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ニホンウナギから世界初のビリルビンセンサーを発見 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 52, No. 9, 2014

ニホンウナギから世界初のビリルビンセンサーを発見

ニホンウナギ由来緑色蛍光タンパク質 UnaG の蛍光機序の解明とその医学的応用

蛍光タンパク質は現代のバイオイメージングにおける 必須のツールとして活躍している.既報の蛍光タンパク 質(野生型)は主に刺胞動物からその遺伝子がクローニ ングされており,オワンクラゲ由来のGFPとサンゴ,

イソギンチャク由来のGFP様タンパク質に分類される.

刺胞動物以外にも,節足動物(カイアシ類)や頭索動物

(ナメクジウオ)からいくつかのGFP様タンパク質の遺 伝子がクローニングされている.刺胞動物やカイアシ類 やナメクジウオの生態における蛍光タンパク質の役割は 実はよくわかっていないが,水の中は蛍光タンパク質の 宝庫と言える.水棲動物をより広く探索すれば新奇の蛍 光タンパク質に出会う可能性がいくらでもありそうだ.

ニホンウナギは,日本や中国,韓国など東アジアに分 布する回遊魚である.河川を遡上して成長し,産卵のた めに再び海に戻る.産卵はフィリピン海溝付近で行われ ると推定されていたが,2006年に東京大学の研究チーム が,マリアナ海嶺で,ふ化後間もない仔魚の採取に成 功,産卵場所はほぼピンポイントで特定された(1).ニホ ンウナギは謎めく魚である.2009年に,鹿児島大学の 林 征一(当時)らによって,ニホンウナギの筋肉から 緑色蛍光タンパク質の精製が報告されたが(2),その蛍光 の仕組みについては不明のままであった.

われわれは,ニホンウナギの筋肉に見られる緑色蛍光

(図1)の仕組みを解明するにあたって,緑色蛍光タンパ ク質の遺伝子の単離を試みた.ニホンウナギの稚魚(シ ラスウナギ)5匹を材料にして,139個のアミノ酸からな るタンパク質の遺伝子を突き止め「UnaG(ユーナジー)」

と命名した(3).このタンパク質の構造を調べると,脂肪 酸結合タンパク質(FABP)のファミリーに属すること がわかり,脂溶性(水に溶けにくい)の低分子をリガン ドとして取り込むことが予想された.そこで,大腸菌や 哺乳類培養細胞に遺伝子を導入してUnaGを作りその蛍 光を調べたところ,面白いことに,大腸菌では光らず,

哺乳類培養細胞では光ることがわかった.UnaGが蛍光 を出すためには何らかのリガンドが結合することが必要 で,そのリガンドは大腸菌にはなく哺乳類培養細胞にあ ると考えられた.そこで,①哺乳類培養細胞で作らせた 蛍光性UnaG(ホロUnaG)からリガンドを抽出し解析

する,②混合実験を行って,大腸菌で作らせた無蛍光性 UnaG(アポUnaG)を蛍光性に変える生体サンプルを 探す,という2つのアプローチでリガンド探索を行った.

その結果,ビリルビンがリガンドとして同定された.

実際にアポUnaGにビリルビンを添加すると,一瞬にし て緑色の蛍光が出現するのが観察された(図2(A)).ホ ロUnaGを使った結晶構造解析を行ったところ,1.2オ ングストロームの高い分解能で構造を決定することがで きた(図2(B)).ビリルビンはUnaGタンパク質内部の ポケットに完全にはまり込んでおり,ビリルビンを構成 する4つのピロール環(A, B, C, D)のうち,蛍光発生 に関与すると考えられるA/B環もしくはC/D環がそれ ぞれ一つの平面上に配置する様子が明らかになった(3). この構造から,UnaGにおけるビリルビン結合が非常に 強く特異的であり,抱合型ビリルビンなどほかのビリル ビン誘導体は結合できないことが示唆された.実際にこ うした特性は別の分光学的あるいは生化学的実験で証明 されている( d=98 pM)(3)

赤血球の崩壊(溶血)に伴い,ヘモグロビンはヘムと

図1シラスウナギ全身の蛍光像

緑色蛍光は全身の筋肉にわたって検出される.

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今日の話題

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グロビンに分離し,ヘムはさらに酵素の働きによって,

ビリベルジン(緑色),ビリルビン(黄色)へと変化す る.ビリルビンは水に溶けにくく,主に血液中のアルブ ミンに結合した状態で肝臓へ運搬される.肝臓ではグル クロン酸抱合を受けて水に溶けやすい抱合型ビリルビン に変化し胆汁へ排出される.血液中のビリルビン量は,

溶血が盛んになったり肝臓の働きが弱まったりすると増 加し,異常に増加するとビリルビンが血管外の組織に沈 着して黄疸症状が表れる.新生児は,胎生期に使った余 分な赤血球を壊すため黄疸(新生児黄疸)になりやすく,

その程度がひどくなると,ビリルビンが大脳基底核など に沈着して後遺症が残る可能性がある(核黄疸,ビリル ビン脳症).このように過剰量のビリルビンは体に悪い 影響を与える傾向にある.一方,ビリルビンは容易に酸 化してビリベルジンに変化する性質を有しており,その 顕著な抗酸化作用が注目されてきた(4).実際に,軽度に 血清ビリルビン濃度が高いと,心筋梗塞・狭心症など酸 化ストレスに関連する疾患が発症しにくい傾向がある(4)

現在,世界中で実施されているビリルビン測定法はい ずれも比色法であり,非常に複雑な工程を経てなされて いる.ビリルビンより抱合型ビリルビンのほうが反応

(酸化やジアゾ化)しやすいため,反応促進剤による反 応前後でそれぞれ抱合ビリルビン量と総ビリルビン量を

測定し,後者から前者を差し引いてビリルビン量を計算 している.このため,現行のビリルビン測定は,煩雑で 時間がかかる,感度が悪い,さまざまな因子に影響され やすい,などの問題が指摘されている(5)

われわれは,UnaGをビリルビンセンサーとして利用 してヒト血清ビリルビン濃度の蛍光測定法を開発した

(図3.UnaGとビリルビンとの結合力が極端に強いの 図2UnaGの蛍光発生に必要な外 因性リガンド,ビリルビン

(A)無蛍光性アポUnaG(大腸菌に 作らせたUnaG) とビリルビンとの混 合実験.混合の瞬間に緑色蛍光活性 が生まれる.(B)蛍光性ホロUnaG

(哺乳類細胞で作らせたUnaG)の結 晶構造.ビリルビンはUnaGタンパ ク質が作るポケットの中に,奥から

(図 で は 下 か ら)D環,C環,B環,

A環の順にはまり込んでいる.A環 とB環,C環とD環がそれぞれ同一 平面上に配置されている.ビリルビ ンはB環とC環の間で大きくねじれ ている.

図3アポUnaGを用いた血清ビリルビン定量の原理

アポUnaGがビリルビンに結合しホロUnaGとなり強い緑色蛍光を 発するので,直接的なビリルビン検出が可能となる.アポUnaGは アルブミンよりも1,000倍ほど強くビリルビンに結合するので,ア ルブミンとの結合にかかわらず血清中のすべてビリルビンを検出 できる.さらに,抱合型ビリルビンには結合しないためビリルビ ンを特異的に検出する.

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で,サンプル中に存在するビリルビンを,そのアルブミ ン結合にかかわらずすべて検出することができる.従来 法のような煩雑な工程や計算は一切必要ない.蛍光法な ので検出感度を著しく向上させることができ,より少量 のサンプルで測定が可能になる.従来法と比べて3桁以 上の感度向上を達成しており,(超)低出生体重児の採血 時の負荷を軽減できると期待できる.血液サンプルの溶 血などの影響を受けないことも大きな利点である.われ われは,UnaGの凍結乾燥試料がその活性を100%保持 することを確認している.輸送や保管に冷凍・冷蔵の必 要がないので,当蛍光試薬が発展途上国や辺地での医療 をサポートすることが期待される.また,血清ビリルビ ン濃度の高精度測定を持続的に行うことや測定を血液以 外のサンプルに広げることにより,ヒト体内のビリルビ ン動態についての理解を深めることができる.量に応じ て薬にも毒にもなりえるビリルビンを健康・疾病バイオ マーカーとして多角的に測定する技術の確立が期待され る.

  1) K. Tsukamoto : , 439, 929 (2006).

  2) S. Hayashi & Y. Toda : , 75, 1461 (2009).

  3) A. Kumagai  : , 153, 1602 (2013).

  4) T. W. Sedlak & S. H. Snyder : , 113, 1776 (2004).

  5) S.  F.  Lo  &  B.  T.  Doumas : , 35,  141 

(2011).

(熊谷安希子,宮脇敦史,理化学研究所脳科学総合  研究センター)

プロフィル

熊谷安希子(Akiko KUMAGAI)   

<略歴>2002年鹿児島大学水産学部水産 学科卒業/2004年同大学大学院水産学研 究科修士課程修了/2007年同大学大学院 連合農学研究科博士課程修了(水産学)/

2008年バイオテクノロジー開発技術研究 組合契約研究員.国立感染症研究所ウイル ス第二部勤務/2010年科学技術振興機構博 士研究員.ERATO宮脇生命時空間情報プ ロジェクト勤務/2012年理化学研究所基 礎科学特別研究員.脳科学総合研究セン ター細胞機能探索技術開発チーム勤務,現 在に至る<研究テーマと抱負>UnaGを医 療,特に小児医療のために役立てたい.謎 に満ちたウナギの面白さをUnaGを通して 伝えていきたい<趣味>ヨガ,筋肉トレー ニング,晩酌

宮脇 敦史(Atsushi MIYAWAKI)   

<略歴>1991年大阪大学医学部大学院医 学研究科博士課程修了/同年日本学術振 興会特別研究員/1993年〜 1998年東京大 学医科学研究所助手/1995年HFSP long- term fellowship, University of California  San Diego, Dept. of Pharmacology/1997 年Research Pharmacologist, University of  California San Diego, Dept. of Pharmacol- ogy/1999年理化学研究所脳科学総合研究 センター先端技術開発グループ細胞機能 探索技術開発チーム・チームリーダー/

2004年同研究所脳科学総合研究センター 先端技術開発グループ・グループディレク ター/2005年東京大学分子細胞生物学研 究所細胞機能情報研究センタープロテオー ム研究分野客員教授/2006年自然科学研 究機構基礎生物学研究所発生ダイナミクス 研究部門客員教授/同年科学技術振興機 構ERATO「生命時空間情報」プロジェク ト研究総括/2007年早稲田大学理工学術 院分子神経科学研究客員教授/2008年理 化学研究所脳科学総合研究センター副セン ター長/2009年慶應義塾大学医学部客員 教授/2010年東邦大学理学部客員教授/

2012年横浜市立大学生命ナノシステム科 学研究科客員教授<趣味>階段

参照

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