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自然環境と社会のかかわりに対応した能力向上

ドキュメント内 自然環境保全ガイドライン − 解説資料 (ページ 98-121)

5-1 対象地域の考え方

5-1-1 人間活動との関連から見た地域の類型

自然環境保全には、(1)人間活動により自然環境が改変・破壊された地域を保全対象とす る、(2)今なお豊かな自然環境が残る地域を保全対象とする、の2つの観点が考えられる。

これら 2 つの観点をもとに、さらに貧困対策と環境分野の連携を考慮しながら協力対象地 域を検討した。その結果、地域生態系のもつ特徴と人間活動による利用の度合いによって(1) をさらに二つに区分し、3つの地域を協力対象地域として以下のように分類した。

(i) 地域住民による自然資源の利用により、自然環境の劣化が進んでいる地域

Š 管理の対象となっておらず規制もないため、オープンアクセスによって資源の枯渇や 劣化が起きている地域

Š 村落共有林など:従来は慣習的な一定のルールに従って資源が利用されていたが、近 年の生活様式の変化に伴ってそのバランスが崩れてしまった地域

Š 新規入植者の多い地域:外部からの入植者の増加により、慣習的なルールが確立され ないうちに自然資源の利用量が拡大し、自然環境の劣化が進んでいる地域

Š 新設の森林保護区や国立公園周辺など:保護区の設置に伴って住民による従来の資源 利用が制限され、地域の生活が脅かされている地域

(ii) 環境への配慮を欠いた開発によって自然環境破壊が急速に進んでいる地域

Š 非持続的な商業的伐採の行われた熱帯林など:大規模かつ急激な自然の改変が行われ、

地域生態系の存続が危ぶまれる地域

Š 開発による土壌劣化等がおきている地域など:環境配慮が十分でない開発手法により、

中長期的に持続可能な地域発展が見込めない地域

Š マングローブ林の養殖池転換地など:環境配慮が十分でない外部からの開発行為に よって従来の資源利用が制限され、地域住民の生活が脅かされている地域

Š 大規模プランテーションなど:地球生態系に大きな影響を与えるような、大規模また は急激な地域生態系の改変・喪失が見られる地域

(iii) 豊かな自然環境が残っており、近い将来破壊・劣化が懸念される地域

Š 多くの熱帯林など:自然の公益的機能が多くの人々に評価され、人類の共通財産とし て保全する価値のある地域

Š ホットスポット、洞窟、小さな島嶼など:生物多様性が高い、または、生物の生息環

境として特殊で、生態系・生物種・遺伝子等様々なレベルで価値のある地域

Š 国立公園、保護区など:保護地域に指定されているが、適切な管理がなされていない 地域

これら 3 つの地域においては、それぞれ必要とされる能力向上策が異なるため、特徴的 な事例を以下のとおり示した。

(i) 地域住民による自然資源の利用により、自然環境の劣化が進んでいる地域に必要な 能力向上策

Š 地域住民が自然資源に依存した生活を送っている場合、住民に対して資源の利用を制 限するアプローチのみでは成果は得られない。このため、住民に対して自然資源の利 用に拠らない代替生計手段の開発により、経済的自立と自然環境保全の両立を目指し た取り組みを進める必要がある。

Š 自然環境の劣化が長期的に生活環境や生計手段に悪影響を及ぼすことについて、住民 の理解を深めるための環境教育・啓発活動を行うとともに、住民自身が自然資源の持 続的な管理を行うために、利用権の確保などインセンティブとなる制度を導入し、資 源管理の当事者としての意識を高める方策を講じる。

Š 地域住民の能力向上を考える場合、投入量、技術レベルなどについて適正技術を検討 する必要がある。この場合、持続的な資源利用の方法として地域の伝統的な知識や制 度の中から利用可能なものを選定し、普及・活用することが有効となる。

(ii) 環境への配慮を欠いた開発によって自然環境破壊が急速に進んでいる地域の必要

な能力向上策

Š 無秩序な開発が行われないように、開発地域と保全地域を区分したゾーニングを行い 自然資源の利用ルールを明確化するなど、総合的な土地や天然資源の利用・管理計画 を策定する。また、計画実施のために必要な実施体制、予算措置など、具体的な措置 を講じる。

Š 開発事業を実施するにあたり、可能な限り計画の初期に必要な環境影響調査(初期環 境調査、環境影響評価)を行いマイナス影響が生じない代替策を選定するために、行 政・実施機関の能力形成を行う。また、マイナス影響が生じる場合は、影響を最小限 にするために必要な対策を事業の中に含め、実施する。

Š 開発に対する社会的影響を最小限にするために、行政・開発当事者による情報公開を 行うとともに、住民やその他の利害関係者の意見を開発事業に反映させるプロセスを 計画策定段階で実施する。

(3) 豊かな自然環境が残っており、近い将来破壊・劣化が懸念される地域に必要な能力 向上策

Š 対象地域が保護・保全区となっていない場合には、保護区の整備、地域の指定を行う。

保護・保全区となっている場合には、管理のための組織体制の強化、保護区管理に携 わる人材の育成および調査研究能力の向上を図る。また、保護・保全区の指定に必要 な法律・制度が不十分な場合には、これらの整備を行う。

Š 希少生物種については、保護に必要な生物学的情報の収集と蓄積を行うとともに、地 域社会を巻き込んだ活動を行うとともに、国内・海外の保護団体とのネットワークを 強化し、活動の推進を図る。保護対象生物種が移動種の場合は、国際的な連携が特に 重要となる。

Š 地域住民の自然資源の利用や周辺地域の開発等、近い将来、自然環境の破壊・劣化を 懸念させる原因に対して、(1)および(2)に示した能力向上策を実施し、破壊・劣化の顕 在化を防止する。

5-1-2 生態系からみた対象地域の区分

対象地域を面的に把握する場合、人間活動との関連から見た区分だけではなく、地球の 生態系をそれぞれの特徴によって区分して捉えることも重要であり、これらは様々な研究 機関等によって行われている。BOX 5-1に示したのは、UNEP-IUCN及びWRIによる地球 上の生態系区分である。この中で、UNEP-IUCN-WRIは生物学的な条件を重視して区分して いるが、WRI の場合は人間活動との関連を考慮して農業生態系、都市生態系と区分として 採用している。

本ガイドラインでは農業分野や都市環境について中心的な課題と設定していないため、7 章の「案件発掘形成の方法」で述べる通り、生物学的な区分を案件形成の際に考慮すべき 条件として採用している。案件の発掘形成時に活動計画を検討する際には、対象とする地 域を生態系区分と照らし合わせ、その地域の特性を分析する必要がある。

BOX 5-1】 地球全体の生態系区分について

生態系は、①気候、基盤地質、地形など非生物的要因、②植生、動植物の相互作用などの生 物的要因、および③人類活動、の 3 つの要因でその特徴が決定される。これら要因の組み合わ せにより、気候要因を重視した場合は極地生態系、乾燥地生態系などが、地形要因からは山地 生態系、湖沼生態系などが、人類活動に着目した場合は都市生態系や農地生態系などの区分が される。つまり、重視する要因によって生態系の区分は異なり、また、大区分から小区分まで レベルもいくつかに分けることができる。 

下表は、自然環境分野の国際的な調査・政策提言機関である IUCN と WRI による生態系区分 を示したものである。UNEP-IUCN は、海域、陸域など地形要因による大区分を行い、さらに森 林植生区分など生物学的区分を重視している。これに対して、WRI は、山地、草地生態系など 景観的な区分と農業、都市生態系など人類活動区分を組み合わせた区分を行っている。 

各案件の形成時に協力対象地域を選出する際には、5.1 に示した人間活動の度合などに着目 した重点地域をこのような地球上の生態系区分と照らし合わせ、その地域の特性を分析、検討 する必要がある。しかし、生態系区分は絶対的なものでないため、対象各国で使われている適 切な区分があれば、問題分析、案件形成ではそれに従ってもよい。資料編では CIFOR による世 界の生態系区分地図を示した(資料編参考図-1)。 

地球上の生態系区分例

UNEP-IUCN区分1) WRI区分2) 大区

分  中区分  小区分  面  積  比率

(%)3) 区分  比率(面積) 

海域  海洋  大洋(Ocean)  335.1 x 106 km2 92.8     地 域 海 域

(Sea)   18.7 x 106 km2 5.2     (その他海域)   7.3 x 106 km2 2.0   浅海域  マングローブ  1,810 km2 −     サンゴ礁  255 x 103 km2

沿岸生態系

陸地の 22% 

(海岸から 100km 内 陸 ま で の 沿 岸 域) 

陸域  森林 4)  温帯針葉樹林  12,511 x 103 km2 32.1     温帯広葉樹・

混交林  6,557 x 103 km2 16.9     熱帯湿潤林  11,366 x 103 km2 29.2     熱帯乾燥林  3,702 x 103 km2 9.5     疎林・緑地  4,749 x 103 km2 12.2   非森林  草 原 / サ バ ンナ  − −

    潅 木 地

(Shrublands)  − −

    砂漠・半砂漠  − −

森林生態系 農業生態系 草原生態系 都市生態系 山地生態系

森林:陸地の 22%

(2,900 万km2)   

農 地 : 陸 地 の 26% 

(3,000 万km2)   

草原:陸地の 31

〜 43% ( 4100 〜 5600 万km2)   

高 地 ( 標 高

>1000m):陸地の 27% 

    ツンドラ  − − 極地生態系  

陸水  河川・流域  − −

  湖沼(Lakes and ponds)  − −   湿 地 ( Bogs,  Fens, 

Marshes, Swamps)  − −

淡水生態系 陸地の 1% 

1) UNEP-WCMC. 2000. Global Biodiversity, Earth's living resources in the 21st century. 

2) 世界資源研究所他. 2001.  世界の資源と環境 2000-2001 

3) 海域(浅海域を除く)と森林の各小計に対する面積比率(−:資料不十分)4) 植林地は含まない

ドキュメント内 自然環境保全ガイドライン − 解説資料 (ページ 98-121)

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