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章 非リーマン等質空間の不連

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(1)

非リーマン等質空間の不連続群論

½

章 非リーマン等質空間の不連

続群論

(2)

まずキーワードを直感的に述べてみることにする.「同じ形」の「タイル」

で「敷き詰め」られた空間を思い浮かべてみよう.そこでは,

 「敷き詰め方」を表す代数構造が不連続群,

  個 個の「タイル」がクリフォード・クライン形,

 空間における「同じ形」という概念を規定するのが幾何構造

にあたる.従来のリーマン幾何での枠組みを超えた世界で,空間の局所的な 幾何構造と大域的な構造不連続群が織りなす新しい物語の序章を書き留め たい.

この論説で扱うクリフォード・クライン形とは,等質空間 を離散群 で割って得られる多様体である. を で割った次元トーラスや,ポ アンカレ平面をフックス群で割ったリーマン面はその典型例である.

がリーマン多様体であり,その等長変換群の等質空間となっている場合

上の二例はそうなっているのクリフォード・クライン形は,昔から多くの分 野にまたがって研究されており,離散群そのものを研究の対象とする場合の みならず,数論や複素関数論や数理物理などが活躍する舞台ともなっている.

もっと一般の場合として, 上にリーマン計量以外の幾何構造が定義され,

がその自己同型群の等質空間であるという状況を考えよう.この場合 のクリフォード・クライン形については,一般論としての研究が始まったの は,わずか 年あまり前のことである.現在,いくつかの基本的な問題が解 明されたことによって,次の未知なる世界が垣間見えてきたように思う.そ の先にはさらに,擬リーマン幾何における局所から大域への理論の つのモ デルとしての役割が期待できるかも知れない.また,高次元でのタイヒミュ ラー空間論やユニタリ表現論や保型形式の整数論を巻き込むものかも知れな い.このような事情が,『 世紀への挑戦』のテーマとして,「非リーマン等質 空間の不連続群」を選んだ つの理由である.

そもそも, の幾何構造としてリーマン計量以外のものを考えると,離散 群で割った空間 の商位相はハウスドルフになるとは限らず,これが 大きなハードルとなる.従って,たとえに離散部分群が豊富に存在したと しても, の不連続群(定義 は乏しいということがありうる.大まか にいえば,非リーマン等質空間の不連続群,あるいはそのクリフォード・ク ライン形の研究は,

(3)

非リーマン等質空間の不連続群論

離散群そのものの研究+離散群の作用の研究 のつから成り立っているといえる.

たとえば,「コンパクトなクリフォード・クライン形をもつ非リーマン等質 空間を決定せよ」という問題においては,後者の「離散群の作用」が重要に なる. 年代に入ってから,異なる分野の専門家たちが,さまざまな観点 と手法から,この問題に参入し始めたが,これまでに用いられた研究手法は,

リー群論や離散群論だけでなく,特性類,シンプレクティック幾何,エルゴー ド理論,ユニタリ表現論…など既に多岐にわたっており,この新しい研究領 域のふところの深さを示唆しているように思われる.

Ü

はじめに

集合が, 級多様体と群の構造をかねそなえており,さらに群演算

級写像になっているとき,をリー群という.

年という節目の年に,ヒルベルトは世紀の数学の進歩に役立つと 考えた個の問題を提起した.その つとして,リーの変換 群論の基礎づけを問題にしたのが「ヒルベルトの第問題」である.それは,

変換群論における微分可能性の仮定が本質的なのか,あるいは議論の技術的 な要請のために付け加えているだけで本来は不必要なものなのかを問うもの であった. 年フォン・ノイマンによって,この問題はより精密な形で定 式化され ,さらに,グリーソン,モンゴメリ,ジッピン,山辺英彦らに よって 年ごろに肯定的に解決された.一言でいうと,リー群を定義す るにあたって 実解析的に置き換えても実質的に は同じ概念が得られるというのがその主定理である.

アーベル群 ,円 ,一般線型群 など は,リー群の例である.リー群論やその表現論は,世紀全体にわたって微 分幾何,関数解析,トポロジー,数論,微分方程式,代数幾何などの分野と さまざまな相互作用をひき起こしながら発展してきた.そこには,

   コンパクト群   非コンパクト群 

(4)

   有限次元表現    無限次元表現    リーマン多様体  擬リーマン多様体

という大きな流れがあった.それらは単なる一般化ではなく,新たな困難を 克服するにあたって手法の質的な変革ときには,代数的なアプローチが解 析的なものにかえる,あるいはその逆に,というほどのをもたらすもので もあった.

この論説は,つのリー群の組から生ずる幾何をテーマとする.

より正確にはは共にの閉部分群であり,は離散群である.固定 部分群がコンパクトとは限らないという一般的な状況で生ずる新しい現象 や未解決問題に力点をおいてクリフォード・クライン形 にまつわる 最前線の話題を解説しよう.

クリフォード・クライン形を考える手始めに,以下は,がコンパクト になる古典的な例であるが 向きづけ可能な閉曲面 を考えてみよう.よ く知られている閉曲面の分類定理によれば, は, 球面 トーラ ス,種数 の閉曲面 のうちのどれか一つに同相である.この 種類の中で は,直積 の形でリー群の構造を入れることができ る.一方, にはリー群の構造を入れることができない.しかしな がら にも対称性がある.まず, に関して言えば,特殊直 交群 は回転群として に作用し,この作用は推移的である.従っ て,つのリー群の組 を用いれば, は等質 空間 として表示することができる.次に

に関して言 えば,つのリー群の組によって等質空間として表すこと はできないが,つのリー群の組を用いればクリフォード・クラ イン形 定義 を参照として表すことができる.具体的には,

を参照 とすればよい.このように,つのリー群の組を用いれば,両側 剰余類 として表示することのできる多様体の例は大きく拡がるも ちろん,群多様体はの場合に相当し,等質空間はの 場合に相当する.さらに,閉曲面つのリー群を用いて

と表示することによって離散群によって統制される位相 構造と,複素構造,リーマン構造などポアンカレ上半平面 から誘導さ

(5)

非リーマン等質空間の不連続群論

れる上の幾何構造を分離して理解することができる.この例でも分かる ように,クリフォード・クライン形 の研究は,連結な群の組 によって統制される局所的な幾何構造と,離散群により統制される大域的 な位相構造の両方が自然な形で関与する.

最初に,いくつかの基本的な用語を準備しておこう.まず,離散群が 連続に位相空間 に作用しているという設定を考える. の部分集合 に 対して,の部分集合を

と定義する.

■ 定義 の への作用は,その作用の性質によって次のような名称 が付けられている.

の任意のコンパクト集合 に対してが有限となるとき,真性不連 続な作用あるいは固有不連続な作用であるという.

任意の に対してにおける固定部分群

となるとき,

自由な作用または固定点を持たない作用であるという.

さて,群が集合 に作用しているとき,つまり,

となる が存在する

という同値関係によって定まる の同値類のなす集合を と書く.

は における軌道全体のなす集合とみなすこともできるので,軌 道空間と呼ばれる.さらに, が位相空間ならば, には, の位相か ら誘導した位相商位相を入れることができる.

次のよく知られた補題を見れば,定義 の意義は自ずと明らかにな ろう.

■ 補題 離散群 級,リーマン,複素,多様体 に連続 に滑らかに,等長的に,双正則に,作用しているとする. の作用が 真性不連続かつ自由ならば, はハウスドルフ位相空間になり,しかも

(6)

が局所同相微分同相,等長,双正則,になるような多様体の構造をいれ ることができる さらにこのような多様体の構造はただ一通りである.

をリー群としをその閉部分群とする.すると右剰余類の空間 は商位相でハウスドルフであり,多様体の構造は

級写像になるようにただ一つ定まる.は,等質空間,あるいは 等質多様体とよばれる.

次にの離散部分群とする.は,等質空間に左から滑らか に作用するので,特にの部分群も等質空間に滑らかに作用する.

軌道空間 は,両側剰余類の空間 と自然に同一視できる.

ここで

なる が存在する という同値関係で定義されるの同値類の集合のことである.

■ 定義 に真性不連続かつ自由に作用するとき, の不連続群という.の不連続群ならば,補題 により,両側剰 余類の空間 は, が局所微分同相になるような 級多様体の構造を持つ.このようにして得られた多様体 の クリフォード・クライン形と呼ばれる.

クリフォード・クライン形の例をいくつか挙げよう.

■ 例

とする.このとき,クリフォード・クライン 形 次元トーラス に微分同相なコンパクト多様体 になる.

列の上三角実行列

で,対角成分

であ

(7)

非リーマン等質空間の不連続群論

るような行列全体のなすリー群を とする.は単連結な冪零リー群であ る.の部分群 として

すべてのに対して

と定義されるものを考えよう.するとの離散部分群であり,

なので明らかにへの作用は真性不連続かつ自由である.得られたクリ フォード・クライン形 はコンパクト多様体である.

とする.このとき,クリフォー ド・クライン形 は非コンパクト多様体となる.のとき,次 元多様体

は,下図のように 内の三つ葉結び目の補集合と同相になるこのことの説 明は,例えばミルナーの著書ページにあるクィレンの証明を参照 されたい

¿

三つ葉結び目

とすると,等質空間は,上半平面

と双正則同型である.さらにをねじれ元がなく,の中で余コンパクトな 離散部分群とすると,クリフォード・クライン形 は,種数 の 閉リーマン面になる参照

の任意の非コンパクトな閉部分群とする.この とき, の不連続群は有限群に限るこれは,!節や例で後述する カラビ・マルクス現象の 例である

部分群がコンパクトならば,の離散部分群のへの作用は自

(8)

動的に真性不連続になる.しかし,が非コンパクトならば,離散部分群の 作用は 真性不連続になるとは限らない.実際,両側剰余類 の商位相 はハウスドルフにならないことがある.一般に,リー群とその閉部分群 が与えられたとき,等質空間には無限位数の不連続群が存在すること もあれば,存在しないこともある.すなわち,等質空間 のクリフォー ド・クライン形がどれ位豊富に存在するかは,リー群の組によって 著しく異なるのである.現在,等質空間のクリフォード・クライン形 に関して,まだ解かれていない基本的な問題がたくさんある例えば,最近 の概説論文"の最後の章に挙げられた 個の未解決問題を参照

この論説では,等質空間に対する不連続群に関する未解決問題のうち,最 も重要だと考えられる問題をつ取り上げることにしよう.

■ 未解決問題真性不連続性の判定条件 離散部分群が等質空間 に真性不連続に作用するかどうかを判定する効果的な方法を見つけよ.

■ 未解決問題 コンパクトなクリフォード・クライン形の存在問題 コ ンパクトなクリフォード・クライン形 が存在するのはいつか# その ような等質空間をすべて決定せよ.

■ 未解決問題 体積有限のクリフォード・クライン形の存在問題 体積 有限のクリフォード・クライン形 が存在するのはいつか# そのよう な等質空間をすべて決定せよ.

■ 未解決問題 不連続群の変形 モジュライ 等質空間 の不連続 群の変形を記述せよ.

この論説で我々が対象としているのは,が非コンパクトであるときの 等質空間に対する問題$%である 一方,がコンパクトである ときには問題$%は非常に古くから良く研究されている.第 節を終える にあたって,がコンパクトのときの古典的結果を手短かに復習することに

(9)

非リーマン等質空間の不連続群論 する.

最初に,がコンパクトのときは,問題 $の解は簡単である.

問題 の答がコンパクトの場合 がコンパクトならば,のいかな る離散群もに真性不連続に作用する.

この主張自身の証明はほぼ明らかである.がコンパクトであるときとそ うでないときとの違いは簡単であるが,!で後述する一般的な枠組みを用いると,一層明瞭になるであろう.

次に,を簡約リー群定義は 参照とし,の極大コンパクト 部分群とする. はその典型的な例である.こ のとき,等質空間には,不変なリーマン計量が存在する.リーマン 多様体はリーマン対称空間と呼ばれる.この設定のもとで,上記の問 題&%を考えてみよう.

問題 の答がコンパクトの場合 !年代初頭,算術的部分群の理論

!を基盤として,ボレル"は,任意のリーマン対称空間に対 し,そのコンパクトなクリフォード・クライン形が常に存在することを証明 した.さらに,が非コンパクト半単純リー群ならば,体積有限でありしか も非コンパクトなクリフォード・クライン形 も常に存在するという ことも知られている.

問題 の答がコンパクトの場合 セルバーグ・ヴェイユの局所剛性定 理! によれば,既約なリーマン対称空間 のコンパクトクリ フォード・クライン形は,がポアンカレ上半平面である場合を除いて 局所剛性定義参照であるなお,局所剛性定理は,後にモストウ,マ ルグリス,ジンマー等によって,さらに強い形の剛性定理へと拡張された. 換言すれば がコンパクトかつ が既約な対称空間の場合には,コン パクトクリフォード・クライン形 の非自明な変形は,次 元のとき,すなわち

のときのみ可能である.この場 合,クリフォード・クライン形の変形は,可微分多様体の複素構造の変 形に対応する.複素構造の同値類の全体はリーマン面のモジュライと呼ばれ,

数学の中で伝統的に重要な話題の一つであるというだけでなく,弦理論や共 形場理論など数理物理においても近年頻繁に現れている.

(10)

がコンパクトでないときは,つのリー群の組が特別な場合に 対してでさえも,これらの問題を解くのは難しいことが多い.一般の等質空 間に対してこのような問題意識が提起されたのは比較的最近 のことである 年代に入って,数学の様々な分野の手法を用 いて,いくつかの特別な場合にこれらの問題が解かれた.クリフォード・ク ライン形の存在問題を解くために用いられたさまざまな分野の手法が互いに どのようにかかわりあっているか,今の所,はっきりとはわからない.その 理解は将来の課題である.この論説では第節でウォーミングアップをした あと,第節,節,節で順に問題$&%の定式化やその背景および,

現在どのような手法でどこまでわかっているかを具体例とともに説明しよう.

Ü

クリフォード・クライン形における幾何構造

等質空間上に 不変な幾何構造例えば,複素構造,擬リーマン 構造,共形構造,シンプレクティック構造などがあれば同じ幾何構造が被 覆写像

を通して,クリフォード・クライン形 にもそのまま受け継がれる.

良く知られているように,等質空間上の不変な幾何構造は次の基本 原理によって与えることができる:まず,における接空間

上の不変なテンソルをとり,それをの作用で移動する.の作用 で移動したときに,移動の仕方によらずに定義できるために,出発点のテン ソルの不変性を使うのである.こうして得られた上の幾何構造は自 動的に不変となる.ここで, とは,それぞれのリー環である.

簡約線型リー群,つまり,の連結成分は高々有限個であり,

,すなわち がすべての に対して成り立つような

の閉部分群として実現される場合を考えよう.以下の古典群

などは簡約線型リー群の典型例である.

■ 例

(11)

非リーマン等質空間の不連続群論

擬リーマン構造 まず対称双線型形式

!'()* !

を考える

+

対称行列

交代行列

とおくと,双線型形式 は+ 上で正定値であり,上で負定 値である.さらに,+ は に関して直交しているので,

の符号は

, + ,

-

となる.次に は を満たす の部分空間であるから, を に制限した双線型写像 も非退化である. の符号は

", "となる.ここで,

", +

とおいた.

を満たすとき,等質空間 を簡約型と呼ぶ. かつ

ならば,対称双線型形式 を に制限したときいず れも非退化であるので,商空間 上に非退化双線型形式 .が誘導される.

このとき

.

不変となる.そこで, における接空間と同 一視し,. で左移動すると, に擬リーマン計量定義は!参 照をいれることができる.実際,.不変なので,.移動は矛盾 なく定まるからである.特に,この擬リーマン計量は不変となる.この擬 リーマン計量の符号は

"", , "-"

である

(12)

シンプレクティック構造 の元#を つ選び随伴軌道

$,# #

を考えよう.

#

#

とおくと$,# は等質空間と微分同相になる.さて,反対称双線 型形式

$ !'()* !#

は, の代表元のとり方によらず定義され,さらに,不変である.$

移動することによって,上に不変なシンプレクティック構造を定 めることができる一般に, への軌道,すなわち,余随伴軌道には シンプレクティック構造が存在する.が簡約の場合は,非退化な を用い て と が同一視できるので,任意の随伴軌道にシンプレクティック構造 が定義できるのである

複素構造 の設定のもと,さらに,

),# # #

が対角化可能で,固有値が全て純虚数であると仮定する.このとき対応する 随伴軌道$,# は,楕円軌道と呼ばれる.楕円軌道には,

不変な複素構造が存在することが知られている )! 説明の ヒント この仮定の下では,複素リー群 の一般化された旗多様体の 開部分集合として実現できる.ここで,も,複素リー群であること を仮定していないのに,等質空間には複素構造が入ることに注意する.

上の例 では,等質空間上のつの幾何構造擬リーマン,シンプレク テック,複素を取り上げた.例えば,

は, の例になっている.また,

は, すべての例になっている.

(13)

非リーマン等質空間の不連続群論

逆に,幾何構造を持った多様体 から出発して, がある つ組

を用いてクリフォード・クライン形 として表すことが できるだろうか# できるならば,どのような状況において表されるかを議論 しよう.初等的な考察をまず述べ,その後に典型例を挙げることにする.

を可微分多様体とし,% 上の幾何構造とする. の普遍被 覆多様体とする.被覆写像を

と書く.すると,局所微分同相写像を通して,上にも同じ幾何構造%を 引き戻すことができる.

のすべての微分同相写像全体のなす群/0と書かれるは,非 常に大きな群である.その部分群として,幾何構造の自己同型群を

$1

%

/0

% を保つ

とおく.

■ 例 % が擬リーマン構造のときは,は等長変換群と呼ばれる.

% が複素構造のとき,は双正則変換群と呼ばれる.

幾何構造の自己同型群は,しばしば有限次元のリー群になる.2カ ルタンによって 年に証明された定理「 の有界領域の双正則変換群は リー群になる」がこのようなタイプの最初の結果である.引き続いて,

年にマイヤーズとスティーンロッドは,リーマン多様体の等長変換群がリー 群になることを証明した.より一般に,擬リーマン多様体の等長変換群はつ ねにリー群になることが知られている.

どのような幾何構造% に対して群$1 %がリー群になるのかという 一般的な問題については小林昭七の著書を参照されたい.

普遍被覆多様体の点を一つ選び,.とおく.の部分群

(14)

固定部分群

. 基本群

で定義する.の部分群をなすことをみるには,次のように考えればよい.

基本群 . は,被覆変換,つまり,Æなる微分同相 として,に作用する.被覆変換は,被覆写像 を通じて上 に引き戻した幾何構造%を明らかに保つ.さらに,への作用は効果 的である.よっては自己同型群の部分群とみなせるただしのと り方には依存している

被覆変換の一般的な性質としてへの作用は真性不連続かつ自由で あり,軌道空間 は,自然に に微分同相となることに注意する.よっ て,次の命題を得る.

■ 命題 を幾何構造% を持った多様体とする.自己同型群

$1

%がリー群となり,さらにに推移的に作用すると仮定する.す ると,は,以下の可換図式により,クリフォード・クライン形 と 自然に微分同相となる.

..

命題 の例として,古典的結果をつ列挙しよう.

■ 例 をリーマン面とし,% 上の複素構造とする.クライン・

ポアンカレ・ケーべの一意化定理これはリーマンの写像定理の一般化であ るにより,普遍被覆多様体は,または または のどれか一つに 双正則同値である.双正則変換群$1%は,それぞれ

$1 %

$1%&''

半直積

$1%

で与えられる.これらの作用は,一次分数変換

(15)

非リーマン等質空間の不連続群論

-(

)-"

で与えられる()" は, のときすべて実数3 のとき )

" と考えれば良い.普遍被覆 いずれの場合にも,

それぞれの双正則変換群は,に推移的に作用し,固定部分群はそれ ぞれ と同型な群になる.よって,命題により,任意の リーマン面を上記のリー群の組の一つを用い,クリフォード・

クライン形 と双正則な多様体として自然に表すことができる.な お,が種数 のコンパクトリーマン面のとき

となるここでは双正則同値を表す

(16)

¼

¼

¼

¼

Æ

Æ

¼

Æ

¼

¾

½

を可微分多様体とする.命題 番目の例として,符号擬リーマン球空間形を考えよう.はじめに,いくつかの用語を定義しよ う.各接空間 に非退化な対称双線型形式で, 上の任意の滑らか なベクトル場 ,! に対して

!がの滑らかな関数になっていると き, を擬リーマン多様体と呼ぶ.対称双線型形式の符号 は,

局所的に定数である. は,のときリーマン多様体, のと きローレンツ多様体という.どの測地線もその時間パラメータが 全体 で定義できるとき,その擬リーマン多様体を完備であるという.

(17)

非リーマン等質空間の不連続群論

擬リーマン多様体 の断面曲率は,非退化な

内の次元 平面 *に対して,

*

+!#!#

!!

# #

!#

という式で定義される.ここで,!#*の基底であり,+ の曲率 テンソルである.定義式の右辺は,*の基底!#のとり方によらない.

, が*における原点の小さい近傍のとき,断面曲率

*はにお ける 次元の部分多様体45,のガウス曲率になっている.この意味で,

断面曲率

*は古典的なガウス曲率の概念の拡張になっているといえる.

■ 例 を符号 の完備な擬リーマン多様体とする.断面曲率 が正の定数のとき, を符号 の球空間形と呼ぶ.適当に計量を正の定 数倍すれば,断面曲率を- と正規化できる.また,計量を 倍すると,

は断面曲率が負の定数となる符号 の擬リーマン多様体になることに注 意する.符号 の 球空間形の典型例は次のように与えられる.

上の次形式-

-

--

と定義する.超曲面 上の符号- の標準的な擬リーマン計量

".

"

--"

"

"

を超曲面

-

に制限して, に擬リーマン構造を入れる.このとき,擬リーマン多 様体 の符号は となる.さらに, の断面曲率は正の定 数- をとる.逆に, のとき,任意の符号 の球空間形の普遍被 覆は に等長同型であることが知られているなお, のときは,

は単連結ではない次元の場合の すなわち-を 図示しておこう:

(18)

不定値直交群 -

-- -

-

によって定義される簡約線型リー群である. - は,擬リーマン多 様体 に等長変換として自然に作用する.逆に, 上の任意の 擬リーマン等長変換は - の変換として与えられる. -

への作用は推移的であり, 上の 点 における固 定部分群は に同型である.従って,命題より,符号 の任意の球空間形6はクリフォード・クライン形

-

と等長同型な多様体として表示できる.ここで,は基本群 と同型な

- の離散部分群であることが分った.

注意 の場合 次元球面 に標準的なリーマン計量を 与えたものにほかならない.符号のすべての球空間形を求める分類問題 は,クラインの 年の論文で提起され,キリング によってクリ フォード・クライン空間形問題と命名された.この問題は 「 -

に自由に作用する - のすべての有限部分群を分類せよ」という問 題と同値である.これはさらに,「単位元以外は- を固有値として持たない ような - の有限部分群をすべて分類せよ」という有限群の問題に帰 着できる.この問題は,ホップの 年の論文 やウォルフの 年

(19)

非リーマン等質空間の不連続群論

の著書!などで詳しく扱われている.

の場合擬リーマン計量を 倍すると, は双曲多様体と 呼ばれる負の定曲率のリーマン多様体になる.ときにロバチェフスキー幾何 とも呼ばれる双曲幾何は, 世紀のボヤイガウス,ロバチェフスキー等に よる非ユークリッド幾何のモデルに端を発し,世紀後半の 次元多様体 のトポロジーや幾何に関するサーストンの仕事や双曲群の理論などの最 近の論文に至るまで長い研究の歴史と膨大な文献がある.

の場合相対性理論にもとづいた宇宙論の物理では,時空の連続 体として,次元のローレンツ多様体 が採用される.符号 の球空 間形は相対論的球空間形,あるいはド・ジッター空間とよばれる宇宙論的 な視点からはホーキング・エリスの著書 !を参照.カラビとマルクスは,

!年の論文 で,「任意の相対論的球空間形は非コンパクトであり,その 基本群は有限になる」という驚くべき現象を発見した.彼らの結果は次の形 に再定式化できる.

- の任意の不連続群は有限群である」

与えられた等質空間の任意の不連続群が有限群になるという性質はカラビ・

マルクス現象と呼ばれているカラビ・マルクス現象については第節で論 じる例 定理 を参照

の場合符号 の球空間形は反ド・ジッター空間と呼ばれる.

節で述べるように,が偶数のとき,そしてそのときに限り,コンパクト な反ド・ジッター空間が存在する下記の!において の欄を参照

擬リーマン多様体の符号 がどのようなときにコンパクトな球空間 形が存在するかを完全に決定する問題は未解決である.次は,第節で後述 する予想- に適用したときの特別な場合である.

■ 予想 が以下のリストに入っているとき,そしてそのときに限 り,コンパクトな符号 の球空間形が存在するであろう

が下の表にあるときにコンパクトな球空間形が存在すること十分条 件はボレル・クルカルニ・小林によって証明されているそのアイディアは 第節で後述する.より一般の場合は"の一覧表参照.逆に,コンパク

(20)

トな球空間形が存在するような擬リーマン多様体の符号7は下の表に出 てくるものに限られると言う予想必要条件はまだ証明されていない.さら に一般的な場合については例で触れることにする.

"

命題 番目の例として,アファイン平坦な多様体を考える.すな わち,幾何構造% としてはアファイン接続を扱うのである.

■ 例 を曲率テンソルと捩率テンソルが恒等的にであるような完 備なアファイン接続を持つ次元多様体とする.このときは,完備でア ファイン平坦な多様体と呼ばれる. 年のアウスランダーとマルクスによ る定理により,その普遍被覆多様体は標準アファイン空間 に同型 である.一方,アファイン変換群

$1

%&'' 半直積

に推移的に作用する.よって,命題より,任意の完備でアファ イン平坦な多様体クリフォード・クライン形 &'' として表示できる.ここで は基本群 と同型な &'' の離散 部分群である.次はその基本群 に関する未解決問題である.

■ 予想アウスランダー予想 を完備でアファイン平坦な多様体とする.

がコンパクトならば,基本群 はほぼ可解群である.

ここで,ほぼ可換群というのは,有限指数の可解部分群を含んでいると いう意味である無限群を扱っているので,有限指数程度の差は気にしない

この予想は,等質空間 の不連続群の文 脈では次のように再定式化できる.

■ 予想 アウスランダー予想の群論的定式化 クリフォード・クライン形

&'' がコンパクトならば,はほぼ可解群である.

ミルナーはにおいて はコンパクトと言う仮定を落として同じ 結論を予想したが,その数年後にマルグリスは次元の場合にミルナーの予

(21)

非リーマン等質空間の不連続群論

想の反例を与えた.一方,この離散群に関する予想と類似の命題を連 結な群に対して考えると,コンパクト性の仮定なしに成立する.つまり

&'' の連結な部分群で に 真性( (に作用しているならば,

は可解群のコンパクト群による拡大である 参照.第節では,もっ と一般の設定の中でこの例を振り返ることにしよう 参照

なお,アウスランダー予想はアファイン接続がリーマン構造のレビ・チビタ 接続のときは成立するビーベルバッハ 年.また,ローレンツ構造に 対しても成立する 年のゴールドマン・神島 年のトマノフ

"も参照.リーマンあるいはローレンツ多様体と仮定した場合には,等質 空間元来の ではなく

または のときの不連続群に関する問題に帰着

される.多様体としては

はすべて と微分同相であるが がどの 変換群の部分群になっているかという点で問題の難しさが異なる.)接続がレ ビ・チビタ接続とは限らない一般の場合には,アウスランダー予想は! に対しては未解決である!については, 年のアーベルス・マルグ リス・ゾイファー が解決したことをアナウンスした

これまで,が与えられた幾何構造の自己同型群であるときの命題 の例をいくつか説明してきた.より一般には 構造という概念例え ば,サーストンの著書を参照から説明することもできる.その文脈で はクリフォード・クライン形が以下のように自然に現れる.リー群が滑ら かに多様体 に作用しているとする. に値を持つような のアトラス

,

/

によって の多様体としての構造が与えられており,さらに変換 関数/Æ/

/

,

,

/

,

,

の への作用の形で与え られているとき,多様体 には 構造が定められているという.こ のとき,普遍被覆多様体にも自然に 構造が定義される.さらに,

アトラス, /

を拡張して,普遍被覆多様体から への 写像 が一意的に定義できる

,8

写像,8を展開写像と呼ぶ.そしてホロノミー写像と呼ばれる群準同型 .

(22)

が存在し,ホロノミー写像を通して展開写像,8 . 同変になる.

展開写像,8が全射であるとき, を完備な 多様体という.

多様体 がクリフォード・クライン形として表示されるための内在的な 条件を 多様体の言葉で以下のように述べることができる.

■ 命題 等質空間が単連結であるとする. とおく.

が完備な 多様体ならば,展開写像によって とクリフォード・クラ イン形 との間に自然な微分同相が誘導される.ここで,は,ホロ ノミー写像による基本群 . の像である.

Ü

真性不連続な作用の判定条件

この節では次の問題について議論する.

■ 問題 Ü 参照 離散部分群 が等質空間に真性不連続に作 用するかどうかを判定する効果的な方法を見つけよ.

位相空間における真性不連続な作用の定義そのものは少なくとも外見は 簡単である.しかし,一般にリー群の離散部分群が与えられたとき,等 質空間へのの作用が真性不連続かどうかを実際に判定することは容 易ではない.問題$における判定条件は,たとえば,次のような問題に 答えられるほど具体的な判定条件であることが望ましい.

■ 問題 等質空間を与えたとき,基本群が無限位数となるクリフォー ド・クライン形は存在するか.

■ 問題 等質空間を与えたとき,非可換自由群はその不連続群にな りうるか.

ここでは,問題 とについて,現在どの程度まで解き明かされている かを示す例をいくつか挙げよう.以下では,最も一般的な形で定理を記述す るかわりに,典型的な例を挙げることにする.

■ 例 次元以上の相対論的球空間形

に対しては問題 の答は9であることが知られている !年 カラ

(23)

非リーマン等質空間の不連続群論

ビ・マルクス .

擬リーマン対称空間 に対しては問題 の答は9であり, - に対しては:で あることが知られているより一般の結果は定理 で述べる

可解な等質空間 すなわち,が可解リー群でありは連結かつ 閉であるような真部分群であるときは,問題 の答はつねに:であること が知られている 年の 小林の論文!によって証明された. 年の リップスマンの論文 もこの問題を論じている

■ 例 アファイン平坦な多様体 に対しては問題の答は:であることが知られている 年 マルグリ ス.この例はアウスランダー予想において がコンパクトである という仮定を落としたときに ミルナーが ""年に提起した問題の反例 にもなっている.

擬リーマン等質空間 に対しては問題の答 は9であることが知られている !年 ブノワ

一般の簡約リー群の組に対して,問題 は小林の 年の論 文において実ランク条件による必要十分条件が証明されて解決し定 理 ,また,問題は ブノワの !年の論文によって解決した.

これらの結果は 簡約リー群に対する 問題 $ の答の副産物として得られる

"で説明する

なお,アファイン変換群&'' のような一般の簡 約でないリー群に対しては,問題$は,依然として未解決である.

簡単な例をいくつか取り上げ,問題$の微妙な部分を明らかにしよう.

■ 例 以下ののように,離散部分群の多様体 への 通りの作用を考える

-.

このとき,の作用は真性不連続かつ自由である.得られる商空間 は,円 に微分同相である.

(24)

一方 では,商空間 は ハウスドルク空間でない.実際,商空間

は, 一点 が連結に;なるような位相を入れた空間と同 相であることがわかる.また,原点における固定部分群に等しく,

しかもでない限りを通る軌道は閉集合でない.次の補題 で 述べるように,これらはいずれもの作用が真性不連続ではないことを意味 している.

の作用が真性不連続でない理由をもう少し丁寧に見てみよう.

次の補題の証明は,位相空間論の簡単な演習問題程度である.

■ 補題固有不連続性のための必要条件 離散群が局所コンパクトハ ウスドルク空間 に真性不連続に作用しているとする.このとき次の

が成り立つ.

任意の に対して,における固定部分群は有限群となる.

任意の に対して,を通る軌道は の閉部分集合となる.

残念な事に,補題は真性不連続性の十分条件ではない.以下に述べ る次元の例は補題だけでは到達できない問題$の本質的な難しさを 示唆している.

■ 例 離散群の 多様体

への作用を

によって定義する.このとき 任意の点で固定部分群はであり,任意の

軌道は で閉集合である左下図参照.従って補題で述べたつの 必要条件は満たされている.しかし,この作用は真性不連続でない.そのこ とを確かめてみよう. を単位円周とする.このとき は 任意の に対して内部の面積が一定の楕円になる.以下の図から

任意のに対して

がわかる右下図参照.したがって, がコンパクトであるにもかかわらず

無限群 となり,作用が真性不連続でないことが示された.

(25)

非リーマン等質空間の不連続群論

任意の軌道は閉集合になっている

上記の作用によって得られる商空間 はハウスドルフでない.実際,商 空間 は,以下の図に連結な非ハウスドルフ位相を与えた空間を底空 間とする 束 と同相である.

この例を群論的な立場から説明すると次のようになる.

(

(

とおく.このとき

に推移的に作用する.は点

における等方部分群に一致する ので,次の同相写像が得られる.

(26)

ここで,左移動によるへの作用は, におけるの への 作用と同等であり,それゆえ,へ作用は真性不連続でない.

で述べたように, を非コンパクトな閉部分群 としたとき,等質空間に,無限位数の不連続群は存在しない.上記の 例は,この特別なしかし,もっとも核心に触れた例になっている.

さて,特定の等質空間 に対する不連続群の旧来のアプローチは,

等質空間そのものを研究対象とし,個別の等質空間が持つ特有 の性質を使うものであったこのために,がランク の対称空間の特 殊な例であっても,例えば 年のクルカルニの論文のように離散群 の作用が真性不連続かどうかを確かめるのに膨大な計算が必要になっていた.

年代後半になるまで,高いランクの擬リーマン対称空間の不連続群の 研究が行われていなかった背景には, !年代初頭のカラビ・マルクスの悲 観的な印象を与える例の影響が残っていたと同時に,等質空間そのも のの上で解析を行うという従来の手法では計算量が限界にきていたという事 情もあったのかも知れない 年に一般の擬リーマン対称空間に対して 問題$を解決するにあたって,筆者は等質空間を直接扱うのを避け ての中でを対等に扱うという方針をとった.そして,真性 不連続性が有限次元表現の行列要素として表される上の関数の漸近挙 動によって記述しようアイデアでの表現論を用いた.こうすることによっ て,通常の意味での真性不連続性の幾何学的直観は通用しなくなる反面,群

上の関数空間や表現論とのかかわりが生まれた このアイデアはカラビ・マ ルクス現象の解決だけでなく,最近の,簡約リー群の等質空間に対する不連 続群の研究例えば,問題 $の解決において基本的な手法となっ ている.

さて,真性不連続性の判定条件を考えるにあたって,記号や設定を最大限 一般的な枠組みにして系統的に説明しよう.この枠組みは,最近,不連続面 の研究が進展している簡約リー群の場合以外に対しても役に立つかもしれな い.以下の定義に述べるこの枠組み固定部分群に対応すると 離散部分群 に対応するのいずれの群構造までも忘れてしまうことにあるこれによっ て,例えば定理"で述べるような函手的な対応が可能になる

(27)

非リーマン等質空間の不連続群論

■ 定義 を局所コンパクト群とし,をその部分集合と する.

のコンパクト集合 で, かつ を満たすものが 存在するとき,と書くことにする.このとき,の部分集合の 間の同値関係を定める.

の任意のコンパクト部分集合 に対して が相対コンパクト であるとき,組 内で真性( ( であるといい,と書 くことにする.

の部分集合に対して,

の部分集合で,をみたす. と定義し, を不連続双対と呼ぶ.

が可換ならば,の関係式は著しく簡単になる

■ 例 を可換群 の部分空間とする.

のとき,そしてそのときに限り,内でである.

のとき,そしてそのときに限り,内でである.

また,定義に戻って考えれば,次の例は明らかであろう.

■ 例 がコンパクトならば,の任意の部分集合に対して が成り立つ.

なお,という記号は微分幾何において 部分多様体が横断的に交わるという 意味で用いられることが多いが,ここでは全く違う意味でこの記号が使われ ている事に注意しよう.

を何のために定義したのかを明らかにするために次の命題を述べよう.

■ 命題 の部分集合とする.

とすると,は同値である.

双対原理 は同値である.

の離散部分群,を閉部分群とすると,内でであるこ とと,に真性不連続に作用することは同値である.

(28)

我々の本来の目標は離散群の作用が固有不連続であるかどうかを具体的に 判定することであった.このためには,より,を理解すればよいことが わかる.この目的のためには, より,の差は考慮しなくてもよいので 思考の節約になる.

簡単な注意だが,例!と命題!から分かるように,がコンパ クト部分群ならば の任意の離散部分群はに真性不連続に作用する.

従って,固有不連続性が問われるのは,がコンパクトでない場合特有の問 題であることがわかる.

いまや,問題$はより一般的な形で再定式化される.

■ 問題 の部分集合とする.においてであるため の判定条件を求めよ.

逆に,部分集合は,内でとなるような部分集合たちによっ て完全に特徴づけられるのだろうか.より正確に述べると次のようになる.

■ 問題 をリー群とする.の部分集合は,同値関係の分を 除いて,不連続双対によって決定されるか?

が簡約線型リー群の場合には,問題! !年の論文で肯定 的に解決された.実際,部分集合同値関係〜の部分を除いて不連続 双対 から復元できるのである.が簡約リー群でない場合には,

問題!の解答は知られていない.

問題 $は 三つ組の簡約リー群 に対しては 年に小林に よって解決され !年の論文でブノワと小林によって簡約リー群

は任意の部分集合に一般化された.この結果を に限定して簡潔に紹介する事にしよう.

正方行列に対して,行列 は正定値対称行列である.その固有値 を大きい方から順に並べて0 0 と書く.このとき,

1 <=0 <=0 .

(29)

非リーマン等質空間の不連続群論

と定義する.すると, に関する問題 $の解答は次のように なる.

■ 定理 の部分集合とする.

において であることは, において11 であることと同値である.

においてであることは, において11で あることと同値である.

可換群 に対してはの関係式の意味は簡単である!参照. 従って,定理"が判定条件としてて役立つのである.

が一般の簡約リー群の場合には,の極大化部分空間をとる 参 照.このとき,カルタン分解5 を用いてカルタン射影

1

を定義することができる.カルタン射影1 を用いれば, のかわり に任意の簡約線型リー群に対して定理"と同様の結果が成り立つ.の 次元はの実ランクと呼ばれ, ()>?と書かれる.例えば,

()>? ()>? >

が成り立つ.

注意 " 定理 " におけるにおけるは自明である.

におけるは行列を摂動させたときの固有値の一様な誤差評価に関 連している.これに関しては,古くからさまざまな結果が知られているが,そ の原型となるのはワイルによる次の不等式である &, をエルミート行列 としその固有値をそれぞれ,2 23 3 とする.この とき,

)52

3

&

「不連続双対がもとの部分集合を復元する」という問題!の肯定的 な解決を用いることによって におけるが証明できる.

カルタン射影の像1が小さいほど,に多くの不連続群が存在

(30)

するというのが定理"の大まかな意味である.1が最も小さくなる のは,1がコンパクト,つまりがコンパクトなときである.このとき,

すでに見てきたようにの任意の離散部分群はに対する不連続群にな る.一方,逆に1が最も大きくなるのは11のときである.

このとき,に対する無限位数の不連続群は存在しないカラビ・マルク ス現象.リー群の組が簡約(,*18の場合にこれは必要条件に もなる.すなわち,次の定理が成り立つ.

■ 定理 擬リーマン等質空間におけるカラビ・マルクス現象の必要 十分条件, を線型簡約リー群の組とする.このとき,擬リー マン等質空間に無限位数の不連続群が存在する事と11は 同値である.さらにこの条件は, ()>? ()>? とも同値である.

リー群論の手法によって証明された結果に幾何的な別証明を与えるという のは面白い試みだろう.リー群論の強力な手法によって発見された新しい現 象や豊富な実例が,擬リーマン幾何の未知の定理の発見や予測につながると いうことも考えられる.定理 の典型的な例を摂動することによっ て,次のような予想を提起する.

■ 予想 とし,を符号 のコンパクト擬リーマン多 様体とする.断面曲率の下限が正であるとする.このとき,以下を予想 する.

は常に決してコンパクトにならない.

- ならば,基本群 は常に有限群である.

この予想は 例!により断面曲率が一定ならば成り立つ.なぜならば

()>? - ()>?

>- > と同値であり,それはつまり, であるか らである.符号の擬リーマン等質空間 - の任 意のクリフォード・クライン形もまた,予想の結論を満たす.この場 合は,断面曲率は正であるが定数ではない.

参照

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