化学農薬と生物農薬の相互利用の勧め∼生物&化学同棲時代∼ ― 59 ― 271 化学農薬がなければ作物生産量は激減する。無農薬栽 培が不可能であることは,世界の農薬販売金額5 兆円, 日本でも三千億円以上の化学農薬が使われているという 事実が如実に示している。農家も農薬を使わないと生産 量を維持できないので使用しているのである。 生物農薬が使われる理由は,化学農薬の効果が低い場 面が多い。薬剤抵抗性が問題化した害虫や病害があれ ば,農家は生物防除に頼らざるを得ない。温室でのイチ ゴ,ピーマン,ナスの害虫防除ではすでに生物農薬(こ の場合は,天敵昆虫)がメインに使用されているといっ ても過言ではない。それらの作物での害虫,すなわちア ザミウマ,コナジラミ,アブラムシ等は化学農薬への抵 抗性(感受性低下)が出現しやすいからである。散布回 数と年間の世代数が多いことが原因である。とはいえ, 生物農薬が化学農薬に比べ,環境に必ずしもよいわけで もなく,農家も環境のためだけに天敵などの生物農薬を 使用しているわけではない。 以前,化学農薬の開発普及をしていたとき,最も無力 感を覚えたのは,効果が落ちたという農家,あるいは試 験場からのコメントだった。化学農薬はこれを簡単に改 善することができない。化学修飾していけば抵抗性を回 避することは可能かもしれない。が,農薬登録制度があ り,農薬の構造を変化させればゼロから開発をやりなお す必要がある。現実的には不可能である。一時期,効力 をアップさせる技術が出てきたが,実用化したものはご くわずかであった。製剤の変更や,混合剤の開発くらい が現実的に対処できる方策であることは今も変わりがない。 生物農薬は現在,温室内での利用が多く,技術的には 2015 年現在,温室内の上記作物類での「害虫」防除に おいて,生物農薬による防除は完成したといっていい。 もちろんいまだトマトその他作物での改良は必要である が,技術的に可能であることは欧米の例を見るまでもな い(抵抗性品種,土着および作物に若干被害の出る天敵 の輸入解禁などが必要であるが)。生物農薬も農薬取締 法上,農薬の一種であり,温室内での化学農薬の使用量 を減らすなどの政令などにより,生物農薬の使用比率は 将来,日本の農薬市場全体の10%程度にまで上昇する であろう。 一方,野外における生物農薬の利用は,日本でも進ん できている。微生物農薬などのもう一段の効果アップ (感染性,即効性,貯蔵性の改善)は必要だが,これら は化学農薬業界のノウハウによって実現が可能である。 性能の高い微生物種,昆虫種は利用されていないだけ で,世界のみならず,日本にも存在しているのである。 欧米のマルチナショナルの農薬会社はすでに種子処 理,土壌処理分野での開発にも力を注いでおり,化学農 薬とのハイブリッド利用,ローテーション利用が始まっ ている。問題は知的所有権の保護による製剤技術,施用 技術等の開発促進であろう。安全性と選択性という特長 を持つ化学農薬と防除効果の高い生物農薬の両方を人類 の叡智により上手に組みあげていくことは,人類に与え られた権利と機会でもあり,若手研究開発者の柔軟な頭 脳と経営者の理解,政策策定者の進取の精神に期待したい。
化学農薬と生物農薬と相互利用の勧め~生物&化学同棲時代~
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