日本小児循環器学会雑誌 9巻2号 324〜329頁(1993年)
経皮的バルーン弁形成術が著効を示した 動脈管依存性重症肺動脈狭窄の1例
(平成5年2月4日受付)
(平成5年6月7日受理)
和歌山県立医大小児科1),同 平山 健二1)2)上村 茂1)
吉岡 美咲1) 根来 博之3)
検査診断学2),紀南綜合病院小児科3)
key words:経皮的バルーン弁形成術,肺動脈狭窄
鈴木 啓之1)2)笠松 美恵1)
前田 次郎2) 小池 通夫1)
要 旨
動脈管依存性重症肺動脈狭窄の新生児(体重2.7kg)に,生後7日にballoon pulmonary valvuloplasty
(BPV)を行い,良好な結果を得た.症例は,生後まもなくチアノーゼを呈し,心断層エコーで心室中隔 欠損を伴わない重症肺動脈狭窄と診断された.順行性の血流は殆ど無く,動脈管依存性であったため,
Lipo−PGE1製剤の点滴を行いながらBPvを行った.肺動脈弁開口部が非常に細かったため,ガイドワイ
ヤーを留置後,まず3.5mm径PTCA用バルーンカテーテルで裂開し,次に8mm径イノウエバルーンを 用い,十分拡張できた.右室収縮期圧は129mmHgから術後80mmHgに改善され,右室/左室圧比は2.0
から1.1に減少した.肺動脈弁の圧較差は術後一過性に軽度増加したが,propranololの内服で経過観察したところ,術後2ヵ月には13mmHgまで低下した.退院後6ヵ月の現在 まで,経過良好である.
はじめに
balloon pulmonary valvuloplasty(以下BPV)1)は 近年目覚ましく発達した技術で,小児科領域でも中等 度以上の肺動脈狭窄に用いられ,好成績をあげてい る2)〜1°).しかし,新生児例の詳細な報告はまだ少な い9)1ω.我々は,心室中隔欠損を伴わない動脈管依存性 重症肺動脈狭窄に対し,生後7日にBPVを実施し,良 好な結果を得たので報告する.
症 例 症例:日齢1日の男児,No.64087.
家族歴:双胎第2子,第1子の男児には心奇形なし.
出産歴:在胎38週0日,出生体重3,045g, Apgar score 1分9点.
主訴:チアノーゼ,心雑音.
現病歴:出生後4時間にチアノーゼに気付かれ,酸 素投与で一時改善されたが,生後18時間頃から再増強
し,心雑音も聴取され,生後22時間に当科へ入院した.
別刷請求先:(〒640)和歌山市七番丁27
和歌山県立医大小児科 平山 健二
入院時現症:体重2,905g,身長47cm,心拍数149/分,
呼吸数52/分,血圧64/34mmHg.全身性チアノーゼを 認め,哺泣弱く,自発運動は少なかった,大泉門は1cm で平坦,左頭頂部に頭血腫を認めた.心音は胸骨左縁 第3〜4肋間に収縮期雑音を2/6度,胸骨左縁第2肋間 に2〜3/6度の連続性雑音を聴取した.呼吸音は正常,
肝1cm触知,脾は触れなかった.
入院時検査所見:動脈血ガス分析でPaO245.1
mmHgと低酸素血症を認めた.その他,クレアチニン が1.9mg/dl, LDHとCPKが高値であった(表1).胸部X線写真:心胸郭比65%と心拡大があり,右第 2弓が突出していた(図1).
心断層エコー図:肺動脈弁口が約1mmと極めて小 さく,弁の動きは不良で,主肺動脈は拡張していた(図 2A).連続波ドプラー検査では,肺動脈弁部の流速が 4.Om/秒,推定圧較差は64mmHgであった.また動脈 管は開存し,動脈管から主肺動脈へ2.4m/秒の血流を 認めた.右室は心筋肥大が著明で,右室腔の狭小化を 認めた(図2B).心房中隔では卵円孔を介して右房か ら左房への血流を認めた.心室中隔欠損は認めなかっ
日小循誌 9(2),1993 325−(79)
表1 入院時検査所見 動脈血ガス分析
pH 7.387 PO2 45.1mmHg PCO2 33,2 mmllg BE −5。1meq/1 (room alr)
検血
RBC 473×103/mm3
Hb Ht
WBC
PL
18.49/d1 55.3%
22600/Mm3 18,3×104/mm3
∬IL沽生化学 Na 144 meq/l K 5、6 〃 CI l11 〃 Ca 3.9 〃 ip 4.6mg/dl
Cr l9 〃 BUN 27 〃 UA 14.7 〃 BS 99 〃 TB 5.2 〃 DB 1.6 〃
TP 5、3g/dl GOT 53 U/I GPT gU/l LDH lO18U/1 CPK 598 U/】
IgA 〈3mg/dl IgM 10 〃 IgG l 176 〃
ffi]清学
CRP 1.7mg/1
図1 入院時胸部X線写真 た.三尖弁の逆流が著明で流速は5.4m/秒(推定圧較差
116mmHg)と速く,肺動脈狭窄のための右室圧上昇以 外に,動脈管開存による肺高血圧の存在が示唆された.
心電図:V1のR波はむしろ低く,その他特に大きな 異常はなかった(図3).
以上から,心室中隔欠損を伴わない動脈管依存性の 重症肺動脈狭窄と診断した.動脈管の開存維持をはか る目的でLipo・PGEi製剤の持続点滴を開始し,生後7 日目に心臓カテーテル検査を行った.この時の体重は
2.7kgで,前投薬にはpethidine HC12.5mgと
hydroxyzine HCI(Atarax−P)3.Omgを筋注した.右室収縮期圧は129mmHgで,左室収縮期圧65mmHgの
約2倍の高値であった(表2).カテーテルは肺動脈へ 挿入不能であった.右室造影では肺動脈は殆ど造影さ れず,肺動脈弁から一条の造影剤が流れていただけで あった.また高度の三尖弁逆流も認められた(図4).
BPVは,肺動脈にガイドワイヤー(O.018インチ)
を進める操作自体困難で,NIH型先穴カテーテル(5 Fr)の先を独自に曲げたカテーテルを右室流出路に進 め,ガイドワイヤーだけを肺動脈内に留置できた.狭 窄部は非常に細く,8mm径のイノウエバルーンおよび 6mm径メディテック社製ニューウルトラシンは肺動 脈弁輪部へ入らなかった.そのため,まず3.5mm径の
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Y.F. 生後1日 No. 64087
図2 入院時心断層エコー図 A:大動脈,肺動脈短軸象B:四腔断面像
326−(80) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第2号
1
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図3 入院時心電図所見
BPV前
BPV後
正面 側面
磁
、
轟
‖
図4 BPV前後における右室造影所見.矢印は一条の肺動脈血流を示す.
メドトロニック社製PTCAカテーテルを用いて弁を 裂開し,次に8mmイノウエバルーンに再度替え, BPV を行う事ができた,
BPV直後の右室造影では肺動脈弁部は大きく開通 しており,肺動脈は良好に造影された(図4).BPV前 後の圧データの比較では,右室収縮期圧は術前の129
mmHgが術後80mmHgに改善され,右室/左室圧比は 2.0から1.1に減少した(表2).また,右室拡張期容積 は2.1mlから5.Omlと増加し,右室駆出率も19%から 51%に改善した.術後の肺動脈圧が高いのは動脈管開 存によるものと考え,Lipo−PGE1を中止した.
BPV後の経過:連続波ドプラーエコーを用いて三
平成5年9月1日 327−(81)
表2 心臓カテーテル検査所見(生後7日)
BPV前 BPV後
右室収縮期圧(mmHg) 129 80
左室収縮期圧(mmHg) 65 77
主肺動脈圧 (mmHg) 一 65/34
右室/左室収縮期圧比 2.0 1.1
肺動脈弁圧較差(mmHg) 15
右室拡張期容量*(ml) 2.1 5.0
駆出率 (%) 19 51
*Simpson法により算出
尖弁逆流と肺動脈血流速度の経時変化をみた(表3).
三尖弁逆流速度から推定した右室圧は,術後5時間で 更に減少し,既に動脈管が閉じてきているものと考え
られる.肺動脈弁の推定圧較差は術前の64mmHgから
直後に14mmHgまで低下し,翌日には25mmHgまで
再上昇しているが,推定右室圧は上昇しておらず,こ の上昇は動脈管の閉鎖に伴う肺動脈圧低下のためと推 測される.またその後に36mmHgに増加したのは,一 過性の右室流出路狭窄によるものと推定し,pro・pranololを内服させて経過をみたところ,術後2カ月 には13mmHgに改善された.術後11日以降は三尖弁逆 流が殆ど無くなり,右室圧の量的評価はできていない が,心室中隔の形態評価からは,術後1ヵ月までは右 室圧は左室圧の約50〜60%,術後2ヵ月以降は正常圧 になっていると推定された.また,術直後は肺動脈弁 逆流が明瞭にみられたが,術後4日以降はわずかに認 めるのみとなった.
表3 ドプラーエコー法による経時変化
前
5時間 1日 4日 11日 1か月 2か月 4か月
三尖弁逆流 (m/s)
圧較差* (mmHg)
主肺動脈血流(m/s)
圧較差* (mmHg)
5.4 116 4.0 64
3.2 41 1.9 14
3.0 36 2.5 25
3.5 49 2.3 21
±
3.0 36
一
3.0 36
一
1.8 13
一
1.8 13
*簡易ベルヌイ法に基づく推定値
表4 新生児期BPVの報告例
右室/左室 圧較差**(mmHg)
報告老 報告年 (日)日齢 体重
(kg)
バルーン 径(mm) B/A*
前 後 前
後 フオロー
o アツフ
PGEl
投与
Tynan
Zeevi
Qureshi
Khan
Ladusans***
浜岡
本例
1985 1988
1989
1989
1990
1991
61333672113457.32週3週7
3.8 3.1 3.2
32
3.1
4.2 3.7
3.2 2.9 3.6 3.1
3.2
3.3 4.0
2.7
786881012106.56.56.56.510108
0.91.3 1.0 1.2 1.1
Ll L4
1.3
1.2 1.1 1.1 1.1
1.5 1.3
1.3 1.3
2.0 1.8 1.6 2.2 1.3
1.3 1.6
0.9 1.8 0.4 1.0
1.4
2.0 0.5
1.0 0.7 0.9 1.1 0.5
0.5 1.3
0.4 0.6 0.5 0.4
0.8
1.1
95
(81)
115 55 100 0 88 81
120 105
(64)
20
15 100 3 0 0 20 32
20 15 15
(80)
(13)
(16)
110 17
80
(13)
(+)
3/5例
(一)
(一)
(+)
(+)
(+)
(+)
13/15例
(+)
*B/A:バルーン径/弁輪径比 * ()内は連続波トプラー法による推定値 * 各数値は15例の平均値
328 (82)
心電図上,伝導障害や心筋障害を思わせる所見は出 現しなかった.胸部X線上,心胸郭比は術後1ヵ月に 60%,術後2ヵ月に58%と徐々に改善していった.
患児は生後37日(術後1ヵ月)で退院し,その後10 ヵ月の現在まで経過も良好である.
考 案
BPVは1982年, Kanら1}が最初に肺動脈狭窄の治療 に用いて以来,現在では中等度以上の症例に広く行わ れる手法となった.小児科領域でも,近年バルーソが 改良され,新生児でも可能な手法となり,その適応拡
大が期待されている2)h 1°).
一般に,dysplastic typeの肺動脈弁狭窄はBPVの 効果が悪いとされるが,本症例のように弁輪径が比較 的あり,主肺動脈が十分大きく拡張している症例は良 い適応となる.文献上の新生児期BPV報告例を,個々 のデータの記載のあるものだけに限ってまとめた(表 4).使用されたバルーソの径は様々であるが,バルー ン径/肺動脈弁輪径比は1.1から1.3程度が多い.高度狭 窄の場合には,予定した径のバルーンが肺動脈弁輪部 まで進まない事も多い.そこでまずガイドワイヤーだ けを肺動脈へ進め,小さい径のバルーソから始め,段 階的に拡張する方法が安全,かつ有効と考えられる.
本例でも,まず最初に3.5mm径のPTCA用カテーテ ルを用いた.これは腰が柔らかく,ガイドワイヤーに 沿って比較的容易に狭窄部へ進める事ができた.
BPVの操作中,肺動脈血流は一一時的に閉塞されるた め,副作用として徐脈や不整脈などを生じやすい.し かし本例ではPGE,製剤を用いて動脈管から肺動脈血 流を保ち得たので,重症例ではあったが比較的安全に 拡張を行い得た.このように動脈管依存性の重症肺動 脈狭窄の新生児では,BPvに際しLipo−PGE1製剤の 使用が望ましい.ただ,BPV後には右室からの血流が 増えると,肺動脈に流れる血流が多くなり過ぎ,肺高 血圧,右心不全をきたすことが予想される.従って弁 裂開確認後はLipo・PGE1製剤を早期に中止する方が
良い.
右室/左室圧比は,報告例の殆どの例で術前の1.0以 上が,術直後は半分以下に低下している.文献例では,
少数ではあるが術後数ヵ月で悪化した例も存在する.
このような例は,術前の右室/左室圧比が小さい例に多 いように思われる.このようなBPV後の圧較差再上 昇は,右室流出路が反応性に狭窄するためと考えられ ている.我々の症例では再上昇は軽度であったが,pro・
pranololの内服が効果的であった.
日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第2号
おわりに
動脈管依存性重症肺動脈狭窄の新生児例に対し Bpvを行い,良好な結果を得た.この際まずLipo−
PGE1製剤を用いて肺血流を保つことが大切で,次に 狭窄が強くガイドワイヤーだけしか通らぬ例でも,留 置されたガイドワイヤーを介して,細い径のバルーソ カテーテルから段階的に拡張する技法が安全かつ有効 であった事を報告した.また術後の反応性の圧較差上 昇にはpropranololが有効であった.
本稿の要旨の.・部は第104回日本小児科学会和歌山地方 会及び第7回日本循環器科学会近畿・中国地区研究会で発 表した.
文 献
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Percutaneous Balloon Pulmonary Valvuloplasty in Neonatal Period for Critical Pulmonary Stenosis without ventricular Septal Defect−A Case Report一
Kenji Hirayamai}2), Shigeru Uemural), Hiroyuki Suzuki1)2},Mie Kasamatsu1}, Hiroyuki Negoro3),
Jiro Maeda2)and Michio Koike1}
1}Department of Pediatrics, Wakayama Medical College 2}Department of Laboratory Medicine, Wakayama Medical College 3)Department of Pediatrics, Kinan General Hospital
We performed percutaneous balloon pulmonary valvuloplasty(BPV)in a neonate with critical pulmonary stenosis without ventricular septal defect. There was very little flow through the pulmonary valve and most of the pulmonary blood flow was maintained through the ductus arteriosus. BPV was performed on the 7th day of life administering an intravenous drip of Lipo−PGE1.
We could position only a guide wire into the pulmonary arterial trunk through the narrow ostium. The pulmonary valve was crossed initially with a 3.5 mm balloon catheter for PTCA because we could not advance an 8 mm Inoue balloon catheter through the pulmonary valve annulus. After dilating the pulmonary valve with the PTCA catheter, an Inoue balloon catheter was passed and inflated resulting enough dilatation of the pulmonary valve successfully. The systolic right ventricular pressure diminished from 129 mmHg to 80 mmHg and the ratio of systolic right ventricular pressure to left ventricular pressure was decreased from 2.O to 1.1. Systolic pulmonary pressure revealed to be high because of the left to right shunt through the ductus arteriosus. Continuous・wave Doppler echo・
cardiogram revealed slight increase of peak systolic pressure gradient across the pulmonary valve on the l lth day. The gradient, however, decreased to 13 mmHg two months later with oral administra・
tion of propranolo1. He discharged from the hospital on the age of 37 days and he is in good condition afterward.