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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 廣 谷    真

     学位論文題名

    Immunoregulatory function mediated by Toll 一like receptor9inBcells in multiple sclerosis      (多発性硬化症の B 細胞におけるToll ・like receptor9 と      免疫調節性機能に関する研究)

学位論文内容の要旨

【背景と目的】

  多発性硬化症(Multiple sclerosis: MS)は脱髄を主体とした中枢神経系の炎症性疾患であり、

中枢神経の複数の部位に病変が存在し(空間的多発性)、また増悪と寛解を繰り返す(時間 的多発性)ことを特徴とする。中枢神経髄鞘を標的とした自己免疫疾患と考えられている が詳細な病態は解明されておらず、免疫学的機序のほか、遺伝的要因や環境要因など様々 た角度から病態の研究が行われている。

  近年、本邦ではMSの有病率が大きく上昇しており、それに伴い、従来日本人に多いとさ れて きた 視神 経脊髄型MSから欧米人と同様な病像を呈する、いわゆる通常型MSへと臨床 像が変化しつっある。このように本邦におけるMSの臨床像はここ数年で大きく変化しつつ ある 。MSにお ける 自己 免疫 動態 はThl細胞 、Th17細胞系列が疾患増悪に関連す るとした 獲得免疫を中心に解析されてきたが、このような変化の一因にMSの自己免疫動態における 自然免疫の影響が示唆されている。古くからMSの発症や再燃に関わる因子のひとっに微生 物感染が挙げられており、その一因として分子相同性やToll‑like receptor (TLR)を介したシ グナル伝達の関与が推測されている。

  TLRは自然免疫における病 原体認識分子であるが、その機能は自然免疫にとどまらず獲 得免疫もダイナミックに誘導することから近年注目されているレセプターである。自己免 疫疾患におけるTLRの機能は 疾患増悪と寛解のいずれにも働くことが報告されており、そ の詳細な作用機序は不明であるが、最近自己免疫性脳脊髄炎においてTLR9が免疫調節性機 能を誘導する可能性が報告された。TLR9はB細胞と形質細胞様樹状細胞に発現し、非メチ ル化DNA (CpGDNA)がりガンドとして同定されている。

  一 方、B細 胞の 液性免疫機能は古くから知られて いるが、近年B細胞のもつ免 疫調節性 機能が注目されている。その免疫調節の機序としてB細胞より産生されるinterleukin (IL)‑10 の重 要性 が指 摘され、MSではB細胞のIL‑10産生が低下していることが報告され ている。

B細胞の免疫調節性機能に関 わる因子として、樹状細胞の関与や、B細胞に発現するTLR、 B細胞受容体、CD40が報告されている。

  こ の よ う な背 景か らMSのB細胞 にお け るTLR9を 介し た免 疫調 節性 機能 の可 能性 につ いて検討することを研究課題とした。

【対象と方法】

  再 発 寛 解 型MS患者36例 (再 発期6例 、 寛解 期30例で 寛解 期症 例は 未治 療10例、 イン

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ターフェロン(IFr.D口‑1a治療10例、IFNロ‑lb治療10例)と健常者10例を対象とした。対 象者の末梢血を採取し、Flow cytometryを利用しCD19陽性B細胞表面におけるCD27、CD80、 CD86とB細 胞内 にお け るTLR9の 発現 を測 定した。また、単核 球を分離したのち、磁気ビ ー ズ でCD19陽 性B細 胞 を 分 離 、0.25pMのCpGDNA (ODN2006)で24時 間 刺 激 し 、 enzyme‑linked immunosorbent assay (ELISA)にて上清中のIL‑10、IL‑12(p40)、tumor necrosis factor (TNF)‑a、Lymphotoxin (LT) ‑aを測定した。統計解析は全群間におけるサイトカイ ン 産生 とB細胞 の抗原発現を一元 配置分散分析(Analysis of Variance:ANOVA)ならぴに Turkey‑Kramer検定を用いて行い、相関解析に関してはSpearmanの相関解析を使用した。な お、本研究は北海道大学 病院自主臨床研究審査委員会で承認され、対象者より文書で同意 を頂いた。

【結果】

  今回得られた知見は以下のとおりである。

(1) CpGDNA刺激によるB細胞のIL‑10産生はMS群で有意に低かった。

(2) CpGDNA刺 激 に よ るB細 胞 のIL‑12 (p40)産 生 は 再 発 期MS群 で 有 意 に 高 か っ た 。 (3) CpGDNA刺 激 に よ るB細 胞 のTNF‑a、LT‑a産 生 は 各 群 で 有 意 差 が 詮 か っ た 。 (4) IFN治 療群 と非 治 療群 ではCpG DNA刺激 によるB細胞のサ イトカイン産生に有意な差     を認めなかった。

(5) memoryB細胞に茄けるTLR9のMean Fluorescence Intensity  (MFI)はMS群で有意に低     かった。

(6) memoryB細 胞に お けるTLR9のMFIとB細胞 のIL‑10産 生に 有意 な正 の相関を認めた。

【考察】

  今回 の結 果か ら、MS患 者で はTLR9を 介し たB細胞のサイト カイン産生に調節障害があ り 、TLR9を 介 し たB細 胞 のIL‑10産 生 の 低 下 はmemoryB細 胞 に お け るTLR9発現 の低 下 に 起 因 す る 可能 性が 考え られ た 。naiveB細胞 とmemoryB細 胞 はい ずれ もTLR9を 介し て IL‑10産 生 を 誘導 しう るが 、CpG DNAは一 般にTLR9が高 発現 して いるmemoryB細 胞へ 直 接 的に 作用 し細 胞分化を強く誘導することが報告されている 。今回の結果と併せ、MSの memoryB細 胞に おけ るTLR9発現 の低 下がIL‑10産 生 の低 下に 影響 して いる可能性が考え ら れた 。ま た、TLR9刺激 によ るB細 胞産 生性IL‑10はTh17細 胞の 機能 を抑制することが 報 告さ れて おり 、TLR9を 介し たB細 胞へ の刺 激がT細胞 など を含 むMSの免疫動態に影響 している可能性が考えられた。

【結論】

  MSで はTLR9を 介し たB細 胞のIL‑10産生 が低 下し 、B細胞 に よる 免疫 調節 性機 能が 低 下 して いる 可能 性が示唆された。また、TLR9を介したB細胞のIL‑10産生の低下はmemory B細胞におけるTLR9発現の低下に起因する可能性が考えられた。

  今 後 はMSの形 質細 胞様 樹状 細 胞に おけ るTLR9の 機能 解析 や、B細胞 にお けるTLR9と BCR、CD40との 相互 作 用の 解析 を研 究課 題と 考え てい る。MSに おけ るTLRをはじめとし た自然免疫に関する病態 は未解明の部分が多く、また治療ターゲットのーっになり得る可 能 性 を 十 分 に 秘 め て い る こ と か ら 、 今 後 更 な る 研 究 を 推 し 進 め る 予 定 で あ る 。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査    教 授    石 田    晋 副 査    教 授    今 村 雅 寛 副 査    教 授    小 池 隆 夫 副 査    教 授    清 野 研 一 郎 副 査    教 授    佐 々 木 秀 直

     学位論文題名

    Immunoregulatory function mediated by Toll − like receptor9inBcells in multiple sclerosis      (多発性硬化症のB 細胞におけるTon ―like receptor9 と      免疫調節性機能に関する研究)

  近年、本邦では多発性硬化症(Multiple Sclerosis: MS)の有病率が大きく上昇している。それ に伴 い、 本邦 におけるMSの臨床像は、従来日本人に多いとされてきた視神経脊髄 型MSか ら欧 米人 と同 様な病像を 呈する、いわゆる通常型MSへとシフトしっっある。MSに おける 免疫動態は獲得免疫を中心に解析されてきた が、このような変化は自然免疫の影響が示唆 き れ 、 特 に 分 子 相 同 性 やToll‑like receptor (TLR)の 関 与 が 推 測 さ れ て い る 。   自己免疫疾患におけるTLRの機能は疾患増悪と寛解のいずれにも働くこ とが報告されて いるが、最近自己免疫性脳脊髄炎においてTLR9が免疫調節性機能を誘導する可能性が報告 され た。TLR9はB細 胞と 形質 細胞 様樹 状細 胞に 発現 し、CpG DNAが りガンドとし て同定 されている。一方、近年B細胞のもつ免疫調節性機能が注目されており、その機序としてB 細胞産生性interleukin (IL)‑10の重要性が指摘されている。

  こ の よ うな 背 景か らMSのB細胞 にお けるTLR9を 介し た免 疫調 節性 機能 の可 能性 につ いて 検討 する こと を研 究課 題と し た。MS患 者36例を 対象 にCpG DNAでB細胞を刺 激し、

その サイ トカ イン産生を 検討したところ、MS患者ではIL‑10産生が有意に低く、IL‑12産 生 が 有 意 に高 い こと が判 明し た。 また 、MS患者 のmemoryB細胞 ではTLR9発現 強度 が有 意 に 低 く 、さ ら にmemoryB細 胞に おけ るTLR9発現 強度 とB細胞 から のIL‑10産 生に は強 い相 関が 存在 した 。こ れら の結 果 からMSで はTLR9刺 激に よるB細胞 性IL‑10産生 が低下 し て お り 、B細 胞 に よ る 免 疫 調 節 性 機 能 が 低 下 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。   審査ではMSの有病率上昇についてMRIによる診断技術の向上ぬど、有病 率上昇の修飾因 子の 可能 性に ついて問い があった。発表者は2006年Houzenらの論文を引用し、疫 学調査 のデザインについて触れ、MRIなどの診断技術向上によるところはなく、真の有病率上昇が 考えられることを説明した。また、衛生仮説 にっいてその概要の問いがあった。発表者は 従来 のThlーTh2パラダイ ムでは衛生環境が改善することによりThlからTh2偏倚が 誘導さ

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れることでア レルギー性疾患が増えている点を説明した。またMSは潰瘍性大腸炎などと同 様にThl優位の疾患と考えられてきたが、 近年Th17の病態への関与が報告されていること に触れ、衛生 仮説は前述のThlからTh2へのシフトのみではなく、IL−10やTGF‑p産生低下 に より 自己免疫疾患全体の増加に影響してい る可能性を説明した。今回提示したMSでは TLR9を介したB細胞由来のIL―10産生が低 下している一方でIL一12産生が上昇している結 果にっいて、 その機序を求める問いがあった。発表者はTLR9受容体を介した後の、下流シ グナル伝達の 差異を可能性に挙げた。また、B細胞由来のIL−10はMS群全体で低下してい る一方で、IL―12産生は再発期MS群でのみ上昇している結果に注目し、疾患活動性も影響 している可能 性を挙げた。MSでは衛生仮説の他にも感染が発症や再燃の誘導因子になる知 見 を冒 頭で 紹介 した が、MSにお いてCD27陽性memoryB細胞におけるTLR9発現が低下する という実験結 果は過去の知見と相反すると解釈できる点について推測を求める問いもあっ た 。発 表者 はま ず、 今回 の 実験 モデルにっいて、本来であればCD27陽性memoryB細胞を 抽出してサイ トカイン産生能を評価することが妥当であるが、実際にはmemoryB細胞を抽 出することは 大量の末梢血を必要とすることから困難であり、B細胞の抽出にとどまってい る 点に つい て触 れた 。そ の 上で 、MSのmemoryB細胞におけるTLR9発現の低下は何らかの feedback機構 が関与している可能性を示した。最後に、本研究の臨床への応用について問 い があ った。発表者は今回の結果がMSの初発 、いわゆるclinically isolated syndrome からMSへの移 行を占う因子になる可能性に触れた。さらに、近年TLRは腸管免疫にも関連 するとの報告 が相次いでおり、食生活の欧米化や衛生環境の変化が腸管免疫を介してMS発 症に影響して いるという仮説を提唱し、今回の結果がMSの予防に一石を投じる可能性につ いても説明し た。

  この論文は 、MSにおける自然免疫と免疫調節性機能の重要性を示した点、またMSの臨床 像の変化を免 疫学的機序の観点から考察している点で高く評価され、今後のMS病態の更な る解明に寄与 することが期待される。

  審査員一同 は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑚や取得単位なども 併 せ申 請者 が博 士( 医学 ) の学 位を 受け るの に十 分な 資格 を有するものと判定した。

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