• 検索結果がありません。

西欧人の前置語を伴う姓について

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "西欧人の前置語を伴う姓について"

Copied!
22
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

西欧人の前置語を伴 う姓 について

西 澤 秀 正

1

日本人の姓は、賓藤、藤原の如き単一形の姓のみであるが、西欧人の姓は、

Andersen,Hemingwayの如 き単一形のはか、OrtegayGassetl,NoelBaker の如 き複合形の姓、いわゆる複合姓 (1)があ り、 さ らにDeLaMareの如 き前置語を伴う姓がある。複合姓は、原則 としてその複合形の最初の部分か ら 検索された り、あるいは引用されたりするので、その取 り扱いは、 さほどの困 難はない。 しか し複合姓の中には、次に示すように接続詞またはハイフンを用

いずに、複数の姓またはその他の語 (実詞)を併列 した複合姓がある。

BasilHenryLiddellHart,1895‑1970(イギ リスの軍事研究家、第二次世 界大戦史の著あり。)

DavidLloydGeorge,1863‑1945(イギ リスの政治家、平和会議回顧録の著 あり。)

かような形態の複合姓を同定することは、実際には容易で はない。 「オ ック スフォー ド英語辞典」の 「新補遺版」の"prefix"の項 には (2)、 その語 源 に引用 された例文 の出典 の中で、CharlesHenryDouglasToddの著 書

ThePopularWhippet(ロン ドン,PopularDogs,1961年刊)」 を"C.H.D.

Todd:PopularWhippet."の如 く、複合姓 (DouglasTodd)を単一形 の姓 (Toad)として引用されている。 このことは、複合姓の同定が如何に容易でな いかを示唆 している。戦前東京帝国大学附属図書館編さん刊行の 「東京帝国大 学洋書 目録」は、複合姓かどうか同定できない姓を単一形の姓として目録記入

(2)

が作成 された場合には、複合姓 としての形か らも検索できるように、「声 に参照 が作成 されている。 このことも複合姓の同定が容易でないことを物語 るもので あろう。複合姓 については、かようにその同定に容易でない場合があるにせよ、

何れの国の事典、辞書、 目録で も原則 として複合姓の最初の部分か ら検索され る。 これに対 して、前置語を伴 う姓 については、WalterDeLaMare(1873‑

1956,イギ リスの詩人、小説家)の如 く、一見 して前置語 を伴 う姓であ ること は確認で きる。 この点では、複合姓 よりもその取 り扱 いは容易である。その反 面、事典、辞書、 目録類では、その前置語の部分の取 り扱い方が国または言語 によって異 なり、従 って検索される姓の部分の形 に異同が生 じている。 この点 では、投合姓よ りも面倒な姓 と言 うべ きであろう.すなわち前置語を伴 う姓は、

それぞれの国の慣習により、前置語か ら検索 されたり、あるいは前置語 に続 く 姓の基体部分か ら検索 されたりする。 この ことを示す一例 として、カナダの女 流作家 MazoDeLaRoche(1879‑1961)を取 り上 げてみた。 彼女 は、 カ ナタの田園地方 に住む大地主一家を ドラマチ ックに措 きあげた作品によって、

本国において大衆作家 として人気をあげ、 また国際的にも評価を得て、世界各 国にその作品は翻訳 されている。彼女の作品またはその翻訳書を欧米各国の全 国書誌 (NationalBibliography)などでは、彼女の名前がどのよ うに取 り扱 われているかを比較 してみた。彼女の名前、MazoDeLaRocheは、前置語 を伴 う姓を含む名前である。Mazoが名 (forename)、DeLaRocheが前 置語を伴 う姓である。 この前置語は、 フランス語 の前置詞 (preposition) deと定冠詞 (definitearticle)laか ら成 っている。 この前置語 に続 く名前 は Rocheであるが、 フランス語の女性名詞roche(岩)であ り、女性形 の定冠詞la を冠 しているものである。

まず第1に、前置語すべてを姓の基体部分に前置す る形をとるもの、すなわ ち‑

DeLaRoche,Mazoの形をとるもの (ただ し、 前置語DeLaの大文字法 に は、異同がある。)

(3)

イギリス (TheBritishLibrarygeneralcatalogueofprintedbooks.) DeLaRoche(Mazo)

MaryWakefield.London,Macmillan,1949.

ア メ リカ (TheNationalUnionCatalog,Pre1956imprints.Volume 137,p.478)

DeLaRoche,Mazo,1885‑

MaryWakefield.Boston,Little,Brown,1949.

イタ リア (Catalogocumulativedelbolletinodellepubblicazioniltali ani.Volume12,p.319)

DeLaRoche,Mazo.

Finch'sfortune.Verona,A.Mondadori,1947.

ス イ ス (SchweizerBGcherverzeichnis:Re'pertoiredu livresuisse: RepertoriodellibroSvizzero.1971‑1975,p.428)

DelaRoche,Mazo.

MaryWakefield.Lausanne,EditionsRecontre,19

スウェーデン (Svenskbokfarteckning:TheSwedishNationalBibli0 grapby.1974,p.94)

DelaRoche,Mazo.

MaryWakefield.Sthlm.:Bonnier,1974.

ルウェー (Norskbokfortegnelse:TheNorwegianNationalBibli0 graphy.1976,p.84)

DelaRoche,Mazo(kan)

MaryWakefield.〔Oslo〕 :Cappelen,1976.

デンマーク(Danskbogfortegnelse:TheDanishNationalBibliography.

1955‑1959,p.126) delaRoche,Mazo‑

(4)

MaryWakefield.JespersenogPio.〔19〕56.

次に、前置語のうち、冠詞のみ姓の基体部分に前置 し、前置詞は名前 に後置 する形をとるもの、すなわち‑

LaRoche,Mazodeの形をとるもの

フランス (Catalogueg6n昌ral deslivresimprim6sdelaBibliothetque nationale.Tome89,Column 84)

LaRoche(Mazode)

Possession,byMazodeLaRoche.London,Macmillan, 1923.

ド イ ツ (DeutscheBibliographie,FiinfjahresVerzeichnis,1961‑

1965.BncherundKarten.p.4036) LaRoche,Mazode.

MaryWakefield,Roman.1965.

最後に、前置語すべてを名前に後置する形をとるもの、すなわち‑

Roche,.Mazodelaの形をとるもの

スペイン (CatalogogeneraldelaLibreriaEspaaola.1931‑1950. Tomo4,p.84)

Roche(Mazodela)

LafortunadeFinch.Madrid,1945.

オランダ (Brinkman'scatalogusvanboekenentijdschriften.1961 1965.M‑Z.)

Roche,Mazodela.

Finch'sfortuin.'SGravenh.,Servire〔1961

以上のとおり、カナダの女流作家MazoDeLaRocheの姓の取 り扱 いは、

それぞれの国によって三通 りに分かれ、西欧における前置語を伴 う姓の取 り扱 いは、 この3様式に大別される。

わが国の姓名には、印欧語族などに属する西欧の言語の人名 と異なり、前置

(5)

詞 とか冠詞 とかの前置語を伴 う姓 とい う考え方 は全 くなく、 これに対す るわが 国の慣習 もない。併 し、書誌情報の円滑な流通の促進 と国内的、国際的な標準 化を目的 とす る資料 目録法で は、以上 のような名前 の取 り扱いについて は、重 要 な課題 とな っている。

わが国 における最新の標準 目録規則である 「日本目録規則 1987年版 (略称 : NSR1987)」 と米英加豪などの英語圏の標準 目録規則 「英米 目録規則、第2 (Anglo‑AmericanCataloguingRules,2ndedition.略称 :AÅcR 2)」では、前置語を伴 う姓 を如何 ように取 り扱 っているかを比較検討 してみた。

「NCR1987」で は、次 のように規定 している。

西洋人名中の前置語 の扱 いはその著者の国語の慣習 に従 う。 注 :前置語 は、一般 に名のあとにおかれる。 アフ リカー ンズ語、英語、 イタリア語、ルー マニア語 (deを除 く) において は、姓 は前置語か らは じまる。 フランス語、 ド イツ語、 スペイン語 においては、冠詞 または冠詞 と前置詞 の縮約形だけが姓の 前 に置かれ る。』 と規定 し、 その取 り扱い方 の実例 として、

Fド・ゴール,シャルル フォン ・ノイマ ン,ジ ョン ラ ・フォンテーヌ,ジャン ・ド デュ ・ボス,シャルル

ヴァン ・ヴォク ト,アルフ レッ ド』

以上 の5例を挙げている。

次 に、 「AACR2」で は、前置語の取 り扱 いについて、次のように大別 し て規定 されている。

1 わかち書 きされた前置語を伴 う姓 (Surnameswithseparately w'rittenprefixes)

1 冠詞 と前置詞 (Articlesandprepositions) 2 その他 の前置語 (Otherprefixes)

2 姓 と‑イフンで結ばれた、または姓 と腰著 された前置語(Prefixes

(6)

hyphenatedorcombinedwithsurnames)

以上のとお りNCR1987」で取 り扱 う前置語の範囲は、その条文や実例の 5例か ら判断すると、冠詞 と前置詞だけであり、特にその実例か らみると、 こ の冠詞 と前置詞はこれに続 く姓の基体部分 とわかち書 きされているものに限 ら れている。

従 って、「NCR1987」 は前記 AACR2」の第1校第1項 に対応す る規 定である。 さらに、「AACR2」の規則のたて方は、総則 に も匹敵す る条文 の下で、各別 ともいうべき著者の用いる言語の国 ぐにごとに条文 と実例を示 し て規定 した詳細な規則 となっている。 これに対 して、「NCR1987」 は 「AA CR2」の前述の第1頬第1項の規則を総括 して規定 した極めて濃縮された規 則 となっており、 しか も実例 もわずか5例である。

NCR1987」 とAACR2」 との間に、以上のとおり前置語の範囲や規 定の仕方に異同が生 じている。前置語を伴 う姓の前置語を明確に同定するため には、前置語の性格、範囲を明確に理解 している必要がある。そのためには是 非 とも前置語なる用語の意義 と前置語を伴 う姓の由来を検討することが必要で あり、 これが本稿の主題である。次節以降において、 これについて論述 したい。

2 前置語 の意義

本稿でいう前置語なる用語は、前節で引用 した AACR2」の前置語を伴 う姓の規則中で用 いられている"prefix"に対する訳語であり、「NCR1987 で もこの訳語を用いている。前節で も述べたとおり、わが国の人名には印欧語 族などに属す る言語の人名 と異なり、前置詞 とか冠詞 とかの前置語を伴 う姓、

あるいは父称形の前置語を冠する姓などの如 きものは全 くなく、従 って前置語 なる考え方 もない。「日本国語大辞典」にもかような用語 は掲載されていない。

従 ってわが国では誠に馴染みのない用語である。前述のとおり、前置語なる用 語 はprefixの訳語であり、 この訳語の公的な使用は、定かではないが、恐 らく は青年図書館員聯盟 目録法制定委員全編 「日本 目録規則 (NCR)昭和17

(7)

刊」が最初ではないか と考える。

"prefix''なる語は、わが国では、印欧語属などに属する欧米語の文法学 ま たは言語史学におし̲'て、"接頭辞 "と訳 され、呼称 されているが、本稿で論 じ ようとしている "前置語 "には、 もちろん接頭辞の意義 も含まれているが、もっ と広義の ものである「オックスフォー ド英語辞典」及びわが国の英和辞典 に より、"prefix"の語義を調べてみた。「オ ックスフォー ド英語辞典」 には、 次 のように現れている。(3)

1義 は、文法学でいう接頭辞の意味を記 し、次に、第2義 として、

"A titleprefixedtoaperson'sname,asMrDr‥ SirRev.,Ho九, Lord,etc.''と記 している。

同英語辞典の 「新補退版」には、以上の第2義に付加す る意義 として、(4)

̀̀A wordplacedatthebeginnlngOftheregisterednameofapedi geeanimal,esp.adog,toindicatetheestablishmentinwhichitwas bred."と記 している。

オ ックスフォー ドの本版では、第1義の接頭辞のはか、第2義 として人名の 前に置かれるタイ トル (title)すなわち、敬称、肩書 き、名称等 と記 している が、その新補退版では、以上 に示 した人名の外に動物の名前、特に犬の登録名 の前 に置かれる語を も、prefixの第2義 に加えると記 している。すなわち 「オッ クスフォー ド英語辞典」では、人名、動物名を問わず、名前の前 に置かれる語 を指 しているようである。

次 に、「研究社新英和大辞典」及び 「小学館 ランダム ・ハ ウス英和辞典」 の 語義をみると、両者 とも第1義 として、 "〔文法〕接頭辞 "と記 し、第2義 と して、前者 は "氏名の前 につ ける敬称 ≪例えばSirMr.,Dr.など診"と、 後 者は "前 につけるもの、初めに置 くもの (人名の前 につける敬称など) "と、

それぞれ記 している。本稿で論述を試みようとしている前置語は、以上の第1 義及 び第2義 ともに包含する広義の意味の用語である。

研究社の辞典 に記 されている "氏名の前につける敬称 "の如 き、敬称 と限定

(8)

した もの とは異 なるものである。 ランダム ・ハ ウスの辞典 に記 されて いる

"〔人名の〕前につけるもの、初めに置 くもの "の記述は抽象的ではあるが、

ここでいう前置語の意義に最 も近似 している。

革3 前 置語 を伴 う姓 の由来

西欧人の前置語を伴 う姓を明確に同定 し、かつその前置語の範Bflを確定する ためには、西欧人の前置語を伴 う姓の由来を検討する必要があり、 このことは 必然的に、 さらに進んで西欧人の姓の起源出所を調べることとなる。姓を起源 出所 によって類別すると、大体次の4種規になると言われている0

1群 父または祖先の名か ら由来するもの

2群 居住の地名または居住の場所の地形的特徴か ら由来するもの 3群 職業または官職か ら由来するもの

4群 締名、主 として身体の属性、性格などか ら由来するもの

以上の区分は、大体定説 となっている。学者によりさらに、細分 して、以上 の区分より多 くの群に分けている場合 もある。

イギ リスの英語学者、 フランス語学者ErnestWeekley (1865‑1954)によ ると、姓の起源について (5)

̀̀姓は大別 して四つの種類に分けられるが、多い順 にあげると、場所、洗礼 名、職務、締名に、それぞれ起源をもつ ものとなる。"と述べている。Weekley のいう"場所 "は前述の姓の起源の第2群、 "洗礼名 "は第1群、 "職務 "は 3群、"緯名 "は第4群に属するものである。

古代 ローマ時代には、氏族 (gens)または家族が真の本体であり、真の生活 体であって、個人 はその不可分の肢体に過 ぎなか った。従 ってローマ時代には、

民族名 (Nomen)、家名 (Cognomen)が発達 し、最 も重要なものと信 じられ た。 これに反 して個人名 (Prenomen)は重要でなく、普通頭字1字 あるいは

2字で書かれていた.かの有名なローマの将軍、政治家、歴史家の シーザー

(「シーザー」 は英語式発音、 ラテ ン語式 には 「カエサル」)の名前 はGaius 172

(9)

JuliusCaesar(100‑44BC)であり、Gaiusが個人名、Juliusが民族名、Caesar が家名である.普通JuliusCaesar といわれ、Caesarか ら検索 され、 また は記 入 される。

これに対 して中世紀の社会では、中世紀後半 に至 るまで、真実の名は個人名 または洗礼名で、家名 はかな り後れて発達 した ものである。それ故個人名、主 として洗礼名が基本の名 とな り、長 い間唯一の名で もあった。従 って中世紀の 名前 は、次 に挙 げる名前の如 く、個人名か ら検索 され、 また記入されるわけで ある。ThomasAquinas(1225‑1274)

Thomas

a

Kempis(cl380‑1471) LaonardodaVinci(1452‑1519)

イタリアの神学者、哲学者 トマス ・アクィナスは、ナポリに近いロッカ ・セ ッ カ城でアクィノの領主の子 として生 まれた。 ドイツの神秘思想家 トマス ・ア ・ ケ ンビスは、 ライン河畔のケ ンペ ンで生 まれた。 イタリア ・ルネサ ンスを代表 とす る画家、建築家、 自然科学者 レオナル ド・ダ ・ヴィンチはフィレンツェ近 郊のヴィンチ村で生 まれた。三者を日本式 に呼称すれば、アクィノ伯家の トマ ス、 ケンペ ンの トマス、 ヴィンチ村 のレオナル ドというところであろう。

しかるに、中世紀 の後半期に入 ると、各地に家名、姓の発生をみるに至 り、

漸 くこれが基本的な名前 となった。従 って、かような名前の保持者については、

この家名、姓で検索 され、あるいは記入 されるわけである。

前例のAquinas

, a

Kempis,またはdaVinciは、個人名Thomas,Leonardo 添名 (byname)であり、各個人を同定す る必要か ら生 じた ものであ り、 個人 名 と同様、 その個人限 りの ものであ り、世襲の家名、姓 とは本質的に異なるも のである。 この添名 は、初めは自称 または他称 による縛名的なものであって、

ほんの一時的な ものか ら発生 したものである。 この添名が、やがて子孫 に継承 される風習が起 きて きて、ついに世襲の家名、姓 となってい くのである。 この 過渡期の名前の保持者 には、個人名 もしくは添名または姓の両様の名前か ら、

事典、辞書頬に現れている場合があ り、或 は 「・と称す る」または 「と言われ

(10)

る」の意のdictus(ラテン語)、genannt(ドイツ語)、またはknownas( 請)なる語が挿入 されて表示されている場合 もある。例えば前掲 のLeonardo divinciは、ほとんどの事典などは、個人名 または添名か ら現れているが、

事典により、特に欧州大陸系の ものは、次の如 く表示されているものがある。

Leonardo,genanntdaVinci(6) Vinci(dieL6onardde)(注 7)

またカ ン夕べ リ大寺院の大司教 トマス ・ア ・ベケット(1118?‑1170)は、

Thomas,knownasThomas

a

Becket(8) と記されている。

世襲の家名、姓の発生は、中世の封建制度の確立 と密接な関係がある。封建 制度社会の特色は数多の階層か ら成立 していると同時に、すべてが世襲制度に よっておおわれていた。領主は土地をあだか も私有財産の如 く子孫に相伝 した。

この世襲制皮 は職業などにも及び、特権階級は世襲 している土地や官職または 職業の名前 によって呼ばれ、 この名前がやがて世襲 されて家名 となった。一般 の庶民階級 も、人 口が増加 し、さらに交通 も頻繁 となり、それぞれの個人を同 定するためには、前述の何 らかの添名が必要 となり、 これが世襲されて家名と なった。

前述のWeekleyによると (9)、イギ リスの中世紀の古記掛 こは、 4種類 の名前が見 られると述べて、次の例を挙げている。

(I) JohnfiliusSimon (2)William delaMoor (3)RichardleSpiceT (4)RobertleLong

以上の4種類の名前 は、世襲の家名、姓が確立以前の庶民階級の添名を伴っ た個人名である。 これ らの名前を種種の視点か ら検討 してみたい。まず第1に、

それぞれの個人名の添名を類別 してみると、

(1) JohnfiliusSimonの添名filiusSimonは父の名か ら名付けられた もの

(11)

(2)William delaMoorの添名delaMoorは居住 の場所 の地形的特徴か ら名付けられたもの

(3)RichardleSpicerの添名leSpicerは職業から名付けられたもの (4)RobertleLongの添名leLongは身体的特徴か ら名付 けられたもの 以上の4種類に頬別 され、 当然なが ら前述のWeekleyの姓の分掛 こおける

"洗礼名、 場所、職務、締名 "に対応 しているものである。

個人名についてみると、

Weekleyの挙げているJohn、William、Richard、RobertのはかにHenry 加えた五つの個人名 は、中世紀末におけるイギ リスの名前の過半数を占めてい たが、 このことは、前述の事情に加えて、中世社会の基本的名前である個人名、

主 として洗礼名のほかに、添名なる形態の名前の発生の必然性があったわけで ある。

Weekley4種類の名前を概観 してみると、

フランス語、いわゆるアングロ ・フレンチの影響、すなわち中英語の特徴を 次のとおり色濃 く示 している。

(1)JohnfiliusSimonJohn及びSimonはキ リス ト十二使徒の ヨ‑ネ、

シモ ンか ら由来す るキ リス ト教 の洗礼名 で あ り、 (2)William、 (3) Richardび(4)Robertは何れも、 ノルマ ン人の個人名から借入された も のである。このように、ノルマン人の名前が急速 に従来の英語の名にとっ て代わると同時に、また同 じ個人名を繰 り返 し用いるノルマン人の命名法 も導入された。 この命名法の慣習は、個人名の選名源を限りなく減少させ、

人口の増加と相まって、添名の使用を加速 させた。

(1)の添名のfiliusSimonfiliusはラテン語で、英語のsonの意であ り、

現代のフランス語ではfilsである.古 フランス語ではfizであり、アングロ ・ フレンチではfitzとして借入 された.従 って(1)の名前 は、「Simonの子 John」の意であり、父祖名 に由来する名前で、第4節で後述す るいわゆ

る父称 (patronymics)に由来す るものである。

175

(12)

filiusSimonなる父称形は、やがてFitzSimon,FitzSimonまたはFitzsi monとなり、父祖の個人名に腰著されて1語 として表示 され るよ うに

なった。現在次に示すような英米人の父称に由来する姓の1種頬 として存 在 している。

EdwardFitzGerald(1809‑1883)

英国の詩人、彼 の最高傑作"TheRubaiyatofOmarKhayyam"の 著あり。

F.ScottFitzgerald(1896‑1940) 米国の小説家

㊤ (1)の父称形の添名及び(2)、(3)、(4)の広義の締名的添名 は、固有名詞であ る個人名の後に置かれ、さらに個人名に付加 される修飾語的な名称には、

フランス語のle、laの定冠詞を伴い、また場所をあらわす添名 には、 フラ ンス語の前置詞deを伴 っていることが大 きな特徴 となっている。

㊨ (2)の添名delaMoorは、場所に由来する添名であるが、 この添名 は次 の如 く2種に分けられる。

1.村、町などの地名に由来するもの

2.丘、岡、森などの地形的特徴に由来するもの

前者に属す るものは、貴族の場合にはこの地名はフランス語の前置詞de を冠 して領地を示 したものがある。 この名前を世襲姓 としている末商がそ の姓によって名門の出であることを誇示 し、または時には僧称 している場 合 も生 じている。 この前置語deは次に続 く名前にアポス トロフを用いて結 合 されたり、または完全に腰着されている場合が多い.

後者に属するものは、Hill,Woodなどに居住 していたとか、あるいは、

その近 くに居住 していたとかによるものであ る。MoorまたはMooreもこ の部類であり、(2)delaMoorは、 この部類の添名である.従 って、(2) 名前は、「ヒースなどの各種の小低木の生い茂 った荒野 に住むまたはその 近傍に住むWilliam」の意であり、エ ミリ・プロンテ作 「嵐が丘」の小説

(13)

に出て くるイングランド北部に見 られる荒涼たる原野の情景を うかがわせ るものである。

⑳ (3)の添名leSpicerは、職業に由来するもので、「香料商」 の意で あ り、

従 って(3)は 「香料商のRichard」の意である。 このSpicerspiceは中英語 期におけるフランス語か らの借入語であ る。 か よ うに中英語 にはspice ほかに食物 に関する語cinnamon、mustard、vinegarの如 き、 フラ ンス語 か らの借入語が多 く見 られる。

㊦ (4)の添名leLongは 「ノッポ」の意である。Longはフランス語か らの借 入語であり、「ノッボのRobert」の意である。

4 姓 の分類 と前 置語 を伴 う姓

前置語を伴 う姓を明確 に同定するためには、'その前置語の性格、範囲を的確 に把握する必要がある。 その手始めに、第2節において、前置語の もつ意義を 検討 した。続いて第3節 において、前置語を伴 う姓の性格、範囲を明確 にす る 手立てとして、前置語を伴 う姓の淵源を探る必要があり、そのために西欧人の 姓の歴史を辿 り、さ らに進んで世襲姓の源 となった中世紀の個人名の添名の検 討を行 った。Weekleyが中世の古記録か ら取 り上げた4種類の名前を例証 に用 いてその性格、種規を述べ、さ らにこの4種板の名前に対す る個人名の添名が 子孫 に継承 されるようになって、近代姓の発生をみるに至 った経過を前節 にお いて述べたわけである。前節で述べたとおり、 この添名の中に、既 に現代の前 置語を伴 う姓の前置語の姿をみることができる。すなわちdelaMoordela leSpicerのle、leLongのleが示す とお り、近代姓 に伴 う前置語 に相当す るも

のが発生 している。

もちろん本稿で例証に取 り上 げたWeekleyの名前 は、すべて中世紀 のイギ リ ス人 の名前であり、 アングロ ・フレンチの影響を強 く受 けていた ものであるこ とは、前述のとおりであるが、13世紀初頭に英語が復権 し、 イギ リス人のフラ ンス語能力の低下 と復権後の英語の影響を受 けて、 アングロ ・フレンチ由来の

(14)

前置語 は脱落 し、Moor、Spicer、Longの如 き姓へと発展 した。また一方では、

Weekleyの名前には、挙げられていないが、例 えばdelaMoorに矯す る居住 の場所の地形的特徴を示す添名は、英語の復権後、atthe(但 し、theth thorn文字を使用)の同化によるatteをアングロ ・フレンチ由来の前置語にとっ て代わ り、さらに、 このatteは名前の基体部分に謬著 されて近代姓 となった も のもある。全英的に最 も権威のある 「大英伝記大辞典 (Thedictionaryof nationalbiography)」には、以上のことを示す好個の事例の名前が、 次例の 如 く掲載されている。(10)

1 Atwell,Hugh(d.1621)

2

HughAtwellの姓Atwell、AttawelまたはAttewellとも記 さ れている。恐 らくはAtteなる前置語を伴 う添名 または姓 のAtte Wellが、一語に屡著されてAttewellとなり、続 いてAttawelと変 化 し、ついにAtwellと変化 した ものと考え られ る。 この姓の父 祖は、泉、源池または井の頭に居住またはその近傍に居住 してい たことをうかがわせるもので、前述の姓の分校の第2群に属する

ものである。

Attwood,Thomas(1765‑1838) Atwater,William (1440‑1521)

1の姓 と同頬のものである. これについて、Weekleyは次の 如 く、(荏ll)

居住場所に由来する姓には、前置詞が含まれていることが多 い。例えば、Atwood(ア トウッ ド、atwood̀̀森で ")、Under hill(アンダヒル、underhill"丘の麓で ") などである。 また 時には、冠詞が含 まれていることもある。例えば、Atterbury (ア夕べ リ、atthebury(‑burg)"町で "‑」

と、述べている。

Weekleyの挙げるAtwoodatwoodか ら由来するものと、‑

(15)

概 に断定できない。例1にも見 られるが如 く、attheの同化によ attewoodか ら由来 したものか もしれない。Atterburyは明 ら かに例1と同類のものである。

これに対 して、欧州大陸におけるロマンス詩語、ゲルマン詩語などの名前で は、前置詞、冠詞を伴 う添名 また は姓 の習慣 は、 そのまま存続 し、例えば、

NCR1987」の実例に挙げられているJeandeLaFontaine、CharlesDuBos の如 き、近代姓の中に多数見 られる。現在英米人の姓にも多数の前置語妄伴 う 姓が見 られるが、父称を示す前置語である接頭辞のものを除き、例えば NC R1987」の実例 に挙げられているJohnYonNellmann、AlfredEltonVan Vogtの如 き前置語を伴 う姓の保持者は、父祖または本人が英米 に帰化 した者

と考えられる。

次に、前置語を伴 う姓の前置語の性格、範囲を結論づけるために、「AAC R2」またはNCR1987」で取 り扱 う前置語 と第3節で述べた姓の起源出所 による分類 との関係について述べ ることにする。

AACR2」の前述の第1頬第1項 (冠詞 と前置詞)にいう前置語を伴 う 姓 とは、第3節で述べた姓の分類の第2群、第3群及び第4群に属する姓で、

かつ前置語を保有 している姓 と解釈すべきである。次に、「AACR2」第1 類第2項 (その他の前置語)にいう前置語を伴 う姓 とは、姓の分頬の第1群に 属する姓で、かつ前置語をもって父称を示 した姓 と定義付けるべきである。併 AACR2」では、実際には、父称以外の前置語 も含めている。 このこと については後述する。また AACR2」第 1類第1項の前置語は前置詞 と冠 詞または前置詞 と冠詞の縮約形であるが、 この前置詞 と冠詞は、姓の基体部分 に腰著される傾向があることが、その特徴である. このようにして腰著された ものは、「AACR2」の第2頬に規定されている。例えば、第1節 (序説) で述べたMazoDeLaRocheの前置語を伴 う姓DeLaRocheは、 フランスの 画家、PaulDelaroche(1797‑1856)の姓で は、前置詞 と冠詞が姓の基体部 分に腰著されて、 1語になっている。

参照

関連したドキュメント

長尾氏は『通俗三国志』の訳文について、俗語をどのように訳しているか

に関して言 えば, は つのリー群の組 によって等質空間として表すこと はできないが, つのリー群の組 を用いればクリフォード・クラ イン形

 食品事業では、「収益認識に関する会計基準」等の適用に伴い、代理人として行われる取引について売上高を純

なお、保育所についてはもう一つの視点として、横軸を「園児一人あたりの芝生

という熟語が取り上げられています。 26 ページ

② 入力にあたっては、氏名カナ(半角、姓と名の間も半角で1マス空け) 、氏名漢 字(全角、姓と名の間も全角で1マス空け)、生年月日(大正は

黒い、太く示しているところが敷地の区域という形になります。区域としては、中央のほう に A、B 街区、そして北側のほうに C、D、E

第一の場合については︑同院はいわゆる留保付き合憲の手法を使い︑適用領域を限定した︒それに従うと︑将来に