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理学療法 臨床 研究 教育 26:67-71,2019 麻痺側下肢遊脚の困難さを呈した左片麻痺の症例 下肢遊脚のバイオメカニクスと歩行介助 67 症例検討 麻痺側下肢遊脚の困難さを呈した左片麻痺の症例 下肢遊脚のバイオメカニクスと歩行介助 齋藤隼平 1 )* 国分貴徳 2) 久保田圭祐 3) 要旨

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麻痺側下肢遊脚の困難さを呈した左片麻痺の症例―下肢遊脚のバイオメカニクスと歩行介助 67

はじめに

脳卒中片麻痺患者の遊脚期の最も一般的な障害として 麻痺側下肢の振り出しの困難が挙げられる。代表例とし ては共同運動などにより遊脚時に麻痺側膝関節の屈曲が 生じない stiff-knee-pattern が挙げられ,その代償動作 である体幹の側屈と骨盤挙上による麻痺側遊脚の分廻し 歩行が観察される。歩行における非対称性は,脳卒中片 麻痺患者にとって重要な因子である歩行速度に影響を与 える1,2)。歩行に関する研究は,理学療法の領域以外に おいても,力学から人間・ロボット工学の領域まで,幅 広く行われている3-5)。歩行は重力下で適応的に行われ る運動であり,脳卒中片麻痺患者の歩行は正常歩行と比 べて少ない筋シナジーにより生成されており6),重力下 で適応的に姿勢を調節しながら歩行することが困難とな る。そのためバイオメカニクスの視点から得られた知見 が,患者の異常動作メカニズムの理解やセラピストの治 療介入の参考となる。中でも Mcmahon や Mcgeer は,

バリスティック歩行や受動歩行を用いて,歩行における 振り子運動の役割と重要性を示し,これらの研究から二 足歩行において重力の果たす役割を説明した7,8)。この いわゆる振り子モデルは,位置エネルギーと運動エネル ギーの変換作用により,実に効率的な歩行を可能にす る。実際にヒトの歩行においても遊脚期には位置エネ ルギーを使用した振り子運動(遊脚振り子)が,下肢 遊脚の大きな動力源となっていることが報告されてい

4,7-10)。脳卒中片麻痺患者は,運動障害が重度である

ほど Perry11)が提唱する Rocker 機能が低下し,振り子 モデルの形成が難しくなる。結果として歩行の非対称性 や歩行速度の低下を招き12,13),遊脚振り子の力学的条 件14)において,遊脚側の膝関節屈曲を制限することが わかっている。また stiff-knee-pattern を呈する脳卒中 片麻痺患者の症例報告は渉猟する限り非常に少なく,遊 脚振り子の原理を歩行時のハンドリング操作に落とし込 んだ症例報告は見られていない。

この知見を踏まえ,今回,回復期において麻痺側下肢 遊脚の困難さを呈した左片麻痺の症例に対し,遊脚振り 子に着目した治療介入と歩行練習を行い,一定の効果を 得られたためここに報告する。本症例報告の目的は,遊 脚振り子に着目した治療介入の実際をバイオメカニクス 的視点に基づき明確に言語化することで,その治療効果 と有効性を探ることにある。なお本症例には,症例報告

麻痺側下肢遊脚の困難さを呈した左片麻痺の症例

―下肢遊脚のバイオメカニクスと歩行介助

齋藤 隼平

1)*

  国分 貴徳

2)

  久保田 圭祐

3)

要旨 【はじめに】振り子モデルは位置エネルギーと運動エネルギーの変換作用により,効率的な歩行を可能にする。本

症例報告の目的は,遊脚振り子に着目した治療介入の治療効果と有効性を探ることにある。【症例記述】回復期におい て麻痺側下肢遊脚の困難さを呈した左片麻痺の症例に対し,遊脚振り子に着目した治療介入を行った結果,麻痺側下肢 遊脚と歩行効率の改善を認めた。【考察】立脚中期から後期の股関節伸展角度の増大により,遊脚振り子としての位置エ ネルギーの増大と,エネルギー変換による下肢遊脚が可能となり,麻痺側下肢遊脚が改善された。また Trailing Limb Angle が向上し,歩行効率の増大を認めた。【まとめ】遊脚振り子に基づく治療介入を実施し,分廻し歩行と歩行効率の 改善を認めた。治療介入により動作パターンに変化は見られたが,科学的データの計測には至らず,その治療効果に関 しては今後客観的に検証していく必要がある。

キーワード:バイオメカニクス・振り子モデル・Trailing Limb Angle 理学療法―臨床・研究・教育 26:67-71,2019

■症例検討

(* 責任著者:齋藤 隼平 上尾中央総合病院 - リハビリテー ション技術科 〒 362-858 埼玉県上尾市柏座 1-10-10 e-mail: 1413017s@spu.ac.jp)

1)上尾中央総合病院 - リハビリテーション技術科

2)埼玉県立大学 - 理学療法学科

3)埼玉県立大学大学院 - 保健医療福祉学研究科 受付日:2018 年 10 月 23 日,Accept:2019 年 3 月 1 日

(2)

68 理学療法―臨床・研究・教育 第 26 巻第 1 号

に関する倫理上の配慮について,作成した投稿承諾確認 書を説明し同意を得た。

症例紹介

70 代女性,他院急性期病棟で右アテローム血栓性 脳梗塞の診断を受けて点滴加療を実施した。その後発 症 19 日目に当院の回復期病棟へ入院した。当院転院 時の MRI 画像の拡散強調像において右放線冠周囲に高 信号が認められ,脳梗塞急性期の所見が見られた。既 往歴に高血圧症,糖尿病,腰部脊柱管狭窄症で,病前 ADL は屋内外全自立の独居,介護区分は要支援 2 であ り,病前に歩行障害は見られていなかった。当院回復期 病棟転院時,運動麻痺は Brunnstrom Recovery Stage

(BRS)で上肢,手指,下肢ともⅡ,脳卒中機能評価法 Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)で下肢機 能は 1-1-0 で重度の運動麻痺を呈していた。病棟におけ る ADL は起居・座位自立,車椅子移乗軽介助であった。

1)評価 : 発症 57-58 日目

当院転院後の約 1 ヶ月は,麻痺側下肢荷重時の膝折れ や,非麻痺側の過剰使用軽減を目的に,長下肢装具を使 用した理学療法を中心に行った。その後麻痺側荷重時 の膝折れが改善し,長下肢装具非着用下での理学療法 が開始した発症 57-58 日目の介入前に評価を行った。意 識レベルは Japan Coma Scale(JCS)で 0,運動麻痺 は BRS で上肢,手指ともⅡ,下肢Ⅲ,SIAS の下肢機能 は 2-3-1, 筋 緊 張 は Modified Ashworth Scale(MAS)

で足関節底屈 1+,バランス機能は Functional Balance Scale(FBS)で 30 点(減点項目 : 起立 -1. 立位 -1. 着座 -1. 閉眼立位 -1. 閉脚立位 -1. リーチ -3. 拾い -4. 回旋 -1. 回 転 -4. 台乗せ -4. 片脚立位 -4),認知機能は長谷川式記銘 力検査(HDS-R)で 30 点,その他感覚障害や高次脳機 能障害は認めなかった。端座位保持や立位保持は自立し ていたが,ニーリングやスクワット動作では麻痺側股 関節内転・内旋により骨盤後方回旋と対側下制が生じ ていた。歩行は 4 点杖とプラスチック短下肢装具 Shoe Horn Brace(SHB)を着用し,3 動作前型で,麻痺側 立脚時に麻痺側股関節内転・内旋による骨盤後方回旋と 対側下制が生じ,また立脚中期から後期にかけて股関節 伸展角度が減少していた。また遊脚時には,麻痺側下肢 の分廻しが見られ,足部クリアランスが低下し,軽度介 助を要していた(図 1)。歩行データは 10 m 歩行快適 速度 37.5 秒,歩数 30 歩,で歩行率は 0.86 歩 / 秒であった。

2)統合と解釈

本症例は感覚障害や高次脳機能障害はなく,左上下肢 の運動麻痺が機能障害の主体であった。下肢の運動機能 は SIAS の結果から足関節の機能は股関節や膝関節に比 べ低下していた。一方で,ニーリングや歩行時に骨盤後 方回旋や対側下制が見られることから,麻痺側股関節の 支持性低下も伺えた。歩行では,足関節の重度の麻痺や 股関節屈筋群の筋出力低下,麻痺側立脚後期での股関節 伸展角度の減少により,麻痺側遊脚初期の代償動作とし て,分廻し歩行が依然として見られていた。

3)目標と治療戦略

病前 ADL が自立であること,評価結果より運動麻痺 が中等度で転院時より徐々に改善の兆しが見られるこ と,また認知機能障害やその他の高次脳障害が認められ ないことから,最低でも屋内自立歩行の獲得が見込める と判断した。そのため,歩行時の麻痺側下肢の分廻しに よる下肢の遊脚,麻痺側立脚時の股関節内転・内旋によ り生じる骨盤後方回旋と対側下制の改善による実用歩行 の獲得を目標に,治療プログラムを立案した。ここで症 例の呈する麻痺側下肢の分廻しによる遊脚に対して,麻 痺側自体の随意性の向上などを個別に介入を行った上 で,それらを統合して歩行動作に繋げていくには,麻痺 側下肢の遊脚の困難さに対しての治療的側面を捉えた歩 行練習が必要となる。先述の通り,ここでは歩行におい て位置エネルギーを使用した遊脚振り子が,下肢遊脚の

図1

1 歩行(初期評価時)

A:麻痺側下肢遊脚時に , 骨盤挙上による分廻し歩行が観察さ れた。B:麻痺側立脚中期から後期にかけて股関節伸展角度は減少し , 踵離地と同時に骨盤後方回旋が観察された。

(3)

麻痺側下肢遊脚の困難さを呈した左片麻痺の症例―下肢遊脚のバイオメカニクスと歩行介助 69

動力の一因となっていると仮定する。歩行練習時に遊脚 側の下肢の位置エネルギーを増大させる,すなわち麻痺 側立脚中期から後期にかけて骨盤を前方へ移動させ麻痺 側股関節伸展を促し,下肢質量を股関節に対してより後 方に移動させるよう介助を行うことで,麻痺側下肢の遊 脚の困難さに対して治療的側面を捉えた歩行練習が可能 となり,本症例の歩行機能改善に対する理学療法の治療 効果をより引き上げることが出来ると考える。よって麻 痺側下肢遊脚困難さに対して,遊脚振り子のメカニズム に基づき,麻痺側立脚中期から後期に着目して介入を 行った。

4)治療と経過

治療は,ベッド上で ROM-ex,分離運動促通のため下 肢の単関節運動を実施後,荷重下での動作練習を実施 し,歩行練習を行った。荷重下での動作練習は,まず麻 痺側股関節の安定性に対して,立位で麻痺側股関節内外 転を伴う重心移動練習や,ニーリングで同様の重心移動 練習と口頭で自身の膝を触るように指示し,股関節を屈 曲位で保持する練習を行った。立脚後期の練習として は,ステップ動作時に麻痺側支持で,麻痺側股関節・膝 関節を伸展位で保持できる様,ハンドリングにて骨盤後 方回旋を制御し膝関節を伸展方向に誘導しながら,骨盤 前方並進を伴う股関節伸展運動を行った。また片脚立位 で体幹を前後傾させ,体幹前傾時には膝屈曲,後傾時に は伸展介助を行い,麻痺側股関節・膝関節に加わる外的 モーメントを相対的に変化させその肢位を保持する練習 を行った。体幹前傾時には股関節・膝関節屈曲モーメン

トが,後傾時には伸展モーメントがそれぞれ外的に加わ り,麻痺側股関節・膝関節の屈伸を伴う体幹前後傾を繰 り返すことで,筋収縮の切り替え練習を行った。歩行時 には遊脚振り子のメカニズムに基づき,立脚中期から後 期にかけての骨盤前方並進運動を伴う股関節伸展を誘導 し,その位置で麻痺側下肢が遊脚を行える時間的猶予を 確保するよう骨盤から誘導することにより,麻痺側股関 節屈筋群の筋活動の誘発,位置エネルギーの変換による 下肢の遊脚を促した(図 2)。

約 1 ヶ月の治療介入後に,再評価を行った。運動麻痺 は,BRS で上肢,手指ともⅢ,下肢Ⅳで,SIAS の下肢 機能は 2−4−2 となり,運動麻痺の改善を認めた。FBS は 41 点に向上し,病棟の ADL はトイレ歩行見守りと なった。再評価時の歩行では,初期評価時と比較して,

麻痺側立脚中期から後期にかけて股関節伸展角度の増加 が観察され,麻痺側下肢遊脚時の分廻しや足部の引っ かかりは改善し,見守り下ではあるが歩行での ADL が 獲得された。歩行データは 10 m 歩行快適速度 12.5 秒,

歩数 22 歩,で歩行率は 1.76 歩 / 秒となり,大幅な歩行 効率の改善が見られた。

考 察

麻痺側下肢遊脚の困難さを呈した症例に対して,基本 的な麻痺側機能向上のトレーニングに加えて,遊脚振り 子に着目した歩行介助や動作練習を行った結果,分廻し 歩行の改善と大幅な歩行効率の改善が見られた。

正常歩行時の遊脚動力源は,股関節屈曲筋である腸腰 筋や大腿直筋の収縮力に加え,遊脚振り子として,股

図2

2 治療介入(歩行介助)

A: 体幹の過剰な側屈を抑制し , 非麻痺側股関節内転を伴う重心移動を誘導する。

B: 麻痺側立脚中期から後期にかけて骨盤を前方へ誘導し , 立脚中期から後期にかけて股関 節伸展を促す。

C: 骨盤を前方へ誘導後そこで保持し , 下肢が振り出される時間を確保する。

(4)

関節の位置エネルギーが動力源として貢献している15)。 この遊脚振り子は重力のみをエネルギーとし,立脚側の 下肢質量中心が,矢状面上で股関節の関節中心よりも後 方へ位置することにより,振り子様に股関節の屈曲運動 が起こるというメカニズムが重要な要素となる。この 2 つの遊脚の動力源を基に,本症例の歩行を振り返ると,

筋としての動力源である股関節屈筋群の筋出力低下に加 え,立脚中期から後期にかけての股関節伸展角度の減少 による遊脚振り子としての位置エネルギーの低下がある ことがわかる。この 2 つの遊脚動力源が減少しているこ とで,非麻痺側の過剰使用として,ぶん回し歩行を招い ていると仮説を立てた。そのため,通常の麻痺側下肢機 能向上トレーニングに加えて,上記動力源の再獲得へ向 けて,骨盤から歩行介助を実施した。治療介入後の変化 としては,分離運動の出現,股関節屈曲筋のわずかな運 動麻痺の改善に加え,10 m 歩数が減少していることか ら歩幅が増大し,この歩幅の増大は立脚中期から後期に おける股関節伸展角度の増加を裏付けると考える。この 結果から,分離運動の出現による改善の可能性は否定で きないが,今回立脚中期から後期に着目した治療介入を 重点的に行い,その介入後の変化を追った点を踏まえ て,立脚中期以降の股関節伸展角度の増加により,エネ ルギー変換による下肢遊脚動作の学習が可能となり,麻 痺側下肢遊脚の困難さが軽減されたと考える(図 3)。

遊脚振り子における,位置エネルギーを活用した遊脚 動作の獲得を目的に,立脚中期から後期の股関節伸展角 度の増大を図る動作練習や歩行介助を行ったが,これら

の改善に加え,歩行効率にも大きな改善が見られた。脳 卒中片麻痺患者は,痙縮による足関節底屈モーメントの 減少や少ない筋シナジーでの歩行生成など様々な要因に より歩行の推進力は大きく低下する6,16,17)。本症例に おいても足関節に重度の運動麻痺を認め,このことが歩 行効率低下の一因になっていると考えられた。しかし 治療介入後の変化として SIAS における足関節機能に大 きく変化は見られないが,歩行効率には大きな改善が 見られた。これは Hsiao らによる Trailing Limb Angle

(TLA)の関与が考えれる18)。TLA は大転子から第 5 中足骨頭へのベクトルと垂直軸のなす角を意味し,この 立脚後期の股関節伸展の角度が,歩行効率に関与するこ と示した。これまでの歩行の推進力に関する研究は,足 関節底屈モーメントに着目されることが多かった16,19)。 しかし Hsiao らは健常人や脳卒中片麻痺患者の歩行で,

より早く歩行した際には足関節底屈モーメントに比べ て,立脚後期の股関節伸展角度すなわち TLA が大きく 関与し,また歩行の推進力に関しては足関節底屈モーメ ントに比べて,TLA が約 2 倍の貢献度を持つことを示 している。また彼らは別の研究において,TLA の構成 要素として,股関節屈筋群と膝関節伸筋群の重要性を示

している20,21)。このことは足関節の運動麻痺が重度で

ある本症例に類似するような症例においても,立脚後期 の股関節伸展角度の増大により,TLA が増大すること で歩行効率を改善させられる可能性を示唆するものであ る。立脚中期以降,倒立振り子様に前方へ倒れていく身 体を,本来であれば足関節周りのモーメント,いわゆる ロッカー機能により制動するが,運動麻痺と筋緊張の問 題から,本症例では足関節による制動は困難であった。

しかし,立脚中期以降における骨盤前方並進運動を誘導 することによって,股関節屈曲筋の遠心性収縮や股関節 前面に付着する腱や靭帯の張力により,立脚後期での股 関節伸展角度が増大し,歩行効率が改善したと考える。

加えてこの立脚後期に股関節前面に加わる張力は,股関 節屈曲筋が一旦が引き伸ばされてから収縮することで,

stretch-shortening-cycle22)と呼ばれるメカニズムによ り,股関節屈曲筋を効率的に活用でき,前述の遊脚期の 問題にも寄与したと考えることもできる。以上のよう に,麻痺側機能の向上に加え,歩行のバイオメカニクス に基づいた歩行練習時の介助を行なったことで,効率的 な遊脚相を獲得することにつながった。本症例を通して 得られた知見は,歩行時に同様の問題を有する症例に対 する介入において,治療戦略を構築する一助となると考 えている。しかし本報告においては,理学療法前後の動 作パターンに変化は見られたが,この点についての定量

図3

3 歩行(再評価時)

A: 非麻痺側の過剰使用は軽減し , 分廻し様の麻痺側下肢の遊脚 は改善した。

B: 骨盤後方回旋は改善 , 麻痺側立脚中期から後期にかけての股 関節伸展角度が増大した。

(5)

麻痺側下肢遊脚の困難さを呈した左片麻痺の症例―下肢遊脚のバイオメカニクスと歩行介助 71

的なデータは計測できていない。今後加速度計などを使 用して,動作分析における変化を定量的なデータで客観 的に示していく必要性がある。

まとめ

麻痺側下肢遊脚の困難さを呈した左片麻痺の症例に対 し,遊脚振り子に基づくハンドリング操作を用いた治療 介入を実施し,分廻し歩行と歩行効率の改善を認めた。

本症例報告は,治療介入により動作パターンに変化は見 られたが,歩行パラメータや関節モーメント等の科学的 データの計測には至らず,その治療効果に関しては,今 後定量的なデータを用いて客観的に検証していく必要が ある。また長下肢装具を用いた介入やその他の治療介入 と比較した研究ではないため,今回の理学療法介入の 有効性は現段階ではまだ不明である。しかし Quervain らが脳卒中片麻痺者の歩行を膝関節に着目して分類し

13,23)様に,多くの患者に共通した異常動作に対して,

ある程度共通の介入方法の検討とリーズニングがなされ るべきである。本症例報告は,歩行時に同様の問題を有 する症例に対する介入において,治療戦略を構築する一 助となると考えている。

利益相反

本研究において開示すべき利益相反はない。

文 献

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