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救急医療における臨床試験・治験に係る 倫理と法令・規則

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(1)

寄  稿 

佐藤 元

a)

,井口 竜太

b)

1.はじめに 

救急医療の現場における臨床試験・治験の計画・実 施においては,一般的な臨床試験・治験における注意 点・困難に加え,救急医療特有の考慮すべき諸点が存 する 1)。中でも,救急研究における説明同意(informed consent)を得ることの困難さは,被験者を事前に把 握することが困難なこと,時間的な制約,本人の意思 表示能力の低下,特有の医師患者関係などを背景とし て研究推進の大きな障害となってきた 2)。その一方,

救急医療で広く行われている医療の多くには科学的 根拠が存在せず,根拠に基づく医療(evidence-based medicine,EBM)の推進必要性が認識されてきた 3)。 救急研究,特に説明同意を要件としないで実施される 研究に関する規制においては,説明同意,個人情報,

リスクと便益といった被験者保護とEBM実現のバラ ンスを社会においていかに実現するかという問題の解 決を目指している。

本問題は各国が苦慮しながら対応を進めているが,

未だに未整備部分の多い課題である。わが国において も,医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令,自 ら治験を実施しようとする者および自ら治験を実施す る者等が治験の実施等に際し遵守しなければならない 基準(Good Clinical Practice / 以下,「GCP」)等にお いて,同意を得ることが困難な者を対象とした治験実 施について規定されているものの,救急医療・研究の 現場においてはこれら法令・規則の具体的適用には混

乱も多い 4)。 本稿では,医学・臨床研究の倫理原則・規則,医 療

行為における倫理原則,さらに臨床試験・治験におけ る原則と規制について概説し,救急医療の特質,救急 医療に係る臨床研究・臨床試験,中でも被験者から同 意が取れない状況下での臨床試験に関する現行の関連 法令を整理して提示する。その上で,欧米の現状,争 点となっている点に考察を加える。

2.医学・健康科学研究の倫理指針 

人間(ヒト)を対象とする医学研究の倫理的原則と しては,まず,治療を前提としない人体実験の許容範 囲を示す「ニュルンベルク綱領」(1947 年)があり,

これを基にして世界医師会が採択した「ヒトを対象と した臨床研究における倫理的原則(ヘルシンキ宣言,

1964 年)」が挙げられる。後者は医学研究一般に適用 されるべき原則として,①研究よりも患者・被験者の 福利を優先,②本人の自発的・自由意思による研究参 加(文書による説明と文書による同意取得),③倫理 審査委員会による事前審査と研究進行状況の監視継 続,④先立つ動物実験と臨床研究データの有効活用を 前提として科学的で倫理的な研究実施(研究実施計画 書の作成)を要諦とした。

ヘルシンキ宣言はその後,数次にわたって改正され, 2008

(平成 20)年改正の最新版においては,臨床研 究の科学性 確保,有能な研究者による実施,実施計画 書の作成,第三者 による実施の審査・承認・監視,研

a)国立保健医療科学院・政策技術評価研究部 埼玉県和光市南 2-3-6 [email protected] b)東京大学大学院医学系研究 科・外科学専攻生体管理医学講座

救急医療における臨床試験・治験に係る  倫理と法令・規則 

説明同意を実施要件としない臨床試験・治験  

(2)

救急医療における臨床試験・治験に係る倫理と法令・規則

究の事前登録,未成年者・法的無能力者についての保 護者(および本人)同意,ヒト由来試料(組織・細胞・ 遺 伝子など)と診療情報の適切な管理,患者(被験者) の 医学研究(および成果としての有益な治療)へのア ク セス権などの項目が追加され包括的指針となってい る

5,6)

現在,ヘルシンキ宣言は,すべての医学研究関係者 が遵守すべき国際的倫理原則とされ,日本においては 後述する ICH-GCP 合意に基づく新薬開発実施基準

(厚 生労働省令),「臨床研究に関する倫理指針」などの 種々 の医学研究のガイドラインに反映されている 7)

2‑1.臨床研究・疫学研究に関する国内指針 

日本における人を対象にした研究の倫理指針として は,医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(厚 生労働省),疫学研究に関する倫理指針(文部科学省,

厚生労働省),臨床研究に関する倫理指針(厚生労働 省),遺伝子治療研究に関する指針(文部科学省,厚 生労働省)などがある 8)。また,人由来資料に関わる 研究に関する指針として,ヒトゲノム・遺伝子解析研 究に関する倫理指針(文部科学省,厚生労働省,経済 産業省),ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針

(厚生労働省),ヒト受精胚の作成を行う生殖補助医療 研究に関する倫理指針(文部科学省,厚生労働省),

ヒトES 細胞の樹立及び分配に関する指針(文部科 学 省),ヒト ES 細胞の使用に関する指針(文部科学 省), ヒト iPS 細胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細 胞の作 成を行う研究に関する指針(文部科学省)があ る 9)

疫学指針と臨床指針の適用は,手術,投薬等の医療 行為を伴う介入研究か否かで区別され,研究者は研究 がどの指針に該当するか判断し実施することとなる 10)。 なお,観察研究に関する疫学研究指針と臨床研究指針 は実質的にはほぼ同内容である 11, 12)

2‑2.疫学研究に関する倫理指針 

疫学研究とは,(明確に特定された人間)集団の中で 出現する健康に関するさまざまな事象の頻度および分 布ならびにそれらに影響を与える要因を明らかにする 科学研究を指す。本指針は,人の疾病の成因および病態 の解明ならびに予防および治療の方法の確立を目的と

(3)

寄  稿 

する疫学研究を対象としているが,法律の規定に基づき 実施さ れる調査,ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する 倫理指針に基 づき実施される研究,資料としてすでに連 結不可能匿名化されて いる情報のみを用いる研究,手術, 投薬などの医療行為を伴う介 入研究については対象と しない9)

2‑3.臨床研究に関する倫理指針 

臨床研究は,「医療における疾病の予防方法,診断 方法お よび治療方法の改善,疾病原因および病態の理 解ならびに患 者の生活の質の向上を目的として実施さ れる次に掲げる医学 系研究であって,ヒトを対象とす るもの」と定義される。こ れは,介入を伴う研究であっ て,(1)医薬品または医療機器 を用いた予防,診断ま たは治療方法に関する研究,(2)前記 以外の介入を伴 う研究,(3)介入を伴わず試料などを用いた研 究で, 疫学研究以外の観察研究(通常の診療の範囲内であっ て,いわゆるランダム化,割り付けなどを行わない医 療行為 における記録結果および当該医療行為に用いた 検体などを利 用する研究を含む)に分類される。医学, 歯学,薬学,看護学,

リハビリテーション学,予防医 学,健康科学に関する研究が含 まれる 13)

臨床研究に関する倫理指針は上述の臨床研究を対象 とす るが,診断および治療のみを目的とした医療行為, 他の法令 および指針の適応範囲に含まれる研究,試料 などのうち連 結不可能匿名化された診療情報(死者に 関わるものを含む)

のみを用いる研究は対象としない9)。 また,ここでいう介入と は,予防,診断,治療,看護 ケアおよびリハビリテーショ ンなどについて実施され るもので,(1)研究目的で実施さ れる通常の診療を超 えた医療行為,(2)通常の診療と同等 の医療行為であ るが,被験者集団を複数グループに分けて 割り付けを 行って効果をグループ間で比較する場合などが 含まれ る。被験者に対する危険性の水準が一定程度以上の 医 療行為を行うものとして,投薬,医療機器の埋め込み, 穿刺,

外科的な治療,手術,さらに試料等の採取のた めに行われ る採血や穿刺を伴う行為は「侵襲を伴う介 入」とされ,特 に配慮を要するものとされる。

これら臨床研究においては,参加者・被験者のヒト としての 権利(人権)や安全を最大限に保護すること

(4)

救急医療における臨床試験・治験に係る倫理と法令・規則

が求められ,倫理審査・説明同意が必要である 14)。な お,2008(平成 20)年の改訂版指針では,(1)健康 被害の補償についての規定,(2)観察研究の定義と説 明同意の手続き(試料採取の侵襲性の有無による手続 きの相違),(3)同意を得ていない既存試料の扱い,(4)

侵襲性を有する介入研究の事前登録(臨床研究・治験 データベースへの登録),(5)実施中の有害事象発生 への対応,(6)倫理審査委員会の審査を不要とする場 合,(7)迅速審査の規定,等が明文化されている 12, 15, 16)

。 これにより本指針は,後述する「医薬品の臨床試験の 実施に関する基準」と内容的に近いものとなっている 一方,「臨床研究に関する倫理指針」は基本的原則に ついての記載はあるものの,実務段階での具体的指示 に乏しいとされる 12)

2‑4.臨床試験・治験に関する倫理規定 

「臨床試験」は臨床研究の一部であり,ヒトを対象と して医学的介入の有効性や安全性を調べる臨床研究で ある。他方,「治験」とは医薬品,医療機器および体外 診断薬の承認申請を目的とした臨床試験を指す。なお,

医薬品,医療機器の市販後に行われる製造販売後調査 の一環として実施される臨床試験は「製造販売後臨床 試験」と称される。これは,承認された適応内で実施 される臨床試験であり,新たな疾患や異なる用法・用 量について適応拡大を目的とする臨床試験は治験とみ なされる 13, 14)

治験の実施について日本では,1989(平成元)年 に厚生省薬務局長通知「医薬品の臨床試験の実施に 関する基準について(薬発第 874 号)」が指針として 設けられた(通称,旧 GCP)。その後 1991(平成 3)

年,日米欧三極の薬事規制の調和を目的として,薬 事規制当局と製薬企業連合会の代表で構成する「日 米 EU 医 薬 品 規 制 調 和 国 際 会議(The International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use,ICH)」が組織され,1996(平成 8)

年には「医薬品の品質,安全性,有効正当の国際基準

(ICH- Good Clinical Practice:ICH-GCP,E6 ガ イ ド ライン)」が定められた。日本では翌 1997(平成 9)年,

これを反映した「GCP 省令(平成 9 年厚生省令第 28 号,

新 GCP)」が定められ,薬事法で規定されている治験 などを実施する際の「厚生労働大臣の定める基準」の 一つとされた 6, 11)。これにより,臨床試験の結果を諸 外国と相互受け入れすることが可能となった 14)

その後 2005(平成 17)年には「医療機器の臨床試 験の実 施の基準に関する省令(厚生労働省令第 36 号, 医療機器 GCP 省令)」が定められたが,これは医療機 器を対象とした 新 GCP に相当する基準である 17)。な お,疫学研究に関する 倫理指針(文部科学省,厚生労 働省),臨床研究に関する倫 理指針(厚生労働省)は 根拠法を持たない「ガイドライン」

であり,医薬品の 臨床試験の実施の基準に関する省令(同), 医療機器 の臨床試験の実施の基準に関する省令(同)は薬事 法 を根拠法とする法令である。

欧米においては基本的にすべての臨床試験が倫理 性 ,科 学 性 お よ び 信 頼 性 の確 保を目 的と し て ICH- GCP に沿った倫理審査の対象となる一方,日 本では 臨床研究・臨床試験のうち治験のみが薬事法お よび「医 薬品の臨床試験の実施に関する基準(新 GCP)」の管 理下に置かれる 5)。そのため,日本では

(GCP 基準に 依らない)臨床試験によって新薬の開 発・申請・承認 に有望な成果が得られた場合でも,申 請を行う場合は 改めて(GCPに準拠した)治験を実 施する必要があ る 10)

2‑5.臨床研究・臨床試験・治験における説明と同意  患者が治療についての情報を得て,自身の自律・自 己決定や幸福を守る上で,説明同意は大きな役割を果 たす。この考え方に立ち,医療行為を行う際には,(1)

病名と病気の説明,(2)これに対してこれから行うと する治療・処置の説明,(3)その治療・処置の危険度(危 険の有無と程度),(4)それ以外の選択肢として可能な 治療法とその利害損失(,5)予後(その病気の将来予測)

の 5 項目について医師は十分な説明を行い,患者はそ の説明で理解したことを同意する必要がある 7, 18)

これと同様に治験実施時には,治験責任医師は被験 者に文書による適切な説明を行い,文書により同意を 得なければならない(省令 GCP 第 50 条 第 1 項)。臨床 試験に関する倫理指針〔2009(平成 21)年〕の説明同 意に係る細則は内容的に GCP 省令とほぼ同一である 19)

(5)

寄  稿 

治験は通常の医療行為とは異って試験を目的とする こと,治験薬の有効性や安全性について未知の部分が あること,治験参加による負担増加の可能性,また治 験参加にかかる利益と不利益等について説明文書で十 分に説明し,理解と同意を得ることが特に重要である。

説明同意書に求められる項目については,医薬品の臨 床試験の実施の基準に関する省令(GCP 省令)第 51 条 に規定されている。被験者の治験参加意思を左右する 可能性のある情報が治験開始後に得られた場合には,

情報提供し文書に記録,被験者の治験への継続参加の 意志を再確認する必要がある 20)

一般的な被験者保護規定に加えて,未成年者,同意 能力を欠く成人,社会的な弱者集団の保護については,

法的代理人による代諾を原則として求め,また倫理審 査委員会に小児・同意能力を欠く成人の専門家を置い て助言を得ること等が求められる 21)

3.救急医療における臨床試験・治験に係  る法令・指針 

臨床試験・治験に係る主な法令・指針としては,薬 事法(昭和 35 年 8 月 10 日 法律第 145 号),薬事法施行 令(昭和 36 年 1 月 26 日 政令第 11 号),薬事法施行規 則(昭和 36 年 2 月 1 日 厚生省令第 1 号),医薬品の臨 床試験の実施の基準に関する省令(平成 9 年 3 月 27 日 厚生省令第 28 号),医療機器の臨床試験の実施の基準 に関する省令(平成 17 年 3 月 23 日厚生労働省令第 36 号)などがある。これらにおける基本的な原則・規則 に照らした救急研究のあり方,特に被験者同意の得ら れない研究の実施について述べる。

3‑1.救急医療における説明と同意 

医療行為を行う際,救急医療においても,正常な判 断力のある成人を対象とする場合には説明と同意を要 する。しかし,救急重症例においては,説明と同意の 前提となる,医師と患者が十分な時間をかけて信頼関 係を築くことが困難であることが多い。救急症例は,

救命処置・治療に一刻を争う場合が多く,治療選択に 関する説明と同意を求める時間を十分にかけられず,

また,患者の意識が器質的原因により消失・低下して いる場合,あるいは怒りや恐怖感などにより冷静な判

断力が失われている場合が多いためである 18)。 したがっ て,緊急事態であり時間的余裕のない状況

下で患者が自己決定権を行使できる状態でない場合に は,説明と同意は例外的に不要とされている 18, 22)。し かし,この場合においても,可能な場合には原則とし て,家族(親権者),後見人,その他近親者への説明 同意が必要である 23)。患者の権利としての診療拒否に ついても,あらかじめ特定の書式(Against Medical Advice,AMA)を用意しておくことが必要である

24)。心肺停止症例に関して,本人死亡後に権利を受け 継ぐことのできる家族の範囲と優先順位は,配偶者, 子 供,父母,孫,祖父母,または兄弟姉妹とされてい る

25)

3‑2.救急重症例における臨床研究,説明同意  救急医療における臨床研究・治験においても,原則 的には,他の領域・対象の研究と同様に参加者・被験 者の人権や安全を保護する必要がある 14)。しかし上述 した治療の選択に関する場合と同様,救急(重症)症 例を対象とした研究においては,患者の多くは大きな 生命・身体の危機に面しており,臨床研究・治験への 参加に係る意思決定能力が不完全で,また時間的猶予 がない場合が多い。こうした状況は,説明同意の遂行 を困難とし,被験者はより脆弱な立場に置かれ得るこ とを示唆する。加えて,研究のための説明同意を得る 過程が治療の遅延,さらに不可逆的な帰結を生ずるこ とは問題となり得る。

そこで治験に係る規則である GCPは,一定の条件下 で説明同意の取得義務を免除した臨床研究の実施を許 可している。救急医療現場で(説明同意を得ないで) 治 験を行う場合,条件を満たしていることを治験実施 計 画書に記載することが必要である。それは,(1)同 意 を得ることが困難と予測される者を対象にしなけれ ば ならないことの説明,(2)予測される被験者への不 利 益が必要な最小限度のものであることの説明,(3) 生命 が危険状態にある傷病者に対して,その生命の危 機を 回避するために使用する医薬品として,製造販売 の承 認を申請することを予定していること,(4)既存 の治 療方法では十分な効果ができないことの説明,(5) 新規の 治療方法において,生命の危険が回避できる可

(6)

救急医療における臨床試験・治験に係る倫理と法令・規則

能性が十分にあることの説明,(6)効果安全性評価委 員会が設置されていることの 6 項目である 26)

医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成 9 年 3 月 27 日厚生省令第 28 号,最終改正:平成 24 年

12 月 28 日厚生労働省令第 161 号)における,治験に おける被験者本人から同意を得ることができない場合 の規定条文(抜粋)を表 1   に示す。

表1.医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP     省令) 

:特に救急研究・本⼈同意を得ないで⾏う臨床試験に係る部分 

 

第二章 治験の準備に関する基準

第一節 治験の依頼をしようとする者による治験の準備に関する基準(第四条~第十五条)

(治験実施計画書) (省略)

第二節 自ら治験を実施しようとする者による治験の準備に関する基準(第十五条二~同条九) 第十五条の四(業務手順書等)自ら治験を実施しようとする者は,次に掲 げる事項を記載した治験実施計画書を作成しなければならない。

2 自ら治験を実施しようとする者は,当該治験が被験者に対して治験薬の効果を有しないこと及び第五十条第一項の同意を得ることが困難な者を対象 にすることが予 測される場合には,その旨及び次に掲げる事項を治験実施計画書に記載しなければならない。

当該治験が第五十条第一項の同意を得ることが困難と予測される者を対象にしなければならないことの説明 二 当該治験において,予測される被験者への不利益が必要な最小限度のものであることの説明

3 自ら治験を実施しようとする者は,当該治験が第五十条第一項又は第二項の同意を得ることが困難と予測される者を対象にしている場合には,その 旨及び次に掲げ る事項を治験実施計画書に記載しなければならない。

一 当該被験薬が,生命が危険な状態にある傷病者に対して,その生命の危険を回避するため緊急に使用される医薬品として,製造販売の承認を申請 すること を予定しているものであることの説明

二 現在における治療方法では被験者となるべき者に対して十分な効果が期待できないことの説明 三 被験薬の使用により被験者となるべき者の生命の危険が回避できる可能性が十分にあることの説明 四 第二十六条の五に規定する効果安全性評価委員会が設置されている旨

第四章 治験を行う基準(第二十七条―第五十五条) 第三治験責任医師(第四十二条―第四十九条)

第四十四条(被験者となるべき者の選定)治験責任医師等は,次に掲げるところにより,被験者となるべき者を選定しなければならない。

一 倫理的及び科学的観点から,治験の目的に応じ,健康状態,症状,年齢,同意の能力等を十分に考慮すること。

二 同意の能力を欠く者にあっては,被験者とすることがやむを得ない場合を除き,選定しないこと。

三 治験に参加しないことにより不当な不利益を受けるおそれがある者を選定する場合にあっては,当該者の同意が自発的に行われるよう十分な配慮 を行うこ と。

第四節 被験者の同意(第五十条―第五十五条) 第五十条(文書による説明と同意の取得)治験責任医師等は,被験者となるべき者を治験に参加させるときは,あらかじ め治験の内容その他の治験に関

する事項について当該者の理解を得るよう,文書により適切な説明を行い,文書により同意を得なければならない。

2 被験者となるべき者が同意の能力を欠くこと等により同意を得ることが困難であるときは,前項の規定にかかわらず,代諾者となるべき者の同意を 得ることにより 当該被験者となるべき者を治験に参加させることができる。

3,4,5(省略)

第五十一条(説明文書) 第五十二条(同意文書等への署名 等) 第五十三条(同意文書の交付)

第五十四条(被験者の意思に影響を与える情報が得られた場合)

第五十五条(緊急状況下における救命的治験)治験責任医師等は,第七条第三項又は第十五条の四第三項に規定する治験においては,次の各号のすべて に該当する場合に 限り,被験者となるべき者及び代諾者となるべき者の同意を得ずに当該被験者となるべき者を治験に参加させることができる。

一 被験者となるべき者に緊急かつ明白な生命の危険が生じていること。

二 現在における治療方法では十分な効果が期待できないこと。

被験薬の使用により被験者となるべき者の生命の危険が回避できる可能性が十分にあると認められること。

四 予測される被験者に対する不利益が必要な最小限度のものであること。

五 代諾者となるべき者と直ちに連絡を取ることができないこと。

2 治験責任医師等は,前項に規定する場合には,速やかに被験者又は代諾者となるべき者に対して当該治験に関する事項について適切な説明を行い, 当該治験への参加 について文書により同意を得なければならない。

この種の治験は,被験者の生命・人権に関わるため,特に’慎重に審議すべきと考えられる場合には以下の観点からも吟味する

(上記第 7 条第 3 項,第 15 条の 4 第 3 項の運用通知)

・このような治験の被験者となるかもしれない者をあらかじめ特定できない.

・緊急救命的な薬剤としての将来の承認申請の予定,救命の可能性を裏付けるデータが治験実施計画書に記載されている.

・効果安全性評価委員会が置かれている.

・できる限り速やかに,連絡のとれた代諾蓄に説明し,同意を得る.

・被験者本入が同意することのできる状態になったら,できる限り速やかに本入に説明し,参加継続の意思を確認し,同意を得る.

・これら事後の経緯について,治験責任医師が治験審査委員会に報告する. 出典:医薬品の臨床試験の実施 の基準に関する省令 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09F03601000028.html

(7)

寄  稿 

表       2.臨床研究に関する倫理指針:特に本人同意が得られない場合の規定

 

 

 

出典:臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省) http://www.mhlw.go.jp/general/seido/kousei/i-kenkyu/rinsyo/dl/shishin.pdf

なお,薬剤・医療機器の承認申請を目的とする治験 ではない場合に適用される臨床研究指針にいては,「患 者が同意の能力を欠くことにより同意を得ることが 困難であるときは,代諾者(legal representative)と な る者の同意を得ることにより,臨床試験に参加させ る ことができる」と記載されており,同意が取れない 患 者に緊急的に薬剤投与や侵襲を伴う医療機器を装着 し 効果を測ることは,救急医療においても,家族や代 諾 者の了解が得られるまでできないとされている。臨 床 研究の指針における説明同意の要件に係る規定条文

(抜粋)を表 2  に提示する。

4.考察 

日本では 1990 年代より,臨床研究の立ち遅れ,国 際共同治験からの疎外,新薬の開発・承認の遅滞が問 題視され,治験の活性化および臨床研究の基盤整備 を目的とした施策が推進されている 16, 27)。2007(平成 19)年には,世界最高水準の医薬品・医療機器を国民 に提供すること,また医薬品・医療機器産業を日本の 成 長牽引役にすることを目標とした「革新的医薬品・

医療機器創出のための 5 か年戦略」が策定され,その後 も,治験・臨床研究の実施医療機関の整備,必要とされ る人材の育成,国民への普及啓発,関連法規・ガイドラ インの国際基準との整合性向上,被験者保護のためのガ イドライン見直し等が継続して行われてきた 28, 29)。そ の 結果,近年は治験計画届が増加傾向にあることが報 告さ れている30)

しかし,臨床研究・治験実施に向けた条件整備は,

救急医療分野においては十分に進展していないのが実 情である。日本救急医学会は臨床研究・治験推進のた めの条件整備の重要性を鑑み,臨床研究に関する倫理 指針の見直しにあたって,救急医学領域への対応に関 する検討を進めるよう要望書を提出している 31)

4‑1.本人同意要件を免除した救急研究の規制の争点  研究参加への本人同意が得られない場合,本人に代 わる同意(代諾)を以て研究実施条件とすることが 可能か否かについて一意的な合意や決定は存在しな い。代表的な方法としては,(1)事前同意(advance consent):事前に有リスク集団から同意を得る,(2)

第4 インフォームド・コンセント

2 代諾者等からインフォームド・コンセントを受ける手続 <細則>

 

1.代諾者等からインフォームド・コンセントを受けることができる場合及びその取扱いについては,以下のとおりとし,いずれの場合も,研究責任者は,

当該臨床研究の重要性,被験者の当該臨床研究への参加が当該臨床研究を実施するにあたり必要不可欠な理由及び代諾者等の選定方針を臨床研究計 画書に記載し,当該臨床研究計画書について倫理審査委員会による承認及び臨床研究機関の長による許可を受けなければならない。

イ 被験者が疾病等何らかの理由により有効なインフォームド・コンセントを与えることができないと客観的に判断される場合

被験者が未成年者の場合。ただし,この場合においても,研究者等は,被験者にわかりやすい言葉で十分な説明を行い,理解が得られるよう努め なければならない。また,被験者が 16 歳以上の未成年者である場合には,代諾者等とともに,被験者からのインフォームド・コンセントも受け なければならない。

【被験者が生存している段階にインフォームド・コンセントを受けることができない場合】

被験者の生前における明示的な意思に反していない場合  

2.研究責任者は,一般的には,被験者の家族構成や置かれている状況等を勘案して,以下に定める者の中から被験者の意思及び利益を代弁できると考 えられる者を選定することを基本とし,臨床研究計画書に代諾者等の選定方針を記載しなければならない。なお,被験者の家族構成や置かれている 状況等とは,被験者と代諾者等の生活の実質や精神的共同関係からみて,被験者の最善の利益を図ることが可能な状況をいうものである。

イ 当該被験者の法定代理人であって,被験者の意思及び利益を代弁できると考えられる者

ロ 被験者の配偶者,成人の子,父母,成人の兄弟姉妹若しくは孫,祖父母,同居の親族又はそれらの近親者に準ずると考えられる者  

3.研究責任者は,一般的には,死亡した被験者の家族構成や置かれていた状況,慣習等を勘案して,以下に定める者の中から被験者の生前の意思を代 弁できると考えられる者を代諾者として選定することを基本とし,臨床研究計画書に代諾者等の選定方針を記載しなければならない。

イ 死亡した被験者の配偶者,成人の子,父母,成人の兄弟姉妹若しくは孫,祖父母,同居の親族又はそれらの近親者に準ずると考えられる者

(1)研究者等は,被験者からインフォームド・コンセントを受けることが困難な場合には,当該被験者について臨床研究を実施することが必要不可欠 であることについて,倫理審査委員会の承認を得て,臨床研究機関の長の許可を受けたときに限り,代諾者等からインフォームド・コンセントを 受けることができる。

(2)研究者等は, 未成年者その他の行為能力がないとみられる被験者が臨床研究への参加についての決定を理解できる場合には, 代諾者等からイン フォームド・コンセントを受けるとともに,当該被験者の理解を得なければならない

(8)

救急医療における臨床試験・治験に係る倫理と法令・規則

繰 延同意(deferred consent):同意なしで治験に参入,

その後の時点で本人もしくは代理人から同意を得る,

(3)代理同意(proxy consent):本人が判断可能であっ たなら下したであろう判断を代理人・組織が行うもの,

がある。しかし,各個人が被験者対象となる確率が小 さい場合,事前同意は現実的でない。繰 延同意の場合,

治験に伴う介入処置は本人の同意なしに施される。代 理同意では,本人の意向をどれだけ反映し得ているか 問題である,など何れも争点を有し完全無欠な策とは 言い難い 32)

これらの欠点を補完する手段として,近年,コミュ ニティーへの意見聴取が重視されている。これは,事 前同意を(潜在的)被験者個々人から得ることが現実 的でない場合に,こうした(潜在的)被験者の属する コミュニティー・集団(地域,高リスク集団,患者組 織など)を対象として研究に関する説明,意見聴取を 実施するものである 33)

加えて,研究参加のリスク・ベネフィットに関する 本人あるいは代理人に対する十分な説明を実施し同意 を得る手段を欠く救急研究では,計画されている介入 の臨床的均衡・等価性(clinical equipoise)の保証が 極めて重要である。これは,臨床専門家の間で,比較 対象となる介入の利害に関する優劣が不明・未確定で あることを意味する。これにより,被験者が意図的に

(将来の患者など)他者のための犠牲とされないこと,

また無作為割付を通じたバイアスのない研究が実施さ れることが期待される 34)。そのため,計画されている 当該救急研究は科学的課題に応えるために必要不可欠 であるか否か(説明同意が可能な他の集団を対象とし た研究によって同一課題に答えられないか)につい て,研究計画の科学的審査が重視される。これら諸点 は,2005(平成 17)年の「救急医療学術コンセンサ ス会議(Academic Emergency Medicine Consensus Conference)」において蘇生研究の倫理を考える上で の重要な諸課題として議論されている 35, 36)

4‑2.欧米における救急研究の規制 

欧州では,2001(平成 13)年に採択・公布された「臨 床研究に関する欧州委員会規則(EU Clinical Trial Directive 20/2001/EC)」が施行された。本規則では,

小児・同意能力を欠く成人の保護規定が定められ,改 訂版ヘルシンキ宣言等における保護規定を反映したも のとなっている。未成年者・同意能力を欠く成人を被 験者とする研究では,直接的利益が期待できること などを要件とし,被験者への説明に特段の配慮を求 めると同時に,治験審査委員会(institutional review board / 以下,「IRB」)もこれら被験者の専門家意見 を得ることを規定している 37)

EU 加盟国では,各国独自の法令で research without consent(RWC)を可能としている国と,上記 EU 規則 を厳密に適用して厳しい規制を導入している国に対応 が分かれているが 38),2004(平成 16)年以後,実質的 に救急研究は行われなくなったとの報告がある 39)。そ の後 2010(平成 22)年の欧州医薬品機構(European Medicines Agency)による国際会議では,臨床試験の 国際化を視野に入れながら,倫理委員会のあり方・評 価,医薬品へのアクセス(治験終了後の医療アクセス),

臨床試験における比較対照の選択(placeboを用いる ことの是非)とならび,臨床試験で問題となる弱者

(vulnerability)の多義性(社会・経済的弱者への配慮)

が大きな課題として議論されている 40)

米国では一定の条件下において,本人の同意を要 件とせず救急医療の臨床研究・治験を実施すること が従来から許可されていたが,実際の規則運用,具 体的に満たすべき条件についての理解には大きな混 乱があり,救急研究を推進する上での障害となって いた。そのため,連邦食品医薬品局(Food and Drug Administration,FDA) は 2011( 平成 23) 年に, 救 急医療研究における説明同意要件の免除についての指 針を公開し,倫理委員会,臨床研究実施者,治験依頼 者向けに現行の法令要件の解説を行った。ここでは,

研究が許可される患者・被験者の状態や介入・治療に 関する条件に加え,求められるコミュニティーからの 意見聴取,事前・事後の情報公開などの必要性につい て詳解されている 41)

4‑3.日本の救急(医療)研究 

最近の日本における救急医療においては,高齢者と 成人の緊急挿管の成功率を比較した論文 42)や,緊急 挿管において複数回挿管した際の合併症を報告した論

(9)

寄  稿 

文が国際誌にて出版されている 43)。また,心肺停止患 者に対し心肺補助装置を用いた際の効果と費用を調査 している SAVE-J study が進行中である 44-47)。その他,

救命救急センター入室症例の予後 48),熱中症 49),医療 施設外での心停止症例への心蘇生有効性評価 50)等に 関する研究が知られているが,これらはすべて介入や 割り付けを行わない疫学研究である。

治験を計画・実施する救急医療機関では,個別に規 則を定めて徐々に実施手順を整えつつある。IRB に よ る審査・承認体制の整備に加えて,治験フローチャ ー トの作成 51),クリニカル・リサーチ・コーディネー ター

(clinical research coordinator,CRC)など研究遂行 を主務とするスタッフと救急医療スタッフとの連携構 築 52),臨床試験支援機能の拡充 53)などについても評 価と議論が重ねられている。

また従来より,臨床研究・治験の実施状況,それら に 係る倫理審査・利益相反については各々の医療機関 ごと に情報が公開されている。これらに加えて,治験・ 臨床 試験に係る手順や治験の実施状況についても情報 公開を 行う事例が散見されるようになった 54)

一方,小児を対象とした臨床研究については,患児 への説明可能性と共にその家族への説明同意のあり方 も課題となっており,小児救急症例を対象とした臨床 試験は必要性が論じられながらも,多くは実施が困難 となっているのが現状である 55)。なお,本稿では特に 扱わなかったが,救急研究においてしばしば行われる 研究の一形態である,資料を用いた研究に必要な倫理 的手続きについては,古川(2011)が詳しい 7)

5.結論 

救急医療において研究が実施される場合,十分な情 報・理解に基づく自発的な同意を被験者から得ること は極めて困難であり,場合により不可能である。科学 的知見,また新しい診断・治療の開発を通じて社会全 体に資す研究を許容・推進しながら,研究参加者を保 護するという個々人の,また集団的利益をどう平衡さ せるかが重要であり,説明同意に基づかない救急研究 が許容されるか否かの選択,また,研究を許容するな らば,同意を得ることが不可能である場合に必要とな る条件の整備,制度の設計が政策的課題である。

本稿は,こうした救急研究の実施に係るわが国の法 令・規則について解説した。救急研究,救急医療分野 での臨床試験・治験の実施に係る条件整備によって期 待される効果は,上述の治験・臨床研究の振興,救急 医療における EBM の推進にとどまらない。こうし た 研究の地域への情報公開を進め,地域に根差したも の とする取り組みは,救急医療患者・一般市民の救急 研 究への関心や理解の向上,さらには満足度の増加を も たらすものと期待される。本分野での研究の振興を 願 うものである。

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寄  稿 

参照

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