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頸部頸動脈狭窄症 大 熊   佑

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Academic year: 2022

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265 はじめに

 近年,食生活や生活様式の欧米化 に伴い,わが国でも動脈硬化性頸部 頸動脈狭窄症が増加している.本症 は artery-to-artery  embolism や hemodynamic  stroke などの脳梗塞 を引き起こすため,適切な診断・治 療が重要である.外科的治療として は,頸 動 脈 内 膜 剥 離 術(carotid  endarterectomy;CEA)が長らく標 準的治療として行われてきたが,最 近,バルーンカテーテルによる経皮 的 血 管 形 成 術(percutaneous  transluminal  angioplasty;PTA),

及び頸動脈ステント留置術(carotid  artery  stenting;CAS)などの新た な低侵襲治療が導入された.さらに embolic protection devices(EPD)

の開発により安全性が増したこと で,血管内治療が急速に普及してき ており,わが国でも2008年に CAS  が保険認可された.本稿では頸部頸 動脈狭窄症に対する外科的治療の位 置付け,エビデンスに基づく治療法 の選択を中心に,当科での取り組み も交えて紹介する.

頸部頸動脈狭窄症とは 1.  機序

 動脈硬化とは徐々に進行する加齢 性変化の一つであり,生活習慣病で ある高血圧,糖尿病,高脂血症とい った危険因子により,進行する.白 血球がリポ蛋白を取り込んで形成さ れる泡沫細胞や,白血球由来のサイ トカインによって生じる線維性被膜 等で形成される線維性プラークが血 管内腔を狭窄させる.このプラーク は,血流の乱れを生み,血栓を生じ させる.またプラーク内の出血や necrotic core と呼ばれる不安定な粥 状部分も,その破綻により塞栓症を 引き起こす1)

 頚動脈は,冠動脈・下肢動脈と並 んで,動脈硬化及びアテローム血栓 の好発部位である.つまり,本症患 者は全身血管病であるという認識が 必要である.わが国の頸動脈狭窄(≧

50%)患者を登録した JCAS(Japan  Carotid  Atherosclerosis  Study)2)で は,本症患者の30%が冠動脈疾患を,

5%が末梢動脈疾患を合併していた ことが報告された.このことを踏ま え,当科でも本症の診断がついた際 には冠動脈,末梢動脈の術前チェッ クを必ず行うようにしている.

2.  症状

 病側内頸動脈領域の虚血症状,す なわち,片麻痺,構音障害,知覚障 害,失語症,重篤な場合には意識障 害などの症状が出現する.また,こ

れらの症状が24時間以内に消失する 一過性脳虚血発作は,脳梗塞の前兆 として,注意が必要である.また,

眼動脈虚血による一過性黒内障は本 症にしばしば認められる症状であ る.これら症状の発生機序としては,

1)  塞栓性,2)  血行力学性,があ るが,前者が多いとされる.

 また,脳ドックの普及や診断機器 の進歩によって,近年では無症候で 発見される場合も多い.

3.  検査

 頸部の聴診にて血管雑音が聞こえ る場合がある.画像診断として,

MRI・MRA,頸動脈エコーなどでス クリーニングを行う.さらに,精密 検査として造影 CT 検査,脳血流検 査,脳血管造影検査(DSA)を行 い,病変を評価する.

4.  治療法

 狭窄が軽度であれば,基礎疾患で ある高血圧,脂質異常や糖尿病など の厳重な管理に努める.狭窄が高度 になれば,抗血小板剤を投与するが,

一般的に症候性では50%,無症候性 では80%以上の狭窄が外科的治療の 適応とされている.当科では,無症 候性病変の外科的治療適応には,特 に慎重を期しており,80%以上かつ 脳血流低下を認めるもの,ないし経 過観察で,狭窄が進行しているもの に限定している3)

外科的治療

 CEA は,全身麻酔下に,患側頸部

頸部頸動脈狭窄症

大 熊   佑

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 脳神経外科学

Carotid artery stenosis

Yu Okuma

Department of Neurological Surgery, Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences

岡山医学会雑誌 第122巻 December 2010,  pp. 265ン267

平成22年9月受理

〒700ン8558 岡山市北区鹿田町2ン5ン1 電 話:086ン235ン7336

FAX:086ン227ン0191

Eンmail:[email protected]

(2)

266 を切開した後,総頸動脈,外頸動脈,

内頸動脈をそれぞれ露出・確保した 上で,血行遮断をして動脈切開を行 う.顕微鏡下に内膜と中膜を慎重に剥 離し,プラークを摘出した後,血管壁 を縫合し,狭窄部の治療を行う(図1).

 CAS は,局所麻酔下に,大腿動脈 または上腕動脈からカテーテルを挿 入し,総頸動脈に留置する.次に,

狭窄部の脳側にフィルターまたはバ ルーンの EPD を留置し,末梢への 塞栓を予防しつつ,狭窄部で適宜バ ルーンを用いながら,ステントを拡 張させ,血管拡張を行う(図2).

外科的治療に関するエビデンス 1.  CEA

 症候性,無症候性病変共に,CEA と内科治療群との成績を比較した臨 床研究が存在する.

 中でも代表的なものが,症候性・

高度狭窄(70〜90%)を対象とした,

North  American  Symptomatic  Carotid  Endarterectomy  Trial

(NASCET)4)であり,1991年に報告 され,CEA の有効性が証明された.

本研究における周術期合併症率は 5.8%であった.更に NASCET から 狭窄率70%未満を対象とした検討が 1998年に報告され,高度狭窄と比較 すると効果は劣るものの,中等度狭 窄においても CEA の有効性が示さ れた.しかしながら,50%未満の軽 度狭窄においては,CEA の有効性は 示されなかった.

2.  CAS

 新しい治療であり,内科治療と CAS を直接比較した RCT は存在し な い が,CEA と CAS を 比 較 し た RCT は散見される.

 2004年に発表された Stenting and  Angioplasty  with  Protection  in 

P a t i e n t s  a t  H i g h  R i s k  f o r  Endarterectomy (SAPPHIRE)  trial5)では,NASCET で除外された,

重篤な心肺疾患,対側閉塞,対側喉 頭神経麻痺,放射線照射後,CEA 後 の再狭窄,80歳以上などの CEA 高 危険群の症候性50%,無症候性80%

以上狭窄患者を対象に CEA と CAS

(EPD としてフィルターの使用を義 務化)が比較され,CAS の CEA に 対する非劣性が証明された.

 また,2010年に発表された CREST

(the  Carotid  Revascularization  Endarterectomy  versus  Stenting  Trial)6)では,症候性50%,無症候性 60%以上狭窄の全ての患者を対象 に,CAS と CEA の有用性を比較し,

その成績は同等とされた.また,周 術期合併症として CEA は脳卒中が 少なく,CAS は心筋梗塞が少ないこ とや,若年層では CAS の効果が高 いのに対し,高齢者では CEA の効 果 が 高 い こ と な ど が 解 析 さ れ,

CEA・CAS それぞれの特徴を踏ま えて,患者背景に応じた治療法選択 が望ましいことが示唆された.

治療法の選択

 本邦の「脳卒中治療ガイドライン  2009」7)においては,症候性病変に対 しては,抗血小板療法を含む最良の 内科治療に加えて,CEA を施行する ことが,高度狭窄でグレードA(行 うことが強く勧められる),中等度狭 窄でグレードB(行うよう勧められ る)と位置付けられている.一方,

無症候性病変に対しては,抗血小板 療法を含む最良の内科治療に加え て,CEA を施行することが高度狭窄 においてグレードBで推奨されてい る.但し,上記 RCT の結果により,

症候性病変に対しては周術期合併症 率6%以下,無症候性病変に対して は同3%以下,の高水準施設が推奨 されている.

図2 CAS(フィルター使用)

図1 CEA(パッチグラフト使用)

(3)

267  また,CEA を行うべきか CAS を

行うべきかについては,本邦では SAPPHIRE の結果が重視されてい る.外科的治療は CEA を第一選択 とし,CEA 高危険群の中で症候性 50%,無症候性80%以上の狭窄率と いう条件下で2008年4月から CAS が保険収載された.このことを踏ま え,当科では図3のようなフローチ ャートで適応を決めている.

 最近プラークの質的診断の重要性 が指摘されており,当科でも MRI に よるプラーク判定を,MPRAGE 法

(Magnetization  Prepared  Rapid  Acquisition with Gradient Echo)を 用いて行っている.本法は,Necrotic  core,プラーク内出血の検出に優れ,

これによりプラークの不安定性の術 前診断が可能となった8).不安定な プ ラ ー ク で あ れ ば,よ り 確 実 に debris 捕捉可能なバルーン保護下 CAS を,安定なプラークであれば,

術中血行遮断不要なフィルター保護

下 CAS を選択し,合併症の軽減に 努めている9)

まとめ

 現在のわが国の生活習慣を考える と,頸部頸動脈狭窄症は今後ますま す増加することが予測される.現在 のところ,本症に対する標準的外科 治療は CEA であるが,CAS の技術 の向上と,器材の発達により,CAS の数も増加傾向にある.今後はエビ デンスを遵守した上で,多角的に治 療戦略を検討することが肝要となる と予想される.また,外科的治療で ある以上,エビデンスに認容される だけの高い技術の研鑽に努めていく ことが,本症に対する外科的治療の 発展につながると考えられる.

文  献

1)  Naghavi  M,  Libby  P,  Falk  E,  Casscells SW, Litovsky S, Rumberger  J, Badimon JJ, Stefanadis C, Moreno  P,  Pasterkamp  G,  Fayad  Z,  Stone 

PH, et al.:From vulnerable plaque  to vulnerable patient:a call for new  definitions  and  risk  assessment  strategies:Part  I.  Circulation  (2003)108,1664‑1672.

2)  Endo  S,  Kuwayama  N,  Hirashima  Y;Japan  Carotid  Atherosclerosis  Study:Japan Carotid Atherosclerosis  Study:JCAS.  Neurol  Med  Chir  (Tokyo) (2004)44,215‑217.

3)  菱川朋人,伊達 勲:【動脈硬化治療】

外科的治療とその EBM エビデンス

に基づいた脳血管障害の外科治療.

新医学(2010)65,214‑218.

4)  B e n e f i c i a l  e f f e c t  o f  c a r o t i d  endarterectomy  in  symptomatic  patients  with  high-grade  carotid  s t e n o s i s.  N o r t h  A m e r i c a n  Symptomatic Carotid Endarterectomy  Trial  Collaborators.  N  Engl  J  Med  (1991) 325,445‑453.

5)  Yadav JS, Wholey MH, Kuntz RE,  Fayad  P,  Katzen  BT,  Mishkel  GJ,  Bajwa  TK,  Whitlow  P,  Strickman  NE, Jaff MR, Popma JJ, Snead DB,  et  al.:Protected  carotid-artery  stenting  versus  endarterectomy  in  high-risk  patients.  N  Engl  J  Med  (2004) 351,1493‑1501.

6)  Brott TG, Hobson RW 2nd, Howard  G, Roubin GS, Clark WM, Brooks W,  Mackey A, Hill MD, Leimgruber PP,  Sheffet AJ, Howard VJ, Moore WS,  et al.:Stenting versus endarterectomy  for  treatment  of  carotid-artery  stenosis. N Engl J Med (2010) 363,

11‑23.

7)  篠原幸人,小川 彰,鈴木則宏,片山 泰朗:脳卒中治療ガイドライン2009,

協和企画,東京(2009).

8)  Hishikawa T, Iihara K, Yamada N,  Ishibashi-Ueda  H,  Miyamoto  S:

Assessment  of  necrotic  core  with  i n t r a p l a q u e  h e m o r r h a g e  i n  atherosclerotic carotid artery plaque  by MR imaging with 3D gradient-echo  sequence in patients with high-grade  stenosis. J Neurosurg (2010).

9)  徳永浩司,杉生憲志,西田あゆみ, 松匡文,菱川朋人,小野成紀,伊達  勲:頸動脈狭窄症に対する Angioguard  XP を用いた頸動脈ステント留置術の 治療成績 PercuSurge GuardWire によ る治療成績との比較.JNET:Journal  of Neuroendovascular Therapy (2009)  3,79‑85.

頸動脈狭窄症

無症候, TIA, minor stroke 頸動脈エコー

MRI/MRA CTA CBF (SPECT)

DSA 血行再建の適応

目的

狭窄の有無,粥腫の性状の判別 脳内病変の診断(脳梗塞や他の脳疾患)

MRA(頸部)は狭窄の確認 MRA(頭部)は他の血管病変の診断 狭窄度判定

CASのアクセスルートの確認 無症候性では治療適応の判定 術後過潅流のリスク判定 最終確認

スクリーニング

なし あり

内科治療薬剤投与 外科的治療

CEA/CAS

リスク評価 プラーク MRI

(MPRAGE法) 不安定プラークの判定

CEA CAS

CEA low risk CEA high risk

FPCAS BPCAS

安定プラーク 不安定プラーク

図3 当院での頚部頸動脈狭窄症に対する治療選択フローチャート

注;バルーン保護下 CAS(balloon-protected carotid artery stenting;BPCAS),フィル ター保護下 CAS(filter-protected carotid artery stenting;FPCAS)

参照

関連したドキュメント

6) Gasecki AP, Ferguson GG, Eliasziw M, Clagett GP, Fox AJ, Hachinski V, Barnett HJ: Early endarterectomy for severe carotid artery stenosis after a nondisabling stroke: results

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