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管理職年俸制と職能給

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管理職年俸制と職能給

その他のタイトル Annual Salary System for Middle Managers and Skill‑Based Pay System

著者 正亀 芳造

雑誌名 關西大學商學論集

巻 45

号 2

ページ 221‑243

発行年 2000‑06‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00019044

(2)

関 西 大 学 商 学 論 集 第45巻第2 (20006月 (221)  105 

管理職年俸制と職能給

正 亀 芳 造

I. 

近年の経営環境の変化を背景に,我が国企業は賃金制度の改革に着手し つつある。労働省の調査によれば, 1994年から96年までの3年間に賃金制 度の何らかの改定を行った企業は,従業員30人以上企業の半数, 1000人以 上の大企業の場合にはその6割に達している(表1参照)。これに,この3 年間には改定しなかったものの97年からの3年間に改定予定の企業1)を含 めると, 1994年から99年までの6年間に賃金制度を改定した企業は, 30 以上企業の3社に2社 1000人以上の大企業の場合には実にその8割に及 ぶことになる。正に, 1990年代は賃金制度改革の時代と呼ぶことができる。

それでは,いったい賃金制度の何が改定されているのだろうか。先の労 働省調査によると, 1994年からの3年間に賃金制度を改定した従業員1000 人以上の大企業についてみれば,「業績・成果に対応する賃金部分の拡大」

が最も多く,「職務遂行能力に対応する賃金部分(すなわち職能給)の拡大」

がこれに次いでおり,それぞれ 5割と 4割の企業がこれらを実施している

1参照)。また, 1997年からの3年間に貨金制度の改定を予定している 企業についてみても,この2項目を挙げる企業が最も多く, 30人以上企業 2社に1 1000人以上の大企業の場合にはそれぞれ7割と 6割の企業

1)労働省政策調査部編 [1998] 196197頁参照。

(3)

45 2

1 過去3年間(1994 1996年)の賃金制度の改定およぴ改定内容別企業数割

(単位:%)

過去3年間に改定を行った 改定実施企業を100とした場合 賃金制度の改定内容

30計上 1,000人以上

30計上 1,000人以上 管 理 職 一 般 職 管理職 一般職 昇給幅の拡大 11.9  15.7  13.8  12.8  23.9  25.4  25.0  25.2  昇給幅の縮小 23.3  18.4  17 .2  15. 7  46.9  29. 7  31.1  30.9  定期昇給の廃止 3.8  6.3  6.2  2.0  .6  10.2  11.2  3.9 

「職務給」部分の拡大 12.1  12.8  10.1  8. 7  24.3  20.7  18.3  17.1 

「職能給」部分の拡大 15.7  24.5  21.1  20.0  31.6  39.6  38.2  39.4  業績・成果対応賃金都分の拡大 15.0  28.2  25.1  19.7  30.2  45.6  45.4  38.8  手当を縮減し基本給へ1l1み入れ 4.9  8. 7  7.1  5.1  9.9  14.1  12.8  10.0  賃金表の導入 9.0  7.7  .8  13. 7  14.5  13.9  15.4  職能資格制度の改定・禅入 7.8  17.2  13.2  14.4  15.7  27.8  23.9  28.3  複線型賃金体系の改定・導入 1.3  5.1  3.4  3.7  2.6  8.2  6.1  7.3  年俸制の改定・導入 3.0  9.1  8.4  1.4  6.0  14. 7  15.2  2.8  甚本給抑制,賞与拡大 3.5  3.5  3.0  2.3  7.0  5. 7  5.4  4.5  49. 7  61.9  55.3  50.8  100.0  100.0  100.0  100.0 

(注)賃金制度改定内容は複数回答のため,その合計値は計と一致しない。

賃金制度改定内容は,簡略化のため,表記を一部変えている。

(出典) A欄は,労働省政策調査部編[1998]190195 B欄は, A欄をもとに箪者が算定した。

がこれらを挙げている(表2参照)。これら 2項目は,いずれも賃金体系な いし賃金決定原理に関わるものである。したがって, 90年代の賃金制度改 革の焦点は,賃金決定原理の修正ないし変更に当てられているとみること ができる。

ところで, 1980年代には,我が国の企業,特に大企業の多くは,賃金体 系として,職能給と年齢給からなる職能給体系を採用してきた。それゆえ,

90年代の賃金制度改革は,この職能給体系の改革を意味している。それで は,この改革は如何なる方向を目指しているのであろうか。この点に関し ては,表1および2からも読み取れるように,次の3つに大別することが できよう。

1は,基本給に占める職能給のウェイトを拡大し,職能給を強化する 方向である。第2は,職能給を基本としながらも,賃金の決定基準として

(4)

管理職年俸制と職能給(正亀) (223)  107  2 今後3年間(1997 1999年)に賃金制度の改定予定およぴ改定予定内容

別企業数割合 (単位:%)

今後3年間に改定を予定 改定予定企業を100とした場合 賃金制度の改定内容

30 1,000人以上

30 1,000人以上 管 理 職 一 般 職 管理職 一般職 昇給幅の拡大 12.2  13.8  12.1  12.5  24. 7  22.6  21.5  22.6  昇給幅の縮小 16.3  11.6  10.6  9.6  33.0  19.0  18.9  17.4  定期昇給の廃止 5.3  7.5  6.5  4.5  10. 7  12.3  11.6  8.2 

「職務給」部分の拡大 19.8  26.9  22.6  22.0  40.1  44.0  40.2  39.9 

「職能給」部分の拡大 27.2  37.0  29.9  33. 7  55.1  60.6  53.2  61.1  業績・成果対応貨金蔀分の拡大 27.2  42.3  36.3  35.6  55.1  69.2  64.6  64.5  手当を縮滅し基本稔へ罷み入れ 5.3  10.7  8.5  9.2  10. 7  17.5  15.1  16. 7  賃金表の導入 12.6  13.6  11.8  12.2  25.5  22.3  21.0  22.1  職能資格制度の改定・導入 16.1  26.9  21.2  24.5  32.6  44.0  37. 7  44.4  複線型賃金体系の改定・導入 5. 7  21.0  18.3  17.2  11.5  34.4  32.6  31.2  年俸制の改定・導入 8.8  22.3  21.9  4.4  17.8  36.5  39.0  8.0  基本給抑制,賞与拡大 8.3  9.1  8.2  6.6  16.8  14.9  14.6  12.0  49.4  61.1  56.2  55.2  100.0  100.0  100.0  100.0 

(注)前掲表1と同じ。

(出典)前掲表1と同じ。

職務遂行能力のみでなく,その発揮された結果である業績・成果も加味し たり,業績・成果に対応する賃金部分を拡大する方向である。年俸制の導 入もこの方向に含めることができる。第3は,賃金の決定基準を能力から 仕事に転換し,職能給に代えて職務給を導入し拡大する方向である。

これら3つの改革方向のうち,全体的には前 2者を目指す企業が相対的 に多数を占めている。従業員1000人以上の大企業に関しては,この傾向が 特に顕著であり, しかも前2者のうちでは第2の方向を目指す企業がやや 優勢である。この第2の方向に含まれる年俸制に関しては,管理職と一般 職とでは異なり, もっぱら管理職を対象にこれを導入する動きが認められ

そこで,本稿では,この90年代における職能給改革の1つである管理職 年俸制に着目し,その実態と特徴を明らかにしたいと思う。ところで,管

(5)

108 45 巻 第 2

理職に年俸制を導入するに至る背景には,それまで適用されていた職能給 が何らかの問題を卒み, 90年代の経営環境の下ではもはやその適用が限界 に達したことが考えられる。そこで,まず,次節では,管理職に年俸制を 導入する背景となった職能給の問題点と経営環境の変化を概観したいと思

7

II.  職能給の問題点と経営環境の変化2)

職能給は,元米は, 1960年代に年功序列賃金=生活給体系を職務給へ転 換するための「過渡的移行型」として構想された。だが,我が国企業の雇 用慣行や当面する労務管理上の諸問題に職務給よりも有効に対処しうるこ とから, 60年代の末以降はむしろ職能給化が追求されるようになり,特に 80年代には管理職ポスト不足への対応策として職能給化に一層の拍車がか かった3)

だが, 80年代に展開された職能給は,その仕組みと運用において次のよ うな問題を内包していた。

職能給の場合,個々の従業員の賃金は概ね次のような仕組みで決まる。

まず,職務遂行能力を分類・体系化した職能資格制度をもとに,従業員は その職務遂行能力に応じた職能等級に格付けられる。賃金は,この職能等 級別に設定されるが,等級別の賃率額は1本ではなく,一般には,号に細 分化されるなどして複数の賃率額が設定されている。それゆえ賃金は,従 業員が格付けられた職能等級と号数によって決まることになる。そしてそ 2)この節の記述は,次の拙文に依拠している。正亀芳造[2000]3(138140 なお,年俸制導入の背景要因については,次の文献を参照。奥林康司 [2000] 148 151頁,福田義孝 [1997] 1316頁,これからの賃金制度のあり方に関する研究会編

[1996]  1315頁,日経連職務分析センター編 [1996] 1120頁,平尾武久 [1996] 133150頁,福田義孝 [1966]3035

3)昭和30年代における職務給化の試みと,それが根付かずに職能給化へ至る事情に ついては,次の拙文で述べている。正亀 [2000] 135138

(6)

管理職年俸制と職能給(正亀) (225)  109 

の後は,次の2通りの方法で賃金の増額=昇給がなされる。 1つは,職能 等級の格付けが上がる「昇格」に基づく昇給であり,今1つは同一等級内 の仕事への習熟に基づく昇給である。前者の昇格昇給は,段階的な能力の 向上に基づいており, したがって定期的に行われるわけではないが,後者 の習熟昇給は,経験年数に依存しており,定期的に(毎年)行われる。そ して,昇格と昇給に際して活用されるのが人事考課であり,その結果が昇 格の可否や昇給額の多寡に影響を及ぼすことになる。

こうして職能給は,習熟に伴う定期昇給を内包することにより,年齢を 経るに連れて賃金が上昇する年功賃金カープを描くことになる。その上,

昇格に関する次のような考え方により,従業員の高資格化を招く可能性も 秘めていた。

例えば,この時期の職能給の普及に貢献した楠田丘氏は,管理職ポスト 不足への対応策として,昇格と昇進を分離し,昇進は組織配置の理論に徹 するのに対し,処遇は昇格で行うことが適切であるとした上で,昇格に関 して次のように述べておられる丸昇格は「各等級の職能要件を満たせば上 位等級に昇格するといったように,いわゆる卒業方式をとる。」「卒業は取 り消されることはないから,職能資格には原則として降格はない。」「卒業 すれば昇格させねばならないから,職能資格制度に定員はない。」「卒業方 式であるから,やらせてやれるかどうかをみるといった事後評価,つまり 人事考課で昇格は運用される。」こうして,賃金を能力と結ぴつけ,昇格す れば昇給する職能給により従業員の高資格化が刺激されることとなる。こ の傾向は,年齢や勤続年数に応じて昇格させるといった職能給の年功的な 運用によってもさらに助長された。

こうして,経済の低成長と高齢化の進展,加えて団塊の世代の管理職適 齢期への到達,これらに伴う管理職ポストの不足,さらには職能給の年功 的運用を背景に,従業員の高資格化が促進されることとなった。

4)楠田丘 [1987] 8991

(7)

45

1 部課長クラス比率の推移

 

T ‑‑‑‑‑‑‑-~-‑‑‑‑‑‑-~-‑‑‑‑‑‑‑‑. ;

1976  1981 

1986  1991 

(出典)労働省編 [1998]96をもとに筆者が作成。

1996 (

1は,『賃金センサス』をもとに,部課長クラス比率の推移をみたもの である。ここで部課長クラスとは,部長および課長とそれらに相当する者 で,概ね資格制度上の部課長相当資格者と解することができる。この図か ら明らかな通り,従業員に占める部課長クラス比率は, 70年代後半から80 年代にかけて一貫して上昇しており, しかもその上昇テンポは従業員1000 人以上の大企業においてより急速であった。高資格者ほど高職能給を得る ことから,高資格者がその資格に見合った仕事を担当し,それに相応しい 業績ないし貢献を企業にもたらさない場合には,高資格化は企業に過大な 賃金コストの負担を強いることになる。

一方, 90年代に入ると企業を取り巻く経営環境に大きな変化が現れた。

バプル経済が崩壊し,国内総生産 (GDP)の成長率は80年代の実質数パー セント台から低下し,93年には0.3%と実質ゼロ成長を記録するまでになっ た(図2参照)。また,アジア諸国の成長や旧社会主義諸国の市場経済への 参入などを背景に国際競争は一段と厳しくなった。その上,円高が進行し

(対ドル円相場は, 90年の145円から95年には94円に上昇)(図2参照),そ れに伴って為替レート換算の賃金コストも増大し, 日本企業の国際競争力 が減殺されることとなった。この影響は,高資格化がより急テンポで進行

(8)

管理職年俸制と職能給(正亀) (227)  111  2 GDP実質成長率と対ドル円相場の推移(1980 98

7.0  300.00 

6.0 

s.o   .t~ .. 

. 

 j.250.00 

4.0 

3.o ‑̲̲.̲̲  _ ~ l~ ~200.00

2.0 

1.0   ̲.  ¥̲  ~150.00

o.o  ..............  ¥  i 100.00 

‑1.0 

‑2.0  50.00 

‑3.0 

‑4.0  0.00 

80  81  82  83  84  85  86  87  88  89  90  91  92  93  94  95  96  97  98  ,‑GDP実質咸長皐‑+‑‑対ドル円椙湯I

GDP実質成長率は左目盛り(%),対ドル円相場は右目盛り(円)。

(出典)労働省編 [1999]1表主要経済指標 (538543頁)をもとに筆者が作成。

した大企業ほど深刻であった。

90年代に,大企業の高資格者=管理職層を中心に年俸制の導入が試みら れるに至った背景には,こうした事情を見落とすことはできないであろう。

Ill.  年俸制の導入状況

3は,労働省の調査をもとに我が国企業の年俸制の導入状況を示した ものである。最新の1998年には,規模30人以上企業の8社に1(12.3%)

3 年俸制の採用状況 (単位:%)

30人以上規模計 1000人以上 100‑999 30‑99 1994 4.3  7.9  4.6  4.0  1996 8.6  15.6  12.1  7.0  1998 12.3  25.6  15.0  10.8 

1994年および96年に関しては,労働省政策調査部編[1998]35 1998 に関しては,「平成10年賃金労働時間制度等総合調査結果速報」(http://www. jil.go.jp/kisya/daijin/991004̲01̲d/991004̲01̲d.htmllによる。

(9)

112 (228)  45 巻 第 2

が年俸制を導入している。ただ,年俸制の導入状況は,企業規模によって 差異があり,規模が大きくなるほど導入率は高く, 1000人以上の大企業で 25.6%に達し,その4社に1社がこれを導入するに至っている。

年俸制の導入時期についてみれば,表3からも窺えるように, 90年代の 中頃以降の導入が特に顕著である。 30人以上の企業規模計でみれば, 94

‑98年までの5年間に年俸制導入率は隔年で4 %ポイントずつ増加し, 98 年には94年の 3倍に増加している。年俸制導入のテンポは 1000人以上の大 企業の場合に特に速く,その導入企業は, 94年には13社に1社の割合に過 ぎなかったものが96年には6社に1 98年には上述の通り 4社に1社と 急増した。

年俸制の導入が90年代の中頃以降急増している事実は,表4に示した社 会経済生産性本部の調査叫こよっても確認できる。これによれば, 97年11月 現在で年俸制を導入している71社のうち,年俸制を90年以前に導入した企 業は19.7%,  91‑94年までの4年間に導入した企業は21%であるのに対

95‑97年までの3年間だけで年俸制導入企業は56.4%と全体の過半 を占めているのである。

このように年俸制を導入する企業は90年代後半に急増しているものの,

その適用対象は未だ一部の従業員に限られている。表5は,同じく社会経 済生産性本部調査の中から年俸制の対象職位に関する部分を抜き出したも のである。同表によれば,年俸制の適用職位として最も多いのは部長クラ スで, 71社のうち9割の企業がこれを対象としている。これに次いで多い

年俸;;;入年II~

11::

t r ::   :

1::; 

1:::: 

I~::

(注)年俸制を導入している71社のうち2社は「回答なし」。

(出典)社会経済生産性本部生産性研究所 [1998]130

5)上場企業2246社を対象に9711月に実施し, 380社から回答を得ている(回答率

16.9%) (社会経済生産性本部生産性研究所 [1998]3

(10)

管理職年俸制と職能給(正亀)

5 年 俸 制 の 導 入 対 象 者

(229)  113 

(%)  役員クラス 49.3  部長クラス 87.3  課長クラス 42.3  係長クラス 2.8  専任職(管理職待遇) 26.8  一般担当職 4.2 

(注)年俸制を導入している71社を対象としたもの(複数回

(出典)社会経済生産性本部生産性研究所 [1998]132 のは役員クラスと課長クラスで,それぞれ5割と 4割の企業がそれらに適 用している6)。管理職待遇の専任職を対象に含める企業はこれらより若干 少なく, 3割弱である。これに対し,係長クラスと一般担当職に関しては,

これらを年俸制の対象とする企業はいずれも数%にとどまっている。要す るに,現時点では,年俸制はもっぱら部長クラスの上級管理職を対象とし ており,これに課長クラスを加えた管理職層が主たる対象になっていると いえよう7)。そこで次節では,管理職年俸制に焦点を当て,その実態をみる こととする。

IV.  管理職年俸制の実態

年俸制の仕組みは,賃金体系と同様に企業により多様である。そこで,

ここでは,東京ガス,富士通, HIBM3事例を取り上げ,管理職年俸 6)課長クラスを年俸制の対象に含めるか否かについては,製造業と非製造業とで大 きな差異がある。製造業では,年俸制を導入している40社のうち24 (60.0%) 課長クラスを対象としているのに対し,非製造業では31社中6 (19.4%)にとど

まる。社会経済生産性本部生産性研究所 [1998] 132頁参照。

7)年俸制の適用対象がもっばら管理職になっている点に関しては,労働省調査にお いても同様に認められる。 1994年の時点において,年俸制を導入している従業員30 人以上の企業について年俸制の職種別適用企業数割合をみれば,管理職に適用する 企業が最も多く80.0%を占め,以下,専門職22.8%,営業職18.3%,研究職11.5%, 事務職7.9%となっている(労働省「賃金労働時間制度等総合調査」(労働大臣官房 政策調査部編 [1997]201

(11)

45 巻 第 2

制の仕組みと特徴を考察したい8)。ちなみに,東京ガスは部長クラスの上級 管理職を対象とするのに対し,後2者は課長相当以上の管理職層を対象と している。また,前2者は,職能給体系から年俸制へ移行した事例である のに対し, 日本IBMは職務給体系からの移行事例である。

(1)  東京ガスの事例9)

東京ガスは, 19907月から職能資格14級および15級の幹部社員(本社 の部長クラス,事業本部の副本部長クラス)を対象に年俸制を導入した。

同社の年俸制導入の目的は,次の3点にまとめられる。

(i)年功的要索の「年齢」「勤続」「昇進時期」や,属人的要索の「家族 状況」に関係なく,前年度の業績によって年間収入が確定する年俸制 の導入によって,業績主義・能力主義をより徹底し,会社戦略・課題 の確実な実行を促進する。

(ii)他の社員と全く異なる体系で, しかも一般的に役員に適用されてい る年俸制を適用することにより,部長層に対して経営陣の一員として

8)  3事例を選ぷに際しては,以下の文献をもとにした。これからの賃金制度のあり 方に関する研究会編 [1996],日経連職務分析センター編 [1996],労政時報別冊

[1997],  日経連出版部編 [1998]。これら4文献には,全部で21社の年俸制事例が 掲載されている。このうちの1事例は特定者(特別研究員)対象の年俸制で, 2 例は全社員対象残りの18事例はすぺて管理職対象のものである。この18事例の中 から,年俸額の決定に関わる個人業績の評価方法など年俸制の仕組みの記述が詳し く,かつ年俸制の特徴を明らかにする上で不可欠な旧給与体系の説明のある7事例 に絞り,適用対象と旧給与体系を考慮してやや恣意的ではあるが最終的に3事例を 選定した。なお, 18事例を,年俸制の導入年順に示すと次の通りである(*印を付 したのは,上述の7事例に当たる)。 1989年以前:ソニー,サンスター, リヨービ。

1990年:東京ガス*。 1991年:藤沢薬品工業。 1992年:グレースジャパン,長谷工 コーポレーション*。 1993年:科研製薬。 1994年:日本 IBM*• 日野自動車工業,

富士通*• HOYA* 。 1995年:ベネッセコーポレーション*• T B1996年:

オリンパス光学工業,横河電機*,住友セメントシステム開発。 1997年:資生堂。

9)東京ガスの事例については,特に断らない限り次の文献に依拠している。日経連 職務分析センクー編 [1996] 158172頁,労政時報別冊 [1997]290295頁,社会経 済生産性本部編 [1994] 173189

(12)

管理職年俸制と職能給(正亀)

の自覚をより一層促す。

(231)  115 

(iii)社員のトップ層に業績主義,能力主義の年俸制を導入することによ り,組織全体の活性化に資する。

こうした目的の下に導入された年俸制の仕組みは,次の通りである10)

年俸額は,「月俸」部分と「賞与」部分とからなる。前者の月俸部分は職 能給であり,職能資格・ランク別に定額が設定されている。 1資格につき 2ランクあるため,月俸は4段階に分かれる。なお,月俸額は,春の一般 職の賃金改定を踏まえた13級の年収増加率と照合して毎年書き換えられる

ことになっている。

一方,賞与部分は,業績によって決まり,職能資格・ランクに関わらず,

成績別に金額が設定されている。成績は, S,AA, A',  A, AB5段階に 分かれ, 1段階につき当初は50万円 (93年度からは60万円に拡大)の格差 が付けられ, したがって賞与の上下格差は200万円 (93年度以降240万円)

となる。

年俸額は,以下のプロセスを経て決定される。

年俸のうち月俸部分は,職能資格・ランクにより自動的に決まる。毎年 7月に行われる「昇格」に該当すれば,昇給することとなる。

これに対し,賞与部分は, 4月から翌年3月までの1年間の業績評価に 基づいて決まる。この業績評価は,目標管理制度を援用し,以下の手順で 行われる。

(i)年度始めに担当取締役と面接し,今期の目標・課題を設定する。

(ii) 1年後に,目標に対する自己評価をした上で担当取締役と面接する。

(iii)担当取締役は,面接で本人の自己評価を確認した上,分布に従って 相対評価を行う (93年度からは,基準をA'に置く絶対評価に変更)。評 価項目は,業務目標の達成度,部下の育成度,変革へのチャレンジ状 10)東京ガスの年俸制度は, 90年の導入以降部分的に改定されている。ここで述ぺる のは,特に断らない限り, 90年の導入当初のものである。他の2事例についても同 様である。

(13)

第 45 巻 第 2

況の3項目で,各項目について個別評価した上で, 5段階の総合評価 を行う。

以上の目標の設定,自己評価,上司の評価には1枚のミッションシ ートが用いられ,そこに記録される。

なお,本人は,上司に自己評価をアピールできるが,決定された評 価結果に対して異議を申し立てることはできない。

(iv)人事部は,全員の業績評価結果を回収し,評価のばらつきをチェッ クし,考課者(担当取締役)と協議の上で調整する。その後,考課結 果(個人別年俸)を社長に提出し,決済を受ける。

こうして決定された年間賞与額と月俸額を合計した年俸額が6月末 に本人に通知される。

以上が東京ガスの年俸制の概要である。この年俸制の特徴は,それを導 入する以前の給与体系と比較することによってより明確になろう。旧給与 体系は,基準内賃金と賞与に大別され,図3のような構成になっていた。

3 東京ガスの年俸制と旧給与体系

丁 立

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二 戸

丁 ' し 丁

﹈ 

【年俸制】

} 月 俸

X12 

} 年 間 賞 与

旧体系から年俸制に移行することによって生じた大きな変化は,次の2 点である。 1つは,旧体系の基本給には定期昇給があったのに対し,年俸 制ではこれがなくなったことである。年俸制では,年齢給,勤続給,職能 給,家族手当等に分かれていた給与項目が廃止され,月俸=職能給に1 化された。旧体系では,本人給のみでなく,職能給に関しても毎年1号俸

参照

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