博士(工学)澤 和弘 学,位論文題名
高温 ガス炉 における 核分裂生成物挙動と設計への 応用に 関する研 究
学 位論文内容の要旨
非電力分野への原子力利用等を目指し、高温ガス炉の研究開発が進められており、日本 原子 力研究 所で は、現在、我が国初の高温ガス炉である高温工学試験研究炉(HTTR: High Temperature Engineering Test Reactor)の建設を行っている。本論文は、高温ガス 炉における核分裂生成物の挙動、具体的には燃料からの放出挙動、1次冷却系への沈着挙 動お よび事 故時 の離脱挙動に関して行った成果およびその成果をHTTRの燃料設計およ び安全設計へ応用した結果について述べたものである。
本 論 文 は 5章 か ら 構 成 さ れ て お り 、 各 章 の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る 。 . 第1章で は、 高温 ガス 炉の 特徴 、HTTRの概 要および関連する既往の研究をレビュー し、本研究の目的と範囲について述べた。高温ガス炉では、燃料として被覆燃料粒子を用 いるという特徴を有するため、これまでの被覆管を用いる原子炉燃料とは核分裂生成物放 出挙動が大きく異なる。また、冷却材として高温のへりウムガスを使用しているため、通 常運転状態における1次冷却系内における核分裂生成物の挙動や安全設計における事故シ ーケンス、環境への核分裂生成物移行挙動等も従来の原子炉におけるものとは大きく異な る。そのため、原子炉の設計に当たっては、これらの挙動を評価する方法を新たに開発す るとともに、その妥当性を確認する必要があった。具体的には、核分裂生成物挙動に関し、
以下に示す課題を解決するために本研究を行った。
@高温ガス炉の設計、建設は、日本では初めての経験であり、評価モデルを確立する必要 がある。
◎燃料からの核分裂生成物放出挙動については、燃料核の組成や被覆膕の製造方法等が興 な る た め 、 海 外 の 既 往 の デ ー タ を 直 接 設 計 に 使JT] す る こ と が で き な い 。
◎950℃の高温のへりウムガスを炉外に取り出すのは、HT1`Rが世界で初めてであり、
1次冷却系における核分裂生成物挙勁については、海外のデータを血接適JHできない。
@離脱挙動に1瑚しては、海外の高温ガス炉では事故として大口径破断IJt故を想定していな いが、HTTRでは想定している。そのため、新たに評価モデルを開発する必要がある。
第2章では、被覆燃料粒子からの核分裂生成物放出モデルの妥当性を検討した結果につ いて述べた。原子炉設計の観点からは、希ガス、ヨウ索および一部の金属状核分裂生成物 の挙動予測が重要である。本研究では、スィープガスキャプセル照射試験および日本原子 力 研究 所 大 洗 ガ ス ル ー プ −1(OGL−1) を 用 い て 行 わ れ たOGL−1燃 料 体 照 射 試験
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における核分裂生成物放出率を解析し、実験データとの比較を行った。その結果、希ガス およびョウ素の放出率の計算値は、空間的な温度分布および時間的な温度変化を有する第 5次OGL−1燃 料体 照 射試 験 に おけ る 測定 値 と 良い 一 致を 示 し た。'3lXeおよ びJ311 については計算値は測定値よりも約1桁大きかったが、これは低温部における拡散の効果 をモデル上過大評価していることによることを明らかにした。また、金属状核分裂生成物 である ̄3 CsとI|。.Agの放出率の計算値は、全体としてキャプセル照射試験の測定値 よりも大きな値となったが比較的良い一致を示した。本検討結果から、ここで用いた高温 ガス炉燃料からの核分裂生成物放出モデルおよびデ一夕ベースは、金属状核分裂生成物の 放出 率を適切 に評価で きること がわかった 。さらに 、第5次OGL←1燃料体照射試験結 果との比較から、金属状核分裂生成物の燃料棒における保持効果も適切に評価しているこ とがわかった。全体として、本研究で得た燃料からの核分裂生成物放出率評価手法は、実 炉体 系への適 用性があ るという 結諭が得られた。本モデルを用いてHTTRの安全評価等 において核分裂生成物線源計算を実施した。
第3章では、高温ガス炉の1次冷却系内における核分裂生成物の沈着および離脱挙動に 関す る研究に ついて述 べた。核 分裂生成物 の沈着挙 動につい ては、解析コードPLAIN を作 成し、い くっかの 沈着ルー プ試験データを用いて検証を行った。その結果、PLAI Nコードは、適切な余裕を考慮することにより、ダストの少ない高温ガス炉の1次冷却系 の核分裂生成物沈着分布評価に十分用いることができることを明らかにした。さらに、こ のコ―ドに基づき、高温ガス炉の1次系における核分裂生成物沈着挙動を推定し、核分裂 生成物は蒸気発生器等の冷却器伝熱管に主に沈着すること、表面の核分裂生成物沈着密度 が大きくなると下流側に移行しやすくなるため、設計上注意が必要であることを明らかに した。また、事故条件下における沈着核分裂生成物挙動に関し、高温ガス炉の減圧事故状 態を模擬した実験を行い、これに基づき事故時の離脱割合評価モデルの検討を行った。こ れらの実験から、以下のことが明らかとなった。
@同一条件下では、ヨウ素の離脱割合の方がセシウムの離脱割合よりも大きい。これは、
セシウムが金属表面の酸化物皮膜内に侵入しやすいのに対し、ヨウ素は表面にのみ存在 するという沈着特性の差に起因するものと考えられる。
@ 試 料表 面 および酸 化物皮膜 は、減圧 事故条件 下におい ても大量 には剥離し ない。
◎黒鉛ダストは酸化物皮膜よりも離脱しやすく、黒鉛ダストが1次冷却系内に存在する場 合は大口径破断事故時において主要なソースタームとなりうる。その離脱挙動は、剪断 力比と関連はあるものの、単純なモデルでは記述できない。
第4章 では、HTTRの燃料および安全性に関する設言tI研究を行った結果を述べた。得 られた成果は次の通りである。
O被覆燃料粒子の破mモデルに基づき、I‑T′rRJlJ燃料の許容設計限度を定め、通常迎転 時における被覆燃料粒子の健全性を確認した。
@燃料から環境までの核分裂生成物の移行経路をモデル化し、通常迎転時における被曝評 価を行い、安全性を磁i認した。
@安全段オt.を行い、設計の妥当性を確認した。ljf故時の核分裂生成物線源の評価に当たっ ては、術瞬核分裂生成物、沈着核分裂生成物の離脱、炉心内核分裂生成物のHや|瑚依存放
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fnをモデル化した。さらに、仮想亊故時における時I踟依存のソースタームの考え方を導 人して破曝評価を行い、立地の妥当性を確認した。
本研究の成果は、HTTRの設計、製作および安全審査に直接用いられたが、被覆燃料 粒子をJuいる高温ガス炉に一般的に適用できるものであると結諭することができる。
第5爺は 結諭であり、本論文の各章において得られた結果を総括して述べている。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
高 温ガス炉 におけ る核分裂生成物挙動と設計への 応用に 関する 研究
電 力以 外 の 分 野へ の 原 子力 利 用 をめ ざ し 、各 国 で 高温 ガ ス 炉の 研 究 開 発が 進 めら れてい る 。 日 本 原 子 力 研 究 所 で も 、現 在 、 わが 国 初 の高 温 ガ ス 炉で あ る 高温 工 学 試験 研 究 炉(H TTR:High Temperature Engineering Test Reactor)の 建 設 を 行 っ て い る 。 高 温ガ ス 炉 で は 、 燃料 と し て 被覆 粒 子 燃料 を 用 いる の で 、こ れ ま での 被 覆 管を 用 い る 原子 炉 燃料とは 核 分 裂 生成 物 放 出 挙動 が 大 きく 異 な る。 ま た 、冷 却 材 とし て 高 温の へ り ウ ムを 使 用してい る た め 、 通 常 運 転 状 態 に お ける1次 冷却 系 内 にお け る 核 分裂 生 成 物の 挙 動 や安 全 設 計に お け る 事 故シ ー ケ ン ス、 環 境 への 核 分 裂生 成 物 移行 挙 動 が従 来 の 原子 炉 に お ける も のとは大 き く 異 なる 。 そ の ため 、 原 子炉 の 設 計に 当 た って は 、 これ ら の 挙動 を 評 価 する 方 法を新た に開発するとともにその妥当性を確認する必要がある。
本 論文 は 、 高 温ガ ス 炉 にお け る 核分 裂 生 成物 の 挙 動、 す な わち 燃 料 か らの 放 出挙 動、通 常 運 転 時 の1次 冷 却 系 へ の 沈着 挙 動 およ び 事 故時 の 離 脱 挙動 に 関 して 行 っ た研 究 の 成果 と こ れ をHTTRの 燃 料 設 計 お よ び 安 全 設 計 へ 応 用 し て 得た 成 果 につ い て 述べ た も ので あ る 。 主要な成果は次の点に要約される。
1) 被 覆 燃 料 粒 子 か ら の核 分 裂 生成 物 放 出モ デ ル の 妥当 性 を 検討 し た 。す な わ ち、 ス イ ー プ ガ ス キ ャ プ セ ル 照 射 試 験 お よ び 日 本 原 子 力 研 究 所 大洗 ガ ス ルー プ 1を 用 い て行 っ た 燃 料 体 照射 試 験 に おけ る 核 分裂 生 成 物放 出 率 を解 析 し 、実験 データと 比I牧 した。 希ガスお よびヨウ素の放出率の計算値は、空間的な温度分布および11:5:li'tiJ的な温度変化を有する燃料 体 照 射 試 験 に お け る 測 定 値 と よ い 一 致 を 示 し た 。133Xeお よ び1311に つ い て は 計 算値 は 測 定 値 よ り も 約1桁 大 き か った が 、 これ は 、 モデ ル が 低 温部 に お ける 拡 散 の効 果 を 過大 評 価 し て い る こ と に よ る こ と を 明 ら か に し た 。 ま た 、137CsとIl0 Agの 放 出 率 の 計 算 値 は 、 全 体と し て キ ャプ セ ル 照射 試 験 の測 定 値 より も 大 きな 値 と なっ た が 、 比較 的 よい一致 を示した。
2) 高 温 ガ ス 炉 の1次 冷 却 系 内 に お け る 核 分 裂 生 成物 の 沈 着挙 動 に つい て は 、解 析 コ ー ド PLAINを 作 成 し 、 沈 着 ル ー プ 試 験 デ ー タ を 用 い て 検 証 を 行 っ た 。 そ の 結 果 ,PLA INコ ー ド は 、 適 切 な 余 裕 を 考 慮 す る こ と に よ り 、 ダ ス ト の 少 な い 高 温 ガ ス 炉 の1次 冷 却 系 の 核 分裂 生 成 物 沈着 分 布 評価 に 十 分適 用 で きる こ と を明 ら か にし た 。 さ らに 、 このコー
士 夫邦 弘迫 正 橋川 田 大石 成 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
ドに基 づき高温 ガス炉の1次系における核分裂生成物沈着挙動を推定し、核分裂生成物が 蒸気発生器等の冷却器伝熱管に主に沈着すること、表面の核分裂生成物沈着密度が大きく な ると 下 流側 に 移行しや すくなる ため設計 上注意が 必要である ことを明 らかにし た。
3)事故 条件下における核分裂生成物の離脱挙動に関し、高温ガス炉の減圧事故状態を 模擬した実験を行い、これに基づき事故時の離脱割合評価モデルを検討した。同一条件下 では、ヨウ素の方がセシウムよりも離脱割合が大きいことを見出した。また、試料表面お よび酸化物皮膜は、減圧事故条件下においても大量には剥離しないことおよびまた黒鉛ダ ス卜は 酸化物皮 膜よりも離脱しやすく、黒鉛ダストが1次冷却系内に存在する場合は大口 径 破 断 事 故 時 に お い て 主 要 な ソ ー ス タ ー ム と な り う る こ と を 見 出 し た 。 4)以 上 の成 果 をHTTRの燃 料 およ び 安 全性 の設 計に適用 した。すな わち、被 覆燃料 粒 子の 破 損モ デ ルに基づ き、HTTR用燃 料の設計 限度を定 め、通常運 転時にお ける被覆 燃料粒子の健全性を確認した。燃料から環境までの核分裂生成物の移行経路をモデル化し、
通常運転時における被曝評価を行い、安全性を確認した。また、事故時の核分裂生成物線 源の評価に当たっては、核分裂生成物の循環、沈着核分裂生成物の離脱、炉心内核分裂生 成物の時間依存放出をモデル化した。さらに、仮想事故時における時間依存のソースター ム の 考 え 方 を 導 入 し て 、 被 曝 評 価 を 行 い 、 立 地 の 妥 当 性 を 確 認 し た 。 これを要するに、著者は、高温ガス炉における核分裂生成物の挙動を、燃料からの放出 挙動、1次冷却系 への沈着挙動と事故時の離脱挙動に分けて系統的に検討し、評価コード によるモデリングを行い、その妥当性を検討したものであり、原子力安全工学の進歩に貢 献するところ大なるものがある。
よって 著者は、 北海道大 学博士(工 学)の学位を授与される資格あるものと認める。