結び目に沿った矯飾的手術予想について
市原 一裕
(日本大学 文理学部) ∗ 1
斎藤 敏夫 (上越教育大学) ∗2
鄭 仁大
(近畿大学 理工学部) ∗ 3
結び目に沿ったデーン手術とは,与えられた3次元多様体とその中の結び目から「新 しい」3次元多様体を生成する次の操作のことである:その結び目の開管状近傍を取 り除き,ソリッドトーラスを埋め戻す.自明な(つまり埋め戻し方が元と同じ)デーン 手術では元と同じ多様体が得られてしまうが,非自明な手術では「新しい」(すなわち 元の多様体と同相でない)多様体が得られることが期待される.実際,Gordon-Luecke は,有名な結び目補空間予想を解決した論文
[6]
の中で「3次元球面内の非自明な結び 目に沿った任意の非自明なデーン手術は3次元球面を生成しない」ことを示している.この結果の自然な一般化として,次の予想が提起された.
矯飾的手術予想
1 (Cosmetic Surgery Conjecture) ([10, Problem 1.81(A)]):同値で ないスロープに沿った二つのデーン手術は,純矯飾的に成り得ないだろう(つまり,向 きまでこめて同相な多様体の組を生成しないだろう).
ここで,結び目外部空間の境界トーラス上の二つのスロープが同値であるとは,そ の二つを移しあう結び目外部空間の自己同相写像が存在することを言う.
さて矯飾的手術予想の解決に向けて,よく知られている二橋結び目について調べて みると,既に知られている結果から,以下のことがわかる.
命題
1
3次元球面内の9
交点以下の二橋結び目は,結び目表における9 27を除いて,純 矯飾的手術対を許容しない.
これは,矯飾的手術の存在に対して知られている次の2つの制約を用いればわかる.
キャッソン不変量を用いて
Boyer-Lines [3]
によって得られた制約∆ ′′ K (1) = 0(ただし
∆ Kは正規化されたアレキサンダー多項式),及び,ヒーガードフレアホモロジーを
用いてNi-Wu [12]
によって得られた制約τ (K) = 0(ただし τ (K)
はOzsv´ ath-Szab´ o
に
よって定義された結び目のτ-不変量).
これに対して,[9]では,9
27
を含む二橋結び目の無限族について,次を示した.定理
1
正の整数x ≥ 1
に対して,連分数[2x, 2, − 2x, 2x, 2, − 2x]
で表される二橋結び目K xはホモロジー3
球面を生成する純矯飾的手術対を許容しない.
ここで
K 1 = 9 27であり,任意のx ≥ 1
に対して∆ ′′ K
x
(1) = 0
かつτ (K x ) = 0
が成り立 つことも確認できる.なお,この定理の証明の鍵は,[4]によって定義されたSL(2, C )
キャッソン不変量を,[2]の手法を用いてK xについて計算することである.
本研究は科研費
(課題番号:26400100
及び15K04869)
の助成を受けたものである。2010 Mathematics Subject Classification: Primary 57M50; Secondary 57M25, 57M27, 57N10
キーワード:矯飾的デーン手術,SL(2, C )
キャッソン不変量,二橋結び目,バンド手術∗1
e-mail: [email protected]
∗2
e-mail: [email protected]
∗3
e-mail: [email protected]
1一般に
cosmetic surgery
を直訳すると「美容整形手術」となってしまう為,本稿ではこのような用語を使うことにした.
一方で,矯飾的手術予想は,向きに関する仮定を外すと正しくないことが知られて いる.つまり,同値でないスロープに沿った二つのデーン手術で鏡像矯飾的なもの(あ る多様体とその鏡像を生成するもの)は存在する.例えば,
Mathieu [11]
によって,(右 手系)三つ葉結び目が鏡像矯飾的手術対を許容することが示されている.さらに,Bleiler-Hodgson-Weeks [1] によって,S
2 × S 1
内のある双曲結び目が,レン ズ空間L(49, 18)
とその鏡像L(49,19)
を生成する鏡像矯飾的手術対を許容することが示 された.この例は,非常に特殊な対称性を持つ双曲多様体をもとに構成されており,孤 立的な例とも思われた.そこで[1]
では,双曲結び目が双曲多様体を生成する(鏡像)矯飾的手術を許容することはないだろう,という予想も述べられていた.
しかし
[8]
において,この予想の反例を構成することができた.定理
2
ある閉双曲多様体とその鏡像を生成するような,同値でない二つのスロープに 沿った鏡像矯飾的手術対を許容する双曲結び目が存在する.実際,[1]の例からモンテシノス・トリックと呼ばれる方法を用いて得られる結び目
9 27の banding
を調べ,その一般化として,鏡像矯飾的手術対を許容する結び目を具
体的に構成した.その結び目が双曲的であること,及び,生成される多様体が双曲的 であることには,[7]によって開発されたプログラム
hikmot
を用いて,計算機援用証 明を与えた.さらに,その鏡像矯飾的手術対に対応するスロープが同値でないことは,hikmot
をさらに拡張して[5]
で得られたプログラムを用いて証明した.参考文献