書く力を伸ばす中学校国語科の授業づくり
~ 読み書き関連学習を中心として ~
高度学校教育実践専攻 実習責任教員 西 村 公 孝
教職実践力高度化コース 実習指導教員 池 田 誠 喜
遠 藤 明 子
キーワード:視写と写生,読み書き関連の単元学習,ユニバーサルデザインの視点
1.研究課題の設定と研究構想
21世紀は、新しい知識・情報・技術が政治・
経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活 動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆ る「知識基盤社会」の時代である。その中で、
我が国の児童生徒の課題として、思考力・判断 力・表現力などを問う読解力や知識・技能を活 用する力の不足が挙げられる。
そして国語科は、知識理解を支えるために欠 かせない存在である。また、伝えあう力を高め るとともに、思考力や想像力を養い言語感覚を 豊かにすることは、学習指導要領(2012年)でも 中心的な目標となっている。
しかし、実際には国語科の基礎・基本の力が 全体に備わっているとは言い難く、特に書く力 が不足している。
実習校でも、全国学力学習状況調査の国語科 の結果を見ると、文章の内容を読み取って短文 にまとめ、目的に応じて資料を読み自分の考え を書くような問いでは、全国と大きく差が開い ていることが明らかとなった。生徒の意識を見 た と き に も、「解 答文 を最 後 まで 書こ う と努 力 し ま し た か 」と いう 問 いに 対 して、「は い」 と 答えた生徒の割合が低いことがわかった。特に、
書くことと読むことに対して苦手意識を持って いる生徒が多く、学習に対する意欲を高める必 要があると実感した。
また、生徒・保護者に対するアンケートから 課題として、分かりやすい授業の実施が挙げら れている。教師自身も、分かりやすい授業のた めの工夫が不十分であると感じている。
このような現状から、書くことの基礎的な力 を育み、生徒に「書くために読む、読むために 書く」という意識を育てたいと考え、生徒の書 く力を伸ばす中学校国語科の授業づくりという 研究主題を設定した。課題検証のための手立て は、「視写 と写 生」「読み 書き関 連学習」「 ユニ バーサルデザインの視点」の3つである。目指 す生徒像と手立てを図1に示す。
図1 目指す生徒像と手立て
2.先行研究の分析と実践研究の関わり (1)視写と写生
①視写
文や文章を書く基礎として、まず文や文章に 触れることが大切だと考えた。また、板書やワ
<国語科学習における目指す生徒の姿国語科学習における目指す生徒の姿国語科学習における目指す生徒の姿国語科学習における目指す生徒の姿>
・学習規律を守り、基礎的・基本的な力を身に付けた生徒
・学習規律を守り、基礎的・基本的な力を身に付けた生徒
・学習規律を守り、基礎的・基本的な力を身に付けた生徒
・学習規律を守り、基礎的・基本的な力を身に付けた生徒
・学ぶことの楽しさを実感し、積極的に学習に取り組もうとする生徒
・学ぶことの楽しさを実感し、積極的に学習に取り組もうとする生徒
・学ぶことの楽しさを実感し、積極的に学習に取り組もうとする生徒
・学ぶことの楽しさを実感し、積極的に学習に取り組もうとする生徒
・言葉の力
・言葉の力
・言葉の力
・言葉の力(表現、論理性など表現、論理性など表現、論理性など)を高め自分の言葉で表現できる生徒表現、論理性などを高め自分の言葉で表現できる生徒を高め自分の言葉で表現できる生徒を高め自分の言葉で表現できる生徒
<視写・写生視写・写生視写・写生視写・写生>
①視写(書くスピード
①視写(書くスピード
①視写(書くスピード
①視写(書くスピード のアップと表現力の のアップと表現力の のアップと表現力の のアップと表現力の 向上)
向上)
向上)
向上)
②写生(見たままの
②写生(見たままの
②写生(見たままの
②写生(見たままの 事実を書くことによる、
事実を書くことによる、
事実を書くことによる、
事実を書くことによる、
見る目の高まりと表 見る目の高まりと表 見る目の高まりと表 見る目の高まりと表 現力の向上)
現力の向上)
現力の向上)
現力の向上)
<読み書き関連学習読み書き関連学習読み書き関連学習>読み書き関連学習
①読み書き関連学習
①読み書き関連学習①読み書き関連学習
①読み書き関連学習 による、目的意識を による、目的意識をによる、目的意識を による、目的意識を もった読み手・書き手 もった読み手・書き手もった読み手・書き手 もった読み手・書き手 の育成の育成の育成
の育成
②絵本の読み聞かせ
②絵本の読み聞かせ②絵本の読み聞かせ
②絵本の読み聞かせ による、読むことへの による、読むことへのによる、読むことへの による、読むことへの 意欲の向上 意欲の向上意欲の向上 意欲の向上
<ユニバーサルデザインのユニバーサルデザインのユニバーサルデザインのユニバーサルデザインの 視点
視点 視点 視点>
①わかる・できる・楽
①わかる・できる・楽
①わかる・できる・楽
①わかる・できる・楽 しい授業のための、
しい授業のための、
しい授業のための、
しい授業のための、
ユニバーサルデザイ ユニバーサルデザイ ユニバーサルデザイ ユニバーサルデザイ ンの視点を取り入れ ンの視点を取り入れ ンの視点を取り入れ ンの視点を取り入れ たワークシートと板書 たワークシートと板書 たワークシートと板書 たワークシートと板書
②学習のめあてと振
②学習のめあてと振
②学習のめあてと振
②学習のめあてと振 り返りの定着 り返りの定着 り返りの定着 り返りの定着
ークシートを書く際にも、生徒の書くスピード がまちまちだったことから、生徒の視写速度を 捉えることが大切だと考え、視写を取り入れる こととした。視写の始まりとして、まず手習い 塾について研究することとした。手習い塾の学 習は、一定の手本を模範として模倣し、それに 習熟して身体的に獲得していく課程であった。
自学自習を原則とし、文字を書くということに 関 す る あ ら ゆる 知識 を、「わざ」 や「 術 」と し て 、 あ る い は「礼」 と して 、 身に つける。「教 え込み型」 の教 育で は なく、「滲み込み型」 の 教育といってよい。学習規律を身に付ける上で も、文に親しむ上でも、有効な方法であると思 う 。 も う一つ視 写の有 効性 と して、「書 き慣れ る」ことと「筆速」を身に付けられる点である。
「書くこと」は、どの子にもすぐにできるとい うわけにはいかない。しかし、視写をすること によって、文章に書き慣れ、速く書き写せるよ うになったり、表現への意欲につながることか ら、視写は書くことに有効であると考えた。
②写生
生徒に何とか意欲的に文を書いてほしいとい う願いから辿り着いたのが、写生文である。大 村 は 、「 写 生日 記」 に つ い て 、「一 枚ず つ 写真 をとるつもりで、生活の一場面を書くのです。
特別な場面でなくていいのです。平凡な場面で い い の で す。」と 言っ てい る 。写 生文 を 書こ う とすれば、物をよく見たり、想像したり、考え たりすることができる。言葉を楽しむ場面を作 る上でも写生文が有効であると考えた。また、
視写と写生を両方取り入れることで、表現の幅 が広がるものと考えられる。
(2)読み書き関連学習
書く力を高めたいと考えながら研究を進めて
いると、書くことがいかに他の活動と連動して いるかが見えてくる。その中で、書くことと読 むことは、単独に伸びていくのではなく、両方 を高めていくことが、書く力を高めることにな ると考えた。また、書く力を高めるために、大 切なこととして、書く意欲であることが研究か ら明らかになった。
大熊は 「 書く 力 の 三 層 構造」 を示 し て い る 。表層は、 学 習 指 導 要領 の 書く こ と の 指 導項目 、中層は 図 2 書 く 力 の 三 層 構 造 学 習 指 導 要 領 の 言 語 事項、そして深層が、表層及び中層の書く力の 基盤を形成する、書くことへの関心・意欲・前 向き な態度 と し てい る(図2)。 この深層を 育 てるためにも、目的をもって学習を進めていく 単元学習が有効であると考えた。単元学習をす る中で、生徒は既習事項を想起したり、学習計 画を立てたり、課題解決の道筋を自覚すること ができると考えたからだ。
(3)ユニバーサルデザインの視点
ユニバーサルデザインの意義として桂は、特 別な支援が必要なAさんに対する指導の工夫や 配慮は、バリアフリーとしてだけではなく、全 員の子どもが、楽しく「わかる・できる」授業 になると言っている。また筆者は、教師側も「わ かる・できる」授業づくりを考えるためには、
教材をよく理解し、見通しをもった授業を考え ていく必要性があると思った。
そして、ユニバーサルデザインの有効性は幅 広いと考えるが、今回は、御所南小学校と御池 中学校を参考とし、見通しと振り返りを大切に しながら、ワークシートと板書に絞って実践を
表層
中 層 深 層
行っていきたいと考えた。
3.学校課題フィールドワークⅠ (1)視写と写生
①視写
教材文として、8種類の物語文を原稿用紙の 様式に合わせて準備。3人グループで視写を5 分間行い、終わったら教材文を読み合うことと した。視写をした結果、視写速度は回数を重ね るごとに速くなり、生徒感想から書き慣れるこ とに有効であると思われた。
表1(視写をした回数と1分間で視写した文字数)
回数 1回目 2回目 3回目 4回目
平均分速
28,5
文字35
文字38,1
文字39,5
文字(「第3の書く」では、小4でのクラス平均分速が、24.5字とある。)
②写生文
筆者が「空の写生文」を示し、生徒は「音の 写生文」に取り組んだ。音を近くから捉えたり 遠くから近づいてきたり、擬音語や体言止めを 用いながら表現していた。2回目は、自分が選 んだものについて写生文を書いた。生徒作品を 紹介すると、自分の表現と比べたり、着眼点の 面白さに気付くことができ、表現することの楽 しさを味わうことができた。イメージマップで 表現を広げることにも挑戦できた。
(2)読み書き関連学習
筆者 は、「 書く ため に読 む こと 」や 「 読む た めに書く」の関連学習を行うことで、生徒の書 く 力 と 読 む 力 の両 方を 伸 ば す こ と が で き る も の と 考 え た(図 3)。
図3(読み書き関連学習の効果について)筆者作成
「ちょっと立ち止まって」を用いて説明的文
・自分の考えが整 理される
・論理的認識を深 める
読み書き関連学習
書くこと
読むこと
・表現力の向上
・構成の工夫
・何を中心に書 いているか
章の特徴を読み取ったり、構成について考えた。
その後読み取ったことをもとに、説明的文章の 特徴をいかして「わかりやすく説明しよう」で、
自分自身のことを書いていこうとするものであ る。単元計画を以下のように示す(図4)。
図4 読み書き関連学習の単元計画
生徒の作品やアンケート結果から、読み書き 関連の単元学習を進めることで、生徒が最終目 標を達成しやすいことが分かった。また、教師 も目標を意識して進めるため、授業のポイント を絞って進めていくことができると分かった。
まだ、1割の生徒が「書くことは難しい」と 感じていることが課題として残った。
(3)ユニバーサルデザインの視点
生徒が「わかる・できる」授業を実現するた めに、板書とワークシートに絞ってユニバーサ ルデザインを意識した授業づくりを行った。板 書とワークシートの整合性を意識した。また、
毎時間授業の中で目標と振り返りを必ず行い、
学びの可視化に努めた。そして、ワークシート では、生徒がまず考えたことを書き込むよう意 識して作成した。授業の流れと同じため、支援 を必要としている生徒にとっても有効な手立て であったと思われる。
時間 時間 時間
時間 教材・本時の教材・本時の教材・本時の教材・本時の 目標 目標 目標 目標
内容 内容 内容
内容 準備物準備物準備物準備物
1
「ちょっと立ち止まって」
わかりやすく図の説明 をしよう。
・例文の比 較
・図の説明
パワーポイント ワークシート① ホワイトボード
2
「ちょっと立ち止まって」
文章を読んで、段落の 役割と構成を考えよう。
・形式段落
・文の構成
ワークシート②
3
「ちょっと立ち止まって」
要点をまとめ、自分の 日常生活を振り返ろう。
・形式段落の 要点整理
ワークシート③
4
「ちょっと立ち止まって」
「わかりやすく説明しよう」
要点をまとめ、自分の 日常生活を振り返ろう。
伝える目的や相手を はっきりさせて、情報を 集めよう。
・前時の続き
・目的意識
・情報集め
ワークシート③
①
5
「わかりやすく説明しよう」
説明する観点を決めて 情報を整理し、わかり やすい情報を考えて書 く。
・観点の整理
・書き方の工夫
ワークシート②
6
「わかりやすく説明しよう」
自分の宝物を説明する文 章を書いて、交流しましょ う。
・紹介文
・交流して感想 を書く。
ワークシート③ 単
元 目 標 ク ラ ス の 友 達 に 自 分 の 宝 物 を 説 明 す る 文 章 を 書 こ う。
説明文の 特徴をとら
える
情報集 め
構 成
交 流
4.学校課題フィールドワークⅡ (1)視写
学校課題フィールドワークⅠで行った3クラ スに視写の効果があったため、他のクラスでも 視写の実践を行った。
視写を一人とグループでの取組にして行った ところ、グループでの取組の方がモチベーショ ンも上がり親和的な雰囲気になった。筆速が思 うように速くならなかったことは課題となる。
(2)読み書き関連学習と絵本の読み聞かせ
①読み書き関連学習
物語文である「大人になれなかった弟たちに」
を題材に読み書き関連の単元学習を行った。作 者の思いに迫り、最終的に戦争と平和について も考えて意見文を書くことを目標とした。毎時 間、読み取ったことをまとめたり、自分の感想 を綴ったりした。
生徒の作品は冊子としてまとめたり、新聞に 投稿したり、互いに読みあうことができる形を とった。今までよりも深く、戦争や平和につい て考えることができたことは成果であった。
②絵本の読み聞かせ
学校課題フィールドワークⅠでは書くことが 中心だったため、読むことへの関心を高めるた めにも絵本の読み聞かせを行った。教材に合わ せた絵本を読み聞かせることで、友達や戦争に ついて自分でも考えるきっかけになったものと 考える。
5.実践課題研究の振り返りと今後の展望 (1)成果と課題
①視写では、生徒一人一人やクラスの視写速度 を知ることができたので、板書や授業の進め方 などに役立った。生徒自身も単語から文節へと 書き慣れ、多くの生徒が読みながら書くことが
できるようになった(手立て1)。
②写生文では、音を聞いたり物を見て表現する ときに、できるだけ詳しく表現しようとするこ とができた(手立て1)。
③読み書き関連の単元学習では、目標を定めて 進むため、書くことと読むことを連携させなが ら授業を進めることができた。その結果、書く ことに対する抵抗感を減らすことができた(手 立て2)。
④絵本の読み聞かせをすることで、教材の内容 理解や安心して学べる空間づくりに役立つと生 徒の感想から明らかになった(手立て2)。
⑤生徒に分かりやすいワークシートを意識して 作ったことで、目標や振り返りができ、何を学 んだか意識しやすかった(手立て3)。
次に実践研究の課題を2点挙げる。
①「書き慣れる」ことを定着させるには、視写 を長期的に継続して行う必要がある。
②学習の積み上げが難しい生徒には、補助プリ ント等の手助けが必要である。
(2)今後の取組課題
今後大切にしたいことは、学びのプロセスで ある。これからの社会を生き抜いていくために は「なぜ、どうして」と考える力と粘り強く解 決していく力が必要である。そのために、目の 前の生徒をよく見て、授業では常に目標をもち 振り返りを行うよう心がけていきたい。また、
教育効果を高めるためにも、教職大学院で学ん だ「協働力」を実践していきたい。
引用・参考文献
・青木幹勇(1986)『第3の書く』国土社
・大村はま(1968)『やさしい文章教室』共文社
・辻本雅史(1999)『「学び」の復権ー模倣と習熟』角川書店
・大熊徹(2007)『教育科学国語教育九月号』明治図書出版