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博 士 ( 工 学 ) 押 田 京 一

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 押 田 京 一

学 位 論 文 題 名

画 像 処 理 を 用 い た 顕 微 鏡 像 の 定 量 化 と 構 造 解 析 の 高 精 度 化      〜 炭 素 材 料 へ の 適 用 〜

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  炭素原子は化学結合の状態の違いにより多様な無機化合物を形成し、他の原子と結び付 くことにより膨大な数の有機化合物を造り出している。このように多様な形態を成す炭素 を主体として、これまで多くの材料が開発され、工業技術を支えてきた。その基盤には炭 素材料の組織および構造解析技術の研究・開発と、これによる材料科学の進歩があった。

  炭素材 料の構 造解析の手法としては、X線回折、各種分光分析、磁気抵抗効果および顕 微鏡観 察などの 手法が広く用いられている。X線回折、分光分析および磁気抵抗効果など の手法は定量的ではあるが、被測定試料全体の平均的な特徴を与えるため、局所的な原子 レベルの変化による結晶の歪みなど、細部の情報を分離して得ることが困難である。これ に対して光学頭微鏡や電子顕微鏡は、試料の様子を視覚的に観察できるところに特徴があ り、倍率に応じて試料全体を巨視的に、あるいは局部の状態を微視的に直接観察できる。

しかし、一般的に顕微鏡による解析は、目視による解析が中心であるため数値化が難しく 定量的 評価が困 難である。したがって、X線回折などの統計的手法と顕微鏡観察は相補的 に用いられ効果をあげてきた。顕微鏡像には多くの情報が含まれていると考えられるが、

炭素材料の解析において顕微鏡観察は必ずしも有効に使われておらず、定量的な観察手法 および解析法が望まれている。

  本研究 はコン ピュータ 技術の発 達によ り実用的となった画像処理を用いて、像の明瞭 化、特徴の抽出および定量化などを行うことにより、これまでの顕微鏡観察の欠点を柿う 新たな手法の確立を目指した。顕微鏡の種類およぴ倍率の異なる条件における炭素材料の 解析に、この手法を適用し、以下に示す新たな知見を得ることができた。拡大率では、透 過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)および光学顕微鏡を用いた高倍率から低倍率の 拡大像に対して、試料の組織については、結晶構造のように整ったものから非常に乱れた アモルファスな組織に対して、画像処理による解析を試みた。

  高温処理により黒鉛に近い結晶構造となった気相成長炭素繊維(VGCF)について、高分解 能透過電子顕微鏡(TEM)と画像処理および原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、結晶構造の解析 を行った。VGCFの炭素六角網平面(網平面)に平行な方向から観察したTEM像に、二次元高速 フーリ エ変換(FFT)を施した。これにより得られたパワースペクトル像に現れる分離され た各結晶面に対応するスポットより、(002)面と(100)面の関係を求め、網平面の積層構造 の欠陥 について 解析した。また、VGCF表面の網平面に垂直な方向からAFMによる観察を行 い、表面とその下の網平面の積層状態を検討した。網平面に対するこのニつの方向の電子 顕微鏡観察から、高温処理されたVGCFは、積層した網平面が(002)面の方向へのずれ構造お よ び回 転 構 造の 構 造 欠陥 を 含 んで い る こと が わ か り、 こ の 構造 モデルを 提案し た。

(2)

  フッ素のインターカレーションによる、フッ素と反応させたVGCFの六角網平面構造の乱 れに ついて解 析を行っ た。フ ッ素との 共有結 合を生成したため網平面に生じた乱れを、

TDtrlで観察し、それを画像処理することにより明瞭化した。二次元FFTを施し、パワースペ クトルを求めて網平面の層間距離を測定すると共に、網平面の乱れの状態を解析した。ま た、FFT処理されたデータから特定周波数を抽出し、二次元逆高速フーリエ変換(IFFT)を施 し画像を再構成することにより、フッ素がインターカレーションされた領域とされていな い領域を分離抽出し視覚化して、その状態を解析した。これにより、フッ素は局所的に集 中してインターカレーションが進むことがわかった。

  非常に乱れた構造のため定量化が難しい活性炭素繊維(ACF)の微細孔について、TEMと画 像処理を用いて解析を行った。同一のピッチ系炭素繊維から、異なる温度において水蒸気 賦活された、比表面積の異なる3種類の等方性ピッチ系ACFのTEM像を二次元FFT処理し、パ ワースペクトルを求めて周波数解析することで、ACFの細孔径分布を求めた。また、IFFT処 理して各周波数成分に対応する実画像を再構成し、それぞれの周波数成分の関係を検討し た結果、ACFの細孔がフラクタルであると推定した。さらに、TEM像を2値化し、細孔断面の 輪郭線にフラクタルを適用して、その形状の解析を行った。これらの解析結果より三次元 的 な 細 孔 構 造 を 検 討 し 、 高 比 表 面 積 を 有 す るACFの 細 孔 の モ デ ル を 提 案 し た 。   メソフェーズピッチ系炭素繊維の横断面組織について、電界放射型走査電子頭微鏡(FE一 SEM)と画像処理を用いて解析を行った。繊維横断面に現れるりボン状フィブリルの断面に ついて、その褶曲の曲率半径の分布を求め、フィブリルの微細な組織を検討した。また、

フィブリル断面の褶曲の度合を、フラクタル次元を求めることにより定量化した。フラク タル 次元と繊 維の引つ 張り強 度との相 関につ いて検討し、破壊過程における亀裂の伝播 は、 フィブリ ルの褶曲 部分で 抑制され るとい う従来の強度発現メカニズムに関する知見 を、数値的に示した。

  等方性黒鉛材料断面の偏光頭微鏡像に画像処理を適用して、試料断面に現れた気孔の断 面積の分布、気孔数および気孔率を求めた。また、気孔断面の輪郭線のフラクタル次元お よび円形度を測定し、気孔形状の定量的評価を行った。この結果、気孔数が増加すると気 孔の平均断面積は小さくなること、断面積が大きい気孔は複雑な形状を示し、小さい気孔 は円形度が高くなることがわかった。さらに、従来解析が難しかった気孔分布および形状 と強度パラメータとの相関について検討し、気孔断面積が小さく気孔数が多いほど、弾性 率および曲げ強度が増加することを明らかとした。また、試料がある程度の大きさの気孔 を多数含んでいると、発生した亀裂の進行が気孔部分で抑制され、平面ひずみ破壊靭性値 (Kic)および臨界亀裂開口変位(CODf)が増加すると考えられた。

  画像 処理手法 の新し い応用と して、生 体信号の解析に画像処理を適用した。顕微鏡像 を 画 像 処 理 し て 数 値 化 す る 解 析 と は 逆 方 向 に、 生 体 信号 か ら 画像 を 構 成し て 解 析 し た 。 生 体 へ の 適 合 性 の よ いPAN系 炭 素 繊 維 を 用 い て 生 体 用 セ ン サ を開 発 し 、小 動 物の 体 内 に 埋め 込 み 、血 液 の 離脱 ( 脱 血) に 対 する 肝 臓 、心 臓 およ び腎臓の 交感 神 経 活 動 の 電 気 信 号 を 連 続 的 に 計 測 し た 。 計測 し た 信号 を フ ーリ エ 変 換し て 、 そ の パ ワ ー ス ベ ク ト ル を 時 系 列 に 並 べ て 画 像 を構 成 し 、カ ラ ー 表示 し た 。こ れ に よ り 、 時 間 的 変 化 が 視 覚 化 さ れ た 交 感 神 経 活 動信 号 の 周波 数 解 析か ら 、 脱血 に よ る 各臓器の反応の変化は、互いに関連性があることが示唆された。

  以 上 の 研 究 よ り 、 自 由 度 が 高 い 画 像 処 理は 顕 微 鏡の 種 類 や倍 率 、 試料 の 組 織の 異 な る 条 件 に 適 応 し た 処 理 が 可 能 で あ り 、 画像 処 理 を用 い れ ば顕 微 鏡 観察 を 定 量 化 し 、 よ り 効 果 的 に 行 え る こ と が 明 ら か と なっ た 。 また 、 画 像処 理 に より 定 量 化 し て 解 析 し た 結 果 、 炭 素 材 料 の 構 造 ・ 組 織 につ い て 新た な 知 見が 得 ら れた 。 こ こ で 検 討 し た 手 法 は 、 他 の 炭 素 材 料 の 解 析 に も適 用 可 能で あ り 、今 後 の 頭微 鏡 観 察 に新たな方向を示すことができた。

    ―386―

(3)

学 位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

画 像処理を 用いた顕 微鏡像 の定量化と構造解析の高精度化

〜 炭 素 材 料 へ の 適 用 〜

  光 学顕 徽鏡 およ び電 子顕 微鏡 は試 料の 状態 を視 覚的 に とら える こと がで きるな どの特徴 を持 ち, 科学 ・技 術の 分野 で広 く用 いら れて いる .し か し, 他方 では その 顕微鏡 像を数値 化 す る こ と が 出 来 ず , 試 料 を 定 量 的 に 評 価 す る こ と が 難 し い 問 題 点 が あ る .   本 論文 は, 炭素 材料 の各 種顕 微鏡 像に コン ピュ ータ を 用い た画 像処 理技 術を適 用するこ とに よっ て, 像の 明瞭 化, 特徴 の抽 出, およ び定 量化 を 可能 にす るこ とを 目的と して行わ れたものである.

  高 い配 向性 を持 つ気 相成 長炭 素繊 維の 透過 電子 顕微 鏡 の格 子像 に画 像処 理を適 用し,パ ワースペクトルに現れた(100)面に対応するスポット群から,(100)面の傾き角を定量的に 測定した.また,(100)お よび(002)面に対応する周 波数成分を抽出した後,逆フーリエ変 換に よっ て実 画像 を再 構成 することによって,炭素六角網而の乱れた積眉構造(乱 眉構造)

に ずれ と 回転 の2称 の乱れが存在することを示した.さらに,原子間力顕徽 鏡による 原子 配列 の観 察に よっ て, 積眉 の回 転構 造の 存在 を確 認 した .こ れら の結 果から 気相成長 炭素 繊維 の構 造モ デル を提 案し た, また ,フ ッ索 がイ ン 夕― カレ ーシ ョン するこ とによる 黒鉛 嗣の 乱れ を, 透過 電子 顕徹 鏡像 の低 周波 数成 分の 抽 出, 雑音 の除 去, 平滑化 ,二値化 およ び細 緑化 など の画 像解 析に よっ て明 確に した .微 視 的に はフ ッ素 がイ ンター カレーシ ヨン され た領 域と され てい ない 領域 が混 在し てい るこ と を明 らか にし ,フ ッ化黒 鉛の構造 モデ ルを 提案 した .さ らに ,非 常に 乱れ た構 造を 持つ 活 性炭 素繊 維の 透過 電子顕 微鏡像の パヮ ース ベク トル を周 波数 解析 する こと によ って 細孔 分 布を 求め ると とも に,細 孔断面輪 郭線 のフ ラク タル 解析 から その 形状 を特 徴づ ける こと が 可能 であ るこ とを 示した .そして 高い比ふ面積を持つ活性炭素繊維の細孔のモデルを提案 した.

  種 々の 断面 組織 をも つメ ソフ ェー ズピ ッチ 系炭 素繊 維 につ いて ,そ れら の断面 の電界放 射型 走査 電子 顕徽 鏡像 につ いて 画像 処理 を施 した .繊 維 断面 に現 れた フア プリル 断面の褶 曲の 曲率 半径 分布 を求 め, 繊維 のミ クロ な構 造的 特性 を フラ クタ ル次 元と して定 量化し得 るこ とを 示レ た. また ,フ アプリル褶曲のフラクタッレ次元の大きい繊維ほど引き 張り強度 が高 いこ とを 実験 的に 示し た. 高密 度等 方性 黒鉛 材料 の 断面 の光 学顕 微鏡 像に画 像処理を

387一―

夫 俊

徳 隆

垣 葉

藤 野

授 授

授 授

   

   

(4)

適用し,試料内部に存在する気孔の断面積分布,フラクタル次元,円形度などを定量的に 求め,それらが破壊靭性値など機械物性と対応していることを示した.さらに本論文では,

画像処理手法の新しい展開をはかる一端として,生体適合性の優れたPAN系炭素繊維を 小型センサーとして用いて得られた肝臓,心臓および腎臓からの生体信号を画像表示する ことによって画像処理が可能であることを示した.これによって,炭素材料の構造・組織 を表す各種顕微鏡像の定量化のみでなく,これを使って得られる信号情報の定量化にも画 像処理技術が有効であることを示した.

  これを要するに,著者は,炭素材料をーつの対象として選び,各種の炭素材料について の電子および光学顕微鏡像に画像処理を適用することによって,像が持つ情報を定量的か つ高精度に抽出できることを示したもので,炭素材料の顕微鏡像の定量化と構造解析精度 の向上に大きく寄与している.そして,これら手法が材料一般の顕微鏡像の定量化および 構造解析の高精度化に展開できることから,材料科学の発展に対して貢献するところ大な るものがある.

  よって著者は,北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める.

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