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自然環境保全協力の案件発掘・形成の方法

ドキュメント内 自然環境保全ガイドライン − 解説資料 (ページ 121-167)

自然環境保全分野の協力案件を形成するためには、①面的な広がりとして自然環境の現 状を把握し、環境課題(問題)発生の原因(活動のターゲット)を的確に把握する、②6 つの戦略に含まれる能力向上策の中から、環境課題の解決に必要な適切なものを組み合わ せて選び出す、③成果の発現までの時間的な枠組みを考慮して、活動計画を作る、④活動 に対するステークホルダーの適切な関与を確保する、必要がある。

以下に、案件形成の方法についての基本的な考え方を示す。

7-1 案件発掘形成の考え方

7-1-1 自然環境の現状の把握

自然環境の保全を考える場合、5章で述べたとおり、地球温暖化や森林減少、野生生物の 減少など、環境課題として顕在化している現象を把握する場合と、環境課題が顕在化する 前に課題の発生を防止する為の対策を検討する場合が考えられる。前者の場合は環境課題 の根本的な原因の解決に重点をおいた対策が必要となるが、後者の場合は保護区設定や自 然資源の利用制限などの手法が先行する事例が多い。

いずれにしても、自然環境保全のための協力を考える場合、環境課題と生態系の関連を把 握する必要がある。図7-1に課題体系図として、地球上の生態系を類型区分(BOX 5-1参照)

し網羅的に示すことにより、典型的な環境課題と生態系の関連を示した。これにより、面 的な広がりとしての自然環境と環境課題の一般的な関連が理解できる。

通常、環境課題は生態系の複雑な相互関係によって発現しており、自然環境にかかわる 様々な人間活動の影響を受けている。このため、自然環境に悪影響をおよぼす単独の原因 を把握するのではなく、環境悪化を一連のプロセスとして理解しなければならない。例え ば、森林の減少を例に取ると、多くの場合に原因として挙げられる商業伐採や地域住民に よる焼畑は単独で作用するのではなく、伐採資本による林道敷設と価値の高い樹種の抜き 伐り(択伐)に始まり、地域住民による残された樹種の伐採、入植者による焼畑農地とし ての開墾と続き、更には大規模な農園開発が行われたり、森林火災により大面積が消失し たりする。また、地域住民が木材や薪炭材を採取することの背景に、都市部住民の需要が あれば、この関係を把握せずに制度的に伐採を禁止するだけでは十分な効果が生じない。

更に森林減少の結果として、地域を流れる河川の下流域における洪水増加や堆砂に影響を 及ぼす場合も多い(BOX 1-8, BOX 1-9参照)。

このため、自然環境の保全活動を行う場合、環境課題の発現の直接的・間接的な原因が なんであるかを、生態系の面的な広がりと物質循環を踏まえて、把握する必要がある。

対象とする生態系の類型区分  対象とする環境課題の例 

地球生態系  地球温暖化問題、酸性雨問題 

   伐採による森林の劣化・面積減少、熱帯林の 劣化・面積減少、森林火災、生息地改変によ る野生生物の減少、密猟 

森林生態系 

山地  水源地の汚染・劣化、土壌の侵食 

農地  土壌の劣化・侵食、農薬の多用による土壌汚 染 

放牧地  過放牧による草地の劣化・面積減少  草原・サバンナ 土壌の侵食、乱獲による野生生物の減少、農

地・宅地への転換による生息地の減少  潅木地  過放牧による潅木林の劣化・面積減少、土壌

の侵食 

砂漠・半砂漠  過放牧による草地の劣化・面積減少、薪炭の 過剰採集による森林衰退、不適切な灌漑によ る荒廃地の拡大 

陸域生態系 

非森林生態系 

ツンドラ  不適切な土地利用による劣化・面積減少  河川・流域生態系  生息地改変による水生野生生物の減少、移入

種増加による種構成の変化、密猟、乱獲、汚 水による水質の悪化 

湖沼生態系  汚水による水質の劣化、野生生物の減少、移 入種増加による種構成の変化、密猟、乱獲  陸水域生態

系 

湿地生態系  汚水による水質の汚染、生息地改変による野 生生物の減少、密猟、乱獲 

マングローブ  伐採・開発による面積減少 

サンゴ礁  破壊的漁法による劣化、埋立による面積減 少、水質汚染 

藻場  埋立による面積減少、水質汚染、破壊的漁法 による漁業資源の減少 

干潟  埋立て、土地改変による面積減少  沿岸(浅海域) 

生態系  

閉鎖性海域  富栄養化に伴う赤潮発生、油汚染、移入種増 加による種構成の変化、廃棄物の投棄、埋立 による生息地減少 

海域生態系 

外洋生態系  重金属などによる水質悪化、油汚染、乱獲に よる海洋生物の減少、廃棄物の投棄  図 7-1 課題体系図 - 生態系の類型区分と環境課題

出所:UNEP-WCMC.2000. Global Biodiversity, Earthʼs living resources in the 21st century.

7-1-2 特定の成果を想定した能力向上の組み合わせ

自然環境保全のための協力案件形成においては、特定の成果を想定し、その達成のため に求められる能力向上策を組み合わせる必要がある。前項で述べたように、環境課題の原 因が複合的である場合は、対策として必要な能力向上策も複合的なものとする必要がある。

協力案件形成のためには、一連の環境課題発現プロセスの中から一部を取り出して、期間・

地域・活動内容を設定して案件の枠組みとして整理することとなる。この 3 要素(期間、

地域、活動内容)を相互に調整し、案件として形成するためには、自然環境の劣化を止め るために必要な活動(能力向上)範囲を、問題解決に直接貢献する或いは根本的な問題に 対処するという視点から選ぶことが重要である。(図7-1参照)

協力期間(時間的な枠組み)は、目標や成果の設定によって異なるが、自然環境の劣化 が複合的な要素からなるため、改善が具現化するには長期間を要する場合が多い。更に複

合的な要素故にステークホルダーも多岐にわたる場合が多い。このため、森林・自然環境 保全のための協力には、他ドナーやNGOとの連携のもと、地域社会や自然環境と関連の深 い産業の経済活動への支援も含めた、包括的かつ長期的な展望にたったプログラムアプ ローチによる案件形成が重要である。

対象地域(空間的な枠組み)についての検討は、①生態系とそこに生じる環境課題に着 目することであり、活動内容(能力的な枠組み)についての検討は、②自然環境保全の為 の能力 6項目の向上に着目することとなる。この 2 つの考え方は、自然環境保全の特性を 踏まえたものであり、2000(平成12)年1月にまとめられた「自然環境協力分野プロジェ クト方式技術協力案件形成・発掘の手引き」において示された。この考え方に基づく案件 形成のマトリックスについて、7-2で述べる。

7-2 案件発掘形成の為のマトリックス

生態系と環境課題(空間的な枠組み)及び環境保全能力の向上(能力的な枠組み)を踏 まえて、プログラムを選定する為の考え方をマトリックスで示したものが図7-2である。こ れは、図4-3目標体系図と図7-1課題体系図を組み合わせたものであり、縦軸方向には、対 象となる生態系の類型区分と環境課題、横軸方向には、自然環境保全の為の能力の向上を 目的とした活動を示している。協力プログラムは、縦軸と横軸の交差した各マスの中に現 れる活動を組み合わせて形成する。

図7-2では地球上の生態系を網羅的に示し、生態系ごとに対象となる環境課題の例を図中に 挙げたが、これら環境課題は各国や各地域の状況によって異なる。環境課題の発現してい る若しくは発現の懸念される生態系について現状および原因を把握したうえで、必要な能 力向上策を選び出すこととなる。

自然環境保全に必要な能力のある一項目を重点的に向上させるための協力では、対象生 態系や環境課題を絞り込まず、様々な環境課題を横断的に対処できる人材づくりや組織づ くりを目指す(図7-2中のA参照)。この場合、プロジェクトは、選択した能力の下のマス に挙げられた中間目標(4-3目標体系図の項を参照)を達成するための活動を組み合わせる。

一方、ある特定の環境課題の解決に向けた協力では、複数の自然環境保全に必要な能力を 総合的に向上させる場合もある(図7-2中のB参照)。この場合は、生態系毎の環境課題の 解決のための活動が組み合わせられる。また、特定の環境課題に対応した特定の能力向上 を目的とした協力も考えられる(図7-2中のC参照)。

「環境保全能力の向上」からの案件発掘・形成方法 

   対象とする生態系

の類型区分の例  対象とする  環境課題の例 

自 然 環 境 保 全 の

為の政策・制度の強化

 

自 然 環 境 保 全 を 実 施 す る 機 関 の 運 営 管 理 能 力 の

向上

 

自 然 環 境 保 全 に つ い て の 意 識 向

 

自 然 環 境 保 全 の 為 の 技 術 の 開 発

と普及

 

自 然 環 境 保 全 の 為 の 調 査 研 究 能

力の向上

 

自 然 環 境 保 全 と 地 域 社 会 開 発 の

両立

 

地球温暖化問題      

地球生態系 

酸性雨問題       

   

  野生生物の減少      

森林火災       

 

森林(熱帯林)の 伐採・土地利用

転換       

水源地の汚染・

劣化       

森林の伐採・土

地利用転換       

   森林 生態

系  山地 

土壌の侵食       

農地  土壌の劣化・塩 害・砂漠化・化学

物質の影響       

放牧地  過放牧・砂漠化       

草 原 ・ サ

バンナ  土壌の侵食       

土地利用転換・

過放牧・砂漠化       

潅木地 

土壌の侵食       

草地の劣化・砂

漠の拡大       

砂 漠 ・ 半

砂漠  荒廃地の拡大       

陸域生態系

  非森林生態系

 

ツンドラ  劣化・面積減少       

   野生生物の減少      

 河 川 ・ 流 域 生 態系 

移入種増加によ

る種構成の変化      

水質汚染       

湖沼生態系  移入種増加によ

る種構成の変化      

陸水 域生 態系 

湿地生態系  水質汚染       

    生物資源・生物

種の減少       

マ ン グ

ローブ  面積減少・海岸

線の浸食       

サンゴ礁  劣化・面積減少       

藻場  劣化・面積減少 

産卵床の減少       

干潟  面積減少 

水鳥の減少       

水質汚染       

沿岸︵浅海域︶

 

生態系

 

閉鎖性海域  油汚濁汚染       

環境課題・生態系からの案件発掘・形成方法

 

海域  生態 系 

外洋生態系  海洋汚染       

具体的 活動項目

A B

7-2 案件発掘形成の為のマトリックス

ドキュメント内 自然環境保全ガイドライン − 解説資料 (ページ 121-167)

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