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新学習指導要領とこれからの英語教育の方向性
著者 伊東 治己
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 36
ページ 11‑21
発行年 2000‑03‑01
その他のタイトル New Courses of Study and English Language Education in the 21st Century
URL http://hdl.handle.net/10105/7055
新学習指導要領とこれからの英語教育の方向性
伊東 治己
(英語教育教室)
要旨:過去半世紀にわたる学習指導要領改訂の変遷を辿る中で、先般公示 された新学習指導要領の特徴を明らかにするとともに、その下で実施され る21世紀の英語教育を方向づける三つの指針を示した。
キーワード:学習指導要領、実践的コミュニケーション能力、説明責任 O.はじめに
21世紀の幕開きを間近に控えた平成10(1998)年12月に新しい小学校学習指導要領および中学 校学習指導要領が、続いて平成11(1999)年3月に高等学校学習指導要領が文部省によって告示
され、21世紀における日本の学校教育の指針が示され㍍本稿では・この機会を捉えて、外国語
(英語)教育の立場から、新学習指導要領の概要を把握するとともにその問題点を指摘し、21世 紀における外国語(英語)教育の在り方について考察を加えることにする。
1.外国語教育の流れ
新学習指導要領の概要並びに問題点を検討する前に、まず昨今の外国語教育の流れを概観する 中で、新学習指導要領が置かれている社会的・教育的コンテクストを明確にしたい。
(1)コミュニケーション志向の高まり
知識教育の時代 → 技能教育の時代 → 伝達教育の時代
↑
文法・訳読式教授法 ↑
言語体系
↑
Audio−Lingua1Approach ↑
言語行動
↑
Communicative ApProach ↑
言語使用 図1 外国語教育の流れ
外国語教育の歴史は、大きく知識教育の時代、技能教育の時代、そして伝達教育の時代の三つ の段階に分けて考えることができる(伊東1999)。それぞれの時代は当時の言語観や言語学習 観に基づく教授法によって特徴づけられているが、根底にある言語観や言語学習観もその当時外 国語教育の理論的背景を構成していた学問パラダイムを反映していると言える。
具体的には、まず知識教育の時代においては、古典的言語学を学問的背景とし、言語学習を言 語体系の習得と見なす立場が支配的で、中でも文法体系の習得に力点を置く文法・訳読式教授法
New Courses of Study and Eng1ish Language Education in the21st Century
.
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が主流をなしていた。技能教育の時代においては、言語学に加えて心理言語学からの洞察を得て、
言語学習を言語行動の習慣化と見なす立場が支配的で、特に音声言語に関わる言語行動としての スキル、つまりリスニングとスピーキングの指導に力点を置くAudio−Lingua1Approachが主 流となった。そして、今日の伝達教育の時代においては、言語の社会性を重視する社会言語学か
らの示唆を得て、言語学習を日常生活場面で言語を実際に使用する能力つまりコミュニケーショ ン能力の習得と見なす立場が支配的となり、教室での学習を実際的なコミュニケーション活動を 中心に構成するCommunicative Approachが外国語教育の主流を形成している。
このような外国語教育のパラダイムの移行は、必ずしも時代ごとの断絶を意味するものではな い。図1が示すように、前の時代のパラダイムを包摂する形での発展として捉えるべきである㌔
つまり、伝達教育の時代においても知識教育や技能教育の必要性が消滅したわけではない。コミュ ニケーション重視の時代において文法指導の必要性が叫ばれるのもそのためである。ただ、知識 教育から技術教育さらには伝達教育への外国語教育パラダイムの移行は、外国語教育関係者の間 でのコミュニケーション志向の高まりを如実に反映しており・その傾向はこの度公示された新学 習指導要領にも着実に受け継がれている。
(2)目的の手段化
コミュニケーション志向の高まりと平行し、外国語教育の目的の手段化(図2参照)が着実に 進行している。新学習指導要領においては実践的コミュニケーション能力の育成が外国語教育の 目的として明確に規定されているが、これはけっして今日の外国語教育の主流をなす伝達教育の 専売特許ではない。知識教育の時代や技能教育の時代においても、コミュニケーション能力の育 成は最終目標として常に視野に入れられていた。最終目標への到達手段が今とは異なっていただ けであ孔つまり、知識教育の時代においては、発音・文法・語彙・文化についての知識を積み 重ねることによって、また技能教育の時代においては4技能の組織的訓練を通してコミュニケー
ション能力の育成が意図されていたのである。今日の伝達教育の時代においては、教室内で学習 者に実際的コミュニケーションの機会をふんだんに提供することによって、実践的なコミュニケー
ション能力を育てていくことが意図されているのである。
Teaching for
COmmuniCatiOn → Teaching
COmmuniCatiOn
Teaching through COmmuniCatiOn
Learning about Learning Learning through Eng1ish Eng1ish Eng1ish
図2 目的の手段化
この外国語教育の目的の手段化を学習者の視点から捉え直すと、それは「英語について」の学 習から、「英語そのもの」の学習、さらには「英語を通して」の学習への変遷と見なすこともで
きる。「英語を通して」の学習では、当然、英語で何を学ぶかが大きな課題となるが、このよう
に学習内容(meSSage)を学習方法(medium)よりも優先する外国語教授法、いわゆる内容中
心教授法(Content−Based Approach)が、内容の学習もさることながら、コミュニケーション
能力を育成する上で、mediumに焦点を当てる伝統的な教授法に劣らず有効であることが報告さ
れてい乱現在カナダで行われているイマージョン・プログラム(伊東1997b)・つまり英語
を母語とする子どもたちに学校での通常教科を第2言語であるフランス語で教える試みはその最
も発展した形態である。いずれにしても、英語の地球語化がさらに進行する21世紀においては、
英語を学習目的から学習手段として捉える動きはさらに加速されそうである。
(3)学習者にとってのauthenticityの追求
現実的な言語使用場面でのコミュニケーション活動を重視するCommunicative Approachに おいては、使用される教材のauthenticityが特に強調され、日常生活で実際に生起するコミュ ニケーション場面(買い物や道案内など)が教材化されたり、教室の中に再現する努力が精力的 に行われている。ただ、教材のauthenticityを高める努力の中で、学習者にとってのauthenticity が軽視される傾向にあったことは否めない。Comm㎜icative Approachの理論的基盤を担って きたWiddowson(1998)も、母語話者にとってauthenticなものは、実際の使用場面から隔絶 された教室という場で学ぶL2学習者にとっては必ずしもauthenticでないという立場から、従 来型の母語話者にとってauthenticな教材を教室で安易に使用することに反対している。同様に、
Cook(1999)も、これまでの英語教育はあまりに英語母語話者を目標として重視しすぎていた という反省に基づき、学習者をいたずらにimitation native speakerとして扱うことをやめ、代 わってgenuine L2userとして認めようという提案を行っている。このように、教室という人為 的な学習環境での外国語学習をむしろ積極的に捉え、例えば母語の使用や文型練習などこれまで
どちらかと言えば否定的に捉えられがちであった指導法を再評価する動きが高まりつつある。
2.新学習指導要領をめぐって(英語科を中心に)
(1)学習指導要領改訂の歴史
今回公示された新学習指導要領を戦後の学校教育の文脈の中に位置づけるため、これまでの中 学校および高等学校学習指導要領の改訂状況をまとめてみると、表1のようになる。敗戦後間も ない昭和22年に中・高同時に発表されて以来、中学校学習指導要領は今回を含めて6回、高等学 校学習指導要領は7回改訂されている。戦後しばらくは文部省による「試案」として発表されて いたが、昭和30年改訂の高等学校学習指導要領から「試案」の文字が消え、昭和33年改訂の中学 校学習指導要領から文部省告示となり、法的拘束力を持つに至った。文部省告示となって以降は
ほぼ10年間隔で改訂されている。
表1 学習指導要領改町の歴史
中学校学習指導要領
昭和22(1947)年3月 昭和26(1951)年7月 昭和33(1958)年10月 昭和44(1969)年4月 昭和52(1977)年7月 平成元(1989)年3月 平成10(1998)年12月
〔試案〕 文部省発行
〔試案〕 文部省発行 文部省告示 文部省告示 文部省告示 文部省告示 文部省告示
高等学校学習指導要領
昭和22(1947)年3月 昭和26(1951)年7月 昭和30(1955)年12月 昭和35(1960)年10月 昭和45(1970)年10月 昭和53(1978)年8月 平成元(1989)年3月 平成11(1999)年3月
〔試案〕 文部省発行
〔試案〕 文部省発行 文部省発行 文部省告示 文部省告示 文部省告示 文部省告示 文部省告示
(2)学習指導要領変遷に関わる内容面での特徴
戦後7回に及ぶ学習指導要領改訂の中身を検討してみると、大きく四つの特徴を指摘すること ができる。第一の特徴は、基礎的・基本的事項への精選の名の下で行われた言語材料の縮小であ る。それは、中学・高校6年間に及ぶ英語学習の中で扱われる語彙の縮小に典型的に現れている。
表2は、指導要領が文部省告示となった後の学習語彙の量的変化をまとめたものである。
高校の昭和35年度と45年度の数字は英語Bのもの・昭和53年度の数字は英語I・英語n、英語
妻2 学習指箏要領における学習諸量量の変遷
学 年 昭33年度改訂 昭44年度改訂 昭52年度改訂 平元年度改訂 平10年度改訂 中 1 年 300程度 300〜350 300〜350
2 年 400程度 300〜350 300〜350
3 年 1,OOO程度 900程度
学 400〜600 350〜400 300〜350
小 計 1,1OO〜1,300 950〜1,100 900〜1,050
学 年 昭35年度改訂 昭45年度改訂 昭53年度改訂 平元年度改訂 平11年度改訂
合同