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自然環境保全ガイドライン − 解説資料

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課題別指針

自然環境保全

平成15年10月

解説編

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第 1 章 自然環境(生態系)の現状...1 1-1 地球の生産性と人類の活動...1 1-1-1 人類と自然環境(生態系)...1 1-1-2 自然環境(生態系)の価値...2 1-1-3 地球の生物生産性と人類による利用...4 1-1-4 資源利用の地域差(エコロジカル・フットプリント) ...5 1-2 地球環境問題と地域社会...7 1-2-1 地球環境問題...7 1-2-2 グローバル化による地域社会への影響...10 1-2-3 自然環境の劣化と貧困...13 1-2-4 なぜ自然環境の保全か(人類生存基盤の保全)...15 第 2 章 自然環境の保全とは...16 2-1 自然環境保全とは...16 2-1-1 自然環境と自然環境保全の定義...16 2-2 自然環境保全への取り組み...18 2-2-1 生物生産性の保全...18 2-2-2 環境・資源管理による貧困削減...18 2-2-3 地球規模の取組みと地域社会における取組み...20 第 3 章 JICA が協力を行う意義・理念 ...21 3-1 国際的援助動向...21 3-1-1 環境問題と国際社会の取り組み...21 3-1-2 国連主催会議の主要決議...22 3-1-3 自然環境保全に関する主要国際条約の方針と方向性 ...23 3-2 多国間・二国間援助機関及び国際 NGO による自然環境保全分野の取り組み ...26 3-2-1 多国間協力機関の理念・方針...26 3-2-2 二国間援助機関の理念・方針...31 3-2-3 国際 NGO の取り組み ...32 3-3 日本が環境協力を行う意義・理念...37 3-3-1 わが国の環境 ODA 理念 ...37 3-3-2 環境基本計画における生態系保全と国際的取組み ...39 3-3-3 新・生物多様性国家戦略における国際的取組み...40 3-3-4 持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ ...41 3-4 JICA の環境協力の方向と援助実績 ...43 3-4-1 JICA によるこれまでの研究会等 ...43 3-4-2 JICA の環境分野区分と近年の援助実績の推移 ...46

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4-2 戦略の考え方−自然環境保全に必要な能力...49 4-3 目標体系図 ...52 4-4 自然環境保全協力の戦略...54 戦略目標 A 自然環境保全の為の政策・制度の強化...54 戦略目標 B 自然環境保全を実施する組織の運営管理能力の向上 ...62 戦略目標 C 自然環境保全についての意識の向上...66 戦略目標 D 自然環境保全の為の技術の開発と普及...71 戦略目標 E 自然環境保全の為の調査研究能力の向上...76 戦略目標 F 自然環境保全と地域社会開発の両立...81 第 5 章 自然環境と社会のかかわりに対応した能力向上...90 5-1 対象地域の考え方...90 5-1-1 人間活動との関連から見た地域の類型...90 5-1-2 生態系からみた対象地域の区分...92 5-2 対象地域の事例...94 5-2-1 地域住民による自然資源の利用により、自然環境の劣化が進んでいる地域の 例 ...94 5-2-2 環境への配慮を欠いた開発によって自然環境破壊が急速に進んでいる地域の 例 ...97 5-2-3 豊かな自然環境が残っており、近い将来破壊・劣化が懸念される地域の例 .100 第 6 章 自然環境保全協力の重点項目...102 6-1 地域住民による自然資源の管理能力を向上させる...102 6-2 生物多様性の高い地域・生態系を保全する...108 6-3 荒廃地の植生を回復する... 110 第 7 章 自然環境保全協力の案件発掘・形成の方法... 113 7-1 案件発掘形成の考え方... 113 7-1-1 自然環境の現状の把握... 113 7-1-2 特定の成果を想定した能力向上の組み合わせ... 114 7-2 案件発掘形成の為のマトリックス... 115 7-3 モデル PDM...120 7-3-1 生態系横断的な保全能力の向上を目指したプロジェクト ...120 7-3-2 各生態系における環境課題に着目したプロジェクト ...121 PDM 事例 1∼16...123 7-4 主な協力事例...139 7-4-1 自然環境保全に必要な能力向上を目指した案件...139 7-4-2 各生態系における環境課題に着目した案件...140

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8-2 地域住民の貧困削減を目指した活動...146 8-2-1 脆弱な自然環境にくらす貧困住民...146 8-2-2 代替生計手段の提案...146 8-2-3 市場ニーズとアクセス...146 8-3 発言機会の少ない者に対する配慮...147 8-4 自立した保全活動を促す動機作り...149 8-5 適正な手法の検討...150 8-6 自然環境保全協力に適した評価手法の検討...151 8-7 他の援助機関等との連携...156 8-8 NGO 等との協力体制の充実 ...156 8-9 日本国内基盤の整備・強化...157 図 1-1 森林・土地利用の変化とグローバル化の関連...12 図 1-2 自然環境の劣化と貧困・人口増加・経済開発の関係...13 図 1-3 アフリカにおける砂漠化と社会・経済的問題の相関図 ...14 図 2-1 貧困と自然資源利用の悪循環とその問題解決のポイント(農村地域) ...19 図 3-1 環境保全をめぐる国際社会の動向(1960 年代∼2002 年) ...22 図 4-1 自然環境の維持と人類活動の調和に向けた活動 3 要素...49 図 4-2 自然環境保全に向けた組織間連携(左)及びセクター間連携(右)のイメージ ...50 図 7-1 課題体系図 − 生態系の類型区分と環境課題... 114 図 7-2 案件発掘形成の為のマトリックス... 116 表 1-1 1981∼1988 年における熱帯諸国の森林消失原因... 11 表 1-2 伝統的農林業とグルーバル化の比較(環境への影響) ... 11 表 2-1 富裕層と貧困層の所得割合と格差(経済力による世界人口 5 分割比) ...19 表 3-1 国連主催の環境保全に関連する会議における主要決議 ...22 表 3-2 国際条約における自然環境保全に関連する主要方針...23 表 3-3 環境に係る条約の事務局調整会議による条約・国際合意の分類 ...24 表 3-4 環境保全に関わる国際機関・支援資金・金融機関の活動と方針 ...31 表 3-5 21 世紀に向けた開発支援構想(ISD)における政府行動計画のポイント...38 表 3-6 環境協力に対する政府方針...39 表 4-1 目標体系図−自然環境保全の戦略目標と中間目標...52 表 4-2A 「戦略目標 A 自然環境保全の為の政策・制度の強化」体系図 ...55 表 4-2B 「戦略目標 B 自然環境保全を実施する組織の運営管理能力の向上」体系図 ...63 表 4-2C 「戦略目標 C 自然環境保全についての意識の向上」体系図 ...67

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表 4-2F 「戦略目標 F 自然環境保全と地域社会開発の両立」体系図...83 表 5-1 1968∼1994 年におけるサラワク州の森林区分別面積変化 ...95 表 5-2 インドネシアの保護区と許可活動区分...96 表 7-1 自然環境保全関連の案件リスト(代表事例)...142 BOX 1-1 森林の減少...1 BOX 1-2 生態系のサービス機能価値...3 BOX 1-3 森林の多面的機能...4 BOX 1-4 地球の生物生産性と人類による利用...5

BOX 1-5 エコロジカル・フットプリント(Ecological footprint) ...6

BOX 1-6 我が国の地球環境問題への取組み例...9 BOX 1-7 グローバル化と伝統的農林業...12 BOX 1-8 ヒマラヤの森林破壊と下流部の洪水災害...14 BOX 1-9 サンゴ礁の破壊的漁法と漁村...15 BOX 2-1 自然環境・生態系の定義...17 BOX 3-1 生物多様性条約締約国会議の検討課題...24 BOX 3-2 世界銀行の環境戦略...30 BOX 3-3 JICA 環境分野分類別実績の推移 ...47 BOX 4-1 JICA における「環境保全に必要な能力」のこれまでの扱い...51 BOX 4-2 法令の分類−日本の環境関連法令の種類...56 BOX 4-3 我が国の環境に関する法①−森林・林業基本法...57 BOX 4-4 我が国の環境に関する法②−環境基本法...58 BOX 4-5 我が国の環境に関する法③−各分野に対応する法律 ...59 BOX 4-6 自然環境保全制度の例−我が国の自然環境保全制度(地域指定制度) ...60 BOX 4-7 生息地の保全体制−保護区・自然公園...61 BOX 4-8 希少野生動植物の保全体制...61 BOX 4-9 フィリピンにおける住民参加型森林管理(CBFM)にかかる行政令 ...61 BOX 4-10 国家レベルでの施策立案に関する環境保全に必要な能力向上支援の例−中米環 境と開発委員会の支援...63 BOX 4-11 ケニアにおける野生生物管理に関する訓練...63 BOX 4-12 マラウィにおける森林復旧・村落振興実証調査 ...64

BOX 4-13 国際ドナーと NGO の連携−WWF / Bank Alliance...64

BOX 4-14 西 天 山 に お け る 国 家 間 生 物 多 様 性 プ ロ ジ ェ ク ト (West Tien Shan Interstate Biodiversity Project) ...65

BOX 4-15 酸性雨問題に対しての国家間協力の例−東アジア酸性雨モニタリングネット ワーク ...65

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BOX 4-18 子供たちによる学校林造成を通じた環境教育...68

BOX 4-19 USAID による環境教育 ...68

BOX 4-20 インタープリテーション...69

BOX 4-21 意識向上をねらったキャンペーン的要素を含む広域的な参加型調査−我が国の 「身近な生きもの調査」...69

BOX 4-22 参加型資源調査の例 −Participatory Coastal Resource Assessment(参加型沿岸資源 調査) ...70 BOX 4-23 シーラカンスを通じた普及・啓発活動...70 BOX 4-24 現地事情(停電や部品欠乏)に配慮した PC の選択−インドネシア国生物多様性 保全計画及び森林火災予防計画...72 BOX 4-25 地元技術の活用 −黄河中流域の JICA 植林無償において...73 BOX 4-26 環境負荷の少ない生産①等高線耕作...73 BOX 4-27 焼畑にかわるアグロフォレストリーの導入...73 BOX 4-28 プロジェクトにより開発した造林技術とその活用 ...74 BOX 4-29 環境負荷の少ない生産② エビ養殖池の間にマングローブ林を残す ...75 BOX 4-30 自然環境保全に必要な自然科学調査の項目例 −我が国の自然環境保全基礎調査...78 BOX 4-31 自然環境保全に関連する学問領域...79 BOX 4-32 自然環境保全のための研究者養成−日本からの資金援助の例 ...80 BOX 4-33 サウディアラビア紅海沿岸生物インベントリー調査 ...80 BOX 4-34 地域住民・先住民と保護区...84 BOX 4-35 人口密度の高いジャワ島での国立公園設置−グヌン・ハリムン国立公園 ...85 BOX 4-36 エコツーリズム支援事業−公益信託経団連自然保護基金 ...86 BOX 4-37 貧困の緩和と自然環境の改善−ネパール村落振興・森林保全計画 ...87 BOX 4-38 ラトヴィア国ルバナ湿地帯総合管理計画調査...88 BOX 4-39 利害関係者間の関係の変革について...89 BOX 5-1 地球全体の生態系区分について...93 BOX 5-2 ケニアの 2 種類の保護区...97 BOX 5-3 世界土壌憲章...99 BOX 5-4 危機的生態系...100 BOX 6-1 森林セクターの状況と課題...105 BOX 6-2 個々の事例に合った適切な住民参加型管理...106 BOX 6-3 アグロフォレストリーの導入による地域住民主体の流域保全活動 −パナマ運河流域保全計画...107 BOX 6-4 生物多様性保全のための基盤づくり−インドネシア生物多様性保全計画 2 ...109

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BOX 6-6 砂漠の緑化により飛砂の被害を減らす取り組み−無償資金協力 中国黄河中流 域保全林造成計画... 111 BOX 6-7 ベトナム・メコンデルタ酸性硫酸塩土壌造林技術開発計画 ... 111 BOX 6-8 ブラジル国パラ州荒廃地回復計画調査... 112 BOX 8-1 植生の回復...145 BOX 8-2 流浪の民の素早い、多数の移動...147 BOX 8-3 中国の少数民族の暮らし...148 BOX 8-4 土地保有権の重要性①−コスタ・リカの例...149 BOX 8-5 土地保有権の重要性②−インドの例...149 BOX 8-6 かつての日本で行われた環境保全型焼畑造林...150 BOX 8-7 自然環境保全協力における評価の考え方の例...152 BOX 8-8 地域における環境保全計画の定量的環境指標例...153 BOX 8-9 保護区における観光・レクリエーション活動に関する評価指標例 ...154 BOX 8-10 評価の事例①−USAID によるフィリピンの沿岸資源管理プロジェクト ...154 BOX 8-11 評価の事例②−JICA ボルネオ生物多様性保全プログラムにおける保護区管理の ための指標例...155 BOX 8-12 評価の事例③−ラムサール条約:地域住民及び先住民の参加度合いを測る ...155 BOX 8-13 消費における格差...158

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1章 自然環境(生態系)

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の現状

1-1 地球の生産性と人類の活動

1-1-1 人類と自然環境(生態系) 人類は地球の自然環境(生態系)を生存基盤としている。例えば工業的な食料生産や木 材に代わる非生物建築材料の生産が実現し、自然環境から独立した生産体系を手に入れた ように見えても、大気、水資源(水循環)などは自然環境に依存せざるを得ない。その上、 自然環境はすぐれた自然景観や文化と伝統を育む場や素材など、人工物では代替のできな いものを人類に提供している。 一方、人類は野生動植物を食糧として採取し、森林を伐採して農地や宅地を開き(BOX 1-1 参照)、河川にダムを建設して水資源として利用するなど、自然環境に働きかけ、改変する ことによって多様な発展を遂げてきた。しかし、これら自然環境に対する人類の働きかけ は、技術や社会制度の発展、人口増加にともなって拡大し、自然環境に大きな影響を及ぼ している。例えば、森林伐採、生息地改変や乱獲による野生生物の減少、大気汚染、海洋 汚染など、陸上、海洋の区別なく世界的に自然環境の劣化が進行している。 【BOX 1-1】 森林の減少 1990 年における地球上の総森林面積は 39 億 6343 万 ha であったが、2000 年には 38 億 6946 万 ha となり、過去 10 年間に毎年 939 万 ha の森林が減少している。 この変化を地域的に見ると、一年間にアフリカ地域で 526 万 ha、アジア地域で 36 万 ha、オ セアニア地域で 37 万 ha、北・中米地域で 57 万 ha、南米地域で 371 万 ha の森林が減少してい る。一方、ヨーロッパ地域においては 88 万 ha 増加している。地域的にはアフリカ、南米にお いて森林の減少が著しい。 森林の変化を熱帯林・非熱帯林、天然林・人工林の比較で見た表を以下に示した。これを見 ると、熱帯地域の天然林が年間 1420 万 ha 減少し、うち 100 万 ha は人工林に転換されている のに比べて、非熱帯林は天然林、人工林ともに若干増加しており、熱帯天然林の減少が深刻で あることが分かる。 1990-2000 年における 1 年間の森林面積変化(百万ヘクタール/年) 天然林 人工林 全体 区分 減少 増加 変化量 天然林の転換 造林 変化量 変化量 熱帯林 -15.2 +1.0 -14.2 +1.0 +0.9 +1.9 -12.3 非熱帯 林 -0.9 +2.6 +1.7 +0.5 +0.7 +1.2 +2.9 全体 -16.1 +3.6 -12.5 +1.5 +1.6 +3.1 -9.4

出所:FAO, Global Forest Resource Assessment 2000

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1-1-2 自然環境(生態系)の価値 人類の活動との関わりの中で大きく変化しつつある自然環境(生態系)には、多くの役 割が認められている。多様な生物と環境要素によって構成される自然環境(生態系)の持 つ価値は、大別すると 3 つに区分することができる。 まず、直接的な価値として、自然環境が供給する有用物(財: goods)が挙げられる。つぎ に間接的な価値として、自然環境がその機能を通じて提供するサービス(ecosystem services, BOX 1-2 参照)がある。そして、人間の感性を育み、精神的な豊かさをもたらす自然環境か らの恵み(快適さ: amenity)がある。それぞれの例を以下に示す。 ◆ 自然環境が供給する有用物(財: goods) Š 食料、燃料、繊維、建材、薬用植物 Š 家畜や栽培植物の改良に役立つ野生生物遺伝子など ◆ 自然環境がその機能を通じて提供するサービス(ecosystem services) Š 水循環の維持 Š 気候の制御 Š 水と大気を清浄に保つ作用 Š 大気のガス組成の維持 Š 有用植物の種子の分散 Š 土壌の形成と維持 Š 河岸や海岸の侵食防止 Š 必須栄養素の貯留と循環 Š 汚染物質の吸収と循環 ◆ 人類の感性や精神生活への恵み(快適さ: amenity) Š すぐれた景観に対する感動やいやし機能 出所: 松田裕之 2000. 環境生態学序説 鷲谷いづみ 1999. 生物保全の生態学 これらの価値は明確に区分できるものではなく、例えば森林は直接的な価値に加え水源 涵養や土壌浸食防止、気候緩和や二酸化炭素の吸収など複数の間接的な価値をもつ(BOX 1-3 参照)。また、すぐれた景観が観光資源として利用されている場合などは、直接的な価 値よりも快適さの方が経済的には重要なこともある。

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BOX 1-2】 生態系のサービス機能価値 生態系は生物生産(食料生産や木材資源)に加え、水や大気の浄化機能などさまざまなサ ービス機能価値をもつ。生態系のもつサービス機能の価値を工学的手法に代替すると、例え ば干潟の場合 1ha あたり 6,696US ドル/年、地球全体の干潟では 1.656 兆ドル/年に達する価 値が産出されると試算されている。そして、地球全体での生態系を考えると、産出される価 値は 33.27 兆ドル/年にものぼると試算される。 農地、放牧地、湖沼における内水面漁業などで十分な生産性をあげるには、その基盤環境 としての地域生態系機能が健全に機能している必要がある。 自然の恵みの 1ha 当たりの経済価値(Costanza ら 1997 より) 物質循環 食料生産 浄化機能 生態系 (万km面積 2 (US$/ha/年) 総計 (兆ドル) 大洋 33,200 118 15 不明 8.38 河口 180 21,110 521 不明 4.11 藻場など 200 19,002 不明 不明 3.80 サンゴ礁 62 220 58 0.375 大陸棚 2,660 1,431 68 不明 4.28 熱帯林 1,900 922 32 87 3.81 干潟など 165 不明 466 6,696 1.648 湿原など 165 不明 47 1,659 3.23 総計(兆ドル) 51,625 17.08 1.39 2.28 33.27 出所: 松田裕之.2000.環境生態学序説. (注:原著ではあと 8 種類の生態系と 14 の部類を評価している。 総計はそれらも含めた値である。不明部分が多数あり過小評価となっている。)

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BOX 1-3】 森林の多面的機能 日本の森林は国土の約三分の二を占め、その存在が社会に与える影響は極めて大きい。 また、人々の生活の向上や都市化の進展などにより、森林に対するニーズが木材生産重視 から公益的機能重視へと転換している。 森林の多面的な機能の特徴は極めて多様な機能を持つことである。その理由は、森林の 立地条件やタイプや来歴によって機能の発現の仕方が異なるほか、人々の生活様式によっ て様々な恩恵をうけることによる。これらの機能は単独では必ずしも強力ではないが、多 くの機能を重複して発揮でき、総合的には強力な機能となることも、重要な特徴である。 森林の多面的機能は以下のように分類される。 ① 生物多様性保全機能(遺伝子の保全、生物種の保全、生態系の保全) ② 地球環境保全機能(二酸化炭素の吸収、炭素循環、蒸発散作用) ③ 土砂災害防止機能/土壌保全機能(表土の移動の防止、土壌における養分循環を通じた 生産力の維持) ④ 水源涵養機能(洪水の緩和、水質の浄化) ⑤ 快適環境形成機能(大気の浄化や気温の緩和、都市における騒音防止やアメニティー維 持) ⑥ 保健・レクリエーション機能(人々の肉体的、精神的向上にかかわる機能) ⑦ 文化機能(日本人の歴史性・民族性、気候・風土に根ざした地域性の形成) ⑧ 物質生産機能(木材、非木材林産物等の生産) 林野庁は、上記の機能の一部を定量評価し、1 年間に生みだす価値として試算している。 Š 二酸化炭素吸収 →97,533 千トン/年 ( 1 兆 2,400 億円/年) Š 表面侵食防止 →51.61 億m3/年 (28 兆 2,600 億円/年) Š 表層崩壊防止 →96,393ha/年 ( 8 兆 4,400 億円/年) Š 洪水緩和 →1,107,121m3/sec ( 5 兆 5,700 億円/年) Š 水資源貯留 →1,864.25 億m3/年 ( 8 兆 7,400 億円/年) Š 水質浄化 →1,864.25 億m3/年 (12 兆 8,100 億円/年) Š 木材生産 →1,998 万m3/年(1999) (3,838 億円/年(1999)) Š 食料(きのこ等)生産 →41.6 万トン/年(1999) (2,888 億円/年(1999)) 出所:地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について (2001, 日本学術会議答申) 1-1-3 地球の生物生産性と人類による利用 地球の陸上部の生物総生産量は、年間 1,320 億トン程度と推定されている(BOX 1-4 参照)。 人類は、この自然環境(生態系)の生産性機能に大きく依存しており、木材や農水産物な どとしての直接利用量及び放牧などによる間接利用量、さらに人類が原因である環境変化 のための生産性減少量を合計すると、総生産量のうち 44%を利用していると考えられてい る。 人類は、地球上の自然環境の機能に依存して社会を発展させてきたが、一方で土壌劣化、 森林の再生産性低下及び水系汚染などにより、自らの生存基盤の機能低下を招いてきた。 そして、地球生態系のもつ潜在的な一次生産力2に対して、すでに 13%程度(約 175 億トン) の生産量の直接低下が起きていると推定されている(BOX 1-4 参照)。 2 一次生産:基礎生産とも言う。一般には、植物体内の葉緑素(クロロフィル)で行う光合成による有機 物生産を指す。栄養塩、二酸化炭素などの物質と光のエネルギーが必要。これに関与する生物を生産者(一 次生産者)と呼ぶ。海洋や湖沼の場合は、主に植物プランクトンによる光合成によって一次生産が行われ る。

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このような自然環境の劣化が将来鈍化することなく継続するとすれば、次世代の生存基 盤が損なわれ、未来の人類社会における発展の可能性を縮小させてしまう畏れがある。ま た、貧困や飢餓、さらに人口増加と相まって、地域紛争など深刻な社会問題の要因ともな る。この自然環境の生産性の低下をどのように抑止するかが、生物生産機能の維持から見 た自然環境保全の最大の課題である。 【BOX 1-4】 地球の生物生産性と人類による利用 人類は地球の生物生産性に依存している。人類による直接利用は陸上生産量の 4%程度に 過ぎないが、家畜放牧などによる間接利用を加えると生産量の 31%程度を利用している。さ らに、人類活動が与えた環境変化(土地利用転換など)による生産量の減少も含めると、地 球全体の陸上生産量の 44%を利用していると推定されている(表①)。 地球上の生物個体数と見ると、例えばシロアリ類は 24 京(2.4 × 1017)程度ほどの個体 数が存在すると推定されているなどバクテリアや昆虫類の個体数が人類よりはるかに多い。 鳥類も個体数では 2000 億から 4000 億羽と人類より 2 桁多い。しかし、現存量で見ると人類 はシロアリの 3 倍程度、ゾウの 1000 倍程度存在すると推定されていて、生産物の独占的利 用を背景に、地球上で極めて優位な生物となっていることを示している(表②)。 表① 地球の生物生産性と人類利用 項 目 生産量(湿重) % 地球の総生産量 224 × 109 t 陸上総生産量 132 × 109 t (100) 人類による直接利用 5.2 × 109 t 4% 人類による直接・間接利用総量 40.6 × 109 t 30.7% 人類活動が与えた環境変化による生産性減少量 17.5 × 109 t 13.2% 人類活動が与えた環境変化を含む利用総量 58.1 × 109 t 44.0% 表② 地球上の生物の個体数と現存量 生物グループ 世界の個体数 世界の現存量(kg) バクテリア 4 × 1030 ∼ 6 × 1030 7.1 × 1014∼1.1 × 105 トビムシ類(Collembola) 2 × 1015 5 × 109 シロアリ類(Termites) 2.4 × 1017 1.4 × 1011 鳥 類 2 × 1011 ∼ 4 × 1011 ゾ ウ 4.3 × 105 ∼ 6.3 × 105 5.3 × 108 ∼ 7.3 × 108 家 畜 7.3 × 1011 人 類 6.0 × 109 3.9 × 1011

出所:UNEP-WCMC. 2000. Global Biodiversity

1-1-4 資源利用の地域差(エコロジカル・フットプリント) 自然資源の一人当たりの利用量(エコロジカル・フットプリント)には、国・地域によ り大きな差がある(BOX 1-5 参照)。この資源利用の差は、先進国が地球の生産力を優先的 に利用し富を集中させる一方、途上国に貧困層が多く存在する要因ともなっている。地球 の自然環境保全のためには、先進国の過剰な資源利用を抑制しつつ、途上国の福祉向上の ため資源利用の公平性をどのように確保するかも大きな課題である。

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BOX 1-5】 エコロジカル・フットプリント(Ecological footprint)

「経済活動による生態系の踏みつけ面積」であり、ある特定地域の経済活動、あるいは国・ 市民の生活を支えるためにどれだけの土地(水域)が必要かを算出し、面積単位として表し た指標である。世界平均では、耕作地など生態系の生産機能とエネルギー利用を通じて人類 が利用している地球の面積は、一人当たり 2.01ha(陸地 1.50ha、海洋・淡水域 0.51ha)で ある。これが、アラブ首長国連邦(16ha)、アメリカ合衆国とシンガポール(12ha)、クェー ト、デンマーク(10ha)などでは一人当たりの利用面積が平均の 5 倍以上となり、日本は 4.15ha(陸地 2.25ha、海洋・淡水域 1.90ha)と 2 倍程度と算出されている(1996 年)。

このことは、日本が国土面積の 14 倍にあたる面積を海外での食料生産、エネルギーに依 存していることを示している。地域的には北米のフットプリントが際立って大きい。これら の地域は、経済活動・生活水準維持のため、世界平均の数倍の資源を利用して、地球環境に 負荷を与えていることになり、負荷の軽減と平等化が求められている。

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1-2 地球環境問題と地域社会

1-2-1 地球環境問題 個人や個別企業が自然環境(生態系)に与える負荷は少なくても、それが地球規模で集 積されると一地域や一国の課題にとどまらず、広域的に影響を及ぼす地球環境問題となる。 昨今、先進国における大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済構造や、途上国におけ る人口の爆発的な増加、急激な都市化や工業化、森林の伐採、生活資源としての自然資源 の過剰な利用などにより、地球環境は大きな脅威にさらされている。 環境省では地球環境問題への国際的取組みの推進として、①地球の温暖化の防止、②オ ゾン層の保護、③酸性雨の防止、④海洋汚染の防止、⑤有機廃棄物の越境移動の規制、⑥ 森林の保全、⑦生物多様性の保全、⑧砂漠化への対処の 8 項目を実施しており、これらは 主な地球環境問題の分類と考えられる。 このうち、①から⑤は主に製造過程の廃棄物や排出物など、ブラウン・イシューとされ る地球環境問題、⑥から⑧は再生資源の過剰利用や土地利用による自然環境の改変など主 にグリーン・イシューとされる地球環境問題である。 グリーン・イシュー分野については、ターゲットとする生態系別の環境課題について、「第 7 章 自然環境保全協力の案件発掘・形成の方法」で扱う。また、オゾン層の破壊は原因が フロンなど工業製品に限定され、その利用の中止など対策はすでに講じられているために 除く。有機廃棄物の越境移動に対しても、規制対象の明確化などの必要な規制が取り決め られているので除く。そして、ここではブラウン・イシューとして、①地球の温暖化の防 止、③酸性雨の防止、④海洋汚染の防止、の 3 つの環境課題について解説する。 (1) 温暖化 薪炭の燃焼、森林伐採・開墾など人類活動に起因する二酸化炭素の排出は、火の利用と 農業の開始時から始まった。しかし、排出規模が少なかった産業革命以前は地球生態系の 中で森林の再生産過程などによって吸収され、少なくとも最終の氷河期(ヴュルム氷期、1 万年以前)以降は、二酸化炭素が一定濃度(280ppm 前後)以上に高まることはなかった。 しかし、18 世紀中ごろにイギリスで産業革命が始まった時から、石炭、続いて石油と化 石燃料の燃焼による空気中への二酸化炭素の放出が主要な原因となり、一方で吸収源であ る森林の減少が進んだ結果、大気中の二酸化炭素濃度が増加している。二酸化炭素に加え、 20 世紀半ばからはフロンなど工業生産された温室効果ガスも増えている。このため、産業 革命以前に比べ空気中の二酸化炭素濃度は 1.27 倍、355ppm 程度まで増加している。二酸化 炭素など温室効果ガスの直接影響かどうかについては不明な点が多いが、世界の気温は 100 年間で 0.3∼0.6℃上昇している。

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地球温暖化の結果として、①寒冷地での植物生産性が高まる、②寒冷化(氷河期)の影 響を緩和できる、などよい影響も示唆されているが、①極地・高山の氷河溶解による海水 面の上昇、低地の浸水、②地球規模の気候変化(降雨パターン、海流などの変化)、③熱帯 生態系の北上による自然環境の変化(乾燥化など)や疾病の拡大、などの悪影響がより深 刻と考えられている。 温暖化防止には、二酸化炭素の工業的な固定なども提案されているが、温室効果ガスの 排出抑制と吸収源としての生物資源を維持することが効果的である。 出所:不破敬一郎編. 1994. 地球環境ハンドブック 宇沢弘文. 1995. 地球温暖化を考える (2) 酸性雨 汚染物質がない自然条件下でも降雨は中性でなくやや酸性であるが、pH5.5 程度以下の酸 性の雨は、大気中の硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)の影響と考えられている。石 炭・石油の燃焼によりこれら酸性物質が大気中に放出され、それが降雨とともに落下する と酸性雨となり、植物や建物に直接被害を与え、さらに湖沼や土壌の酸性化により地域の 動植物・生態系に重大な影響をもたらす。 酸性雨は大気中の酸性物質に由来するため、排出地よりも卓越風で運ばれた風下地域で 影響が大きい。世界的には、ヨーロッパ−北欧、北米東北部、東アジア地域で酸性雨問題 が深刻であったが、経済発展により今後は東ヨーロッパや開発途上国でも酸性雨問題が深 刻化するおそれがある。酸性雨対策としては、火力発電所に硫黄物質除去装置をつけるな ど、排出源対策が重要である。 (3) 海洋汚染 すべての汚染物質は水系を通じて最終的に海洋に運ばれ、海洋汚染を引き起こす。しか し、海洋は陸上水系に比べ、圧倒的に多い水量をもっているため希釈されることや、深海 部などのモニタリングが困難なためその汚染実態がつかみにくい。 海洋汚染としては、①化学物質汚染(PCB、有機水銀汚染など)、②油汚染、③プラスチ ックゴミなどによる汚染、などに加え、④富栄養化あるいは水温上昇によるプランクトン の異常発生と溶存酸素の消費(赤潮現象)がある。 閉鎖海域では周囲の陸上部からの汚染物質流入が多いことに加え海水の循環が少ないた め、海生生物の化学物質汚染やプランクトンの異常発生などの問題がより深刻である。 なお、地球環境問題への我が国による取組みの一例として、地球環境研究総合推進費に ついて BOX 1-6 で説明した。

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BOX 1-6】 我が国の地球環境問題への取組み例 地球環境問題への我が国の取組みの一つとして、「地球環境研究総合推進費」が挙げられ る。これは、地球環境問題に関係する省庁の国立試験研究機関など広範な分野の研究機関や 研究者が連携し、学際的、省際的、国際的な観点から総合的に地球環境保全に資する調査研 究を推進することを目的として、1990(平成 2)年度に環境省が設立した。内外の地球環境 問題をめぐる動向を踏まえ、行政との緊密な連携を図りながら地球環境研究を総合的に推進 するものである。 事業の対象分野は、①オゾン層の破壊、②地球の温暖化、③酸性雨、④海洋汚染(人の活 動による海洋環境の変動を含む)、⑤熱帯林の減少、⑥生物多様性の減少、⑦砂漠化、⑧人 間・社会的側面からみた地球環境問題及び⑨その他の地球環境問題の 9 項目であり、それぞ れ、重点研究、一般課題別研究及び開発途上国等共同研究の 3 区分に分類されている。 これに加え、総合化研究として複数の分野にまたがる研究の成果を活用し、これらを総合 化する研究あるいは複数の分野に共通する研究対象について分野横断的に行う研究、先駆的 地球環境研究として具体的な理論・手法等としては未確立ではあるが、その確立によって今 後の地球環境研究の飛躍的な進展が期待される研究、京都議定書対応研究として京都議定書 の円滑な実施に資することを目的とする緊急政策対応研究なども対象となっている。 1990(平成 2)年度から 2000(平成 12)年度までの各分野における研究課題件数の推移 を見ると、合計 449 件(のべ件数(年 x 案件):同一研究課題が複数年実施されるため実際 の案件数はこれより少ない)あり、そのうち地球の温暖化研究が最も多く(159 件;35%)、 次いでオゾン層の破壊についての研究が多い(64 件;14%)。 地球環境研究総合推進費による分野別研究課題件数の推移 課題 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 のべ件数 ① オ ゾ ン 層 の 破壊 7 8 8 6 5 5 5 5 5 5 5 64 ②地球の温暖化 14 17 18 14 12 11 14 15 15 14 15 159 ③酸性雨 3 4 4 4 4 4 3 3 3 4 4 40 ④海洋汚染 3 3 3 4 4 4 4 3 3 3 3 37 ⑤熱帯林の減少 4 5 5 5 5 5 4 3 3 1 2 42 ⑥ 生物 多様性 の 減少 - 1 2 3 3 3 4 5 4 3 3 31 ⑦砂漠化 - - 1 1 1 1 2 2 3 1 1 13 ⑧人間・社会的側 面 か ら み た 地 球環境問題 - - - 3 4 4 4 5 7 27 ⑨ その 他の地 球 環境問題 - 1 1 1 2 1 - - - 6 総合化研究 1 2 3 3 3 2 2 2 1 3 2 24 先 駆的 地球環 境 研究 - - - 1 1 1 - 3 京 都議 定書対 応 研究 - - - 1 2 3 計 32 41 45 41 39 39 42 43 42 41 44 449 出所: 環境庁企画調整局. 平成 2 年度∼11 年度 地球環境研究総合推進費研究成果概要集 環境省地球環境局ホームページ http://www.env.go.jp/earth/suishinhi/index.htm

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1-2-2 グローバル化による地域社会への影響 東西冷戦時代が終わり、市場経済化、貿易・投資の自由化など経済活動のグローバル化 が加速されている。世界的な市場経済化への途上国の適切な参画は、貧困解消、福祉向上 に重要であるとして、JICA は条件が整った国の WTO 加盟支援なども行っている。 しかし一方でグローバル化は、伝統的なくらしを営んできた地域への大型国際資本の参 入といった外部からの要因をつくり、①不適切な土地利用、②再生可能資源の過剰利用、 ③汚染物質排出の増加など、自然環境の劣化や地球環境問題の深刻化をまねく危険も含ん でいる。 国連開発計画ではグローバル化を次のように捉えている。 ◆ グローバリゼーションの三つの変化 空間の縮小: 人々の生活、仕事、所得、健康が、地球の裏側で起きたできごとや自分がまったく知らな いできごとによって影響されるようになった。 時間の短縮: 市場と技術は急速に変化し、かけ離れた場所での行動が同時にとられ、遠く離れた人々の 生活に影響を与えている。 国境の消滅: 国境が消えつつある。貿易、資本、情報の流れにおける国境だけでなく、考え方や規範、 文化、価値観といった面でも国境が消えている。さらに経済政策面でも国境が消滅しつつ あり、多国間協定や世界市場で競争力を維持しなければならないという圧力が、国内政策 の選択肢を制限しているばかりか、多国籍企業やグローバルな犯罪組織が地球規模の活動 を繰り広げている。 ◆ グローバル経済における急速で不均衡なグローバル統合 最も豊かな国に住む全世界の富裕層上位 20%は、拡大している輸出市場の 82%、海外直接 投資の 68%を欲しいままにしている。他方、最も貧しい国に住む全世界の貧困層下位 20% の分け前は、それぞれ 1%程度に過ぎない。こうした傾向は経済の停滞と人間の開発の遅れ を助長した。そして、多くの途上国をグローバルな経済成長の最も活気あふれる分野から 置き去りにした。特にサハラ以南のアフリカ諸国では、1980、1990 両年代に 1 人当たりの GNP がさらに減少した。このように経済の統合は、途上国や東欧・CIS の移行経済国を、グ ローバルな機会を享受している国とそうでない国とに二分している。この不均衡な分割は、 所得水準や人間開発レベル、さらに地域間にも広がっている。 出所:国連開発計画.1999.グローバリゼーションと人間開発 また、外部資本が地域社会にもたらす自然環境の劣化の例を以下に挙げる。 ◆ 熱帯林の商業伐採 輸出材生産のための森林伐採が、熱帯林の自然環境を改変するとともに、地域住民の森林 資源利用を制限する。表 1-1 はインドネシア、カメルーン、ブラジルにおける森林消失の 原因を示したものである。インドネシア、カメルーンでは移動耕作(焼畑)が、ブラジル では牧場開拓が大きな割合をしめていることがわかる。

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大規模プランテーション造成 輸出作物栽培のための大規模な土地開発が、地域の自然環境を改変するとともに、労働者 の移住が薪炭利用増加など地域の自然環境に二次的な影響をもたらす。 ◆ 沿岸環境の改変 沿岸域は工業用地・港湾開発、大規模養殖池造成など外部資本による開発の対象とされや すく、その結果、汚染物質の浄化など沿岸の生態系機能が失われるとともに水産物生産性 も低下し、地域社会の持続性が失われる。 表 1-1 1981∼1988 年における熱帯諸国の森林消失原因(消失にしめる各要因の割合 (%)) 原因 インドネシア カメルーン ブラジル 林業 9 0 2 農業(計) 80 100 89 移動耕作 59 92 13 牧草地 0 0 40 商品作物・一般農地 21 8 36 水力発電 0 0 4 その他 11 0 5 出所: OECD 編. 1994 .環境と貿易 FAO ホームページ. http://www.fao.org 伝統的な農林漁業を生業とする地域社会と、グローバル化・市場経済が導入された農林 漁村社会を、域内経済及び環境資源利用に注目して比較し、表 1-2 に整理した。さらに、図 1-1 はグローバル化に伴う外部要因が森林や土地の利用にどのような変化をもたらすかを示 している。 表 1-2 伝統的農林業とグルーバル化の比較(環境への影響) 農業 林業 水産業 項目 グローバル化 伝統農法 グローバル化 伝統的林業 グローバル化 伝統的漁業 特徴 少品種大面積栽培(モノカ ルチャー) 多 品 種 小 面積栽培 大 面 積 皆 伐 採、商業材生 産 小 面 積 択 伐、生活用 材生産 少数種(商品 種)大量漁獲 (地域外消費) 多数種少量 捕獲(地域 内消費) 肥料・ 更新・ 養殖 多肥(金肥)、 多農薬 有 機 肥 料 、 農 薬 少量 人工造林 自然更新 大規模養殖、 魚病薬投入 小 規 模 養殖、無薬品 種子・ 品種 企業種子(多収穫種子) 伝 統 的 種子 早生樹種 地域樹種 養殖魚種(外来種) 地域魚種 資本 大(基盤整備、農機具、灌漑 施設など) 小 大(伐採、林 道、加工、植 林など) 小 大(漁船、養 殖、加工、輸 送、保存など) 小 体制 企業方式 家 族 ・ 地域社会 企業・コンセッション方式 家族・地域社会 企業方式 家族・地域社会

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制度面 森林(自然植生)の減少・土地利用変化 林業的利用 輸出用 伐採 地元 消費 農業・養殖利用 焼畑移 動耕作 定着農業 輸 出 作 物 プ ラ ンテーション 地元の 食料生産 養魚池開拓 その他 森林 火災 違法伐採・違法開拓 慣習的土地制度 の変化(地域住 民による伝統的 管理の減退) 利用形態 伐採権譲渡 太枠:グロー バル化要因 図 1-1 森林・土地利用の変化とグローバル化の関連 出典:武内・田中編. 1998. 生物資源の持続的利用. 一部改変 【BOX 1-7】 グローバル化と伝統的農林業 地域社会・産業がグローバルなシステムに統合されるにつれ、商業伐採や商品作物栽培な ど、地域外からの経済要因や、そのための労働者の移動・環境資源利用など副次的要因が増 加していく。その結果、環境が許容できる量を上回る利用圧がかかり、自然環境・資源が劣 化して、地域の持続的発展や地域文化に悪影響を与えることがある。これを、伝統的地域社 会と市場経済導入後を比較して模式的に対比すると次のように整理される。 伝統的地域社会・生業(伝統的農林漁業) Š 域内経済 Š 貨幣流通少ない(GDP、所得低い) Š 貧富格差少ない Š 環境資源利用 - 持続的資源・土地利用 - 集落周辺森林・草原は共有地的 利用 - 個人土地所有/共有地 Š 農村人口多い Š 多様な地域文化 市場経済導入(グローバル化)社会 Š 世界経済への組み込み Š 貨幣流通増加(GDP 増加、所得向上) Š 貧富格差大 Š 環境資源利用 - 土地利用転換(モノカルチャー、産業 造林・植林、商業養殖) - 集落周辺森林・草原資源の利用圧の高 まり - 大土地所有者増加 Š 農村人口の都市への流入 Š 文化の多様性減少

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1-2-3 自然環境の劣化と貧困 自然環境の劣化は、開発途上国の貧困問題とも密接に関わっている。地方の貧困者層は、 小規模農林漁業従事者として自然資源の生産力に強く依存している。貧困ゆえに技能や教 育も低く、他の産業に携わる機会が与えられないために資源の採取に依存することが多い。 伝統的な社会では、このような資源採取は自然の回復力の範囲にとどまっていたが、近 年の人口増加や経済開発政策による土地改変や汚染物質の増加などにより、自然回復力を 上回る圧力が自然環境にかけられている。それが自然環境の劣化をもたらし、さらに貧困 に拍車をかける「自然環境の劣化と貧困の悪循環」が起こる(図 1-2)。 この自然環境の劣化と貧困の悪循環は、地域・生態系ごとに要因や影響が異なる。しか し、自然環境の劣化はいずれも地域の生産性の低下を生み、それが地域社会の不安定化や 貧困の拡大などをもたらしている。 食料不足 雇用機会不足 人 口 増 加 を 吸 収 す る に は 開 発が必要 貧困緩和には開 発が必要 自然環境の劣化と影響 Š 生物資源生産性低下 Š 生態系の安定性低下 Š 自然災害の増加 人口増加は環境 に対する負荷を 増加させる 貧 困 の 中 で は 環 境 保 護 の資金的・心 理 的 余 裕 が ない 生 活 の 質 (BHN)の低 下が起こる 貧 困 の 中 で は 人 々 は 自 然 資 源 を 収 奪 せ ざ る を えない 労働人口の増加による貧困緩和 の考え、適切な家族計画の不足 公 害 や 資 源 消費の増加 経済開発 Š グローバリゼーション Š 大規模開発 貧 困 人口増加 図 1-2 自然環境の劣化と貧困・人口増加・経済開発の関係 出所:西垣・下村. 1993. 開発援助の経済学. 一部追加

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1-3 アフリカにおける砂漠化と社会・経済的問題の相関図 人口爆発 人為的要因 過放牧 過耕作 過度の薪の採取 無理な開墾 自然的要因 乾燥化 砂漠化 植生の減少・劣化 表土流出 土壌劣悪化 固定砂丘の再移動 食料生産の減少 地力の低下 生活の質の低下 多産傾向 貧困 高い乳幼児死亡率 労働力確保 社会経済問題 内戦 農業政策の破綻 商品作物価格長期下落 都市偏重政策 人口集中 アグロビジネス 超国籍企業の独占経営 土地と水資源の使い捨て 食料 危機 農村の荒廃 自作農民層の崩壊 政情不安 破産 社会的不安 疾病蔓延 難民 土地を棄てる 小干ばつ 大飢餓 都市域へ集中 スラム化・失業者 越境 人口ストレス 国際的紛争 大干 ばつ 出所:不破(編著). 1994. 地球環境ハンドブック 【BOX 1-8】 ヒマラヤの森林破壊と下流部の洪水災害 ヒマラヤ下流部では近年洪水被害が多発しているが、それには下図に示すような森林破壊、 土壌流出の増加などが影響していることが示唆されている。 自然環境の悪化と下流部の災害増加に関する「ヒマラヤの図式」 出所:小野. 1999. ヒマラヤでかんがえたこと.岩波ジュニア新書 人口の爆発的増加 燃料としてのタキギの需要増大、耕地(棚田) の拡大、家畜数の増加(牧草地の拡大) タキギの減少 家畜フンの燃料化 土地の不毛化 耕地の放棄 河川によって流さ れる土砂量の増大 バングラディシュ、ビバール 州での洪水被害の増大 大規模な森林破壊 土壌浸食の 活性化 山地からの 流出量の増大 死亡率の低下と高い出生率

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BOX 1-9】 サンゴ礁の破壊的漁法と漁村 東南アジアのサンゴ礁地域では、毒物(シアン化物)の使用やダイナマイトの使用等、破壊 的な漁法が見られる。コスト効率面を考えると、ダイナマイト漁は他の漁業に比べて 1 日あた りの操業時間が短くて労働生産性は高く、伝統的な漁法に比べて有利である。しかし、破壊的 漁法は漁師にとって危険であるだけでなく、生息地としてのサンゴ礁に大きな害を与え、その 後の生産性を著しく悪化させる。フィリピンのオランゴ島では、1950 年に 20kg/人/日であっ た漁獲高が、1998 年には 2kg/人/日に低下してしまった(下図)。漁獲高の低下により毎日の 食糧としての必要分を賄うのがやっとであり、販売量は減少し貧困の度合はさらに増す。フィ リピンの漁業法では破壊的漁法を全面的に禁止している。しかし、①資源の持続的利用への漁 民たちの意識がまだまだ低いこと、②ダイナマイト漁がコスト安であること、③他の漁法に初 期投資するだけの資本が不足していること、④取締りが不充分であること、などから各地で破 壊的漁法が依然として続けられている。 フィリピン、オランゴ島における漁獲高の推移(1950-1998 年) 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 1950 1960 1970 1980 1990 1998 漁獲 高︵ k g /人 /日︶ 0 年

出所: White, A. and Cruz-Trinidad, A. 1998. The Values of Philippine Coastal Resources White, A. and Cruz-Trinidad, A. 1998. The Values of Philippine Coastal Resources 目合いの細か い網の使用 シアン化ナトリウ ム・ダイナマイト 漁の開始 1-2-4 なぜ自然環境の保全か(人類生存基盤の保全) 1-2-4 なぜ自然環境の保全か(人類生存基盤の保全) 既に述べたように、人類は地球の陸上生物生産量の 44%を利用している(BOX 1-4 参照)。 そして、生物資源としての利用の他に、水資源、大気・水の浄化機能、すぐれた景観など、 自然環境による多様なサービス機能の恩恵を受けている。また、世界各地に見られる文化 や伝統は、長い歴史の中で生活の場としての自然環境のもとに育まれてきた。 既に述べたように、人類は地球の陸上生物生産量の 44%を利用している(BOX 1-4 参照)。 そして、生物資源としての利用の他に、水資源、大気・水の浄化機能、すぐれた景観など、 自然環境による多様なサービス機能の恩恵を受けている。また、世界各地に見られる文化 や伝統は、長い歴史の中で生活の場としての自然環境のもとに育まれてきた。 現在急速に進行している自然環境の劣化は、このような人類の生存基盤が失われていく ことに等しい。人類は自然環境との関わり方を再検討し、環境と調和した社会の形成と開 発を実現する必要に迫られている。自然環境を保全するための適切な活動を起こすことは、 人類の最優先課題と言える。 現在急速に進行している自然環境の劣化は、このような人類の生存基盤が失われていく ことに等しい。人類は自然環境との関わり方を再検討し、環境と調和した社会の形成と開 発を実現する必要に迫られている。自然環境を保全するための適切な活動を起こすことは、 人類の最優先課題と言える。 そして自然環境の保全は先進国の発展のためだけでなく、開発途上国における環境劣化 と貧困の悪循環の解消であり、持続可能な開発に向けた人類の生存基盤の確保である。こ のためには地球規模での取り組みが必要であり、自然環境の保全に向けた国際協力は、今 日の人類の安全保障にとって重要な役割を担っている。 そして自然環境の保全は先進国の発展のためだけでなく、開発途上国における環境劣化 と貧困の悪循環の解消であり、持続可能な開発に向けた人類の生存基盤の確保である。こ のためには地球規模での取り組みが必要であり、自然環境の保全に向けた国際協力は、今 日の人類の安全保障にとって重要な役割を担っている。

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2章 自然環境の保全とは

2-1 自然環境保全とは

2-1-1 自然環境と自然環境保全の定義 自然環境や生態系に関しては、関連する国際条約や日本の国内法が定義を示している (BOX 2-1 参照)。これらの国際条約・国内法に共通して見られる点として、 (1) ある地域における気候・地形・土壌・水環境など非生物要因と生物群集および生物間 の相互関係をもって構成される系であり、 (2) 系内では生産者−消費者−分解者を通じた物質循環とエネルギーの流れがあり、 (3) 人間生活も自然環境あるいは生態系に依存しており、 (4) その保全が人類の生存基盤として重要であり、 (5) 文化・伝統の多様性も地域の生態系・自然環境に関連している、 ことが挙げられている。 自然環境保全分野における JICA の協力について、その対象、範囲、方向付けを検討する ために、このような国内法や国際条約等における定義を参考にした。また、「生態系」を捉 え、定義づけるうえでは、自然資源に大きく依存している人々の生活といった視点を的確 に取り入れていくことが、JICA の協力を考えるうえでは特に重要な点である。 更には、ODA における自然環境保全に係る事業に対して、日本国内の理解を深め幅広い 支援を求めるためには、わかりやすい用語や表現を用いることも重要である。このような 観点から、一般的には「生態系」よりも「自然環境」という用語の方が理解されやすく、 保全あるいは協力の対象としてのイメージがつかみやすいと考える。特に、一般の人が「生 態系」という用語から思い浮かべるのは、森林生態系、湿地生態系といった特定の自然環 境における物質循環やそこにくらす野生生物のくらし等だと予想され、JICA の国際協力の 対象としては狭すぎる印象を与えかねない。国際協力の対象は、人間の営みの場であるこ とが一般の人々にも分かりやすく表現される方が好ましい。 このため、JICA の自然環境分野の協力においては、人々の生存基盤としての「生態系」 を含めた概念を示すために、「生態系」に代えて「自然環境」という言葉を用いることとし た。 そして、「第 1 章自然環境(生態系)の現状」で述べたような自然環境の特徴を考慮し、 本指針では自然環境保全を、「人類の様々な経済活動(一次産業のみならず、エネルギー産 業や貿易、投資)を含むセクター横断的な意味での、自然環境の理解や自然資源の適切な 利用・保護を実現するための能力の向上を通じて、自然環境と人間活動の調和を図ること」 と定義する。

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以上のように定義付けられた自然環境保全に向けた JICA の具体的協力内容や手法につい ては、「第 4 章自然環境保全協力の戦略」、「第 5 章自然環境と社会のかかわりに対応した能 力向上」、「第 6 章自然環境保全協力の重点項目」及び「第 7 章自然環境保全協力の案件発 掘・形成の方法」の各章において順を追って説明する。 【BOX 2-1】 自然環境・生態系の定義 岩波生物学辞典第 4 版では生態系を「ある地域にすむすべての生物とその地域内の非生物 的環境をひとまとめにし、主として物質循環やエネルギー流に注目して、機能系として捉え た系」と説明している。そして、自然環境関連国際条約や国内法などでは、生態系について 次のような定義がされている。 国際条約の定義 ◆ 生物多様性条約(第 2 条) 「生態系(Ecosystem)とは植物、動物、微生物群集とそれをとりまく非生物環境が機能 的な系として相互関連する動的複合体である。("Ecosystem" means a dynamic complex of plant, animal and micro-organism communities and their non-living environment interacting as a functional unit)」

◆ ラムサール条約(前文)

本文では明確な生態系定義は述べてないが、湿地の生態学的機能とその維持の重要性 を次のように述べている。「締約国は、人間とその環境とが相互に依存していることを認 識し、水の循環を調整するものとしての湿地及び湿地特有の動植物特に水鳥の生息地と しての湿地の基本的な生態学的機能(fundamental ecosystem function)を考慮し、湿 地が経済上、文化上、科学上及びレクリエーションにおいて大きな価値を有する資源で あること及び湿地を喪失することが取り返しのつかないことであることを確信し…」 国内法などでの定義 ◆ 自然環境保全法(環境省) 「(自然環境は)経済活動のための資源供給の役割を果たすだけでなく、それ自体が豊か な人間生活の不可欠な構成要素をなす」と捉えている。 ◆ 生物多様性行動計画(環境省、他) 生物多様性条約の定義に従い「生態系は、ある地域における生物群集と非生物環境が相 互関係をもったまとまりの中での物質循環やエネルギーの流れからなる機能系として捉 えられるものである」としている(生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会、1999)。 ◆ JICA JICA では、「自然環境保全分野プロジェクト方式技術協力発掘・形成の手引き」におい て(2001 年 1 月)、自然環境保全を「森林や海洋、湿地・湖沼・河川・沿岸など、人類の 生存基盤であるかけがいのない生態系の、持続可能な利用を含めた保全」と説明した。

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2-2 自然環境保全への取り組み

2-2-1 生物生産性の保全 生物生産に関わる自然環境の保全に関しては、次の 3 項目への対応が緊急の課題と考え られる。 (1) 生物資源の継続的な生産性確保 これまでの人類の活動により、地球上の潜在的な生物の生産力がすでに約 13%低下 している(BOX 1-2 参照)。不適切な資源・土地利用によってさらに生産力が低下する と、食料生産など人類の生存基盤がおびやかされるため、地域が本来持っている生態 系の生産性を維持する必要がある。土壌保全、淡水資源保全、農業水産業等での在来 種の活用などが考えられる。 (2) 生態系の安定化 生態系には、炭素吸収(光合成)によって気候変動を緩和する機能、汚染物質を捕 捉し浄化する機能、多様な種の相互関係が特定種の突発的な増加を抑止する機能など、 安定性を維持する機能が備わっている。しかし、殺虫剤の多用などによって植物の受 粉を助ける昆虫等の種が減少したり、捕食者の減少や生息地改変による害虫や疾病を 媒介する動物の種の増加等が見られ、それが食料生産への影響のみならず、野生動植 物や疾病の増加といった問題を起こしている。また、干潟の埋め立てや河川の改修が 生態系のもつ水質の浄化機能を低下させ、水質の変化を引き起こす事例もある。この ため、地域生態系が本来もっている安定性を維持するための保全行動が必要であり、 環境に配慮した開発計画の策定・実施や農業技術の導入等が求められる。 (3) 自然災害の防御 自然植生被覆など、自然環境が本来もっていた災害への抵抗力が土地改変などによ り低下している。その結果、ヒマラヤ、中米などを中心に、山岳地での土砂崩れ増加 等がおきている。また、マングローブ等の海岸植生やサンゴ礁などが破壊されて波か らの護岸機能が弱まり、海岸浸食が熱帯の沿岸で発生している。突発的な災害(土砂 崩れ、台風など)に対して、生態系が本来持っている機能が発揮され、住民が安心し てくらせるための保全活動が必要である。山地斜面の森林回復による土砂崩れ防止、 マングローブ回復による沿岸浸食防止などが挙げられる。 2-2-2 環境・資源管理による貧困削減 世界では様々な方法で貧困削減を目指してきたが、貧困層はむしろ増加傾向にある(表 2-1)。貧困層の増加は、所得の不均衡な配分が主要因だが、環境の悪化と資源の劣化も作用 する。図 2-1 では、薪炭利用、耕地、家畜・放牧地、水資源需要に注目し、農村部における 貧困、自然資源の不適切な利用とさらなる貧困、そしてその解決に向けた方策の要点を整 理した。

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地域の生産力を越えた自然資源・生態系からの資源採取は、干ばつや強制的定住化など 自然・社会環境の変化によっても促進される。都市部・都市近郊では、生活に密着した環 境分野課題としてスラム化にともなう水質汚濁や廃棄物の問題があり、さらに、都市近郊 では農村地域と同様、薪炭採集にともなう森林・植生改変などの課題もある。 表 2-1 富裕層と貧困層の所得割合と格差(経済力による世界人口 5 分割比) 地域 年 しめる所得割合 最貧困層 20%の しめる所得割合 最富裕層 20%の 格 差 世界 1960 年 2.3% 70.2% 30:1 1970 年 2.3% 73.9% 32:1 1980 年 1.7% 76.3% 45:1 1989 年 1.4% 82.7% 59:1 1997 年 74:1 インドネシア 1996 年 8.0% 44.9% 6:1 ザンビア 1996 年 4.2% 54.8% 13:1 メキシコ 1995 年 3.6% 58.2% 16:1 ブラジル 1995 年 2.5% 64.2% 26:1 米国 1994 年 4.8% 45.2% 9:1 出所:北沢・村井編著. 1995. 顔のない国際機関、IMF・世界銀行. 世界資源研究所. 世界の資源と環境 2000-2001 UNDP. 1999. Human Development Report 1999.

自然資源(生態系)依存 森林減少 森林保全/植林/代 替エネルギー 水産資源悪化 過剰利用/ 土壌劣化 適切な土地利用計画 適切な水産資源管理 労働増加(薪 炭採集・水) 観光資源 劣化 観光客減少 飢餓 健康状 況悪化 人口増加 水資源悪化 調理・照明エネル ギー(薪炭依存) より多くの耕地 より多くの 家畜・放牧地 より多くの水資源 適切な水資源管理 生態系・自 然資源管理 生活向上 誘導シナリオ 適正な管理を行うべき ポイント (生態系保全技術協力分野) 生産性低下 より多くの漁獲 貧 困 2-1 貧困と自然資源利用の悪循環とその問題解決のポイント(農村地域)

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2-2-3 地球規模の取組みと地域社会における取組み 自然環境問題に対しては、地球規模の取り組みから地域社会における取り組みまで幅広 い活動が重要である。国際社会の協力による地球全体を視野に入れての自然環境の機能を 保全する取り組みとしては、自然環境保全に関する国際条約が重要な役割を果たす。 例えば生物多様性条約、砂漠化防止条約、ラムサール条約等が挙げられ(資料編 3 環境 関連主要国際条約の概略を参照)、これら条約をできるだけ多くの国が批准し、条約で求め られている適切な行動をとることにより、地球環境問題解決に向けた連携強化が図られる。 先進国には、国際条約の適切な運用が困難な途上国への支援、また、途上国における自然 環境保全に必要な組織や制度の整備、人材育成支援等の技術協力が求められる。 一方、自然環境の劣化が生じている具体的な地域や村落等、地域社会における自然環境 保全活動も重要である。これら一つ一つの取り組みは小さくとも、適切な資源管理に向け た活動が各地で着実に実行され積み重ねられていくことによって、地球規模の環境問題解 決に向けたより大きな働きかけとなっていく。各地における活動では、その土地に根付い た文化や伝統的知識を尊重しつつ地域の森林や湖沼等生活の場である自然環境の管理を行 い、住民の生活水準を向上させるための協力が求められる。 地球規模の取り組みから地域社会における取り組みまで、幅広い活動を相互に関連させ て、それぞれのレベルで必要な活動を適切に実施することによって、より効果的な自然環 境保全が可能になる。そして、各地域において現在と将来の世代に必要な資源を確保し、 持続的な利用を促進させることが、人類の生存基盤を地球規模で維持する安全保障へと繋 がる。

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3章 JICA が協力を行う意義・理念

3-1

国際的援助動向

3-1-1 環境問題と国際社会の取り組み 自然環境保全に対する国際社会の本格的な取り組みは、1972 年の国連人間環境会議(ス トックルホルム)を契機に始まった。この会議を受けて UNEP が設置されるとともに、相 前後してラムサール条約やワシントン条約など、主要な環境国際条約が制定された。国連 人間環境会議では、別会場であったものの NGO が初めて国際会議に参加し、これ以降、国 際的環境政策のパートナーとしての NGO の役割が高まった。 また、その 10 年後、1982 年 5 月に開催された国連環境計画管理理事会特別会合において、 わが国は 21 世紀における地球環境の理想の模索と、その実現に向けた戦略の策定を任務と する特別委員会の設置を提案した。この提案は環境と開発に関する世界委員会(1984 年) の発足に結びつき、委員個人の自由な立場で討議を行ういわゆる「賢人会議」として、21 人の世界的な有識者が参集した。8 回にわたる会合の後、「Our Common Future」として報告 書がまとめられ、環境保全と開発とは相反するものではなく、不可分なものであるとする 「持続可能な開発」の考え方が提案された。 そして、80 年代までの流れを総括する形で、1992 年の国連環境開発会議が開催され、リ オネジャネイロ宣言、生物多様性条約、アジェンダ 21、森林原則声明が採択された。また、 90 年代には、砂漠化対処条約、国連海洋法、温暖化防止枠組条約など、多様化する環境問 題に対する条約が制定された。 このように国際社会は、持続的開発(持続的利用)をキーワードとした様々な国際的枠 組づくりを中心に、自然環境保全のために動いてきた。主要な国際会議、国際機関の設置 および環境保全に対する流れを図 3-1 に示した。

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1960 年代 1970 年代 1980 年代 1990 年代 2000 年代 UNEP 設置 ラムサール条約(71 年) 世界遺産条約(72 年) ワシントン条約(73 年) モントリオール 議定書(87 年) GEF 国際機関 国際条約 ITTO 設置 生物多様性条約(92 年) 森林原則声明(92 年) 気候変動枠組条約(92 年) 国連海洋法(94 年) 砂漠化対処条約(94 年) 環境と開発に関 する世界委員会 (1984 年) 国際会議 国連人間環境会議 (1972 年) ナイロビ会 議(1982 年) 会議(1992 年) 国連環境開発 持続的利用、生 物多様性保全 熱帯林、オゾン層、酸 性雨、CO2問題 「沈黙の春」 出版(62 年) 個別環境問題の認識 持続可能な 開発に関す る世界首脳 会議 (2002 年) 環境ホ ルモン 図 3-1 環境保全をめぐる国際社会の動向(1960 年代∼2002 年) 出所:中央法規 地球環境キーワード事典 3-1-2 国連主催会議の主要決議 国連人間環境会議(1972 年)以降、1982 年にはナイロビ会議、1992 年には国連環境開発 会議(リオデジャネイロ会議)と、10 年ごとに環境分野に関する国連主催の国際会議が開 催されている。各会議の主要決議、声明、採択された条約を表 3-1 に示した。2002 年 8 月 にはリオ・プラステンとして、南アフリカで「持続可能な開発に関する世界首脳会議」が 開催された。 表 3-1 国連主催の環境保全に関連する会議における主要決議 会 議 国連人間環境会議 (1972 年) 国連環境計画管理理 事会特別会合 (ナイロビ宣言 1982 年) 国連環境開発会議 (1992 年) 持続可能な開発に 関する世界首脳会 議 (2002 年) 決 議 な ど 1. 再生資源の維 持、非再生資源 の共有 2. 開発と環境問 題の両立 3. 環境管理基準 作成、他国の環 境 汚 染 禁 止 国 際協定 4. 汚染は自浄能 力 を 越 え て は ならない 5. 環境保全のた め の 科 学 ・ 教 育・研究の推進 1. 環境管理の必要性 2. 環境に対する脅威 は、浪費と貧困に よって増大するた め、市場機構と環 境計画の連携 3. 環境問題の多くは 国 境 を 越 え る た め、国際協調の拡 充 4. エネルギー計画の 重要性 1. 生物多様性条約 の採択 2. アジェンダ 21 の 決議(社会、経 済 、 環 境 、 制 度・組織に関わ る 40 項目の行動 計画) 3. 森林原則声明採 択 1. 貧困撲滅、水と 衛 生 、 エ ネ ル ギー、化学物質、 天然資源管理、島 嶼 途 上 国 開 発 支 援、アフリカ開発 支 援 な ど に 関 わ る行動計画 2. 280 に上る個別の パ ー ト ナ ー シ ッ プ ( 具 体 的 プ ロ ジェクト)の表明

図 1-3 アフリカにおける砂漠化と社会・経済的問題の相関図 人口爆発 人為的要因   過放牧   過耕作   過度の薪の採取   無理な開墾 自然的要因  乾燥化  砂漠化   植生の減少・劣化   表土流出   土壌劣悪化   固定砂丘の再移動 食料生産の減少地力の低下 生活の質の低下 多産傾向   貧困   高い乳幼児死亡率   労働力確保 社会経済問題   内戦   農業政策の破綻   商品作物価格長期下落   都市偏重政策 人口集中アグロビジネス   超国籍企業の独占経営   土地と水資源の使い捨
表 3-4 環境保全に関わる国際機関・支援資金・金融機関の活動と方針  機関  (設立年)  背景と目的  年間予算 (US$)  環境分野の主要活動・方針  資金支援プログラム  UNEP(1972)   人間環境宣言 および環境国 際行動計画を 実施する  1 億 700 万ドル ( FY1998-99)  環境悪化なしに 2015 年までに貧困を半減(貧困対策と環境問題のリンク)。地球環境評価(アースウオッチ)の実施。  UNEP-GEF  FAO  (1945)  栄養状態、生活 水 準 の 向 上
表 3-5 21 世紀に向けた開発支援構想(ISD)における政府行動計画のポイント  重点分野  ODA を中心とした我が国の国際環境協力  1.  大 気 汚 染 ・ 水 質 汚 濁・廃棄物対策  (1) 「東アジア酸性雨モニタリング・ネットワーク」の提唱。 (2) 「環境センター」を通じた途上国の環境部局の強化。  (3)  資金・技術協力(汚染源対策、リサイクルなど、 「グリーン・エ ンド・プラン」の活用)。  2
表 4-5D 戦略目標 D「自然環境保全の為の技術の開発と普及」体系図  中間目標  プロジェクト活動の例  現地事情に適した技術開発    Š  ニーズに則した技術項目の把握  Š  カウンターパートとの協力による現地の状況に適した 技術の開発  技術普及プログラム(技術移転)   Š  ニーズに則した技術項目と技術レベルの選定  Š  移転の必要な組織、人材の選定  Š  現地事情にあった研修・訓練方法の検討  関連した人材育成(教育者・研 究者など)    Š  他ドナーなどの開発した技術の調査と応用
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参照

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