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日外科系連会誌 44(6): ,2019 症例報告 腹腔鏡下多発肝囊胞術後の胆汁瘻に対して IVR 治療が著効した 1 例 兵庫医科大学外科学肝胆膵外科 飯田健二郎 鈴村和大 岡田 敏弘 波多野悦朗 藤元治朗 内容要旨症例は65 歳の女性で, 多発肝囊胞の経過観察中に腹部膨満感の増悪

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Academic year: 2021

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はじめに 多発肝囊胞症(Polycystic Liver Disease:以下 PCLD)は肝臓内に多数の囊胞を形成し,囊胞数 の増加,囊胞の巨大化により肝腫大をきたす疾患 である1).一般的には個々の囊胞は交通せず互いに 独立し,胆管とも交通を認めないとされている2) しかし肝囊胞が何らかの影響で胆管と交通を有す るようになることが稀に報告されている.術前・ 術中に診断・治療された胆管交通性の肝囊胞の報 告はいくつか散見されるものの,術後に判明した 胆管交通性の肝囊胞に対する治療報告はほとんど なされていない. 今回われわれは,腹腔鏡下肝囊胞開窓術後に胆 管交通性肝囊胞と判明した術後胆汁瘻症例に対し て,Interventional Radiology(以下IVR)治療に よって保存的に治療しえた症例を経験したので若 受付:2019年6月26日,採用:2019年8月26日  連絡先 飯田健二郎  〒663-8501 兵庫県西宮市武庫川町1-1  兵庫医科大学外科学肝胆膵外科 干の文献的考察を含めて報告する. 症 例:65歳,女性. 主 訴:腹部膨満感. 家族歴:特記すべきことなし. 既往歴:特記すべきことなし. 現病歴:以前よりPCLDに対して当院内科にて 経過観察中であった.腹部膨満感の増悪および食 思不振が出現し精査したところ,囊胞の増大を認 めたため,手術目的に当科紹介となった. 入院時現症:身長154cm,体重51.4kg.眼球結 膜に貧血認めず,眼球結膜に黄染認めず.腹部は 軟であるものの軽度の膨満を認めた. 入院時血液検査所見:血液生化学検査上,異常 値は認めなかった.腫瘍マーカーは,CEAは正常 範囲,CA19-9は92.7U/mlと軽度上昇を認めた. 腹部CT検査:肝全域にわたり造影効果を伴わな い腫瘤を多数認めた(Fig. 1a–d ).囊胞内には明 らかな結節性病変は認めなかった.また2016年3 月に施行したCTと比較して,最も大きなS6の囊胞 は最大囊胞径12cmから16.5cmと著明な増大を認め 内容要旨 症例は65歳の女性で,多発肝囊胞の経過観察中に腹部膨満感の増悪を認めたため精査したところ, CTにて囊胞の増大を認めたため外科紹介.腹腔鏡下肝囊胞開窓術を施行した.囊胞内容液に胆汁の 混入が疑われたが,胆汁漏出部は確認できなかった.術翌日にドレーンより胆汁様排液を認めたため, DIC-CTを施行したところ,囊胞内腔への造影剤流入を認め,胆管交通性肝囊胞と診断した.ドレー ンによる保存的加療では胆汁瘻の軽快傾向を認めないため,第13病日にEndoscopic retrograde biliary  drainage(以下ENBD)チューブを留置したところ,胆汁漏出は止まり退院となった. 術後に胆管交通性肝囊胞と判明した術後胆汁瘻症例に対し,Interventional Radiology(以下IVR) 治療にて治癒しえた症例を経験したので報告する. 索引用語:胆管交通性肝囊胞,術後胆汁瘻,IVR治療

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Fig. 1 Abdominal enhanced CT. Multiple tumors with no contrast effect can be observed throughout the liver (white arrow  a: S6, b: S2, c: S3). Fig. 2 DIC-CT. There was no inflow of iotroxic acid into the  cyst. た.いずれの囊胞についてもCT値は10-30HUと相 違は認められなかった. DIC–CT検査:囊胞内へのビリスコピンの流入 は認められなかった(Fig. 2 ). 以上の所見より多発肝囊胞の増大による腹部膨 満感の増悪と考え,腹部膨満感の原因と考えられ る囊胞に対して腹腔鏡下開窓術を施行することと した. 手術所見:全身麻酔下に臍上部に12mmポート, 左右側腹部に5mmポートを挿入し10mmHgにて 気腹を開始した.腹腔内の検索では肝全域に多発 する囊胞の存在が確認された.比較的大きな肝S6, S3,S2の囊胞をLigaSure®を用いて開窓したが,い ずれも漿液性の排液を伴う囊胞であった(Fig. 3 ). 胆囊についてはS6の囊胞壁とともに切除した.S6 の巨大な肝囊胞を開窓することにより視野が展開 され,S7からS1に存在する背側の比較的大きな囊 胞が直視可能となった.この囊胞壁に小切開を加 えた際に茶褐色の囊胞内容液の漏出を認め,胆汁 の混入が疑われた.囊胞内部を観察するも明らか な胆汁漏出部は確認できず,この囊胞については 囊胞内感染を危惧して小開窓のみとし,開窓部付 近にドレーンを留置し手術を終了した.手術時間 は1時間51分,出血量は20mlであった. 摘出標本所見:囊胞壁に明らかな壁在結節は認

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Fig. 3 Findings  from  intraoperative  laparos-copy.

A search inside the abdominal cavity confirms  the  presence  of  multiple  cysts  throughout  the  liver. Big fetal brain using LigaSure® from cysts 

of relatively large liver S6, S3, S2, cysts with  serous drainage in both cases.

Fig. 5 Postoperative findings.

Fig. 4 Resected specimen.

No  apparent  septal  wall  and  nodules  can  be  found in the cyst wall. めなかった(Fig. 4 ). 病理組織学的所見:囊胞壁は種々の線維性硬 化・硝子化を伴う線維性結合組織からなり,散在 性に石灰化を認めた.周囲には線維化,炎症反応 を伴う肝組織の遺残を認めた.線維性硬化を示す 囊胞壁との間には炎症性肉芽形成を示すとともに 細胆管増生を高度に伴っていた. 術後経過(Fig. 5 ):第1病日にドレーンより黄 色胆汁様排液を認め,ドレーン排液中のビリルビ ン濃度を測定したところ14.6mg/dlと高値であっ た.同日にDIC-CT検査を行ったところ,肝門部 の囊胞内腔に造影剤の流入が確認されたことから 胆管交通性の肝囊胞からの術後胆汁瘻と診断した (Fig. 6 ).腹部症状はないため,保存的に加療を 開始した.ドレーン排液中のビリルビン濃度につ いては次第に減少するも第4病日に腹痛が出現し, ドレーン排液中のビリルビン濃度の再上昇を認め た.腹部症状およびドレーン排液中のビリルビン

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濃度については翌日には改善を認めたが,第11病 日に再度腹痛が出現し,ドレーン排液中のビリル ビン濃度も第13病日に4.3mg/dlと再上昇を認めた. ドレナージだけでは囊胞壁小開窓部の自然閉鎖は 困難と判断し,第13病日にEndoscopic retrograde  cholangiopancreatography(ERCP)を施行した. ERCPにて尾状葉枝より囊胞内への造影剤の漏出 を認め(Fig. 7 ),漏出部付近にEndoscopic retro-grade biliary drainage(ENBD)チューブを留置 した.その後はドレーンからの胆汁漏出は改善し, 第15病日のENBD造影では尾状葉枝から囊胞内へ の造影剤漏出は消失した(Fig. 8 ).第16病日に ERBDチューブに変更,以後腹腔内への胆汁漏出 所見は認めなくなった.しかし,第21病日より38 度を超える発熱を認めた.抗菌剤投与も著効なく, 第27病日にERBDチューブを再交換の上,第28病 日に責任囊胞をCTガイド下にて穿刺吸引したが, 囊胞内容液の細菌培養結果は陰性であった.ERBD チューブを再交換した後は解熱を認め,第28病日 にドレーンは抜去,第34病日に退院となった.現 在術後24カ月経過しているが,囊胞径の増大はな く,発熱も認められておらず,ひきつづき外来に て経過観察中である. PCLDは突然変異による発症例もあるが,多く は常染色体優性遺伝で,特に女性において顕著に 症状が出現し,成人期早期~中期の出産可能年令 においてその数や大きさが増大する疾患である3) 超音波検査やCTなどの画像検査で15個以上の肝囊 胞が,PCLDの家族歴がある場合は4個以上の肝 囊胞が存在することから診断する3).肝機能は保た れていることが多いが,囊胞により肝が圧排され ることからγ-GTP,ALP,AST,ALTが軽度上昇 を示すことがある.また,CA19-9が上昇すること があり3),本症例においてもCA19-9の上昇が認め Fig. 6 DIC-CT on postoperative day 1. Inflow of the contrast agent into the cyst of the  hepatic portal area is confirmed (white arrow). Fig. 7 ERCP examination on postoperative  day 13.

Leakage  of  the  contrast  medium  into  the  cyst (white arrow) can be observed from the  caudate  leaf  branch  (black  arrow),  leading  to the diagnosis that the caudate lobe is in  traffic with the responsible cyst.

Fig. 8 ENBD  contrast  examination  on  postoperative day 15.

There is no leakage of contrast medium from  the caudate leaf branch into the cyst (white  arrow).

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肝囊胞の成因としては発生の途中に一次胆管と 二次胆管との結合不全により迷入胆管が発生し囊 胞に発育すると考えられている.一般的には個々 の囊胞は交通せず互いに独立し,胆管とも交通を 認めないとされている2).しかし感染や炎症など何 らかの影響で胆管と囊胞とが交通することにより, 胆管交通性の肝囊胞が生じると考えられている. 胆管交通性の肝囊胞についての報告は,医学中央 雑誌(key word:肝囊胞,胆管交通,1983年~ 2017年まで,会議録は除く)による検索で本邦報 告例は散見されるものの,いずれも単純性肝囊胞 に対し術前・術中に胆汁漏が確認されたものであ り,多発肝囊胞に対して術後胆汁漏が確認された 症例の報告は認めなかった.胆管との交通の有無 については,治療開始前に正確に診断することは 難しいとされている5).原因としては囊胞内圧が高 いことから胆管との圧較差が生じにくく,胆管か らの造影剤が囊胞内へと流出するのが困難である ことが考えられる.開腹手術時であれば囊胞壁を 開窓することにより囊胞内圧が低下し,胆汁が囊 胞内へと漏出することにより胆汁漏が視認可能と なるが,本症例では術中明らかな胆汁漏出所見は 確認できなかった.本症例は鏡視下手術であり, 胆管内圧と気腹圧との圧較差が同等かもしくは気 腹圧のほうが高圧であったため,胆管外へ胆汁漏 出が起こらなかったことが原因と考えられた.術 後気腹を解除することにより開窓された囊胞内圧 が低下,胆管内圧が囊胞内圧より高くなることに より胆汁の囊胞内への漏出が生じ,開窓した部分 から腹腔内へと漏出,腹部症状が生じたものと考 えられた. 胆管との交通が疑われる感染性の肝囊胞の診断 としては囊胞内部エコー上昇やDebrisの存在,CT た場合の対処法であるが,責任部位を同定,同部 を切除もしくは閉鎖することが必要である.胆管 交通部を含めて肝切除するか,胆汁漏出部が同定 できた場合は同部を縫合閉鎖することが望ましい. 医中誌では胆汁漏出部の肝切除以外に,Tacho-Comb®の使用やArgon Beam Coagulationでの焼 灼,フィブリン糊塗布,PGAフェルトの使用につ いて症例報告があった7).自験例では胆汁の混入が 疑われた時点で囊胞内部を腹腔鏡にて十分近接し 観察したものの,明らかな胆汁漏出部は確認でき ず,小開窓および開窓部付近にドレーンを留置し 手術を終了した.自験例では囊胞開窓時,責任囊 胞に胆囊が付着していたことから術中に胆囊を摘 出しており,胆汁の混入が疑われた時点で積極的 に胆管造影を行い,漏出の有無を精査する必要性 があったと考えられた.最近ではICG蛍光法によ る漏出の有無を同定することも可能であり,自験 例のように術中胆汁漏出が疑われた際には,胆汁 漏出部の有無を十分に確認の上,漏出があれば同 部を縫合することが必要と考えられた. 術後胆汁瘻の治療であるが,以前は外科的治療 が行われていたが,近年IVR治療の有用性が報告 されている.成功率は腹腔鏡下胆囊摘出術後と肝 切除後で異なり,前者で87~100%,後者で75%と されている7)~9).またCanenaら10)は腹腔鏡下胆囊 摘出術(以下LC)後の胆汁瘻の検討において, High-grade leak(肝内胆管の造影前にLeakが描 出)とLow-grade leak(肝内胆管の造影後にLeak が描出)に分類,比較検討したところHigh-grade  leakでは47%の成功率であったのに対しLow-grade  leakでは96%であったと報告している.High-grade  leakとLow-grade leakとは瘻孔の大きさおよび圧 較差が関係すると考えられる.瘻孔が大きくても

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圧較差がなければ胆汁の漏れが少ないためIVR治 療が奏効しやすく,瘻孔が小さくても圧較差が大 きければ胆汁漏出は多くなり,IVR治療が奏効し にくいと考えられる.本症例については肝囊胞に 伴う胆汁瘻であり,LC後の胆汁瘻と単純に比較は できないが,肝内胆管の造影後にLeakが描出され ていたことからLow-grade leakと判断され,IVR 治療が有効であったと考えられた. なお,本文の要旨は第9回日本Acute Care Sur-gery学会学術集会(2017年9月,札幌)において 発表した. 利益相反:なし  1) 小川光一,福永 潔,竹内朋代,他:本邦におけ る多発肝囊胞症のアンケート調査.肝臓  52:709-715,2011  2) 山田 護,武藤良弘:肝囊胞の取り扱い─症状と 治療適応・手技.綜合臨床  43:2715-2716,1994  3) 厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究 事業)「多発肝のう胞症に対する治療ガイドライ ン作成と試料バンク構築」班:多発性肝囊胞診療 ガイドライン.5-11,2013  4) Gigot JFP, Que F, Van Beers BE, et al : Adult  polycystic liver disease is fenestration the most  adequate operation for long-term management?   Ann Surg  225 : 286-294, 1997  5) Lai EC, Wong J : Symptomatic nonparastitic cysts  of the liver.  Would J Surg  14 : 452-456, 1990  6) 佐藤寛丈,塚原宗俊,岡田真樹:診断治療に苦慮 した感染性肝囊胞の一例.日外感染症会誌  6: 649-653,2009  7) 酒井宏司,小林 聡,横山隆秀,他:腹腔鏡下肝 囊胞天蓋切除術を施行した胆管と交通を有する単 純性肝囊胞の1例.日臨外会誌  75:769-774,2014  8) 髙野祐一,長濱正亞,丸岡直隆,他:術後胆汁瘻 に対する内視鏡治療の検討.Progress of Digestive  Endoscopy  88:60-64,2016  9) Waanders E, Croes HJ, Maass CN, et al : Cysts of  PRKCSH mutated polycystic liver disease patients  lack hepatocystin but express Sec63p.  Histochem  Cell Biol  129 : 301-310, 2008 10) Canena J, Horta D, Coimbra J, et al : Outcomes of  endoscopic management of primary and refrac- tory postcholecystectomy biliary leaks in a mul- ticentre review of 178 patients.  BMC Gastroen-terol  15 : 105, 2015

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tension. CT showed enlarged liver cysts. Laparoscopic fenestrations were performed for the multiple  liver cysts. Although the cystic fluid was brownish, we could not confirm a connection between the  hepatic cyst and the biliary tract intraoperatively. Bile leakage occurred on postoperative day 1. DIC- CT showed a connection between the hepatic cyst and the biliary tract. Because of unsuccessful con-servative treatment for bile leakage, an endoscopic nasobiliary drainage (ENBD) tube was placed on  postoperative day 13. Bile leakage was improved with ENBD tube drainage. We report herein on a  case of bile leakage after multiple liver cyst fenestrations successfully treated with interventional radi-ology.

Key words:  biliary ductal hepatic cyst, biliary fistula, interventional radiology

Fig. 1 Abdominal enhanced CT. Multiple tumors with no contrast effect can be observed throughout the liver (white arrow  a: S6, b: S2, c: S3)
Fig. 4 Resected specimen.
Fig. 8 ENBD  contrast  examination  on  postoperative day 15.

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