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教育効果を高める双方向で持続的な高大連携の試み

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要旨  近年,高大連携型の授業が注目を集めている。本論では,ある商業高校で取り組まれてきた「商品開発」 の授業に関して,参加した高校生・大学生へのインタビュー・データから,どのような体験や学びを明らか にし,効果を高める高大連携型の授業についての仮説提唱を行うことを目的とした。分析結果から,高大連 携において当事者である高校生と大学生の相互作用が特に重要であり,これを活発化させることが教育効果 を高めるために最も肝要であることが明らかとなった。 キーワード:高大連携,キャリア教育,グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA),相互作用

Ⅰ.はじめに

 本論は,商業高校における授業実践におけるインタ ビュー及び観察結果に基づくデータから,高校生と大 学生の体験や学びを明らかにし,グラウンデッド・セ オリー・アプローチ(Glaser & Strauss, 1967 ; 以下 GTA)1)に基づく質的分析(仮説生成)を行うもので ある。  これまで,高大連携の実施及びその意義の考察につ いて,すでに多くの報告がなされてきたが,特に協同 的学習の取り組みにおける理念の実質化は不十分で あったと思われる。先行事例においても単発的な取り 組みに終始したり,高校・大学間においてその調整に 労力を割かれる等,改善の必要性がつねに指摘されて きた2)。本論では,知識注入型ではなく一人ひとりの 体験に即した形での授業実践を行うことで,前述の協 同的学習としての理念を実質化するための方法を検討 し,教室の構成員が相互主体となる協働的学習として の高大連携型の授業実践のモデルケースを提示したい。

Ⅱ.本論の目的

 本論では,特に高大連携型の授業において主体とな る高校生と大学生が,どのような協同活動を行い,ど のような体験・学びをしているかを把握し,効果を高 める高大連携型の授業についての仮説生成を行うこと を目的とする。具体的には,高大連携型の授業を体験 した高校生・大学生に半構造化面接法によってインタ ビューしてデータを収集し,GTA を援用して分析す る。また副次的な視点として,教室という場を構成す る相互主体である高校教員と大学教員の間での継続的 な授業計画の実践事例としての展望も示すこととする。

Ⅲ.本論の方法的前提について

 インタビューの対象者は,A 商業高校の高校生およ びボランティアとして参加した大学生である。この高 大連携では「商品開発」を目標とする Project Based Learning(PBL)を方法的な枠組みとして使用した。 (1)高大連携型の授業計画及び方法の工夫  従来の高大連携の課題は,単発の取り組みに終始し てしまうことにあったが,これは大学の講義を高校で 提供する「出張講義型の授業」が多いことが要因とし て考えられる。そこで本研究では①高校の授業に合わ せた授業展開をすることで,持続的な高大連携を可能 にし,②より意識の高い高校生・大学生を集めるべく, 参加形態にも工夫をした。高校生は選択授業として,

教育効果を高める双方向で

持続的な高大連携の試み

The Journal of Economic Education No.36, September, 2017

An Attempt to Enhance the Educational Effect through Sustainable Cooperation between High School and Universities

KAWAI, Hiroyuki 川合 宏之(流通科学大学)

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大学生は有志によるボランティアとして,それぞれ授 業に参加している。このような方法をとることで,高 大連携に協力的な人員を確保することができた。 (2)データの質的分析方法について  現在,文部科学省の各部会でも審議されているよう に,参加型の授業づくりの有効性が広く教育関係者間 で認識されてはいるものの,参加型の授業経営が首尾 よくいくような具体的な方法論についての観察結果の 共有,考察については今後の課題となっている3)。そ こで本研究では,一年間の教室運営の中で,教室づく りに参加した高校生・大学生のインタビュー・データ から,どのような体験および学びをしているのかを明 らかにする。その上で,これまで教室において職人芸 的に行われてきた授業運営の方法を構造化し,アク ティブ・ラーニングや学び合いという言葉で指示され るような新しい授業づくりをより効果を高めるための 仮設を生成し,建設的な視点を提示することとした。  灘光ほか(2014)によれば,「質的研究は論理実証 主義への批判から生まれた」とされ,「合理的パラダ イムが前提とする唯一かつ普遍的真理への懐疑,研究 者の価値中立性や客観性を所与の条件とする研究姿勢 への疑問,現実を因子に細分化しそれらの相関関係を みようとすることで逆に捨象されてしまうものへの視 点などに応える知的枠組み」と定義されている4)。と りわけその方法論についてはそれぞれの特徴,現状に おいて充分に活用されていない状況を踏まえた上で, 分析手順や検討すべき点について詳細に考察されてい る。こうした理論的考察も踏まえ,本論では観察者で もある教員をも含めた教室運営のあり方について考察 する。

Ⅳ.調査対象について

 筆者は,2013 年度から A 商業高校の「商品開発」5) の授業を高大連携科目として運営してきた。この取り 組みは,年間を通じて同一の大学教員と大学生が継続 的に関わったものであり,一方向的・単発的な高大連 携ではないことに特色がある。本論の分析結果から, 継続的で双方向な高大連携が教育効果を高めうること や,その条件について示唆できると考えられる。本論 では,まず,授業の当事者である高校生と大学生のイ ンタビュー・データを集約し,体験や学びの知見を概 念化して考察した。特に「商品開発」の授業および高 大連携そのものについて,当事者の意識を質問してい る。

Ⅴ.調査方法とデータ収集の方法

 インタビューは,2016年1月20日(水)・22日(金) に行い,対象者は高大連携型の授業に参加した高校生 3 年 生 8 名 と 大 学 生 6 名 の 計 14 名 で あ る。 イ ン タ ビュー実施にあたり,次の点を事前に伝えた。 (1)今年度の高大連携の取り組みを来年度に生かすた めに実施します。 (2)今年度の高大連携の取り組みを公表する場合にも, 話してくれたことは,誰が話したかは絶対に分からな いようにするので,できるだけ詳細に教えてください。 (3)このインタビューは,授業の成績評価とは全く関 係がありません。 (4)思ったことはありのまま,自由に話してください。 高校生については,以下の質問を中心に自由に語って もらった。 ①「商品開発」の授業に関する質問 Q1. 今年度の「商品開発」の授業を通しての感想を 自由に聞かせてください。 Q2. この「商品開発」の授業を受けたことで,自分 自身「成長したな!」と実感できることはありまし たか?  ②「高大連携」に関する質問 Q1. 大学生との関わりのなかで何を感じましたか? 自由に教えてください。 Q2. 大学生に何を教えてもらい,何が助かりました か? Q3. 大学や,大学生に対して,「もっとこうしてほ しい」という要望を教えてください。 Q4. 大学生へメッセージをください。(どの大学生 でもかまいません)  大学生については,以下の質問を中心に自由に 語ってもらった。 ①「商品開発」の授業に関する質問 Q1. 今年度の「商品開発」の授業を通しての感想を 自由に聞かせてください。 ②「高大連携」に関する質問 Q1. 高校生との関わりのなかで何を感じましたか? 自由に教えてください。

Ⅵ.高校生インタビューの分析

 「高大連携」に対する質問からは以下のカテゴリー を抽出できた。 (1)[高大連携型の授業に対する評価・提言](高大 連携についての評価/授業内容についての評価/ア

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ンケートについて/教科書があったほうがよい/教 科書のない学びの大切さ/高大連携を広めてほしい /広報活動の必要性/要望・問題提起) (2)[知識・技術の習得,「生きる力」の育成](商 品開発のイメージの改善/商品開発の知識を学ぶこ とができた/調べることの大切さを知った/伝える 能力について習得できた/スマートフォンの活用の 有効性/生徒自身の視野が広がった/メンバー同士 で協働することの大切さ/能動性・主体性の大切さ を学んだ/プレゼンテーションについての経験/勉 強の面白さについて/文章の作り方を学んだ) (3)[異年齢交流の可能性](高校生と大学生の違い /世代間交流の大切さ/大学生との交流のメリット /大学生に対する要望/地域社会への貢献) (4)[人生選択への寄与](人生選択への影響につい て/進路・就職について/大学進学への希望)  (1)[高大連携型の授業に対する評価・提言]は, 授業実践に対する評価,今後に対する建設的な提案や 問題提起を集約したものである。高大連携型の授業に 対する評価では,まず,大学生が一年間に渡って授業 に参加したことに高い評価があった。例えば,高校生 C は当初,高大連携そのものに否定的であったが,最 終的には「今回の高大連携って,毎週同じ時間に 1 年 間ずっと同じ大学生が来るっていうのはすごいなって 思いました。しかも授業に一緒に入って,一緒に考え ていくことで,いろんなことが学べました」と述べて おり,授業を通じて高大連携のあり方への評価が変化 したことが分かる。複数の高校生からも「他の授業で も高大連携をやってほしい」「高大連携授業の取り組 みをもっと多くの高校生に知ってもらいたい」という 声が出ていた。  (2)[知識・技術の習得,「生きる力」の育成]では, 商品開発という授業の内容や高大連携型の授業によっ て習得することができる幅広い能力について言及され ている。例えば,高校生 A は「何でも不安になりが ちな私でしたが,この授業では,積極的に参加する気 持ちが大きくなり,一皮むけた感じがしました」と述 べ,自分の成長を実感している。高校生 F は「今まで, 人の意見を聞き入れることが苦手でしたが,この授業 を通して人の意見も大切だということが学べて,人の 意見+自分の意見でより良いものにしようとする意志 が出てきました」と,意識が変化したことを述べた。  今学校では,「生きる力」6)を求め,自己の確立,他 者との共生,異質なものへの受容,社会との調和を目 指して学校教育が変わろうとしていることを踏まえる と,今回の高大連携型の授業が「生きる力」を育むも のになった可能性を示唆していると言える。  (3)[異年齢交流の可能性]では,異質な存在であ る大学生の影響はきわめて大きいことが窺えた。例え ば,高校生 A は「大学生と一緒にいると,私たちが 考えもしなかったことを教えてもらったり,気付かさ れたりしました。いろんな年齢の人といると,もっと 知りたいと思ったりするようになりました」と述べ, 普段同年齢しか存在しない授業内に年上の大学生が混 じることで大きな刺激を受けたと話している。大学生 の存在は,高校生が「学び」に対する姿勢を考えるう えで大きな意味を持っていたことが分かる。  (4)[人生選択への寄与]では,高校生 B が「商業 高校にいると,就職するのは当たり前の事だと考えて いました。進路選択に正解はないけれども,大学生と 関わることで自分自身が自分の将来について考える きっかけにもなりました」と,今回の「商品開発」の 授業が進路選択に影響を受けたことを指摘している。 他にも,高校生 G は「進路を選択する時に大学で商品 開発を学びたい,将来商品開発やマーケティングの仕 事もいいなと思った事もありませんでした」,「(今回 の授業を受けて)私も将来商品開発やマーケティング の研究をしてみたいと思いました。」と述べており, 授業を通じて志望する職種の変更がみられた。このよ うに,大学生との学び合いの機会を通じて,大学での 高等教育への希望を持つ等,多様な人生選択への視野 を広げてもらえたことには大きな意義があると言える。  一方,「商品開発」についてのインタビュー内容か らは以下のようなカテゴリーを抽出できた。 (1)[創造的な授業運営](新しいものを開発するこ とのむずかしさ/授業運営についての発見/商品開 発について(ノウハウ等)/企業向けプレゼンテー ションについて) (2)[他者との協働性](異年齢交流のメリットにつ いて/価値観の多様性についての学び/他者との協 働の重要さ/プレゼンテーションの難しさの学び/ グループワークとしての授業運営/当事者性,主体 性の大切さを学んだ) (3)[自己発見の契機](自分自身の価値観の発見・ 明確化/やりがいを感じる体験/生徒自身の成長へ の寄与)  (1)「創造的な授業運営」では,世の中にまだない もので,人々のニーズを満たすものを商品として具現 化していくという作業の難しさや,愉しさについて, 「大学の先生が,『そもそも新商品のほとんどはヒット

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せず,世の中から消えていく。この現実を考えると 「売れる商品を作る方法」など存在しない』と言って いたことが印象的で,実際にそういうことを体験でき て良く分かりました」(高校生 D),「工夫一つでいろ んな形にできるのはすごいと思いました。初めて自分 たちの力で商品を開発してみて,ものを創る難しさを 知りました」(高校生 G)といった発言がみられた。 大学生や大学教員でさえも「答え」を知らない中で, 試行錯誤を繰り返すことの苦労と充実感を体験したと 自覚する高校生が多かった。  つづいて,(2)「他者との協働性」および(3)「自 己発見の契機」については,それぞれに相補的な視点 を含んでいると考えられる。抽出された発言では「大 学生の広い視野とか,様々なことに挑戦していること が参考になり,見習いたいです」(高校生 B),「最初 は何をしたら良いか分かりませんでした。この科目を 取ったのは失敗だって思っていました。しかし大学生 に手伝っていただき最後には商品を提案することがで きました」(高校生 C)といった異年齢交流のメリッ トについて言及が多く見られ,年上の大学生と協働し たことによる不安の解消,評価されることへの喜びが 語られている。高大連携型の授業体験が価値観の多様 性を学ぶ契機となり,他者との協働が自己を育み,有 機的な成長につながるという一定の効果を上げること ができたと考えられる。  以上のように,形式的な高大連携ではなく,授業実 践における大学生との濃密な相互作用の蓄積としての 高大連携型の授業は,高校生の意識や行動に大きな教 育効果を及ぼしたといえる。

Ⅶ.大学生インタビューの分析

 大学生はもともと「高大連携」に関する問題意識や 知識を持ち,「商品開発」の授業に主体的に関わって いる立場だったということもあって,授業に求めてい たものや一人ひとりの授業に対する考え方が明確で あった。  「高大連携」に関する発言をカテゴリー化すると, 以下の 3 つとなった。 (1)[高大連携の意義]高校生と協働することの意 義/大学生自身にとっての意義/教育活動の意義 (一般化) (2)[高大連携型の授業の位置づけ]単位認定につ いて (3)[高大連携型の授業における高校生への動機づ け]高校生(生徒)の動機づけについて/授業に対 する主体性  (1)[高大連携の意義]では,商品開発の過程にお ける高校生との相互作用に意義を見出す声が多かった。 例えば,大学生 A は「分からないとすぐに聞いてく れるので教えることができるけど,ひょっとしたら間 違っているかもしれないことでも素直に聞いてくれる ということは,自分もあやふやなまま話をしてはいけ ないし,話す内容をしっかり考えたり基本を勉強した りしながら話さなくてはいけないと思いました」と述 べ,自分の知識や意識が問われる等といった高校生と の関わりが,自分自身へのリフレクションへつながっ たようである。  自らも学ぶ立場であり,高校生と年齢の近い大学生 が高大連携に関わった本研究は,高大連携研究のすき 間を埋めるという観点からも意義深く,且つ,高校生 のみならず大学生の教育効果にもなることがインタ ビューから読み取れた。  (2)[高大連携型の授業の位置づけ]は,この「商 品開発」の授業への参加が大学の単位として認定され るべきかどうか,ということである。今回の授業は, 大学生にとって単位認定されないものであったが, 「『強制でない』ところが良いと思います。強制でない のに参加している人はやる気がある人です。周りがや る気があるからさらにやる気になる。それがやりがい につながるのだと思います」(大学生 C)の発言のよ うに,単位認定しないことがメリットとして感じられ ていたようである。  (3)[高大連携型の授業における高校生への動機づ け]では,プロジェクトを進める上で悩んだことや苦 労したことが述べられており,特に大学生 B は「高校 生のやる気を引き出すのが難しかったです。一人ひと りに接するのは簡単だけどグループになると難しい。 グループになるとしゃべらなくなってしまう人がいた り,他の人の意見に流されてしまう人がいたりしまし た。やる気がないふりをしているというか,みんな自 分がないというか,他の人の様子を見ているという感 じがして雰囲気作りに苦労しました」,「一人一人の性 格や,同じグループ高校生どうしの仲の良さとか,人 間関係を知るのに最初はとまどいました。まずは大学 生が一人一人と仲良くなったり,高校生どうしが気軽 に意見を出し合える空気になるようにしました」と述 べる等,高校生の動機づけに苦労したようである。  今回の「商品開発」の授業において,大学生は「模 範解答」を持つ立場ではなく,授業実践の補助的な立

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場であり,高校生と全く同等というわけでもない。 従って,教員のような立場で議論を促すことも難しく, 何もコメントせず高校生に議論をゆだねることもでき ない。そうしたジレンマの中で,高校生が依存しない 程度に意見を引き出し,人間関係を調整しつつプロ ジェクトを進めることが大学生には求められた。大学 生 B は「高校生の中でリーダーを作ることが本当はで きればよかった」としながらも,最終的には「大学生 がリーダーになって高校生のアイデアを引き出すやり 方に意味があった」と述べている。このようなファシ リテーターとしてのリーダー的役割を教員が果たすこ とは難しい。年齢や思考のスタイルの近い大学生で あったからこそ可能になった役割である。  次に,「商品開発」についての発言を以下の通りカ テゴリー化した。 (1)[授業の進め方について]授業の目標設定につ いて/高大連携型の授業づくりの難しさ/商品開発 =新しく何かを考えることの難しさ/「教える」た めの知識,技術の必要性 (2)[高大連携型の授業としての意義]高校生と協 働することの意義/大学生自身にとっての意義/高 大連携そのものの意義 (3)[普通教育と商業教育]普通高校出身者による 商業教育の実例 (4)[商業高校からの大学進学]商業高校からの大 学進学  この中で特に注目すべきは(1)[授業の進め方につ いて]である。ここでは授業の進め方に対する提言や 反省が多く見られた。大学生 D は,「商品開発」の授 業において目的意識の共有がなかったことを問題視し, 「もちろん商品開発という特性上かもしれませんが, ゴールがない(見えない)と思いました。ゴールがな いままグループで『1 年間やってきたことがこれで す』というプロセスだけがプレゼンという形になって 最後に残っていますが,そこから何を得たのか高校生 と大学生が共有できるようにできたらもっと良いと思 いました」,「高校生と大学生で,グループ内で意見を 出し合って,まとめるまでを体験したことは勉強にな りましたが,いつの間にか目標がプレゼンを無事に終 わらせることに終始していた気がします」と述べた。  大学生 A は「高校生は最初は良く分からないとい うところから始まっただろうし,特に,高校の先生は 授業のプロセスを重視している感じがしました。『商 品が出来なかったら出来なくてもよい』という考え方 に見えました。でも自分たち大学生は,なにがなんで も結果を出すという考え方です。結果が出ないと自分 たちが関わる意味がないような気もしました。プロセ スを重視しているように見えた高校の先生だから,あ まり高校生に目標については話をすることもないだろ うし,良く分からないまま始まった高校生と,最後に は形にしたいと目標を重視している大学生の考えの違 いを色々アイデアを出し合いながら,話し合いながら, 最後にまとめるところまで持っていくことが大変でし た」と述べ,教員側から目標や結果を明確にする意識 が提示されないことが,難しい状況を生み出したと見 ている。  この高大連携型の授業を実施するにあたっては,高 校教員と大学教員の間で,明確な目標を設定しないと いう方針を立てていた。それは生徒の創意工夫に期待 するところがあったからであるが,実際に参加した大 学生は,具体的な到達点,授業の大まかな目標を示し たほうが良いという考え方であった。  (2)[高大連携型の授業としての意義]では高校生 と協働する意義,ひいては自分自身にとっての意義に ついて述べられている。大学生 B は「大学生だけで商 品開発をしても難しかったと思います。同年代で同じ 場所で過ごす時間が長い人達だけで話し合っても, 色々な意見が出ないだろうなと思いました。高校生は 年齢が近いけど,発想が違うなと思って感心すること がたくさんありました。でも,正直言って高校生だけ で商品開発をすることも難しいと思います。高校生だ けだったとしたら,色々な意見ももちろん出なかった だろうし,調べ方とか進め方とかまとめ方とかが上手 くいかなかったと思います。大学生と高校生が一緒に 考えたから結果に結びついたのだと思いました。意見 を出し合って色々考えたことでそれぞれでは考え付か ない新しい発想が出る経験は大切だと思いました」と, 高校生だけでも大学生だけでも今回の授業のような発 想は出にくかったと推測し,高校生と大学生が協働し たことの意義を強調している。  (3)[普通教育と商業教育]と(4)[商業高校から の大学進学]では,普通高校出身の大学生 C が「高 校時代に受けていた授業は普通教科だけで,ただ教科 書を見ながら先生の話を聞いているだけでした。商業 高校の授業は受験のための授業というよりは社会に出 て役立つ授業だと思いました。私も高校時代に「商品 開発」のような授業を受けていたらもっと勉強が楽し いと感じていたのではないかと思いました」,「なんと なく大学に進学しましたが,もし高校は商業高校に 行っていたら進学する動機とか意欲とかが変わってい

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たかもしれないと思いました」と,普通教育と商業教 育の違いや,大学進学の動機や意欲について問い直す きっかけに繋がったこと等を述べている。  このように,高大連携においては,事前の目的意識 やプロセス,最終的に必要となる成果物などを参加者 全員が共有できていることが必要だと大学生は意識し ている。この点が高校生からは出ていなかった意見で あった。

Ⅷ.高校生と大学生の相互作用についての

分析

 インタビューの内容を分析すると,高校生の方が大 学生の言葉や姿勢から強く影響を受けており,例えば, 高校生 B は「大学生が,『学校での勉強を漠然と受け ているだけではだめだよ』とおっしゃっていたのがす ごく心に残りました。私はその通り怠けながら?授業 を受けているだけだなぁって痛感しました」,「高校で 学んでいることが単に基本なことで,授業に対しての 考え方みたいなものが変わりました。自分の興味のあ るものを深めていこうと大学に進学することも決めま した」と述べている。高校生 B は,就職から進学へと 進路を変更するほど大きな影響を受けており,実際に 大学に進学することになれば自分の人生を変えた体験 になる可能性が高い。高校生と大学生の相互作用(会 話,話し合いの場の共有)によって関係が構築された からこそ,発せられたものと言える。  大学生側の発言では,授業開始時点における高校生 のモチベーションの低さを指摘しており,高校生の姿 を見て大学生が意識改革を促したと推測できる。そう した中で,大学生 D は「やる気がない高校生」に危 機感を覚え,色々と試行錯誤した上で,「自分もゴー ルが見えていないからどう高校生を引っ張っていけば いいのか最初はよく分かりませんでした。みんなで意 見を出し合って行く中でちょっとずつどう進めていく かが見えてきて,方向が見えてきたら高校生がやる気 が出できたように思いました」と指摘した。「みんな で意見を出し合っていく中で」高校生をなんとかモチ ベートすることができた,と振り返っているが,つま り,高校生の反応を見て大学生はコミュニケーション の仕方を工夫し,それに高校生が反応して意識を変え ていく,という相互作用である。大学生 F は「高校生 を引っ張っていくつもりが,逆に高校生の熱意に引っ 張られながら,1 年間にわたって勉強し,話し合い, 考えを深めることができました」と語っており,高校 生と大学生相互の「引っ張り合い」=相互作用こそが, 今回の高大連携型の授業を進めるための最も重要なエ ンジンであったことが窺われる。  ここで推測される仮説は,「高大連携型授業の教育 効果を高めるためには,授業に参加する当事者間の相 互作用のあり方が重要である」というものである。こ こでの「教育効果」とは,授業を「受ける」高校生に とってのものだけではなく,授業に「参加する」大学 生にとってのものでもある。相互作用を積み重ね,立 場を超えた「場」が作られることで,双方の教育効果 が高まると考えられる。  次に,そうした相互作用は今回の授業実践において どのように形作られたか検討する。本研究では大学生 が自発的に参加していたことがポイントであった。高 校生 C は当初,やる気が出ず大学生に失礼な態度を 取っていたと述べ,「大学生がボランティアで来てく れていることを知り,とても申し訳ないことをしまし た。私が大学生だったら,高校へ行ってボランティア をするだろうかって思いました。人のためにこんなに 関わってくれる大学生を見て,このままではいけない と思うようになりました。いつのまにか,私も大学ま でいって,大学生に教えてもらったりするようにもな りました。大学生に『なんか積極的になったね』,『な んかすごい変わったね』と言われ,恥ずかしいのと嬉 しいとの気持ちが混ざっていました」と,意識の変化 を体感している。「人のためにこんなに関わってくれ る大学生」の存在に「このままではいけない」という 思いを持ったことで,商品開発の授業に積極的に取り 組むようになったのである。  大学生 C も「(高大連携型の授業が)強制だったと したら,参加する大学生のモチベーションが下がって しまうと思います。そうなると一緒に高校生のモチ ベーションも下がると思います。いかにやらされてい る感を持たないような雰囲気にするかということがと ても重要だと思いました」と,自発的であることの重 要性について指摘している。高校生にとってもこの授 業は選択授業であり,自分から取りたいと考えなけれ ば選択する必要はない。大学生と同様に,高校生のモ チベーションが高まりやすい条件の一つだと思われる。  当事者間の年齢差が小さいことも,特に高校生に とって意見の出しやすい環境作りに寄与した可能性が ある。高校生にとって立場が離れていない大学生との 協働的な作業は「仲間意識」が芽生えやすく,結果と して相互作用の質を高めたと考えられる。  ここから推測される仮説は,「高大連携型の授業に

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おいては,年齢差の小さい大学生が自発的に参与する ことが重要である」ということである。

Ⅸ.まとめ

 本論の価値は二点存在すると考える。第一に高大連 携を制度論ではなく授業実践の場で分析している点と, 第二に継続的・双方向的な関わりの中で蓄積された授 業当事者間の相互作用に着目している点である。  本論で強調したのは,高大連携の成否にとって当事 者である高校生と大学生の相互作用がいかに重要だっ たか,という点である。今後高大連携を展開する上で, 当事者の相互作用を活発化させることが,教育効果を 高めるための最も重要なポイントとなる。例えば,本 論では「当事者が自発的に協働すること」「継続的か つ双方向的なプロジェクトであること」「教員同士の 連携と見守り」「目的の共有」を挙げた。  高大連携型の授業の教育効果を高めるためには当事 者同士の相互作用の質に注目するべきであり,授業に 参加する高校生や大学生が能動的で,年齢や環境の差 が小さいことが重要である。これによって,高校生と 大学生の自発的な協働関係が生まれることを期待でき る。  さらに,一般的に見られる単発的・一方向的な「出 前講義」では教育効果は限定的と思われるが,今回の 「商品開発」の授業のように,一定期間顔をつきあわ せ,言葉を交わす機会を積み重ねれば,効果的な高大 連携型の授業は実現可能である。  大学教員や高校教員の役割としては,当事者間の相 互作用を引き出すために,ある程度教員が当事者に裁 量を持たせて自由にさせることが求められる。教員は 高校生・大学生にとっては,年齢の離れた大人であり, 参与しすぎることで当事者の依存を招く可能性がある。 教員は高大連携型の授業が「重要である」という大き な認識は共有しつつも,あえて当事者に参与しないこ とで,自分たちでグループを運営する重要性を暗に伝 え,意識化させることが相互作用の質を高める場合も あると考えられる。  また,今回の授業は参加者が 20 名未満という小規 模なものであったからこそ成立したと考える。複数ク ラスで授業展開したい場合は,教員同士の連携が求め られる。 引用文献および註

1) Glaser, B.G, & Strauss, A.L. 1967. The discovery of grounded theory : Strategies for qualitative research. Chicago : Aldine. (グレイザー,B. G.・ストラウス,A. L., 後藤 隆・大出春江・水野節夫(訳),データ対話型の理 論の発見─調査からいかに理論をうみだすか─,新曜社, 1996 年) 2) 竹田和夫「高大連携の動向・実践・課題について」,『月 刊高校教育』2010 年 10 月号(学事出版,2010 年)45 頁 3) 文部科学省「学術情報委員会(第 1 回)議事録」(2013 年 4 月 11 日) 4) 灘光洋子・浅井亜紀子・小柳志津「質的研究方法につい て考える-グラウンデッド・セオリー・アプローチ,ナ ラティブ分析,アクションリサーチを中心としてー」, 『異文化コミュニケーション論集』第 12 号(立教大学大 学院異文化コミュニケーション学科,2014 年)68 頁 5) 企画・開発する商品は小学校低学年を対象とした「工作 キット」である。 6) 「生きる力」の概念は,「21 世紀を展望にしたわが国の教 育の在り方について」第 15 期中央教育審議会第一次答申 (1996 年 7 月 19 日)で初めて登場した。答申では,「生き る力」を以下の 3 点の力を構成要素としている。①自分 で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し, 行動し,よりよく問題を解決する資質や能力,②自らを 律しつつ,他人と協調し,他人を思いやる心や感動する 心など豊かな人間性,③たくましく生きるための健康や 体力である。

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