論文内容要旨
論文題名 Effects of a quaternary lidocaine derivative,QX-314,
on the respiratory activity in brainstem-spinal cord preparation from newborn rats(新生ラット脳幹-脊髄標本 における呼吸活動に及ぼす QX-314 の影響)
掲載雑誌名 Neuroscience Letters(619 巻、121–125 頁、2016 年)
生理系生理学(生体調節機能学分野)髙橋健一
QX-314 は局所麻酔薬のリドカイン誘導体である.細胞内に直接投与され た際にはナトリウムチャネルをブロックする.しかし本剤は陽帯電のため 単独では細胞膜を通過しない.侵害受容体に発現する TRPV1 が活性化され ると,TRPV1 を通して細胞内に取り込まれ,麻酔効果を発揮するとされる.
このため運動機能への影響なく,侵害を受けた神経細胞の選択的遮断が可 能であるとして,その臨床応用が期待されている.一方で本剤の中枢神経 や心臓への毒性についてはリドカインより強いとの報告がある.また血管 内投与された本剤はリドカインよりも麻酔効果発現が遅延し,作用が遷延 するとの報告がある.QX-314 が呼吸中枢におよぼす影響についての報告 はない.本研究では,新生ラットの脳幹-脊髄標本を用い,同剤の呼吸活 動に及ぼす影響について検討した.細胞外へ QX-314(10,20,50,100,
200 μM)単独投与群と,QX-314 100 μM と TRPV1 作動薬であるカプサイ シン(10,100 μM)との同時投与群で,C4 吸息性活動を比較した.解析は 投与前,投与 15 分後,wash out 20 分後,wash out 40 分後で行った.100 μM 以下単独投与群では効果発現を認めなかった.200 μM 単独投与群で は wash out 20 分後から効果発現を認め,burst rate, amplitude, slope は投与前と比較して有意に減少した.その half decay time は約 20 分で あり,wash out 後も徐々に効果が進行した.特に吸息性活動のオンセッ ト時の slope の減少は特徴的であり,リドカイン単独投与した場合には認 めない変化である.カプサイシンと同時投与した群では予想された効果の 増強を認めなかった.次にホールセルパッチクランプ法による細胞内電位
記録を延髄呼吸性ニューロンについて行い,QX-314 (100 μM)を細胞内投 与した.記録開始直後から活動電位の amplitude の減少が起こり,活動電 位抑制の half decay time は約 5 分であった.今回の研究により,QX-314 の呼吸中枢に及ぼす影響について,次のことが示唆される.1)細胞外に 投与された QX-314 には呼吸活動に対し TRPV1 を介さずに作用する機構が 存在する.いずれかのイオンチャネルを介して活動依存性に QX-314 が細 胞内に流入する事が考えられる.2)効果発現までの時間が遷延し,wash out 後も効果が進行したことから,ナトリウムチャネルに作用するまでの 経路が,リドカインとは異なる可能性がある.また C4 バーストパターン の変化から,本剤が呼吸中枢に対しリドカインより限局した部分に作用し,
リドカインとは異なる作用を有する可能性がある.QX-314 の臨床応用に むけ,中枢毒性の作用機構について今後さらなる検討が必要である.