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心理的瑕疵と不動産仲介業者の不法行為責任

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心理的瑕疵と不動産仲介業者の不法行為責任

― 高松高判平成 年 月 日判例時報 頁 ―

石 松 勉

一 はじめに

売買の目的不動産に殺人や自殺といった心理的に嫌悪すべき歴史的背景に 起因する心理的瑕疵が存在する場合に、売!!!!!!!!!これを知った買 主から、民法 条の瑕疵担保責任としての契約解除や損害賠償請求がなさ れるといったケースが、近時、数多く見受けられる( )

その一方で、マンションの 室の買主に防火戸の操作方法等について説明 がされていない状態を民法 条にいう「隠れた瑕疵」の性格が失われてい ないと捉えた上で、目的不動産の売買を仲介した宅地建物取引業者(以下、

本研究では「宅建業者」あるいは「不動産仲介業者」という。)に買主に対 してこの点につき説明すべき信義則上の義務があったとして、その義務違反 による不法行為に基づく損害賠償責任を認めた最高裁判例( )も登場している。

本研究では、物的瑕疵(物質的・物理的瑕疵)の問題ではないが、 年以

福岡大学法科大学院教授

( )

筆者もこれまでに登場した裁判例の概観、検討を試みたことがある。石松勉「自殺・殺人を 原因とする心理的欠陥に対する売主の瑕疵担保責任について」福岡大学法学論叢 巻 号

年) 頁以下(以下、「心理的欠陥」として引用)、同「『心理的瑕疵』概念の一考察

(一)、(二・完)」福岡大学法学論叢 巻 号( 年) 頁以下、同 号( 年) 以下(以下、「一考察(一)、(二・完)」として引用)。

(2)

上も前の殺人や自殺といった心理的瑕疵の存在を、不動産仲介業者が売!!! !!!!!!!!!!!、そ!!!!!!!!!!!!!知るに至ったような 場合に、この事実が売買契約の効力に影響を及ぼし得る事実にあたるのかど うかという視点から、不動産仲介業者はなおこの点について説明すべき義務 を負うかという問題を扱った、高松高判平成 年 月 日( )について検討を 試みてみたい。そして、この問題をもし肯定的に解するとしても、その際の 決定的な要因はいったい何だったのか、また、それは妥当と言えるのかといっ た点について、心理的瑕疵に基づく瑕疵担保責任の事例とも対比しながら、

簡単な考察を試みてみたいと思う。以上が本研究の主たる目的である。

二 事実の概要

本件売買契約当時、小学生であった娘 人を抱えるX ・X 夫婦は、家族 で暮らす居住用建物を建築するために、平成 年 月 日、本件土地の所有 者であったAとの間で、宅建業者であるYの仲介により、本件土地を代金 万円で買い受ける旨の売買契約を締結した。売買代金は、本件売買契約の締 結時に手付金として 万円が、翌 年 月 日に残代金 万円がそれぞ れ支払われ、決済が完了した。そして同日、AからXらへの所有権移転登記 が行なわれた。本件売買契約は、Yの仲介によるものであり、本件売買契約 の締結も本件代金決済も、Yの担当者の立会の下で行なわれたものであった。

ところで、昭和 年 月当時、本件土地上には建物が建っており、そこに は当時の所有者Bとその娘、そしてBの内縁の妻が居住していたが、Bの内 縁の妻が実の息子に殺害され、その遺体がバラバラにされて山中などに埋め

( )

最判平成 年 月 日裁判所時報 号 頁、裁判集民事 頁、判例時報 頁、判例タイムズ 頁、金融・商事判例 号 頁。

( )

判例時報 頁。したがって、本研究では、売買契約の一方当事者である売主の説明 義務の問題については扱わない。この点については、筆者の先行論文を参照されたい。

(3)

られるという事件(ただし、この殺人事件自体は本件土地とは無関係な場所 で起こったようである。)があり、さらに昭和 年 月には、Bの娘が本件 建物の 階ベランダで首をくくって自殺するということがあった。この事実 は本件売買契約の締結後に判明した。なお、本件建物は平成元年に取り壊さ れ、その後は、建物が建築されないまま、本件土地は転々譲渡されてきたと いう経緯があった。

そこで、Xらは、Yに対して、宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」と いう。) 条 項 号ニに基づく説明義務違反(不法行為その )や調査義 務違反(不法行為その )を理由に、さらには、Yは遅くとも本件代金決済 の数日前には本件土地が自殺等に係る事故物件であることを認識していたに もかかわらず、この事実をXらに何ら説明しなかったとして、この説明義務 違反(不法行為その )に基づき、本件土地の取得費用から現在の本件土地 の価額を差し引いた損害額( 円)や慰謝料、弁護士費用等の支払 を求めて、損害賠償を請求した。

なお、控訴審では、さらに、本件売買契約の解除の意思表示を売主に伝え なかったことに基づく損害賠償請求も追加されている(不法行為その )。

これに対して、Yは、本件売買代金の決済時においても、本件土地が自殺 等に係る物件であることは知らなかったし、またこの事実は本件売買契約の 効力を争うか否かの判断にとって重要な影響を及ぼす事実ではないなどと主 張して争った。

三 第 審判決(松山地判平成 年 月 日( )

第 審である松山地裁平成 年 月 日判決は、以下のように判示した。

( )

判例時報 頁。

(4)

不法行為その について

「昭和 年 月 日、本件土地上に建てられていた本件建物において、所有者で あるBの娘が自殺した。このような自殺の事実は、一般に、当該物件の買受けに 忌避感ないしは抵抗感を抱かせる事実であるとともに、客観的にも当該物件の取 引価額の減価要素となり得る事実である。このことに、Xらによる本件土地の取 得目的が、本件土地上に一戸建てマイホームを建築し、これをXら家族自身の永 続的な生活の場とすることにあったとの事情を併せ考えれば、本件土地上で過去 に自殺があったとの事実は、Xらが、本件土地を取得するか否か、すなわち本件 売買契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす事柄であったといえる。

したがって、本件土地の仲介をした宅地建物取引業者であるYは、本件売買契約 の締結に際し、本件土地上で過去に自殺があったとの事実を認識していたのであ れば、これを売買当事者であるX に説明をすべき義務を負うというべきである(宅 地建物取引業法 条 項 号ニ)」とまず判示。

その上で、「この点に関し、Yは、前記…自殺等の事実は、本件土地を取得する か否かの判断に重要な影響を及ぼす事柄ではないと主張」し、「殺人の事実は、本 件土地とは無関係の場所で起きた事件であり、本件土地との関連性はない、…本 件建物内での自殺の事実も本件売買の 年以上も前の出来事であり、本件売買当 時、既に人々の興味、関心は薄れてしまっていた、…本件建物は平成元年に取り 壊されており、忌むべき心理的嫌悪の対象は特定できない空間へと変容してしまっ ている、…この間、売買が繰り返され、本件土地の所有者も幾度となく変わって いる、との事情を指摘する」が、「殺人の事実は、本件土地とは関係のない場所で 敢行された犯罪行為であると認められる。したがって、自殺の事実を考慮せず、

この殺人の事実のみを捉えれば、本件土地を取得するか否かの判断に重要な影響 を及ぼす事柄ではないということもできる。もっとも、…、この殺人の事実は、

社会的耳目を集めた衝撃的な事件であったところ、近隣住民においては、殺人の 事実と自殺の事実が関連付けて理解されており、 年以上前の出来事であるとは いえ、自殺の事実は、殺人の事実とともに、今なお、近隣住民の記憶するところ となっていると認められる。したがって、上記殺人の事実も、自殺の事実が現在 も近隣住民の記憶するところとなっているとの限度において、本件土地との関連

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性を有しているとみることができる」ところ、「本件建物内での自殺の事実は、本 件売買の 年以上も前の出来事であるが、本件売買当時、既にこの自殺の事実に ついての人々の興味、関心が薄れてしまっていたと認めるに足りる証拠はない。

かえって…、この自殺の事実は、今なお近隣住民の記憶するところとなっている と認められる。」

「自殺のあった本件建物は平成元年に取り壊されており、以後、売買が繰り返さ れ、本件土地の所有者はその都度変遷している。しかし、本件建物は本件土地上 に建てられていた建物である。そして、本件土地上に建てられていた本件建物で 自殺があったとの事実は、近隣住民の記憶に今なお残っている事柄である。した がって、本件建物で自殺があったとの事実は、本件土地を買い受けようとする者 に対し、少なからぬ忌避感ないしは抵抗感を抱かせる事実であるといえる。しか も、Xらの本件土地の取得目的は、駐車場として利用するとか、共同住宅等を建 築して収益を得ようというのではなく、一戸建てマイホームを建築して、本件土 地を家族の永続的な生活の場にしようというものであったのである。このような 者にとって、過去に本件土地上に建てられていた建物で自殺があったとの事実は、

建物が取り壊され、所有者が変遷していることを考慮しても、なお、本件土地を 買受けるか否かの判断に重要な影響を及ぼす事柄であるといえる。」

「そもそも、土地を取得しようとする者は、土地を取得するか否か、どの土地を 取得するのかにつき、選択の自由がある。当該土地でなければ取得目的を達せら れないというような例外的な場合は別であるが、Xらのようにマイホーム建築目 的で土地探しをしている者は、通常、このような例外的な場合にはあたらない。

Xらも道後エリアでの物件探しをしていたのであるが、本件土地でなければ取得 目的を達せられないというものではなかった。このような立場にある者としては、

あえて、自殺物件を取得する必要はない。自殺が 年以上前の出来事であり、自 殺のあった建物が取り壊されている等の事情があっても、自殺があったとの事実 が近隣住民の記憶に残っている状況下において、そのような土地を生活の場とし て取得しようというのは、稀な事態であると考えられる。したがって、仲介にあ

(ママ)

たる宅地建物業者としては、本件土地上で過去に自殺があったとの事実を認識し ていたのであれば、これを買受人に説明すべき義務があるというべきである。こ

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のような情報が提供された上で、買受人において、より詳細な調査をするなどし た上、売買代金額等の売買条件との兼ね合いで、本件土地を取得するか否かの判 断をすることになるのである。」

「そこで、さらに進んで、Yの認識について検討するに、…、本件売買契約締結 当時、Yにおいて、本件土地上で過去に自殺があったとの事実を認識していたと 認めるには足りない。この点につき、Xらは、種々の間接事実を挙げて、本件売 買契約締結当時のYの認識を主張するが、なお、Yが、本件売買契約締結当時、

本件土地上で過去に自殺があったとの事実を認識していたとは認めるに足りな い。」「よって、不法行為その には、理由がない。」(以上、下線筆者)

不法行為その について

「宅地建物取引業者は、売買の仲介にあたり、売買当事者の判断に重要な影響を 及ぼす事実について説明義務を負う(宅地建物取引業法 条 項 号ニ)。したがっ て、説明義務を果たす前提として、一定の範囲内で調査義務を負うと解される。」

「そして、対象物件が事故物件か否か、より具体的には、過去に自殺等の事故が あった物件か否かは、その性質上、対象物件の外形からは認識し得ない事柄であ る。また、このような自殺等の事故は、通常の物件においてよく見受けられると いうようなものではない。対象物件上で自殺があったというのは、極めて稀な事 態でもある。したがって、売買の仲介にあたる宅地建物取引業者としては、対象 物件の隠れた事故物件性については、その存在を疑うべき事情があれば、独自に 調査してその調査結果を説明すべき義務を負うが、そうでない場合には,独自に 調査をすべき義務までは負うものではないと解するのが相当である」と判示。

そうして、本件の場合、本件土地の売主Aの前主が本件土地を取得する際の「売 買代金 万円は、通常の売買であればあり得ないような低廉な価格であったわ けではない」し、「売主が瑕疵担保責任を負わないとの契約内容を付すことが、隠 れた瑕疵の具体的内容を把握していることをうかがわせる徴表であるといえない」。

「また、…、Yが松山市に本店を置き、手広く事業を行う不動産業者であること を考慮しても、本件土地に長年建物が建てられていない事実や、自殺の事実が近 隣住民の記憶するところとなっているとの事実から、Yにおいても本件土地の事 故物件性を疑うべきであったとするのは酷である」として、「Yにおいて、本件土

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地の事故物件性を疑うべき事情があったとは認めるに足りない。」「よって、Yに は、本件土地の事故物件性について、独自に調査してその調査結果を説明すべき 義務があったとまではいえず、不法行為その には、理由がない。」(以上、下線 筆者)

不法行為その について

「Yは、本件売買契約締結(平成 年 月 日)当時、本件土地上で過去に自殺 があったとの事実を認識していたとは認められない。しかしながら、…、Yの担 当者であるNは、遅くとも本件代金決済(平成 年 月 日)の数日前には、同 業の者と本件土地について話す中で、本件土地がいわゆる訳あり物件であるかも しれないとの疑いを抱いたこと、そこで、N及びHにおいて確認をし、本件代金 決済の前には、 年以上前に本件土地上に建っていた建物(本件建物)で自殺事 故があったらしいとの認識に至ったことが認められる。」「そして、…、本件土地 上で過去に自殺があったとの事実は、本件売買契約を締結するか否かの判断に重 要な影響を及ぼす事実であるとともに、締結してしまった売買契約につき、その 効力を解除等によって争うか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実でもあるとい える。」「したがって、宅地建物取引業者として本件売買を仲介したYとしては、

本件売買契約締結後であっても、このような重要な事実を認識するに至った以上、

代金決済や引渡手続が完了してしまう前に、これを売買当事者であるX に説明す べき義務があったといえる(宅地建物取引業法 条 項 号ニ)。」

「しかるに、Y担当者であるN及びHは、自殺の事実が 年以上前の出来事であ ることや、自殺があったとされる建物が取り壊されており、本件土地が相当以前 から更地となっていたことなどから、本件土地上で過去に自殺事故があったらし いとの事実をX に説明しなければならない理由はないと考え、これをしなかっ た。」「したがって、Yは、Xらに対し、この説明義務違反(不法行為)と相当因 果関係のある損害を賠償すべき責任を負う」と判示(以上、下線筆者)。

損害論について

その上で、「上記認定の不法行為その で問題となっているのは、本件土地上で 過去に自殺事故があったらしいとの事実を、代金決済や引渡手続が完了してしま う前にX に説明すべきであったとの説明義務であり、不法行為その は、本件売

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買契約締結後に発生した不法行為である。そして、このような行為が不法行為と されるのは、本件土地上で過去に自殺があったとの事実が、締結してしまった売 買契約につき、その効力を解除等によって争うか否かの判断に重要な影響を及ぼ す事実でもあるといえるからである。したがって、不法行為その と相当因果関 係がある損害は、説明義務が履行されていれば代金決済や引渡手続を了しない状 態で、本件売買契約の効力に関し、売主側と交渉等をすることが可能であったの に、説明義務が履行されなかったが故にこれをすることができず、その結果、代 金決済や引渡手続を了してしまった状態で売主側との交渉等をせざるを得なかっ たことによる損害であり、具体的には、このような状態に置かれざるを得なかっ たことに対する慰謝料であると考えられる」とし、「…、本件売買の内容、性質等 諸般の事情を斟酌すれば、YがXらに賠償すべき慰謝料の額は、各 万円(合計 万円)と認めるのが相当である」とした上、「…、本件事案の内容、経緯、認 容額など諸般の事情を考慮すると、Yが負担すべき弁護士費用の額は、Xら各 万円(合計 万円)と認めるのが相当である。」「以上より、YがXらに対して賠 償すべき不法行為その に基づく損害は、Xら各 万円(合計 万円)となる」

としたのである(以上、下線筆者)。

そこで、Xらが控訴して損害額の増額を請求し、Yも附帯控訴した。

四 第 審判決(高松高判平成 年 月 日( )

第 審である高松高判平成 年 月 日は、Xらの請求は、不法行為その に基づき各 万円およびこれに対する不法行為後(本件代金決済の日)で ある平成 年 月 日から支払済みまで民法所定の年 分の割合による遅延 損害金の支払を求める限度で認容すべきものと判断し、その理由は、原判決 を若干補正し補足説明等を加えるほかは、原判決の理由のとおりであるとし てこれを引用するとし、Xらの控訴、Yの附帯控訴を、いずれも棄却した。

( )

判例時報 頁。

(9)

Yが本件土地上で過去に自殺があったとの事実を認識していた場合、

これをXらに説明する義務を負うかについて

「Yは、本件売買当時、既に本件建物内での自殺の事実についての人々の興味、

関心が薄れてしまっていたと認めるに足りる証拠はなく、かえってこの自殺の事 実は、今なお近隣住民の記憶するところとなっていると認められるとした原判決 の事実認定には誤りがある旨主張する。しかし、…、原判決の認定するとおり自 殺の事実が今なお近隣住民の記憶するところとなっているといえるのであって、

これを覆すに足りる根拠は見出せない。」「また、Yは、本件建物内での自殺等か ら四半世紀近くが過ぎ、自殺のあった本件建物も自殺の約 年後に取り壊され、

本件売買当時は更地となっていたとの事実を指摘するが、…、これらの事実があっ たとしても、マイホーム建築目的で土地の取得を希望する者が、本件建物内での 自殺の事実が近隣住民の記憶に残っている状況下において、他の物件があるにも かかわらずあえて本件土地を選択して取得を希望することは考えにくい以上、Y が本件土地上で過去に自殺があったとの事実を認識していた場合には、これをX らに説明する義務を負うものというべきである。」(下線筆者)

本件売買契約締結当時のYの認識について

「Xらは、〔 〕Yと一体である甲社(本件土地の売主Aの前主―筆者注)が本 件土地を購入したときの価格が事故物件であることを前提にしなければあり得な い低廉な価格であることを指摘する。しかし、…、平成 年当時の本件土地の近 隣標準地の公示価格に基づく価格 円、本件土地の路線価に基づく価格 円からすれば、本件土地の購入価格 万円は、甲社にとって相応に 有利な価格であったとみることができるとしても、事故物件であることを前提に しなければあり得ない低廉な価格であるということはできない。また、Xらは、

〔 〕甲社が本件土地を購入する際に、事故物件か否かを含む地歴調査をしたも のと考えられる旨指摘するが、同社が購入時に地歴調査をしたとしても、当然に 本件土地が事故物件であることを知っていたとはいえない。」「Xらは、〔 〕本件 土地は、環境の良い閑静な住宅地にあるにもかかわらず、 年以上一度も住宅の 建設がされなかったと指摘する。しかし、本件土地の周辺は、閑静な住宅地では

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あるが、駐車場として利用されている土地も存在するのであって、 年以上一度 も住宅の建設がされなかったとしても、そのことから直ちに本件土地が事故物件 であることを推測させるものとはいい難い。また、Xらは、〔 〕Yは長年にわた り本件土地周辺で地場の不動産業者として営業しており、新聞報道等により本件 土地に関連する殺人事件のことを認識していた(法人であるYの認識の有無につ いては、従業員の認識を含めて判断すべきである。)と主張する。しかし、法人で あるYの認識の有無について、代表者だけではなく、本件売買に関与したYの従 業員の認識を考慮する余地があるとしても、本件売買と何ら関係のない従業員の 認識を考慮すべきとはいえない。そして、Yの代表者や本件売買に関与したYの 従業員が新聞報道等により本件土地に関連する殺人事件のことを認識していたこ とを認めるに足りる的確な証拠はない。」「Xらは、〔 〕本件売買契約締結当日に 至って、事前説明と異なり、X に対し特段の説明をすることなく、売主が瑕疵担 保責任を負担しない形に契約条件を変更したことを指摘するが、隠れた瑕疵の具 体的内容を把握していない場合であっても、念のため瑕疵担保責任を負わない旨 の契約を締結することも通常の取引で見受けられることに照らすと、売主が瑕疵 担保責任を負担しない形に契約条件を変更したことから本件土地が事故物件であ ることをYが認識していたと推認することはできない。」「Xらは、〔 〕y(Yの 代表者―筆者注)が本件売買契約締結よりも前に、Yの従業員に対し、本件土地 が自殺等にかかわる物件である旨話したこと(原判決は説得的な理由を述べるこ となくyの証言を信用できないとするが、本件訴訟の結果について何らの利害関 係のないyの証言は信用できる。)などに照らし、原判決の上記事実認定には誤り がある旨指摘する。しかし、yが自殺の事実について話をした時期や相手方が曖 昧である上、そのような話をしたことを裏付けるものがないことを理由に、yの 陳述等を採用することは困難であり、この陳述等によって、Yが、自殺の事実を 認識していたと認められないとした原判決の証拠判断は是認し得るものである」

と判示。

その上で、第 審判決同様、「以上によれば、Yが、本件売買契約締結当時、本 件土地が事故物件であること(具体的には本件土地上の本件建物内で自殺があっ たこと)を認識していたとは認めるには足りない」とした(以上、下線筆者)。

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Yが本件売買契約締結に先立ち本件土地が事故物件であることについ て調査・説明義務を負うかについて

「Xらは、宅地建物取引業主任者が属する協会の実務研修におけるマニュアルに は近所からヒアリングをすべき旨記載されていること、本件売買契約は小さな子 供を含む家族のマイホームを建築する目的であったこと、隣人に確認すれば容易 に事故物件であることを確認できたことに照らすと、事故物件性の存在を疑うべ き事情があるか否かにかかわらず、Yは本件土地が事故物件に当たるか否かにつ いて調査し、その結果をXらに説明すべき義務を負っていた旨主張する。」「しか し、宅地建物取引業主任者が属する協会の実務研修におけるマニュアルに近所か らのヒアリングをすべき旨の記載があるかどうかについて客観的な裏付けがない 上に、同マニュアルの記載により宅地建物取引業主任者の法的義務の範囲が定ま る関係にもない。また、本件売買契約が小さな子供を含む家族のマイホームを建 築する目的であったとしても、対象物件が自殺等の事故物件であることは極めて 稀な事態であることからすれば、事故物件性の存在を疑うべき事情がない場合に まで、売買の仲介に当たる宅地建物取引業者に事故物件であるかを調査すべき義 務があると認めることはできない。なお、Xらは隣人に確認すれば容易に事故物 件であることを確認できたことを指摘するが、この点は調査義務の有無を左右す る事情には当たらない。」

「Xらは、仮に、調査義務を認める前提として、事故物件性の存在を疑うべき事 情が必要であるとしても、本件ではそのような事情が認められることは明らかで ある旨主張する。しかし、Xらが指摘する事情は、いずれも本件土地が事故物件 であると疑うべき事情に当たるとはいえない」と、やはり第 審判決と同様の判 断を下している(以上、下線筆者)。

不法行為その と相当因果関係のある損害について

「Xらは、債務不履行解除、売買契約の錯誤無効等の主張、白紙撤回の合意等を 行い、手付金 万円の返還を受け、その他の不要な支出を免れたことは明らかで あり、本件土地の取得に要した支出額と本件土地の現在価額との差額が損害とな る、仮に、手付金放棄による解除となった場合でも、Xらの負担は 万円にとど

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まったものである旨主張する。しかし、本件売買契約では売主の瑕疵担保責任は 排除されている上に、本件売買契約に動機の錯誤があったとしてもその動機が表 示されているか等の問題点があるから、Xらが本件売買契約締結後決済前に本件 土地が事故物件であることを知り、本件売買契約の解消を望んだとしても、本件 売買契約が解消された高度の蓋然性があるとはいえない。また、Xらは手付金放 棄による解除もできた旨主張するが、手付金放棄による解除の期限は平成 年 月 日となっており、Yの担当者が本件土地がいわゆる訳あり物件であるかもし れないとの疑いを抱いたのがそれよりも後のこと(平成 年 月 日の代金決済 の数日前)であることに照らせば、Yが速やかに調査を行い、その結果をXらに 報告していたとしても手付金放棄による解除は当然にはできなかったものといわ ざるを得ない。そうすると、不法行為その と相当因果関係がある損害は、本来 であれば本件売買契約が締結されたことを前提にしつつも、代金決済や引渡手続 を完了しない状態で、本件売買契約の効力に関し、売主と交渉等をすることが可 能であったのに、説明義務が履行されなかったために、代金決済や引渡手続を完 了した状態で売主との交渉等を余儀なくされたことによる損害にとどまるので あって、具体的には、このような状態に置かれざるを得なかったことに対する慰 謝料であると考えるのが相当である。すなわち、Xらが主張する損害のうち、本 件土地の取得に要した支出額と本件土地の現在価額との差額(あるいはこれから 手付金を控除した額)は、不法行為その と相当因果関係がある損害とは認めら れない。」「Xらは、原判決は、Xらの慰謝料を各 万円( 万円)とするが、X らが被った苦痛は極めて甚大であって、上記金額は著しく低廉にすぎる旨主張す る。しかし、不法行為その は、本件売買契約締結後の説明義務違反に基づくも のであるから、事故物件である本件土地を対象とする本件売買契約を締結したこ とによって生じた精神的苦痛は不法行為その と相当因果関係のある損害には含 まれない。Xらが指摘する事情(本件土地の購入を余儀なくされたことで一戸建 てのマイホームの夢が絶たれたこと、平成 年 月まで仮住まいを余儀なくされ たこと、本件土地を売却することもできず新しく購入した分譲マンションのロー ンを含め二重ローンを負担していること等)はいずれも不法行為その と相当因 果関係のある損害には含まれない。そして、不法行為その による損害は、交渉

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上の不利益を甘受することを余儀なくされたという不定型なものであるところ、

この損害を金銭的に評価するに当たって、仲介手数料( 万円)との均衡も勘案 し、Xの慰謝料額を各 万円(合計 万円)とした原判決の認定は是認し得る。」

(以上、下線筆者)

五 研究

本判決は、不動産仲介業者であるYが殺人や自殺といった心理的瑕疵の存 在を売買契約締結の後、残代金の決済期日の前までに知りながら買主Xらに 説明しなかったとして、説明義務違反と相当因果関係のある損害についてY はその賠償責任を負うとした原判決を、そのまま維持したものである。ここ では、それがどのような法的理由づけ、法的構成に基づいてそのように判断 されたのかを、心理的瑕疵の視点、および、専門家責任の視点から、若干の 検討・考察を加えてみることにしたい。

心理的瑕疵の視点から

まず、本判決の事案の特徴から見てみることにしよう。

本判決において、事案として特徴的な点としては、まず第 に、 年以上 前に本件土地上に存在していた本件建物で自殺があったという事実を、Yの 担当者が仲介した本件売買契約の締結時には知らなかったが、契約の締結か ら約 か月後に予定されていた代金の最終決済の日より以前に知るに至った こと、しかし、第 に、その自殺があったという本件建物はすでに取り壊さ れ、しかも取り壊されてから本件売買契約までに 年以上の時が経過してい ること、第 に、その一方で、 年間本件土地は更地のまま、建物などが建 築されたり、その他の目的で利用されたりしたという形跡は見られないこと、

第 に、本件土地の存在する地域は、市内でも環境の良い閑静な住宅街とし て人気が高く、専ら居住地域と言えること、第 に、したがってこの地域の、

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特に近隣住民には、本件土地上に存在していた建物での殺人や自殺といった 心理的に嫌悪すべき事実について興味や関心が薄れることなく、今なお記憶 にとどまっていると認められること、等を挙げることができよう。

そして本判決は、以上の事実を踏まえて「マイホーム建築目的で土地の取 得を希望する者が、本件建物内での自殺の事実が近隣住民の記憶に残ってい る状況下において、他の物件があるにもかかわらずあえて本件土地を選択し て取得を希望することは考えにくい以上、Yが本件土地上で過去に自殺が あったとの事実を認識していた場合には、これをXらに説明する義務を負う ものというべきである」と判示しているわけである。

なお、本判決も原判決も、心理的瑕疵としては自殺のみを取り上げ、それ よりも前に起こった殺人の事実を特に重視していない。人の嫌悪すべき歴史 的背景に起因する心理的瑕疵の種類、とりわけその残酷度・影響度の点から 判断すると、自殺よりも殺人のほうが残酷さの程度、社会に対する影響は大 きいように思われるが、これは、人の嫌悪すべき歴史的背景として連続する 心理的瑕疵ではあるが、近隣住民の記憶に残っているという限度で関連性を 有しているにとどまり、本件土地上に建っていた建物に直接かかわるもので はないから、という事情に基づいているということであろう( )

さて、それでは、本判決はどのような理由に基づいてYに説明義務違反あ りと判断したのだろうか。この点については本判決が引用する原判決にその 判示部分がある。それを見てみよう。

すなわち、「本件土地上で過去に自殺があったとの事実は、本件売買契約

( )

ただし、本判決を掲載する判例時報 頁の囲み解説には「近隣住民において、自殺 が社会的耳目を集めた殺人の事実と関連付けて理解され、今なお、近隣住民の記憶するとこ ろとなっている」との指摘もあり、自殺のみで説明義務違反による不法行為損害賠償責任が 判断されたという受けとめ方は必ずしもしていないようにも読める。近隣住民の記憶に残る という考慮要因が重視された本判決においては、なお一定の意味を有しているものと解して よいのではなかろうか。

(15)

を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実であるとともに、締結し てしまった売買契約につき、その効力を解除等によって争うか否かの判断に 重要な影響を及ぼす事実でもあるといえる。」「したがって、宅建業者として 本件売買を仲介したYとしては、本件売買契約締結後であっても、このよう な重要な事実を認識するに至った以上、代金決済や引渡が完了してしまう前 に、これを売買当事者であるXに説明すべき義務があったといえる(宅地建 物取引業法 条 項 号ニ)」とした上で、Yの担当者らは「自殺の事実が 年以上前の出来事であることや、自殺があったとされる建物が取り壊され ており、本件土地が相当以前から更地となっていたことなどから、本件土地 上で過去に自殺事故があったらしいとの事実をXに説明しなければならない 理由はないと考え、これをしなかった」と判示して、YはXらに対して説明 義務違反(不法行為)と相当因果関係のある損害を賠償すべき責任を負うと している。

自殺の事実が、売!!!!!!!!!!!!!の判断に重要な影響を及ぼす 事実であるとともに、い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!の判断に重要な影響を及ぼす事実でもあると捉えている 点は、卓見であり、妥当と言うべきであろう( )

しかし、本件の場合、自殺は 年以上も前の出来事であり、しかもその自 殺があった本件建物はすでに取り壊されて 年以上の長い期間が経過してい るというケースであるだけに、この事実は前述のように判断する際にどのよ うに考慮されたのかが問題となる。

そもそも、殺人や自殺といった心理的に嫌悪すべき歴史的背景に起因する 心理的瑕疵が問題となった多くの事案においては、そのような心理的瑕疵の

( )

この前半部分は、最判平成 年 月 日民集 巻 号 頁を踏襲したものであろう。そう だとすると、本判決は、この最判平成 年の考え方を、契約締結段階だけではなく、その履 行段階にまで拡張したものとして重要な意義を有するものと評し得よう。

(16)

存する目的不動産(この場合は建物)が現に存在し、なおその不動産内の空 間の一部として厳密に特定できる状況にあるということが重要な判断要因の つとされている。土地の売買契約において首吊り自殺のあった建物はすで に取り壊されている事案を扱った大阪高判昭和 年 月 日( )や大阪高判平 成 年 月 日( )等においては、民法 条の瑕疵担保責任がこの点を大き な理由の つとして否定的に解されている。しかし、その一方で、殺人事件 という心理的に極めて嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的瑕疵の存する 建物が殺人事件後 年半の期間経過後に取り壊され、さらにその約半年後に 買主が建売住宅を建設して販売する目的で当該土地を買い受けたというケー スで、販売価格の %の限度で瑕疵担保責任としての損害賠償を認めた大阪 高判平成 年 月 日( )も存在する。

こうして、そこでは、主として買主の「住み心地の良さ」「快適な居住空 間」が確保、維持されていると言えるかどうかという視点から、様々な考慮 要因が洗い出され、それらを総合的、相関的に検討し判断するという枠組み が確立されていると見ることができるわけである。すなわち、❶時間的要因、

( )

判例時報 号 頁。ただし、この事案には、従前から自殺の事実を知った買受希望者が多 数登場していたという事情があった。石松・前掲注( )「心理的欠陥」 頁、同・

前掲注( )「一考察(一)」 頁参照。

( )

判例タイムズ 頁。ただし、この事案には、本件不動産(土地)の購入目的が居住 ではなく新たに建物を建築して売却する目的だったという事情があった。石松・前掲注( )

「心理的欠陥」 頁、同・前掲注( )「一考察(一)」 頁参照。

( )

判例時報 頁、判例タイムズ 頁。ただし、この事案では、殺人事件という 残虐性の強い出来事であること、それに伴う近隣住民からの、殺人事件があったところに住 んでいるという噂、話題や指摘の可能性がなお予測されることが重視されていると言えよう。

石松・前掲注( )「心理的欠陥」 頁、同・前掲注( )「一考察(一)」 頁参照。

なお、心理的に嫌悪すべき歴史的背景(火災による死亡事故)を有する目的不動産(建物)

が取り壊されすでに更地となっている場合においても、 年 ヶ月という比較的に短い時の 経過と、やはり近隣住民の記憶に基づく噂の可能性を考慮に入れて、瑕疵担保責任としての 損害賠償を認めた東京地判平成 年 月 日判例集未登載(LLI/DB 判例秘書 もある。

(17)

❷場所的要因、❸目的物の現状、わけても買主の目的物の利用目的や利用状 況、そして、❹地域性ないし近隣住民の噂、といった重要な考慮要因のうち、

いずれか つが決定的な要因となるのではなく、個々の具体的事案ごとにそ れぞれの個別事情を前提として、これらの考慮要因を総合的、相関的に検討 して最終判断が下されるに至っているということである( )

さて、そこで、本判決の具体的な中味を以上の心理的瑕疵の視点から眺め てみるとどうなるか。そうすると、本判決でも、不動産仲介業者Yの売買契 約締結後における説明義務違反による損害賠償責任の成否の問題について、

心理的瑕疵の場面で考慮されている、❶時間的要因、❷場所的要因、❸目的 物の現状(買主の目的物の利用目的や利用状況)、❹地域性ないし近隣住民 の噂、といった前述の つの考慮要因を基に検討、判断しても特に問題はな いものと評することができるのである。というのは、これまでにも何度か指 摘しているように、本判決においても、自殺のあった本件建物はすでに取り 壊されて本件土地は更地となってはいるものの、居住地域のために自殺の事 実が近隣住民の記憶にとどまり、それについてなお興味、関心が薄れず、本 件建物が建っていた本件土地に関して以前に建っていた建物内で自殺があっ たという話題や指摘、噂などが近隣住民によってなされることが充分に予想 されること、そして、買主Xは小学生の女の子 人を含む家族 名で新たに 建物を建てて居住する目的で本件土地を購入した者であることの、特に 点 を重視して、自殺後 年以上の期間が経過しているにもかかわらず、しかも 自殺のあった建物はすでに取り壊されているにもかかわらず、説明義務違反 による不法行為損害賠償責任を肯定していると解し得るからである。こうし て、本判決ではそのように判断するに際して、特に❸の買主の目的物の利用 目的と❹の近隣住民の噂の つの考慮要因が重要な役割を果たしていると言

( )

以上の点については、石松・前掲注( )「心理的欠陥」 頁以下、同・前掲注( )「一 考察(一)」 頁、同・前掲注( )「一考察(二・完)」 頁以下を参照。

(18)

えるわけであるが、買主が「住み心地の良さ」や「快適な居住空間」を確保、

維持することができるかどうかということを前提に、本件売買契約の効力を 解除等によって争うことができるかどうかという点に関連づけ、自殺の事実 はこの点に重要な影響を及ぼす事実と捉えられているところに特徴を有する 裁判例と評し得よう。

そこで、次に問題となりそうなのが、それでは、瑕疵担保責任としての契 約の解除や損害賠償の請求の当否を論じる際に考慮され得た前述の要因は、

説明義務違反という不法行為による損害賠償責任の成否を判断するに際して、

いったいどのような機能を果たしていると言えるか、という点である。この 問題は、不動産仲介業者の専門家としての責任の視点から検討を試みてみる と、明らかとなるように思われる。

専門家責任の視点( )から

不動産仲介業者の民事責任については、これまで、不動産仲介契約が締結 されている場合における仲介契約上の債務つまり準委任契約上の善管注意義 務の不履行に基づく契約責任(民法 条・ 条)と仲介契約が存在しない 場合における不法行為責任(民法 条)の つが広く論じられてきた( ) しかし、仲介契約が存在する場合であっても不動産仲介業者は仲介契約上の 注意義務とは別の(あるいはこれと並ぶ)義務、例えば、説明義務や報告義 務、調査・確認義務、さらには助言義務や奔走義務といった何らかの義務を 依頼者に対して負うことのあり得ることは容易に推測されるところであった が、果たしてこれらの義務違反に基づく損害賠償の問題を扱った裁判例は実

( )

専門家の責任全般については、川井健編『専門家の責任』(日本評論社・ 年)、専門家責 任研究会編(川井健・代表)『専門家の民事責任〔別冊 NBL 号〕』(商事法務研究会・

年)、平成 ( )年の日本私法学会におけるシンポジウム「専門家の民事責任」『私法 号』(有斐閣・ 年)、「特集・『専門家の責任』法理の課題と展望」のテーマの下で法律時 報 巻 号( 年)に掲載の各論稿や座談会を参照。

(19)

際にも登場するようになり( )、互いに対立、排除し合う関係にあるわけでは ないことが明らかとなった( )

そもそも、不動産取引に関して高度の専門的な知識や情報、経験を有する 不動産仲介業者に対して、不動産仲介契約において本来的に要請されている 契約上の善管注意義務(民法 条、 条)や宅建業法上の誠実義務・説明 義務(宅建業法 条、 条、 条等参照)とは別に(あるいはそれと並ぶ)

高度の注意義務を措定し得るかどうかという点については、素人と専門家と の間には専門的な知識や情報、経験のほかに判断力の点でも偏在や格差、非 対称性があると言われることから、これを一般的に肯認することには異論を

( )

特に不動産仲介業者(宅建業者)の法的責任については、明石三郎=上原洋允=椙征一=岡 本正治=磯野英徳『詳解 宅地建物取引業法〔改訂版〕』(大成出版社・ 年) 頁以下(以 下、明石ほか『詳解』として引用)、明石三郎『不動産仲介契約の研究(再増補)』(一粒社・

年) 頁以下(以下、明石『研究』として引用)のほかに、佐藤良雄「宅地建物取引 業者の注意義務」遠藤浩編(中川善之助=兼子一監修)『不動産法大系 第 巻 売買』(青林 書院新社・ 年) 頁以下、西垣道夫「宅地建物取引業者の取引と不法行為(上)、(中)、

(下)」NBL 号 頁以下、同 号 頁以下、同 号 頁以下(以上、いずれも 年)、

新美育文「専門的職業人の責任」判例タイムズ 号( 年) 頁以下、川村俊雄「不動 産仲介契約」遠藤浩=林良平=水本浩編『現代契約法大系 第 巻 不動産の賃貸借・売買契 約』(有斐閣・ 年) 頁以下、河田貢「不動産仲介業者の責任」塩崎勤編『裁判実務大 系 第 巻 不動産訴訟法』(青林書院・ 年) 頁以下、小島浩「宅地建物取引業者の注 意義務」小川英明=長野益三編『現代民事裁判の課題① 不動産取引』(新日本法規・ 年)

頁以下、工藤祐巌「宅地建物取引主任者の責任」川井編・前掲注( )『専門家の責任』

頁以下等参照。

また、専門家の契約責任と不法行為責任については、特に下森定「専門家の契約責任」川 井健=塩崎勤編『新・裁判実務大系 専門家責任訴訟法』(青林書院・ 年) 頁以下

(なお、同「日本法における『専門家の契約責任』」川井編・前掲注( )『専門家の責任』

頁以下も参照)、および、円谷峻「専門家の不法行為責任」川井=塩崎編『同書』 頁以 下(なお、同「日本法における『専門家の不法行為責任』」川井編・前掲注( )『専門家の 責任』 頁以下も参照)が詳しい。

( )

その代表的なものとして、前掲最判平成 年 月 日を挙げることができよう。なお、東京 地判昭和 年 月 日判例時報 号 頁も参照。

( )

ただし、川村・前掲注( )「不動産仲介契約」 頁、河田・前掲注( )「不動産仲介業 者の責任」 頁等参照。

(20)

見ないであろう( )。しかし問題となるのは、そのような一般的な注意義務の 法的根拠が信義則や専門家に対する社会的な信頼や期待、要請等に求められ ( )結果、その注意義務違反の法的な意味、そして、その前提としての契約 に基づかない一般的な注意義務とはいったい何を指すのか、という当該注意 義務の具体的な内容や程度、範囲( )等が明確となっていなければならないと いうことであり、本件においてもまさにこの点が問題となっていると言える であろう。

そこで、この視点から、本判決の内容を改めて眺めてみることにしよう。

本件においては、まず、不動産仲介業者であるYには、本件売買契約の締 結に先立って、本件土地が殺人や自殺といった心理的瑕疵にまつわる事故物 件であるかどうかについて説明をすべき義務があったのではないか、また、

もしかりに売買契約締結時にYがそのような事実を知らず説明をすべき義務 はなかったとしても、専門家として事前に本件土地が事故物件であるかどう かを調査、確認し、説明すべき義務があったのではないか、という点が問題 となっている。

( )

小島・前掲注( )「宅地建物取引業者の注意義務」 頁、尾島茂樹「前掲最判平成 年に 対する判例解説」中田裕康=潮見佳男=道垣内弘人編『民法判例百選Ⅱ債権[第 版]』(有 斐閣・ 年)特に 頁等参照。ちなみに、東京地判昭和 年 月 日判例タイムズ

頁も参照。

( )

最判昭和 年 月 日民集 巻 号 頁参照。なお、この点に関連して、「専門家のサー ビス提供契約」は契約当事者の非対等性やプロとアマの契約関係に基づき一般の人が専門家 集団に対して一般的に抱く信頼(第一次的な信頼関係)と、当該契約の相手方に対して一方 当事者が抱く具体的な信頼(個人的・主観的な信頼関係)という二重の信頼関係に基礎を置 くところに特徴があるとして、それぞれの段階での注意義務について議論されている下森定 教授の見解は、信義則に基づいて一般的な注意義務を説明するための極めて説得的な考え方 と評してよいのではなかろうか(浦川道太郎=下森定=落合誠一=森島昭夫=小林秀之=山 崎敏彦=潮見佳男=川井健出席「〔座談会〕『専門家の責任』法理の課題」法律時報 巻 号

年) 〜 頁[下森教授の発言]参照)。

( )

なお、調査・確認・告知義務や説明義務等の注意義務の程度や内容について場面ごとに論じ る、新美・西垣・小島・工藤の各論文を参照されたい。

(21)

前者の点について、本判決は、殺人や自殺の事実が本件土地を取得するか 否かの判断に重要な影響を及ぼす事柄であることは認めつつ、本件の場合、

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ではYは本件土地上に建っていた建物において 過去に自殺があったという事実を認識していなかったし、またその認識可能 性も認められない以上、そのような説明義務はもちろんのこと、独自に調査 をしてその調査結果を説明すべき義務を負っていたとまでは言えないとして、

この義務違反に基づく不法行為責任を否定した原判決を踏襲している。つま り、自殺という人の嫌悪すべき心理的瑕疵について売買契約締結時にこれを 知らない不動産仲介業者Yが一般的な説明義務や事前に調査、確認し、説明 すべき義務を負うものではないと解したわけである(不法行為その 、その

)。

しかし、もちろん、売買目的不動産が殺人や自殺といった心理的瑕疵にま つわる事故物件であることについて不動産仲介業者が契

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すでに 認識していたような場合に、それでもなおこの事実を買主に説明すべき義務 を負うものではないと解し得るかというと、この点についての判断は自ずと 異なってくる。殺人や自殺といった人の嫌悪すべき歴史的背景に起因する心 理的瑕疵のある事故物件については、買主の「住み心地の良さ」や「快適な 居住空間」の維持・確保の視点から見ると、人は一般に嫌悪感や不快感、抵 抗感を抱くであろうことは容易に推測できる。心理的瑕疵に関連する過去の 裁判例の多く( )も、かかる心理的瑕疵が単に当該買主においてそのような事 情のあった建物に居住することは好まないであろうというだけでは足りず、

さらに、それが通常一般人において、買主の立場に置かれた場合、そのよう

( )

大阪高判昭和 年 月 日判例時報 号 頁、横浜地判平成元年 月 日判例時報 頁、判例タイムズ 頁、前掲大阪地判平成 年 月 日、前掲大阪高判平成 年 月 日等参照。裁判例の詳細は、石松・前掲注( )「心理的瑕疵」、同・前掲注( )「一 考察(一)」、同・前掲注( )「一考察(二・完)」を参照されたい。

(22)

な事情があれば「住み心地の良さ」を欠き、居住の用に適さないと感ずるこ とに充分な合理性があると判断し得る程度に至っているものであることが必 要であると解することにより、事情を知っていた売主や不動産仲介業者に対 して場合によっては説明義務違反による瑕疵担保責任としての損害賠償責任 を認めており、したがって、その前提としての説明義務の存在を認めている ことになる。

しかし、そのような心理的瑕疵の事実が同様のものであったとしても、買 主の感じ方・受けとめ方にはやはり個人差があり、その結果、それを人が快 適な日常生活を営む上で欠かすことのできない一般的な決定的要因とまでは 必ずしも言えない側面を有しているように思われる( )。そこで、この場合に もなお、個々の事案における個別、具体的な事情、とりわけ殺人や自殺といっ た人の嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的瑕疵の存在について当該契約 の一方当事者である買主がこの事実をどのように受け取るタイプの人物で あったかという人的要因のほかに、そのような事実の発生からそもそもどの くらいの期間が経過しているのかという❶時間的要因、殺人や自殺といった 嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的瑕疵はいったいどこで起こったのか という❷場所的要因、嫌悪すべき心理的瑕疵のあった対象物件が取り壊され て具体的な建物の中の一部の空間という特定を離れて、もはや特定できない 一空間内におけるものに変容しているかどうかという❸目的物の現状、そし て、嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的瑕疵の存在する(あるいは存在 した)対象物件について近隣住民の記憶が薄れることなく、したがって、こ とあるごとにそのような いわくつき の物件であるとの指摘や話題、噂に

( )

栗田哲男「民法判例レビュー ・不動産取引と心理的瑕疵(横浜地判平 ・ ・ 判タ 頁)」判例タイムズ 号( 年) 頁以下、特に 頁、野口恵三「判例に学ぶ No. ・ 自殺者が出たことは当該建物売買契約を解除しうる『隠レタル瑕疵』に当たるか」NBL 号( 年) 頁以下、特に 頁を参照。

参照

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