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新学習指導要領とこれからの英語教育の方向性

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

新学習指導要領とこれからの英語教育の方向性

著者 伊東 治己

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 36

ページ 11‑21

発行年 2000‑03‑01

その他のタイトル New Courses of Study and English Language Education in the 21st Century

URL http://hdl.handle.net/10105/7055

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新学習指導要領とこれからの英語教育の方向性

伊東 治己

(英語教育教室)

要旨:過去半世紀にわたる学習指導要領改訂の変遷を辿る中で、先般公示 された新学習指導要領の特徴を明らかにするとともに、その下で実施され る21世紀の英語教育を方向づける三つの指針を示した。

キーワード:学習指導要領、実践的コミュニケーション能力、説明責任 O.はじめに

 21世紀の幕開きを間近に控えた平成10(1998)年12月に新しい小学校学習指導要領および中学 校学習指導要領が、続いて平成11(1999)年3月に高等学校学習指導要領が文部省によって告示

され、21世紀における日本の学校教育の指針が示され㍍本稿では・この機会を捉えて、外国語

(英語)教育の立場から、新学習指導要領の概要を把握するとともにその問題点を指摘し、21世 紀における外国語(英語)教育の在り方について考察を加えることにする。

1.外国語教育の流れ

 新学習指導要領の概要並びに問題点を検討する前に、まず昨今の外国語教育の流れを概観する 中で、新学習指導要領が置かれている社会的・教育的コンテクストを明確にしたい。

(1)コミュニケーション志向の高まり

知識教育の時代 →  技能教育の時代 →  伝達教育の時代

    ↑

文法・訳読式教授法     ↑

  言語体系

     ↑

Audio−Lingua1Approach      ↑

   言語行動

     ↑

Communicative ApProach      ↑

   言語使用       図1 外国語教育の流れ

 外国語教育の歴史は、大きく知識教育の時代、技能教育の時代、そして伝達教育の時代の三つ の段階に分けて考えることができる(伊東1999)。それぞれの時代は当時の言語観や言語学習 観に基づく教授法によって特徴づけられているが、根底にある言語観や言語学習観もその当時外 国語教育の理論的背景を構成していた学問パラダイムを反映していると言える。

 具体的には、まず知識教育の時代においては、古典的言語学を学問的背景とし、言語学習を言 語体系の習得と見なす立場が支配的で、中でも文法体系の習得に力点を置く文法・訳読式教授法

New Courses of Study and Eng1ish Language Education in the21st Century

hTO Harum三(Dψαrε肌e枇。/亙πg脆ん,Mαrαση三リers三む。/亙ぬ。α亡三〇η)

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が主流をなしていた。技能教育の時代においては、言語学に加えて心理言語学からの洞察を得て、

言語学習を言語行動の習慣化と見なす立場が支配的で、特に音声言語に関わる言語行動としての スキル、つまりリスニングとスピーキングの指導に力点を置くAudio−Lingua1Approachが主 流となった。そして、今日の伝達教育の時代においては、言語の社会性を重視する社会言語学か

らの示唆を得て、言語学習を日常生活場面で言語を実際に使用する能力つまりコミュニケーショ ン能力の習得と見なす立場が支配的となり、教室での学習を実際的なコミュニケーション活動を 中心に構成するCommunicative Approachが外国語教育の主流を形成している。

 このような外国語教育のパラダイムの移行は、必ずしも時代ごとの断絶を意味するものではな い。図1が示すように、前の時代のパラダイムを包摂する形での発展として捉えるべきである㌔

つまり、伝達教育の時代においても知識教育や技能教育の必要性が消滅したわけではない。コミュ ニケーション重視の時代において文法指導の必要性が叫ばれるのもそのためである。ただ、知識 教育から技術教育さらには伝達教育への外国語教育パラダイムの移行は、外国語教育関係者の間 でのコミュニケーション志向の高まりを如実に反映しており・その傾向はこの度公示された新学 習指導要領にも着実に受け継がれている。

(2)目的の手段化

 コミュニケーション志向の高まりと平行し、外国語教育の目的の手段化(図2参照)が着実に 進行している。新学習指導要領においては実践的コミュニケーション能力の育成が外国語教育の 目的として明確に規定されているが、これはけっして今日の外国語教育の主流をなす伝達教育の 専売特許ではない。知識教育の時代や技能教育の時代においても、コミュニケーション能力の育 成は最終目標として常に視野に入れられていた。最終目標への到達手段が今とは異なっていただ けであ孔つまり、知識教育の時代においては、発音・文法・語彙・文化についての知識を積み 重ねることによって、また技能教育の時代においては4技能の組織的訓練を通してコミュニケー

ション能力の育成が意図されていたのである。今日の伝達教育の時代においては、教室内で学習 者に実際的コミュニケーションの機会をふんだんに提供することによって、実践的なコミュニケー

ション能力を育てていくことが意図されているのである。

Teaching for

COmmuniCatiOn →  Teaching

  COmmuniCatiOn

Teaching through COmmuniCatiOn

   Learning about         Learning       Learning through    Eng1ish      Eng1ish      Eng1ish

      図2 目的の手段化

 この外国語教育の目的の手段化を学習者の視点から捉え直すと、それは「英語について」の学 習から、「英語そのもの」の学習、さらには「英語を通して」の学習への変遷と見なすこともで

きる。「英語を通して」の学習では、当然、英語で何を学ぶかが大きな課題となるが、このよう

に学習内容(meSSage)を学習方法(medium)よりも優先する外国語教授法、いわゆる内容中

心教授法(Content−Based Approach)が、内容の学習もさることながら、コミュニケーション

能力を育成する上で、mediumに焦点を当てる伝統的な教授法に劣らず有効であることが報告さ

れてい乱現在カナダで行われているイマージョン・プログラム(伊東1997b)・つまり英語

を母語とする子どもたちに学校での通常教科を第2言語であるフランス語で教える試みはその最

も発展した形態である。いずれにしても、英語の地球語化がさらに進行する21世紀においては、

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英語を学習目的から学習手段として捉える動きはさらに加速されそうである。

(3)学習者にとってのauthenticityの追求

 現実的な言語使用場面でのコミュニケーション活動を重視するCommunicative Approachに おいては、使用される教材のauthenticityが特に強調され、日常生活で実際に生起するコミュ ニケーション場面(買い物や道案内など)が教材化されたり、教室の中に再現する努力が精力的 に行われている。ただ、教材のauthenticityを高める努力の中で、学習者にとってのauthenticity が軽視される傾向にあったことは否めない。Comm㎜icative Approachの理論的基盤を担って きたWiddowson(1998)も、母語話者にとってauthenticなものは、実際の使用場面から隔絶 された教室という場で学ぶL2学習者にとっては必ずしもauthenticでないという立場から、従 来型の母語話者にとってauthenticな教材を教室で安易に使用することに反対している。同様に、

Cook(1999)も、これまでの英語教育はあまりに英語母語話者を目標として重視しすぎていた という反省に基づき、学習者をいたずらにimitation native speakerとして扱うことをやめ、代 わってgenuine L2userとして認めようという提案を行っている。このように、教室という人為 的な学習環境での外国語学習をむしろ積極的に捉え、例えば母語の使用や文型練習などこれまで

どちらかと言えば否定的に捉えられがちであった指導法を再評価する動きが高まりつつある。

2.新学習指導要領をめぐって(英語科を中心に)

(1)学習指導要領改訂の歴史

 今回公示された新学習指導要領を戦後の学校教育の文脈の中に位置づけるため、これまでの中 学校および高等学校学習指導要領の改訂状況をまとめてみると、表1のようになる。敗戦後間も ない昭和22年に中・高同時に発表されて以来、中学校学習指導要領は今回を含めて6回、高等学 校学習指導要領は7回改訂されている。戦後しばらくは文部省による「試案」として発表されて いたが、昭和30年改訂の高等学校学習指導要領から「試案」の文字が消え、昭和33年改訂の中学 校学習指導要領から文部省告示となり、法的拘束力を持つに至った。文部省告示となって以降は

ほぼ10年間隔で改訂されている。

      表1 学習指導要領改町の歴史

中学校学習指導要領

昭和22(1947)年3月 昭和26(1951)年7月 昭和33(1958)年10月 昭和44(1969)年4月 昭和52(1977)年7月 平成元(1989)年3月 平成10(1998)年12月

〔試案〕  文部省発行

〔試案〕  文部省発行      文部省告示      文部省告示      文部省告示      文部省告示      文部省告示

高等学校学習指導要領

昭和22(1947)年3月 昭和26(1951)年7月 昭和30(1955)年12月 昭和35(1960)年10月 昭和45(1970)年10月 昭和53(1978)年8月 平成元(1989)年3月 平成11(1999)年3月

〔試案〕  文部省発行

〔試案〕  文部省発行      文部省発行      文部省告示      文部省告示      文部省告示      文部省告示      文部省告示

(2)学習指導要領変遷に関わる内容面での特徴

 戦後7回に及ぶ学習指導要領改訂の中身を検討してみると、大きく四つの特徴を指摘すること ができる。第一の特徴は、基礎的・基本的事項への精選の名の下で行われた言語材料の縮小であ る。それは、中学・高校6年間に及ぶ英語学習の中で扱われる語彙の縮小に典型的に現れている。

表2は、指導要領が文部省告示となった後の学習語彙の量的変化をまとめたものである。

 高校の昭和35年度と45年度の数字は英語Bのもの・昭和53年度の数字は英語I・英語n、英語

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妻2 学習指箏要領における学習諸量量の変遷

学 年 昭33年度改訂 昭44年度改訂 昭52年度改訂 平元年度改訂 平10年度改訂 中 1 年 300程度 300〜350 300〜350

2 年 400程度 300〜350 300〜350

3 年 1,OOO程度 900程度

学 400〜600 350〜400 300〜350

小 計 1,1OO〜1,300 950〜1,100 900〜1,050

学 年 昭35年度改訂 昭45年度改訂 昭53年度改訂 平元年度改訂 平11年度改訂

合同

1 年 1,000程度 700〜1,100 400〜500 500程度 400程度 2 年 1,200程度

800〜1200    ,

600〜700 500程度 500程度

校 3 年 1,400程度 900〜1,300 400〜700 900程度 900程度

小 計 3,600程度 2,400〜3,600 1,400〜1,900 1,900程度 1,800程度 中高全体 4,700〜4,900 3,350〜4,700 2,300〜 2,950 2,900程度 2,700程度 1IBのもの、平成元年度および平成11年度の数字は英語I、英語n、リーディングのものである。

中学・高校とも学習語彙は着実に縮小されてきており、今回の改訂で学習者が高校卒業までに習 得すべき語彙は昭和33年当時の半分近くに縮小されている。

 二つ目の特徴は、指導困難事項の先送りである。次に示すのは昭和33年に改訂された中学校学 習指導要領によって示されている中学校3年で扱う文法事項である。

 文法事項は、第1学年および第2学年の内容として示したものに次のものを加えた範囲とする。

同代名詞 関係代名詞を扱うが、前置詞十関係代名詞は とする。

ω副 詞 関係副詞を扱う。

(ウ働 詞 a時制は、過去完了形および現在完了進行形とする。

     b受身の形は、完了形を扱う。.

     C分詞構文のうち基本的なものを扱う。

     d仮定法を扱い、次の程度とする。

        l wish〜動詞または助動詞の過去形〜.

        If〜shou1dまたは動詞の過去形〜.

     e話法のうち平易なものを扱う。

〔備考〕*印を付した文法事項は、授業時数を175単位時間以上(過当り5単位時間以上)とする場合に     取り扱うものとし、授業時数を105単位時間(過当り3単位時間)とする場合には軽く触れる程     度にどどめるものとする。

 ここに示されている文法事項は今日ではすべて高等学校での学習内容となっている。それだけ 中学校3年間で学ぶ内容が薄くなっている反面、高校での学習が窮屈になっているのである。よ

く中学で学ぶ英語で日常会話は十分という主張がなされるが、多くの場合自分たちが中学生の時 に習った英語、っまりここに示されているような英語が念頭に置かれている。

 三つの特徴は、文法指導へのわだかまりである。この傾向は、中学校の場合文法事項の学年配 当の廃止として、高等学校の場合は文法教科書の消滅として具現化されている。表3は、高等学 校学習指導要領の改訂に合わせて文法教科書が辿った軌跡を示したものである。教科書検定制度 上では文法教科書はすでに昭和57年度より姿を消しているが、現実には今なお多くの高校現場で 一般に市販されている準文法教科書が使用され、文法の授業も正規に設定されている学校も多く 存在している。そこに、学習指導要領と教育現場の乖離現象が見られる。

 四つ目の特徴は、コミュニケーション志向の高まりであ乱表4は、昭和33年度改訂以降の中

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学校学習指導要領における外国語科の目標をまとめて示したものであ乱       表3 高等学校学習指箏要領(外国語)の改訂と文法教科書

外  国  語  科  の  構  成 英語文法教科書

昭22 下位区分なし 昭23 未分化時代

昭26 下位区分なし 昭27 英語の実際的使用(各

昭30 第1外国語、第2外国語 学年I冊)

昭35 英語A、英語B、ドイツ語、フランス語、外国語に関する 昭32 作文・文法(各学年1

その他の科目(その他)

冊)

昭45 初級英語、英語A、英語B、英語会話、ドイツ語、フラン

ス語、その他 昭48 文法(3学年で1冊)

昭53 英語I、英語II、英語■A、英語皿B、英語I C、ドイツ

語、フランス語、その他 昭57 文法教科書なし

平元 英語I、英語1I、オーラル・コミュニケーションA,B、

C、リーディング、ライティング、ドイツ語、フランス語、 平6 文法教科書なし その他

平11 オーラル・コミュニケーションI、オーラル・コミュニケー

ションII、英語I、英語II、リーディング、ライティング、 平15 文法教科書なし 英語以外の外国語に関する科目

表4 外国語科の目標の変移(中学校の場合)

昭 33

外国語の音声に慣れさせ、聞く能力および話す能力の基礎を養う。

外国語の基本的な語法に慣れさせ、読む能力および書く能力の基礎を養う。

外国語を通して、その外国語を日常使用している国民の日常生活、風俗習慣、ものの見方などに ついて基礎的な理解を得させ乱

  外国語を理解し表現する能力の基礎を養い・言語に対する意識を深めるとともに・国際理解の基礎を   っちかう。このため、

44 1 外国語の音声および基本的な語法に慣れさせ、聞く能力および話す能力の基礎を養う。 昭   2 外国語の文字および基本的な語法に慣れさせ・読む能力および書く能力の基礎を養㌔

  3 外国語を通して、外国の人々の生活やものの見方について基礎的な理解を得させる。

昭 外国語を理解し、外国語で表現する基礎的な能力を養うとともに、言語に対する関心を深め、外国の 52人々の生活やものの見方などについて基礎的な理解を得させる。

平 外国語を理解し、外国語で表現する基礎的な能力を養い、外国語で積極的にコミュニケーションを図 元 ろうとする態度を育てるとともに、言語や文化に対する関心を深め、国際理解の基礎を培う。

平 外国語を通じて、言語や文化に対する一理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度 10 の育成を図り、聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う。

 昭和44年度改訂までは、目標の中に「音声」や「語法」など言語の構成要素を示す用語が「能 力」という用語と平行して現れているが、それ以降姿を消している。それに代わるように、平成 元年度の改訂からは「コミュニケーション」という用語が登場し、特に今回の改訂においては目 標の中に「コミュニケーション」という用語が2回も使用され、かつ「実践的コミュニケーショ

ン能力」の育成が外国語教育の正規の目標として明示されている。これは、明らかに外国語教育 界におけるコミュニケーション志向の高まりを反映したものであり、先に触れた知識教育から技 能教育へ、さらには伝達教育へという外国語教育全体の流れとも合致している。

(4)今回の改訂のポイント

 ここでは特に英語科に関わる改訂のポイントとして次の5点を指摘したい。第一点は、外国語

の必修化である。中学校の場合、現行指導要領では外国語(英語・ドイツ語・フランス語・その

他)は選択教科であるが、新指導要領では外国語(英語・その他)が必修となり、英語履修が原

則とされている。高等学校の場合、現行指導要領では外国語(英語・ドイツ語・フランス語・そ

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の他)は選択教科で、特に英語については「オーラル・コミュニケーションA・B・Cの中の少 なくとも1科目を履修させるよう留意すること」とされているが、新学習指導要領では外国語

(英語・その他)のうち、「オーラル・コミュニケーションI」と「英語I」が選択必修科目と なっている。現行下でも実質的には英語がほぼ必修教科同然となっている現状を追認した形になっ ているが、やはり具体的に明文化された意義は大きい。

 第二点は、各学校における自由裁量の拡大である。今回、教科の枠組みに縛られない「総合的 な学習の時間」が小・中・島すべての段階において新設された。「環境」「情報」「国際化」な どある程度の指針が示されているものの、具体的内容については各学校に任されている。また、

中学校においては、学年ごとに示されていた「目標」が3年間での目標として一本化され、学年 ごとの目標については、それぞれの状況に応じて各学校が独自に設定することとなった。また、

外国語の必修化に伴い、必修教科としての英語と選択教科としての英語、さらには国際理解の観 点から英語科も積極的に関与することが期待されている総合的な学習の時間を組み合わせてのカ リキュラム作成が各学校に委ねられている。一方、高等学校においては、総単位数に占める必修 単位数の割合の減少(現行では総単位数80単位に対して38単位の47.5%であるが、今回は総単位 数74単位に対して31単位の41.9%に下がっている)に付随して、選択科目の設定において学校の 独自性が発揮されることになる。さらに、従来注意書き程度に記されていた「学校設定教科」お よび「学校設定科目」が、今回の改訂では独立した項目として取り上げられている。

 第三点は、実践的コミュニケーション能力が外国語科の目標として登場してきた点である。こ れは、基本的には平成8年7月に出された中央教育審議会答申の中に見られる「生きる力」、お よび平成10年7月に出された教育課程審議会答申の中に見られる「自ら学び、自ら考える力」を 具現化させたものとして理解すべきものであろう。PracticaユCommunicative Competence(新 里1999a:68)という英訳が与えられているこの能力を、新高等学校学習指導要領はその目標 の中で「情報や相手の意向などを理解したり自分の考えなどを表現したりする」能力と定義して いる。さらに、「コミュニケーションを目的として実際に外国語を運用できる能力」(平田1999:

66)や「言語の現実的な使用場面で実際に情報や考えを伝え合うことができる能力」(新里1999 c:72)という教科調査官による公的解釈もなされているが、その具体的中身については必ずし

も明確になっていないのが現状であ乱

 第四点は、言語活動のさらなる統合化である。この傾向は、高等学校において特に顕著に現れ ている。現行指導要領では、例えば英語Iにおける言語活動の内容が聞くこと、話すこと、読む

こと、書くことの四技能ごとに別々に示されているが、新指導要領では、従来型の「聞くこと」

および「読むこと」に焦点を当てた言語活動に加えて、「聞いたり読んだりして得た情報を自分 の考えなどについて、話し合ったり意見の交換をしたりする」という具合に、複数の技能が統合 された形のコミュニケーション活動が提示されている。

 第五点は、実践的コミュニケーション能力を育てるため、従来以上に現実的なコミュニケーショ ン活動を推進していく上での参考資料となるべく「言語の使用場面と働き」が具体的に例示され ている点である。例えば、中学校の場合、「言語の使用場面」の例として、あいさつ・自己紹介・

電話での応答・買い物・道案内・旅行・食事などが、そして「言語の働き」の例として、意見を

言う・説明する・報告する・発表する・依頼する・招待する・約束する・苦情を言う・謝るなど

が挙げられている。言うまでもなく、概念・機能シラバス(Notiona1−Functiona1Syユ1abus)の

考え方を具現化したものである。従来は教科書執筆者や現場教師の裁量に委ねられていたものが、

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学習指導要領の中に明示されたことの意義は大きい。

(5)新学習指導要領の問題点

 まず、総論と各論の矛盾を指摘したい。今回の改訂においては、実践的コミュニケーション能 力の育成が英語教育の目標として明確に位置づけられるとともに、言語の使用場面および言語の 働きが例示され、教育現場で言語の現実的な使用を反映したコミュニケーション活動の積極展開 が促されている。このように学習者個々の主体性を尊重し、かっ現実的な言語の使用場面を追求 するならば語彙の拡大は必至のはずであるが、学習語彙は今回も量と質の両面において削減され ている。特に中学校の場合、3年間で学習する総語彙数が現在の1000語程度から900語程度に削 減されると同時に、必修語も現在の507語から100語に、しかも辞書的意味を持たない機能語だけ に削減されている。指導要領に例示されているような言語の使用場面や言語の働きを教室の中で 実現する上で、この語彙の削減は明らかにマイナス材料である。生徒に将来自分がつきたい仕事 を表現させようとすれば、当然多様な職業を表す単語が必要となるであろうし、道案内をするに しても多様な建物を示す単語が必要になってくる。買い物場面でもしかり。魚屋さんに行って

「魚を下さい」ではコミュニケーションは成立しない。自分が必要な魚の種類を示す単語が必要 なのであ乱このようなコミュニケーションにおける語集の重要性もさることながら、言語学習 を推進していく上での語彙、しかも内容語の重要性も指摘される中で(Widdowson1990)・今 回の改訂は総論レベルと各論レベルで矛盾をきたしていると言わざるを得ない。

 二つ目の問題点は、アカウンタビリティ(説明責任)への及び腰である。今回の改訂に際して、

外国語の目標の下位項目の提示1順序には大きな変化が見られる。表4に見られるように、現行で は言語認識や異文化理解さらには国際理解という情意面での目標に重きを置く目標設定がなされ ているが、今回は明らかに実践的コミュニケーション能力の育成という技能面の目標が重視され ている。これは、教育効果に対するアカウンタビリティ(説明責任)への積極的姿勢を表現して いるとも言えなくはない。しかし、新指導要領を詳細に検討してみると、このアカウソタビリティ ヘの積極的姿勢はどこかに霧散している。本来ならば実践的コミュニケーション能力を育成する ためのプロセスを段階的(学年ごと)に明示するのが筋である。アカウンタビリティの面では日 本より蓬かに進んでいる欧米では、この傾向がますます強くなっている。しかも、財政的・人的 教育投資に見合った現実的な学年目標(outcomesやexpectati㎝sという用語が使用される)を 学年ごとに細かく設定する傾向にある(cf.OME1998)。さもないと、アカウンタビリティの 点で自分で自分の首を絞めることになるからである。ところが、今回の改訂に当たっては、中学 校において学年ごとに設定されていた目標が撤廃され、各教育現場に委ねられている。学校裁量 の範囲内としてアカウンタビリティを教育現場に押しつけているとも言えなくはない。日本では 伝統的に目標は高ければ高いほどよいという考え方が支配的で、現実的で限定された目標設定を 忌避する伝統がある。アカウソタビリティヘの及び腰はいわばその副産物とも言える。

 三つ目の問題点は、学習者にとってのauthenticityの追求が不十分である点である。なるほ

ど、新指導要領においては現実的で具体的な言語の使用場面、つまりauthenticな場面でコミュ

ニケーション活動を行うことの重要性が強調されているが、実際に例示されている言語の使用場

面は、必ずしも学習者にとってauthenticではないものが多く含まれている。英語による電話で

の会話や英語での買い物などはその典型であろう。本来、外国語の学習がauthenticであるかど

うかは、①言語材料、②対象、③目的、④社会的状況の四つの観点から総合的に判断されるべき

ものであるが(Breen1985)、新指導要領では第①の観点からのauthenticityの追求が際たつ

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ていると言わざるを得ない。もっと教育対象が日本という国において学校教育の一環として英語 を学んでいる中学生・高校生であることを意識したauthenticityの追求が必要であろう。

        3.これからの英語教育に求められる三つの指針(Thre61 s)

 以上、新学習指導要領の特徴と問題点を英語教育の観点から考察してきたが、ここではそこで の議論を踏まえて、これからの英語教育に求められる指針を三つのキーワードに託して述べるこ とにする。

(1)インターラクション(Interaction)

 21世紀の英語教育を方向づける最初のキーワードは、インターラクション(相互作用)である。

しかも、そのインターラクションは次の三つのレベルで追求していく必要がある。まずは学習者 個人の中でのインターラクシ目ンである。これは、コミュニケーション活動を主体とした全体学 習と語彙学習や文法学習を主体とした部分学習の間のインターラクション、覚える学習を主体と した連合学習(item−1earning)と分かる学習を主体とした関係学習(SyStem−1eaming)の間の インターラクション、さらにはリーディング指導で特に重要視されるところの、全体から個に向 かうtop−down processingと個から全体に向かうbottom−up processingの間のインターラクショ

ン等を包摂するものである。従来の英語教育においては、教授法流行の流れの中でこれらの学習 方略のどちらか一方に傾斜した指導法が力説される傾向にあった。新指導要領が目標としている 実践的コミュニケーション能力を習得するためには、やはり相補関係にある異なる学習方略の間 のインターラクションが強く望まれる。

 次は教室の中でのインターラクションである。この中には、従来から強調されている教師

(ALTも含む)・教材・生徒という授業の三大構成要素の間のインターラクションに加え(伊東 1997a)、ペアー学習やグルーブ学習、あるいはCooperative1eamingやConaborative1eami㎎

(Oxford1997)の形での学習者の間でのインターラクションも含まれる。最近コミュニケーショ ン能力の育成という点で関係者の注目を集めているTask−Based Approachにおいては、学習者 間のインターラクションが教室内の学習活動の軸として位置づけられている。

 三つ目は社会の中でのインターラクションであ孔この度新設されることになった総合的な学 習の時間は、英語授業と地域との間のインターラクションを前提とするものであり、今日急速な 勢いで進行している世界の国際化・情報化は英語授業と世界との間のインターラクションの重要 性を日々増大させている。21世紀の英語教育においては、インターネットを利用したこの第三の

インターラクションが特に大きな意味を持ってくるものと予想される。

(2)インテグレーション(Integration)

 21世紀の英語教育を方向づける二つ目のキーワードは、インテグレーション(統合)である。

このインテグレーションも以下の三つのレベルで構想する必要がある。その第一は、新学習指導 要領でも目指されている四技能の統合である。本来、言語コミュニケーションという行為は、特 殊な場合を除いて複数の異なる言語スキルが統合された形で機能するのが普通である。教室での コミュニケーション活動もなるべく複数の技能を統合させた形で展開することが肝心であろう。

Audio−Li㎎uaユApproachの時代においてもこの四技能の統合は重要視されていたが、その統合 は学習内容を強化するための統合であった。今求めれているのは、学習内容を深化し、発展する ための統合であり(伊東1999)、授業形態も大胆に変革していく必要がある。

 第二は言語形式と言語使用場面および言語機能の統合である。構造シラバスに準拠していた従

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来型の指導法の問題点は、言語形式をその使用場面や機能と切り離した形で指導していた点にあ る。コミュニケーションというものは、特殊な場合を除き、特定の目的のために特定の場所で営 まれる言語行為である。故に、例えば4∫ωerεツ。砒〜という仮定法過去の英文は、 「現実の反 対を仮定した場合の表現」と指導するよりは、「困っている友人に助言するための表現」として 指導した法が実践的コミュニケーション能力に繋がりやすい。

 第三は、言語形式と学習内容の統合である(Swain1996)。すでに述べたように、世界の英語 教育の流れは、英語についての学習から英語での学習に移行しつつある。つまり、外国語として の英語教育がバイリンガル教育の一貫として位置づけられっっあるのである。最近注目を集めて いるContent−BasedApproach(Brintoneta工.1993)もこの流れに沿ったものであり、カナダ のImmersion program(伊東1997b)はその最先端を走っている。国際化・情報化がますます 進展する21世紀においては、英語で何を学び、何を伝えるかが重要になってくる。

(3)イニシアティブ(Initiative)

 21世紀の英語教育を方向づける三つ目のキーワードは、イニシアティブ(主体性)である。今 回の指導要領改訂の基本理念となっている「生きるカ」 (中央審議会答申)や「自ら学び、自ら 考える力」 (教育課程審議会答申)はこのイニシアティブと深く関わっている。英語科の中心的 課題となっている実践的コミュニケーション能力の育成においても、コミュニケーションの受け 手に終始することなく、生徒一人ひとりが情報や考えの送り手として「自分の考えや意見を持つ こと」の重要性が強調されている(新里1999b:10)。従来の英語教育が受信型でありすぎたと いう反省に立ち、これからの英語教育は何よりもまず、「日本人としての、自分の借り物でない 意見や考えを、外に向かって外国語で立派に言える人」を養成していくべきだという主張も聞か れる(鈴木1999170)。要するに、これまでの英語教育においては学習者の自己や主体性との関 わりがあまりに希薄であったように思え乱受信型の教育ではそれでもさほど問題は生じなかっ たかもしれないが、主体性のない発信型の教育など想定できない。この点で筆者は、1970年代に 詰め込み型の教育(banking education)を批判し、社会の現実に根ざした主体性を学習者から 引き出す手段としての問題解決型の学習(prob1em−posi㎎education)の重要性を強調したブラ

ジルの教育学者P.フレーレ(Freire1972)および彼の教育理論を外国語教育に適用するための 方略を論じたT.グラマン(Graman1988)に再度注目している。

4.おわりに

 最後に、日本の英語教育に課せられた課題の大きさを如実に物語っている統計表で本稿を締め くくりたい。表5は国際教育到達度評価学会(lEA、本部はオランダ)が1994年度学期末に41ケ 国の中学生を対象に行った第3回数学・理科到達度国際比較調査の結果(時事通信1996)と国 際的な英語能力試験として定着しているTOEFLの国別平均点(ETS1998)を一つにまとめた

ものである。理科と数学ではともに世界第3位でありながら、英語においてはアジアで最下位、

世界169ケ国中153位と低迷している。特に数学や理科の分野における英語の重要性を考えると、

英語教育に課せられている課題の大きさは計り知れないものがある。今回の指導要領の改訂で公

立小学校においても総合的な学習の時間を利用して英語教育を行うことが可能になったが、地球

語としての英語の重要性を考えると、このような玉虫色的な改革ではなく、カナダやシンガポー

ルが行っているような明確な言語政策に基づく外国語教育が21世紀の日本にも必要になってくる

ことは必至であろう。

(11)

表5 一般学力と英語力の比較

国際数学・理科教育調査(中学校) TOEFL平均点

国   名

数学(1OOO点) 理科(1000点) 1995年 1999年

シンガポール 643.3 1位 607.3 1位 593点 603点

韓国 607.4 2 564.9 4 510 522

日本 604.8 3 571.O 3 494 498

香港 588.0 4 522.1 24 510 523

ベルギー 565.2 5 550.3 11 595 599

チェコ 563.7 6 573.9 2 561 567

スロバキア 547.1 7 544.4 13 562 566

スイス 545.4 8 521.7 25 571 581

オランダ 541.1 9 560.1 6 607 612

スロベニア 540.8 1O 560.1 7 579 586

国 際 平均 513(41ケ国) 516(41ケ国) 534(182ケ国) 540(169ケ国)

引用文献

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