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ユクスキュルから見た世界

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Academic year: 2021

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ユクスキュルから見た世界

日大生産工 加藤正人

「生物から見た世界」の著者 Jakob von Uexküll(1864〜1944)の卓越した世界観を概観する のがこの講演の目的である.この著書の元々の題名は”Streifzüge durch die Umwelten von Tieren und Menschen”(動物と人間の環境世界への散歩:1934)と”Bedeutungslehre”(意味の 理論:1940)であって,1970年になって再録され,日本語に訳されたのは 1995年のことである

(新思索社).書かれてから日本語に訳されるまで50年以上の年月がたっているのも驚きだが,

この本にはまだ「落ち」があって日本語版はすでに絶版となり,前著の「動物と人間の環境世 界への散歩」だけが岩波文庫から同じ題名「生物から見た世界」で出ているのみである.

ユクスキュルの論点は端的に言ってただ一つ,生物は個体によってまったく異なる世界(環 境世界)を持つという主張である.それは我々が観察しているミミズの行動範囲(土中)とか,ク モの張ったクモの巣とクモとかいうものとも異なり,生物から見た,生物の持つ閉じた「内的世 界」のことなのである.彼が「トーン」と呼んでいるものがそれにあたる.森の中の一本のカシワ の木はきこりにとっては「効用のトーン」であり,森に迷い込んだ少女にとっては「悪魔のトーン」,

キツネにとっては「保護のトーン」カミキリムシにとっては「食のトーン」といった具合にカシワの 木は異なった生物ごとに違った意味合いを持つのである.

この考え方は当時(今でも!)あった生物機械論と生気論のジレンマから抜け出すための方 策でもあったようで,ユクスキュルは注意深く両方の考え方を批判している.「意味」が客体に 備わった固有のものであるとするならば,タンパク質でできた機械に魂を注入したものが生物と いうことになってしまう.逆に世界は主体のみで,主体それぞれが世界を持っているものとすれ ば主体の構造を問題にするパラドクスからは逃れることができる.構造は主体の形成する環世 界にしかないのだから.主体の構造を問題にするとき,主体自体何かの環境世界であることに なる.主体にプロポーズされてしまった存在を彼は「意味に耐えるもの」と呼んでいる.

こうしたある種絡み合った多重世界は量子力学の「多世界論」を喚起しそうだが,量子論のよ うな「単純な重ね合わせ」でないところがこの世界をより豊かなものにしているのかもしれない.

ワトソンとクリックが DNAを発見したのはユクスキュルがこれら一連の考え方を出していった時 代から 20 年後のことである.ユクスキュルの観点がいかに先進していたかがわかるであろう.

彼が100年後の1964年に生まれたとしてもこの考え方は十分に「新しい」と思われる.

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ユクスキュルは環世界を生物(特に動物)に限ったが,ここでは彼の考え方を人間の「心理世 界」と物質の「物理的世界」に拡張してみることにする.前者の心理世界では環境世界で形成 された内的世界が規範や規則といった先行概念を作ってしまい,人間の行動を規定するとい う「逆転現象」が起きている.多の動物から見れば(?)奇怪な人間の行動はこうした「行為の デジャブ」から説明することができるのかもしれない.

後者の場合はどうしても数学的表現が必要となるためカテゴリー論と「射」を用い,物質世界 を表現してみることにする.

「参考文献」

ヤーコブ・フォン・ユクスキュル ゲオルク・クリサート 生物から見た世界 日高敏隆・野田保之 訳 新思索社(1995)

参照

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