違法原因とはならない。公務員は閲覧の後に書面で 自己の意見を表明でき、そために最低2日の準備期間が必要とされ る。このような告知弁明手続は簡便なものであるが、当局と公務員 の対話を実現し、事実誤認や 恣意的人事を防ぐものと言われる。

  まと めにかえて;判例は65条の適用範囲拡張においてそのりべ ラリスムを発揮し、手続内容を簡便にしたことにおいて行政の能率 性に配慮したといわれる。簡便な手続であったからこそその射程を 拡張できたのであり、っまり、行政の能率性を損なわない最低限必 要な保障として人事記録閲覧手続法理が形成されたといえる。他方、

わが国の公務員法と判例は事前手続を軽視しており・、行政手続法も 公務員関係を適用除外とする。しかし、実体法重視の国フランスで さえも、告知弁明手続が公務員の身分保障に最低限必 要な制度とさ れており、このようなシステ ムはわが国の制度に再考を迫ろう。

  また、防御権の法理の澗源は憲法に求められている。しかし、そ の射程は拡張されてきたとはいっても、行政と一定の法律関係にあ る人々に対してその関係を損なう処罰的な処分に限定されている。

このことは、その起源が公務員の懲戒制度にあり、  しかも判例によ って発展してきたこと故の限界であろう。  この点にフランス行政手 続法の特徴を指摘できる。しかし、学説からの批判は強い。わが国 でも憲法上いかなる行政処分にいかなる手続が必要であるかが論じ られているが、フランス行政手続法の現状とそれに対する批判は参 考になろう。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

古城 中村 保原 村上

学 位 論 文 題 名

   睦男 喜志夫 裕章

フラ ンス公務員法における不利益処分手続

一 人 事 記 録 閲 覧 手 続 の 形 成 と 発 展 ―

  本 論 文 は 、 「 フ ラ ン ス 公 務 員 法 に お け る 不 利 益 処 分 手 続 」 と 題 す る 論 文 で あ り 、A 4版 ワ ー プ 口 印 刷 で298頁 に お よ ぷ 。 具 体 的 内 容 は 、 フ ラ ン ス の 人 事 記 録 閲 覧 手 続 の 成 立 過 程 と そ の 後 の . コ ン セ イ ユ ・ デ タ の 判 例 に よ る 拡 張 を 取 り 扱 っ て い る 。   人 事 記 録 閲 覧 手 続 と は 、 公 務 員 が 不 利 益 処 分 を 受 け る 場 合 に 、 白 身 の 人 事 記 録 を 閲 覧 し 、 処 分 の 真 の 理 由 を 知 る こ と を 可 能 に す る 手 続 の こ と で あ り 、 こ れ に よ り 後 の 聴 聞 で 処 分 を 攻 撃 し 自 己 の 利 益 を 防 御 す る こ と が 可 能 に な る 。 処 分 理 由 の 告 知 に近 い が 、 直 接 の 処 分 理 由 の ほ か 、 そ の 資 料 と な る 人 事 記 録 の 閲 覧 を 可 能 に す る 点 で 、 被 処 分 者 で あ る 公 務 員 に 開 示 さ れ る 情 報 の 質 量 が よ く 、 手 続 上 の 保 護 は 厚 い 。   本 論 文 は 、4章 か ら 構 成 さ れ る が 、 ま ず 、 「 は じ め に 」 に お い て 論 文 の 意 義 を 明 ら か に す る 。 論 文 の 意 義 は 、 一 っ は 、 フ ラ ン ス に お け る 行 政 手 続 の 中 心 で あ る 防 御 権 の 法 理 の 研 究 と し て で あ り 、 も う ー っ は 、 公 務 員 法 の 不 利 益 処 分 手 続 の 比 較 法 的 研 究 に フ ラ ン ス の 研 究 を 付 け 加 え る こ と だ と す る 。

  次 ぎ に 、 具 体 的 検 討 に 先 立 っ て 、 フ ラ ン ス の 公 務 員 制 度 と 処 分 の 仕 組 み を 説 明 し た 後 ( 序 章 ) 、 人 事 記 録 閲 覧 手 続 の 起 源 を 検 討 す る ( 第2章 ) 。 フ ラ ン ス で は 、 公 務 員 の 政 治 的 信 条 を 理 由 と す る 不 利 益 処 分 は 許 さ れ な い 。 と こ ろ が20世 紀 は じ め に 、 政 治 的 信 条 を 理 由 と す る 不 利 益 処 分 が 、 本 当 の 理 由 を 隠 し て 行 わ れ る 事 件 が 発 生 し た た め 、 こ れ を 防 止 す る 目 的 で 、1905年 法 で こ の 制 度 は 設 け ら れ た 。 論 文 は 、 制 度 の 制 定 過 程 で 、 人 事 記 録 の 一 般 的 開 示 制 度 を 設 け る こ と を 内 容 と す る ラ デ ィ カ ル な 改 革 案 が

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退けられ、より穏当な、処分に対する反論権保障を目的とする仕組みが採用されたこ とを明らかにする。

  第3章、第4章では、それぞれ、人事記録閲覧手続が保障される公務員の範囲、処 分の範囲を検討する。人事記録の閲覧を許すことは、不利益処分に際し公務員を手続 上保護する点では効果が大きいが、他方、処分権者には負担である。そこでどの範囲 の公務員に対し、どのような処分について人事記録の閲覧を認めるのかが大きな問題 であり、処分の迅速性や簡便性を重視すると、人事記録閲覧を認める場合は限定され る可能性もあった。しかしコンセイユ・デタの判例は、1905年法を拡張的に解釈し、

人事記録閲覧を広く認める態度をとった。本論文は、この点に関する判例と学説を詳 細に検討し、その過程を明らかにしている。まず人事記録閲覧を認める者は、官吏身 分を有する者だけでなく、それ以外の公務員一般も含むこととされ、また、人事記録 閲覧を要求できる処分は、懲戒処分のほか、事実上の不利益を及ぼす処分にまで拡張 された。

  第6章では、処分に際して閲覧が許される人事記録の内容と閲覧の方法を検討する。

処分の相手方である公務員の側に立てば、十分な人事記録が厳格な形で閲覧できるの が、反論を保障するためには望ましい。しかレ処分権者からは、定形的な人事記録を 閲覧用に用意するのは負担である。本論文は、閲覧手続の解釈とレては、相手方公務 員に実質的に反論権を保障することを目的とする手続として、この制度が運用されて いることを明らかにする。

  以上が、論文の要旨である。本論文の意義は、第1に、フランス行政手続の中心を なす防御権の法理のなかで重要な位置を占める人事記録閲覧手続を、判例・学説を詳 細に検討し明らかにしたことである。相手方に不利益をもたらす行政処分において、

相手方に反論を保障する手続をとることを要求する仕組みは、フランスでは防御権の 法理として1945年に確立している。しかし広く行政手続の保障を認める英米と比べ、

保障の範囲は狭く、また保障を認める理由も異なったものである。これまでの研究で は、防御権の法理の概略および性格の特殊性は明らかにされていたものの、その内容 や沿革は深く検討されていたとはいえない。

  本論文は、もともと防御権の法理成立の基盤となった公務員に対する不利益処分手 続を検討対象とし、その成立と運用を詳細に研究レた。防御権の法理の具体像と性格 を理解するうえで、貴重な貢献であると評価できる。

  第2に、フランスの公務員制度の研究としても、不利益処分の手続保障を網羅的に

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明らかにしたことの意義は小さくない。フランスでは、公務員は、官吏の身分をもつ もの、もたないが公務員であるもの、契約上の職員にすぎないものに分かれ、異なっ た取り扱いがなされている。身分上の区別がどのような意味をもち、それがどのよう な効果をもつのか1ま、比較法の研究上重要である。本論文は、人事記録閲覧手続を包 括的に検討し、この点では、結局、官吏と官吏以外の公務員との間に基本的区別がな い こ と を 明 ら か に し 、 フ ラ ン ス 公 務 員 制 度 の 理 解 に 貢 献 し た 。   調査および研究技術の点では、本論文は、検討対象について、判例・学説を徹底し て調査しており、調査資料の正確な取り扱いがなされている。研究対象に対する調査 は十分であり、網羅的で詳細な研究としても評価できる。

  なお、この論文は、フランスの行政手続の基礎にある理念を掘り下げて明らかにレ ていないこと、および人事記録閲覧手続の運用の実態と影響を十分に示しえていない ことに関し、物足ルナょさが残る。フランス行政法の研究において、判例・学説の背後 にある理念や実態を明らかにすることは困難なことは認める。しかし、この点では、

もう少し突っ込んだ検討がほしかった。

  以上、本論文は、網羅的な判例・学説の調査にもとづき、フランス公務員不利益処 分の手続保障の沿革・内容を詳細に明らかにしたこと、さらにはフランス行政手続の 個別研究をしたことにおいて意義が大きい。博士号を授与するに十分な水準の論文と して評価できる。

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