論文内容要旨
The Analgesic and Anti-Stress Effects of a Kampo Medicine (Yokukansan) in Rats with Chronic Constriction Injury − A Comparative Study with Kamishoyosan −
Journal of Integrative Medicine & Therapy 2(1):5. 2015
生理系生理学生体制御学分野 須賀大樹
神経障害性疼痛は自発痛,アロディニア,痛覚過敏などの症状を呈する 疾患である.痛みにはストレスが伴い,不安やうつなどの精神症状を呈す ることもあり,精神面のケアも必要である.治療の中心は薬物療法で,三 環系抗うつ薬,カルシウムチャネルα2δリガンド,抗不整脈薬,セロトニ ンノルアドレナリン再取り込み阻害薬,麻薬性鎮痛薬などが使用されてい るが効果が不十分な症例も多く,副作用により使用出来ないケースもある.
本研究は,神経障害性疼痛に対する漢方薬の有効性を検討することを目的 とした.抑肝散は,神経症・不眠症・小児疳症などに適応されているが,
近年,疼痛性疾患に対する有効例も多く報告されている.この類似処方で ある加味逍遥散は,精神不安・不眠・イライラなどの精神神経症状に対し て用いられている.ラット絞扼性神経損傷(chronic constriction injury;
以下CCI)モデルを作製し,疼痛ならびにそれに起因するストレスに対す
る効果を,抑肝散と加味逍遥散とで比較検討した.
動物は 8週齢の Wistar系雄性ラットを使用した.動物を無作為に,コ
ントロール群,CCI 群,CCI に抑肝散を投与した群,CCI に加味逍遥散 を投与した群の 4 群に分けた.CCI 手術から 2 週目,機械的刺激ならび 熱刺激に対する逃避閾値が低下していることを確認し,漢方薬の投与を開 始した.引き続き3,4週目に閾値の測定を行い,また4週目には,抗ス トレス作用の評価に,ストレスマーカーとして使用されている血漿コルチ コステロンならびクロモグラニン A濃度を EIA 法にて測定した.さらに 腰部脊髄(L4)を摘出し,脊髄アストロサイトの変化を組織学的に観察 した.
実験4週目,CCIにより疼痛閾値は有意に低下し,アストロサイトの数 の増加、肥大化が認められたが,これらの変化は抑肝散投与によって抑制 された.また,CCI群において血漿コルチコステロンならびクロモグラニ ン A 濃度は有意に上昇したが,加味逍遥散,抑肝散ともにこれらの上昇 を有意に抑制した.
両方剤とも構成生薬として,柴胡・当帰・甘草・蒼朮・茯苓を含むが,
抑肝散にはこの他に釣藤鈎と川芎が含まれている.釣藤鈎にはセロトニン 1A受容体刺激作用ならびセロトニン2A受容体遮断作用による鎮痛作用,
川芎には神経アポトーシスや P2X3 受容体活性化の抑制による痛覚過敏 抑制作用が報告されている.このことから抑肝散の鎮痛効果には主に釣藤 鈎ならび川芎が関与していると考えられた.また慢性痛の発現にアストロ サイトが関与することが知られている.本研究では,CCIによるアストロ サイトの活性化が,抑肝散の投与によって抑制されたことから,アストロ サイトの活性化抑制も抑肝散の作用機序の1つであると著者らは考えた.
抑肝散には鎮痛効果ならびに疼痛に伴うストレスを抑制する作用があ り,神経障害性疼痛に対する有用性が示唆された.