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教育総説 Review Essentials 絞扼性末梢神経障害に対する外科治療 Surgery for Entrapment Neuropathy 原政人 Masahito Hara, M.D., Ph.D. Key words: entrapment neuropathy peripheral

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Academic year: 2021

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はじめに

 現在の高齢社会において,加齢を原因とする脊椎変性 疾患に罹患する人は増加の一途を辿っている.手術が必 要とされる場合,私たちがなすべきことは,圧迫された 神経の減圧を確実に行うことであり,それにより神経症 状の改善が得られ,QOL の向上が図られる.しかし,中 には手術後も神経症状の改善が得られず,むしろ症状が 増悪してしまう症例も存在する.これがいわゆる failed back surgery syndrome(FBSS)や failed neck surgery syndrome(FNSS)であり,これらの症例を減らす努力 が必要である.私たち神経外科医にとって,手術でよく することができる神経疾患の手術手技を向上させること は非常に最重なことではあるが,間違った手術をしない こと,原因部位を見逃さずに手術を行うことも等しく重 要なことである.潜在的に末梢神経絞扼障害は多い可能 性があるため,その存在を知るとともに治療方法を理解 し,手術を実践することが多くの患者を救うことになる.  日本においては,神経診断と外科治療が分担されてい ないため,神経外科医にとってはむしろフィードバック が得られ,診断能力および手術技術の向上に寄与してい る可能性がある.診断においては神経内科医,治療に関 しては整形外科医も関与しているが,末梢神経疾患は神 経全体を扱うことのできる神経外科医もしくは脊椎脊髄 外科医が取り組むべき疾患である.

 今回は,手根管症候群(carpal tunnel syndrome:CTS), 胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome:TOS),肘部 管症候群(cubital tunnel syndrome:CuTS),足根管症候 群(tarsal tunnel syndrome:TTS),腓骨神経絞扼障害 (peroneal nerve entrapment neuropathy:PNEN),その 他を取り上げ,鑑別として必要なものについても言及す る.

1

.手根管症候群(CTS)

 手根管症候群は絞扼性末梢神経障害で最も多い疾患で あり,人口全体における罹患率は 1~5%で1),成人が一 生のうちで発症する危険性は 10%ともいわれる2).女性 に多く発症し,50歳代と70歳代の2つのピークがある3) 症候と診断  母指から中指,環指橈側のしびれを主訴とすることが 多いが,全指がしびれると訴えられることもある.手掌 側が中心で,手背側は手指先端にしびれが来る程度であ ることが多い.環指の橈側と尺側で感覚が異なる ring finger splittingがあるかどうかを調べることは重要であ る.手根管部での正中神経障害と,近位側での正中神経 障害を鑑別するうえで重要なのは,手掌中央部から母指 球にかけての部分の感覚障害を診ることである.この部 位は,手根管部より近位側で分岐する掌側皮枝の支配領 域であり(Fig. 1),手根管症候群では感覚障害をみない. Phalen徴候や Tinel 徴候も診断に有効である.運動障害 は進行例でみられ,母指球筋,とりわけ短母指外転筋の 萎縮がみられるようになる.  経験を積んだ医師であれば,典型的臨床徴候の揃った 手根管症候群の診断は電気生理学的検査がなくても可能 であるが,重症度などを調べるうえでも電気生理学的検 査は必須であると考える4).電気生理学的所見としては, 直接的な神経損傷や虚血による脱髄と神経ブロックが主 な所見であり,運動神経伝導速度(motor conduction velocity:MCV)・感覚神経伝導速度(sensory conduction velocity:SCV)の遠位潜時の延長を認める.また,疑陽 性所見も多いが,インチング法によって最も障害されて いる部位を診断可能である.短母指外転筋の CMAP が消 失する最重症例においては,2L‒INT 法〔正中神経(第 2 虫様筋)‒尺骨神経(第 1 掌側骨間筋)運動遠位潜時比較〕 1

愛知医科大学病院脊椎脊髄センター/Spine Center, Aichi Medical University Hospital

連絡先:〒480‒1195 長久手市岩作雁又 1‒1 愛知医科大学病院脊椎脊髄センター 原 政人〔Address reprint requests to: Masahito Hara, M.D., Ph.D., Spine Center, Aichi Medical University Hospital, 1‒1 Yazakokarimata, Nagakute‒shi, Aichi 480‒1195, Japan〕

絞扼性末梢神経障害に対する外科治療

Surgery for Entrapment Neuropathy

原   政 人

Masahito Hara, M.D., Ph.D. Key words: entrapment neuropathy peripheral nerve surgical treatment Spinal Surgery 33(2)150‒159,2019

Review–Essentials

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での潜時差を調べることは有用である. 鑑別疾患  手根管症候群に関しては,手指のしびれであれば,最 初に疑うべきである.手指以外にも症状があれば,脊髄 症(C4/5 もしくは C5/6 高位)や神経根症(C6 もしく は C7 神経根)を疑うことになる.非常にまれな手指に しびれのない手根管症候群で母指外転筋のみの萎縮を呈 していた症例を経験したが,この際には T1 神経根症や 胸郭出口症候群が鑑別として挙げられた. 手術方法

 Open hand surger y(手掌内小皮膚切開5)・palmar

creaseを越える皮膚切開6))と内視鏡による手根管減圧

術(two‒portal 法7)・one‒portal 法8))などがある.その 他にも小皮膚切開によるレーザーでの横靭帯切開術など

もある9).ここでは,われわれが行っている手掌内小皮

切による open carpal release surgery を記す(Fig. 1).  予定皮膚切開線の近位側から正中神経の中枢側に向け て針を進め,1%キシロカインでまず正中神経に浸潤麻 酔をする.次いで,皮膚切開部位の局所麻酔を行う. ターニケットは使用しない.やや背屈気味で母指・小指 lineが手術台に平行になるように十分注意する.皮膚切 開は遠位掌側手首皮線(palmar crease)を越えないこと が重要であり,5 mm 程度遠位部で長掌筋腱の尺側から 遠位は中指と環指の間に向かって約 2.5 cm 切開する.皮 下脂肪組織は bipolar coagulator にて止血を兼ねて退縮 させる.長掌筋腱(palmaris longus tendon)を線維方向 に沿って分け(Fig. 2 a),横手根靭帯を露出する(Fig. 

2 b).場合によっては,正中まで短掌筋(palmaris brevis

muscle)や短母指屈筋(flexor pollicis brevis muscle)の

筋腹が見られるので,正中をしっかり確認できたら,筋 腹ごと切開する.顕微鏡下に尖刃にて注意深く横手根靭 帯を切開する(Fig. 2 c,d).靭帯が切離されると,薄い 膜の下に正中神経が見られる.横手根靭帯の下に神経剝 離子を挿入し,顕微鏡下に注意深く尖刃にて切開してい く.ある程度まで切離したら,眼科用剪刀にて尺側を意 識して引き上げながら切離していく.小さな鉤で引きな がら顕微鏡を倒して可及的に直視下で切開を進める.近 位側では尺側を意識すれば,掌側皮枝を損傷することは ないが,遠位側では,反回枝(recurrent branch of median

nerve)の解剖学的破格が存在するため,必ず直視下に横 手根靭帯の切開を進める.圧迫の強い例では靭帯はかな りの厚みをもっており,完全に切開されると靭帯切離縁 が左右に大きく開く.近位側に対しては,神経剝離子が 十分に抵抗なく挿入できることを確認する.遠位は脂肪 組織が見られ,確実に横手根靭帯が切離されていること が確認できる.横手根靭帯切離縁の開きはおよそ 7 mm を目安にしており,開きが悪い場合は,中枢側の再確認 をしたほうがよい(Fig. 2 e).生理食塩液洗浄後,十分 に止血し,皮膚をマットレス縫合する.

2

.胸郭出口症候群(TOS)

 腕神経叢の一部もしくは鎖骨下動・静脈が intersca-lene triangle(前面:前斜角筋,後面:中斜角筋,下面: 第 1 肋骨)において圧迫されて生じる病態で,neurogenic TOS,vascular TOS,nonspecific‒type TOS の 3 タイプに 分けられる.多覚的所見に乏しいため,この存在自体を 疑問視する意見もあるが,1,000 人に 3~80 人の発生率と いう報告もある.女性が男性の約 3 倍の頻度でみられ, 2 3 Fig. 1 手根管症候群の手術に必要な解剖 正中神経掌側皮枝 掌側手根靭帯 母指球筋 横手根靭帯 反回枝 尺骨神経 小指球筋 正中神経 正中神経総掌側指枝 正中神経掌側皮枝 長掌筋腱 手掌腱膜 尺骨神経掌枝 短掌筋 掌側手根靭帯 尺骨神経

(3)

20~50 歳に多く発症する10) 症候と診断  Neurogenic TOS の約 90%が,C8,T1 神経根で形成さ れる領域の圧迫が原因であり,これを true neurogenic TOSという.上肢の尺骨神経領域のしびれ,痛みで発症 することが多い.第 4,5 指のしびれを伴う場合は,環指 の橈側と尺側で感覚が異なる ring finger splitting がある かどうかを調べることは重要である.しかし,前腕尺側 にしか感覚障害がないこともある.運動神経症状は約

10%の症例に存在し,小指外転筋,短母指外転筋,第 1

背側骨間筋の筋萎縮を認めることもある.Neurogenic

TOSでは,上肢挙上テスト(Roos test)により症状の再

現が得られ,Morley test により上肢へのしびれや痛みの 放散が得られることが多い.Vascular TOS では Allen test,Adson test などが陽性になる.血管撮影,腕神経叢 造影,MRI などによる画像診断が有用なこともある.電

気生理学的検査は一部有用であるが11),診断は困難であ

る.C8,T1 神経根で形成される lower trunk が圧迫され た病態では,その解剖学的特徴から診断が可能なことが ある.すなわち,lower trunk を形成する C8,T1 の

sen-sory fiberはすべて尺骨神経内を走行すること,C8,T1

の motor fiber は正中神経と尺骨神経内を走行するが, lower trunk内の位置関係から正中神経への motor fiber が損傷されやすいため,尺骨神経のsensory action poten-tialの振幅減少と正中神経の compound motor action

potentialsの振幅減少,尺骨神経の motor action potential は正常かやや減少し,正中神経の sensory action

poten-tialは正常という所見を呈する12).また,尺骨神経障害と の鑑別においては,C8,T1 神経支配である内側前腕皮 神経の障害を確認することが有用とされる. 鑑別疾患  C8 神経根症,肘部管症候群を考慮する.第 4,5 指に 感覚障害がない場合もあり,T1 神経根症も鑑別疾患と して重要である.C6/7 での脊髄症でも小指と前腕尺側 のしびれが初発であることもあるが,受診時には下肢症 状が出現していることが多い. 手術方法

 Transaxillar y approach,anterior supraclavicular approach,posterior subscapular approach がある.これ らの経路にて,前斜角筋部分切除,前斜角筋・中斜角筋 部分切除,第 1 肋骨切除を組み合わせることにより,腕 神経叢や鎖骨下動静脈の減圧を行う.ここでは,われわ れが行っている anterior supraclavicular approach を記す (Fig. 3).  鎖骨上約 1.5 cm で胸鎖乳突筋の鎖骨枝外側縁から外 側に約 6 cm の皮膚切開を行う(Fig. 3).広頚筋を皮膚 切開線方向に切離すると,直下に脂肪組織が見え,鎖骨 上神経が出てくる(Fig. 4 a).これを左右に牽引し視野 を確保する.上方には肩甲舌骨筋が見えてくる.これを 上方に牽引する(Fig. 4 a).脂肪組織をさらに剝離して 1 2 3 Fig. 2 実際の症例(すべて左が中枢側) a:長掌筋腱の露出,b:横手根靭帯の切開,c:横手根靭帯近位側の切開,d:横手根靭帯遠位側の切開,e:正中神経 の露出.

aa

bb

cc

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いくと,その下に腕神経叢が見えてくる(Fig. 4 b).外 側を展開したほうが腕神経叢を捕まえやすい.腕神経叢 を内側に向かって剝離していくと,その尾側には拍動す る鎖骨下動脈が見えてくる(Fig. 4 b).また,内側には 前斜角筋が見えてくる(Fig. 4 b).一般的に,低い位置 で展開すると,横隔神経は術野の上方で露出される (Fig. 4 c).横隔神経は前斜角筋の表面を外側上方から 内側下方に向かって走行しており,これを損傷しないよ うに十分に気をつけなければならない.横隔神経を傷つ けないように気をつけながら,前斜角筋を 1‒0 もしくは Fig. 4 実際の症例(すべて上が頭側,下が尾側) a:鎖骨上神経の露出と肩甲舌骨筋の展開,b:腕神経叢の露出とその尾側の鎖骨下動脈,c:前斜角筋と横隔神経の露出,d:前斜角筋 の結紮,切離,e:中斜角筋の展開,f:中斜角筋の第 1 肋骨からの剝離,g:第 1 肋骨の切除. 1:鎖骨上神経,2:肩甲舌骨筋,3:腕神経叢,4:横隔神経,5:前斜角筋,6:鎖骨下動脈,7:中斜角筋,8:第 1 肋骨. 1 2

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5 6 3

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5 4

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5 3 7 6

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ff

3 8 7

gg

3 8 7 Fig. 3 胸郭出口症候群の手術に必要な解剖 皮膚切開線 Pad Pad 鎖骨 横隔神経 前斜角筋 第1肋骨 中斜角筋 腕神経叢 肩甲舌骨筋 鎖骨 鎖骨下動脈

(5)

2‒0 のナイロンの撚糸で結紮し切離する(Fig. 4 d).こ れにより,拍動する鎖骨下動脈が観察されるようにな る.腕神経叢の外側で中斜角筋を確認すると(Fig. 4 e), その下に第 1 肋骨が指で触れる.尾側で中斜角筋の第 1 肋骨付着部を露出し,低出力のモノポーラーにて頭側に 向かって肋骨から剝離する(Fig. 4 f).肋骨から剝離す ることにより,中斜角筋後方を走行する長胸神経の損傷 を防ぐことができる.中斜角筋付着部を切離した後,ケ リソンパンチを用いて第 1 肋骨を切除する(Fig. 4 g). 可及的に広範囲の肋骨切除を行うようにしている.肋骨 の骨膜下剝離を心がければ,胸膜が損傷されることはほ とんどない.肋骨切断端には骨蝋をつけて止血し,胸膜 上にはサージセルを敷き詰めて,ドレナージチューブを 挿入し,広頚筋を縫合する.皮下組織も縫合し,皮膚を 合わせて手術を終了する.

3

.肘部管症候群(CuTS)

 肘部管症候群は 10 万人に対し年間発生率は 20.9 人 で13),上肢絞扼性末梢神経障害では第 2 位である.40 歳 代後半の男性に多い傾向がある. 症候と診断  小指全体と環指尺側の知覚障害で発症する.しびれ は,肘関節を強く曲げていると増強することが多い.こ の際,環指の橈側と尺側で感覚が異なる ring finger

split-tingがあるかどうかを調べることは重要である.ほとん

どの例で Tinel 徴候は陽性になるが,偽陽性も多い. Elbow flexion testにて症状が再現することが重要であ る.症状が進行すると,母指内転筋,第 1 背側骨間筋, 小指外転筋などの運動障害,筋萎縮などを生じる.握力 低下,pinch の低下,かぎ爪指変形(Froment sign),小

指外転筋力の低下などを生じる.  肘部管症候群の補助診断として,電気生理学的検査は 有用である.針筋電図による脱髄所見や,尺骨神経の MCV・SCV の低下,インチング法による障害部位により 診断が可能である. 鑑別疾患  C8 神経根症,胸郭出口症候群,Guyon 管症候群を考 慮する. 手術方法

 Simple in situ decompression,in situ decompression with medial epicondylectomy,anterior transposition(sub-cutaneous,submuscular,intramuscular)の 3 つの方法 に集約される.ここでは,われわれが行っているanterior transposition(subcutaneous)を記す(Fig. 5).  手術は仰臥位で,局所麻酔下(皮下浸潤麻酔)に手術 を行うが,中枢側の尺骨神経にも浸潤麻酔を加えて伝達 麻酔様にしておく.肘関節を屈曲外旋し,内上顆と肘頭 の中間を中心にした 6~8 cm の直線縦切開とする.展開 の邪魔になる表面の静脈は凝固切離する.皮下脂肪を鈍 的に分けるが,このとき前腕内側皮神経の後方枝が術野 に現れるので損傷しないように注意が必要で,これを内 側に牽引し保護する(Fig. 5).Cubital tunnel retinaculum (CTR:尺側手根屈筋の前腕深筋膜と Osborne の弓状靭 帯)と尺骨神経が露出するが(Fig. 6 a),尺骨神経の CTR 貫通部近傍では,これを栄養する上尺側側副動脈を傷つ けないように十分注意する(Fig. 5).Osborne の弓状靭 帯と尺骨神経の間に神経剝離子を通してから眼科用尖刀 で持ち上げながら切離する(Fig. 6 a).次いで,尺側手 根屈筋の前腕深筋膜を遠位に向かって切離することにな るが,尺骨神経の前方移動時に絞扼されないように十分 な切離を目標にする(Fig. 6 b).この前腕深筋膜は 3 も しくは 4 つの band をもっており,全長は 5 cm を超えて いることを念頭に置くべきである.鉤にて遠位を十分に 展開し,直視下で筋膜を切離する.最後に近位側も鉤に て皮膚を近位側に引き,顕微鏡を傾けて内側筋間中隔を 中枢側に追っていき,尺骨神経が絞扼されていないこと を確認する(Fig. 6 c).尺骨神経の減圧が確認されたら, 尺骨神経を血管テープなどで持ち上げて CTR を縫合し, 尺骨神経溝に尺骨神経が戻らないようにする(Fig. 6 d). このとき,われわれは吸収糸を用いて埋没縫合をしてい る.肘関節屈曲時に内上顆が引っかかる場合,その部位 を骨膜下に剝離し,リュウエルや air drill にて出っ張り を削り,さらに平滑になるようにする.われわれは,尺 骨神経の前方移動を行っており,内側皮下脂肪組織を剝 離し,これを CTR に余裕をもたせて縫合し内側走行を維 1 2 3 Fig. 5 肘部管症候群の手術に必要な解剖 尺骨神経 Strutherの arcade 上尺側側副動脈 前腕内側皮神経 尺側手根屈筋(尺側頭) 尺側手根屈筋(上腕頭) 上腕二頭筋腱膜 内側筋間中隔 尺側手根屈筋の前腕深筋膜 Osborne band 皮膚切開線

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持させている.術野の止血を行い,皮下組織と皮膚を縫 合する.

4

.腓骨神経絞扼障害(PNEN)

 腓骨神経絞扼障害は下肢末梢神経絞扼障害では最も多 いとされているが,発症頻度などは不明である.Failed back surgery syndromeの一部がこの疾患である可能性 もある.  腓骨神経は,腓骨頭周囲で筋間中隔,長腓骨筋筋膜, ヒラメ筋と長腓骨筋の起始部合流部,腓骨トンネル入口 部などで圧迫を受け得る.根底にあるメカニズムは不明 であるが,腱様の硬い筋膜の辺縁などが,動きに伴い緊 張し,神経を圧迫したり,しごいたり,捻ったりして発 症するものと思われる. 症候と診断  これまで習った腓骨神経麻痺の概念と異なり,運動障 害のない腓骨神経絞扼障害は多い.症状の中心は下腿外 側と足背部の痛みであり,間欠性跛行を呈する例が多 い.さらに,歩行による症状の増悪,長時間の立位での 悪化もみられるが,足関節の底背屈を繰り返すことによ り,症状の再現が得られやすいのが特徴である15).神経 学的所見としては,腓骨頭部での圧痛や Tinel sign が陽 性となる.足関節背屈力の低下をみることもある.補助 診断としては,電気生理学的検査,MRI などがある. 鑑別疾患

 L5 神経根症との鑑別は,straight leg raising test(SLR) が陰性であり,坐骨神経の近位側で分岐する神経の支配 筋である殿部外転筋が保たれ,足関節外転が障害される ことが重要である16) 手術方法  ここでは,われわれが行っている腓骨神経開放術(神 経剝離術)を記す(Fig. 7).手術は仰臥位で,局所麻酔 下(皮下浸潤麻酔)に手術を行うが,中枢側の腓骨神経に も浸潤麻酔を加えて伝達麻酔様にしておく.手術側の背 1 2 3 Fig. 6 実際の症例(すべて左上が末梢側で右下が中枢側) a:Osborne band の切開,b:尺骨神経の露出,c:尺骨神経中枢側の開 放,d:尺骨神経の前方への移動.

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Fig. 7 腓骨神経絞扼障害の手術に必要な解剖 総腓骨神経 腓骨神経浅枝 腓骨神経深枝 ヒラメ筋 腓腹筋 長腓骨筋 腓骨頭 前脛骨筋

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中に枕を入れ,軽度の半側臥位とする.両脚の間にも枕 を入れ,手術肢の膝関節を 30~40 度屈曲する.腓骨頭の 下で,膝裏近くから斜めに 5 cm ほどの切開を行う.遠位 側は長腓骨筋の外縁を超えるようにする.皮下組織を剝 離し,筋膜を露出する(Fig. 8 a).長腓骨筋の外側部の 結合組織を切開すると脂肪組織が見られ,この中に総腓 骨神経が存在している(Fig. 8 b).総腓骨神経を捉え, 遠位側に追っていき,長腓骨筋入口部の筋膜を切開する (Fig. 8 c,d).長腓骨筋の長軸に沿って遠位側まで筋膜 を切開し,浅腓骨神経が牽引されないことを確認する (Fig. 8 e,f).次いで,長腓骨筋を内側に牽引し,深腓骨 神経を確認する(Fig. 8 g).牽引が不十分なときは,長 腓骨筋の筋膜を横切開して牽引をしやすくすることもあ る.遠位側まで十分減圧され,牽引がないことを確認後 (Fig. 8 h),皮下組織と皮膚を縫合して手術を終了する.

5

.足根管症候群(TTS)

 足根管症候群は,後脛骨神経が足根管部で絞扼されて 感覚障害をきたす疾患である.足底,とりわけ内側足底 部のしびれ感が特徴である.踵の感覚は内側踵骨枝支配 であり,感覚障害を免れることが多いのが診断の助けに なるが,必ずしもそうとは限らないのが問題である.糖 尿病(DM)とアルコール性ニューロパチーの除外が重 要である. 症候と診断  足趾,足底部の疼痛としびれ感で,内側足底の知覚障 害が多い.これらのしびれ感は,境界があいまいで,活 動性が上がることにより症状が悪化する.足根管部に放 散する叩打痛がある.また,足趾の浮腫をきたすことも ある.焼けるような痛みが足底部に存在し,しばしば足 根管部より近位側に広がる.Tinel 徴候が最も信頼でき る指標である.母趾外転筋と小趾外転筋の筋萎縮を注意 深い観察で発見することが可能である17)  電気生理学的所見としては,針筋電図で母趾外転筋 や,小趾外転筋の脱神経所見がみられる.後脛骨神経の 1 Fig. 8 実際の症例(すべて上が頭側,下が尾側) a:筋膜の露出,b:長腓骨筋の外側部の結合組織を切開,c,d:腓骨神経が長腓骨筋を貫通する筋膜を切開,e,f:長腓骨筋の筋膜を遠位 側まで切開し,浅腓骨神経を開放,g:長腓骨筋の筋腹を内側に牽引し,深腓骨神経を露出,h:浅・深腓骨神経の減圧.

aa

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Fig. 9 足根管症候群の手術に必要な解剖 踵骨 屈筋支帯 脛骨神経 内側足底神経 外側足底神経 内側踵骨枝 後脛骨動脈 母趾外転筋 脛骨 後脛骨筋 長趾屈筋腱 長母趾屈筋腱

(8)

MCV,SCV 潜時延長と振幅低下を認めることができれ ばよいが,電気生理学的診断はかなり困難である.進行 例では sensory action potential が導出されない18)

鑑別疾患

 ニューロパチーとの鑑別において,電気生理学検査が 有用とされるが,診断は困難である.

手術方法

 Open surgery による simple decompression(足根管解 離術)や,脛骨神経と血管(動脈・静脈)の分離などが ある.ここでは,われわれが行っている脛骨神経と血管 (動脈・静脈)の分離術を記す(Fig. 9).  手術体位は健側の背中に枕を入れ,体幹を患側に30度 傾けて大腿を外旋し膝を屈曲させた体位で手術を行う. 手術創の局所麻酔(浸潤麻酔)を行うが,疼痛コントロー ルをよくするため,中枢側にも浸潤麻酔を行い,脛骨神 経の伝達麻酔様にする.脛骨内果と踵骨結節の二等分点 を通り,内顆の後縁に沿って弓状に切開する.近位は脛 骨内果と踵骨結節の二等分点の 1~2 cm 上方で,遠位は 船状骨粗面から足底に向けて 5~6 cm とする.顕微鏡を 導入し,皮下組織は鈍的に剝離する.この際,小さな踵 骨枝を損傷しないように注意が必要である.近位では腓 腹筋筋膜を露出し,遠位では母趾外転筋を露出する.屈 筋支帯近位端上部にある深筋膜を 1~2 cm 切開し,屈筋 支帯を近位から遠位に向けて切離する.この際,内側踵 骨枝が屈筋支帯を貫通していることがあるので,注意深 い観察が必要である.脂肪組織に覆われた後脛骨動静脈 を同定し(Fig. 10 a),血管テープで脛骨神経から引き離 していく.これらの血管束の下に脛骨神経が見られる (Fig. 10 b).脛骨神経は一般的に屈筋支帯の下方部分で 内側足底神経と外側足底神経に分かれることが多い (Fig. 10 c,d).母趾外転筋の筋膜起始により内側足底神 経と外側足底神経が絞扼されていないかを確認する.最 後に後脛骨動脈と脛骨神経の分離を行う(Fig. 10 e).止 血を行い,皮下組織と皮膚を縫合する. 2 3 Fig. 10 実際の症例(すべて左が中枢側で右が末梢側) a:脂肪組織に覆われた後脛骨動静脈を剝離,b:後脛骨動静脈の下に脛骨神経が見られる,c:脛骨神経を遠位側に追う,d:内側足底神経 と外側足底神経の減圧,e:屈筋支帯を緩く縫合し,血管と神経を分離.

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Fig. 11 梨状筋症候群の手術に必要な解剖 殿筋腱膜 梨状筋 下殿神経 大殿筋 後大腿皮神経 坐骨神経 上殿神経

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6

.その他

梨状筋症候群  梨状筋症候群は,坐骨神経が梨状筋部を通って骨盤よ り出る部位で起こる絞扼性神経障害であるが,現在もな おこの病態自体の存在が疑問視されている.坐骨神経痛 を有する症例の約 6%が梨状筋症候群であるとの報告が 米国からなされており,女性が男性の約 6 倍と高率に発 症するとのことである.  強い坐骨神経痛が主訴で,殿部の痛みと知覚異常を主 体とし,大腿後面にまで放散する.疼痛のため座位保持 が困難で,歩行は疼痛から逃避するために股関節を外旋 位とする傾向がある.Freiberg test(股関節を他動的に 屈曲・内旋することにより疼痛が誘発される),Pace test (股関節を抵抗下に外転・外旋させると疼痛が誘発され る),FAIR test(股関節を屈曲・内転・内旋位とすること により,殿部痛と下肢痛を誘発する)などの誘発テスト がある.また,触診にて梨状筋の硬い腱様の筋膜を触れ ることもある.画像診断では,MRI,CT,超音波にて梨 状筋の肥厚などがみられる.MRI にて,坐骨神経が分か れて梨状筋を貫通する所見などをみることもある(Fig. 12).  針筋電図上,大殿筋と梨状筋に脱神経所見をみるが, 小殿筋や中殿筋にはみられない.腰椎椎間板ヘルニアで は,Hoffman reflex や H‒reflex が有意に延長し,支配筋 すべてに筋電図所見が得られることから鑑別できるとさ れる19)  手術方法としては,梨状筋切断術があり,梨状筋自体 の切断を行うものと,大転子付着部の腱の切離を行うも のがある.私たちは梨状筋切断を行い,直接坐骨神経を 確認し減圧している(Fig. 11,12). 肩甲上神経絞扼性障害(suprascapular nerve entrapment  肩甲上神経絞扼性障害の原因は,肩甲切痕部,下肩甲 横靭帯下における entrapment,ガングリオン,スポーツ 障害,直接外傷などが挙げられている.その発生機序は, 肩甲上神経走行の解剖学的特徴に起因していると考えら れる.  肩甲上神経絞扼性障害の一般的症状は,肩の疼痛,棘 下筋・棘上筋萎縮,圧迫部の圧痛,外旋筋力低下などで ある.手術部位が深いため,全身麻酔で腹臥位としたほ うが行いやすい.圧痛点を中心に肩甲棘の上を5 cm程度 横切開し,肩甲棘基部付近で下肩甲横靭帯を露出し,切 離する.これにより肩甲上神経が減圧される. 後骨間神経麻痺  後骨間神経麻痺の原因は,ガングリオンなどの腫瘤, 腫瘍,Monteggia 骨折(尺骨の骨折と橈骨頭の脱臼)な どの外傷,神経炎,運動のしすぎなどとされる.後骨間 神経は Frohse(フロセ)のアーケードという回外筋入口 部の狭いトンネル部で障害を受けやすい.後骨間神経麻 痺は感覚障害のないことで診断できる.補助診断とし て,筋電図検査,X 線検査,MRI 検査,超音波検査など が有用である.肘部から 3 cm 遠位部から腕橈骨筋と長 橈側手根伸筋の間を 7~8 cm 切開し,これらの筋間を剝 離する.撓骨神経の深枝は回外筋の Frohse のアーケー ドを貫通し後骨間神経となるが,これを遠位側に追って いき,一部回外筋の筋腹を切開しながら後骨間神経を減 圧する. 1 2 3 Fig. 12 梨状筋症候群の MRI 所見 梨状筋(破線矢印)により坐骨神経が総腓骨神経と脛骨神経に分かれている(実線矢印).

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Anterior cutaneous nerve entrapment syn-drome(ACNES:前皮神経絞扼障害)  腹壁の感覚を支配する前皮神経が,腹壁で絞扼される ことで急性から慢性経過の腹痛を呈するものが ACNES である.女性例が 77%,男性例が 23%と女性で多いとい われている.平均年齢は 47 歳で 13~87 歳までと幅広い. 腹痛の持続期間は数カ月~数年で,腹痛部位は右腹部 62%,左腹部 37%,右下腹部 47%と報告されている20) 圧痛点は肋間神経の前枝が腹直筋を貫通する部位にあ り,指先 1 本分とされ再現性がある.首を持ち上げ腹圧 をかけてもらいながら疼痛部位を限局的に圧迫すると圧 痛が増悪する Carnett 試験が陽性に出る.私たちは,局 所麻酔下に圧痛点を中心とした 3~4 cm の横切開で手術 を行っている.皮下脂肪組織を分け,筋膜を貫通する神 経血管束を同定する.貫通している筋膜も切除し,神経 血管束を凝固切断する.

おわりに

 糖尿病,アルコール,甲状腺機能低下症,加齢変化な どは,全身の末梢神経システムの機能を低下させ,絞扼 性神経障害発生の閾値を下げる.これにより,神経症状 が複雑になり,診断を困難なものにさせ,治療成績も左 右される.足根管症候群などは,現時点で治療成績がよ いとはいえない.診断を正確にすることが困難なことに 加え,中枢神経から最も遠い末梢神経システムであり, 神経自体の機能低下をきたしているからかもしれない. 診断を確立する努力と,手術症例を蓄積しての手術適応 の確立が必要である.  COI 開示  著者は日本脳神経外科学会への COI 自己申告の登録を完了 しています.本論文に関して開示すべき COI はありません. 文 献

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参照

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