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良渚文化「耘田器」の使用痕と機能

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Academic year: 2022

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良渚文化「耘田器」の使用痕と機能

著者 原田 幹

雑誌名 金大考古 = The Archaeological Journal of Kanazawa University

巻 64

ページ 8‑12

発行年 2009‑06‑30

URL http://hdl.handle.net/2297/23955

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−−

土塀を巡らした寺院は少なく、生垣であったり、通り から内側に下がって塀が作られているため、全体に厳 めしさがなく、柔らかな雰囲気である。こうした山の 下寺院群の成立事情は、少なくとも前田家による分藩 以降に意図的に集められたと考えられる。逆にいえば、

山口氏以前には寺院群を形成していない。こうした点 は城下における寺町が、江戸時代になってから形成さ れたということであり、これまで語られてきたような、

防衛目的で形成されたのかも含めて、今後さらに検討 する必要があろう。

(e-mail: m.tajima@city.kaga.lg.jp)

蓮光寺全景

大聖寺藩歴代藩主墓地

実性院本堂

良渚文化「耘田器」の使用痕と機能 原田 幹

はじめに

 良渚文化は長江下流域の新石器時代後期の文化であ る。大規模な土台状建造物、階層分化の進んだ墓葬、

精緻な玉器に代表される手工業生産の発達など、諸方 面において研究者の注目を集めている。

 良渚文化の経済的基盤は、稲作を主体とする農耕生 産にもとめられる。この段階には、石鎌、耘田器、破 土器、石犁など、特徴的な石器が盛行し、農耕技術の 一定の到達度を示す資料として評価されている(厳 1995、中村 2002 など)。しかし、個々の石器の具体的 な機能・用途については諸説があり、見解の一致をみ ていないこともまた事実である。

 本稿では、「耘田器」と呼ばれている石器をとりあげ、

高倍率の顕微鏡を用いた使用痕分析により、その機能 および使用方法について検討する。

1 使用痕分析調査の概要

 本分析は、日中共同研究「良渚文化における石器の 生産と流通」(2000 ~ 2002 年度、研究代表中村慎一)

の一環として実施したものである。浙江省・江蘇省の 各研究機関において、主に農具としての機能・用途が 想定されている石器約 60 点の使用痕分析を実施した。

予備調査   2000 年 9 月  浙江省文物考古研究所ほか  第 1 回   2001 年 9 月  浙江省文物考古研究所、 湖州

  市博物館、 馬嶴博物館、 舟山市博物館  第 2 回   2002 年 2 ~ 3 月  上海博物館

 第 3 回   2002 年 9 月  浙江省文物考古研究所、 昆山   市文物管理所、 良渚文化博物館

2 耘田器について

 「耘田器」とは、左右対称のV字形の刃部をもつ薄 身の石器である。その他、背部に突出部をもつ(ない ものもある)、中央背部よりに穿孔がある(ないもの もある)、刃部断面は両刃で刃角は小さい、といった 形態的な特徴がある。

 「耘田器」の機能・用途については、A直交する柄 を付け、中耕除草具とする説(劉軍・王海明 1993)、

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金大考古 64, 2009 原田 幹・良渚文化「耘田器」の使用痕と機能・8-12

B木製の鋤先に取り付け、耕作具の刃とする説(牟永 抗 1984)、C 石刀の一種と考え、収穫具とする説(紀 仲慶 1983、兪為潔 1996)など諸説あり決着をみてい ない。

3 「耘田器」の使用痕分析

() 分析の方法

 本分析は、実験資料に基づいて使用痕を観察・解釈 する実験使用痕分析に立脚する(阿子島 1989)。使用 痕の観察には、100 ~ 500 倍の落射照明型顕微鏡(オ リンパス BX30M)を使用し、主に微小光沢面(以下、

光沢)や微細な線状痕を対象とする高倍率法に基づく 観察を実施した。

() 耘田器の使用痕の特徴

 分析の結果、「耘田器」の使用痕について、次のよ うな特徴が明らかになった。

①光沢はB・Aタイプで、パッチ状に発達している。

②光沢は主面の広い範囲に形成されている。光沢強度  分布は、主面の片側から中央の穿孔部にかけてよく  発達しおり、総じて器面の左側で強い。また、右側  縁に近い部分にも発達した光沢が認められることが  ある。

③光沢は両面に分布し、同様な分布の偏りが認められ  る。刃縁を挟んだ表裏面の分布は点対称の関係にな  る。

④穿孔部から背部の突出部の間で、帯状に光沢の空白

 域が認められるものがある。

⑤刃縁の光沢面に観察される線状痕は刃部と平行する  方向性をもつ。彗星状ピットは側縁の方向を向くも  のが多い。

⑥主面内側(特に左主面)では、光沢面に斜行する線  状痕が観察され、穿孔部へ向かう方向性が認められ  る。

⑦刃縁では、光沢が微弱か、全く観察されない場合が  ある。

() 「耘田器」 の機能

 (2)で確認された使用痕の特徴から、「耘田器」の 機能及び使用状況については、次のように推定される。

①光沢の特徴から、イネ科等の草本植物の切断に用い  られたと推定される。

②非常に広範囲に光沢が分布しており、器面に植物を  押さえつけるような使用方法が想定される。この場  合、光沢が強く発達している主面左側から中央部に 図1 金属顕微鏡

SP-01014 ② 500×

SP-01021 ① 200×

写真 1 光沢面の顕微鏡写真

図2 光沢面の顕微鏡写真

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− 0 −  かけて対象物と強く接触したことになる。

③刃縁の線状痕と彗星状ピットは、刃を側縁に向かっ  て平行に操作したことを示している。

④ただし、刃縁より奥では斜行する線状痕もみられ、

 この方向に沿った運動も想定されるなど、実際の操  作方法はより複雑なものである。

⑤両面とも同様な光沢分布の偏りがみられることか   ら、表裏を入れ替えて使用されたようである。この  場合、左右の刃部はそれぞれ独立した刃部として機  能していたことになる。

⑥背部の非光沢部は直接石器の操作と関係するもので  はないが、柄や紐などが装着されていたことを示唆  する痕跡である。

⑦刃縁で光沢が微弱なのは、刃部の研ぎ直しの影響と  みられる。

4 使用方法についての仮説

 以上のような観察結果から、耘田器は耕起具の刃先 や中耕除草具ではなく、草本植物の切断に機能した石 器と考えられ、C. 収穫具とする説の蓋然性が高いとい える。

() 石庖丁の使用痕との比較

 耘田器の使用痕を解釈するうえで、東アジアに広く 分布する石刀との関係について整理する。日本では、

石刀に起源をもつ石庖丁の使用痕分析と実験に基づく 研究がなされてきた(阿子島 1989、松山 1992、御堂 島 1991 など)。その結果、石庖丁の使用方法は、器面 に穂を指で押さえつけ刃を刃縁と直交方向に操作する

「穂摘み」の方法が復元されている。

 「耘田器」と石庖丁で類似している点としては、① 微小光沢面の特徴、②③光沢分布の特徴、⑦研ぎ直し による刃面の光沢の消失、などである。逆に、⑤刃縁 の線状痕の方向、⑥器面内側の線状痕の様相、④背部 の光沢の空白域などの違いがあり、石庖丁とは異なる 操作方法が想定される。

() 東南アジアの収穫具と使用法

 穂首を対象とした収穫具で、もうひとつ注意すべき 使用方法として、中国南部から東南アジアで使用され ている稲の収穫具をとりあげる(栗島義明 2002、田 中 1987、中原 1988 など)。これらの収穫具には、刃と 直交する軸棒(柄)を取り付けたものと指をかけるた めの紐輪を付けたものがあるが、両者の基本的な使い 方は同じである。操作方法は、鉄製の刃を埋め込んだ 木製本体部を中指と薬指・または薬指と小指の間には さんで手中に固定し、上面側の指で穂をつかみ、手首 を外側に押し出すようにひねって切断する、というも のである。小林公明はこのような収穫具の操作方法を

「水平押切法」と呼んでいる(小林 1978)。

 石庖丁の動作とは手首の使い方が逆で、刃は押し切 る運動になることに注意したい。このような操作方法 は、使用痕から推定した耘田器の操作方法ともよく合 致している。現代の道具は鉄製の刃が用いられており、

直接石器と比較はできないものの、耘田器の使用方法 を復元するうえで参考となる。

5 「耘田器」の使用実験

() 実験の概要 目的

 耘田器が収穫具であるという推定に基づき、想定さ れる操作方法と使用痕の分布パターンを比較検証す る。また、使用方法による操作性の違いを明らかにし、

図 1 耘田器の光沢強度分布図(S=1/4)

SP-02010

⑥ ⑦

SP-01021 SP-01014

図3 耘田器の光沢強度分布図

ベトナム・タイー族の収穫具と使用方法       (栗島2002より)

石庖丁の使用方法

図 収穫具の使用方法図4 収穫具の使用方法

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金大考古 64, 2009 原田 幹・良渚文化「耘田器」の使用痕と機能・8-12

耘田器の形態的な特徴を力学的に検証する。

実験の場所等 2002 年から 2007 年にかけて計 4 回の 実験を行った。

第 1 回 2002 年 10 月  静岡市登呂遺跡復元水田 第 2 回 2004 年 11 月  静岡市登呂遺跡復元水田 第 3 回 2005 年 10 月  静岡市登呂遺跡復元水田

第 4 回 2007 年 10 月  愛知県清洲貝殻山貝塚資料館体験水田

実験石器・条件

 本来ならば良渚文化の石材と同じものを使用すべき であるが、現地での石材の入手が困難であったため、

当初は弥生時代の石庖丁に用いられている結晶片岩を 使用した(実験 1 ~ 4)。その後江蘇省で採取されたホ ルンフェルス製の石器(実験 5)を追加した。

実験 1 耘田器(結晶片岩製):水平押切・柄付 「押    し切り」による穂首の収穫作業。穿孔部に木製    の軸棒を装着するタイプの想定復元。

実験 2 耘田器(結晶片岩製):水平押切  「押し切り」

   による穂首の収穫作業。穿孔部に指掛け用の紐    を装着するタイプの想定復元。

実験 3 耘田器(結晶片岩製):穂摘み 「穂摘み」に    よる穂首の収穫作業。穿孔部に紐をとおし手に    保持する。

実験 4 耘田器(結晶片岩製):穂刈り、鎌のように穂    首を引き切る収穫作業。

実験 5 耘田器(江蘇省採集のホルンフェルス製):水    平押切・柄付 「押し切り」による穂首の収穫    作業。穿孔部に木製の軸棒を装着するタイプの    想定復元。

図 実験石器と操作方法

実験 1・5 水平押切法(柄付) 実験 2 水平押切法

実験 3 穂摘み 実験 4 穂刈り

図5 実験石器と使用方法

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− −

() 実験結果

 出土資料の使用痕と最も整合するのは実験 1・実験 2・

実験 5 の「水平押切法」である。

① 穂を石器上面のやや左側でつかむため、この部分  で器面に強く接触し光沢が発達する。残滓の付着範  囲も出土石器の光沢分布と整合する。

② 刃部を押し出すように平行に操作するため、刃縁  の線状痕は刃と平行し、彗星状ピットは側縁の方向  を向く。

③ 実験石器では刃縁から奥で線状痕は確認されてい  ないが、切断された穂は軸棒(紐の場合は穿孔部)

 に向かってたぐりよせられ、主面左に斜行する線状  痕が生じることが予想される。

④ 今回の実験では片面しか使用していないが、裏返  して使用すれば反対の面にも同様な光沢分布が形成  されることになる。両面とも使用痕が発達している  石器は、表裏を入れ替えて使用されていたと考えら  れる。

 また、断面が薄身であること、刃角が小さく鋭いと いった耘田器の形態的な特徴は、刃を平行に操作して 切断する際に非常に機能的であることも確かめられ た。

まとめ

 良渚文化の「耘田器」と呼ばれている石器は、使用 痕分析の結果、イネ科等の草本植物の切断に用いられ たことが確認された。用途としては、稲作農耕にとも なう収穫具であると考えられる。その使用方法は、中 国南部から東南アジアの伝統的な収穫具にみられる

「水平押切法」と同様なものであることが、実験によっ て検証できた。

 本研究の成果としては、①諸説ある耘田器の機能・

用途について、収穫具であることが判明したこと、② 民族誌的に知られていた「水平押切法」による収穫具 の使用法が、考古学的な資料において明らかになった 初の事例であること、③中国において高倍率法を用い た実験使用痕分析の端緒となる研究であること、をあ げておきたい。

 最後に、①良渚文化の石器構成と長江流域の農耕技 術(農耕技術の実態)、②「耘田器」の起源と終末に 関する問題(農耕技術の系譜)、③収穫具使用におけ

る身体技法(民族学と考古学の接点)といった課題を あげ、今後ともこの分野の研究に取り組んでいきたい。

引用・参考文献

阿子島香 1989 『考古学ライブラリー 56 石器の使用痕 分析』 ニュー・サイエンス社

紀仲慶 1983 「略論古代石器的用途和定名問題」『南京 博物院集刊』6:pp.8-15.

栗島義明 2002 「ヴェトナム北部タイー族の穂摘具」

『埼玉県立博物館紀要』27:pp.72-78.

厳文明(菅谷文則訳) 1995 「中国史前の稲作農業」和 佐野喜久生編『東アジアの稲作起源と古代稲作文化報 告・論文集』:pp.209-214.

小林公明 1978 「石庖丁の収穫技術」『信濃』30 - 1:

pp.67-79.

田中耕司 1987 「稲作技術の類型と分布」『稲のアジア 史 1』:pp.213-276. 小学館

中原律子 1988 「中国瑶族の農耕具」『民具マンスリー』

21 - 1:pp.1-13. 神奈川大学日本常民文化研究所 中村慎一 2002 『世界の考古学 20 稲の考古学』 同成社 松山聡 1992 「石庖丁の使用痕」『大阪文化財研究』3:

pp.1-10. 財団法人大阪文化財センター

御堂島正 1991「磨製石庖丁の使用痕分析-南信州 弥生時代における磨製石器の機能-」『古代文化』

43-11:pp.26-35.

牟永抗・宋兆鱗 1981 「江浙的石犁和破土器」『農業考 古』1981 - 2:pp.75-84.

兪為潔(小柳美樹訳) 1996 「良渚文化期の農業」『日 中文化研究』11:pp.20-28. 勉誠社

劉軍・王海明 1993 「寧紹平原良渚文化初探」『東南文 化』1993 - 1:pp.92-102.

(e-mail: harada@zb.ztv.ne.jp)

参照

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