ゾシン静注用 2.25,同 4.5
ゾシン配合点滴静注用バッグ 4.5
第 2 部(モジュール 2)
:CTD の概要(サマリー)
2.5 臨床に関する概括評価
目次
2.5
臨床に関する概括評価 ... 8
2.5.1
製品開発の根拠 ... 8
2.5.1.1
薬理学的分類及び作用機作 ... 8
2.5.1.2
国内及び外国での承認状況 ... 8
2.5.1.3
発熱性好中球減少症の臨床的/病態生理学的側面と問題点 ... 9
2.5.1.4
発熱性好中球減少症に対して臨床試験を行ったことを支持す
る科学的背景 ... 22
2.5.1.5
開発計画... 23
2.5.1.6
試験デザイン及び GCP 遵守に関する記述 ... 28
2.5.1.7
開発計画全体に対する申請のタイミングの妥当性 ... 28
2.5.2
生物薬剤学に関する概括評価 ... 28
2.5.3
臨床薬理に関する概括評価 ... 28
2.5.3.1
薬物動態... 28
2.5.4
有効性の概括評価 ... 30
2.5.4.1
国内で実施した試験 ... 37
2.5.4.2
外国で実施した試験 ... 44
2.5.4.3
国内と外国での臨床試験における有効性の比較 ... 53
2.5.4.4
観察された効果の大きさと臨床意義 ... 62
2.5.5
安全性の概括評価 ... 62
2.5.5.1
安全性評価計画 ... 63
2.5.5.2
患者集団の特徴及び曝露の程度,安全性データベースの限
界 ... 65
2.5.5.3
比較的よく見られる有害事象 ... 66
2.5.5.4
死亡及びその他の重篤な有害事象 ... 74
2.5.5.5
その他の重要な有害事象 ... 75
2.5.5.6
国内での臨床試験成績との比較 ... 75
2.5.5.7
国内での製造販売後における安全性 ... 87
2.5.5.8
国内試験からの安全性の総括 ... 89
2.5.5.9
外国での安全性 ... 91
2.5.5.10
クラス・エフェクト ... 103
2.5.5.11
安全性評価のまとめ ... 105
2.5.6
ベネフィットとリスクに関する結論 ... 106
2.5.6.1
ベネフィット ... 106
2.5.6.2
リスク ... 107
2.5.7
参考文献 ... 110
図一覧図 2.5.1.1-1 本剤の構造 ...8
表一覧
表 2.5.1.2-1 外国での承認状況 ...9
表 2.5.1.3.1-1 発熱性好中球減少症の定義 ... 10
表 2.5.1.3.1-2 FN の診断及び治療体系 ... 13
表 2.5.1.3.1-3 FN の推定原因菌 ... 15
表 2.5.1.3.1-4 臨床試験において分離された原因菌の菌株数及び感受性 ... 16
表 2.5.1.3.1-5 成人及び小児の発熱性好中球減少症の主要な原因菌の本剤に対する
感受性(単位:
μg/mL) ... 17
表 2.5.1.3.2-1 MASCC スコア ... 18
表 2.5.1.3.2-2 国内外の FN 診療ガイドラインにおける本剤の位置付け ... 20
表 2.5.1.4-1 本剤に対する臨床分離菌の感受性と薬物動態-薬力学解析 ... 23
表 2.5.1.5.2-1 臨床試験一覧表(国内) ... 26
表 2.5.1.5.2-2 臨床試験一覧表(外国) ... 27
表 2.5.3.1.1-1 健康成人及び成人患者集団における PK パラメータの比較 ... 29
表 2.5.3.1.2-1 小児患者集団における PK パラメータの比較 ... 30
表 2.5.4-1 好中球減少症患者の感染の定義,経験的抗菌薬治療による有効性評価基
準 ... 31
表 2.5.4-2 国内第 III 相試験(10038080 試験)と海外第 III 相試験の患者組み入れ基
準,評価項目及び併用薬 ... 34
表 2.5.4.1-1 有効性の評価に用いた国内臨床試験 ... 37
表 2.5.4.1.3.1-1 投与 4 日目の解熱効果(成人,評価時点の好中球数別):PPS ... 38
表 2.5.4.1.3.1.1-1 原因菌別の投与 4 日目の解熱効果(成人):PPS ... 39
表 2.5.4.1.3.2.1-1 投与 7 日目の解熱効果(成人,評価時点の好中球数別):PPS ... 39
表 2.5.4.1.3.2.2-1 投与終了/中止時の解熱効果(成人,評価時点の好中球数別)
:PPS
... 40
表 2.5.4.1.3.2.3-1 投与 7 日目及び投与終了/中止時の臨床効果(成人,評価時点の好
中球数別)
:PPS ... 40
表 2.5.4.1.3.2.3.1-1 原因菌別臨床効果(成人):PPS ... 41
表 2.5.4.1.3.2.4-1 細菌学的効果(有効率及び菌消失率)(成人):PPS(細菌学的効
果評価対象例) ... 42
表 2.5.4.1.4.1-1 投与 4 日目の解熱効果(小児,評価時点の好中球数別):PPS ... 42
表 2.5.4.1.4.2.1-1 投与 7 日目の解熱効果(小児,評価時点の好中球数別):PPS ... 43
表 2.5.4.1.4.2.2-1 投与終了/中止時の解熱効果(小児,評価時点の好中球数別)
:PPS
... 43
表 2.5.4.1.4.2.3-1 投与 7 日目及び投与終了/中止時の臨床効果(小児,評価時点の好
中球数別)
:PPS ... 44
表 2.5.4.2-1 有効性を評価した外国の臨床試験一覧表 ... 45
表 2.5.4.2.1-1 臨床効果 ... 46
表 2.5.4.2.1-2 顆粒球数別での臨床効果 ... 47
表 2.5.4.2.1-3 細菌学的効果 ... 47
表 2.5.4.2.2-1 臨床効果(全患者) ... 48
表 2.5.4.2.2-2 細菌学的効果(全患者) ... 49
表 2.5.4.2.3-1 治療に対する全体的反応 ... 49
表 2.5.4.2.3-2 4 日目及び 7 日目における発熱への反応(初めて治療した全患者)
... 50
表 2.5.4.2.4-1 臨床効果 ... 50
表 2.5.4.2.5-1 発熱エピソードと治療への効果 ... 51
表 2.5.4.2.6-1 治療効果 ... 52
表 2.5.4.2.7-1 各試験群の治療効果と臨床転帰 ... 52
表 2.5.4.2.8-1 臨床効果(全患者) ... 53
表 2.5.4.2.8-2 細菌学的効果(全患者) ... 53
表 2.5.4.3-1 国内外の試験で用いられている原因菌の感受性標準 (µg/mL,感受性
域のみ記載) ... 55
表 2.5.4.3-2 国内試験と海外試験の標準で算出した国内臨床分離菌
1)の本剤感受性
率 ... 56
表 2.5.4.3-3 国内臨床第 III 相試験と外国の臨床試験の患者組み入れ基準及び臨床効
果の判定基準 ... 57
表 2.5.4.3-4 国内及び外国で発熱性好中球減少症を対象として実施された臨床試験
成績の概要 ... 61
表 2.5.5.1-1 安全性の評価に用いた臨床試験 ... 64
表 2.5.5.1-2 外国臨床試験一覧表 ... 64
表 2.5.5.3-1 最高発現グレード別有害事象(成人)発現患者数及び発現割合 ... 68
表 2.5.5.3-2 最高発現グレード別副作用(成人)発現患者数及び発現割合 ... 71
表 2.5.5.3-3 最高発現グレード別有害事象(小児)発現患者数及び発現割合 ... 72
表 2.5.5.3-4 最高発現グレード別副作用(小児)発現患者数及び発現割合 ... 73
表 2.5.5.3.1-1 治験薬の投与中止を要した有害事象(成人) ... 74
表 2.5.5.3.1-2 治験薬の投与中止を要した有害事象(小児) ... 74
表 2.5.5.4.2-1 その他の重篤な有害事象 ... 75
表 2.5.5.6-1 国内 FN 試験(10038080 試験)及び国内既承認効能の臨床試験で認め
られた有害事象及び副作用の発現率(成人) ... 77
表 2.5.5.6-2 国内 FN 試験(10038080 試験)及び国内既承認効能の臨床試験で認め
られた有害事象及び副作用の発現率(小児) ... 83
表 2.5.5.6-3 国内 FN 試験(10038080 試験)及び国内既承認効能の臨床試験で認め
られた一日投与回数別の有害事象及び副作用の発現率 ... 85
表 2.5.5.8.2-1 本試験及び国内で実施した小児一般感染症患者を対象とした第 III 相
試験での有害事象及び副作用の発現割合(小児) ... 91
表 2.5.5.9.1-1 発熱性好中球減少症患者に対して実施された臨床試験での患者集団
の特性 ... 92
表 2.5.5.9.1.1-1 有害事象一覧(4 例以上)(試験番号:D68P19)... 94
表 2.5.5.9.1.2-1 有害事象一覧(試験番号:D68P523) ... 96
表 2.5.5.9.1.3-1 有害事象一覧(試験番号:D68P533) ... 98
略号一覧表
略号 内容
Al-P Alkaline phosphatase:アルカリホスファターゼ
ALT Alanine aminotransferase:アラニンアミノトランスフェラーゼ AMK Amikacin:アミカシン
AST Aspartate aminotransferase:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ AUC Area under the plasma concentration-time curve:血漿中濃度-時間曲線下面積 BUN Blood urea nitrogen:血中尿素窒素
CAZ Ceftazidime:セフタジジム
CCDS Company Core Data Sheet:企業中核データシート CFPM Cefepime:セフェピム
CLT Total body clearance:全身クリアランス
Cmax Maximum plasma concentration:最高血漿中薬物濃度
CRP C-reactive protein:C 反応性蛋白
ESBLs Extended spectrum β-lactamases:基質拡張型 β-lactamase EU European Union:欧州連合
FAS Full analysis set:最大の解析対象集団 FN Febrile neutropenia:発熱性好中球減少症
γ-GTP γ-Glutamyltransferase:γ-グルタミルトランスフェラーゼ IDSA Infectious Diseases Society of America:米国感染症学会 IPM/CS Imipenem / Cilastatin:イミペネム/シラスタチン
MASCC スコア Multinational Association for Supportive Care in Cancer Risk-Index Score MedDRA/J Medical Dictionary for Regulatory Activities/J:ICH 国際医薬用語集日本語版 MDS Myelodysplastic syndrome:骨髄異形成症候群
MIC Minimal inhibitory concentration:最小発育阻止濃度 NCCN National comprehensive cancer network
PIPC Piperacillin:ピペラシリン PK Pharmacokinetics:薬物動態
PK-PD Pharmacokinetics-Pharmacodynamics:薬物動態-薬力学 PPS Per protocol set:治験実施計画書に適合した解析対象集団 PSUR Periodic Safety Update Report:定期的安全性最新報告 PT Preferred terms:基本語
SOC System organ class:器官別大分類
t1/2 Apparent elimination half-life:みかけの消失半減期
TAZ Tazobactam:タゾバクタム TOB Tobramycin:トブラマイシン Vss Distribution volume:分布容積
細菌・真菌名等の略号
略号 内容
B. cereus Bacillus cereus
Corynebacterium sp. Corynebacterium species
E. cloacae Enterobacter cloacae
E. coli Escherichia coli:大腸菌
K. oxytoca Klebsiella oxytoca
K. pneumoniae Klebsiella pneumoniae:肺炎桿菌
MDRP Multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa:多剤耐性緑膿菌
MRSA Methicillin-resistant Staphylococcus aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
S. aureus Staphylococcus aureus:黄色ブドウ球菌
S. epidermidis Staphylococcus epidermidis:表皮ブドウ球菌
2.5
臨床に関する概括評価
2.5.1
製品開発の根拠
2.5.1.1
薬理学的分類及び作用機作
ゾシン(本剤)は,広域抗菌スペクトルを有するペニシリン系抗生物質であるピペラシリン (PIPC)と,β-lactamase 阻害剤であるタゾバクタム(TAZ)を,TAZ:PIPC の力価比 1:8 の割合で 配合した注射用抗生物質である(図 2.5.1.1-1). TAZ は,1983 年に大鵬薬品工業株式会社が創製した β-lactamase 阻害剤であり,各種細菌が産 生するペニシリナーゼ,セファロスポリナーゼ及び基質拡張型β-lactamase(extended spectrum β-lactamases:ESBLs)等の β-lactamase を不可逆的に阻害するという特徴を有する1, 2) . PIPC は,富山化学工業株式会社で開発されたペニシリン系抗生物質であり,ブドウ球菌属等 のグラム陽性菌から緑膿菌を含むグラム陰性菌及び嫌気性菌に対して幅広い抗菌スペクトルを示 し,安全性に優れていたことから国内で 1979 年 5 月に承認されて以来 30 年以上に渡り広く臨床 の現場で使用されてきた3). O O S N CH3 O H H CO 2H N N N N S CH3 CH3 O H H O N H H N H N O N C H3 O O H CO 2H ・ H2O タゾバクタム ピペラシリン水和物 図 2.5.1.1-1 本剤の構造 PIPC 耐性菌の増加は主に腸内細菌科のグラム陰性桿菌,緑膿菌を含むブドウ糖非発酵グラム 陰性桿菌,嫌気性グラム陰性桿菌の産生するβ-lactamase による不活化に起因する.PIPC はこれら の菌に対して基本的に広い抗菌スペクトルを有するため,これらの菌の産生するβ-lactamase を阻 害する TAZ を配合することにより,抗菌力の回復と臨床的有用性の向上が期待され,TAZ と PIPC の配合剤の臨床開発が外国,国内で進められた.2.5.1.2
国内及び外国での承認状況
国内では,2001 年 4 月に「タゾシン静注用」(TAZ:PIPC の力価比 1:4 の配合剤,2009 年 4 月承 認整理)の承認を得たが,その適応症は「敗血症,腎盂腎炎,複雑性膀胱炎」,用法及び用量は 1 日 2.5~5 g/分 2 であり,外国に比べて適応症は狭い範囲で用量も少なかった.そこで,申請者は, 海外での本剤の用法及び用量を参考に,国内での用法及び用量を薬物動態-薬力学(PK-PD)解析 と最近の臨床分離菌の感受性状況の観点から見直し,敗血症,市中肺炎,院内肺炎,複雑性尿路 感染症及び小児細菌感染症を対象に,1 回投与量を 4.5 g(小児では 112.5 mg/kg)とする臨床試験 を実施した.本剤は,2008 年 7 月に承認され,その用法及び用量は,敗血症及び肺炎の場合,通 常 1 回 4.5 g(小児では 112.5 mg/kg)1 日 3 回投与,成人の重症・難治性肺炎では 1 日 4 回投与, 複雑性膀胱炎及び腎盂腎炎の場合,通常 1 回 4.5 g(小児では 112.5 mg/kg)1 日 2 回投与,重症・ 難治性の場合は 1 日 3 回投与となっている.また,2012 年 9 月には,腹腔内感染症(腹膜炎,腹腔内膿瘍,胆嚢炎及び胆管炎)の適応症が 承認され,その用法及び用量は,通常 1 回 4.5 g(小児では 112.5 mg/kg)1 日 3 回投与である.
外国では,本剤は 1992 年 7 月にフランスで,次いで英国,ドイツ,米国において承認され, 2014 年 8 月現在では,成人及び小児に対して呼吸器感染症,尿路感染症,腹腔内感染症,発熱性 好中球減少症(FN)を含む 9 適応症について 112 ヶ国で承認されている.これらの国での本剤の 1 回最大投与量は 4.5 g(TAZ 0.5 g,PIPC 4 g),1 日最大投与量は 18 g(TAZ 2 g,PIPC 16 g)であ る.また,2009 年の定期的安全性最新報告書(Periodic Safety Update Report:PSUR)では,本剤 の FN の効能は,66 ヶ国(小児の記載があるのは 21 ヶ国)で承認されている. 表 2.5.1.2-1 には,本剤の欧州と米国における効能の承認状況と用法及び用量を示した.欧州連 合(EU)における成人の FN 患者に対する用法及び用量は本剤の 4.5g を 1 日 4 回投与である.ま た,小児に対する用法及び用量は,90 mg/kg を 1 日 4 回投与である.なお,米国では,本剤は FN の効能を取得していない. 表 2.5.1.2-1 外国での承認状況 国名 剤型・含量 (TAZ:PIPC) 効能・効果(概略) 用法・用量(概略) 備考 EU バイアル 2.25 g (1:8) 4.5 g (1:8) 本剤感受性菌の下記感染症 成人(13 歳以上):院内及び人工呼吸器 関連の重症肺炎,複雑性尿路感染症(腎 盂腎炎を含む),複雑性腹腔内感染症,複 雑性皮膚及び軟部組織感染症(糖尿病性 脚部感染を含む),発熱性好中球減少症 小児(2 から 12 歳):複雑性腹腔内感染 症,発熱性好中球減少症 成人(13 歳以上):複雑性尿路感染症(腎 盂腎炎を含む),複雑性腹腔内感染症,皮 膚及び軟部組織感染症(糖尿病性脚部感染 を含む)では,4.5 g を 8 時間ごとに投与. 院内及び人工呼吸器関連の重症肺炎,発熱 性好中球減少症の場合では成人に 4.5 g を 6 時間ごとに投与. 小児(2~12 歳):複雑性腹腔内感染症では, 112.5 mg/kg を 8 時間ごとに投与.発熱性好 中球減少症では,90 mg/kg を 6 時間ごとに 投与(点滴静注・静注). 2011 年 9 月 19 日改 訂 版 Summary of Product Characteristics によ る. 米国 バイアル 2.25 g (1:8) 3.375 g (1:8) 4.5 g (1:8) β-Lactamase 産生菌,本剤感受性,ピペラ シリン耐性の中等症~重症の下記感染症 (成人)虫垂炎,腹膜炎,皮膚・皮膚組 織感染症(蜂巣炎,皮膚膿瘍,虚血性/糖 尿病性脚部感染を含む),産後子宮内膜 炎,骨盤内炎症性疾患,市中肺炎(中等 症のみ),院内肺炎(中等症~重症) (小児)腹腔内感染症(虫垂炎,腹膜炎) (成人)通常,3.375 g を 6 時間ごとに投与. 院内肺炎の場合,4 5 g を 6 時間ごとに投 与. (小児)9 ヶ月以上,体重 40 kg 未満の小 児には,112.5 mg/kg を 8 時間ごとに投与. 2 ヶ月以上 9 ヶ月未満は 90 mg/kg を 8 時間 ごとに投与.なお,体重 40 kg 以上の腎機 能正常な小児には成人用量を投与 (点滴静注のみ). 2012 年 5 月改訂版 Product label に よ る.
2.5.1.3
発熱性好中球減少症の臨床的/病態生理学的側面と問題点
FN の疫学と病態,国内及び外国のガイドライン及び文献等から医療環境,治療法及び問題点 に関して記述した.2.5.1.3.1
発熱性好中球減少症の疫学と病因・病態
FN は,主に悪性腫瘍や造血器腫瘍疾患の治療中に発症し,病状の進行が早いため,抗菌薬治 療の早期開始が必要な場合が多い.特に,血液疾患では,疾患自体又は治療によって好中球減少 がしばしば見られ,発熱をきたすことが多い.このような疾患は,血液培養での陽性率が低いた め,国内では不明熱や敗血症疑いとして取り扱われた. 宿主の生体防御能において,好中球は病原微生物の侵入防止と侵入時に真っ先に始動する感染 早期の中心的役割を果たしている.好中球数の減少は,防御機構の始動に対しても破綻をもたら し,細菌や真菌などの易感染化を引き起こす.癌患者の治療には手術療法,化学療法,内分泌療法,放射線などを用いた集学的治療が行われ る.抗癌剤の多くは,好中球の産生部位である骨髄に対して毒性を有している.白血病は最も強 力な化学療法によって寛解導入療法が行われる疾患の代表であり,合併症として特に好中球減少 に伴う感染症と血小板減少に伴う出血傾向は避けることができない.固形癌においても,特に肺 癌に対する化学療法は,比較的骨髄抑制作用の強い抗癌剤の併用療法が実施されることから,治 療を受けた患者に好中球減少症は比較的高頻度に認められる.また,造血幹細胞移植時の好中球 減少は,移植拒絶反応の予防と腫瘍細胞の根絶を目的とした強力な化学放射線療法によって引き 起こされ,移植された幹細胞が好中球に分化するまで継続する. FN は,後述の国内外のガイドライン4, 5)では,好中球数が 1000/μL 未満で 500/μL 未満になる可 能性がある状況下で,腋窩温で 37.5°C 以上(口腔内温≧38.0°C)の発熱が生じ,薬剤熱,腫瘍熱, 膠原熱,アレルギーなど原因がはっきりわかっているものを除外できる場合に定義される(表 2.5.1.3.1-1).癌患者においては,細菌性又は真菌性敗血症が患者死因として最も重要な因子であ るが,特に好中球減少時には原因菌の同定が困難な場合が多い.しかし,抗菌薬のエンピリック 投与により 60~70%が改善することから,FN の大半は何らかの細菌感染症によるものと考えられ ている. 表 2.5.1.3.1-1 発熱性好中球減少症の定義 日本臨床腫瘍学会4) IDSA5) 1. 発熱 腋窩温≧37.5°C(単回測定時)又は口腔内温≧38.0°C (単回測定時) 2. 好中球数 好中球数<1000 /μL で<500 /μL に減少すると予測さ れる場合 1. 発熱 口腔温≧38.3°C(単回測定時)又は≧38.0°C(1 時間以 上持続) 2. 好中球数 < 500 /mm3又は< 1000 /mm3で 48 時間以内に<500/mm3 に減少することが予測される場合 IDSA:米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America)
(1) 医療環境(FN の診断及び治療体系) 海外第 III 相試験(D68P19,D68P533,D68P542 及び D68P523 試験)実施時と現在の本邦にお ける医療環境の異同を説明するために,国内外の診療ガイドラインにおける FN の診断基準,推 定原因菌及び治療体系を調査した. 海外第 III 相試験実施時と現在の本邦における FN の診断及び治療体系を表 2.5.1.3.1-2 に示した. FN 診断について,海外第 III 相試験実施時での FN 診断基準6)は 1 回の検温(口腔温)で 38.3°C 以上,又は 38°C が 1 時間以上持続し,かつ顆粒球数が 1000 /μL 未満であった.現在の本邦での FN 診断基準4)は,腋窩温 37.5°C 以上(口腔内温 38°C 以上)の発熱,かつ好中球数が 500 /μL 未 満,又は 1000 /μL 未満で 48 時間以内に 500 /μL 未満に減少すると予測される状態とされている. 体温測定について,海外では口腔温測定値が採用され,腋窩温では深部体温を正確に反映しない 可能性があるため腋窩温の使用は推奨されていない.しかし,本邦においては口腔内温を測定す ることはまれであり,一般的に腋窩温が使用されている.腋窩温は口腔内温に比べて 0.3~0.5°C 低いため,本邦では 1 回の腋窩温 37.5°C 以上(口腔内温 38°C 以上に相当)が発熱と定義されて いる4). 好中球数減少の定義について,海外第 III 相試験の実施時では顆粒球数が 1000 /μL 未満6)であ
ったが,1997 年に報告された Infectious Diseases Society of America(IDSA)の FN 診療ガイドライ ン7)では好中球数が 500 /μL 未満,あるいは 1000 /μL 未満で近日中に 500 /μL 未満に減少する可能
性がある状態と定義された.2010 年に改訂された IDSA の FN ガイドライン5)では好中球数が 500 /μL 未満,あるいは 48 時間以内に 500 /μL 未満に減少すると予測される状態と定義された.本 邦における FN の定義では,好中球数が 500 /μL 未満,又は 1000 /μL 未満で 48 時間以内に 500 /μL 未満に減少することが予測される状態とされており,IDSA の FN ガイドラインと同様になってい る.血液疾患では好中球の貪食能や殺菌能に異常があり,好中球数は保たれていても易感染性の ことがある.リンパ系腫瘍では細胞性免疫が低下しているため,深在性真菌症,ニューモシスチ ス肺炎や単純ヘルペス,帯状疱疹ウイルスの再活性化が起こりやすい.がん薬物療法や放射線治 療を受けた患者は,口内炎や消化管粘膜障害をきたし皮膚や粘膜のバリアが破綻する結果,菌の 侵入を許し,菌血症を起こす危険性が高くなる.腫瘍による気道,消化管,胆管,尿路の閉塞も 感染症の発症リスクとなる.また,好中球減少の持続期間が長くなるほど FN を発症する頻度が 高くなる.FN の定義は,がん患者が好中球減少時に発熱した場合に抗菌薬の経験的治療を行うべ き患者を選別する目安である.好中球数の定義を満たさない場合でも,個々の患者の状態や背景 を考慮して経験的抗菌薬治療を行うべきか判断する4). 以上のように FN 診断基準については,海外第 III 相試験実施時と現在の本邦で大きな相違はな いと考える. FN の治療体系について,海外第 III 相試験実施時の治療方法6)としては下記の 1)~4)が推奨さ れ,特に 1),2)及び 4)が推奨事項を裏付けるエビデンスがあるとされていた. 1) アミノグリコシド系抗菌薬(ゲンタマイシン,トブラマイシン,アミカシン)と抗緑膿菌性 β-ラクタム系抗菌薬(チカルシリン単剤又はクラブラン酸併用,アズロシリン,メズロシリ ン,ピペラシリン)との併用療法 2) 2 種類の β-ラクタム系抗菌薬の併用療法 3) 単剤療法(セフォペラゾン,セフタジジム,イミペネム/シラスタチン) 4) バンコマイシンとアミノグリコシド系抗菌薬及び抗緑膿菌ペニシリン(又は第 3 世代セファ ロスポリン系抗菌薬)との併用療法 一方,現在の本邦4)では, 1) β-ラクタム系薬の単剤療法 2) 重症化した FN では,抗緑膿菌作用を持つセファロスポリン,カルバペネム,タゾバクタム/ ピペラシリンのうち 1 剤とアミノグリコシドもしくはフルオロキノロンのいずれかの 1 剤と の併用療法.また,MRSA を含む多剤耐性グラム陽性菌感染のリスクがあれば,抗 MRSA 薬を併用する. 3) 経験的治療として全例に抗 MRSA 薬を併用する根拠は乏しく,MRSA などの薬剤耐性グラ ム陽性菌感染が強く疑われる状況ではバンコマイシンなどの抗 MRSA 薬の併用を考慮する. 上記のことを踏まえ,本邦では FN への適応を有する薬剤としてセフェピム及びメロペネム, 適応症として有していないが十分なエビデンスの集積のある薬剤としてイミペネム/シラスタチ ン,タゾバクタム/ピペラシリン及びセフタジジムが推奨されている. 以上のように FN の治療体系については,海外第 III 相試験実施時では主にアミノグリコシド系 薬剤と抗緑膿菌性β-ラクタム系抗菌薬との併用療法が推奨され,現在の抗緑膿菌性 β-ラクタム系 抗菌薬での単剤療法という本邦での治療体系とは異なっているが,いずれにしても抗緑膿菌作用 を有する抗菌薬をエンピリックに投与するという考え方に相違はない.現在は,β-ラクタム系薬 とアミノグリコシド系薬との併用療法による治療効果は,β-ラクタム系薬単剤療法と同等である ことが報告され,有害事象(特に腎毒性)は併用療法に多くみられることから,β-ラクタム系薬
の単剤療法が推奨されている.本剤もアミノグリコシド系薬との併用有無別による比較試験(第 5.3.5.1.5 項)が実施されており,その治療効果は併用有無別でも変わらないことが検証されてい る.
これらことから,海外第 III 相試験実施時と現在の本邦におけるガイドラインでの推奨薬が異 なるものの,治療に対する概念は同じであるといえる.
表 2.5.1.3.1-2 FN の診断及び治療体系 FN の診断 治療体系 海外臨床試験 の実施当時1) 1 回の検温(口腔温) で 38.3°C 以上,又は 38°C が 1 時間以上持 続.かつ好中球数が 1000 /μL 未満 広域スペクトルの抗菌薬を最大治療量で静脈内投与することにより速やかに治療を行う. 治療計画として下記の(1)~(4)がある. (1) アミノグリコシド系抗菌薬(ゲンタマイシン,トブラマイシン,アミカシン)+抗緑膿菌性 β ラクタム系抗菌薬(チカルシリン単剤又はクラブ ラン酸併用,アズロシリン,メズロシリン,ピペラシリン) →緑膿菌感染リスクの高い患者に推奨される. 長所;数種のグラム陰性桿菌に対して相乗効果の可能性がある,嫌気性菌に対して活性がある,耐性菌出現を最小限にできる. 短所;グラム陽性菌に対する抗力不足,アミノグリコシド系抗菌薬の毒性(腎毒性,聴覚毒性,低カリウム血症)の懸念. (2) 2 種類の β ラクタム系抗菌薬併用療法 第 3 世代セファロスポリン系抗菌薬(セフタジジム又はセフォペラゾン)+ウレイドペニシリン系抗菌薬(ピペラシリン又はメズロシリン)の併 用療法が,上記(1)の併用療法と同等の効果がある. 長所;毒性が低い 短所;時に耐性菌が検出される.費用が高額,一部の細菌感染と拮抗する可能性がある. (3) 単剤療法(セフォペラゾン,セフタジジム,イミペネム/シラスタチン) 初期の単剤療法は,抗菌薬投与開始前の好中球減少が短期間に認められた患者及び好中球数 500~1000 /μL の患者に限定すべき. 長所;軽度/中等度の腎機能異常が認められる状況下でも用量変更なく安全に使用可→腎毒性を有する薬剤治療を受けている患者に適している. 短所;単剤療法が併用療法と同程度の有効性があるという報告がない. (4) バンコマイシン+アミノグリコシド系抗菌薬及び抗緑膿菌ペニシリン(又は第 3 世代セファロスポリン系抗菌薬)
MRSA,CNS,Corynebacterium 属及び α-hemolytic streptococci が原因となる患者に対してはバンコマイシンを追加して初期レジメンとする.バン コマイシンの組み入れについて次の意見があり.①培養にてグラム陽性菌が分離された場合,又は初期の抗菌薬開始から数日経過しても奏功が達成 できない場合にバンコマイシンの追加可,②バンコマイシンを初回抗菌薬に組み入れることにより,グラム陽性菌感染に対し,有効な治療を早期に 提供が可能になり,抗菌薬治療期間を短縮できる可能性がある. 現在の国内2) 腋 窩 温 37.5°C 以上 (口腔内温 38°C 以 上)の発熱,かつ好中 球数が 500 /μL 未満, 又は 1000 /μL 未満で 48 時間以内に 500 /μL 未満に減少すると予 測される状態. (1) グラム陰性桿菌を抗菌スペクトラムに含む β-ラクタム薬を単剤で経静脈的に投与する. (2) 当該施設での臨床分離菌の感受性(アンチバイオグラム)を考慮する. (3) 感染巣を伴う感染症を合併した場合は,感染部位に好発する微生物を考慮して抗菌薬を選択する. (4) β-ラクタム薬/アミノグリコシド併用療法の治療効果は β-ラクタム薬単剤療法と同等で,有害事象は併用療法に多くみられることから,β-ラクタ ム薬単剤療法を推奨する.ただし,緑膿菌菌血症,敗血症ショックでは,β-ラクタム薬/アミノグリコシド併用療法を推奨する. (5) FN に対する経験的治療として全例に抗 MRSA 薬を併用する根拠は乏しい.ただし,MRSA などの薬剤耐性グラム陽性菌感染が強く疑われる状 況ではバンコマイシンなどの抗 MRSA 薬の併用を考慮する. (6) 重症化した FN では,抗緑膿菌作用を持つセファロスポリン,カルバペネム,タゾバクタム/ピペラシリンのうち 1 剤に,アミノグリコシドもし くはフルオロキノロンのいずれか 1 剤を加える.MRSA を含む多剤耐性グラム陽性菌感染のリスクがあれば,抗 MRSA 薬を併用する. ①日本で FN への適応を有する薬剤:セフェピム,メロペネム ②日本では FN を適応症として有しないが十分なエビデンスの集積のある薬剤:イミペネム/シラスタチン,タゾバクタム/ピペラシリン,セフタジ ジム ③日本では FN への適応はなくエビデンスも集積途上であるが,日常臨床では使用されている薬剤:セフピロム,セフォゾプラン,ドリペネム,ビ アペネム,パニペネム
表 2.5.1.3.1-2 FN の診断及び治療体系(続き) FN の診断 治療体系 現在の海外3) 1 回の検温(口腔温) で 38.3°C 以上,又は 38°C が 1 時間以上持 続.かつ好中球数が 500 /μL 未満か,48 時 間以内に 500 /μL 未満 に減少すると予想さ れる状態. (1) リスクアセスメントに基づき,経験的抗菌薬療法の種類(経口か静注)及び治療の場(外来か入院)を決定する. (2) 高リスク患者は,入院させて静注による経験的抗菌薬療法を実施する:抗緑膿菌 β ラクタム系薬を用いた単剤療法(セフェピム,カルバペネム [メロペネムまたはイミペネム/シラスタチン],あるいはピペラシリン/タゾバクタムなど)が推奨される.合併症(低血圧,肺炎など)の管理が 必要な場合や,抗菌薬耐性が疑われるか確定された場合は,最初のレジメンに他の抗菌薬(アミノグリコシド系薬,フルオロキノロン系薬及び/ 又はバンコマイシン)を追加してもよい. (3) バンコマイシン(又は好気性グラム陽性球菌に活性を示す他の薬剤)は,FN に対する初期治療に加える標準薬としては推奨されない.これら の薬剤の使用は,カテーテル関連感染症,皮膚・軟部組織感染症,肺炎が疑われる場合や,血行動態が不安定な場合など,特定の臨床状態で考 慮する. (4) 抗菌薬耐性菌(MRSA,VRE,ESBL 産生グラム陰性菌,カルバペネマーゼ産生菌等)による感染症のリスクがある患者,特に,状態が不安定 な患者や,血液培養で耐性菌の疑いを示す陽性結果が得られた患者では,経験的初期療法の変更を考慮してもよい. (5) ほとんどのペニシリンアレルギー患者はセファロスポリン系薬に忍容性を示すが,即時型過敏反応(蕁麻疹および気管支攣縮)の既往を有する 患者は,β ラクタム系薬やカルバペネム系薬の使用は避け,シプロフロキサシン+クリンダマイシン又はアズトレオナム+バンコマイシンなどの 組み合わせを用いるべきである. (6) 感染症を示唆する新規の徴候・症状がみられる無熱性の好中球減少症患者は高リスク患者と同様の評価及び治療を行うべきである. (7) 低リスク患者は,クリニック又は病院に入院させ,経口又は静注抗菌薬による経験的初期療法を行うべきであり,その後,一定の臨床基準を満 たせば,外来での経口又は静注療法に切り替えてもよい.
(2) FN の推定原因菌 FN の原因菌について,Klastersky8)らは,癌化学療法により FN を発症した 2142 人の患者を対 象に検討し,グラム陰性菌では大腸菌,肺炎桿菌及び緑膿菌が,グラム陽性菌ではコアグラーゼ 陰性ブドウ球菌,連鎖球菌属及び黄色ブドウ球菌が多く,緑膿菌感染患者で最も死亡率が高かっ たと報告している.国内での検討9)でも,高頻度に検出される菌種としてブドウ球菌属,連鎖球 菌属,緑膿菌が報告されている. 海外第 III 相試験実施時,現在における本邦及び海外での FN の推定原因菌を表 2.5.1.3.1-3 に示 した.海外第 III 相試験実施時及び現在の本邦での共通した FN の推定原因菌として,グラム陽性 菌が S. aureus,S. epiderimidis,Staphylococcus sp.,S. viridans group 及び E. faecalis,グラム陰性菌 が E. coli,P. aeruginosa 及び Enterobacter sp.などであった.
また,国内第 III 相試験(10038080 試験)と海外第 III 相試験(D68P19,D68P533,D68P542 及び D68P523 試験)における原因菌並びに感受性を表 2.5.1.3.1-4 に示した.本邦での原因菌は, グラム陽性菌として S. aureus,S. epidermidis,S. mitis,Corynebacterium sp.,B. cereus,グラム陰 性菌として E. coli,K. pneumoniae,K. oxytoca,E. cloacae が検出された.海外第 III 相試験での推 定原因菌は,グラム陽性菌として主に S. aureus,S. epidermidis,CNS,Streptococcus sp.,グラム陰 性菌として E. coli や Klebsiella sp.などの菌が検出されており,現在の本邦での FN の原因菌は海外 第 III 相試験実施時と大きく変わらないと考えられた. 表 2.5.1.3.1-3 FN の推定原因菌 海外第 III 相試験 実施時7) 現在 本邦8), 12) 海外10) グラム 陽性菌 S. aureus* S. epiderimidis* Staphylococcus sp.* S. pneumoniae* S. pyogenes* S. viridans group* E. faecalis* Corynebacterium sp.* S. aureus MRSA S. epidermidis Coagulase-negative staphylococci(CNS) S. mitis
Other Viridans streptococci
E. faecalis B. cereus
Coagulase-negative staphylococci(CNS)
S. aureus(メチシリン耐性株を含む)
Enterococcus sp.(バンコマイシン耐性株を含む)
Viridans group streptococci
S. pneumoniae S. pyogenes グラム 陰性菌 E. coli* Klebsiella sp.* P. aeruginosa* Enterobacter sp.** Proteus sp.** Salmonella sp.** H. influenzae** E. coli P. aeruginosa E. cloacae E. coli Klebsiella sp. Enterobacter sp. P. aeruginosa Citrobacter sp. Acinetobacter sp. Stentrophomonas maltophilia 嫌気性菌 Bacteroides sp.** Clostridium sp.** Fusobacterium sp.** Propionibacterium sp.** - -
表 2.5.1.3.1-4 臨床試験において分離された原因菌の菌株数及び感受性 菌種 D68P19 試験 D68P533 試験 D68P523 試験 D68P542 試験 10038080 試験 菌株 数 分離 頻度 感受 性率 菌株 数 分離 頻度 感受 性率 菌株 数 分離 頻度 感受 性率 菌株 数 分離 頻度 感受 性率 菌株 数 分離 頻度 感受 性率 黄色ブドウ球菌 15 15.8 100 2 9.1 100 4 4.8 100 1 3.2 - 3) 2 13.3 100 1) コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 17 17.9 76.5 6 27.3 100 28 33.3 71.4 8 25.8 28.6 4) 1 6.7 100 1) レンサ球菌属 17 17.9 100 3 13.6 100 23 27.4 100 7 22.6 100 4 26.7 100 2) 肺炎球菌 1 4.5 - 3) 5 6.0 100 腸球菌属 6 6.3 100 1 4.5 100 6 7.1 100 2 6.5 100 バチルス属 1 1.2 100 1 3.2 100 2 13.3 100 2) コリネバクテリウム属 2 9.1 50.0 2 2.4 100 1 6.7 100 2) 大腸菌 15 15.8 100 2 9.1 100 10 11.9 100 5 16.1 80.0 2 13.3 100 1) クレブシエラ属 7 7.4 100 2 9.1 0 2 6.5 - 3) 2 13.3 100 1) エンテロバクター属 3 3.2 100 1 4.5 100 1 1.2 100 1 6.7 100 1) シトロバクター属 1 3.2 0 セラチア属 2 2.1 100 インフルエンザ菌 2 2.1 100 2 2.4 50.0 1 3.2 - 3) モラキセラ属 2 2.1 100 緑膿菌 3 3.2 100 1 4.5 100 2 2.4 100 1 3.2 100 アシネトバクター属 1 1.1 100 2 6.5 100 その他 2 2.1 0 4) 1 4.5 0 合計 92 100 95.6 22 100 76.2 84 100 91.0 31 100 69.6 15 100 100 D68P19, D68P533, D68P523 及びD68P542 試験で分離された原因菌の本剤感受性率は,試験実施当時の感受性標準(表2.5.4.3-1) で表した.
1)Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI, M100-S24, 2014)のブレークポイント MIC による感受性率
2)European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST, Vol.4.0, 2014)のブレークポイント MIC による感受性率 3)本剤感受性は不明 4)1 株の本剤感受性は不明 また,海外で実施された試験で分離された原因菌で,5 株以上分離された黄色ブドウ球菌,コ アグラーゼ陰性ブドウ球菌,レンサ球菌属,肺炎球菌,腸球菌属,大腸菌及びクレブシエラ属の 感受性率は,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌を除き 100%であった.これら菌属・菌種の国内臨床試 験原因菌(腸球菌属を除く)の感受性率は 100%,国内臨床分離株の感受性率は 96.2%~100%で あり,国内外の FN 原因菌及び FN の原因となる国内臨床分離株は,本剤に対して同様の高い感受 性を示していると考えられた. 以上のように,FN の原因菌としての判明率は高くないが,主要な原因菌はこれらの菌種と考 えられ,したがって,エンピリックセラピーの抗菌薬は,これらの菌種に対する抗菌力を考慮し て選択すべきと考えられる.日本感染症学会と日本化学療法学会による「抗菌薬使用のガイドラ イン」10)では,FN の原因菌として,グラム陽性菌では黄色ブドウ球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ 球菌,肺炎球菌,連鎖球菌属,腸球菌属,グラム陰性桿菌では緑膿菌,クレブシエラ属,大腸菌 のほか,頻度は落ちるものの,腸内細菌科の諸菌種(エンテロバクター属,セラチア属,シトロ バクター属,プロテウス属),インフルエンザ菌,アシネトバクター属,ステノトロフォモナス・ マルトフィリア,嫌気性菌,アスペルギルス属,カンジダ属,ムコール属などが見られるとして いる. 成人及び小児の発熱性好中球減少症(FN)の主要な原因菌の本剤に対する感受性について,本 剤の特定使用成績調査(2010 年及び 2012 年分離株)で得られた情報を基に,MIC50,MIC80,MIC90
表 2.5.1.3.1-5 成人及び小児の発熱性好中球減少症の主要な原因菌の本剤に対する感受性 (単位:μg/mL)
菌種 分離年 成人 小児
菌株数 MIC50 MIC80 MIC90 感受性率 菌株数 MIC50 MIC80 MIC90 感受性率
黄色ブドウ球菌1) 2010 249 1 2 2 100 44 1 1 2 100 2012 240 1 1 2 100 44 1 2 2 100 コアグラーゼ陰性 ブドウ球菌1) 2010 194 0.12 0.25 0.5 100 16 0.12 0.25 0 5 100 2012 191 0.25 0.5 0.5 100 14 0.25 0 5 1 100 肺炎球菌2) 2010 180 0.25 2 2 99.4 87 0.5 2 2 99.5 2012 185 ≦0.06 2 2 100 82 0.5 2 2 100 連鎖球菌属2) 2010 277 0.25 0.25 0.25 100 22 0.12 0.25 0.25 99.6 2012 255 0.25 0.25 0.25 100 18 ≦0.06 0.25 2 94.4 腸球菌1) 2010 197 4 4 8 100 21 4 4 4 100 2012 177 4 4 4 100 20 4 4 4 100 大腸菌1) 2010 282 2 2 4 97.9 22 2 4 4 100 2012 273 2 2 4 96.0 17 2 2 2 100 シトロバクター属1) 2010 216 2 16 32 87.0 18 4 16 128 83.3 2012 230 2 8 128 82.6 13 4 128 128 61.5 クレブシエラ属1) 2010 216 2 4 8 97.2 15 2 4 32 86.7 2012 197 2 4 8 98.0 10 2 4 4 100 エンテロバクター属1) 2010 186 2 16 128 84.4 11 2 4 8 90.9 2012 148 2 32 128 79.7 20 4 32 >128 75.0 セラチア属1) 2010 234 2 4 16 90.6 15 2 2 4 100 2012 222 2 4 16 91.0 28 1 2 8 96.4 プロテウス属1) 2010 320 0.25 0.5 0.5 100 12 0.25 0 5 0 5 100 2012 317 0.25 0.5 0.5 100 20 0.25 0 5 0 5 100 インフルエンザ菌1) 2010 178 ≦0.06 0.12 0.12 100 74 ≦0.06 0.12 0.12 100 2012 183 ≦0.06 0.12 0.12 100 82 ≦0.06 0.12 0.12 100 緑膿菌1) 2010 289 8 32 128 79.9 14 4 8 16 100 2012 259 4 16 64 83.4 27 4 16 32 88.9 アシネトバクター属1) 2010 210 ≦0.06 8 64 87.1 30 4 64 >128 66.7 2012 210 ≦0.06 2 8 92.4 39 ≦0.06 16 64 84.6 バクテロイデス属1) 2010 176 0.5 4 8 97.7 9 0.5 2 16 100 2012 153 0.5 2 8 98.0 10 0.5 2 2 100 1) Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI, M100-S24, 2014) のブレークポイント MIC による感受性率 2) European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST, Vol.4.0, 2014) のブレークポイント MIC によ
る感受性率 対象とした成人及び小児の総菌株数は,2010 年ではそれぞれ 3404 株及び 410 株,2012 年では それぞれ 3237 株及び 444 株であった. 成人から分離された臨床分離株の本剤感受性は,2010 年及び 2012 年ともに約 80%以上の感受 性率を示し,菌種毎に見ても耐性化の傾向は認められなかった. 小児では,菌種によって収集された菌株数が少ないものの,成人由来菌の本剤感受性と同様で あり,耐性化の傾向は認められなかった. 2001 年に承認された本剤と配合比が異なるタゾシン静注用®(タゾバクタム:ピペラシリンの力 価比 1:4 の配合剤,2009 年 4 月承認整理)においても,特定使用成績調査として 2001 年~2006 年分離株の本剤感受性について検討されている11).2010 年の本剤感受性と比較したところ,緑膿 菌を含むすべての菌種において耐性化の傾向は認められていないことが報告されており12),本剤 と同じ有効成分が承認された 2001 年以降 2012 年までに,FN の主要な原因菌に本剤に対する耐性 化の懸念はないと考えられた.
したがって,海外第 III 相試験実施時と現在の本邦の FN の診断基準及び治療体系に大きな差異 はなく,日本人 FN 患者に対する本剤の有効性の説明に際し,海外第 III 相試験の成績を利用する 上で大きな問題はないと考えた.
2.5.1.3.2
発熱性好中球減少症に対する治療法に関するガイドライン
国内の FN の治療法に関するガイドラインとしては,2012 年に日本臨床腫瘍学会の発熱性好中 球減少症(FN)診療ガイドライン4) が公表され,抗菌薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬の投与,ガン マグロブリン製剤及び顆粒球コロニー刺激因子による FN 治療法のほか,FN 予防策としての抗菌 薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬の投与及びワクチン接種の有用性が解説されている.更に,環境要 因として,食材の調理法,皮膚・口腔内の清潔,患者の隔離,医療従事者の衣類及び動植物等に ついて述べられている.本ガイドラインでは,FN 患者の定義を,好中球数が 500 /μL 未満又は 1000 /μL 未満で 48 時間以内に 500 /μL 未満になると予測される状態で,腋窩温で 37.5°C 以上(口腔内 温 38.0°C 以上)の発熱が生じた患者としており,表 2.5.1.3.2-1 に示す Multinational Association for Supportive Care in Cancer Risk-Index Score(MASCC スコア)に従い,低リスクと高リスクに層別し ている. 表 2.5.1.3.2-1 MASCC スコア 項目 スコア 臨床症状の経過(下記の*印 3 項の内 1 項を選択) *無症状 5 *軽度の症状 5 *中等度の症状 3 血圧低下なし 5 慢性閉塞性肺疾患なし 4 固形がんである,あるいは造血器腫瘍で真菌感染の既往がない 4 脱水症状なし 3 外来管理中に発熱した患者 3 60 歳未満(16 歳未満には適用しない) 2 *スコアの合計の最大は 26 点.21 点以上を低リスク症例,20 点以下を高リスク症例とする. 第 5.4.4 項 日本臨床腫瘍学会 1 章 2. 表 1 低リスクと高リスクの FN 患者の初期治療における抗菌薬投与は,以下のように記載されてい る. 低リスクの FN 患者に対する初期治療は,キノロン系抗菌薬の予防投与がなく外来治療が可能 であれば,シプロフロキサシンとアモキシシリン/クラブラン酸の併用が推奨されている.高リス ク患者の初期治療は,抗緑膿菌作用を持つβ-ラクタム系抗菌薬(単剤)として,セフェピム,本 剤,イミペネム/シラスタチン,メロペネムなどを選択することが推奨されている.更に,メチシ リン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が疑われるときは抗 MRSA 薬を,敗血症ショック,肺炎,緑 膿菌感染を合併した重症例ではアミノグリコシド系抗菌薬又はキノロン系抗菌薬を併用すること としている.ただし,エンピリック治療に際しては,β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系 抗菌薬の併用療法の治療効果は,β-ラクタム系抗菌薬単独療法と同等で,有害事象(特に腎毒性) が併用療法に多くみられることから,β-ラクタム系抗菌薬単独療法を推奨している.なお,本剤 は,充分なエビデンスはあるものの,国内では FN を適応症として有していないことが記載され ている. 2011 年に日本感染症学会と日本化学療法学会が共同で作成した JAID/JSC 感染症治療ガイド 201113)でも,日本臨床腫瘍学会のガイドラインと同様の疾患定義と重症度分類(MASCC スコア)を取り入れ,低リスクの静注抗菌薬が必要な患者と高リスクの患者に対する選択薬の一つとして 本剤の投与を推奨している.
欧州においては,European Society for Medical Oncology が FN の診療と治療に関するガイドライ ン14)を公表している.疾患の定義は,口腔内温が>38.5°C 又は>38.0°C が 2 時間以上持続し,好中
球数が 500 /μL 未満又は 500 /μL 未満に減少することが予測される場合としている.また,患者の リスク分類は,MASCC スコアを用いており,低リスクの患者には経口抗菌薬を,高リスクの患 者には広域スペクトルを有する注射用抗菌薬を投与することを推奨している.
ドイツの German Society of Hematology and Oncology が作成したガイドライン15)では,FN の定
義を,口腔内温が≧38.3°C 又は≧38.0°C が 1 時間以上持続し,好中球数が 500 /μL 未満又は 1000 /μL 未満で 500 /μL 未満に減少することが予測される場合としている.好中球数減少の程度と期間によ り,抗菌薬療法の対象を低リスク群,中リスク群及び高リスク群に分類し,低リスク群では経口 キノロン系抗菌薬とアモキシシリン/クラブラン酸の併用が,中リスク群と高リスク群には,本剤 がセフタジジム,セフェピム及びカルバペネム系抗菌薬と共に単剤での選択薬として推奨されて いる.また,低リスク群であっても,コンプライアンスに問題があるなど,経口剤投与に適して いない患者には本剤の投与が推奨されている.
一方,米国では,National comprehensive cancer network(NCCN)による癌関連感染症の予防と 治療に関するガイドライン(Prevention and treatment of cancer related infections)16)においては,FN
を口腔内温が≧38.3°C 又は≧38.0°C が 1 時間以上持続し,好中球数が 500/μL 未満又は 1000/μL 未 満で 48 時間以内に 500 /μL 未満に減少することが予測される場合としている.患者の初期診断で は,好中球減少の期間や患者の状態,更には MASCC スコアも取り入れて高リスクと低リスクに 評価し,低リスクの患者には注射用抗菌薬又は経口のシプロフロキサシンとアモキシシリン/クラ ブラン酸の併用を,高リスクの患者には,抗緑膿菌作用を有する本剤,カルバペネム系抗菌薬及 びセフェピムがエビデンスレベルの最も高い単剤治療薬として推奨されている.ただし,米国で は本剤は FN の効能を有していない. IDSA が 2002 年に公表した癌患者に発症した好中球減少症に対する抗菌薬使用のガイドライン 17)では,主に好中球数減少の程度により抗菌薬投与の対象を低リスクと高リスクの患者に分類し, 低リスクの患者には経口のキノロン系抗菌薬及びβ-ラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系抗菌薬 が,高リスクの患者には抗緑膿菌作用を有する第 3 世代セファロスポリン系抗菌薬とカルバペネ ム系抗菌薬が単剤治療薬として推奨されている.高リスクの患者に対する本剤の単剤治療は,こ れらの代替薬として推奨されていたが,他剤と同様のエビデンスを集積する必要があると指摘さ れていた. Bow ら(第 5.3.5.1.4 項)は,米国,カナダ及びオーストラリアの 34 施設において,血液悪性 疾患患者の発熱性好中球減少エピソードに対するエンピリックセラピーとしての本剤とセフェピ ムとの有効性及び安全性に関する無作為化オープンラベル多施設共同比較試験を実施している. その結果,投与 72 時間後,投与終了時及び投与終了後 7 日以降の有効率について,セフェピムと の非劣性が証明され,更には 72 時間後の解熱効果は本剤で優れていた.IDSA は,この試験結果 をもとに 2010 年に改訂された本ガイドライン5)で,本剤を高リスク患者に対する単剤治療薬の一 つとして推奨している.また,本ガイドラインでは,多くのエビデンスをもとに,エンピリック 治療として,β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の併用の意義について言及し,ア ミノグリコシド系抗菌薬の投与は,副作用を増強するのみで,β-ラクタム系抗菌薬の有効性に対 する上乗せ効果がないことを指摘している.
小児の FN 患者の診療ガイドラインとしては,米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology)が 2012 年に造血幹細胞移植と小児の癌患者における診療ガイドラインを公表している 18).小児の FN 患者のリスク程度は,患者特異的要因(年齢,腫瘍悪性度,病態),治療特異的要 因(化学療法のタイプと時期)及びエピソード要因(発熱の程度,低血圧の有無,粘膜の炎症, 血球数及び CRP)をもとに分類されるとしている.また,米国感染症学会の成人を対象としたガ イドラインでは,好中球減少の期間をリスク要因としているのに対して,小児では,血小板減少 症や白血球減少症の程度が重視されていることが異なっている.低リスクの小児患者では,経口 の抗菌薬投与を考慮することとされ,高リスクの患者では,抗緑膿菌作用を有するβ-ラクタム系 抗菌薬又はカルバペネム系抗菌薬の投与が推奨されていることは,成人を対象とするいずれのガ イドラインでも同様である. また,サンフォード感染症治療ガイド19) においても,高リスクの成人及び小児の FN 患者に対 する選択薬として本剤が推奨されている. なお,FNの診療ガイドラインの多くでは,MASCCスコアが患者の重症度判定に引用されてい るが,最近では,MASCCスコアのみでは入院と外来治療の選択ができないため,患者の基礎疾患・ 合併症を考慮して総合的に入院と外来での治療方法を判断するガイドラインの必要性が指摘され ている20). 表 2.5.1.3.2-2 には,国内外の FN 診療ガイドラインにおける本剤の位置付けを示した. 表 2.5.1.3.2-2 国内外の FN 診療ガイドラインにおける本剤の位置付け ガイドライン 対象患者 推奨抗菌薬 備考 日本臨床腫瘍学会 ハイリスクの患者:MASCC スコア 20 以上) セフェピム,メロペネム,イミペネ ム・シラスタチン*,タゾバクタム・ ピペラシリン*,セフタジジム*など *日本では適応を有していな いが十分なエビデンスの集 積のある薬剤 Infectious Diseases Society of America ハイリスクの患者:好中球 減少期間が 7 日間以上,好 中球数が≦100/ mm3,合併 症あり) タゾバクタム・ピペラシリン,カルバ ペネム,セフタジジム,セフェピム の単剤投与 アミノグリコシド系抗菌薬 などの他剤併用は耐性菌が 検出,疑われる場合など(エ ビデンスレベルは低い) National Comprehensive Cancer Network ハイリスクの患者:造血幹 細胞移植,急性白血病の患 者.好中球数減少が 10 日間 以上と予測される. イミペネム・シラスタチン,メロペネ ム,タゾバクタム・ピペラシリン,セ フェピム,セフタジジム* *エビデンスレベルは他剤よ り低い 2011 4th European Conference on Infections in Leukemia ハイリスクの患者:好中球 減少期間が 7 日間以上 セフェピム,セフタジジム,タゾバ クタム・ピペラシリン カルバペネム系抗菌薬,アミ ノグリコシド系抗菌薬の併 用は de-escalation の位置付け American Society of Clinical Oncology ハイリスクの患者(小児): 患者特異的要因(年齢,腫 瘍悪性度,病態),治療特異 的要因(化学療法と時期) 及びエピソード要因(発熱 の程度,低血圧の有無,粘 膜の炎症,血球数及び CRP) 抗緑膿菌作用を有するβ-ラクタム系 抗菌薬又はカルバペネム系抗菌薬 アミノグリコシド系抗菌薬 の併用は強い毒性を示す 本剤は,国内外のガイドラインにおいてハイリスクの成人及び小児の FN 患者における第一選 択薬として,セフェピム及びメロペネムと同じ位置付けで推奨されている.アミノグリコシド系 抗菌薬との併用については,成人,小児ともに有効性は単剤投与と同等で副作用が増強されるこ とを理由に第一選択薬としては推奨されていない.また,2011 4th
European Conference on Infections in Leukemia のガイドライン21)では,カルバペネム系抗菌薬は,最近の耐性菌増加の状況から高度 耐性菌感染の FN 患者に対する de-escalation の治療薬と位置づけられている.
本剤の FN 治療における有効性と安全性について,セフェピムとメロペネムと比較した公表文 献に基づき以下に説明する. Bow ら(第 5.3.5.1.4 項)は,血液悪性疾患の成人 FN 患者に対するエンピリックセラピーとし ての本剤とセフェピム(2 g,1 日 3 回)との有効性及び安全性に関する無作為化オープンラベル 多施設共同比較試験を実施している.その結果,投与 72 時間後,投与終了時及び投与終了後 7 日 以降の有効率について,セフェピムとの非劣性が証明され,更には 72 時間後の解熱効果は本剤で 優れていることを報告した.IDSA は,この試験結果をもとに 2010 年に改訂された本ガイドライ ン5)で,本剤を高リスク患者に対する単剤治療薬の一つとして推奨している. 本剤の申請用法・用量(4.5 g,1 日 4 回)でのメロペネムとの比較試験を実施した公表文献は見 当たらないが,メロペネム(1 g,1 日 3 回)とイミペネム・シラスタチンを含むカルバペネム系抗 菌薬との比較試験では,解熱に要した日数や臨床効果でカルバペネム系抗菌薬と同等であったこ とが報告されている22). 小児の FN 患者における本剤とメロペネムの比較試験の成績が最近公表され,治療薬の変更な く解熱と臨床効果の改善を認めた有効率は,本剤投与群(360 mg/kg/day)で 92.4%,メロペネム 群(60 mg/kg/day)で 91.9%であり,同等の有効性と安全性であったと報告されている8). セフェピムは,小児の適応を有していないが,本剤(90 mg/kg,1 日 4 回)との比較試験では 同等の有効性であったと報告されている(第 5.3.5.1.6 項及び第 5.3.5.1.7 項). 本剤と FN 診療ガイドラインで推奨されている抗菌薬の有効性と安全性について,メタアナリ シスによりレビューされている24). 本論文では 44 の公表論文がレビューされ,本剤が,セフェピム及びメロペネムを含む FN エン ピリック治療薬に比べて患者死亡率が低いこと,及びカルバペネム系抗菌薬では重篤な下痢が多 いことから,本剤が FN 治療薬として適していると結論している. 以上のように,本剤は国内外における臨床での使用経験から,他剤と同等若しくはそれ以上の 有効性と安全性が認められ,主要な FN 診療ガイドラインにおけるハイリスク患者での第一選択 薬として推奨されていることから,国内で承認されているセフェピム及びメロペネムと同等に位 置付けることができると考えている.また,同じβ-ラクタム系抗菌薬でありながら作用メカニズ ムの一部異なるエンピリック治療薬を国内の FN 患者に提供できることで,耐性菌対策としても 重要な位置付けになると考えている.
2.5.1.3.3
発熱性好中球減少症治療の問題点
がん薬物療法を行う場合,最も問題となる dose-limiting toxicity は骨髄抑制に伴う血球減少であ り,好中球が減少すると FN の発症率が高くなり,生命への影響や入院期間の延長が必要になる. また,全身状態の悪化は,がん薬物療法の有効性と安全性に影響を及ぼすことから,FN 患者では 適切な抗菌薬治療を速やかに開始することが必要である. 前述のとおり,国内外で多くの FN 診療ガイドラインが公表されているが,これらに記載され ている抗菌薬の用法・用量は必ずしも日本の保険診療に適合していない.また,FN 治療に適応を 有する抗菌薬はセフェピムとメロペネムのみであり,外国での選択肢に比べて限定されている. 上述のごとく,国内の FN 治療に関するガイドラインにおいて注射用抗菌薬投与の対象となる高 リスクの FN 患者に推奨されている薬剤は,第三世代以降のセファロスポリン系抗菌薬及びカル バペネム系抗菌薬であり,本剤は推奨薬として記載されているものの,FN の適応を取得していな いと註釈されている4).一方では,日本感染症学会と日本化学療法学会による JIS/JCS 感染症治療ガイド 201113)では,IDSA のガイドラインを参考に,高リスクの FN 患者に対して本剤を推奨して いる. 国内では,特に重症・難治性感染症にセファロスポリン系抗菌薬とカルバペネム系抗菌薬が多 く使用されてきたため,両系統の抗菌薬に対する耐性菌の増加が指摘されている11, 25).多剤耐性 緑膿菌(MDRP)については,MRSA やペニシリン耐性肺炎球菌等と比較して発生頻度は少ない が,大学病院等でのアウトブレークが報告され社会問題となった経験から(厚生労働省医政局指 導課,健康局結核感染課,腸内細菌のカルバペネム耐性について,事務連絡,平成 25 年 3 月 22 日),院内感染予防対策と並んで抗菌薬による治療法の確立が必要と考えられる.本剤は,MDRP に対して比較的感受性を保持している薬剤のひとつであり26),吉澤ら27)は,MDRP による各種の 感染症患者 18 人に対して本剤を投与し,菌消失が 8 人において認められ,臨床的には 17 人にお いて有効であったことから,本剤が MDRP を原因とする感染症の一部に対して有効である可能性 を示唆している. また,第 3 世代以降のセファロスポリン系抗菌薬の使用により,ESBLs 産生菌が大腸菌,クレ ブジエラ属又はプロテウス属などの腸内細菌科に広まっている12).近年,ESBLs 産生大腸菌によ る敗血症に対する本剤の有効性をカルバペネム系抗菌薬と比較し,本剤がエンピリック治療薬と してカルバペネム系抗菌薬の代替薬として適していることが報告されている28).また,腸内細菌 科の ESBLs 産生菌による感染症に対する β-ラクタマーゼ阻害剤/β-ラクタム薬配合薬の有効性をカ ルバペネム系抗菌薬と比較したメタアナリシスでは,本剤を含むβ-ラクタマーゼ阻害剤/β-ラクタ ム薬配合薬が,カルバペネム系抗菌薬の代替薬となる可能性を示唆している29). 以上のように,カルバペネム系抗菌薬及び第 3 世代以降のセファロスポリン系抗菌薬の繁用に よって問題となる耐性菌を防止するためには,同じβ-ラクタム系抗菌薬でありながら作用メカニ ズムが一部異なり,更に,有効性と安全性の両面からこれらの代替薬となるβ-ラクタマーゼ阻害 剤を配合した抗緑膿菌性ペニシリン系抗菌薬が必要と考えられる.
2.5.1.4
発熱性好中球減少症に対して臨床試験を行ったことを支持する科学的背景
本剤は,海外のエビデンス(第 5.3.5.1.1 項,第 5.3.5.1.2 項,第 5.3.5.1.3 項及び第 5.3.5.2.2 項) に基づき,FN の適応が 60 ヶ国以上で承認されている.また,主要な FN の診療ガイドラインで は,成人と小児の FN 患者を対象に本剤の有効性と安全性を評価した論文(第 5.3.5.1.4 項,第 5.3.5.1.5 項,第 5.3.5.1.6 項及び第 5.3.5.1.7 項)をエビデンスとして,本剤が FN に対する単剤治療 の第一選択薬として位置付けられている.また,本剤の薬物動態が日本人と外国人,成人と小児 で大きく異ならないこと,及び PK-PD 解析の成績から,海外での用法及び用量を日本人の FN 患 者に適用すれば,海外でのエビデンスと同様の有効性が期待できると考えた. タゾシン静注用(TAZ:PIPC の力価比 1:4 の配合剤,2009 年 4 月承認整理)の特定使用成績調 査(2001 年~2006 年)で収集された臨床分離菌の本剤感受性11)と感染症患者における本剤の薬物 動態30)により,PK-PD 解析を実施し,その成績を表 2.5.1.4-1 に示した31).PK-PD 解析は,臨床分 離菌の本剤に対する感受性分布と感染症患者の母集団薬物動態パラメータを用いて,本剤 4.5 g を 1 日 2 回,3 回及び 4 回投与したときのモンテカルロシミュレーション解析を行い,%Time above MIC の閾値を 30%及び 50%としたときの達成確率を示した.4.5 g を 1 日 3 回投与することで,%Time above MIC が増殖抑制効果を示す 30%以上の達成確率 は緑膿菌を含むすべての菌種に対して 80%以上であったが,最大殺菌効果を示す 50%以上の達成 確率はエンテロバクター属と緑膿菌では約 70%であった.それに対して,4.5 g 1 日 4 回投与では,
緑膿菌に対する%Time above MIC が 50%以上になる達成確率は 80%を上回り,エンテロバクター 属でも 79%の高い達成確率であった. 以上のように,臨床分離菌の感受性と PK-PD 解析の結果から,FN の原因となるこれらの菌種 に対する本剤の有効性が期待できることが示唆されたことより,本剤の FN 患者を対象とした臨 床試験を実施することが支持されると考えた. 表 2.5.1.4-1 本剤に対する臨床分離菌の感受性と薬物動態-薬力学解析 菌属・菌種 菌株数 MIC90 (μg/mL) 4.5 g×2 回/日 4.5 g×3 回/日 4.5 g×4 回/日 30% 50% 30% 50% 30% 50% ブドウ球菌属(メチシリン耐性を除く) 393 2 98.1 92.3 99.7 97.9 100 98.7 肺炎球菌 308 2 98.3 93.1 99.8 98.0 100 98.9 腸球菌属 304 8 96.7 67.1 98.9 95.2 99.9 98.0 大腸菌 322 4 96.5 84.9 97.7 95.9 98.8 96.9 シトロバクター属 190 64 83.3 66.4 87.5 81.0 89.8 85.7 クレブシエラ属 294 4 96.2 82.0 96.8 95.6 98.2 96.6 エンテロバクター属 243 128 74.9 62.9 82.9 73.1 86.0 79.0 セラチア属 232 64 83.1 66.0 88.0 80.3 90.7 86.2 プロテウス属 173 0.5 99.2 96.5 100 98.7 100 99.8 プロビデンシア属 40 4 95.5 86.5 97.7 94.4 98.9 96.9 インフルエンザ菌 268 0.12 99.9 98.1 100 99.7 100 100.0 緑膿菌 324 128 74.2 46.0 85.1 70.3 88.2 80.7 バクテロイデス属 110 4 94.4 89.2 96.2 93.7 96.3 95.4 第 5.4.27 項 宇治 他 表 1
2.5.1.5
開発計画
2.5.1.5.1
開発の経緯
本剤の FN 開発については,初回承認時の審査報告書(平成 20 年 4 月 14 日付)の指示事項と して「発熱性好中球減少症(以下,FN)の患者に対する TAZ/PIPC(1:8)の開発を速やかに検討 すること」と記載された. そこで,申請者は,本剤の FN に関する追加効能取得について,主として外国における本剤の 承認状況,ガイドラインにおける位置付け及び使用状況等について調査し, 面談(平成 年 月 日実施)と 相談(薬機審長発 号,平成 年 月 日)において相談した.その結果,「機構は, と考える. と考える.なお, 」との助言を受け,申請者は, 「 」と回答した. 一方,本剤は,医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議より,FNの効能追加の開発 要請を受け(平成22年12月13日), . その後, 相談(平成 年 月 日)を実施し,以下の助 言を得た(薬機審長発 号,平成 年 月 日).(1) について