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森 バ ン ド

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7 ランス工芸製本の技術と歴史

松 下 真 也

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 

1  はじめに フランス工芸製本とは

ルリュール reliureはフラソス語の女性名詞で,「製本(術)」を慈味する。

同じ意味の動詞はルリエ relierで, ラルース社の「現代フラ`ノス語辞典」 には 次のような簡潔な説明がみられる。

Assembler  et  coudre  ensemble  Jes  feuillets  d'un  livre,  puis  Jes  couvrir  d'un carton resistant sur lequel on colle une toile ou une peau. 

(書物の紙葉を集めて縫いつけ,更に,布か革を糊で貼った厚紙でそれを覆うこと)

語源辞典を引くと, relier,reJiure,  さらには,「製本家,製本職人」をあらわす relieurなどの語がすぺて,「結ぶ」という原義をもつ動詞 lierから派生した語で あることが知られる。 Jierは連結の意の Jiaisonなどとも幽連し,もとはラテン語 のligare(結ぶ繋ぐ)から出た言葉であったようだ。イタリア語では製本のこと をlegaturaという。製本とはたしかに, いく枚もの紙葉を糸などで結び綴じて,

「本」 (livre)というものをかたちづくる作業であるからであろう。このことは,

reliureに比定される英語の bookbinding,ドイツ語の Buchbind enなどの言業を 見てもよく分かるだろう。 bindもbindenも,原義は「結ぶ」意なのである。

よく知られているように,人類の最も原初的な書物の形態は巻物 (rouleau)で あった。むろん,それ以前に,文字を記録(document)として残したものとして,

金石文やクレイ ・タプレットの存在が知られているが,書物 (livre)と呼ぺる最初 のものは,パビルスや羊皮紙 (parchem in)の巻物である。エジプトやペルガモ ノ で,すでに図書館さえつくられたほど,それは盛行したが,ギリシア ・ローマ時代 に至って, 二つ折りの羊皮紙をいくつか重ねた, コデックス (codex)と呼ばれる ものに徐々にとってかわられていった。そこには,多く法律の条文が書き込まれた ため,法典を意味するコード (code)という言葉の語源ともなったが, このコデッ クスこそ,今日の書物の直接の祖型といえる。一般に巻物の欠点は,紙の両面を使

‑ 1‑

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えないこと,縞読に時間がかかることであった。バビルスよりも平面性にすぐれた 羊皮紙を二つ折りにして,紙の両側に由きこめるようにしたものがコデックスであ るが,更に,折った側をそろえ,麻糸などを用いて何丁かを「結びつける」ことが 考案された。ルリュールの歴史はそこから始まる。

本稲は,今日もなおフラソスを中心として行われている Iレリュール,すなわち

「フラソス工芸製本」の, もっとも基本的な技法のアウトライソを述べ,あわせて 古代からのその歴史について,簡単な概観を試みようとするものである。こうした 試みは無論のこと, これまでも多くの人々によってなされてきた。たとえば,昭和 の初年にほ,庄司浅水氏による先駆的な西洋製本 ・装禎史および技術の紹介(I)があ り,昭和10年代には,明治の製本職人であった上田徳三郎氏の口述を,恩地孝四郎 氏が武井武雄画伯の絵入りで刊行したもの(2)などがあった。前者は,製本の歴史・

技法全般にわたるきわめて詳細な力作であり,昭和4年という時代を考えれば, ま さに画期的といえる啓数苫であった。早稲田大学図書館の「逍遥文庫」中に,「逍 遥害屋」の印を捺したその一冊が見出される。坪内t専士もこの本に目を通し,西洋 の製本について考えたことがあったのだろうか。この本は,当時の製本屋の「手抜 き」の様子なども書いてあって,読み物としても面白い。また後者は,明治初年に 洋式製本法がわが国にもたらされて以来,それに携わった職人たちの間に相承され た技法の一端を記録にとどめたものとして興味深いものである。さらに近年におい ては,製本面も含んだヨーロッパの書物史の著述の翻訳刊行(3)も何件か行われたほ か,ベルギーでルリュールを学んだ栃折久美子氏の啓蒙的な著作141,東京にアトリ 工をもち国際的な活躍をしてしるケルスプィン・ティニ・ミ ウラ女史の著になる技 術書(5)なども刊行され,洋式製本術にたいする一般の関心をおおいに高めた。

このように,すでに数多く先人の業紹が存在しているにもかかわらず, ここに本 稲を草するのは, フランス工芸製本(ルリュール)の一般的な工程が, じつはまだ 一度も,順を追って正確にわが国語で紹介されたことがないという筆者の判断によ っている。従来,上にあげたような邦語文献における洋式製本技術の紹介では,と もすれば記述のなかに,イギリスやドイツなどで行われている方式との混在あるい ほ折衷が見受けられ,用語などにも不統一の感を否めなかった。

ここで,ルリュールを,ただ 「製本」とせず,「フラ`ノス工芸製本」と い う や や 長い訳語を充てたことには,いささかの理由がある。それは何よりもまず, ョーロ

ッパの製本術の正しい伝統が,今日,主としてフラ`ノス(ないしフランス語圏)に おいてのみ受け継がれていると箪者が考えるからであり, また,フラ`ノスにおいて,

ルリュールは 「産業」としてのみならず, 「工芸」,ひいては「芸術」として取扱わ れていることを知ったからである。これは主として,今日アメリカ,イギリス, ド イツを始めとするフランス語圏以外の国々において,ほとんどすべての本が版元で 機械製本されて出版されるという出版文化の形態ができあがっているためであると

‑ 2 ‑

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フラソス工芸製木の技術と歴史

思われる。日本においても事惜は同断であり,ひとりフラソスのみが,文芸宮を中 心としての話ではあるが,伝統的な仮製本の姿で出版を行ない,製本家たちが,そ れを注文者の依頼によって製本装禎するという中世以来の書物製作の辿風を保って いるのである。

そのような古ぽけた技術についてなぜ追求するのかといえば,もちろんそれが古 因修補の問題とおおいに関わりがあるからである。もとより洋の東西を問わず,古 い』物は人類共通の文化財である。それらは能うかぎり,それが世に出た当時の原 形 (de!tempo)を保った形で保存されるのが望ま しい こ と は 論 を ま た ぬ で あ ろ う。しかしそのためには,「もの」としての書物がいかにして作られて来たかを正 確に知らねばならない。今日,表紙に革を用いた,いわゆる「洋式製本」の,中世 以来の伝統を伝えているのが, フラソスのルリュールのみである以上,ルリュール の基本的技法について知っておくことは,古今の典籍の番人たる図因館員にとって の喫緊の要務の一つであると言えるのではあるまいか。

現在, フラソスにはおよそ1,000人内外の製本職人がいると云われている。その ほとんどは,街で自分のアトリエを開き注文を受けて仕事をしている人たちである が,図書館や描物館などに所屈して修補の仕事をしている人もいる。パリの国立図 書館 (Bibliotheque Nationale)の保存修復部 (Servicede la  Conservation  et  Restauration)では,総勢80名ほどの専門的技術を持った戦人が,古い書物や資料

の修補に当たっている。費重な文化財に対して,適切かつ十分な保存•修復の体制 が具備されてこそ,はじめて文化的国家といえると思う。日本の図書館界で最も立 ちおくれているのは情報技術の分野ではなく,修補の分野であるといってよいだろ

う。

本稿の記述に当たっては,次の三書を参考にした。

(a)  W olf‑Lefranc/Vermuyse: La reliure, Editions J. ‑B.  Bailliere,  Paris,  1978 (4• edition,  Bibliot恥queProfessionnelle) 

(b) Simone Lemoine: Le manuel pratique du Relieur, Librairie Sources,  Paris, 1980 (4• edition) 

(c)  Leon Laffargue: Reliure, Cartonnage, Dorure/outillage et technique  de !'amateur, Dunod, Paris, 1938 (3• edition) 

記述は主として(a)および(b)によった。ともに現在フランスで用いられているIレリ ュール技術の教科書である。 (c)は戦前の版であるが,箇潔かつ要領を得た記述であ るため必要に応じて参照した。また,本稿中に用いた図版お よ び 写 真 は 主 と し て (a)によったが,図の一部は(c)および,パリにあるルリュール材料 専門店 レ ル マ Relmaのカクログより使用している。

‑ 3 ‑

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'註(1)「術籍装丁の歴史と実際」庄司浅水著, ぐるりあ そさえて,昭和4 (2)  「製本之輯」粛窓11巻2号,アオイ書房,昭和16

(3)  ヘルムート・プレッサー 「害物の本」轡田収訳,法政大学出版局,昭和48 リュシアン・フェープル,アンリ=ジャン・マルクン「狂t物の出現」関根 素子ほか訳,筑摩書房,昭和60

(4)  「モロッ コ革の本」栃折久美子著,筑序困房,昭和50 /  「装丁ノート」 創和出版,昭和62

(5)  「私の製本装禎芸術の世界」ケルスティ ノ・ティニ・ミウラ著, 求龍堂,

昭和55

2 基本概念と術語

2‑1  書物の構造と各部の名称

一般的に書物というものは,本文と表紙とから成り立っている。

、ほかに箱であるとか,カバーや帯などもあるが,それらは付属品であり,なくて もよい物である。しかし,本文と表紙のいずれかが欠けたものは,書物とは呼ばれ 得ない。

本 文 は,印刷されたものである。印刷は通常全紙の両面に割付けた何頁分かず つを刷り,それを1頁の大きさに折り畳んで用いる。 1度折れば4頁, 2度折れば 8頁,3度折ると16頁, 4度折るなら32頁となる。ちなみにA列規格の全紙を4度 折り盛んだ大きさがA 4判であり, B列規格の全紙を5度折った大きさがB 5判で ある。フランスに於ては, 1度折ったものを in‑folio, 2度 折 っ た も の を in‑4°, 以下 in‑8°,in‑16,  in‑32のごとくに表記 し て,書物の判型をあらわす記号として いる。

通常の甚物の本文は,この,裏表に印刷した全紙を何度か折り盛んだ16頁とか32 頁のものをいくつか重ね,綴じ合わせて作られる。この折り昼んだ紙は「昴子],フ

ラ`ノス語でカイエ (Cahier)と呼ばれ,書物本文を構成する最も基本的な一単位で ある。折丁を重ねていくとき順序の乱れたものを乱丁といい,折丁が一部脱落した ものを落丁という。「カイエ」は,ふつうには「手帳」とか 「ノート」の意味で用 いられる言葉であるが,製本で折丁の意味に使われるほか, フラソスの印刷用語で

「全紙」をも意味する。

表紙には,ふつう本文用紙よりも厚手の紙(ボール紙など)が用いられ,それを 芯紙として布や紙や革などが貼られる。表紙と本文を何らかの方法で接着したもの が,全体として書物と呼ばれることになる。

書物の各部分には,そのごく微細な部位にまで,それぞれ伝統的な名称がつけら

‑ 4‑

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フラソス工芸製本の技術と歴史

lra11c/2ei, rievreou /Jl'

REL!. ?£''.A'ATt/,月.  ,.l7'1'1i Cf/AlliNCO!ivS  OS/110ne co. 炉 ⑫rJC

1

れている。いま,フラソスのルリュールにおいて用いられている書物の各部の名称

(図1)と,わが国の製本業界で使われている用語を対照させてみることとする。 日本語の用語は, 日本印刷学会編「新版印刷事典」(大蔵省印刷局,昭和50)によ った。

フラソス語 1 プラ plat コアノ. COin 

3 フィレ・ト・コアン filetde coin  モール mors

※モール mors

5 フィレ・ト・モール filetde mors  6 dos

7 ネール nerf

‑ 5 ‑

日本語 表 紙 (ひら) かど皮 みきり ひらの出 のど みきり

バ ン ド

(6)

8  ピエス・ド・ティトル piecede titre  背文字 9 ート tete てん

こ ぐ ち

10 グチエール gouttiere 小ロ

11  クー queue

12  ジャス chasses チリ 13  トラソツュフィル tranchefile 花ぎれ 14  コワフ coiffe (対照語なし)

15  ギャルド・ド・クラー gardede couleur  見返し

16  ギャルド ・プランシュ gardeblanche  遊び紙(やや意味を異に する)

上記のうち,最も基本的な語は,天(テート),地(クー),小口(グチエール),

ひら(プラ),背(ド)である。

前述したごとく,わが国の製本は主としてイギリス, ドイツなどの方式を学んだ ものとおぽしく,本の構造が完全には一致しないうえ, 用語は和本のそれをそのま ま受け継いだものが多く, フラソスの用語とは対照しない部分がある。後に述べる が,たとえば本文の端と表紙の背部分を強固に結ぴつけ, しかも装飾の役割を果た しているトラソシュフィルのことを, 日本で 「花ぎれ」と呼ぶのほ,明らかに和本

かどぎれ

の「角裂」の影孵を受けた言薬であろうと考えられる。 トラソシュフィルは糸で幾 重にも綴じつけるものであるが, 日本の 「花ぎれ」は角裂のごとくただ糊で貼るだ けである。コアンのことを「かど皮」などと呼ぷのも,角裂から来ていると思われ る。

2‑2 材料と道具

2‑2‑1 紙

書物はその大部分が紙でできている。それゆえ,ルリュールをする際, または古 苫修補を行なう場合には,紙についての正しい歴史的知識が不可欠である。

といっても, 15世紀のイソキュナビュラの時代から現在にいたる印刷用紙の変遷 については,それ自体考究すべき一つの大きなテーマであるので, ここにはとても 述べている余裕がない。

現在, フラソスで生産されている紙の紙質は, AFNOR(L'assosiation franc;aise  de normalisation, フランス規格協会)によって, Group0から Group7までの

8段階に分類されている。それぞれの Groupはまた, さまざまの typeに分たれ るが,一般的に言って,数字が多くなるほど上質となる。たとえば新聞,雑誌など に用いられる紙は, Group1 type 1で,75%の機械パルプと25%の化学繊維の 檻襖の混合抄紙である。また, Group7 type 3の紙は《ピュア ・シフォソ》と呼 ばれ, 95%のシフォ`ノ(絹メリヤス)檻襖と 5 %の純正パルプから成る最高級紙で

‑ 6‑

(7)

フラソス工芸製本の技術と歴史

ある。

紙の判型 (formats)についても, フラソス独自の呼称がある。 よく用いられる のはレザソ (Raisin)で50x65cm,エキュ (Ecu)は40x50cmの大きさの紙をい

う。一般に,紙は一連 (500枚)の重さと formatの名で,たとえば≪13kgraisin≫  のように表わされることが多い。紙の重さは, 1メートル四方のグラム数でも表示 される。80gから120gあたりの紙が,害物にはだいたい適しているといわれてい る。

もっとも,美術書や詩集などには, 日木の局紙のような,かなり厚手の紙が用い られることがある。

以上は印刷用紙についてであるが,ルリュールの場合,装飾のために特殊な紙を

プ ラ

用いる必要がある。ことに表紙 に 用 い る紙(プラパピエ plats‑papier), およぴ見 返しに貼る紙(ギャルド・ド・クラー gardede couleur)の材料として,最も一 般的なマープル紙 (papiersmarbres)をはじめ,さまざまな色つき, 模様つきの 紙が生産されている。

パリのルリュール材料店に行くと,初級用 練習用の印刷されたマープル紙・色 模様紙から,一点製作の芸術的なものまで,賠しい種類の装飾用色紙が売られてい る。製本家はそこで,製本しようとする書物の内容•特質と,使う予定の革の色,

質を考え合わせながら,それらに適合する紙を選ぶのである。

2‑2‑2 厚紙

本の表紙に革や布,色紙などを貼る場合,その芯となるのが厚紙(ボール紙,板 目紙)である。フラソス語でボール紙のことをカルトソ (carton)といい,それよ りも菊いちょうど図害カード程度の厚紙をカルト (carte)という。カルトソは, さきの紙の重蓋表示でいえば, 350gから800gの紙であり, 1. 5mmから4.0mm までの厚さの段階があって番号により規格化されている。

2‑2‑3 革

革は,ルリュールにおいてきわめて重要な材料である。なぜ書物の表装に革が用 いられるようになったかについては諸説があるが,ョーロッパにおいて最も安定供 給できる素材が,たまたま羊その他の獣の革であったからであろう。

ルリュールに用いられる革には次のようなものがある。

シェーヴル (Chevre) 山羊皮や ぎ

' "  

(1)シャグラソ (Chagrin) フラ ノスの山羊の皮で,表皮にある敲が細かいの を特徴とする。

(2)マロッカソ (Maroquin) モロ、ノコ山羊の皮。微が大きく,かなり厚い。上 製のルリュールに用いられる。

‑ 7‑

(8)

(B)  ムートソ (Mouton) 羊皮。通常, バザソ (Basane)と呼ばれる。 山羊皮 より滑らかであるが,耐久力にやや欠ける。

(C)  バルシュマソ (Parchemin) 羊皮紙。ムートソやシェーヴルの皮の表皮を 簿くそいだもので,硬いのが欠点である。中世の製本によく用いられてい る。

こうし

(D)  ヴォー (Veau) 摂の皮。丈夫で表面は滑らかだがftつきやすい。

(E)  ボックス (Box‑calf) クロム鞣しの摂の皮。

と く ひ し

(F) ヴェラソ (Velin) 禎皮紙。パルシュマソに似ている。

だちょう

このほかにも, さまざまな動物の皮が使われる。たとえば舵鳥の皮 (Peaud'au‑

truche)とか,河馬の皮 (Peaud'hippopotame)など。しかし,それらは特殊な 例であって,最もよく用いられるのはマロッカソ, ヴォー,ポックスである。

これらの革は鞣し,種々の色に染めたものが専門店で売られている。

2‑2‑4 布,織物

ルリュールでは表紙に貼る材料として,布も用いられる。しかし,革と併用する 場合を除き,布を表紙に用いるのほ簡易製本や,ややランクの下がる製本に多い。,

日本の版元製本で用いられるのは,布(クロス)が圧倒的に多い。

表装材料として以外にも,布および繊維製品は忠物にとって欠かせない材料のい くつかを担っている。背固めのために貼られるムスリーヌ(寒冷紗)をはじめ, ン、 ニエ(しおり紐),トランツュフィル(花ぎれ),簡易製木のかがり芯に用いられる

リボソ,木かがりのかがり芯の麻紐(フィッ七ル),かがり糸などがそれである。

2‑2‑5  接着剤

接箔剤として用いられるものは,梢製され£蒻(Colleforte), 小麦粉の糊(Colle de pe),澱粉糊 (Colled'amidon)などである。最近では,種々の化学糊(Colle chimique)が出回っていて, 雑誌などの製本によく使われているが, ルリュール においては用いられないのはもちろんである。

2‑2‑6 器 械 道 具

ルリュールに用いられる器械・道具類は,伝統的な独特なものが多い。次に,そ の主なものを列挙する。

(1)  プレス (Presse) 万力。 強く締めつけて形を整えるのに用いる。鉄製で,

高さ65cmほどのものは,450kgの重罷がある。

(2)  プレス ・ア・ラ・マソ (Presse

la  main手機械。小さな万力で, トラ ソシュフィルなどの綴じつけ,天金,ジャスピュールなどに用いる。

(3)  フィ ・ア・ロニエ (Futs

rogner) まるみ出 しの 後,天を揃えるのに用

‑ 8 ‑

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しヽる。

(4)  、ンザイユ ・ア・カルトソ(Cisaillea  carton) ポール裁断器。

(5)  クゾワール(Cousoir) かがり台。

かがり(クーチュール)作業に用いる。

(6)  ン、・ア・グレッケ (Scie

grecquer)  のこぎり。かがり芯(フィッセル)の 通 る 溝 を 折 丁 の 背 に 穿 つ た め に 用 い る。

(7)  ポワ ノト ・ア・クペ (pointe

cou‑ per) 鋼鉄製のハ`ノドカッター。独特 の形をしている。紙や布,革などの裁 断に用いる。 (図2)

(8)  レーグル (Regle)定規。鉄製で,

裁断の際ボワ ノトに当てて用いる。

(9)  =ケール・ア・タロ`ノ

C E

querre a 

talon) 直角定規。

(lQ コソパ (Compas) 長さを正確に測 り

, うつしとるために用いる。

~~ バ`ノサ・ネール(Pince

nerf) ネ ール(背バソド)の形を整えるための 道具。

フランス工芸製木の技術と歴史

POINTEらCOUPER

Acier extra 

Pointe a mosaique  1;}~ \,,•:-;, や~l冷ぶぶ-~·""怜べ,, ..ヽ,

総嶋澤庫謹硲ザ冷喘点邸~'.~

Pointe courante  図 2

MARTEAU  endosse

図 3

COUTEAU PARER  Acier 1•• quailte 

Emmaoche  図4

⑬  マルトー (Marteau) ま る み出しの際用いるハソマー。通常のハソマーと 異なり頭の面がまるみを帯びている。(図3)

(1~ プリオワール (Plioir) へら。骨製である。

⑭  フロットワール (Frottoir) 背のまるみを整える際に用いる特殊な木製 の へら。

⑮  ボワ ノソ ノ (Poinc;on) 丸目打。カルト ソに穴を開けるのに用いる。

⑯  ザ ノク (Zinc) 亜鉛板。裁断の下敷きとして用いる。

⑬  クートー ・ア・パレ (Couteau

parer) 革倒き包丁。日本のものとかな り形が違う。(図4)

⑱  ヒ゜ニール・ア・パレ (Pierre

parer革剥きの際の台石。

' (1~ グリーユ ・ア・ジャスペ (Grille

jasper吹きつけの網。

⑳  フ・ロッス ・ア・ジャスペ (Brosse

jasper) 吹きつけの筆。

‑ 9‑

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3 ル リ ュ ー ル の 技 法

ーロにルリュールと言っても,当然,いわゆる簡易製本から豪華なものまで,い くつかの段階がある。大まかに云うと,

a)簡易製本(カルトナージュ Cartonnage或いはプラデル Bradelと呼ば れているもの。表紙は大抵布貼りで,革は用いられることが少ない)

b)半革製本(ドゥミ・ルリュール・ボー Demi‑reliure‑peau 背と角に革を 用いる)

c)総革製本(ルリュール・ドゥリュクス Reliurede luxe  総革装で,天金 もしくは三方金。いわゆる棗華製本)

の三つの段階に分けられると云える。

製本しようとする書物の内容および質によって, どの段階のルリュールにするか が決められる。 一般的に言って,限定番号のついた書物(総出版部数が少なければ 少ないほど, また限定番号が若ければ若いほど,その書物の費重度が増す)は総革 装に,パソフレットの合本合冊のようなものほ簡易装とするのが普通であるが,む ろん決まった規則があるわけではない。本文用紙に特漉の紙を用い,限定番号入り,

オリジナルリトグラフ挿画付というような本でも, しゃれたデザインで半革装にし ているものも見かけるし, パソフレットといっても内容が貴重なものであるなら, 総モロッコ革 (プラソ・マロッカソpleinmaroquin)  の重々しい製本にして少し

も差支えはないわけである。

フランスの製本学校に入学した学生がまず最初に学ぶのは,やはり a)のカルト ナージュやプラデルといった簡易製本であるが,ここでは, とりあえずそれを省略

して,その次の段階,つまりb)の半革製本について,その技法のあらましを順序 を追ってできるだけ具体的に述べてみたいと思う。この半革製本の工程は,ルリュ ールのすぺての技法の基礎を含んでおり, この工程について理解することが,ルリ ュール全体を理解するための必要にして十分な条件となるはずだからである。

3‑1 プラスュール (Plar;ure,下準備)

3‑1‑1  デプロシャージュ (Debrochage,ばらし)

まず初めに,仮綴じされている書物をばらし,仮表紙・折丁•挿画葉などに分け なければならない。この工程をデプロツャージュという。フラ`ノスの本屋で売って いる書物は,最近はペーパーパックが多く見られるものの,ガリマール書店や深夜 叢書社など伝統ある出版社の文芸書ほ,現在もなお,いわゆる仮綴じ本(リーヴル

• プロシェ livrebroche)である。仮綴じ本とは,本文の各折丁が完全にはかが られておらず,表紙も糊で仮止めされているだけの書物をいう。

10 ‑

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フランス工芸製本の技術と歴史

平らな作業台の上に本を置いて開き,

まず糊止めされている仮表紙を注意深く 丁寧に手で引っ張ってはがす。次に,ボ ワソトを用いて仮綴じの糸を切り,折丁 を一つずつはがしてゆく(図5)。糊が 強くてはがれない場合は,糊をつけて数 分おき,それからゆっくりはがす。仮表 紙,折丁,挿画葉とも汚れをとり,糊の 残りをきれいにとっておく。

3‑1‑2 レパラシオン (Reparations, 修補)

各折丁を開き,本文用紙の破損,欠落, 5

裂けなどを補修する。補修には菊い和紙(雁皮紙のたぐいがよいが,本文用紙の紙 質 厚さによって決める)を用いる。なお,フランスでは和紙は高価なためか,補 修の段階ではシミリ・ジャポ`ノ (papiersimili‑japon)という紙を用いるようであ る。ポワソトを用いて補修に足るだけの大きさに切り,でんぷん糊 (colled'ami‑ don)などを用いて補修する。

本によっては折丁の「折り」が正確でなく,上下・左右のいずれかに印刷面がず

はんづら

れている場合がある。この点をよくしらべて,頁を重ねたとき版面が合うように正 しく調整しておくこともきわめて重要である。

3‑1‑3  モンタージュ ・ド・ラ・クーヴェルチュール (Montagede la couver‑ ture, 仮表紙取り付け)

はがしとった仮表紙を,亜鉛板の下敷きの上で,ボワソトを用いて表表紙,背と 裏表紙の二つに切り離し,それぞれを折丁の第一丁の前と最終丁の後に取り付け る。

これには 6mmから 8mmほどの幅に切った蒋い丈夫な紙(継ぎ足し紙。これ を,オソグレ ongletと呼ぶ)を用意する。不要な紙をひろげた上で, 才`ノグレの 端 2.5mmから 3mmほどの幅に糊をつ

け, これを切り取った仮表紙の表表紙の裏 側の緑に貼り, もう一方の端に糊をつけて 第一折丁の上にかぶせて貼りつける。(図 6)この作業はくれぐれも歪まぬよう,細 心の注意を要する。表表紙の取り付けがお わったら,同じ要領でオソグレを用いて背

2  亘

6

―‑11 ‑

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と裏表紙の一続きのものを,最終折丁の後に取り付ける。この場合,背は内側へ折 り込み,オソグレの端はその折り目に貼られる。

仮表紙全体が,一続きの絵などで覆われているようなときには, これを切断せず,

アコーディオ ノ式に三段に折り畳んで,第一折丁の前に取り付ける。ただしこの場 合,仮表紙の幅が折丁の小口側の幅よりもやや狭くなるよう,注意が必要である。

3‑1‑4 モンタージュ ・デ・オー・テクスト (Montagedes hors‑textes, 挿画葉 取り付け)

本文の前, もしくは中に,別刷りの口絵や挿画,版画や地図などがある場合は,

これを折丁の前, もしくは中の所定の位置に, しっかりと取り付けておかねばなら ない。基本的には前項3‑1‑3のごとく,オソグレを用いて処理するが,紙質や大き さなどを考感して, ケース ・バイ ・ケースの適切な処置を取らねばならない。

大きな付図などをたたんで折り込む場合,その端に注意する。後の工程で折丁の 端を切り揃え, もしくは裁断するようなとき,一緒に切られる危険性のないよう,

天・地・小口から一定の距離をもって折り込むことが必要である。

仮表紙や付図などの貼付で第一折丁や最終折丁が厚くなったとき, これらの折丁 の折り目部分をかる<たたいておく。

図7

3‑1‑5 ギ ャ ル ド ・ ブ ラ ン シ ュ (Garde blanche) 

ルリュールでは,本文折丁の前と後 に,ギャルド・プラソツュと呼ばれる 白紙の折丁を各一丁•ずつ加えて製本さ れるので,これを用意する。これは本 文の保護,書き込み用の余白などの機 能をもっており, 日本の製本にはない もので, いわゆる 「遊び紙」とは似て 非なるものである。

ギ← ルド ・プ ラ ソ ジ ュ は 各 々 4葉 (8ページ),二枚重ねにして折り, 本文よりほんの少し小さ 目 に 裁 断 す る。紙質は本文保談の性質上丈夫なも のがよく, また紙の厚さおよび色も本 文用紙と通い合うものを選ぶ。

‑ 12 ‑

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フラ`ノス工芸製本の技術と歴史

3‑1‑5  ミーズ・アン ・プレス (Miseen presse) 

仮表紙を取り付けた折丁.その他の折丁,およびギャルド・プラソツュを, きち んとそろえた上で木の板にはさみ.最低12時間ほどプレスにかける。(前頁図7)

3‑1‑6  エバルバージュ (Ebarbage)

不揃いな本の端を切りそろえて,大きさをそろえる工程をニバルバージュとい

カ イ エ

う。初めに位置を決め,各折丁ごとに裁断器で切る。最初にグチエール(小口)側 を切り,次いでクー(地)側を切る。

これは,すでに裁断してある本には不要の工程である。また,ルリュール・ドゥ リュクスの際には,行わない。

3‑1‑7 コラショヌマン (Collationnement,照合)

仮綴じの本は各折丁ごとに,第一頁の版面の右隅に,折丁番号が印刷されている のが普通である。各折丁の順序を確かめるため,右手で本の天を持ち,左手の親指 で折丁をめくりつつ,各カイエの番号がちゃんと通っているかどうかを確認する。

これにはやはり細心の注意が払われなければならない。なんとなれば, これは落 丁•乱丁を防ぐための工程であり, これをおろそかにすると, ルリ ュール全体が意 味をなさなくなるからである。

以上をもって下準備(プラスュール)の工程を終わる。

3‑2  クーチュール (Couture,かがり)

3‑2‑1  グレッカージュ (Grecquage)

仮綴じ本をばらして,各折丁の破損を補修し,歪みを正し,仮表紙・挿画などを とりつけて,ギャルド ・プラソシュを作成し,更にこれらを十分にプレスした後,

各折丁を糸で縫いつけて一本にまとめる作業がクーチュールである。日本の製本用 語では 「かがり」と称し,「膝」というむずかしい字を当てる。「膝」は織物の紐絲たていと

の意味で, クーチュールでは折丁の背に垂直にぴんと張った何本かの麻紐を当て, それに各折丁を縫った糸をからげていくところから,この字が用いられたものと見 える。折丁の背に垂直に通す麻紐のことをフィッセル (ficelles)という。

クーチュールの前段階として,まずフィッセルの通る小さなミゾを,各折丁の背 に穿たねばならない。この作業をグレッカージュ (grecquage)という。

フィッセルの本数を何本にするかは,ルリュールしようとする本の判型や,ルリ ュールの程度によって異なるが,通常,3本から5本である。中世の製本では, こ のフィッセルがきわめてふとく,本の背にはみ出していて,それが本の背に何本か 横に突起がついた形となって,現在でいうネール(背パソド)の起源となったわけ であるが, こんにちの製本ではフィッセルは細くなり,本文折丁の中に埋め込まれ

‑ 13 ‑

(14)

8 へはみ出させておく。

る形となるため,本の背に突起は できない。背に突起をつけて製本 されているものは,すべて飾りの ための,いわば「にせネール」で ある。

グレッカージュでは, フィッセ ルの数に上下各1を加えた数のミ

ゾを折丁の背に穿つ。これに必要 な道具は万力,コソバス,鉛筆,

それにのこぎりである。

まず,ギャルド・プラソジュも 含んだ全折丁の背と天をきちんと 揃え, これを木の板にはさみ,更 に万力にはさんでしめつけ固定す る 。 そ の 際 , 背 の 部 分 を お よ そ 1cm ほど,はさみ板の縁から外

次に,背がきちんとそろっているのを確かめてから,コソパスと鉛筆を用いて折 丁の背の上に正確に目印をしるす。それから,のこぎりの柄を右手で持ち,親指を 上にする。左手はその上に毅う。目印の部位に垂直に刃を当て,かる<引き,更に 押し,引く。のこぎりはまっすぐに,かる<動かし,十分な深さになったら(切り 込みすぎてはいけない), 何回かななめに切りこみ, フィッセルの太さとほぽ等し いミゾをつくる(図8)。ただしフィッセルの本数以外に加えた上下二つのノコ目 は,綴じ糸を通すためだけのものであるから他より小さくてよい。

3‑2‑2 クーチュール

クーチュール(膝り)は,ルリュールの全工程の基礎である。膝りの状態が悪けか が

れば,ルリュールの状態も悪くなる。これは,以下のよ うな手順でおこなう。

IA)  糸の選定:まず,かがりに用いる糸を選ぶ。これは,きわめて重要で,なん となれば糸の太さは本の背に与えられる厚みに関係し,ひいては本のまるみ,モー ル(みぞ,のど)の深さ,表紙に用いるカルトンの厚さにも関わってくるからであ る。糸の太さを決めるには三つの要素を考える。①本文用紙の紙質,②折丁の一丁 の厚さ,③折丁の総数である。

一般に,紙が丈夫であればあるほど,折丁が蒟ければ菊いほど,また折丁総数が 多ければ多いほど,糸は細くする。反対に,紙質が弱いほど,折丁が厚いほど,折 丁総数が少ないほど,太い糸を用いることとなる。

‑ 14 ‑

(15)

(B)  クゾワール(couso1r, かがり 台)の設営:通常, フィッセルとし

て用いられるのは,二条の麻を網っ て作られた丈夫な麻紐で, これをクさ レッカージュの目盛りに従って上か ら下へびんと張り,かがってゆくた めの道具がクゾワールである。二本 の支柱に渡した横木を適当な高さに 固定し,そこにフィッセルの数だけ の麻紐を通す。(図9)

(C)  クーチュール :長くて針穴の 大きい,先のあまりとがっていない 針と,かがり糸とを用意する。一針 分の糸の長さは lm20を こ え な い

ようにする。

ギャルド ・プラソシュの丁からか がりはじめる。丁のまんなかを開い

フラ ノス工芸製本の技術と歴史

図9

て左手で支持し, グレッカージュのノコ目とフィッセルが一致するよう合わせる。

かがりは,一筆書きの要領で,各ノコ目に糸を通してゆき, フィッセルをまたいで 綴じつけてゆく。一丁がおわって次の丁にうつる際,天または地側の, フィッ七ル の通らないノコ目において,折丁と折丁がしっかり結びつくよう,糸を鎮状にから げてやや強く締める。

この, クーチュールは,一定のリズムに沿ってというか,各折丁ごと同じ速度で,

流れるように行わなければならない。いつも注意して糸がたるまぬよう,背の延長 線上の方向に引っ張っているべきである。垂直方向に糸を引っ張ると.紙がやぶけ るので注意する。途中で糸が足りなくなった場合は,新しい糸を固く結びつけて継 ぎ足し,あとを続けるのだが,結び目が折丁の内側へ出ぬよう注意しなければなら なし'o

最終丁のギャルド ・ブランシュまでかがり終えたなら.最後に二重の結ぴ目を結 び,1cmほどのこして糸を切る。クゾワールから本をはずし,背の縁から6cmほ

どずつのこしてフィッセルを切る。

(D) 背の厚みの調整:具合の良い背のまるみを得るためには,クーチュールの後 に,一定の比率をもって背の部分がほかより厚くなっていることを要する。すなわ

グ チ ニ ー ル

ち,小口側に比して背側が最大限1/3,最小限1/4ほど厚くなっていればよい。そ れ以上厚くなったり薄くなったりしてはならない。かがっている間にもこのことに はじゅうぶん留意して,途中で糸の太さを変えたりして適宜調整を行う。ただし,

‑ 15 ‑

(16)

あまり極端に太さを変えることは当然避ける。

本文用紙が特殊な強い紙であったり,折丁が簿く,総丁数が多いような場合には,

二丁ずつまとめて,間を飛ばしながらかがる方法もある。(クードゥル・ア ・ドゥ ー・カイエ coudre

deux cahiers)この方法により,背が堅くなりすぎるのが防 がれる。クーチュールを終わるにあたり,膝り糸がゆるんでいないか,背の厚みは ちょうどよいか,膜り落とした折丁はないかなど,仕事の出来をよくあらためる。

3‑3 コー・ドゥヴラージュ (Corpsd'ouvrage, 本文部分の仕上げ)

3‑3‑1  パスュール・アン ・コル (Passureen colle, 膠引き)

かがりが終わったら,本文部分の仕上げにかかる。まず, クーチュールした本文

1こかわ

部分の背に,膠を引いて固める作業があり,これをバスュール・アソ ・コルという が,背に引いたニカワが乾ききらぬうちに次のアソドスュール(まるみ出し)に かからねばならないので,これらは一連の工程として理解されるぺきである。

まず,クーチュールした本の背の歪みを正した後,左手で背を支え,右手の親指で フィッセルをきつく締める。すべてのフィッセルに対し,両面からこれをおこなう。

次に,テープルの端に不要な紙を垂らし,短冊型に切った二枚のポール紙で背の 部分をはさんだ本を,その上にそっと個く。背の部分はテープルの端から水平に少 しはみ出させておく。そうしておいて,左手で押さえながら,膠用の筆で,やや涙 いニカワを背の部分全体に塗る。はじめ,まずざっと塗り,つぎに筆先をまわすよ

図10

‑ 16  ‑

うにして,膠がじゅうぷん折丁と 折 丁 の 間 に く い こ む よ う に 塗 る

(図10)。むらなく,まんべんなく 塗りつけてから背部分をマルトー の細い方の頭でこする。更に,最 後 に も う 一 度 む ら な く 塗 り つ け る。箪が,背から天や地の方にす べり落ちぬよう注意する。

これが終わったら,背をはさん でいたボール紙を注意深く,ギャ ルド・プラソシュを汚さぬよう, 持ちあげて取り外し,乾かすため,

背を少しはみ出させた形で板の上 に饂く。

ニカワは,市阪されている粒ニ カワ(精製されたもの)を用い,

膠鍋を用いて湯煎して溶かす。割

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フランス工芸製本の技術と歴史

り箸のようなものでかきまぜ, ときどきすくい上げてみて,粒々がすっかりなくな るまで加熱する。その濃さは経験に待つしかないが,極端に濃くなければよい。

3‑3‑2  アンドスュール (Endossure,まるみ出し)

書物の背にまるみを与え,モール (mors,ノドのミゾ)を作る工程である。この 工程に先立って,まずフィッセルの繊維をよくほぐしておく。

前項3‑3‑1のパスュール・アソ・コルが終了して15ないし30分後,つまりまだ乾 ききっていない状態で,すぐにこれに取りかからねばならない。もし,やむを得な い事情で時間がたってしまったときは,ニカワをしめらせてもどし,柔かくする。

この工程はIA)アロソディスュール (Arrondissure,まるみ付け)と (B)アソドス ュール (Endossure,まるみ出し)の二段階に分かれる。

IA)  アロンディスュール:背に ニカワを引いた本を作業台の上に おき,小口とギャルド・プラ`ノシ ュiこ左手の指をかけて支え,右手 でマルトーを持ち,その横腹の平 らな部分で,背の部分をかる<叩 くとともに,左手で手前に引っ張 る。(図11)背の中央部から, 端 の方へと,かる<こまめに何回も たたいてゆく。何度もまんぺんな

<繰り返し,背にまるみを付け る。その傾きが十分になったら, ひっくり返し,裏側からまた叩い ていってあとの半分にまるみを与 える。この作業を,背があらゆる

側から正しくまるみを帯びるまで繰り返す。

図11

(B)  アソドスュール:まるみをつけた本を万力にはさむ。フィッセルは,ギャル ド・ブラソシュの側に寝かせておく。

背を,正確に,用意したカルトソ(表紙の芯紙)の厚さよりわずかに多めの幅を もって万力の歯のそとにはみ出させて取りつける。このときに, くれぐれも正確を 期するため,あらかじめ測ってギャルド・プラソシュの端に目盛りを印しておく。

フィッセルが浮き出ないように,またまるみの曲線がちゃんとなっているかどうか,

天から地までよく吟味する。また小口にも,同様の曲線が再現されているかどう か。これらを確かめた後万力を強く締めつける。

マルトーを持ち, まず細い方の頭の先で,背の端の数丁を,扇をつくるように万

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(18)

図12

言 冒 冒 冒

f

2

カの歯へ寝かせてゆく。次いでマ ルトーの頭部の太いほうを,人指 し指と親指の間で持ち,残りの指 はにぎりの高い位置に添えて,背 を叩きはじめる。寝かせた折丁に 沿った方向へと真中の折丁から始 めて端へとたたいてゆく。けっし て垂直方向に叩いてはならず,斜 めの方向で叩く(図12)。

これにより,図13の1のような まるい背を得る。 2から5までは,

わるい例である。

3‑3‑3 ポーズ・デ・カルトン (Pose des cartons, 表紙 芯取付け)

表紙の芯となるカルトソ (car‑ ton, ボール紙) をと りつける 作 業。これは次のような一連の工程 として理解される。囚粗裁ち, (B) 裏打ち, (C)裁断,(D)取付け準備,

(E)取 付 け 。 こ れ ら の 工 程 の 後 カ ルトンはプラ (plat,表紙) と呼 ばれることになる。

(A) デビタ ージュ (Debitage, 粗裁ち)

木の厚さと判型から,用いるカ 図13 ルトソの厚さを決める。ふつうの 大きさで, カイニが一丁16頁のものであれば, フラソスの規格番号で13‑14番(2.2 mm

2. 4mm)かなり大きな判型のそれであれば14-16番 (2.4mm —2.7mm)が 標準である。

良く圧延された,良質のカルトソの一葉をとり, 天地の高さより 1 — 2cm ずつ 多めに寸法をとって,ボール紙裁断器により粗裁ちする。

(B) ドゥプラージュ (Doublage,裏打ち)

カルトソをほんの少し反らせるために,内側に一枚の紙を貼る。薄く糊気の少な い紙(フラ`ノスの新聞用紙のような紙) を用意し, カルトソよりも周囲数m mずつ

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(19)

フランス工芸製本の技術と歴史

小さく切って不要な紙の上で糊をたっぶり塗って湿らせ,カルトソtこ貼りつける。

貼った上から,手のひらで中心から四隅へ向けてよくこする。これが乾くにつれて カルトソを引っ張り,やや内側へ反らせる働きをする。

この 「反り」は,1レリュールが終了した時, より審美的な形を与えるものである と同時に,二枚のカルトソがかすかに凸レ`ノズ状を呈することにより,端をかる<

締めつけ,本文保護の役割をも果たすのである。

(C)  クイユ ・イグザクト (Tailleexacte, 正確な裁断)

表紙(プラ)は本文部分の天地,および小口から,一定の幅・比率をもってはみ 出ていなければならない。このはみ出し部分のことをシャス (chasse)とい い わ が国の用語では 「チリ」という。

シャスの幅の大きさの目安は,書物の判型によって異なる。フラ ノスにおける書 物の判型によって目安を示すと,以下のようになる。

判型 一丁頁数 判型 (cm) ツャス (m m) In‑16 raisin  32  12 16  2.5  In‑12 carre  24  11. 5 18. 5  3  In‑8  carre  16  14x22  3.5  In‑8  raisin  16  16x24. 5  4  In‑4  carre  8  22x28  4.5  In‑4  raisin  8  24x32  5 

本文部分の大きさに,天・地・小口にそれぞれこのジャスの幅を加えたものが表 紙の大きさということになる。これを算出して,正確に裁断する。

(D) プレパラシオ ノ・ア・ラ・フィクサンオソ (Preparationa Ia Fixation, 表 紙芯紙取付け準備)

正確に裁断したカルトソを本に当てて,それぞれのフィッセルのところに正しく 印をつけ,水平の線を引く。次に,カルトソの縁から 10— 12mm の辺りに,垂直の 線を引く。これらの線の交点は,フィッセルを通す穴の位置を示す。

カルトソを硬質ゴム板の上におき,各々の点に,ポワソソソ (poin<;on,丸目打)

を打ちこんで穴を開ける。更に,各々の穴の斜め後ろ 1cm程のところに, それぞ れもう一つずつ穴を穿つ。

革を貼った際に盛り上がるのを防ぐために,フィッセルのくる位置に,ボワ ノト でみぞを穿つ。両側から斜めに切り込むが,穴に近い方よりも縁の方が,やや大き く広く切りとられる。

(E)  フィクサツオン・デ・カルトソ (Fixationdes carton, 表紙芯紙取付け)

フィッセルを穴に通すまえに, さきから 1cmほどを糊で湿らせて尖らせる。次

‑ 19 ‑

(20)

図14

に,みぞのついた第一の穴に, フ ィッセルを外側から内側へと通ら せる。全部通したら, こんどは二 番目の穴に内から外へと通し, じ ゅうぶんきつく引っ張っておく。

フィッセルを穴に通し締めつけ た 後 カ ル ト ソ を 開 い て 鉄 床 の 上 に置き,数m m残してフィッセル を切る。フィッセルの端の繊維を ほぐし,扇状に開くようにして,

そこに少し糊を囮き,マルトーで 押しつぶすようにしてカルトソの 表面に埋め込む。(図14) この際に, カルトソの外側にフィッセルの端を出すので,いくら押しつぶしても 表面がやや凹凸になるきらいがある。これを避けるためには, 内側で押しつぶし埋 め込むか,もしくは外側にフィッセルの端を埋め込んだ後,その上からもう一枚紙 を貼るなどの方法をとる。

糊が乾いた後,万力にはさみプレスする。

3‑3‑4 ミーズ・アン・プレス・デュ・コー・ドゥブラージュ (Miseen presse  du corps d'ouvrage) 

この工程は,カルトンを取付けた本体をプレスしながら,最終的な背固めのため の作業を行うもので, I.A)フロッタージュ, (B)ムースリーヌ貼付,の二つの重要な工 程が含まれる。

プレスにかける前に,モール(ノド)の高さが適当に, カルトンと同じ高さにな っているかどうか吟味し,次いで背の円味とカルトソの鉛直性についてもじゅうぷ ん吟味する。問題があれば,マルトーで歪みを正す。

本を木の板ではさみ,モールの部分を霰出せしめてプレス機にかける。

凶 フ ロ ッ ター、... ノュ ・プュ‑‑ ・ト (Frottagedu dos) 

しっかりしたプレス状態で,背の全面に,たっぶり糊を塗る。これは,パスュー ル・アン ・コルのとき塗られたニカワを柔らかくする目的をもつ。数分後,つげ材 で作られたフロットワール(frottoir)という器具を用いて,叩くようにしながら なでこする。背の中央部から,フロッ トワールを傾けて持ち,片側のモールヘとこ すっていく。そうしているうち,二種類の糊が混じりあってくるので,紙くずでそ れを拭き取る。最後に筆で,糊を厚く塗って仕上げる。

(B)  コラージュ ・ド・ラ・ムースリーヌ(Collagede la  mousseline) 

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フランス工芸製本の技術と歴史

帯状のムースリーヌ(寒冷紗)を適宜切りとる。これを背に当てがい,その上か らまた糊を塗る。その状態で最低15時間プレスする。

3‑3‑5 ロニャージュ・ド・テート (Rognagede tete, 天の化粧裁ち)

この工程は, 害物の天 (tete)をき れいに揃えて裁断する,すなわち化粧 裁ちである。これにはフィ・ア ・ロニ エ(futs

rogner)という器具を用 ぃ,カルトンを下にずらせて天部を認 出した本を,プレスにかけた状態でき れいに削る。裁断する幅は, シャスの 幅である。 (図15)

天を化粧裁ちする目的は,本の中へ 埃が入って行かないようにするためで ある。

3‑3‑6 ジャスピュール (Jaspure) 15

化粧裁ちの終わった天の部分に, グリーユ ・ア・ジャスペ (Grille

jasper)な らびにプロッス・ア ・ジャスペ (Brosse

jasper)という器具を用いて,色絵具 を吹きつける作業。埃除けの機能を果たすほか,むろん装飾的な意味あいももって いる。というのも,天が白いままで革表紙をつけると,いかにもむき出しで,そぐ わない感じを与えるからである。周囲を覆って,グリーユを左手に持ち,プロッス に油性の絵具をつけてこすり,吹きつける。

こうした方法のほか,天には,いうまでもなく金箔を置いたり,マープル模様を つけたりすることが,伝統的に行われてきている。

3‑4 クーヴリュール (Couvrure,表紙の仕上)

以上を終わると,表紙に革装禎をほどこす作業に入る。この工程をクーヴリュー ルと称し,革剥きなど熟練を要する 作業が含まれる。

3‑4‑1  アプレチュール・デュ・ド (Appreturedu dos, 背の整備)

フロッタージュ,および寒冷紗の貼付で十分に固めた背 に 最 後 の 仕 上げを施す 工程。すなわち(A)トラソジュフィル (tranchefiles,花ぎれ)の取付けと,(B)パピエ

・グドロソ(papiergoudron)の貼付をいう。花ぎれをとりつける前に,必要なら

`ンニエ (signet,しおり紐)を取り付けておく。

(A)  ポーズ・デ・トラ`ノシュフィル (Posedes tranchefiles, 花ぎれ取付け)

‑ 21 ‑

(22)

トラソツュフィル (花ぎれ)は,背の天地を固め,補強し. またカルトンの高さ にコワフ(後述)を支持するためにとりつけられる。

半革製本では,トラソツュフィル・メカニーク (tranchefilemecanique)と呼

こ よ り

ばれる出来合いの花ぎれを背の天地に貼付するのであるが,本来これは紙磋のよう なものを芯として何色もの色糸を編み,背に綴じつけるものである。その際, トラ ソシュフィルに用いられる糸の色は.表紙に用いる革の色と合うように, 色の配 合を考えて選ぶことが必要であり.フSック ・デザイソの重要な一部をなすのであ る。

取り付けたトラソシュフィルの先は,カルトソの端から0.5mmほど下に来てい なければならない。

(B)  コラーゾュ `` ・プ・ハヒニ・グドロソ (Collagedes papiers goudron, 背貼り)

トラソシュフィルを取り付けた後背に, パピエ ・グドロソという薄い丈夫な紙 を何枚か貼る。これは,背を補強し,またその面を規則正しい曲面とするためであ る。パビエ・グドロソは 「避青紙」と訳されるが,包装に使われるような薄手の紙 で,わが国で背貼りに用いられているハトロソ紙や,地券紙などと似たようなもの である。それは通常2枚ほど貼られるが, もっと多くの枚数を貼ってもよい。 1枚 目は,取り付けたトラソシュフィルの間を埋めて,背の面の高さを等しくするため に貼られる。2枚目以上はトラ`ノジュフィルも含んで貼りつける。いずれの場合も 横の幅に気をつけ.モール(ノド)を超えぬよう注意しなければならない。

乾いた後,背全体を紙やすりで磨き,面をなめらかにする。

3‑4‑2 アプレチュール・デ・カルトン (Appreturedes cartons, 表紙芯紙仕上 げ)

背の仕上げに続き,表紙の芯となるカルトソtこ,最後の仕上げを施す。

まず,モール(ノド)の部分を清掃する。次 に,天,小口,地側の三つの端を,マルトーで 打って堅くする。それから,天と地の,モール 側の内側の角に,ボワ ノトで切りこみを斜めに いれる。(図16)この作業を工シャソクリ ュー ル(echancrure)といい,切りこみは角の頂点 がゼロとなるように正しく行う。この場合注意 すべきことは,カルトソの内側の角の切りこみ を, 天・地側よりもモール側の方がやや深く長 くなるように切りこんでおくことである。こう しておかないと,後述するコワフ(coiffe)を作 る際に,折りこんだ革が行き場を失ってしまい,

~ ~

図16

‑ 22 ‑

(23)

フラソス工芸媒本の技術と歴史

コワフの形が悪くなる。

かど

さらに,カルトンの外側の稜を全面にわたって,紙やすりを用いて少しだけ削り とっておく。これはわが国では「面とり」と呼ばれている作業であるが,革を貼り やすくするための措置である。

/ 

更に, フィッセルを最終的に糊でそれぞれのミゾの中へ埋めこみ,固定させる?

表面が平らになっているかどうか,じゅうぶん吟味しておく。

3‑4‑3 コンフェクシオン・デュ ・7ォー ・ド(Confect10ndu faux・dos, 背表 紙芯製作)

半革製本においては,表紙をくるむ革が直接本文の背に接着されず,フォー ・ド (faux‑dos)と称される芯紙に糊づけされ,フォー・ドと本文の背の間は糊づけさ れず,空いている。これをド・プリゼ (dosbrise)といい,英語の用語でいう「ホ

ロー・パック」にほぽ等しし'o

そのため, ここでフォー・ドを作っておく。その材料となるのがカルト (carte, カード紙。カルトソより薄くて丈夫な紙)である。まずこれを,カルトンと等しい 高さ,モールからモールまでの幅より 2mmほど狭い幅に裁断する。

ネール (nerfs,背パソド)を用いない場合, これがそのままフォー・ドとなる。

一般に二十世紀以後の現代作品のルリュールには,ネールはあまり用いられない。

現代のルリュールにネールを用いないようになった意味は,いくつか考えられ る。まずネールというものが, きわめて古い製本法の遣物であること。また, 背に ネールをつけると,背文字のデザイソが限られたものになってしまうこと,等があ げられる。

クラシック様式のルリュールでは, 4 本なしkし 5 本のネールがつけられる。• これ は前述したごとく,フィッセルが背にはみ出してい

f

こなごりであるから, フィッセ ルの位置と一致するように,裁断したカルトの上に, グレッ'カージュの目盛りに従 ってネールの位置を作図する。

といっても, フィッセルは実際にははみ出しておらず,背の面は平らなわけであ るからカルトの目盛りの位置にはフォ9ー・ネ7ル (faux‑nerfs)すなわち直訳すれ ば 「にせの背バソド」を貼る。これに

i

ま表紙と同じ厚さのカルトソを細く切ったも のが用いられるのが普通であるが,革などを用いて出よい。また,ネールの位置も,

必ずしもグレッカージュの目盛りに従わず,デザイ9ンする人の審美的な要求によっ て決めてもよい。

フォー・ネールはフォー・ドの横幅よりもやや大きめに切り,強い糊をつけてか ら,作図した位置に,ずれないように貼ってゆく。乾いた後,各々のフォー・ ネー ルの端を,ボワン トで斜めに切りとる。その角度は45°を目安とし,背のまるさの 加減で増減する。

‑ 23 ‑

参照

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最後 に,本 研究 に関 して適切 なご助言 を頂 きま した.. 溝加 工の後,こ れ に引

Results obtained are as follows : 1 From the viewpoint of doffing operations, the features of the covering machine are as follows ; the dimensions between its bottom position of

In this report , control methods for this autonomous vehicle are investigated to approach the initial operating position rapidly, to break away at the end of the covering machine,

”, The Japan Chronicle, Sept.

(( , Helmut Mejcher, Die Bagdadbahn als Instrument deutschen wirtschaftlichen Einfusses im Osmannischen Reich,in: Geschichte und Gesellschaft, Zeitschrift für

出典 : Indian Ports Association &amp; DG Shipping, Report on development of coastal shipping 2003.. International Container Transshipment Terminal (ICTT), Vallardpadam

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