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症状を呈する片麻痺患者に対する立位歩行訓練

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Academic year: 2021

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全文

(1)

岡庭 千恵 山 裕司 加藤 宗規 明間ひとみ 北原 淳力

要 旨

症状を呈した片麻痺患者 例に対して,課題の難易度調整と身体的ガイドを考案することによって 成功体験が得られる動作練習プログラムを立案した.立位歩行訓練の有効な身体的ガイドとしては,非麻痺側 による押す動作の抑制と体幹保持の代償として,非麻痺側前腕支持と非麻痺側下肢外転防止および非麻痺側方 向の物体への体幹の寄りかかりが挙げられた.

キーワード 片麻痺,プッシャー症状,歩行訓練,行動分析

)東船橋病院リハビリテーション科

)高知リハビリテーション学院理学療法学科

)東都リハビリテーション学院理学療法学科

【はじめに】

症状を呈する脳卒中片麻痺患者では,座 位,立ち上がり,立位,歩行などの基本動作練習中 に,麻痺側へ押してしまうことによってバランスを 崩すという失敗を繰り返しやすい.動作練習中の失 敗は練習への意欲を減退させると共に,学習を阻害 することが知られており , 症状を呈す る症例に対しても成功や上達が体感できる練習プロ グラムの創出が必要である.

行動分析学では,行動を形成する際に課題の難易 度の調節(シェイピング)やプロンプト・フェイディ ング法などの技法が用いられ,動作学習場面におい てもその有効性が報告されている

今回,我々は 症状を呈した 症例に対し て,身体的ガイドを利用することによって成功体験

が得られる立位歩行訓練を考案し,それを処方する 機会を得たので,その経過について報告する.

症例

【症例紹介】

歳男性,左視床出血による右片麻痺. 病日よ り理学療法が開始となった.

開始時の意識レベルは, (以

下, )で で あっ た.

(以下, )は,上肢 ,手指 , 下肢 であり,感覚障害は表在・深部感覚とも重度 鈍麻であった.寝返り・起き上がり・端坐位保持・

立ち上がり・立位保持いずれの基本動作にも重度の 介助を要した.院内 は,食事は介助,排泄は オムツ,更衣・入浴は全介助レベルであった.

(2)

発症前の状況は,屋外歩行も含め は全て自立 していた.

【経過】(表 )

理学療法開始時から, 症状がみられ,座位,

立位ともに麻痺側に転倒し,保持不能であった.平 行棒での立位は,非麻痺側上肢でバーを押し,さら に非麻痺側下肢を外転方向に踏み出してつっぱるた め麻痺側に体幹が傾き,正中位を保持するために多 大な介助を要した.網本による分類では最重度の に相当した

体幹を非麻痺側へ傾斜させた立位姿勢保持を行う ため, 病日から立位訓練を窓下の縁を使用した前 腕支持での立位に変更した(図 ).その際には,

姿勢保持を容易にするために必要に応じ骨盤から体 幹を窓下の縁にもたれるようにした.また,非麻痺 側下肢が外転することを防ぐため外転防止用の台を 使用した(図 ).さらにセラピストが体幹を保持 するために身体的ガイドを与えた.これらの課題の 難易度調整,身体的ガイドによって即時的に立位保 持が可能となり,立位保持時間が延長した.

症状の改善とともに外転防止用の台を外 し,体幹保持の介助量も減少させていった.その結 果 病日には窓下の縁に前腕支持での立位保持が,

監視下にて 分間可能となった.

歩行は,立位同様に介助量が多大であったため,

病日より窓下の縁での前腕支持から開始した.体 症例 の経過

立位練習 病日 歩行練習

理学療法開始

・平行棒片手支持で実施するも多大な介助が必要

・窓下の縁での前腕支持

外転防止の台 体幹保持の介助 回数と保持時間延長

・窓下の縁での前腕支持で監視にて可能 以降,歩行練習を中心に進める

日目 日目 日目

日目 日目 日目 日目 日目 日目 日目 日目

・平行棒片手支持で実施するも多大な介助が必要

・窓下の縁での前腕支持

体幹保持 体重移動介助 麻痺側下肢の振り出し介助

・窓下の縁での前腕支持 体重移動介助

・平行棒内両手支持

足部ビニール袋 体重移動介助

・平行棒内両手支持で監視にて可能

・平行棒片手支持 体重移動介助

・キャスター付き歩行器 体重移動介助

・キャスター付き 歩行器で監視にて可能 転院

窓縁を利用した前腕支持立位

外転防止用ウェッジ

(3)

幹保持・体重移動・麻痺側下肢の振り出しの身体的 ガイドをセラピストが行うことで,一人の介助で訓 練が可能となった.体幹保持や麻痺側下肢の振り出 しが可能となった後は,セラピストは体重移動の介 助のみを施行した.

病日から麻痺側上肢・手指の随意性向上が見ら れ, 病日には上肢 は へ改善した.麻痺側 上肢による平行棒の把持が可能となったため,平行 棒内両手支持での歩行に切り替えた.その際,麻痺 側下肢の振り出しが困難であったため,足部にビ ニール袋を用いて,床との抵抗を減じ,振り出しを 容易にした(図 ).その後,下肢 は へ改善 し,ビニール袋を外しても振り出しが可能となった.

平行棒片手支持,キャスター付き歩行器での歩行訓 練へ難易度を徐々に上げ, 病日には 歩行 器にキャスターを付け前方へ押すことが監視レベル で可能となった.

病日の転院時所見は, は上肢 ,手指 , 下肢 であった.基本動作は全て自立し,歩行は,

廊下の手すりを利用しての伝い歩きが監視レベルで 可能となっていた.

症例

【症例紹介】

歳男性,左視床出血・脳室内出血による右片麻 痺.陳旧性右被殻出血が認められた.

病日より理学療法を開始した.開始時の意識レ ベルは, で であった. は上肢 ,

手指 ,下肢 であり,感覚障害は表在・深部感覚 とも重度鈍麻であった.基本動作は起き上がり,端 坐位,立ち上がり,立位保持に重度の介助を要した.

院内 は食事介助,排泄はオムツ,更衣・入浴 は全介助レベルであった.

発症前は,屋外歩行も含め は全て自立して いた.

【経過】(表 )

理学療法開始時,平行棒での立位は重心が麻痺 側・後方に偏位し,介助によっても体幹の保持が困 難であった.網本による分類では最重度の に相当 した .姿勢保持の代償として柱と窓下の縁を用い て前腕支持での立位保持を行い,さらに必要に応じ 骨盤から体幹を窓下の縁にもたれるようにした.こ のようにすることでわずかの介助で訓練が可能と なった(図 ).その際,下肢支持性の代償として 両側に膝装具を使用し,体幹の保持をセラピストが 介助した.

病日には,柱と非麻痺側膝装具を取り外し,そ の後も,体幹保持の介助量をフェイディングして いった.その結果, 病日目には窓下の縁での前腕 支持の立位が 分間可能となり, 病日には平行棒 片手支持での立位保持がわずかの体幹に対する介助 で可能となった.

歩行は 病日より開始した.当初,平行棒では麻 痺側へ重心が偏り,非麻痺側下肢の外転位が著明に 見られ,介助によっても歩行訓練が困難であった.

足底の抵抗を減ずるビニール袋 柱と窓縁を利用した前腕支持立位

(4)

そのため, 病日より平行棒上に板を渡し,前腕支 持で歩行訓練を開始した(図 ).そうすることで 体幹保持・体重移動・麻痺側下肢の振り出しをセラ ピストが介助して歩行訓練が可能となった.その際,

麻痺側支持性の低下に対して膝装具を,足関節・足 部の不安定性に対して弾性包帯を装着した.さらに 振り出しを容易にするため足部にビニール袋,及び 非麻痺側下肢の外転位防止のために板を使用した

(図 ).

病日より上肢の随意性は向上し, は上肢・

手指 となった.また 病日より麻痺側下肢の支持 性が向上し, 下肢 となり膝装具 弾性包帯 から に変更した.また,平行棒上の板を除去し,

平行棒内両手支持,平行棒外周片手支持,ウォーカー ケイン,四点支持杖での歩行へと形態を変化させて いった.麻痺側下肢の振り出しが可能となった時点 からは,足部ビニール袋は除去した.

病日の転院時所見は, 上肢 ,手指 , 下肢 であった.基本動作は起き上がりは口頭指示 にて誘導,端坐位は自立,立ち上がりは支持物使用 症例 の経過

立位練習 病日 歩行練習

理学療法開始

・平行棒片手支持で実施するも多大な介助が必要

・窓下の縁 柱での前腕支持 両側膝装具 体幹保持の介助

・窓下の縁での前腕支持

麻痺側膝装具 体幹保持の介助

・窓下の縁での前腕支持 体幹保持の介助

・窓下の縁での前腕支持で監視にて可能

・平行棒片手支持 体幹保持の介助

以降,歩行練習を中心に進める

日目 日目 日目 日目 日目 日目

日目

日目 日目 日目 日目 日目 日目 日目 日目

・平行棒片手支持で実施するも多大な介助が必要 非麻痺側下肢外転著明

・平行棒 板で前腕支持

麻痺側膝装具 体幹保持介助

足部弾性包帯 体重移動介助 麻痺側下肢の振り出し介助 非麻痺側下肢の外転防止の板

(これにより体幹保持介助は軽減)

足部にビニール袋

(これにより麻痺側下肢振り出し可能)

・平行棒内両手支持

足部ビニール袋 体重移動介助

・平行棒片手支持

足部ビニール袋 体重移動介助

・ウォーカーケイン

足部ビニール袋 体重移動介助

・ウォーカーケイン 体重移動介助

・四点支持杖

体重移動介助 転院

平行棒上の板を利用した前腕支持立位

(5)

にて監視,歩行は四点支持杖 にて体重移動 の介助のみを必要としていた.

【考察】

今回, 症状を呈した 症例に対して,課 題の難易度調整と身体的ガイドを考案することに よって成功体験が得られる動作練習プログラムを立 案した.

症状を呈する症例は,支持性のない麻痺 側に押してしまうことによってバランスがコント ロールできない状態であり,通常非麻痺側に重心位 置が偏位しがちな片麻痺患者とは動作障害の特徴が 異なっている.よって,通常の片麻痺患者に対する 基本動作訓練とは異って,体重を支持し得る非麻痺 側支持基底面内に重心線をコントロールした状態の 動作を学習させる必要がある.

症状を呈する症例が麻痺側へ重心を偏位 させる原動力は非麻痺側上肢の伸展と体幹の麻痺側 への側屈,非麻痺側下肢の外転・伸展運動である.

今回の 症例では,非麻痺側前腕への体重支持,柱 と窓下の縁への骨盤・体幹のもたれ,下肢外転防止 板を用いることで,これらの動きを抑制し,非麻痺 側への荷重を可能とした.それによって麻痺側支持 性が低く,立位バランスが不良な時期から,失敗や 介助量の少ない立位訓練が可能であった.これらの 変化が即時的に現れたことは,運動麻痺が改善する 急性期であったとは言え,今回用いた身体的ガイド が重心の麻痺側への偏位を是正させる上で有効で

内立位へと難易度を上げ,セラピストによる身体的 ガイドもフェイディングしていった.それによって 失敗や介助量が少ない状態で立位訓練を進行させる ことが可能であった.歩行についても,装具による 麻痺側下肢支持性の代償や振り出し時の床面との抵 抗を軽減するビニール袋,弾性包帯を利用すること で介助量の少ない歩行訓練が実施可能であった.今 回の 症例は経過中に運動麻痺や立位歩行以外の基 本動作能力に回復が見られており,これらの介入が なくとも立位歩行能力の改善が得られた可能性は高 い.しかし,動作練習中の失敗経験は,やる気の低 下やイライラなどのネガティブな心的事象を誘発 し,逆に練習中の上達は,やる気の向上や楽しさな どのポジティブな心的事象を生じさせることが報告 されている .したがって,失敗経験の少ない今回 の介入は,少なくとも動機づけを促進させる上では 有効であろう.さらに,失敗経験は,動作の遂行能 力 や 学 習 能 力 を 低 下 さ せ る こ と が 報 告 さ れ て お り,難易度が高い動作訓練では,シェイピングや 身体的ガイドによって動作を成功させた上で反復さ せることが効率の良い動作学習につながることが指 摘されている .したがって,今回の身体的ガ イドやフェイディングは, 症状を呈する症 例の立位・歩行の学習を促進させる上で好影響を与 えていた可能性もある.

今回は,有効な身体的ガイドを場当たり的に考案 し,実施したために,対象者の方に今後のプログラ ムや上達状況を十分にフィードバックできなかっ た.また,詳細なプロンプトの準備ができていなかっ たために動作の失敗を繰り返し,次の段階への移行 がスムーズに進まなかった時期もあった.よって,

今後は有効な身体的ガイドとプロンプト・フェイ ディングの過程を詳細に設定しておく必要がある.

今後は,有効な身体的ガイドを利用して段階的な難 易度の動作訓練プログラムを立案していくと共に,

動作の上達がより明確に対象者にフィードバックし 外転防止用板

(6)

得る動作評価方法を創出していきたい.

【文献】

)山 裕司,山本淳一 左手箸操作練習における 動作学習体験.リハビリテーション教育研究

, .

, .

)山 裕司,鈴木 誠 身体的ガイドとフェイ ディング法を用いた左手箸操作の練習方法.総

合リハ , .

)豊田 輝,宮城新吾・他 プロンプト・フェイ ディング法を用いた義足歩行練習の効果.日本 行動分析学会第 回年次大会発表論文集 ,

)網本 和 高次神経機能障害と理学療法( ) 現 象 の 評 価 と ア プ ロー チ, 理 学 療 法

脳損傷の理学療法 ─超早期から急 性期のリハビリテーション,三輪書店, ,

参照

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